ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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だ……大学……単位…………絶対……!

またまた、1ヶ月ぶりの投稿です!


過去と葉っぱ

同日

 

現在、ボイドクエスト(上フロア)

 

薄暗い文字通りゲームのダンジョンをイメージしたフロア。

本物では無いとは言え、周りに配置されている松明だけが、この世界で唯一まともな灯りでもあった。

そして、そんなフロアを歩き続ける洸夜、陽介、千枝だったが、今は洸夜が先程の千枝達の問いに答えていた最中であると同時に言い終わる所であった。

 

「………そして、寮にいる意味が無くなった俺はその町を出て家に帰り、そしてこの町に来た……こんな感じだな、大体は」

 

陽介達に言ったのは洸夜にとってトラウマに近い物だが、意外にもその口調は落ち着いていた。

 

「「…………」」

 

しかし、その真逆に陽介と千枝は言葉を失っていた。

余りにも自分達の想像を超えていた内容だったからだ。

なんだかんだ言って、何処かで少し笑い話的な感じに成るんだろうとも思っていたかも知れない。

だが、そんな訳が無く、二人は何故洸夜が実の弟である総司に何も言わないのか理解出来た。

この内容は余りにも重すぎる。

少なくとも、洸夜の事を全て理解はおろか、半分も理解しているかもどうかも怪しい自分達が聞いて良い内容では無い。

陽介と千枝は内心でそう思いながらも、言い出しっぺである千枝が自分達に背を向けながら歩く洸夜へ口を開いた。

 

「……あ、あの……その話って本当なんです……よね?」

 

千枝の声は若干だが震えていた。

その事から、千枝自身も既に洸夜の話が本当だと理解している事が読み取れる。

しかし、それでも尚、千枝は洸夜の口から本当の事かどうかを聞きたかったのだ。

洸夜も既に千枝の考えを読み取っていた為、千枝の言葉に口元に笑みを浮かべる。

 

「……これが作り話なら、じっくりと修行して物書きでも目指しているよ」

 

「「………」」

 

自分の事にも関わらず、その口調からは一切の怒りや悲しみが無かった。

また、洸夜のその言葉に先程まで話していた内容が真実だと理解し陽介と千枝は思わず互いに顔を見合わせた。

流石の洸夜も二人に省いている部分もあった。

事件の原因が桐条にある、自分が信じていた理事長の裏切り、ニュクスやデスの存在等々、この二人に話さなくて良いものは話してない。

だが、それらを省いたとしても洸夜が受けた悲しみを陽介は黙っていられ無かった。

 

「……なんだよそれ。なんなんだよその理不尽な話はよっ!」

 

「花村……?」

 

怒りで震える陽介の声が通路に響き渡り、その声に千枝はおろか洸夜までもが振り向き驚いてしまった。

そして、陽介はそのまま振り向いた洸夜の目を見ながら言い放った。

 

「だってそうだろ! ずっと戦って来た仲間で……親友だったのに……その戦いでの苦しみを全部洸夜さんのせいにするなんて間違ってんだろっ!!? 少なくとも、俺等だったら絶対に相棒のせいにはしねえっ!! 」

 

「………」

 

陽介の言葉に思わず立ち止まってしまった洸夜。

別に怒ったり等はしていない。

まさか、自分の事でここまで怒ってくれるとは思っておらず、逆に嬉しさを覚えていたぐらいだ。

洸夜は陽介達の方を振り向き、優しく微笑んだ。

 

「花村……お前は優しいな。総司は本当の意味で友人に恵まれている」

 

自分の事にも関わらず、まるで他人事でも聞いていたかの様に笑いながら言う洸夜を見て、陽介は少し悲しそうな表情で怒鳴った。

 

「洸夜さんはなんとも思わなかったんですかっ!! 仲間にそんな事言われて……そんなのまるで仲間が死んだのは洸夜さんのせいだって、遠回しに人殺しって言ってる様なもんじゃねえかよ!!?」

 

「いや……それは流石に………ん? ちょっと待て花村。俺の仲間の死……俺はその事は言っていないぞ? 一体、誰に聞いた?」

 

「あっ……!」

 

洸夜の問いにマズイといった感じの表情に成る陽介。

千枝も思い出したらしく、陽介と同じ様な顔をしていた。

この事は話さない約束であり、先程洸夜の事を聞いたばかりでもあって陽介は、何故自分達が洸夜の話してもいない秘密を知っているのか、そう言う理由で洸夜に怒られると思った。

しかし、その表情から陽介の内心を察した洸夜は怒る気は更々無く、まるで弟と妹に話しをする様な感じで二人に微笑んだ。

 

「別に怒ってもいなければ怒る予定も無いぞ。 ただ……少し気になってな」

 

「………相棒は知っている感じだったんですけど、俺達はその人の名前を知らなくて……なんか青い服と銀髪の美人でした」

 

「あと、なんか世間知らずっぽい喋り方もしてた筈……」

 

「……成る程、やっぱりアイツか」

 

洸夜はそう呟くと、少し微笑んだ。

二人の言葉から名前が分からずとも誰だか判別が出来たからだ。

あの事件に詳しく、青い服と銀髪に世間知らずな女性。

それら全てが当てはまるのは一人しかいなかった。

 

「エリザベス……全く、あのお喋りめ……」

 

洸夜はエリザベスが勝手に関係の無い者達に話す事に納得出来なかったが、世間知らずとは言えエリザベスも馬鹿ではない。

恐らくは何らかの理由が有ったのだろう。

洸夜は不思議と、自分の中でそう納得してしまったからか、そう言う洸夜の口調は穏やかな物だった。

そして、勝手に納得してしまっている洸夜の姿に呆気に成る陽介と千枝だったが、洸夜は陽介の方を向くと二人に聞こえない程静かに息を吐いた。

 

「ふう…………花村、確かに結果的に俺はアイツ等にあの事件の苦しみを全て押し付けられた。だが……そうしなければアイツ等はあの時、前に進めなかった……。其ほどまでに亡くなったメンバー達の影響が強かったんだ」

 

「でも……! それで洸夜さんは納得出来たんですか! 人が……仲間が……親友が死んだんだろ!? そいつ等が苦しんでるなら洸夜さんだって苦しんでる筈だ! ………なのに……身勝手だ……!」

 

陽介の絞り出す様な言葉に、洸夜は思わず俯いてしまった。

 

「納得は………していない。だからって、どうしたいのかも分からない………アイツ等を許そうと言う思いも有るが………当の本人達を目の前にすれば憎くて仕方ない……! 俺自身も訳が分からないんだ……」

 

洸夜のその言葉からは確かな怒り、そして……悲しみの感情が読み取れた。

この二年間……洸夜はこの感情の答えを探していたが見付からなかった。

いくら自分自身に問い掛けても、幾つも生まれた答えを洸夜は否定し続けてきたのだ。

只の怒り。

寂しい。

悲しい。

虚しい。

嫌悪。

どれも違う……どれ一つとして洸夜の胸には響かなかった。

何故、自分は美鶴達を許そうと思う反面、直接会ったり深く彼女達の事を考えると憎くて仕方ないのか? 洸夜自身、そしてそんな洸夜の様子を見ていた陽介も分からない。

勿論、千枝も分からない………そう思われていたが。

 

「それって……洸夜さんがその人達の事をまだ大切に思っているって事なんじゃないんですか?」

 

「はあっ!?」

 

「………。(俺が……まだアイツ等を大切に思ってる……?)」

 

千枝の言葉に陽介は驚きの声を上げ、洸夜も驚きの余りに声が出ず、内心で千枝からの言葉を自分に問い掛けるかの様に呟いていた。

そして、千枝の言葉に呆れた表情になる陽介。

 

「里中さ……話ちゃんと聞いてたか? 洸夜さんは散々な事を言われたんだぞ。少なくとも大切には思えないだろ」

 

「そう言う花村もさ、ちゃんと話聞いてた? 洸夜さんは許したいとも思ってるって言ってたじゃん」

 

「それは聞いてたけどよ……だからって無理があんだろ?」

 

千枝との会話にやれやれと言った感じで、身体をだらんと下に向ける陽介。

幾らなんでも今回の千枝の話には無理がある。

仲間から散々言われたにも関わらず、大切に思うのは無理……少なくとも陽介はそう思っていた。

だが、そんな陽介に対し千枝は腕を組ながら考え込んだ。

 

「そうかな……私的には、洸夜さんはもうその人達の事を許してあげたい。けど、洸夜さん自身はその事で傷付いて苦しんだ。だから、相手の人達がそんな自分がどれだけ苦しんだのかも分からないままに許したくないから悩んでる……と、私は思うんだよね」

 

「………」

 

千枝の言葉に洸夜は黙っている。

それが本当に自分の探している答えか分からないからだ。

そして、千枝の言葉に対し、陽介は少しだけ納得した感じに言葉を紡ぐ。

 

「確かに、聞く限りだと洸夜さんに殆ど批は無いしな………軽い感じに終わらせたくないって事か?」

 

「まあ、あくまでも私の予想だけど……でも、洸夜さんはその人達と絶対和解出来ると思う」

 

「……その根拠を聞いても良いかい?」

 

洸夜の問いに千枝は頷き今以上に笑顔に成った。

先程から妙に的を得た事を言う千枝。

物事を難しく考えず、単純に見ている彼女だからこその考え。

少なくとも自分では思い付かない第三者の言葉に、洸夜は耳を傾け、千枝は満面の笑みで答えた。

 

「だって! 私も昔に雪子と喧嘩した事はあったけど、最終的には仲直りしたから洸夜さんだって大丈夫ですよ! どんなに喧嘩しても、互いに相手の事を思いやっていれば絶対に仲直り出来ます!」

 

「お、お前な……根拠がショボすぎるだろ……?」

 

珍しくまともな事を言っていた千枝の言葉を、多少は期待していた陽介。

だが、陽介は千枝の言葉を聞くと話の規模がショボすぎる理由で頭を押さえながら溜め息を吐いた。

また、洸夜の出来事が只の喧嘩と同じ扱いを受けた。

陽介はそれを聞いた洸夜は激怒するのでは無いかと心配していた……が、陽介の不安とは裏腹に洸夜は大きく笑った。

 

「ククク……アハハハハハハッ! 確かにな……本当にその通りだ」

 

「そうですよね! ほら、どうよ花村! 洸夜さん、ちゃんと分かってくれたじゃん!」

 

「……い、いや、洸夜さんはお前の言葉に呆れて笑ってるだけじゃ……?」

 

誇らしげに言ってくる千枝に、陽介は見ている方が恥ずかしいと言った感じに片手で顔を隠しながら呆れた。

しかし、洸夜はそんな陽介の頭に優しく手を置くと静かに首を横へと振った。

 

「いや、俺は呆れてはいない。千枝ちゃんらしい良い意見だと思っている」

 

「ええっ!? 洸夜さんは良いんですか! いや、今のって里中と天城の喧嘩話じゃあ……」

 

「只の喧嘩話って何よっ! つうか花村……あんたさっきから私の言葉に対して否定的じゃない?」

 

「別に否定的な訳じゃないって……只、里中の言葉は冗談半分の更に半分程度に聞いてるだけだ!」

 

「尚悪いわっ!!」

 

そう言って陽介に向かって蹴りを放つ千枝と、それをギリギリでかわす陽介。

しかし、そんな様子を洸夜は見ていたが、二人からは怒りを感じず、逆に友と遊んでいる様な陽気な雰囲気が感じ取れた。

何だかんだ言いつつも、これがこの二人のコミュニケーションの取り方なのだと分かり、洸夜は二人に見られない様に微笑むと少しだけ目蓋を閉じる

 

「はは………。(久しく忘れていたな、この他者を………友を思いやる様な心穏やかなになる感覚を。 だが……俺は次にアイツ等に会うときに前に進めるのか? いや………何よりも、アイツ等に会うことが出来るのか? この間のお見合いが最後のチャンスだったのかも知れないな……)」

この町に来て色々と失った物もあった。

だが、それと同時に家族らしい生活も出来、心のケアにも成った。

しかし、友としての関わりは無く、今の今まで千枝の言葉、千枝と陽介のコミュニケーション。

それを、見て聞くまで洸夜は友との接し方や思いやる事を忘れていた。

何より、洸夜は自分が恐れていたのでは無いかとすら思っていた。

下手に友を作れば……また、傷付けられ、裏切られるのでは無いかと言う恐怖心が洸夜の中には存在していた。

だが、そんな恐怖心も千枝と陽介を見ていると馬鹿らしく感じたのも事実。

洸夜は、そんな想いを胸に仕舞うと未だに争っている千枝と陽介に近付き二人の頭に優しく手を置いた。

優して暖かく安心する手。

そんな手を置かれた陽介と千枝は争いを止め、顔を上げて二人とも洸夜を見た。

 

「洸夜さん……?」

 

「なんすか?」

 

少し困惑した二人。

何故なら、二人が見た洸夜の表情は今まで見た中で一番穏やかな表情をしていたのだ。

そして、そんな困惑した表情の二人を見て洸夜は短く言った。

 

「……総司を頼む」

 

それは純粋に一人の兄としての頼みであり、願いでもあった。

弟である総司、そしてその弟の友人達。

彼等には少なくとも自分と同じ悲しみや苦しみを味わって欲しくないのだ。

洸夜はそう思いながら更に言葉を繋げた。

 

「あいつも誰に似たのか、一人で色々と抱え込む事が有るからな……だから、あいつに何か合った時は頼む。 ……本当なら、俺が総司の近くに居てやれれば良いんだが……流石に何時までもあいつの側には居られないからな」

 

「「………」」

 

洸夜のその言葉に陽介と千枝は黙った。

洸夜は優しく微笑みながら話していたが、話の後半で少し寂しそうな表情に成ったのに気付いたからだ。

本当なら総司が立派に生きていけるまで見ていきたい。

だが、いつもいつまでも自分が側に居られる訳では無い事を洸夜自身が一番分かっている。

そんな時に必ず力に成ってくれるのは、自分では無く強い絆で結ばれた友人達だ。

そして、暫く洸夜の顔を見ていた陽介と千枝は、そんな洸夜の気持ちを理解したのか洸夜に向かって力強く頷いた。

 

「そんなの当たり前です!」

 

「ああ! 言われるまでもねえぜ!」

 

高らかにそう叫び、通路に響き渡る陽介と千枝の言葉を聞いた洸夜は再び優しく微笑みながら頷くと二人に背を向けた。

 

「……さて、すっかり話し込んでしまったな。急いで最上階へ向かうか」

 

「「はい!」」

 

洸夜の言葉に元気に返事する陽介と千枝。

そんな二人に洸夜は更に言葉を繋げた。

 

「……総司の大切な友人達に怪我をさせない様に俺が守りながらな」

 

ピクッ!

 

洸夜の冗談混じりのその言葉に陽介と千枝は身体を一瞬反応させた。

洸夜は冗談混じりにいったのだが、陽介と千枝はまだ自分達が子供扱いされている様に感じたのだ。

そして、陽介と千枝の二人は少し早歩きで洸夜を抜かし、洸夜は何事かと思ってしまうと二人は振り向きながら口を開いた。

 

「いいえ!」

 

「俺達が洸夜さんを守ります!」

 

「なに……?」

 

それだけを言うと洸夜の前をどんどんと進む陽介と千枝。

どうやら少し拗ねたのかも知れない。

そして、そんな二人の様子に洸夜は弟と妹でも見守る様な目で見ると、もう少し自分が見ていないといけないと楽しそうに思ったのだった。

 

===============

 

現在、ボイドクエスト (最上階間近のフロア)

 

それは、洸夜達が新しいフロアに足を踏み入れて直ぐに起きた出来事だった。

ピコピコとデジタル音が辺りに響き渡ると同時に、空中に現れるゲームの様なモニターが洸夜達の目の前に現れたのだ。

そして、それと同時に流れ出すいかにも戦闘BGMと言った曲が流れ出し、洸夜達は驚きながらも状況を見守っていると女性の声がモニターから響き渡る。

 

『……何よあんた? 私の事はほっといてよっ!』

 

その女性の声は洸夜達にとって聞き覚えのある声だった。

 

「この声……確か山野アナか?」

 

「多分そうだとは思うんすけど……」

 

「あっ! また何か出てきた」

 

千枝の言葉にモニターに目を送る洸夜達。

 

"じょしあな があらわれた!"

 

"ミツオ のこうげき じょしあな に68のダメージ じょしあな を倒した"

"ミツオのレベルアップ! 注目度が7あがった 満足度が5あがった ちからが4あがった むなしさが9あがった"

 

「………」

 

モニターに流れた文字を見た洸夜達は思わず血の気が失せた。

まるでゲーム感覚で人を殺している。

モニター越しに消えて行く命。

洸夜や陽介・千枝もゲームはしたことはあるが、このモニターに映し出されている物を見ていると嫌悪感が身体の底から涌き出てくる。

少なくとも、久保は何も感じてはいないだろう。

自分の殺した人を、只ひたすらに人を斬って行くゲームの雑魚キャラの内の一人に思っているのかも知れない。

だからと言って今の状況では全ては言えないが、只言える事は久保は確実に何かをやっていると言う事だ。

また、この嫌悪感溢れるゲームはまだ続く。

 

『な、なんなの……私に何か用事?』

 

"はっけんしゃ があらわれた!"

 

"ミツオのこうげき! はっけんしゃ に48のダメージ はっけんしゃ をたおした"

 

"ミツオはレベルアップ 注目度が5あがった 満足度が4あがった むなしさが8あがった かなしさが6あがった"

 

「………先輩」

 

「は、花村……大丈夫?」

 

「……」

 

モニターを見ながら呟く陽介を見て、千枝は心配して声を掛け洸夜は敢えて様子を見た。

花村と小西早紀の関係の全てを把握していないからこそ、下手に言葉を投げるのは余計に花村を傷付けると判断したからだ。

そして、そんな二人の心配を陽介も察した様だった。

 

「俺は大丈夫だって……でも、この映像ってやっぱり……」

 

「あの久保って奴、本当に……」

 

「待て、まだ続きが有るようだ……」

 

最悪なパターンを想像する二人だが、洸夜の言葉に再びモニターを見る。

 

『ん? お前は確か……こんな時間に何の用だ! この腐ったみかんがっ!』

 

"モロキン があらわれた!"

 

"モロキン のこうげき! ミツオに25のダメージ"

 

"ミツオ の会心必殺技! モロキンに98のダメージ モロキン をころした"

 

"ミツオ はレベルアップ むなしさが5あがった かなしさが7あがった 虚無感3あがった 絶望感が9あがった"

 

「………あ、あの野郎。本当に殺りやがったのかよ……!」

 

そのモニターに映し出されている文字を見て、陽介は気分が悪くなるが耐えた。

ここまで分かった成らば自分達がしなければいけない事が分かったからだ。

久保美津夫……彼を野放しにしなければシャドウに殺させる訳にも行かない。

陽介は今この瞬間にも鮮明に覚えている……久保がテレビに映った時の事を……。

人を殺したにも関わらず、何処か他者を小馬鹿にし見下した態度。

そんな奴に自分の大切な人が奪われた。

そう思うと、あんな奴に奪われたと思う怒りと、何故守ってあげられなかったと言う自分に対しての怒りが込み上げて来ていた。

また、そんな花村の隣では洸夜が色々と思考を巡らしていた。

 

「久保美津夫……。(本当に今までの事件はアイツが……? なに一つとして証拠を見せなかった犯人が本当に久保なのか? だが……さっきの映像を見る限りでは……)」

 

今は消えた先程の映像を見る限りでは久保がこの事件の犯人なのは確かな事だ。

当初は模倣犯だと思った洸夜だったが、先程の映像を見た事で悩んでしまう。

そんな時だった。

洸夜達の頭に声が聞こえた。

 

『洸夜さ~ん! 私達はもう最上階に着きましたよ!』

 

「!? りせ……! 通信のコツをもう掴んだのか?」

 

『うん! 最初はちょっと大変だったけど、一回やってみると案外簡単ですね』

 

「探知タイブには欠かせない能力であるからな。其より、こっちももう少しで到着する筈だ。すまないが皆にもそう伝えてくれ」

 

『分かりました。……ところで洸夜さん。さっき映し出された映像ってそっちでも見ましたか?』

 

明るい声から一変し少し不安混じりの声になるりせ。

その様子からして、りせ達も先程の映像を見たのだろう。

リアルな映像では無いが、それ故の気味の悪さがある。

洸夜はりせを安心させる為に優しげに声を掛けた。

 

「りせ……その話は合流してからだ。だが、心配はするな……もう少しで着くし、不安だったら総司にでも抱き付いてればいい」

 

『洸夜さん………はーい! そうしてます! でも早く来てくださいね! ねえ総司先輩!』

 

『えっ!? 何が!?』

 

明るく成ったりせの声と総司の焦った声が聞こえる。

りせに抱きつかれて困惑したのだろう。

それと同時に通信が切れるのを確認すると洸夜は陽介と千枝の方を向いた。

陽介と千枝も先程の通信を聞こえたのだろう。

洸夜の視線に二人は頷き、洸夜も頷き返すと三人は駆け足で階段を上っていき最上階を目指した。

 

=============

 

現在、ボイドクエスト(最上階)

 

「千枝っ!」

 

「雪子~~~っ!」

 

最上階に着いた洸夜達を待っていたのは、長い廊下にその奥に君臨する大きな扉。

そして、少し傷付いた総司達だった。

互いに存在を確認すると、最初に飛び出したのは雪子と千枝の二人。

雪子と千枝は互いに両手を掴んで無事を喜んでいた。

 

「もう、千枝達が落ちた時は焦ったよ……」

 

「あははは……ちょっと油断しちゃった……」

 

「何言ってんだ……あれは里中の自業自得だーーー」

 

「ヨースケ~~~~ッ!」

 

「ぐえっ!?」

 

クマからの抱きつきによってカエルが潰れた様な声を出す陽介だが、クマはそんなの関係無いと言わんばかりにそのまま状態を保っている。

そんな様子を完二は哀れみの目で見てた。

 

「……ぜってー花村先輩に止めを刺したのはクマだな」

 

「か、完二……テメー見てねえで助けろ……!」

 

ゾンビの様に這い出てくる陽介。

そんな様子を笑いながら総司と洸夜は話をしていた。

 

「……無事の様だな総司」

 

「兄さんの方こそ」

 

そう言ってお互いに笑う総司と洸夜。

良く良くお互いの姿を見れば余り目立たないが少し傷等が見え、ここまでにお互い共に戦闘があった事が分かる。

そして、洸夜は総司と会話しながら巨大な扉に手を触れる。

 

「この奥だな」

 

洸夜の言葉に頷く総司。

 

「久保美津夫……彼がこの事件の全てなのか、この扉の先に行けば分かる」

 

総司はそう言ってポケットから黒い珠を取り出した。

別れた後にダンジョンで見付けたのか、少なくともこのダンジョンに入る前は持っていなかった珠。

洸夜はその珠が気になった。

 

「総司、その珠はなんだ?」

 

「これは此処に来る途中に拾った物だよ。なんかクマが気になるからって拾ったんだけど……扉のここを見てみてよ」

 

総司は扉のある一部を示した。

そこには、如何にも珠らしき物を嵌め込めと言わんばかり丸い窪みがあった。

しかも場所も明らかに扉ならば鍵穴ある場所。

それに気付いた洸夜と総司は互いに黒い珠を見て、総司は徐に珠を窪みへと嵌めた。

 

ガチャ……!

 

通路に響き渡る鍵の解錠音。

そして総司と洸夜はお互いにグッ!と親指を挙げた。

 

「危なかったな……これを拾わなかったらどうなってたんだ?」

 

「恐らく……扉の前で立ち往生だったんじゃないかな?」

 

もし本当にそう成っていたら堪ったもんでは無い。

只でさえこのダンジョンは無駄に広く複雑な仕掛が多い。

再び引き返してこの珠を探すなど、はっきり言って思うだけでくたくたに成るだろう。

苦笑いしながらそう思う総司と洸夜だったが、その表情を真剣なものへと変え、二人同時に扉に手を触れた 。

 

「良いな……総司?」

 

「俺はいつでも良いよ……陽介、皆は………」

 

洸夜の言葉に頷く総司は、そのまま自分達の後ろにいる陽介達にも声を掛けたのだが……。

 

「ぜえ……ぜえ……な、なんだって……相棒?」

 

「い、いまから……殴り込みでしょ……? き、気合いを……」

 

「ご、ごめん……少しはしゃぎ過ぎちゃって………十分だけ休ませて……」

 

「先輩達情けねえスよ……俺はまだまだ余裕だぜ!」

 

「体力馬鹿……」

 

「薔薇メガネ……」

 

「ちょっと待てオラァッ! 今然り気無く薔薇メガネって言った奴誰だぁっ! つーか薔薇メガネってなんだぁっ!?」

 

完二を除く他のメンバー全員が既に体力の限界に至っていた。

陽介は汗をかきながら肩で息をし、千枝と雪子は床に這いつくばりクマとりせも完二の姿に悪態をつきながら壁に体重を預けている。

ここまでずっと戦いや移動ばかりし、その状態で再会してはしゃいだ陽介達。

元々、戦い慣れしてる洸夜、前線で戦ってきた総司、体力が一般高校生の倍以上持つ完二とは違い既にこの世界の影響もあってグロッキーに成っても可笑しくは無い。

そんな仲間達の姿に総司と洸夜は互いに顔を見合わせた。

 

「兄さん……どうしたら良いと思う?」

 

「そうだな……下手に無理されても困るが、どのみちこの状態じゃあ戦力に成らない。今日は一旦戻る事を勧めーーー」

 

「それは嫌だっ!/嫌ですっ!/無理っ!/クマ~~っ!」

 

洸夜の案に涙目で反論する陽介達。

このダンジョンの構造やシャドウの種類。

色々と分かったとしても、またあれだけの距離を歩き上るのは断固として嫌なのだ。

その姿に洸夜は溜め息を吐きながら右手を目の前に翳すと、洸夜の目の前に白い空間の割れ目の様な物が出現し、陽介達は勿論、総司も驚いた表情をする中で洸夜はこの空間の説明に入る。

 

「前に言ったと思うが、この空間に入れば現実世界の俺の部屋に戻れる……テレビの場所まで行くのが面倒ならこれで帰れる。また同じ場所には戻れないが、これなら帰りは楽な……って、何でお前等そんな驚いた表情をしてるんだ?」

 

鳩が豆鉄砲でも喰らった様な表情。

まさにそんな顔をしている総司達に理解出来ず、頭を捻る洸夜。

そんな洸夜に物申す者がいた、総司だ。

 

「に、兄さん……なにこれ?」

 

「?………前にも言ったろ? 俺の脱出方法。 お前等はクマの出したテレビで現実世界に帰っていたが、お前等に見付からない様にしてた俺はこの空間を使って自分の部屋に戻っていた。……言ったよな?」

 

「いやいやっ!? そんな事聞いた事無いっスよっ!?」

 

「初耳っ!」

 

「うんうんっ!」

 

「だ、大センセイ……一体何処でそんな力を覚えたクマか? この世界から外の世界に戻れる方法をニンゲンが持ってる訳ない筈なんだけども……」

 

「そう言われても俺も知らん。気付いたら使えた」

 

「に、兄さん……自分の身体でしょ……?」

 

何なのか良く分からない力にも関わらず、まるで他人事の様に言う洸夜に呆気に成る総司だが、そんな弟の様子に洸夜は大きく伸びをすると言うマイペース状態で答えた。

 

「だから良いんだよ……俺が気にしなければ良いだけだ。それに、なんと無くだが心当たりは無くはないしな」

 

洸夜の言う心当たり。

それは稲羽の町に来て直ぐに起こった謎の夢と、その夢に出てきた謎の敵の事だ。

あれ以来夢に出ないが、あの敵が言っていた他の者とは別の力を与えたと言う言葉。

別の者とは誰の事を言っているのか分からないが、今の洸夜にはの右手の力の原因がそれぐらいしか思い浮かばなかった。

そして、洸夜の力に驚いた総司達だが、陽介達はやはりここまで来たのだから久保を捕まえるまで戻りたくないのだろう。

陽介達は中々首を縦には振らない。

 

「……やっぱり、まだ戻れねえよ。ここまで来たんだし、アイツを取っ捕まえて事件の事を聞き出さねえと!」

 

「だが、その身体じゃ無理だ。もし、久保のシャドウが出ていて戦闘に成ったらどうする? 行けたとしても……俺、総司、完二くらいだ」

 

「で、でも……」

 

洸夜の言葉に反論しようとする雪子だが、自分でも体力が既に限界にきている事を分かっている為に反論は出来なかった。

総司もまた、この状況では一旦戻るのが最善策だと思い敢えて言わなかった。

今の状況では普通のシャドウ相手ですら苦戦してしまうだろう。

総司は完二に視線を送り同意を求め、総司の視線の意図を理解した完二は頷いた。

そして、このまま一旦戻ると言う作戦で終ろうかと誰もが思った時だった。

 

「コーン!」

 

「ん? どうした?」

 

先程まで気配を消していたキツネが洸夜のズボンの裾を引っ張り何かを伝える様な素振りをしていた。

そして、そんなキツネの足下に落ちている葉っぱの束。

それを見た洸夜は何かに気付き、総司の方を見た。

 

「総司……まさかこの葉っぱが?」

 

「うん。これが身体を癒してくれる葉っぱだよ」

 

総司の言葉に洸夜は葉っぱの存在は分かったが、この葉っぱをどうすれば良いのか分からずキツネを見た。

 

「………コン!」

 

洸夜の視線に対しキツネは葉っぱに前足を伸ばすと、今度は口をパクパクした。

どうやら食べろと言っている様だった。

少し胡散臭い気もするが、別にする事もないので洸夜は全員に葉っぱを手渡した。

そして、葉っぱを受け取った陽介達は困惑した表情に成る。

 

「ゴク……! な、なあ……本当に大丈夫なのかこれ?」

 

「見た目は何の変鉄もない只の葉っぱスね……」

 

「スンスン……香りは悪く無いんだけど」

 

「葉っぱより肉が良いよ~~~!」

 

「葉っぱを食べるって……こんなの番組のロケでもやった事無いよ……」

 

葉っぱを見てそれぞれの思いを口にする陽介達。

洸夜も気持ちは良く分かった。

これを持っていたのが医者ならばまだ信憑性は有っただろう。

だが、相手は医者で無ければ人ですらないキツネ。

本当はそこら辺で拾ったんじゃないかと疑いたく成っても不思議では無い。

 

「……。(だがな……特にする事もないのは事実。このまま撤退するか葉っぱを食うか……どちらにしても面倒だ)………ええい! こうなら自棄だ! 南無三っ!」

 

周りが一向に葉っぱに手を出さない様子に洸夜も不安に成るが、覚悟を決めて口にした洸夜とそれを真剣な表情で見守る陽介達。

 

ゴク……!

 

洸夜が葉っぱを飲み込んだ音が周りに響く。

陽介達は洸夜の様子に集中する。

いきなり倒れる可能性もあれば、最悪発狂して襲い掛かって来るかも知れない。

葉っぱのもたらす効果に総司とキツネを除くメンバー全員が息を飲む。

そして……。

 

「……こ、これは! 」

 

「っ!?」

 

洸夜の言葉に咄嗟に反応し様子を見る陽介達。

だが、洸夜はそんな事を気にせずに驚いた表情をしながら顔を上げて目を大きく開けた。

 

「…… 凄いなこの葉っぱ。疲れが一瞬で無くなった。ハハ……凄い、バイトを24時間ぶっ通しやれそうな気分だ!」

 

「ええっ!? マ、マジでか………じゃ、じゃあ俺も……」

 

洸夜の様子に陽介が驚きながらも葉っぱを口にし他のメンバーも皆がやるなら自分もと言った感じで食べ始める。

 

「ッ!? こ、これは……!」

 

「な、なんて事……!」

 

陽介達は驚いた。

口にした瞬間、口中に広がるミントの様なスーとした感じにお茶の様な香ばしさ。

気付いたら既に自分達の身体の疲れ等が吹っ飛んでいた。

洸夜の言っていた意味も分かる。

本当にキツネに化かされている気分だった。

しかし、そんな皆の様子を何故か複雑そうな表情で葉っぱを食べながら見ている者が一人……総司だ。

 

「ムシャムシャ……」

 

無表情ながら何かを思っている表情。

心の内側に何かを隠している。

そして、それに気付いたのも兄である洸夜だった。

 

「………。(総司が無駄に無表情の時は、大抵何か大事な事を伝え忘れたりした時だ。だが……今回は一体何を……)」

 

総司が何かを伝えたがっているまでは理解出来た。

しかし、それが何かは洸夜には分からなかった。

そんな時だ、また誰かが自分のズボンを引っ張っている事に洸夜は気付き下を見た。

そこにいたのは又してもキツネだった。

先程と違うのは、キツネの足下に置かれているのが葉っぱでは無く、何処から出したのか数字が打ち込まれた電卓。

洸夜はしゃがみ、電卓を手に取って見た。

電卓に打たれていたのは五桁の数字であった。

 

「5、6、4、0、0……なんだこの数字は?」

 

暗号、数式、年号、色々と考えるがどれもピンと来ない。

キツネもそんな洸夜の足下で、何かを訴える様な目でずっと洸夜を見ている。

 

「そんな目で見られてもな……。 (アイギスが居ればなんとか成ったか……)」

 

キツネの言葉が分からない為に、ついこの間再会した嘗ての仲間を思い出す。

だが、所詮は無い物ねだり。

今の洸夜にはどうにも出来ない。

しかし、こんな状況で洸夜に話し掛ける者が居た……やはり総司だ。

総司は何処か気まずそうに洸夜にその数値の意味を教えた。

 

「……兄さん。実はその数値って……葉っぱの"値段"なんだ」

 

「……は? (ネダン? ……値段? この数字が?)」

 

総司の言葉を聞いた洸夜は再び電卓を覗き込んだ。

電卓に打たれた数字……56400。

つまり、この数字を値段に置き換えると……。

 

「ご! 五万六千四百円かッ!?」

 

「はっ!? 五万六千四百円っ!!?」

 

「なにそのボッタクリッ!?」

 

「え~と……クマのニッキュウが500円だから……ぬおおっ! じゅ、十倍っ!?」

 

「百倍だよ……クマさん」

 

「……ごめん。言いそびれた」

 

皆が値段に驚く中で一人謝罪する総司。

この葉っぱは効き目が凄いが値段が半端無い。

しかも、このキツネは一切値引きしないという買う側からしたら嫌な信念? を持っている。

だが、洸夜は別の事を心配していた。

その心配を解決する為に洸夜は自分の財布を取り出して総司達の方を見た。

 

「お前等………今、幾ら持ってる?」

 

少し生気が薄れた感じの声で喋る洸夜に慌てて財布を取り出して中身を確認する総司達。

だが、現実は厳しかった。

総司達の表情は良くは無く、先ずは代表して総司が答えた。

 

「………ごめん兄さん。二千三十円……」

 

「俺……この間クマのツケとか食費で……千五百二十四円」

 

「私……この間新しいDVD買ったから……ごめんなさい。八百と……六円です」

 

「私も検定の費用払ったから千三百円……」

 

「……スンマセン。小遣い前で……四百円……あっ! でも、愛屋の割引券なら……無理ッスよね」

 

「私も……新しい服買ったから……二千四百と……二十一円です」

 

「クマは持ってきて無いも~ん!」

 

「……」

 

洸夜はショックだった。

期待して無かったと言えば嘘と成る。

だが、余りにも現実は残酷であった。

洸夜は再び自分の財布の中身を見た。

 

「………。(六万ジャスト………)」

 

そう、洸夜の財布には運命と言うべきか六万円入っていた。

しかし、この六万は只の六万では無い。

この内の四万は堂島に渡す生活費。

堂島からは別に要らないと言われているが、洸夜もそこは一応社会人。

この歳で只の居候は洸夜のプライドが許せなかった。

そして、残りの二万は洸夜の個人的なお金だ。

はっきり言えば、洸夜はお金に関してはしっかりと予定を立てる方だ。

一応、洸夜も何だかんだで歳に合わない程の貯金はある。

精神的に参っていたとは言え、何もしないで過ごす日々は余りにも寂しかった。

そんな寂しさを忘れたかったのだろう、洸夜はバイトに明け暮れていたりした。

それ故に、貯金も中々の額だ。

だが、それでもここで予定外の出費を避けたいのは家事好きの性か、洸夜にとって貯金があるとは言え、五万は大金に成る。

 

「……クッ! な、なあ……後で油揚げをやるから半額にしてくれないか?」

 

「………コンッ!!」

 

洸夜の言葉にプイっと顔を横に向くキツネ。

総司の言う通り、値段を下げる気は全く無いようだ。

最初からそうだったが、値切り対策という言うのか、このキツネが戦いの途中で役に立つ事は無かったが邪魔に成ってもいなかった。

それ所か、シャドウにも気付かれない程に気配を消すのが上手い。

自分の身は自分で守っている。

それ故に洸夜は守ってやっているのだから値下げしろとは言えないのだ。

そして、キツネの鋭い眼を見る限り、このままでは回復したとは言え先に進めてくれそうに無いのは明白。

洸夜は震える腕で力強く六万円を掴み、そしてキツネの目の前に高らかに置いた。

そのお金を見たキツネは嬉しそうに口に加え、エプロンに仕込まれているポケットの中へと入れた。

 

「コーーンッ!」

 

「………クッ! 痛い出費だ………!」

思わず膝をついてしまう洸夜。

後でまたATMに行かなければ成らない。

そして、効果は凄いが葉っぱを五万六千四百円で買ったと言う事実だけが洸夜の頭に残ってしまった。

 

「コーーン!」

 

「ん? ああ……お釣りか、ありがとな………」

 

落ち込む洸夜の後ろから声を掛け、先程の代金のお釣りを渡すキツネ。

洸夜もそれを受け取るが立ち直るのには少しだけ掛かりそうだった。

 

「に、兄さん……後でちゃんと出すよ」

 

「俺も……!」

 

「「私達も!」」

 

流石に悪いと思ったのか、総司達は洸夜にお金を返す事を伝える。

しかし、洸夜は笑いながら手をブラブラと揺らしながら其を遠慮した。

 

「ハハ………別に気にするな。今から戦いかも知れないんだ………身体を万全にするのは当たり前だ…………ハハ」

 

口では平常心を保っているが、フラフラとしながら扉に向かう洸夜の後ろ姿を見る限りでは全く気にしてない様には見えず、総司達は内心で今度お金が入ったら洸夜に内緒でお金を返そうと皆が思ったのであった。

そして、洸夜と総司達は扉の中へと入って行った。

 

 

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