あの場所へ
9月7日 (水) 晴れ
現在、稲羽駅
「それじゃあ、色々と作り置きしてるからカップ麺以外にも食べるんだよ? あと、燃やせないゴミは火曜日に変わったから。それと、寝る時はちゃんとガスの元栓と戸締まりをしっかり。それからーーー」
まだ朝早い時間、大きなスポーツバックと刀の入った袋を右肩にのせながら洸夜は車の外から車内にいる堂島と学校の都合で休みの菜々子にそう言っていた。
早いものでもう9月7日だが、それまで色々とあった。
なにせ、弟と修学旅行へ行く様なものなのだから。
一昨日に成って洸夜と総司達はお互いに向かう場所が同じだと判明したのだ。
判明した時の様子は十人十色の反応だったが、洸夜と絆が深くなり尚且つ、洸夜が月光館学園の卒業生だと言う事が分かり少なくとも全員が喜んでいた。
暇があったら洸夜に案内等をしてもらうと言う程に。
そして修学旅行当日、洸夜は打ち合わせ等の為に修学旅行で来る総司達よりも先に月光館学園へ着かなければ成らず、時間の都合上こんな朝早くに稲羽を出なければ成らなかった。
堂島宅を出る前に長持ちする料理を作ったり、ゴミの日についてもメモを残したりして後は電車に乗るだけなのだが、洸夜はやはり心配になり現在に至っていた。
そんな洸夜の姿に堂島と菜々子も苦笑しかでない。
「洸夜……大丈夫だから早く行け。そろそろ電車が来るぞ。(にしても、なんで木刀を持っていくんだ? 洸夜は枕みたな物って言っていたが……)」
「洸夜お兄ちゃん……菜々子達は大丈夫だよ?」
そう言う二人の言葉に漸く洸夜は車から離れた。
「……それじゃあ、本当に行くけど……本当に大丈夫?」
「大丈夫だからさっさと行けって……」
しつこい洸夜に堂島も苦笑しかでない。
まるで日頃、自分達が何も出来ないと思われているかの様だからだ。
食生活とか安定したのは事実だが、洸夜と総司が来る前はこれが普通だったのだから問題は無い。
そう思いながら苦笑気味にそう言った堂島の言葉に洸夜は漸く駅へ入って行く。
「それじゃあ、土産期待してくれよ!」
「洸夜お兄ちゃんいってらっしゃい!」
菜々子の言葉に手を振って答え洸夜は、駅の中へと消えていった。
そして、いきなり静かに成った空間が嫌だったのか堂島は洸夜が出てこないのを確認すると車を出した。
「洸夜お兄ちゃん……大丈夫……かな?」
洸夜を見送ると言って聞かなかった菜々子だが、やはりまだ眠いのか目をこすりながらそう言った。
「……アイツなら大丈夫だから、お前は寝てなさい」
「……うん」
堂島の言葉に菜々子は小さく頷くと静かに目蓋を閉じ、その姿に堂島は一息入れて運転を続ける。
菜々子が洸夜を心配するの無理はなく堂島も理由を理解していた。
今日までの間、洸夜が上の空である事が多かったのだ。
この間も菜々子と堂島の弁当を間違え、堂島に可愛らしいキャラ弁が、菜々子にはガッツリした弁当を渡してしまった事もある。
そのお陰で日頃のイメージは改善されてしまい、一部の刑事、婦警と何故かお弁当会が開かれてしまった。
そんな事を堂島は思っていたが我に帰り、再び運転に集中する。
「……ハァ。(……洸夜と総司には助けれっぱなしだな。なのに、俺は洸夜に何もしてやれてねぇ……情けない話だ)」
そう思いながら堂島は自宅へと向かう。
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数時間後……。
現在、稲羽市(総司の登校路)
堂島と菜々子が洸夜を送り届けてから数時間後、総司も修学旅行の為に勉強道具や着替え等をスポーツバックに入れて陽介と一緒に学校へと向かっていた。
また、今回の修学旅行は人数の都合で一、二年生合同と成っている為、総司達の周りには二年生だけでは無く一年生も同じ様な荷物を持って通学路を歩いている。
そんな周りを見ながら陽介が総司に話し掛けた。
「いかにも修学旅行だな」
「まあ、実際に修学旅行だからな」
陽介の言葉に総司は普通にそう返答した。
「にしても他校で勉強するらしいけど、やっぱり修学旅行は楽しみだよな?」
「ああ、個人的にはかなり楽しみだよ」
総司の言葉に陽介は驚いた。
まさか、総司がそこまで修学旅行を楽しみにしているとは思っても無かったからだ。
「お、おいおい相棒……そんなに楽しみなのか?」
苦笑しながらそう言う陽介の言葉に、総司は笑みを浮かべた。
「……兄さんがペルソナに覚醒したのは五年前。その頃、兄さんは辰巳ポートアイランドの月光館学園に入学した時期なんだ」
「月光館……? ああ、この間そんな事を話してくれたもんな……ってよくよく考えてみたらそれって……」
陽介は総司の言いたい事が分かり表情に驚きの色を混ぜ、総司もそんな陽介に頷いた。
「うん。あの時期、基本的に兄さんはあまり家に帰って来なかった。理由を聞いてもなんかはぐらかしてたし、でも、兄さんが関わったシャドウの事件……その舞台が学園都市なら納得出来る」
「た、確かに……でも、それだけで判断は軽率じゃねえか?」
「……陽介には言っても良いかも知れないな」
考え込む様にしながらそう言った。
そして、そんなリアクションをされたら気になってしまうのが人間だ。
陽介は普通に聞き返した。
「どういう意味だ?」
「二年前……兄さんが高校を卒業して帰って来たんだ。だけど、その時の兄さんは精神が病んでいた。何があったのかも教えてくれないけど、時期的に考えてそこしかない……きっと、エリザベスが話してくれた事以外にも何かあったんだ」
「へ、へ~そ、そうだったのか……。(ま、まさか……あの事か……)」
総司の言葉に陽介はボイドクエストで洸夜が話してくれた内容を思い出していた。
弟である総司にも内緒の話。
親友であった者達との出来事。
陽介はあの洸夜がそこまで精神的に病む理由はそれしか浮かばなかった。
自分でさえ、聞いた時は嫌な感じに成ってしまう程だ。
直接言われた洸夜は精神的になにかあってもおかしくは無いだろう。
陽介はそう思ったが同時に、額から冷や汗が流れてきた。
千枝の真っ直ぐ過ぎる性格で聞き出した話とは言え、洸夜が自分達を信じたから総司には言わないと言う条件で話してくれたものだ。
陽介は今現在、隣で本当に悩んだ表情をしている総司に言いたく成ってしまうが、ここで言ってしまえば洸夜を裏切ってしまう。
陽介は言いたい事に葛藤するが、なんとか冷や汗を流しながら耐える。
しかし、そんな陽介の異変に総司が気付かない訳が無かった。
「どうした陽介。凄い汗だぞ……?」
突然の総司の言葉に陽介は思わず体をビクつかせてしまう。
「えっ!? あ、いや! な、なんでも無いぜ!」
出来るだけ意識しない様にしたのが災いしたのか無駄に堂々とした感じに成ってしまい、余計に怪しく成ってしまった。
そんな怪しさ満点の陽介の目を総司はジッと見つめる。
日頃からクールだからか、その瞳からは謎の迫力を感じてしまい陽介は思わず目を背けるが、それがいけなかった。
総司は無駄な動作を一切せずに陽介の肩をロボットの様に両手で掴んだ。
「陽介……水臭いな。俺達、相棒だろ? 何を隠しているか言ってみろよ?」
「隠してる事前提かよ!? いや、マジでにゃんでも! やべ噛んだ!?」
大事なところで噛んでしまった陽介。
これでは次に何を言っても説得力が無くなる。
そんな陽介になにかを察知したのか、陽介の肩を掴む総司の手の力が強まる。
「……陽介。そこまで俺に言えない事か?」
「こ、ここ個人的な事だから……」
「その割には凄い冷や汗だけど?」
「……。(や、やべぇ……なにか、なにか話題を変えねえと……)」
総司からの追及から逃れようと、陽介は辺りを見回した。
すると、前方に少し背が低く帽子を被った人物……直斗を発見した。
「! (あれだ!)」
直斗を見付けてからの陽介の動きは早かった。
咄嗟に力を入れ総司から逃れるとダッシュで直斗へと近付く。
「よお! お前も今登校か!」
そう言いながら陽介は直斗に挨拶のつもりで軽く背をポンッと叩いた。
だが……。
「わあぁぁぁぁっ!?」
それほど迄に予想外だったのかそれとも突然、体を触られたからなのか直斗は体をビクつかせながら、そう叫んでしまった。
その叫びに陽介を追い掛けてきた総司は勿論、やった張本人である陽介と周りの学生も固まってしまう。
そして、その状態が数秒経った後、直斗はゆっくりと振り向いて非難の目で陽介を睨み、陽介は思わず謝罪した。
「い、いや……なんつうか、わ、悪かった……まさか、こんなに驚くなんて思わなくてよ」
「……つ、次からは気を付けて下さい。と言うより、いきなり触らないで下さい。普通に驚くんですよ僕は……」
照れからきてるのか表情を赤くしながら言う直斗だったが、知らない者が見たら今の発言は誤解を招きかねない。
それに対し陽介は思わず手を左右に揺らしながら抗議する。
「いやいや……俺が悪かったけど、その発言は誤解されそうだから止めてくれ!」
「?……なにを誤解するんですか?」
陽介の言葉の意味が分からないと言った様に不思議がる直斗に、陽介は意味を説明しようとする。
総司からの追及に逃れようとしただけなのに、事態が逆に面倒に成ったら堪ったものではない。
「いや、だからな……その発言だと、まるで俺がーーー」
陽介がそこまで言った時だった。
「陽介……!」
声のする方を陽介と直斗が見ると、そこには見てはいけない物を見てしまったと言わんばかりの総司の姿だった。
そして、総司のその姿に陽介は嫌な予感がした。
「お前……そんな小さな後輩に何をした! しかも同性……!」
そういい放つ総司だったが、口元がニヤけそうになってピクピクしているのを陽介は見逃さず、総司の意図が分かった。
「あ! てめぇ! さっきの仕返しに俺をおちょくろうとしてるだろ!」
「って言うか今、小さいって言いませんでしたか?」
総司の言葉に直斗が反応するが、総司は敢えてそれを無視して学校とは逆方向を向くとそのまま走り出した。
「皆、聞いてくれ!陽介が!!」
「なっ!? おいコラ止めろ!」
誤解発言をしながら逆走する総司を追う様に今度は陽介が走り出す。
総司の無駄に無表情なところが逆に自分をおちょくっている様で笑えない。
そして十数メートル程、総司と陽介が走った時だった。
「あ、瀬多君……」
「どうしたの、学校はあっちだよ? 忘れ物?」
総司の前方に登校中の雪子と千枝が見えた。
その様子に陽介は嫌な予感がするが、それが見事に的中した。
総司は逆走しながら二人に手を振った。
「二人共、助けてくれ。陽介が……」
「え? 花村君?」
「花村がどうかした?」
自分達の背中に隠れる総司の言葉に、雪子と千枝は前方に視線を戻した。
すると……。
「うおぉぉぉぉぉっ!! させるかぁぁぁぁっ!!!」
二人の目に入ったのは朝とは思えないテンションと形相の陽介の姿。
これ以上、総司の好きにさせまいと凄い勢いで追い付いて来た陽介だったが、鼻息が荒く息も乱れながら何か叫んで近付いて来る者を見た雪子と千枝の反応は……。
「えっ!? あれ花村君っ!?」
陽介の姿に驚く雪子、そして……。
「う、うわぁぁぁぁ!? こっち来んな!!」
陽介目掛けて回し蹴りで迎撃する千枝だった。
千枝の蹴りはそのまま陽介に吸い込まれる様に腹に当たった。
と、思われたが……。
「っ!? 何の!」
「っ!」
陽介は咄嗟に両腕をクロスして千枝の蹴りを防御したのだ。
蹴りの衝撃で陽介はザザザザ……! と靴で地面が擦れる音を出しながら数メートル後退したが、その表情は、どうだと言わんばかりにどや顔であった。
「フンッ! 俺も甘く見られたもんだぜ。お前に蹴られまくって早数ヶ月。 里中、その蹴りは……既に見切った!」
無駄に堂々とした陽介。
どうやら陽介のシャドウとの戦いで得た経験値は、このような場面で開花した様だ。
そして、そんな陽介に蹴りを防御されたのが悔しかったのか千枝は、拳を握り締めながら悔しそうに陽介を睨んだ。
「ちょこざいな!……つうか、夜に下ネタ電話してくる奴が無駄に格好付けんな! 」
「あ!? バカ! こんなところで暴露すんな! 普通に冗談の域だろ!」
「花村君……」
「陽介、やっぱりお前……」
千枝の言葉に陽介から少し距離をとって哀しみの視線を陽介へ送る雪子と総司。
そんな二人のリアクションに陽介は、それ見たことかと千枝に抗議した。
「里中! お前のせいで俺の好感度が下がったじゃねえか!」
元々の原因は総司にあるのだが、既にそんな事は忘れている陽介は千枝の事しか悪い意味で頭に無かった。
また千枝も、そんな陽介の抗議に対して鼻で笑って返答した。
「ふん! 日頃の行いが良かったら、そう簡単に好感度は下がらないっつうの!」
「なにを~!」
そう言って千枝と陽介は、お互いガルルルと獣宜しくな唸り声をあげながら顔を近付けて睨み合った。
また、総司と雪子を除く登校中の学生は一瞬、陽介と千枝のやり取りを見るが日頃から見慣れているのか気にせずに学校へ向かう。
ある意味、二人の日頃の行いが立証された瞬間でもあった。
そんな事をしている内に今度は、騒ぎを聞き付けた完二とりせが周りと同じ様な荷物を身に付けてやって来た。
「朝から馬鹿みたいに騒がしいと思ったら……やっぱり先輩達かよ」
「あ! 総司センパ~イ! 雪子センパ~イ! おはようございます!」
完二は予想通りの事に溜め息を吐き、りせは敢えて陽介と千枝をスルーして総司と雪子の下へと向かう。
そして、そんな風に賑かな空間で総司は不意に空を見た。
理由は兄である洸夜の事でだ。
時間的に考えて今は乗り換えの電車の中だろうか?
総司はそう思いながら荷物を背負い直した。
これから行く場所は一人の弟、一人のペルソナ使いとして重要な所なのは間違いない。
兄である、洸夜がペルソナ使いとしての原点であり、兄である洸夜の身に何かが起こった場所なのだから。
総司は内ポケットに入れていたイザナギが宿る愚者のペルソナカードを握りながら、そう思ったのだった。
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その頃……。
現在、乗り換え駅。
洸夜は現在、稲羽から幾つか離れた駅で降りていた。
ここからは乗り換えをしなければ成らず、少し面倒だが降りなければ成らない。
だが乗り換えれば後は、辰巳ポートアイランドまで乗り換え無しで終点まで寝ていられる。
また費用も既に伏見を通して学校から受け取っている為、困る事も無い。
洸夜は荷物を整えながら乗っている電車を降り、乗り換えの電車に乗ると適当な席を見付けてた。
四人が座れる座席だったが誰もいない為、洸夜は棚に荷物を置き、刀の入った袋を持ちながら窓際の座席に座ると刀に身を任せながら外を眺める。
今は止まっているが、やがて電車は動きだし景色が動きだし洸夜はいつの間にか眠ってしまった。
過去の事を夢に見ながら……。
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現在、洸夜の夢
『チドリ!君は彼等に汚されている!』
洸夜の夢の中で、髪も肌も白く上半身裸に両腕に肩まで入った刺青を入れた男"タカヤ"が銃を帽子を被った少年"伊織 順平"とゴスロリファッションの赤毛の少女"チドリ"へと叫びながら向けていた。
ここはタルタロスにして、洸夜にとって過去のこと。
そこで洸夜達はストレガメンバーのチドリと対峙し勝利した。
順平の言葉にチドリも戦いを止めようとした時だった。
タカヤと眼鏡をかけた関西弁の少年"ジン"が現れて現在に至っていた。
そして、タカヤは歪んだ笑みを浮かべて銃を順平へと向けた。
『順平!』
チドリが叫ぶ。
だが……。
バァーーーン!
辺りに響く火薬の破裂音。
その瞬間、皆の時間が止まった様な感覚に襲われた。
先程の火薬の破裂音がなんなのか分かっているからだ。
『あ……』
ゆっくりと膝をつく順平。
その姿に再び歪んだ笑み浮かべるタカヤ。
『ハハハ……』
タカヤは小さな笑い声を出し、チドリを無視してS.E.E.Sメンバーへと視線を向け一人の少年を指差した。
そして、一人の少年を銃を"持っていた"手で指差すと表情を歪ませて叫んだ。
『また、貴方ですか。瀬多……洸夜っ!!』
タカヤが叫ぶと同時に地面に落ちるタカヤの白い銃。
その落ちた銃には、まるで別の銃を当てた様な傷もある。
そして、タカヤの言葉に灰色の長髪の少年である当時の洸夜は口元に笑みを浮かべた。
『すまないが、後輩の恋路の邪魔しないでやってくれ……』
刀を肩に置きながらタカヤにそう言い放つ洸夜と、タカヤに火縄銃を向けているペルソナ『マゴイチ』の一人と一体。
先程の一瞬、タカヤの銃を撃ち落としたのはマゴイチだった。
『なっ!? タカヤッ!?』
タカヤが武器を落とされた事でタカヤの下へと近付くジンだが、マゴイチの銃口が自分へ向けられるとジンは苦虫を噛む様な表情で足を止めた。
そして、そんな洸夜の動きに『彼』は微笑んでいた。
『流石、洸夜先輩……あっ、靴紐ほどけてますよ?』
『いや、お前も頑張れ……格好はつけたが正直危なかった。……それと関係無いが、ドラマの録画してたか不安だ。影時間で確認できねえし』
『二人とも少し気を抜きすぎです!』
『彼』と洸夜の気の抜けた会話に顔を赤くして抗議する風花。
そんな風花の言葉に苦笑しながらも洸夜はマゴイチにジンを見張らせ、驚きで膝をついてしまった順平とそんな順平の元に駆け寄ったチドリの前に出てタカヤと対峙する。
『瀬多先輩……』
『チドリちゃんと一緒に下がってろって……タカヤの狙いも既に、お前等じゃなくて俺に移ってるしな』
見上げながら言う順平に洸夜はそう言い、チドリに目で合図するとチドリは察してくれたらしく順平に肩を貸して少し下がった。
そして、二人を下がらせた洸夜はタカヤの方を見ると、タカヤは再び銃を持って洸夜を睨み、こう言い放った。
『なんとも思いませんか? 我々はペルソナを一体扱うのに命を削っている……だが、貴方は何体もペルソナを使っている!』
『ペルソナは使うんじゃない。共に戦ってもらうんだ。ペルソナをそんな物の様に言っている奴に、人工だろうが本当のペルソナ使いだろうがペルソナが答える訳がない!』
互いの言葉に一歩退かないタカヤと洸夜は、お互いにそう言いながらタカヤは銃を、洸夜は刀を相手に向ける。
まさに一触即発。
そんな二人の様子に美鶴と明彦も息を呑む。
『明彦。何が起こっても良いように……』
『分かっている。俺はいつでも大丈夫だ……』
そう言って構える二人と、それを見てチドリと順平を守る様に残りのメンバー達は身構えた。
自分達の相手はストレガだけでは無く今、こうしている間にも聞こえてくる唸り声。
シャドウ達も洸夜達の事を嗅ぎ付けて来ていたのだ
そんな緊迫とした中、タカヤは銃を向けながら洸夜へ自分の今の考えを口にした。
『所詮は貴方の戯れ言……それに、貴方がなんと思おうともチドリ……彼女の命も副作用で残り短いのは御存知でしょう? 守ってなんの意味があるのですか!』
『……!』
タカヤの言葉に順平は辛そうな表情をしチドリも表情を暗くする。
だがそんな時だ、こんな状況で『彼』が前へ出て洸夜の隣に立ったのだ。
『……極限までに0に等しい位の可能性だけど、それも解決出来るかも知れない。洸夜先輩の黒の力でありペルソナ……■■■の力なら』
『なっ!?』
『『えっ!?』』
『彼』の言葉に驚きの余り声を漏らすタカヤと順平とチドリ。
他のメンバーもなんの事か分からず、首を傾げたり不思議がるばかりだ。
はっきり言って抑制剤の副作用の治療法は無い。
有ったとしてもペルソナが偽の主を殺す為、現在は抑制剤に頼るしかない。
その事は『彼』も洸夜も知っている筈だ。
『洸夜、どういう事だ?』
美鶴の言葉に洸夜は召喚器の汚れを落とすかの様に手で擦りながら、こう答えた。
『……"白"は得た色によって無限の可能性がある。……"黒"も似た様な物なんだが、黒の場合……可能性そのものなんだよ』
『い、一体……貴方は何を言っている!』
そう言ってタカヤは洸夜の足下に一発銃弾を放つが、洸夜は特に表情を変えず寧ろ笑みを浮かべるばかりだ。
『な~に……別に治療とかって話じゃない。只……彼女に示すのさ。彼女自身の可能性を……』
洸夜は召喚器を右のこめかみに当てながら、チドリの方を振り向いきながらそう言うと再びタカヤの方を見て今度は堂々と笑顔を浮かべながら己の仮面の名を呼んだ。
『頼むぜ……■■■』
引き金をひいた洸夜の前に……巨大な"黒い姿"の仮面が現れた。
だがその瞬間、夢が消えた。
『っ!?』
夢の中の自分がペルソナの名を呼ぼうとした瞬間、テレビの電源が切れた様に夢は中断してしまった。
実を言えばあの時、洸夜は自分がなにをしようとしたのか覚えていない。
なにかをしてチドリを救った事は覚えている。
覚えているのはその後、自分が意識を失い数日間寝たきり状態に成った事そして、チドリのペルソナであるメーディアは未だに彼女の中に存在するが力は本来よりも失うと同時に、副作用の影響もナーディアが彼女を襲う事も無くなったことだった。
しかし、今となっては本当に自分が何をしてそんな奇跡みたいな事をしたのか、洸夜は本当に思い出せなかった。
オシリスに転生する前の……己のペルソナの名前と姿も同時に。
『……なんでだ。なんで思い出せない? 俺は……何故、ペルソナの名が思い出せない? 俺のペルソナ……』
いくら考えても答えは出なかった。
思い出そうとすると頭の中に靄が掛かった様な感覚に陥り、洸夜は夢の中で不快な気分に成ってしまった。
オシリスに成る前のペルソナ。
姿は黒い事しか覚えておらず、名前については論外だ。
まるで、そこだけスッポリと記憶が抜け落ちているかの様に……最初から存在していなかったかの様に……洸夜は嘗ての仮面の名を覚えていなかった。
チドリを救った程の力……黒の力。
洸夜が夢の中でも悩み苦しんだ時だった。
『……僕が先輩を弱くしてしまった』
突然、夢の中に再び『彼』の声が響き渡った。
全体が黒い世界の真ん中にポツンと『彼』は立っていて、申し訳なさそうな表情で洸夜へ向かってそう言った。
そして『彼』の、その姿と言葉に洸夜は何かを思い出した。
『これは確か……』
洸夜は思い出した。
これは嘗て、自分と『彼』との間の絆が生まれ自分とのコミュが完成し転生前のペルソナがオシリスに転生してから数日後の出来事だ。
突然『彼』に呼び出された洸夜が寮の屋上に行った時に『彼』から言われた言葉だった。
だが洸夜は、当時も今もその言葉の意味が分からなかった。
『彼』が言った、もう一つの言葉の意味も……。
『黒は……何かの色に成ってはいけなかったんだ』
その言葉を最後に洸夜の意識は覚醒した。
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現在、電車
洸夜が目を覚ますと、未だに電車は走っており辰巳ポートアイランドへ向かっていた。
電車の微かな揺れに身を任せてながら洸夜は、景色に海が見えるのに気付くと同時に周りの乗客が棚から荷物を下ろし始めたのにも気付いた。
どうやら、そろそろ付く様だ。
そんな時だった。
景色が一変し、窓から海に面した都市が出現したのだ。
この都市が学生都市、辰巳ポートアイランド。
洸夜は懐かしい光景に少し虚しさを覚えた。
「本当に帰って来たんだな……俺は」
そう言いながら洸夜は周りの乗客と同じように棚から荷物を下ろす為、座席から立った時だった。
そんな洸夜を一人の青年が見ていた事に、洸夜は気付かなかった。
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その頃……。
現在、辰巳ポートアイランド
人や建物が多く、店も充実している都会と言える程の街。
そんな街の道路に、都会と言える街にも関わらず浮いた車が走っていた。
冗談だろ言える程長い黒光りしたベンツだ。
周りの通行人も、そんなあからさまなベンツの存在にに思わず足を止めてしまう。
そんなベンツに四人の男女が乗っており、その内の三人は美鶴、明彦、アイギス……そして、最後の一人は二年前と同じ様なゴスロリファッションを身に纏っている女性『チドリ』であった。
そんなメンバーの中、美鶴はこれからの動きをアイギス達に聞いた。
「私と明彦はこのまま学園へ向かうが、アイギスとチドリは……」
「私とチドリさんはこのまま駅へ向かいます。そこで皆さんと待ち合わせの約束ですから」
「……私なんかが行って本当に良いの?」
アイギスの言葉に前の事件の件でチドリは俯くが、そんな彼女に明彦が首を横に振った。
「今更そんな言葉は無しだ。君は既に俺達の友人だからな……それに、君が来ないとうるさいのが一人いる」
「順平さんですね」
「確か前に……バイトをしながら近所の野球チームのコーチをしているとか……」
「つまりはフリーターです」
「……」
美鶴からの順平の情報を一刀両断するアイギスに、場の三人は苦笑いしか出なかった。
また、そんな状況で今度は美鶴がチドリに話し掛けた。
「しかし、チドリ……君こそ本当に大丈夫なのか? 君は自分の記憶が戻り始めたばかりだ。それに、メーディアが君を襲う事は無いかも知れないが、念のためその腕輪は外さない様にした方が良い」
「うん……分かってる。ありがとう美鶴……病院や住む場所とか色々と面倒みて貰っているのに」
「なに、気にする事は無い。元々は桐条が原因なんだ……逆にそれぐらいでしか償いの方法が無い事に情けなく思うぐらいだ」
そう言った美鶴の言葉にチドリは頷き、右手首に着けている腕輪に触れながら色々と思い出す。
メーディアが暴走しないの良い事だが、だからと言ってペルソナ能力が消えた訳でも無かった。
暴走まではしないがやはり時々、力が不安定になる事がある。
自分を襲わないからと言って、周りに被害が出ることをチドリは望まない。
そして、それを改善したのがこの桐条が生み出した腕輪。
抑制剤を使わずにペルソナ能力の力を制限してくれてチドリは少なくとも助かっている。
「あの時、洸夜のペルソナが放った力を浴びて以来……私の身体から副作用が消え、メーディアも襲わなく成った。タカヤとジンは"汚れ"だと言って気味悪がってたけど、少なくとも私は感謝してる。順平に出会って……洸夜達、皆に出会わなかった私はとっくに死んでたと思うから」
チドリはそう言って優しくそして、満足げに微笑んだ。
今の自分がいるのは順平や皆のお陰である事が分かっているからであり、今、自分が生きていると言う実感が嬉しいからだ。
それに、美鶴の言う通り去年から自分自身の記憶が戻り始めたのだ。
チドリと言う名前では無く、自分の本当の名前等を……。
チドリが静かにそう思い、心が暖かくなった時だった。
チドリはある事に気付き、その疑問を口にする。
「そう言えば……今日、洸夜は? 順平やアイギスから、みんなが集まるって聞いてたんだけど?」
「いや、それは……」
チドリの言葉に美鶴と明彦は一瞬、なんて言えば良いか分からず言葉が続かなかったがアイギスが助け舟を出した。
「風花さん達がメールを送ったそうですので、もしかすれば洸夜さんもきっと……」
アイギスの言葉に美鶴と明彦は無言で驚いてアイギスを見た。
自分達は何も知らなかったからだ。
勿論、風花達は自分達と洸夜に起きた事は知らない。
そんな中、風花達からメールが来た洸夜はどう感じたのだろう。
美鶴がそう思っていると、チドリは嬉しそうに微笑んだ。
「良かった……それなら洸夜にお礼が言える。前は洸夜……そのせいで眠ってしまったし、私の回復は私自身の力だって言ってお礼を言わせて貰えなかったから、今度は絶対言うつもり……"ありがとう"って……」
「ありがとう……か」
チドリの言葉を聞いて美鶴はその言葉を繰り返した。
自分達は洸夜にちゃんとありがとうと伝えた事があっただろうか?
あまり覚えていない。
そんな事だからあの時、あんな事をしてしまったのだ。
そんな事を思いながら美鶴は、ベンツの窓から空を眺め自分にこう問い掛けた。
自分は心の底から洸夜に何かしてやれただろうか……。
「……。(答えは……分かる訳がない……!)」
美鶴は湧き出てくる悲しみを隠すかの様に、運転手から声を掛けられるまでそっと目を閉じ続けた。
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その頃……この街に集まる者達がいた。
駅では、茶髪と緑色の髪の女性が二人。
「遅い……! アイギスとチドリは仕方ないとしても、なんで順平達がこんなに遅いのよ!」
待ち合わせなのか、相手が来ない事に怒る茶髪の女性『岳羽 ゆかり』
「は、はは……まだ時間はあるから……落ち着いてゆかりちゃん」
そして、そんなゆかりの姿に苦笑いしてしまう緑色の髪の女性『山岸 風花』
この二人が駅に……。
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そしてその頃、ゆかりと風花のいる駅へ向かっている二人と一匹がいた。
一人は少し傷がついた帽子を被り、少し頼りなそうな青年。
その青年の前方には、小学生と中学生の間のまあまあ幼い少年が。
更にその少年の隣には、赤い目をした白く綺麗な毛並みをした犬がいた。
三人とも全力で走っている。
「順平さん! 風花さんからメール着てます! ゆかりさんが凄く怒ってるって!」
「ワン!」
「えぇっ!? ゆかりっち御乱心か!? って言うか乾もコロマルも足早っ! 待ってくれぇぇ!!」
乾達を追う様に順平は、帽子が飛ばされない様に押さえながら走り続ける。
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偶然か運命か……。
嘗て、
……今言える事は、この街に再び彼等が集結すると言う事実だけだ。
そして……もう一人。
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現在、ベルベットルーム
「おや……? どうされましたかな?」
「エリザベス……?」
イゴールとマーガレットに背を向けながら、二人の言葉にエリザベスは振り向かずに答える。
「……少し出掛けて参ります」
「またなの? 今度は何処へ行くつもり?」
「つーん……でございます」
正す様にエリザベスに言うマーガレットだが、エリザベスは反抗する様に言い返す。
そんな妹の姿にマーガレットは呆れた様に溜め息を吐くが、イゴールは全てを分かっているかの様に笑い出した。
「ヒッヒッヒッ……! あの街に向かうのですか……気をつけて行くのですよ」
「はい。主様……」
イゴールの許可に頭を下げるエリザベス。
その言葉にマーガレットもエリザベスが何処へ行こうとしているのかが分かった。
「もしかしてエリザベス……あなた、あの街に行く気なの? でも、なんで今更……」
「ヒッヒッヒッ……! 何かを感じましたかな……」
二人の言葉にエリザベスは顔を横へ向けて二人の方を向くと、小さく笑みを浮かべた。
「はい……再び回り始めた彼等の運命の歯車を……」
エリザベスはそう言ってベルベットルームから姿を消した。
End
チドリに関する事は出来ればツッコミ無しにして下されば幸いです。
この話だと、こう言う設定なのか……そう思って下さい。