一体、なにが起こった……?
8月31日 (土)
現在、帰宅路
「意外にも多くなっちまったな」
「あんな立派なスイカとは思わなかったね。しかも、二個……」
「と言うより、なんで僕まで……」
まあまあの暑さの中、蝉の鳴き声をBGMにしながら堂島、洸夜、直斗の三人はそれぞれ両手一杯に切られたスイカが入った袋を持ちながら堂島宅へ向かっていた。
だが、直斗は少し不服そうであった。
「仕方ないだろ? 叔父さんが近所からスイカ貰ったって言うから来たんだけど、意外に大きいし二人じゃあ大変。そんな時にお前が通り掛かった。なら仕方無いだろ?」
「強引なだけでしょう……? 全く……僕は堂島刑事に資料を渡しに来ただけだったのに……」
口ではそう言うが、口調から本気で嫌がって無い事が分かる。
そんな二人の様子に堂島は少し驚きながらも、嬉しそうに見ていた。
それに気付いたのは直斗だった。
「……なんですか?」
「いや、お前……洸夜の前だとそんな年相応な反応をするんだなって思ってな」
「なっ!? 違いますよ……僕は只……」
直斗はまさかの不意打ちに顔を赤くしてまう。
そんな姿に日頃の仕返してばかりに洸夜は声を掛けた。
「そう照れるなって、そんなんじゃあ学校でも上手くいかないぞ?」
「大きなお世話です!」
「と言っている間にも家に到着……直斗といると退屈しないな」
「どう言う意味ですか!」
「……やっぱり仲が良いな」
「違います!」
堂島は家の扉を開けながら直斗にそう言い、直斗はそんな堂島の言葉を必死に否定する。
そんな様子に洸夜は小さく笑ってそんな洸夜を直斗が睨む。
そんな感じで家に入ると玄関には大量の靴が並んでおり、その靴に驚きながらも堂島が家に上がる。
「すげえ靴だな……おーい!帰ったぞ!」
「お父さん!」
堂島達の帰宅に菜々子がやって来た。
そして……。
「スイカ割る!」
「「「え!?」」」
「え……?」
堂島達の驚きの言葉に菜々子も声を出し、視線が三人の持っている切られたスイカを見てしまった。
===============
現在、堂島宅
「む~~!」
「悪かったって菜々子……割るって発想が無かったんだ」
スイカを持ちながらいじける菜々子を同じくスイカを持った堂島が慰めるが、菜々子の機嫌は中々治らない。
スイカ割りをした事の無い菜々子にとっては尚更だったのだろう。
そんな奈々子の気持ちが分かるのか、直斗もスイカを食べながら微笑んだ。
「まあ、気持ちは分かりますけどね……小さい頃はそう言う物に憧れを持ちやすいですから」
「いや、お前何歳だよ!?」
「?……皆さんと殆ど変わりは有りませんが?」
「あ……いや悪りぃ。俺が間違ってた……」
「?」
直斗の普通の返答になんか逆に申し訳ない気持ちに成ってしまった陽介に、直斗はなんの事か分からずに首を傾げながらスイカを食べた。
ある意味、空気が読めないレベルではなく、寧ろ空気を破壊しているかも知れない。
そんな風に他者と関わった事の無い直斗だから仕方無いのかも知れないが……。
「って言うか、お前……普通にこう言うのに来るんだな?」
完二の言うこう言うのとは友人同士の集まりみたな物を示す。
それを分かっているからか、直斗は横目で洸夜を睨みながら返答した。
「ええ、洸夜さんが強引なので……」
「男には強引さも必要なんだよ。時と場合によるが……」
スイカを食べながら無表情で返答する洸夜。
今はスイカを食べる事に集中しているらしく、直斗の方には一切視線を向けずにスイカをかじる。
そんな洸夜に直斗は、言っても無駄だと判断して自分もスイカをかじる。
この様な会話を洸夜達はしていたが、そこ隣では菜々子が未だにむくれていた。
「む~~!」
「あはは……菜々子ちゃん。今日は無理でも今度やろうよ? ちゃんと海でね」
むくれる菜々子をに千枝がそう言って説得する。
「それ賛成!」
「海か……その時は直斗もどう?」
「え!?」
千枝の言葉に賛同する中で突然、総司に声を掛けられた直斗は驚いてしまい危うくスイカを落としてしまいそうに成った。
「ぼ、僕はいいです!」
そう言って首を力強く横に振る直斗。
性別を隠している彼からすれば絶対に行く訳が無いのは目に見えているが、それを知らない総司達からすれば何故、そこまでして拒否するのか良く分からず首を傾げる。
そして、総司達と直斗がそんな会話をしている中で洸夜は何かを思い出しカレンダーで今日の日付を見た。
そこに書かれていたのは8月31日、もう海水浴と言うより夏の季節の終わりを示していた。
「……今年はもう無理だな」
「ん? ああ、本当ですね。でも、だったら来年行こうぜ!」
洸夜の言葉に陽介が来年行く事を提案したが、それを聞いた洸夜と総司は一瞬だが皆から視線をそらしてしまった。
何故、二人が視線をそらしたのか? その意味は次に奈々子が発する言葉によって分かる事に成った。
「来年……? でも、来年……お兄ちゃん達はいないもん……」
「あっ……!」
「えっ!?」
寂しそうに言った菜々子の言葉に事前に総司からその事を聞かされていた堂島は少しバツが悪そうに頭をかき、同様に聞かされていた陽介は思い出した様にそう言い、他のメンバーは知らなかったのかポカン口に成ったり驚きの様子だった。
また、直斗も多少は驚いたがそれはあくまでも興味の範囲での驚きであり、他のメンバーとは違って表情には現さなかった。
「お兄ちゃん達……来年も菜々子と遊んでくれる?」
「勿論だよ……」
総司の言葉に菜々子は次に後ろを振り向き洸夜の方を見る。
「菜々子の為ならなんだってするさ」
総司と洸夜の言葉に菜々子は微笑むが、やはり寂しさを完全に隠す事は出来ず表情を暗くする。
また、奈々子の衝撃発言を聞いたメンバーの矛先は一斉に総司へと向かう。
「ちょ、ちょっと待ってよ瀬多君! 来年にはいないって……」
「あれ……? 言って無かった?」
「初耳だよ!?」
雪子からの言葉に首を傾げながら陽介の方を見た。
その様子から察するに、どうやら総司は陽介には言っていた様だ。
総司から視線に陽介はいかにも、やべぇ……! みたい表情をしていた。
「わ、わりぃ……自分で言った瞬間に思い出した。皆、知ってると思ったからさ……ハハ」
苦笑する陽介だったが、りせはその言葉に肩を落とした。
「そ、そんな……ハハじゃないよ。それじゃあ、総司先輩と洸夜さんは……うわーん!」
そう言って庭で泣き叫ぶりせだがその目からは涙は出ておらず、どうやら悲しさを表現したかった様だ。
そして、りせはそのままの勢いで総司へ抱きついた。
「総司先輩~~~!!」
「ぐえっ!?」
しかし、その勢いが強すぎた為か総司の腹にりせが直撃して総司は思わずスイカをリバースしかけるがなんとか耐えた。
「こ、この子は……!」
そんなりせの行動に千枝はまたか……と言った表情で呟きながら眺めていた。
「……やれやれ。(総司も大変だな……)」
「……」
弟達の様子を見ながら洸夜は食べ終わったスイカの皮をテーブルの上の皿へ乗せ、ゆっくりと壁に背を預け、そんな洸夜を堂島がある事を思い出しながら見ていた。
それは、一昨日見たジュネスの監視カメラの映像。
久保がジュネスで捕まった為、一応店内の監視映像を見せてもらう事にしたのだ。
最初は堂島の部下である足立が見に行ったが、嫌な予感がした為に足立を追ってみると案の定ジュネスでサボる足立を発見。
その後堂島は足立に制裁を加え、共に監視映像を見る事にした。
だが、その映像にはどこにも久保が映ってはおらず、いくら探してもいなかった為に足立が 恐らくは人混みに紛れて映らなかったのでは?と言う意見を出した。
そんな都合良い事があるとは思えないが、映っていないのも事実。
そう思った堂島は無駄足と思いながらも、店員に礼を言いながらなんとなく流れている映像を見た時だった。
堂島の目に写ったのは画面の端に微かに映った制服の上に緑のジャージを着た女子高生と体が人一倍大きい男子学生……そして、灰色の髪をした"二人の男"の姿だった。
一人は制服を着ている事から学生なのが分かり、もう一人はジーンズと黒いTシャツを来た成人ぐらいの男性だ。
だが堂島は、その人物二人に見覚えがあった。
「……。(あれは間違いなく洸夜と総司だった……それに、確か久保を見つけたのも日頃総司と一緒にいるあそこの三人)」
堂島はそう言って視線の先にいる陽介、完二、クマの三人を見た。
別にジュネスにいる事が悪い訳では無い。
洸夜はそこで買い物をよくしており、総司はそこで友達とよく集まっているのは既に堂島も知っている為、久保が捕まった当日ジュネスにいてもおかしくはない。
だが、完二と一緒に総司と洸夜が映っていた事や日頃から総司達が事件の裏にいる事から何故か怪しく思ってしまう。
「……。(総司は前からだが……まさか、洸夜も関わっているのか? だが、そんな様子も無ければ噂も無い。……いや、俺はなに考えてんだ。相手は甥だぞ……)」
叔父としては酷いかも知れないが、やはり刑事としては疑ってしまう。
そう思いながらも表情に出さずに堂島は洸夜を見ていたが、洸夜がそれに気付いた。
「どうしたの叔父さん?」
「ん!?……あぁ、いや……」
まさかお前を疑っているとは言える訳がなく、総司の時の様に忠告する事も出来るが娘や総司の友人達がいる前で言える訳も無い。
そこで堂島は、別の事を咄嗟に口にした。
「桐条とのお見合いの件をどうするか、少し気になってな……」
咄嗟とは言えこれは嘘では無い。
あの後の事は堂島なりに考えていたのだ。
そして、そんな堂島の言葉に洸夜は少し悩む素振りを見せながら一息入れ、天井を眺めながらこう言った。
「分からない……今一、関心が無いんだ。けど、多分俺は自然消滅を願ってる」
洸夜の言葉に堂島は驚いた。
「自然消滅って…… なあ、洸夜……あのお見合いからだがお前、少し様子がおかしく成ってないか? 」
まだ短い付き合いだが、堂島は洸夜の異変に勘づいてはいた。
何処か心が疲れた様な表情や、たまに空を眺める時に感じる虚無感。
なによりも、一番印象が高いのは満月の時だ。
無言で只、涙を流していたのだ。
その光景に堂島が口を出せる訳も無い……いや、なんて言えば良いか分からなかった。
そして、堂島の言葉に洸夜はおかしそうに笑った。
「おかしくなったか……。(いつ頃からなんだろうな……本当に)」
洸夜自身も分かってはいなかった。
満月の夜は嫌いだ。
ろくな思い出が無い。
なにもない新月の方が何倍も良い。
洸夜がそう思いっていた時だった。
先程まで総司への質問の嵐に騒がしかったのだが突然、火が消えた様に静かに成ったのだ。
洸夜が周りを見ると何故か、直斗を筆頭に雪子と完二が驚いた表情で洸夜を見ており、陽介達他のメンバーも意味は分からないが取り敢えず見ておくと言った様子。
また総司と菜々子も今一状況を分かっていないらしく、場を傍観する事にしていた。
そして、直斗が洸夜へ話し掛けた。
「洸夜さん……桐条とお見合いって本当なんですか?」
直斗の言葉に洸夜は頷いた。
別に嘘をつく理由も無いからだ。
「ああ……親が決めた事だがな。……それがどうした?」
「……確か、洸夜さん達の御両親は国々との関わりが強いんでしたね? そう思うと納得出来ます。こんな近くに桐条と関わりを持つ人がいる事をね……」
何故、直斗が洸夜達の両親の事を知っているのかは疑問だが、洸夜と総司について調べた時に自然と分かったのだろうと思い洸夜と総司、堂島でさえも敢えて何も言わなかった。
そんな中、直斗の言葉に反応した者がいた……陽介だ。
「なあ? 桐条ってなんだよ?」
「わ、私に聞かないでよ!?」
陽介が桐条の事が気に成り隣にいた千枝に聞くが、千枝も分かる訳も無く両手を振ってそう言った。
「桐条は色々な分野に進出して成功を治めてる大企業で、言わゆる名家。うちの旅館にも昔よく来てた時、お母さんや板前さん達が騒がしくて印象に残ってたから、よく覚えてる」
意外にも陽介の問いに答えたのは雪子であったが、彼女の話を聞く限りでは当然だったのかも知れない。
雪子の言葉に桐条に詳しくない陽介達が、そうなんだ……と言った感じで頷いた
そして、直斗も同様に頷いて雪子の言葉に補足する様に語りだした。
「"桐条"……元々は"南条"と言う家の分家でしたが、後に独立。今の状態に至ります。また分野も本当に広いですよ……そのテレビや先輩達の持つ携帯の部品や服等とか、日常に必要不可欠な物には大体、桐条が関与してます」
「うっそ~!? 桐条って凄いんだね……」
驚くりせの言葉に直斗は、クスクス笑いながら頷いた。
「ええ、本当に凄いですよ……どんなに黒い噂があっても揉み消す程ね……」
「え! も、揉み消すって……つまり……」
「そう言う……意味ッスね」
「……。 (やっぱり……そう言う話も出るよな)」
直斗の言葉に冷や汗をかく陽介達。
結果を沢山残して自分達も使用していたから安心出来る綺麗な企業とでも思っていたのか、直斗の言葉に多少は衝撃を受けた様だ。
「?……アイギスお姉さん達は悪い人じゃないよ!」
お見合いで直に会っている菜々子は皆の言葉に小さい体ながらも抗議し、そんな奈々子に総司も奈々子は苦笑してしまう。
「分かってるよ奈々子……皆が皆、同じじゃないから。アイギスさん達は悪い人達じゃないよ」
「アイギスと言う人が誰かは知りませんが、僕も桐条全体が悪いとは思ってませんよ。でも、桐条の力は良くも悪くも大きい……堂島刑事だって御存じでしょう?」
「……ったく、一番言いづらい所で振ってきやがって」
直斗の言葉に堂島はばつが悪そうに頭をかき、溜め息を吐きながら語りだした。
「……警察関係者の間じゃあ有名な話だ。自分達が捜査している事件にもし、桐条が関わっているなら上の連中から圧力を掛けられ、事件は揉み消されるってな」
「ええ!? (……だから叔父さんあの時、桐条って聞いた時にあんな態度を……でも) そんな事、言って大丈夫なの叔父さん?」
堂島の言葉にお見合いでの堂島の様子を思い出し納得する総司。
それほど迄に警察関係者の間では、桐条と言う影響力の強さが分かるが同時にそんな事を軽々しく言って良いのか総司は堂島に聞いた。
「言ったろ? 関係者の間じゃあ有名だってな。……最初は噂程度だったが一時期、桐条の関わる事件に手を出した奴が上の指示を無視して捜査した結果、左遷させられ表舞台から消されたって話があった。……それ以来、口には誰も出さないが……公然の秘密みたいになってんだ。まあ、こんな田舎の警察には関係無い話だがな」
そう言って堂島は話を戻すかの様に直斗を見るが、その話を聞いた洸夜はその内容に心当たりがあった。
「……。(黒沢巡査……今頃、どうしてんだろう。未だに巡査か、それとも出世したのか……今じゃあ何も分からないか)」
嘗て、自分や『彼』と結構良好な関係を築いた警察の事を洸夜は思い出していた。
見た目が恐いが中身は優しかった人であり、色々とサポートをしてくれた。
学園都市を去る際に挨拶したのを最後に何の音信も無い。
だが、桐条が原因で左遷させられた黒沢巡査はあの事件に大きく貢献したのは事実
恐らく、酷い扱いは受けないだろう。
洸夜はそう思いながらボ~としてた時だった。
「うわ!? マジじゃん……携帯で"桐条" "黒い噂"で検索したら滅茶苦茶いっぱい出てきたぜ!」
気になったのだろう。
堂島の会話の最中の間、陽介は桐条について検索して色々と調べた様だ。
その証拠に陽介の携帯のディスプレイには"桐条の人体実験" や "桐条、死者多数の事故を隠蔽?"等々、色々と表示されていた。
それを隣にいた千枝も覗きこんだ。
「ほ、本当だ……でも、これって……本当の事?」
「全てでは無いと思いますが、どれか一つぐらいは本当でしょう。捜査は無理でしょうけど……僕もお爺ちゃんもそれで、桐条に苦汁を飲まされましたよ」
もうどうでも良い事なのか直斗は、帽子をかぶり直しながら平然とそう言ったが帽子をかぶり直す時の指の力が込もっていた事から、とても悔しい事でもあった様だ。
そんな時、ネットで桐条について見ていた陽介が何かを発見した。
「あれ……桐条の当主急死って、じゃあ今は桐条ってどうなってんだよ!?」
「急死……? ああ、それは少し古い情報ですね。その当主の名前は"桐条 武治"じゃないですか?」
「ああ、そう書いてるけど……古いってどういう事だ?」
今一、状況が分からない陽介の言葉に再び直斗が説明しようとした時だった。
「……二年ぐらい前に亡くなったんだよ。その人は……当時はそれでいろんな業界が荒れて有名だったんだけどな」
そう言ったのは洸夜だった。
だが、そう言ったとは言え洸夜の目線は陽介達では無く、下を向くようにして自分の足を意味無く見ながらそう言っていた。
そして、まるで関わりがある様な言い方に直斗が反応する。
「お知り合いなんですか洸夜さん? それとも只、詳しいだけなのかも知れませんが……そこまで知っているなら、あれも知っていますよね? 一番最近に起きた桐条の汚職」
「汚職……? 」
そう呟いたのは総司だった。
先程の亡くなった前の当主については母から聞いていて知っていたが、汚職については聞いていなかった。
その為、総司は気になって直斗の言葉に集中する。
「一年程前に起きた桐条の汚職事件。桐条 武治がいた時から桐条の悪い噂は絶えず一部の人達は、そんな彼に意識を集中していていましたが、それを利用して当主を盾にし裏では数人の幹部が汚職に手を染めていました。ですが……次の当主が一人娘である桐条美鶴さんに成ると、それが公になり幹部達は身を滅ぼした様です。……隠蔽出来たにも関わらず、しなかったのは評価出来ますが色々と当時は世間に叩かれていた事件です」
「……。(……それだけじゃない。若すぎるトップ、組織の闇を抑えられない? とかマスコミの餌にされていた事件だ。もう聞かないがな……)」
洸夜が心の中で付け足す中、陽介から携帯を借りてネットを見ていたクマも何かを見つけ口を開いた。
「でも、その亡くなった当主さんについて色々と書かれてるね。……桐条 武治は只の人殺しであり、数百人が死んだ事故も隠蔽する金の事しか考えてない悪魔だ……とか」
クマがネットの掲示板の一部を読み上げた瞬間、洸夜の中でなにかが弾けた。
「っ! あの人はそんな人じゃねぇっ!!!!」
そう叫びながら洸夜は拳で壁を殴っていた。
ドオォンと響く音と同時に手から伝わるジリジリとした痛みを感じる洸夜。
無意識だった。
ネットとは言え何も知らない奴が、自分を犠牲にしながらも自分達に未来を与え、大人が生み出した桐条の罪を子供達に任せる事に心を痛めていた美鶴の父、桐条 武治の事を好き勝手に言う事に我慢出来なかった。
「!」
しかし、洸夜はすぐに冷静に成った。
だが、周りは驚いた表情で固まってしまっていた。
堂島でさえ持っていた煙草を落としそうに成っている。
また、菜々子も初めて見る洸夜の怒りの姿と迫力に思わず涙目に成る。
「……グス」
「ああ!? ご、ゴメンな菜々子……お兄ちゃん、大きな声あげて本当にすまない……」
慌てて洸夜は涙目の菜々子を慰めた。
無意識とは言え小さな子供の前で感情を爆発させるなんて、自分はなにをしているのか。
洸夜はそう思いながら菜々子の涙をハンカチで優しく拭いてやり、菜々子も頷きながら大丈夫だと言う事を示した。
「菜々子……大丈夫だよ……少し驚いただけだから……」
奈々子はそう言って洸夜を見上げるが、洸夜は自分が許せず小さく溜め息を吐きながら腰をあげて玄関へと歩き出した。
「兄さん……どこ行くの?」
「……少し頭を冷やして来る」
そう言って洸夜は出掛けていった。
そして、洸夜が出掛けた後には少し重い空気が漂っていた。
「……クマ、なんかやっちゃった?」
先程の事で心配そうに呟くクマ。
だが、そんなクマに陽介は首を横に振った。
「いや……多分違うんじゃねえか?」
そう言って陽介は隣の千枝に視線を送り、千枝もそれに気付くと陽介は誰にも聞こえない様に小さな声でこう言った。
「……なぁ、もしかして洸夜さんのさっきの様子って……この間、教えてくれた二年前の……」
「た、多分……だって、あんなに感情的に成った洸夜さん始めて見るし……」
そう言った時、陽介と千枝はある事を思い出した。
それは、前にエリザベスが言った言葉。
洸夜が関わった事件には"後ろ楯"が存在していた。
そして、桐条の話をしていた時に洸夜の様子。
日頃、成績がお世辞にもとても良いとは言えない二人だが、こんな時に限って驚異的な頭の回転が発揮してしまった。
桐条+黒い噂=ヤバい事をしてる?
ヤバい事をしてる?+二年前のシャドウ事件=桐条関係あり?
桐条関係あり?+後ろ楯+隠蔽=君達は知り過ぎてしまった……。
「「ギャアァァァァァ!!」」
陽介と千枝の考えた結果、自分達は知ってはいけない事を知ってしまったのではないかと思い二人は発狂宜しく叫んでしまった。
そんな二人の光景に普通なら周りは心配するのが普通。
だが、今の周りのメンバーはそうでは無かった。
「二人とも、また何かしたのか?」
「提出物を出し忘れたとか、そんなんじゃないスか?」
「うわ~ん! 総司先輩と洸夜さんは来年にはいないし、その洸夜さんはお見合いしてたらしいし今日は厄日だよ~~!?」
「り、りせちゃん……落ち着いて……」
「お父さん、クマさん、帽子のお兄ちゃん! トランプしよう!」
「トランプか……ダウトなら得意なんだが……」
「ふふふ……何気にクマ……強いよ」
「バ、ババ抜きしか……やった事ないんですけど……」
陽介と千枝のリアクションに馴れてしまったのか、誰も二人のリアクションに直接触れる者はおらず、それぞれの行動をしようとしていた。
しかし、そんな中でも総司と堂島は洸夜が気になってしまう。
数ヶ月一緒に住んでいる堂島と菜々子は見たことは無く、長年一緒にいた総司でさえあんなに感情的な洸夜を見る事は滅多に無い。
「「……」」
堂島と総司は黙りながら考え込むと、静かに立ち上がるのだった。
============
現在、稲羽市 (河原)
頭を冷やす為に堂島宅から出た洸夜はその場の気分に任せた結果、河原へとやって来ていた。
先程まで感じていたまあまあの暑さは既に感じず、河原である事と風が吹いている事から涼しさを感じる程だ。
空も雲が殆ど無く青空が稲羽市を包んでいるかの様に清々しい。
早いものでそろそろ秋だ。
だが、季節が巡り始める中でも洸夜の心は晴れなかった。
「……。(……親父さんは別に他者から尊敬してもらう気も無ければ、感謝して欲しかった訳じゃない。自分の父がしてしまった罪……桐条の罪を償いたかっただけだった。その為に自分の人生も犠牲にした……美鶴も親父さんを助ける為にペルソナ使いとして生きていた……)」
洸夜はそう思いながら河原の階段を下って行き、川の側へと近付きながら桐条 武治と出会った時の事を思い出していた。
「……。("屋久島"……そこで俺達は息抜きと……当時、事件の生き証人であった親父さんの話を聞く目的で屋久島に行きそして、親父さんに会った)」
桐条 武治。
影時間への適性はあるがペルソナ能力は持ち合わせていない。
だが、その眼帯と雰囲気から醸し出される他者を圧倒する存在感は、始めて出会った時は美鶴を除く洸夜を含めたメンバー全員が息を呑み緊張する程だった。
しかも当時、武治は休暇目的で屋久島を訪れていた。
仕事を忘れ心身共に癒す為に来たのに桐条の罪の話をしてくれるのだろうか?
当時、屋久島に行く前に洸夜は美鶴から何気無く父親の事を聞いてみたが、美鶴の何処かよそよそしく話す感じに不安しか無かった。
だが、それは洸夜の無駄な心配と成った。
「……。(親父さんは嫌な顔一つしないで話してくれた。それ処か、自分達大人の罪に子供であった俺達に頼らなければ成らない事に本当に申し訳なさそうだった……)」
洸夜はそこまで思い出して川の中で游ぐ魚を見る。
当時の武治は出来るもの成らば父の責任にも関わらず、自分の命で贖おうとすらしていた。
知らない者が聞いても口だけだと思うかも知れないが、実際に本人の口から聞いた者は絶対にそんな事は言わないだろう。
それ程までに武治の言葉には重みがあったのだ。
桐条 武治……文字通り、桐条の罪の精算に己を命を掛けていた人物だろう。
だがしかし、そんな武治の行動に洸夜でも分からない事が一つあった。
それは、武治の洸夜への接し方。
お互いに初対面の筈にも関わらず武治の洸夜を見た時のリアクション、それは明らかに驚いた表情であった。
初対面なのにそんなリアクションをされても洸夜は困るだけであり、武治に洸夜が理由を聞いてみたが上手くはぐらかされただけだった。
だが、それ以外にも不自然な事があったのだ。
それは寮に帰った後の事……。
「……。(何故か俺だけに変な問題用紙の束を渡されたんだよな……期限が三日、しかも美鶴にすら内緒で一人だけで解くと言う条件が書かれた手紙と一緒に……)」
何故、自分だけがこんな事をやらさられるのかは分からなかったが、手紙には桐条 武治の名が書かれている為に無視等は出来る訳が無かった。
桐条という名家の当主直々のものを、自分だけとか面倒だからとかの理由で無視できる器量は当時の洸夜には無かった。
しかも"シャドウとの戦いで大変な中ですまないと思っているが、どうしても君にして貰いたい" そう手紙に書かれている為に更に無視は出来ない。
洸夜も大変な事を理解している上での最早、頼みに近い何かに洸夜は困惑する自分をなんとか落ち着かせて問題に取り掛かった。
問題の前半の内容は学力はあまり関係無いものだったのは洸夜は今でも覚えている。
内容はある企業の状況が詳しく書かれた用紙、そしてその企業に起きた問題をどうやって解決するか自分の考えを書くと言うものであった。
その内容にますます自分が解く意味が分からなかったが洸夜は、企業についての情報を調べて自分なりの回答を記入して問題を終わらせた。
だが、本当の問題は後半であった。
「……。(後半の問題の内容……あれは明らかに高校生が解ける問題じゃなかった)」
思い出しながら内心で呟く洸夜の言う通り、その後半の内容は異常だった。
見たことない数式や化学式等々、一体どこで学ぶ知識なのかと思わせる程の難問。
一度やると決めたからには途中放棄しないで図書館や本屋で色々と缶詰状態に近い状態に成る羽目と成ってしまった。
だが、それでも三日と言う短い期限で全て解ける訳も無く、半分行くか行かない位で三日が過ぎてしまい黒服を来た武治の使いに出来た所までで渡した。
半分位は出来たがそこまで書いた所も正解なのかも分からない。
そして、その結果も洸夜には分からなかった。
その後に一度だけ、寮宛に直接に武治から洸夜へ電話があったがその内容は"君と言う人間がどんな人間なのか分かった"それだけであった。
結局、なんの事か分かる事は無かった。
それが洸夜が武治と直接話した最後だったのだから……。
「……。(まあ、結果に興味は無かったからな。……もしかして、美鶴とお見合いさせる為の試験だったりして……だけど、それでもあの時……)」
洸夜は思い出しそうに成った。
忌まわしき幾月が起こした事件を……。
洸夜は思い出しそうに成るのを止めようと頭を抑え付けた後、自分が情けなくなり苦笑する。
そして、暫く苦笑してると不意に表情を真面目にすると空を見た。
だが、その表情は真面目だったが悲しみしか写っておらず、洸夜は空を見たまま心の中でこう言った。
「……。(親父さん……真次郎……『■■■』……俺、自分がどうしたら良いのか分からねえ……! 親父さん達が創ってくれた未来を俺はどう生きれば良いのかも……自分の力にも……そして『■■■』や美鶴達の想いも……)」
洸夜は唇を噛み締めながら空へ向かってそう内心で言ったが、答えが返ってくる訳はなかった。
そんな時だ。
「兄さん……」
「洸夜……ここにいたのか……?」
洸夜が声のする方へ振り向くとそこには、総司と堂島が二人揃って立っていた。
来たタイミング等を踏まえるとどうやら二人は、心配して来てくれたのだと洸夜は分かった。
だが、洸夜はすぐに顔を逸らした。
今の状態で一体、どんな表情をすれば良いのか分からないからだ。
そして、洸夜が顔を逸らし再び川を見ていると、その隣に総司と堂島が洸夜を挟む様に来て並んだ。
並ぶ三人中で最初に口を開いたのは堂島だった。
「桐条 武治……知り合いだったのか?」
「……そんなに深い関係では無かった。けど、親友だった奴の親父さんだったし……なにより、ネットとかで言われてる感じの人じゃなく、そして……俺が生涯で絶対越える事の出来ない人だよ」
「!……。(親友だった人の父親って……まさか、エリザベスが言っていたのって桐条 美鶴さんの……)」
洸夜の言葉に総司はエリザベスの言葉を思い出す。
その事件で亡くなり、洸夜にとっても大きな影響と成った人物。
今までの事から推測すると桐条 武治と成る。
元々、ペルソナ能力を制限する腕輪を渡したのも美鶴だ。
総司は確信した……二年前の事件に桐条が関わっている事に……。
「洸夜……今は関係無いかも知れないが、お見合いの時の二人……桐条 美鶴と真田 明彦だったな。お前が倒れている時、あの二人が言っていたぞ。……本来、全員が背負わなければ成らなかった罪をお前だけに押し付けてしまったってな……」
堂島はあの場の雰囲気と会話だけで洸夜の負の中心に、あのお見合いメンバーが絡んでいると判断し洸夜へ明彦が言った事を伝えた。
だが、洸夜はその言葉に少し驚いた様子だったが、すぐに先程の様な寂しそうな笑みを浮かべる。
「……はは。罪か……なんなんだろうな……罪って……」
洸夜はそう言って寂しそうな笑みから、歯を食い縛りながら目を細め後悔の表情をした。
あの事件で大人達ではなく、S.E.E.Sであった自分達の罪。
それは一体、なんなのだろうか。
幾月の企みに気付かなかった事、目の前で死ぬ人を守れなかった事、犯してしまった罪で苦しむ親友を支えられず死なせてしまった事、仲間の苦しみを分かってやれなかった事、ストレガの二人を結局は死なせてしまった事、一人の仲間に全てを押し付けてしまった事。
他にもあるであろう罪。
そして、罪があるならば罰もある。
洸夜は思い出す……この二年間と、この町に来てから起こった自分の異変を。
自分が苦しんだ事、これ等全てが罰なのだろうか?
何の罪に対しての罰なのだろうか?
洸夜には分からなかった。
しかし、堂島と総司に言う事は思い出した。
「……叔父さん、総司。いい忘れてたけど……9月7日から二、三日……少し留守にする」
「……。(9月7日……?)」
洸夜の言葉に総司は引っ掛かりを覚えたが、堂島には特に引っ掛かりはなく洸夜の話を聞きながら煙草に火をつけた。
「俺は構わないが……何処に行くんだ?」
「辰巳ポートアイランド……母校の月光館の後輩から助っ人の要請。修学旅行で他校の生徒達が来るんで、OBを数名呼ぶらしい……」
「修学旅行で他校か……どっちも大変だな」
洸夜と堂島がそう言って場の雰囲気が終わりな感じに成り、自然と洸夜と堂島は帰り始めた。
総司を除いても……。
洸夜の話に総司は冷や汗をかいていた。
9月7日……実は総司達も修学旅行があり、しかも場所が……。
「辰巳ポートアイランド……学園都市の月光館学園なんだけど、もしかして……。(兄さんが呼ばれた理由って俺達の修学旅行……?)」
総司は兄弟で修学旅行に行くかも知れないと言う可能性に息を呑みながら洸夜、堂島の二人の後を追うように歩き始める。
そして総司がそんな風に悩んでいる中、堂島と河原の階段を登っていた洸夜の携帯が鳴っていた。
Buuuuuu!Buuuuuu!
マナーモードによってポケットから伝わるバイブレーションに、洸夜はポケットから携帯を取り出した。
「……。(メルマガか?)」
何かの宣伝メールと思いながらも、洸夜はメールフォルダを開いた。
来たのは二件だった。
だが、そのメールの宛名を見た瞬間に洸夜は目を大きく開いた。
「っ! (……このタイミングでこの二人からメール。もしかしたら、俺がこの時期にあの町に行く事は運命なのかも知れないな……)」
洸夜をそこまで考えさせる程の宛名の二人。
それは……。
「風花……乾……」
宛名の名前、それは洸夜と同じく元S.E.E.Sメンバーである山岸 風花と天田 乾の二人だった。
山岸 風花、天田 乾、どちらも影時間に適性を持つペルソナ使いであった。
風花は直接戦闘に参加はしないが、今で言うりせと同じサポート係であった。
だが、恐らく実力ではりせを軽く凌駕する程の実力だろう。
ペルソナを完全に召喚する前からシャドウの気配を敏感に探知する程だ。
あの戦い以降は自分の生活をしながらシャドウワーカーを手伝っていると予想出来る為、力は更に上がっているだろう。
逆に乾は戦闘要員だった。
身体が幼い乾だったが、自分にあった武器である槍とペルソナを巧みに扱える実力者。
しかし、乾の母は真次郎がペルソナを暴走させた事が原因で亡くなってしまった。
乾も真次郎へ復讐を思っており、真次郎も又、乾に復讐される事を望んでいた。
だが、真次郎が乾を庇って死んだ事で乾は変わった。
彼はその一件や今までの経験で大きく成長し、真次郎を許した。
また、そんな二人だが実は洸夜に一番なついていたメンバーでもある。
風花への虐めが再発したと聞いた時に風花のクラスに殴り込んだり、乾にお弁当や戦い方等を教えたり等をしている間に気付けば一番なついていたのだ。
だが、洸夜の指先は震えており、メールを開く気配が無かった。
洸夜とS.E.E.Sメンバーの溝を生んだ出来事に風花と乾は関与していない。
しかし、二年という歳月は人に恐怖を植え付けるのには充分な時間であった。
いつの間にか洸夜の中に他のメンバーへの不信感が、S.E.E.Sメンバー全員へと広がっていたのだ。
「……」
洸夜は黙ったまま無意識のうちに二件のメールを開かないまま削除選択した。
だが、やはり風花達との絆は強かった。
洸夜はすぐに削除を押さず、少し迷った。
そして、もしかして何か起こったのかと心配しメール削除を取り消そうとボタンを押そうとした時だった。
「洸~夜さん!」
「ぐはっ!? り、りせ……」
突然、背中に衝撃を受けた洸夜は後ろを見ると自分の背中に抱き付くりせと、それを呆れ顔で見る完二の姿だった。
そんな二人に追い付いた総司が話し掛けた。
「二人とも、なんでここに?」
「いや……菜々子ちゃんが腹減ったらしくて、そんで……まあ、探し兼迎えに来たんスよ」
「そうか……悪いな、俺のせいで面倒をかけたな」
「そんなの気にしてないって洸夜さん!」
洸夜の言葉に背中に抱き付きながらそう言ったりせ。
そんな時、洸夜が携帯を再び見るとある事に気付いた。
「あっ……。(メール……)」
携帯のディスプレイに写る削除完了の文字。
りせに抱き付かれた時、ボタンに触れたしまっていたらしく削除を選択してしまったらしく風花達からのメールを消えてしまった。
そう成ってしまえば最早、再び返信する気にも成れない。
「……。(この年は色々と起こるな。怪奇殺人、美鶴達と再会、学園都市への帰還と風花と乾からのメール。偶然の域を越えている)」
そう内心で洸夜は呟きながら、堂島宅へ戻る為に歩き始める総司達の背を見ながら追い掛ける様に歩き始めた。
今度は携帯の電源を切って……。
End