ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

75 / 110
夏祭りの時、本編だけ書いた方が良いか?
それとも、外伝として他のキャラとの夏祭りも書いた方が良いか?
悩む……。


打ち上げ と 連絡

8月5日 (金) 晴れ

 

現在、堂島宅 (居間)

 

『これが容疑者の少年が中学時代に書いた作文なのですが……どう思いますか?』

 

『内容を見る限り普通じゃないですね。 家庭環境とかが影響しているのでは……』

 

「……もっと報道すべき事があるだろ。(打ち切りにでも成ってろ…-)」

 

洸夜は久保について報道しているニュース番組を見てそう呟いた。

テレビの中では女子アナや何処かの大学の教授や有名人が、逮捕された久保が中学時代に書いた作文のコピーを見て色々と言っている光景だ。

字が乱れている、内容が訳分からない等、そんなどうでも事ばかり議論を続ける番組に洸夜は嫌気がさしチャンネルを変えた。

 

『エブリディ ヤング ライフ ジュ・ネ・ス ♪』

 

テレビから流れるジュネスのCMが居間に流れる。

だが、考え事をしていた洸夜の頭の中にまでは届かなかった。

 

「状況が何も変わらない……か。(久保が逮捕されても、立証されたのば諸岡さんへの犯行のみ。他の二人については未だに不明で、久保も黙秘している……笑えねえよ……)」

 

久保が逮捕された時、周りは大変驚いて警察や報道陣が忙しく動いていた。

勿論、叔父である堂島も例外では無い。

これでせめて、何か事態が進展するかもと洸夜も総司も思っていたが事態は全く進展しなかった。

それどころか、一部の報道は誰も知りたくない様な久保の情報ばかりを報道したりする始末。

そんな現状に洸夜は溜め息しか出なかった。

そんな時だ。

洸夜の背後である台所から食器の崩れる音や何かが爆発する音が響き渡り、その中からは女子の声も紛れている。

流石に気になった洸夜は、ゆっくりと背後を見た。

 

「う、うわわ!? 卵が爆発した! え? え! どう言う事!? 」

 

「これ入れても大丈夫かな……」

 

「ゆ、雪子先輩!? 何持ってるんでスか! それ洗剤ですよ!?」

 

「な、なんか凄そうだね……」

 

「ま、まずいクマ……菜々子ちゃんは離れた方が良いよ……」

 

「た、卵って爆発すんのかよ……」

 

「「………」」

 

洸夜の見た光景。

それは、戦場と成った台所で恐らく料理をしている千枝、雪子、りせの姿と、それを見て驚く菜々子、クマ、完二。

そして、その光景に無言で震えている総司と陽介の姿だった。

何故、この様な事態に成っているのかだが、発端は少し前に遡る事に成る。

堂島宅に来る前、洗濯物が溜まっていた為に来れなかった洸夜を除き、総司達はジュネスのいつもの休憩所にいた。

久保の事、これで事件が本当に解決したのかと言う疑問。

色々と話していたが、特に話す話題も無く結局は何も無いまま解散しようとしていた時だった。

りせの発した……。

 

「打ち上げしよう!」

 

この一言により楽しそうだからと言う理由で打ち上げの開催が決まり、堂島が事件の後処理で今日は家に帰れないと総司からの情報で場所が決定した。

だが同時に、それならば菜々子に夕飯を作ってあげようと言う事にも成ってしまったのだ。

勿論、それがどれ程の厄災であるかを身を持って知る総司と陽介は止めに入ったが……りせの言葉が二人の心に火を着ける。

 

「そう言えば前に聞いたんですけど、言葉が出ない程の物体を食べさせられたって聞いたんですけど……ふふ! それって、私が総司先輩と洸夜さんの心と胃袋もGET出来るって事ですよね!」

 

「……ふ、ふふ。く、久慈川りせ……さん! あまり調子に乗ならない方が良いと思うけどな~」

 

「い、いくらアイドルでも、負けた時の言い訳ってすぐに考えつかないでしょ? (一撃で仕留めてやる)」

 

と、この様な修羅場が発生し、いつの間にか料理対決にまで成ってしまった。

その後、堂島宅に電話して菜々子の食べたい物、オムライスが今回の題材に決まって三人の女子はジュネス食品売り場へと行くと、三人は全員が"別々"の食品売り場へと消えた。

作るのはオムライスなのに、何故三人全員が別々の食品売り場へと行くのか謎である。

 

そして、現在に戻る。

 

「……くそ、なんでこんな事に! (せめて、菜々子が食べられる物を……!)」

 

「相棒……俺は情けねえ! 俺達はあの悲劇を知っているのに、その悲劇が再び目の前で起ころうとしているにも関わらず何も出来ねえなんてよ……! (里中と天城は駄目だ……ならアイドルである、りせちーに賭けるしかねえ!)」

 

「……。(あいつら……なんで涙目に成りながら畳を殴ってるんだ?)」

 

林間学校の悲劇を知らない洸夜は、総司と陽介が何故にそこまでして三人(千枝と雪子)の料理を食べたく無いのかが分からなかった。

先程、戦場の様に成っていた台所も今は静かに成り、部屋に流れる匂いも決して酷い物ではない。

人が食べて気絶したり、物体X等と言った物を作るのは漫画やアニメの中だけの話。

少なくとも今現在は、洸夜はそう思っているのだった。

そして、洸夜がそう思いながらテレビの前に座っている時だ。

隣の部屋から避難して来た菜々子とクマの会話が耳へと入り、洸夜はその会話を聞いた。

 

「えっ!? クマさん……どこかに帰っちゃうの!」

 

「うん……約束が済んだし、クマは帰らないと……」

 

話の内容から察するに、事件が終わったことであのテレビの世界へ帰る事を言ったクマに菜々子が反応したのだろう。

クマが総司達と、どの様な約束をしたかは洸夜は知らないが恐らくは事件解決。

久保が逮捕された事で表向きには事件が解決しその結果、現実の世界にいる意味が無くなってしまったのだろう。

 

「……。(総司達の性格上、そんな約束とか関係無くこの世界にいる事に賛成してくれると思うがな……)」

 

話の内容を聞き、洸夜がそう思った時だった。

クマの話に菜々子が、まるで何か名案を思い付いたと言わんばかりに目を輝かせ、クマにこう言った。

 

「じゃあ! 菜々子とも約束しよう!」

 

「ナナちゃんと……約束?」

 

「うん! 菜々子とも約束したらクマさん帰らなくて良いよね?」

 

「……菜々子らしいな」

 

洸夜の言う通り菜々子らしい案に、洸夜はそう呟きながらつい微笑んでしまった。

クマが帰る理由が約束ならば、新しい約束をすればクマが帰る理由は再び無くなる。

単純だが、とても優しい菜々子なりの考えだ。

そして、そんな事を話している内に話を聞き付けた総司もクマと菜々子の側へとやって来た。

 

「セ、センセイ! クマ! センセイ達との約束終わってあっちに帰らないと……でも、ナナちゃんとの約束も有るし! まだ、此方にいても良いの!?」

 

現実の世界に居て良い新たな約束に慌てているのか、クマは言葉をぎこちなく言いながらも総司へ己の思いをうったえ、そんなクマに総司は静かに微笑んだ。

 

「俺達との約束を守るなら、菜々子との約束も守らないとな」

 

「センセイ……!」

 

総司の遠回しだが此処にいても良いと言う言葉にクマは目を輝かせ、次に自分を事実上住まわせ養ってくれている陽介の方を向き、陽介目掛けて突っ込んで行った。

 

「ヨ、ヨースケェェ! クマ! 新しい約束出来たから、もう少しヨースケの家に住まわせて!!」

 

「グホっ!!? な、なんだ行きなり!? つうか、当たり前だろ? 勝手に職場放棄すんなっつうの!」

 

「ヨ、ヨ、ヨースケェェェェ!!!」

 

「だあ! だから抱き付くなっつうの!!」

 

陽介からの許可に思わず抱き締めて叫ぶクマに陽介は抗議するが、その表情に怒りは無く、なんだかんだで楽しそうな表情だった。

 

「良かったなクマ。此方にいられる理由が出来たじゃないか」

 

「うん! クマ……まだ、帰らなくて良いんだ!」

 

洸夜からの言葉に本当に嬉しそうに言うクマだったが、何かを思い付いた様に洸夜の顔を見た。

 

「そうだ! ナナちゃんとだけじゃなく、大センセイとも約束すればもっと帰る理由が無くなるね!」

 

「俺とも約束か? 別に良いが、何を約束してくれるんだ?」

 

クマの提案に別に断る理由も無い洸夜はそう言ってクマの返答を待ち、クマはどんな約束をするか腕を組んで考え混む様な格好をしてると何かを思い付いたのか、クマはこう言った。

 

「そうだ! 大センセイはずっとクマ達の事を見守ってくれてんだよね? じゃあ、今度はクマが大センセイを"守ってあげる"!」

 

「っ!? (『■■■』……!?)」

 

クマの言葉を聞いた瞬間、洸夜の頭の中がフラッシュバックしてある記憶が甦った。

その記憶は、ニュクスと決着をつける為にタルタロスへ向かう前の洸夜と『彼』の会話だった。

 

『なあ、『■■■』 お前、この戦いの全てが終わったら何かしたい事は無いのか?』

 

『突然ですね……そう言われても特には無いです。強いて言っても、先輩や皆との約束を守る事ぐらいかな……』

 

『約束だけって……それで良いのか? 別にアイギスを悪く言うつもりじゃないがこの事件で、ある意味一番の被害者はお前だろ……』

 

『……確かにそうとも言えるかな。でも、そのおかげで先輩や皆に会えた……そう思うと、不思議とそうは思えないんです』

 

『………全く、本当に強いなお前は。だが、忘れるなよ……お前の人生はこれからなんだ。絶対に無茶しようと思うなよ……! 』

 

『それ、洸夜先輩が一番当てはまる気がするんですけど……』

 

『言ってろ……それに、難だったらこの事件が終わった後、お前の好きな所にアイギスと一緒に連れってやるよ』

 

『……じゃあ、場所じゃないですけど洸夜先輩の弟さんと会ってみたいです』

 

『総司にか? 確かに、お前と似ているから気が合いそうだが……そんなんで良いのか?』

 

『………はい。お願いします』

 

『?………まあ別に良いが……じゃあ、お前も約束しろ。この戦いで絶対に死ぬな。これはお前にだけ言った訳じゃない……美鶴達にも同じ約束をさせた。約束したら、俺も死ぬ気でお前等を守れるからな』

 

『そんな言葉聞いたら逆にこっちが心配しますって………でも、大丈夫ですよ。先輩にだけ無理はさせません。……何か有った時は、先輩も皆も……僕が守ります……"約束"です』

 

『ああ、お互いに"約束"だ……』

頭に流れたのは一瞬の事だった。

だが、それは洸夜と『彼』にとっての最後の約束であり、洸夜が『彼』との約束で初めて破ってしまったものだった。

結局、ニュクスを止めたのは『彼』だ。

そんな事も気付かず卒業式に成るまで思い出せず、洸夜が全てに気付いたのは屋上でアイギスの膝の上で眠った『彼』の姿を見た後だった。

 

「………なんで今頃に成って思い出したんだ……俺は……」

 

結局、叶えてやる事の出来なかった約束。

あの時、何故『彼』が総司に会いたがっていたのかは分からない。

ずっと暇ある度に喋っていたから興味が沸いたのか、それとも『彼』らしく気紛れの類いなのかは今になっては分からない。

二年近く経って今更、思い出したのだから考察すら出来なかった。

散々、守るとか言っときながらニュクスの力の前に動けなくなった自分を『彼』は、やはり恨んでいるだろうか。

同じワイルドを持ちながら何も出来なかった自分に失望してしまったであろうか。

洸夜は何も分からなかった。

そして突然、人形の様に動かなくなった洸夜にクマが心配し声を掛けた。

 

「大センセイ。どうしたの? いきなり黙り混んじゃって」

 

「っ! あ、いや……すまん大丈夫だ。 それに、まあ……約束だが好きにしてくれて構わないぞ」

 

「?……えっと、一応約束は良いって事だよね? やったー! ヨースケ! クマ、また約束が増えたクマ!」

 

洸夜との約束に更に目を輝かせて陽介の下に行くクマだったが、陽介はそんなクマの言葉に黙ったまま立ち尽くしていた。

一体どうしたのかと思い、クマが陽介の顔を回り込んで覗こうとしようとした時だった。

陽介は突然、クマと洸夜の方を冷や汗をかきながら向いたのだ。

 

「遂に来たぞ……」

 

「?……何が来たんだ?」

 

オーバーなリアクションをする陽介に対し、洸夜は退屈そうに聞き返したが次に発せられた言葉ですぐにその訳が理解出来た。

 

「皆、お待たせ!」

 

「やっと出来たよ……」

 

「皆、食べて食べて!」

 

そう言って自分達が作ったオムライスを皿に乗せて運んで来る千枝、雪子、りせの三人。

どうやら、さっきの陽介の様子は料理が出来た事による物だったらしい。

そして、冷や汗をかく陽介と表情を暗くする総司の二人の横を通り過ぎ、テーブルにそれぞれが作ったオムライスを並べる三人と、料理が出来た事でテーブルの周りに座る一同。

 

「……。(総司達はああ言っているが、見た目を見る限りでは食べられる物だろう……)」

 

そう洸夜は思いながらテーブルへ座った。

だが、その考えがどれだけ浅はかだったのか洸夜は、すぐに思い知る事に成った。

 

==============

 

「菜々子ちゃん、早速だけど食べてみて!」

 

テーブルの前でスプーンを持ちながらスタンバっている菜々子に、千枝がそう言った。

だが、それに待ったをかける者がいた……陽介だ。

 

「ちょっと待て! お前等、こんな小さな菜々子ちゃんにもトラウマ植え付ける気か!? ここは毒味をさせるべきだ!」

 

「毒味って言うな!毒味って!」

 

「今回はきっと大丈夫だから……」

 

「自分で作ったのに、なんでそんなにあやふやな自信なんスか?」

 

千枝と雪子の何処か不安げなリアクションに、総司と陽介以外にも不安が生まれ始めた。

何やら重い空気が、部屋全体を包み込む様な気分に成ってしまう。

だが、そんな空気を物ともしないと言った感じで満面の笑顔を浮かべながらりせが、自分のオムライスを差し出した。

 

「もう、皆で毒味毒味って失礼だよ! そんなに言うなら花村先輩から食べてみてよ!」

 

「そんな怒んなって、何気に期待してんだぜ? 只でさえ"りせちー"の手作りを食えんだよ」

 

そう言いながら陽介はりせのオムライスをスプーンですくい、口へと運んだ。

また、未だに未知数のりせの料理に総司達は陽介の様子を伺うが、洸夜は何処か呆れた表情で皆を見ていた。

 

「……はあ。(流石にリアクションがくどいな……只、オムライスを食べてるだけだろ?)」

 

洸夜がそんな事を思い油断した時だった。

 

「グフッ!」

 

突然、りせのオムライスを口にした陽介がスプーンを畳に落として倒れたのだ。

その表情は先程の明るい表情では無く、青白くなったり赤くなったりしながら酷い汗をかいていた。

そんな親友の危機に総司は陽介の上半身を持ち上げ、親友に呼び掛けた。

 

「陽介!」

 

「毒だ! この野郎、毒入れやがったな!」

 

「毒ってなによ!毒って!」

 

「ちょっ!? りせちゃん落ち着いて!」

 

陽介が倒れた事で半分、パニック状態になるメンバー。

だが、そんな状況下で奇跡が起こった。

なんと、陽介が総司の手を握ったのだ。

 

「あ、相棒……! はは……ワリィ、ドジっちまった……」

 

「陽介! いや、そんな事は良い! 今は喋るな!」

 

「いや……これだけは言わせてくれ……な、菜々子ちゃんに……これを食わせちゃ……ダメ……だ……ガク……!」

 

「陽介っ!」

 

「ヨースケェェェェェ!」

 

「……そろそろ良いか?」

 

このままでは誰かが止めるまでやりそうだと思い、洸夜が総司達の茶番に止めに入った。

だが、茶番を含めたとしても陽介の流す汗は普通では無い事は洸夜も気付いていた。

そして、陽介がオムライスをすくった事で玉子の中身が開放され、中から強烈な刺激臭が溢れだした。

肌にも空気からヒリヒリと伝わって来る刺激に、洸夜は思わず座りながらもテーブルから一歩下がった。

 

「……これは! (ば、バカな……調理中にはこんな刺激臭は無かった筈だ!? 一体、何を入れた……タバスコ? ハバネロ? 辛子? 山葵? 鼻にもツーンする刺激臭が….…間違い無い、全部入れたな!)」

 

洸夜は自分の考えの甘さを後悔した。

今思えば、豆腐屋でりせが料理系で手伝った所を見た事は一度も無い。

りせのお婆さんは知っていたのだろう、孫の料理の実力を……。

 

「……。(マズイ……もし、これを食べたら味覚に支障をきたす気がする。そうなると、明日以降の朝食や総司達の弁当が作れなくなる。ここはりせには悪いが部屋に撤退しよう。花村の様子を見れば誰も食べれないだろう)」

 

洸夜は堂島家の食事生命を守る為、部屋へ戻る事を決意した。

だが、運命は洸夜を逃がさない。

 

「もう! 花村先輩オーバーリアクション過ぎ! 総司先輩と洸夜さんならちゃんと評価してくれますよね?」

 

「っ!? (しまった! 逃げるタイミングを逃したか!?)」

 

「……! (陽介であれだろ……? どんな味だ……)」

 

藁にもすがる様な表情のりせの言葉に、洸夜も総司も無理とは言えなかった。

元々、りせはアイドルだ。

あまり興味がない洸夜と総司も、それ程の美少女のそんな顔を見て見捨てる事は出来なかった。

洸夜と総司はそんな自分の様子に苦笑いしか出なかった。

 

「「……。(男って……本当に馬鹿だな……)」」

 

内心でそう言った洸夜と総司は覚悟を決めてスプーンを取った。

そして、それと同時に二人の視界に入ってきたのは状況を見守るりせと、明らかにどうなるか気になると言った表情で自分達を見る千枝達の姿。

何気に菜々子もワクワクした表情で見ている。

もう、ここまで来たなら下手な行動も言葉も要らない。

洸夜と総司はスプーンにりせのオムライスをすくい、そのまま一気に口へと運んだ。

その瞬間、二人の口に衝撃が走った。

 

「!!? (馬鹿な……痛いだと! 味覚に痛いは無いだろ!? 何を入れた! タバスコ、ハバネロのレベルじゃない……! うっ……なんか鉄の味が……絶対、口内炎出来た……)」

 

「!!? (鈍痛してきた!? 汗も止まらない! 陽介……お前はこれを食べたのか!? 確かに……これは菜々子にあげられない)」

 

謎の衝撃にオムライスを一気に飲み込み、水を流し込む洸夜と総司だったが所詮は焼き石に水。

口、喉、味覚へのダメージは大きかった。

そして、二人に更なる試練が残っていた。

そう、りせが思いっきり期待した目で洸夜と総司を見ていたのだ。

明らかに味の感想を聞きたがっている。

 

「二人とも……どうでした?」

 

「……。(マズイ……どうする? りせの為に本当の事を言うか、それでも男を貫き傷付けない為に嘘を言うか……)」

 

りせの言葉に洸夜は考える。

一人の料理好きとして正直に言うか、一人の男として傷付けない為に嘘を言うか。

洸夜は一旦、総司の出方を伺う為に様子見を決め込む事にした。

だが、それは誤りであった。

 

「……俺の料理の師匠は兄さんだから。兄さんに代表して聞こう。兄さんの感想が同時に俺の感想だ」

 

「! (総司! この野郎ぉぉぉぉぉぉっ!?)」

 

なんたる誤算。

まさか実の弟に売られるとは……洸夜は隣で水を補充しながら我先に舌を癒す総司を思いっきし睨んだ。

だが、そんな事をしている間にもりせの視線は洸夜へと動く。

 

「洸夜さん……」

 

「!?」

 

久慈川 りせ。

休養中とは言え、捨てられた仔猫みたいなトップアイドルの表情に堪えられる男子がどれ程いるか。

少なくとも、瀬多 洸夜……面倒見の良い彼はそんなりせを見捨てられず、覚悟を決めて口をゆっくりと開いた。

 

「……ま、まあ、悪くは無いんじゃ無いか。あ、後味も中々に刺激的で俺は好きだったが……辛いのが苦手な人にはお勧め出来ないから結構、好みが分かれるかも知れないな」

 

誉める所は誉め、何気無くに否定する。

先程の衝撃がまだ残っている為、上手く表現出来たかは分からないが今の洸夜にはこれが限界であった。

 

「……。(流石に厳しいか……?)」

 

黙り混む一同の様子に少し無理が有ったかと思う洸夜だったが、りせは洸夜の言葉に笑顔を見せた。

 

「やった! 大人の味を意識して作ったから分かる人には分かるんですね! 」

 

「……。(今ので納得したのか……)」

 

りせの様子に周りと言った本人である洸夜もそう思った。

 

「じゃあ、次は私ね」

 

「あ、じゃあ今度は俺が……」

 

りせの次にオムライスを差し出したのは雪子だった。

見た目は至って普通のオムライスだが、そんな事はりせの時点で無駄だと言う事が分かっている。

全員が警戒する中、完二は雪子のオムライスを口へと運んだ。

だが……。

 

「……」

 

雪子のオムライスを食べた瞬間、完二の様子が変わった。

先程までは少し明るかった完二だが、食べた瞬間にその表情は無表情と言うか困惑と言うのか、何処か複雑な表情したまま黙ってしまった。

そんな完二の様子に倒れていた陽介が、まさか!と言った表情をした。

 

「まさか! 今度こそ毒……!」

 

「どく……?」

 

「ユキちゃん……」

 

「雪子……!」

 

「なんで皆してこっちを見るの!? 完二君も早く感想言ってよ!」

 

雪子は完二へ感想を急がせた。

実はこの時、洸夜と総司はこの三人の内の誰かが本当に毒の類いを入れた、又は作ったと頭に一瞬でも過ったのは本人達だけの秘密である。

そして、雪子の言葉に完二は今度は何処か悩んだ表情に成ると、一言だけ口にした。

 

「不毛……」

 

部屋の空気が一瞬だけ凍った。

不毛とは本来、枯れた土地で作物が育たない事や何の進歩も無い事を意味する。

だが、味の表現ではどの様な意味を表すのかは洸夜も分からないと言うより、聞いたことが無かった。

それは老舗の旅館の一人娘、天城 雪子も例外では無く、完二の言葉に雪子は怒りを露にした。

 

「不毛ってなによ!不毛って! 味の表現で不毛は存在しないでしょ!? 美味しいか不味い! どっちなの!」

 

「……いや、美味しいか不味いかって言われても……味が無いんスよ。だから、よく分かんないスね。 ……でも、まあ凄い才能じゃないスか? 味が何も無いんですか……」

 

「味が無い!? 」

 

「嘘でしょ! そんなの……あ!」

 

「っ!? (しまった! 目があったか……!)」

 

完二の評価だけでは満足いかず、雪子が周りのメンバーを見渡すが千枝すらも何故かこの時は目を逸らすのだが、不毛と言う味について考えていた洸夜は一瞬だけ行動が遅れ、雪子と目が合ってしまった。

そこからの雪子の行動は早く、素早くスプーンでオムライスをすくうと洸夜の口へと突っ込んだ。

 

「危なっ!? ……うっ! これは……」

 

洸夜はオムライスを噛みながら、しっかりと味を確かめたのだが……。

 

「……。(何故だ……味がない。見た目は普通なのになんでケチャップの味すらしない? それに、素材の味も生かしてない。いや、逆に確実に素材の味を殺している!こ、これが……不毛の味か!)」

 

初めて味わう不毛の味。

一切の味の存在も許さない無の味。

このオムライスを噛めば噛む程に、いつの間のかりせのオムライスの味は一切消えていた。

だが、初めての味?には驚いたが、美味しいと言う訳では無いが味がない時点で判定不能だ。

しかし、何かを言わねば成らないと洸夜は分かっている為、そのまま思った事を口にした。

「……こ、個性? があるオムライス……と言うよりも独特なオムライスだった。その独特さは良くも無ければ悪くも無い……な」

 

「……と言う事は、練習すれば腕が上がるって事ですよね! 良かった!」

 

「洸夜さん……絶対、天城先輩を傷付けない様に言ってましたよね?」

 

「ああ……洸夜さん優しいからな。言い出せなかったんだろうな」

 

「二人共……聞こえてるよ?」

 

「「ヒッ!」」

 

雪子の怒気の含む声に怯える完二と陽介。

そして、雪子のオムライスを食べた事で次は千枝が動いた。

 

「はいはーい! じゃあ、次は私の番だね」

 

「じゃあ、次はクマが毒味するよ」

 

「毒味じゃないって……!」

 

クマの発言に力強くクマを睨む千枝だが、クマは気にせずに口にすると満面の笑みを千枝へと向けた。

その表情に千枝や他のメンバーも、まさか手応えが有ったのかと全員が息を飲む。

 

「……はあ。(なんか怠い……)」

 

謎の衝撃と味覚の連続に少し弱り始めた洸夜も、誰か一人でもまともな物を作って欲しいと思いながら息を飲む。

そして、満面の笑みのクマは千枝の方を向いて一言だけこう言った。

 

「普通に不味い」

 

再び部屋の空気が一瞬だけ凍った。

作った千枝ですら絶句している。

下手な言い訳もせずに言い切った只一言の言葉。

最早、清々し過ぎて尊敬も出来る。

 

「……。(クマ……そうだ。言い訳して何の為に成る……! 彼女達の為にも正直に言うべきだ!)」

 

洸夜は自分の間違いに気付き、何があっても正直に言う事を決意した。

そして、未だに絶句している千枝の様子に漸く復活した陽介が恐る恐るに千枝のオムライスを口にした瞬間、クマの言葉に納得したのか何かを悟った様な表情をした。

 

「ああ……成る程、これは普通に不味いな」

 

「なっ!? ちょっ!?」

 

一度目は堪えたが二度目は駄目だった。

千枝は陽介の言葉に涙目に成りながら抗議しようとした。

しかし、そこ隣で雪子が何気無く千枝のオムライスを口にする。

すると……。

 

「アハハハハハハハ! ホントだ! これ、普通に不味いね!」

 

「なっ!? 雪子まで!」

 

テーブルを叩きながら大笑いする親友の姿に、千枝は更に涙目に成った。

そして、そのまま自分のオムライスを皿ごと持ち上げると、ある人物を見詰めた。

 

「……。(何故、総司じゃなくて俺を見る?)」

 

千枝が見詰める人物……それは洸夜だった。

最早、洸夜に食べてもらって慰めと言うか、励ましてもらうのが決まりの様に成っていた。

 

「う~~~~!」

 

「……。(知らない人が見たら、確実に俺が虐めたみたいだな……)」

 

涙目で洸夜にオムライスを向ける千枝の姿に、洸夜は謎の罪悪感に襲われながらも千枝のオムライスを口にする。

その瞬間、洸夜に再び衝撃が走った。

 

「これは……!」

 

洸夜はもう一度オムライスを口にした。

しっかりと噛んで味も分かった。

 

「……。(卵は焼きすぎて固くなり、チキンライスはベチャベチャしてて水っぽい。肉は生焼け、野菜は皮付き……つまり……!)」

 

洸夜はオムライスを飲み込み、心の中で味の評価を思った。

 

「……。(普通に不味い!)」

 

本当に不味かった。

他の二人に比べればまともな味の評価は出来た。

だが、その結果がこれだ。

しかも……。

 

「う、う~~~~~~!」

 

「……。(言えねえ……あんな今にも泣きそうなのに不味いなんて言えねえ……)」

 

今にも涙腺崩壊宜しくの千枝に向かって不味いとは言える状況では無いのだ。

 

「洸夜お兄ちゃん頑張って!」

 

一体何を頑張れば良いのか?

奈々子から謎の声援を受ける洸夜はそう思うしか無かった。

だが周囲は最早、洸夜が千枝の料理の事をどうやって伝えるのかと気になっている様にも見える。

 

「……どうやって伝えるんだ?」

 

陽介に関しては口に出している。

そして洸夜は、先程自分に言った事を早速破ってしまった。

 

「……総司達から聞いていたよりも上手く出来てると思う。後は火加減や基礎的な調理法を覚えれば……良いのが作れる。(うっ……気分が悪く成ってきた)」

 

「洸夜さん……ありがとうございます!」

 

「なに……気にするな……当然の……………気分悪い」

 

そう言って洸夜は座りながら仰向けに倒れた。

顔色も結構悪い。

 

「兄さん!? ……無茶するから……」

 

「センセイが真っ先に見捨てた様なーーー」

 

「兄さん!」

 

クマの言葉を遮る様に叫ぶ総司。

ここまで来たら後には引けない状況だ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「洸夜さん!?」

 

倒れた洸夜に駆け寄る奈々子と完二。

陽介は後ろで申し訳なさそうな表情で縮こまった三人に視線を送る。

 

「あ~そのな……言う事は?」

 

「「「は、はは……ご、ごめんなさい! 今度からちゃんと味見しまーーーす!!?」」

 

===============

 

同日

 

現在、堂島宅 (洸夜の部屋)

 

「……あ~身体が怠い。総司め……弁当のおかず二品減らしてやる。(代わりに弁当箱の三割をパスタで埋めてやる……)」

 

あの後、洸夜は自分の部屋に戻って布団の上に横に成りながら総司への愚痴を言っていた。

総司達はまだ一階で話をしているが、時計はそろそろ九時に差し掛かっている為、間もなく陽介達は帰るだろう。

 

「はぁ……。(それにしても……強烈な料理だった。本当に漫画やアニメ見たいな事が有るんだな、料理で気絶仕掛けるって……)」

 

洸夜はそう言いながら怠い身体を起こし、パジャマ代わりである黒と赤のラインの入ったジャージに着替えた。

本当はお風呂に入りたかったが今の体調では危ない気がしたから止め、明日の朝にシャワーを浴びるしかない。

洸夜はそう思いながら寝る為にエアコンの温度を少し下げて適温にし、携帯を充電器に差し込むと布団の中に入った。

明日はバイトや皆の朝食と弁当作りがある為、早めに寝たかった。

そう言って洸夜はリモコンで部屋の電気を消し、少し早い就寝へ入ろうとした時だった。

先程、充電器に差し込んだ携帯から着信音が鳴り響いたのだ。

 

Buuuuuu!Buuuuuu!

 

「誰だ……」

 

洸夜は布団の中から携帯を掴み、暗い部屋では眩しい携帯のディスプレイに目を細めながら相手の番号を確認する。

しかし、そこに写し出されていた番号のみで、洸夜の携帯に登録されていない者からであった。

だが、その番号に見覚えは無いのかと言えばそれは別である。

 

「またコイツか……。(見知らぬ番号だから無視してたがこれで何度めだ? 新手のしつこい詐欺か? それとも、俺の知り合いか?)」

 

その番号は洸夜に何度も掛かってきた物だが、見覚えが無くてずっと無視してきた物だった。

基本的に知らない番号には出ない主義の洸夜。

何度来ようが絶対に無視する。

今までの人生でも運が良いのか、その手の事で困った事も他者に迷惑を掛けた事も無い。

そう思い、洸夜は今回も無視しようとするが、よくよく考えれば今回のこの番号はやけにしつこい。

今までだったらその内に掛かって来なく成る筈だが、今回はそんな気配が感じられない。

 

「……はぁ。(仕方ない、出てみるか) ……もしもし?」

 

仕方ないから洸夜は出ることにした。

また、洸夜は寝る前と言うのもあり、少し面倒そうに身体を起こして電話の着信ボタンを押した。

すると、電話の向こうの相手の声はやけに声が可愛らしい女性だった。

そして、その女性は洸夜が電話に出た事で嬉しそうな声をだした。

『やった! やっと出てくれた……うぅ、これで間に合うかも知れない……!』

 

「……あの、どちら様でしょうか?」

 

嬉しそうな声を出したと思ったら、今度は悲しそうな声を出しながら勝手に何かを言っている。

電話越しの声の為、今一顔見知りなのかも分からない。

だが、このままでは完全に相手は只の不審電話だ。

何度も掛けて来る事を考えればそうだとは思えないが……洸夜がそう考えた時だった。

相手の女性は洸夜の問いに慌てた感じの声を出した。

 

『えぇ!? あ、あの……瀬多 洸夜さんの携帯電話でしょうか? わ、私……伏見 千尋と言う者なんですが……』

 

「伏見 千尋……? 伏見? ……まさか、生徒会の伏見か!? 」

 

『は、はい! その伏見です! お久し振りです瀬多先輩!』

 

掛けた相手が洸夜だと分かると、伏見は先程と変わって安心と嬉しそうな声で言い、洸夜も言葉を返した。

 

「本当に久し振りだな。だが、携帯の番号をいつ変えたんだ? メールか何かで連絡してればもっと早く出てたんだが?」

 

『いえ、先輩達の卒業式から数日後にメールで送ったんですけど……』

 

「……ああ、それじゃあ無理だな。ちょっとその時期は色々あったからメールなんて見てない」

 

『……そうなんですか。あ! それよりも、瀬多先輩に一つお願いが有るんですが……』

 

「お願い……?」

 

洸夜は伏見の言葉を聞いた。

 

==============

 

伏見からのお願いは簡単には言えば今度、修学旅行と言う名目で月光館学園に他校の生徒が来ると言うのだ。

だが、他校の責任者の先生に不幸が起きてしまい急遽予定を変更し、学園の良いところとかをOBに言ってもらうと言う企画が持ち上がった。

そして、伏見の話を聞いた洸夜は……。

 

「それ……俺じゃなくても良いだろ? と言うより、なんでわざわざOBが学園の良いところを言わなきゃいけないんだ? それこそ在校生の役目だろ?」

 

『うぅ……確かにそうなんですけど……』

 

洸夜の言葉に少し申し訳なさそうな声でそう言った伏見。

洸夜も少し罪悪感を覚えるが、伏見の能力は洸夜も知っている為、いくら急遽の予定を作る事と成ったとしても伏見がこんな企画を出すとは思えなかった。

 

「ちなみに……その企画の立案者は?」

 

洸夜の質問に伏見は、少し言いづらそうな感じに答えた。

 

『それが……最初、江戸川先生がなんか新たな薬品を作ったからその実習をさせたいと言ったんです。 そしたら、それを聞いた生徒会の一人がその提案を阻止する為に適当に言ったのが……』

 

「この企画か……。(江戸川先生……相変わらずなんだな)」

 

洸夜は思わず頭を抑えた。

江戸川先生……嘗て、洸夜が在学していた私立月光館学園の保険医兼総合教師であり、普通の生徒からまあまあの人望を、一部の生徒からは熱狂的な人望を持つ先生である。

だが、その知識の範囲は魔術、秘術、儀式、神話、薬品等々、オカルトや薬品技術に至るまである意味で幅広く嘗て、調子が悪くなった洸夜と『彼』も変な薬を飲まされた事があるが、不思議と効果はてきめんであり未だに江戸川先生の作った薬による事件は起こっていない。

伏見の話から察するに、二年たった今も相変わらずなのだろう。

 

『あと……江戸川先生、何故か瀬多先輩が来るかも知れないと伝えたら喜んでいました。"洸夜君なら飲んでくれる"……そう言ってましたから……』

 

「(嘘だろ……!) そ、それより伏見……俺以外だったら何人来るんだ? 流石に俺一人じゃないだろ?」

 

洸夜は話を変える為に話を戻した。

学園を卒業してるのに江戸川先生の薬を飲みたくはないからだ。

 

『今の所は瀬多先輩を含めれば三人ですね……』

 

「誰と誰だ?」

 

『それは……内緒です! でも、瀬多先輩もきっと喜んでくれる人達ですよ!』

 

そう言いながら伏見は電話越しで嬉しそうな様子で、洸夜も伏見の嬉しそうな意味が分からなかったがそれ以上は追求しなかった。

 

『あの……それで、瀬多先輩……来てくれますか? 予定は9月7日なんですが……』

 

「9月7日……。(予定は無いが……)」

 

そう言いながら洸夜は机の上に置いてある黒色の写真立てを視線に捉えた。

その写真立ては以前、総司達が勝手に写真入れ代わりにしていた段ボールから勝手に出した物であり、写真には嘗ての仲間達と当時の自分の姿が写っていた。

部屋の電気は消しているがそれでも確かに見える写真を見て洸夜は、伏見のお願いに承諾すると言う事は再び"あの町"に行くと言う事を自分に問い掛けた。

 

「……。(……俺はどうしたいんだ? 断ればそれで終わりだが……これを逃せば、あの町に行く機会は二度と無いだろうな)………俺で良いなら行っても良い」

 

洸夜は考えた末にそう言った。

あの事件の始まりと終わりの町。

洸夜が大事な物を手に入れて失った場所。

色々あったが、洸夜はあの町が好きだった。

それが洸夜を再びあの町へ向かう事を決めさせたが、それと同時にあの町へ行くのはこれで最後にするとも覚悟を決めさせた。

そして、そんな洸夜の言葉に伏見は喜びの声をあげた。

 

『は、はい! 詳しい事は後々、御連絡しますので! 九時過ぎなのにありがとうございます!!』

 

「いや……礼を言うのは此方かもな。(もう一度、あの場所に行く機会をくれたんだからな……)」

 

『は、はあ……? 良くは分かりませんが……それでは今日はこの辺で、御休みなさい瀬多先輩 』

 

「君もな伏見……」

 

それだけ言って電話は切れた。

再び静かに成った部屋で洸夜は静かに溜め息を吐くと、自分が本当にその場所へ行くと言う事を言い聞かせる為に、呟く様に自分の行く場所の名を口にした。

 

「学園都市……人工島"辰巳ポートアイランド"……」

 

 

End


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。