ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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長期休みの後の大学……就職活動……現在の戦いはこれからだ(--;)


集いし仮面

同日

 

現在、ポートアイランド駅

 

巌戸台駅に着いた洸夜は、接続駅である為に存在するローカル線に乗り換え終点であるポートアイランド駅へ着いていた。

ここは月光館への通行手段でもある為、数年前までは洸夜もお世話に成っていた駅だ。

駅へ着いた洸夜は階段を降りて、辺りを見回した。

 

「……。(左側には映画。右には花屋のラフレシ屋。二年でも変わらないんだな……ん?)」

 

変わらない風景に少し拍子抜けしてしまう洸夜だったが、ラフレシ屋よりも更に奥の方へガラの悪い若者が入って行くのに気付く。

そこは、駅前広場のはずれ。

言わずと知れた不良達の溜まり場である。

洸夜達が卒業してから二年経つが、どうやらそこも変わっていない様だ。

 

「……。(行くか……)」

 

洸夜はあまりジロジロ見ずに月光館へと足を進めた。

昔ならば違ったが、今は例え絡まれたとしても昔の様に相手は出来ない。

少なくとも、もう自分は好き勝手出来る子供では無いのだから。

洸夜はそう思いながら月光館へと向かった。

 

===========

 

現在、月光館学園(校門)

 

二年前まで通っていた学園の場所まで迷う訳がなく、洸夜はあれから無駄に寄り道せず短時間で着いた。

そして、嘗ての母校を前に洸夜は校門の前で止まり、ゆっくりと学園を見上げた。

自分達の学ぶ場所であった同時に、戦う場所であったこの学園。

この場所が自分の居場所を作ると同時に狂わせた場所なのだ。

そう思い、洸夜が何処か心が虚しく成るのを感じた時だった。

 

「瀬多センパァァァイ!!」

 

「!……伏見? 」

 

学園の方から声を掛けられた洸夜が視線を向けると手を振りながらこちらに走ってくる伏見の姿が見えた。

久しぶりに見た立派に成った後輩の姿に、洸夜も嬉しい気持ちが出てきた……が。

 

「あっ!?」

 

「なっ!?」

 

洸夜との距離が後少しと言った所で何故か伏見は転びそうに成ったのだ。

勿論、伏見の足下には何も無い。

だが、伏見が地面と接触する事は無かった。

洸夜との距離が近かった事が幸いしたらしく、伏見は洸夜の腕の中にスッポリと収まる様に飛び込んで来た。

 

「随分と……立派?に成ったな」

 

伏見の様子に、少し笑みを浮かべながら洸夜は楽しそう言った

 

「あ……あはは…….うぅ……すいません……」

 

久しぶりの再会にも関わらず、いきなりドジを披露と洸夜の腕の中に入った事で顔を赤くしながら謝る伏見。

だが、洸夜は伏見の成長に気付いていた。

昔ならば自分が声を掛けただけでビクついていた伏見だが、今は自分の腕の中にいても恐がったりしない。

何よりも、こうして生徒会長をしていると言う事はちゃんと学生達から伏見が支持されていると言うのがどんな物よりも信用出来る証拠だ。

洸夜は伏見を放すと彼女の顔を見てこう言った。

 

「見違えたな……伏見」

 

「!……はい! ありがとうございます!そして……お久しぶりです瀬多先輩!」

 

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現在、月光館学園(二階 通路)

 

あの後、洸夜と伏見はOBの待機場所と成っている生徒会室へ向かっていた。

その事で洸夜は広さに疑問を持ったが、伏見の話では自分達が来る前に色々と片付けてかなり広いと話を聞いた。

理由までは分からないが、どうやら今回の事にかなり気合いが入っている様だ。

そんな事を考えながら洸夜が辺りを見回すと、周りの教室で勉強をしている今の高等部の学生達の姿が目に入った。

 

「成る程……修学旅行生に合わせて、月光館の高等部も今日は登校日なのか」

 

「はい。瀬多先輩の弟さん達に格好悪い所は見せられませんから。それに、出来るだけ日常の学園の様子を見て頂きたいので……」

 

伏見には既に今日の修学旅行生の中に自分の弟がいる事は事前に伝えている。

最初それを聞いた伏見は驚き、世間は狭いですね……とまで言った。

本当にその通りだと洸夜も思った。

その事を思い出しながらも、洸夜は今は母校の懐かしさを感じていた。

そんな時、伏見が思い出した様に洸夜へこう行った。

 

「そう言えば……江戸川先生が瀬多先輩が来るのを楽しみにしていましたよ? 来たら連絡欲しいってぐらいに」

 

伏見の言葉に洸夜はギョッとした。

確かに洸夜は江戸川先生の作った薬を飲んだ事は有ったが、それは満月の夜の前日に風邪をひいてしまい背に腹は変えられない状況の時の事。

別に嫌では無いが、洸夜は咄嗟に嫌な予感を察し話を変える事にした。

 

「そ、それよりも伏見!……一体、今日は俺の他に誰が来ているんだ? 結局、全然教えてくれなかったろ?」

 

洸夜の言う通り、伏見は今日に成るまで他に来るメンバーの事を教えてはくれなかった。

そして、会話をしながら二人が生徒室の前に着くと、洸夜の言葉に伏見は楽しそうな笑みを浮かべながら扉に手を掛ける。

 

「瀬多先輩が喜ぶ人達です。……失礼します」

 

既に室内にいるOBに声を掛け、伏見が扉を開けた。

クラスメイトか、それとも自分よりも歳上のOBか。

一体、誰が来ているのかと思いながらも洸夜も伏見の後を追う様に中へ入る。

そして……。

 

「丁度良かった。伏見、この時間帯……だが……」

 

「っ!……洸夜……か?」

 

広くなった生徒会室の真ん中で、テーブルを囲む様に座りながら伏見の後ろにいる洸夜の姿に驚きの表情をする美鶴と明彦の姿がそこにあった。

 

「……」

 

勿論、洸夜も二人の姿に気付かない訳が無く、洸夜は二人の姿に驚きの感情を通り越して無表情に成ってしまった。

生徒会室に重く俄に表現しづらい空気が包み込んだ。

 

=============

 

その頃。

 

現在、辰巳ポートアイランド(駅前広場はずれ)

 

日が入らず薄暗く湿気臭い駅の外れ。

そんな場所にいる者達も御世辞にも柄が良いとは言えず、全員が髪を染め目付きが悪く下品な笑い声をあげる男女の若者ばかりだ。

人数は五人……男三人、女二人。

しかし、今のこんな状態でも洸夜や明彦が見れば昔よりマシだと言うだろう。

洸夜達が卒業した後に変化でもあったのか、昔よりはそんな若者の人数が減っていたのだ。

そんな昔よりはマシに成った駅広場の外れに足を踏み入れる青年が一人。

ボロボロのニット帽を深く被っている為、顔の全ては把握しずらいが恐らくは二十代だと思われる。

しかし、青年は異質だった。

何がとは言いづらいが、まずはその格好だ。

まだ気温が秋に成っていないこの時期にも関わらず、ニット帽同様に少し傷が目立つ赤いコートを身に纏っているのだ。

また、そのコートの端に銅色の鈴らしき物も付いている。

そして、何よりも一番目立つのは青年が肩に掛けている自分の頭二つ分も長い何かが入っている布袋だ。

そんな目立つ姿をしながら足の歩みを止めない青年の姿に、先程の若者達は最初は驚いた表情で青年を見たが、やがて意地の悪い笑みを浮かべて青年へ近付いた。

 

「おいおい。そこのお兄さんちょっと待ってよ」

 

「そんな格好と変な物を持って此処に何の様だぁ?」

 

「ちょっとやめなって……ハハ!」

 

青年を囲む様にして絡み始める若者達に青年も足を止めた。

だが、当の青年はそれ以外は一切リアクションをしなかった。

それ所か、まるで何も無いように二人の若者の間を抉じ開ける様に再び歩き出した。

 

「……」

 

「なっ! おいっ!?」

 

「シカトしてんじゃねえよっ!!」

 

青年の反応に若者達は、まるで自分達を馬鹿にされた様に感じてしまったのだろう。

若者の中の一人の少年が青年に向かって殴りかかったのだ。

そんな様子に慣れているのか、周りの若者達はニヤニヤと笑みを浮かべて少年の行動を止める気配は全く無い。

若者達全員が、殴られる青年の姿を想像していた……勿論、殴りかかった少年もそう思っていた。

だが……。

 

「……!」

 

殴りかかってくる少年に対し青年は、無駄の無い動きで振り返りそのまま少年に頭突きをかました。

殴りかかった時の勢いも助け、強烈と成った頭突きをもろに当たった少年はそのまま地面に倒れた。

 

「ぐわぁぁぁぁっ!!? ふぁな……ふぁなが……イヘェ……イへェよ……!」

 

さっきの勢いは何処へ行ったのか、少年は鼻を抑えながら泣き叫ぶ。

そんな少年の様子に、自分達の思った光景とは違う現状に驚きを隠せなかった。

 

「なっ!」

 

「えっ!?」

 

若者達には初めての経験なのだろう。

人数も多く、明らかに不良と思われる服装や姿にも関わらず相手が一切怯まずに向かって来ると言う事態が……。

先程と打って変わり、地面に平伏す仲間の姿を見て表情に恐怖の色を浮かべる若者達に、今度は青年が口を開いた。

 

「おい……」

 

「!?」

 

思ったよりも迫力のある青年の声に、若者達は全員身体をビクつかせながら青年の方を向いた。

 

「一度なら許す……分かったら俺に構うな。そして、ここに二度と来るんじゃねえ……!」

 

青年はそうい言い放ち、睨みだけで人を殺せるのでは無いかと思う程の眼力で若者達を睨み付けた。

そして、その青年が後に見たのは自分に恐怖し逃げ出す若者達の姿であった。

 

……数分後。

 

青年は誰もいなくなった場所の段差に静かに腰を掛けていた。

元々、この場所に青年が来た理由はあまり大した事では無い。

只、あまり人が近寄らず個人的に他よりも落ち着けるマシな場所を考えた結果がこの場所だったのだ。

 

「……情けねえ」

 

静かに成ったこの空間で青年はそう呟いた。

この言葉は先程の若者達に言っている訳では無い。

青年は自分に言っているのだ。

力で先程の若者達を捩じ伏せた事、元々は先程の若者達もろくな事をしていた連中では無いだろう。

だが、青年の目には泣きながら自分に恐怖の視線を向けて逃げる若者達の姿が焼き付いている。

力だけしか何かを解決出来ない事に青年は呆れていたのだ。

 

「……。(あの時……俺はこうして生きていく事を覚悟した。"アイツ"がくれた命……こうする事にしか俺の償いはねぇと思ったからだ。だが……すぐに揺れるな)」

 

この二年……青年は償いの為に命を燃やした。

自分の命を助け未来に生きる様に言った友の事を考えればそう生きる事を望んだからだ。

他にも理由はあるが……今、青年が思っていたのはその事だった。

 

「……。(電車にいたな……思ったより元気そうだったが、何処かおかしくも見えた)」

 

青年はそう思いながらコートに付けていた傷だらけで形が少し崩れた鈴を取り出した。

電車で偶然に再会した友の姿。

相手は自分に気付かなかったが、それで良い。

それが青年が選んだ事だからだ。

そして、青年はそれと同時に自分がこの街に来た理由を思い出していた。

それは、一人の別の友からの連絡。

 

『お前が望むならば……あの街に来い。お前も十分に頑張っている。もう、皆に言っても良いのでは無いか?』

 

「……。(今更……どんな面で会えば良いんだ……"洸夜"に気付いても何も言えなかった俺は……!)」

 

見た目とは裏腹に今の青年の姿はとても弱々しく寂しそうな姿であった。

 

===========

 

現在、月光館学園(生徒会室)

 

心の何処かでは分かっていた。

伏見が自分以外では誰にこんな相談をするのか……考えればすぐに分かる事だ。

だが彼女の身を考えれば、参加する訳が無いと無意識の内に思い込んでいたのかも知れない。

いや……もっと単純に自分を守る為に、美鶴達が来ると言う可能性を考え無かったのかも知れない。

少なくとも洸夜は自分でそう思った

そして、自分の思っていた状況とは違う三人の様子に伏見は思わず、三人の表情を交互に見渡した。

 

「えっ! あ、あの……もしかして私、何か余計な事を……」

 

伏見の考えでは、洸夜、美鶴、明彦の三人の仲の良さを知っていた為、今回のはある意味でサプライズのつもりでもあった。

しかし、その考えとは裏腹に三人の様子が何処か普通では無い事は伏見も既に分かっている。

その事で伏見が不安そうに成る中、洸夜が彼女の肩に手を置き、伏見は思わずビクッと成りながらも洸夜の顔を見た。

理由は分からないが怒られるかも知れない。

そう思っていた伏見だったが、伏見の目の前にあったのは彼女を安心させるかの様に微笑む洸夜の姿だった。

 

「なんて顔しているんだ伏見。これからスピーチも有るんだろ? そんな顔を他校の修学旅行生には見せられ無いぞ」

 

「えっ……でも、瀬多先輩……私、また何か余計な事をしてしまったんじゃあ……?」

 

洸夜の言葉にまだ不安を覚える伏見。

慰めてくれているだけでは? ここで自分に失敗されても迷惑だからなのでは?

伏見が色々と考える中、洸夜は伏見の目を見ながら首を横へと振って話を続けた。

 

「伏見……自分に自信を持て。お前は生徒会長なんだ。俺は昔のお前を知っているが……あの頃と比べれば大きな成長だ。なにより、俺達の事を思ってした事だったんだろ?……ありがとな伏見。お前等もそう思うだろ美鶴に明彦……」

 

「!……ああ、私も洸夜と同意件だ。伏見……君が今生徒会長と言う地位にいると言う事は、少なくとも学園の皆が君を学園の代表に相応しいと思っての事だ。洸夜の言う通り自信を持て」

 

「あ、ああ……二人の言う通りだ」

 

突然、洸夜が自分達に話を振るとは思っていなかった美鶴と明彦だが、伏見の気持ちは理解出来る為に自分達の伏見に対する考えを口にした。

 

「会長……瀬多先輩……真田先輩も……」

 

そして、また失敗したと思った伏見は三人の言葉にそう言いながら思わず目から涙が出そうに成ってしまった。

最初は苦手だったが、今は尊敬する先輩達。

そんな彼等からの言葉を伏見がなんとも思わない訳が無かった。

 

「あ、あの……私! お茶とお茶菓子を持ってきます!」

 

そう言って伏見は、泣くのを隠すかの様に顔を隠しながら生徒会室を飛び出して行った。

伏見の目の涙を三人から見えていた事は彼等だけの内緒だ。

だが、伏見が出ていくとやはり空気が先程の様に重く成る。

そして、そんな状況を打破するかの様にお見合いの時に、まともに会話が出来なかった明彦が洸夜へ話掛けた。

 

「洸夜……暫くだな」

 

「体調は大丈夫なのか……?」

 

明彦は再会を喜ぶ様に、美鶴は洸夜の体調を心配する様に二人は洸夜に声を掛ける。

そして、そんな二人に洸夜は先程は伏見の方を見ていた為に二人の方を向いていなかった顔を向き直しながら返答した。

 

「……ああ、そうだな明彦。それと体調だが……」

 

そう言いながら洸夜は二人の顔を見て少し腕に力を入れて……。

 

「……お前等には関係ない事だ」

 

洸夜は特に何でも無い表情でそう言い、肩に掛けた荷物を入口の横に置くと一番近かったテーブルを挟んだ美鶴の向かい側の椅子へと座るとテーブルの上に洸夜用であろう資料へ手を伸ばして読み始めた。

その何事も無い様な洸夜の行動に美鶴と明彦は、言い表せない様な気分に成ってしまう。

自分達に本当に興味が無く成ったのかと思わせる洸夜の姿。

だが、そんな洸夜の姿に美鶴はある事に気付いた。

 

「洸夜……お前、腕輪を付けていないのか?」

 

美鶴が気付いたのは、総司に渡した筈の腕輪を洸夜が付けていない事だった。

お見合い会場で暴走したペルソナ能力。

それを抑える為に渡し、真次郎の事も知っている筈の洸夜がそれを付けない事に美鶴は驚きを隠せなかった。

だが、そんな美鶴に対して洸夜はと言うと、特に気にした様子を見せずに頷いた。

 

「あぁ……壊れたんだ」

 

「壊れた……!? あの抑制器が壊れたのか!?」

 

洸夜の言葉に美鶴は思わず資料を落としてしまい、それを拾わないまま洸夜を見詰めた。

美鶴がここまで驚くのには理由があった。

それは、腕輪型の抑制器を開発する時、美鶴を始めとしたS.E.E.Sメンバー全員が実験に協力した事にある。

他のメンバー全員は『彼』や洸夜に及ばずとも、並々ならぬ力の持ち主達だ。

そんなメンバー全員が抑制器を装着して力を使用したが、誰一人として抑制器の抑制に抗える者がいなかったのだ。

抗えないなら壊す事等はもっての他、試作とは言えそれ程までに抑制器のの抑制力と耐久力は強力なのだ。

それを洸夜は壊したと言った。

だが、それと同時に何が原因かは分からないが、それは……洸夜が抑制器を"使用"した事を意味する。

それに明彦も気付いた様だ。

 

「洸夜……! 俺達はお前の異変を見てから何もしていない訳じゃない。色々と調べた……だから教えてくれ。稲羽で何が起こっているんだ? 」

 

壊したでは無く壊れた。

つまりは使用したとも言える。

それだけ洸夜がペルソナ能力を使用する事態に陥っている事を意味している。

それに気付き明彦は洸夜にそう言ったのだ。

 

「……俺は今日は学園の件で来ただけだ。そんな事を話す為に来た訳じゃない」

 

洸夜は、本当に簡単な日程に成っている予定表を見ながら明彦からの言葉を流す様に返答した。

別に洸夜の言っている事は間違いでは無い。

今日はペルソナ使いでは無く、この学園の卒業生として来ているのだから当たり前だ。

だが、明彦も美鶴もそんな事は分かっている上で聞いている。

事態はそんな簡単な状況では無いのだから。

しかし、そんな二人の雰囲気を察したのか洸夜は美鶴達が言葉を発するより先に口を開いた。

 

「……ニュースを見ていないのか? 稲羽の事件の犯人は捕まった……シャドウワーカーだかなんだか分からないモノが介入する必要性は無いぞ」

 

「「っ!?」」

 

言うよりも先に理由を潰されてしまった美鶴と明彦は思わず言葉を詰まらせた。

確かに黒沢刑事が教えてくれてから数日後、容疑者確保のニュースが流れたのは美鶴と明彦も知っている。

解決した事件に理由も無く再調査は出来ない。

シャドウワーカーと言う特殊な立ち位置ならば尚の事。

明彦は洸夜の言葉に少し項垂れると、顔を上げて洸夜に語りかけた。

 

「……洸夜。お前には本当にスマナイ事をしたと思っている。なんであの時、あんな事を言ってしまったのか今でも不思議に思う。……許してくれとは言わないが謝罪はさせてくれ洸夜……!」

 

拳を握り締めながらそう言って洸夜へ明彦は頭を下げた。

何かしたかった。

親友を傷付け、ペルソナまで暴走させている。

そんな罪悪に明彦は何もしない自分が許せず、そんな想いを胸に洸夜に頭を下げた。

だが、そんな明彦の姿に何かを考える様な素振りをする洸夜に今度は美鶴が言葉を紡いだ。

 

「洸夜、前にお前は謝罪はするなと言った。自分の生きた二年が無駄になる……本当にその通りだ。だが……明彦はずっとお前に謝罪をしたがっていた。せめて……その想いは受け取ってやってはーーー」

 

「満足なのか……?」

 

「?」

 

美鶴の言葉を遮った洸夜の言葉に何を言っているのか分からず、洸夜の言葉の続きを美鶴と明彦は待った。

そんな洸夜は片手で資料を掴みながら自分の顔を隠す様に顔の近くに持っていき話を続けた。

 

「それを俺が聞いてやれば満足なのか? 俺が納得するかしないかは関係無く……」

 

「!……ち、違う! 洸夜、俺はそんなつもりで言ったんじゃ無いんだ! それ以外にも、お前をシンジと同じ様にしたくないからこそ!」

 

「……何を今さら。最初に俺を……俺の力を否定したのはお前等だろ! 」

 

「そうだ……私達はお前を傷付けた。その事実は変わらない。これからもずっと……だが、勝手かも知れないが、それでもお前を助けたいんだ私達は! お前の事は分かっている。ペルソナが制御出来なく成っている事を……」

 

美鶴の絞り出す様な言葉に洸夜は歯を食い縛り下を向いた。

確かに、ペルソナ白書の中身はもう殆ど無い。

力もどれ程下がったかも分からない。

もしかすれば桐条の力を使えば助かるかも知れない。

だが、だからと言って洸夜がそれを受け入れる気が有るわけが無かった。

 

「……だからなんだ? それは俺の問題だ。お前等には関係無い事だろ」

 

その洸夜の言葉に明彦は頭に血が上り、立ち上がった。

 

「関係無い訳が無いだろ! シンジの事を忘れたのか! これ以上、俺は友にーーー」

 

「俺を否定したお前がそれを言うのか! いい加減にしろよ明彦……今更、俺を否定したお前等が俺や俺の力に口出し出来るとは思うなよ……!」

 

「っ!.…だが……!」

 

洸夜の言葉に明彦は言葉を詰まらせた。

だが、美鶴が言葉を繋いだ。

 

「洸夜! お前はホテルの屋上の事を覚えていないだろうが、あんな事態に成ったら一般人の被害は計り知れないんだぞ!」

 

「!……くっ!」

 

美鶴の言葉に今度は洸夜が言葉を詰まらせた。

あのとき、ホテルで何かが起きたのは洸夜の耳にも入っていた。

当時の行動と一部の記憶の欠落を考えれば、洸夜が自分を疑ったのは言うまでも無い。

そこまでは洸夜も分かっており、洸夜は重苦しそうに口を開いた。

 

「……その時は、俺が命懸けでなんとかする。絶対だ……!」

 

あくまで美鶴達には頼らない。

別に洸夜が意地に成っている訳でも無い。

本当に、言葉通りの意味だ。

そして、その言葉の意味を察したのか美鶴と明彦の二人は黙ってしまった。

 

「……。(私達には頼っては貰えないのか)」

 

洸夜とのお見合いの後、美鶴は稲羽の事を考えるのと同時に洸夜の事も考えていた。

今思えば何故、当時の自分達は洸夜にあんな事を言ってしまったのか不思議で成らない。

最初は洸夜へ恨みも憎しみの感じは無かった。

勿論、洸夜も傷付いている事も分かっていた……のだが、あの時は気付いた時には洸夜へあんな事を言ってしまった後だった。

それから『彼』と洸夜がいなく成った寮は、文字通り火が消えた様な雰囲気が包み込んでいた。

美鶴もずっと後悔した。

仲直りがしたい……謝罪したい……もう一度だけで良いから側にいたい。

そんな想いを胸に生きてきた。

あの時のお見合いも、もう少し自分が何か一つでもしていれば変わったかも知れないと後悔した。

お見合いが保留と成っていても、洸夜と会う事はもう無いかも知れない。

そう思った矢先に伏見からの頼みによっての再会。

もう、後悔はしたくない。

そう思っても、なんて言えば良いのか言葉が見つからない。

そう思いながらも、何もしないのは嫌だと感じた美鶴は洸夜へ直接的に聞いた。

 

「洸夜……もう、私達は共に笑う事は無いのか……?」

 

「……」

 

美鶴の言葉に洸夜は黙った。

言った美鶴自身も、こんな事を言っても何も意味は無いと思っていた。

洸夜が只一言、そうだ……とも言えばそれで終わる。

言われても仕方ない……美鶴はそう言われるのを覚悟するが、言われるのはやはり怖い。

美鶴は洸夜の言葉が発せられる間、目蓋を強く閉じて心臓の鼓動が早く成るのを感じていた。

だが、洸夜の発した言葉は美鶴の考えていたモノとは違うものだった。

 

「分からない……」

 

「「ッ!?」」

 

洸夜のその言葉に美鶴と明彦は衝撃を覚えた。

分からない……これがどんな意味を示しているのかは全ては理解出来ないが、完全な否定の言葉では無い事に安心してしまう。

そんな二人の様子に気付いているのかは分からないが、洸夜は更に話を続けた。

 

「俺がお前等を……どう思っているのか分からない。憎い気持ちもある。だが……お前等と一緒に歩んだ三年間に嘘はつけない。本当に分からねんだよ……! 今……俺が何を望んでいるのか……!」

 

「洸夜……」

 

「……」

 

洸夜がそう言ってもしまえば二人が言える事は何も無かった。

子供では無いのだ。

自分達と仲直りした方が良いなんて言える訳も無いが、美鶴と明彦はそれでも何かを言わなければ成らないと思うが言葉が思い付かず、考え込んでしまう。

それは洸夜も同じだった。

 

「……。(千枝ちゃんは、ああ言ったが……やはり本人達を前にすると何も分からなくなる。分からない……美鶴達の事も……ペルソナも……俺がしなければ成らない事も……!)」

 

洸夜はそう思いながら片手で自分の顔を隠して、今の自分の弱々しい表情を隠した。

そしてこの時、洸夜の瞳の奥が一瞬だが金色の様に光った事に美鶴と明彦、洸夜本人ですら気付く事は無かった。

 

===========

 

洸夜と美鶴達の再会から数時間後……。

 

同日

 

現在、巌戸台駅

 

巌戸台駅の前で数人の男女と一匹の犬が集まっていた。

そして、その集団の中心に成っているのは、ゆかりと順平の二人だった。

 

「一体、どんだけ遅れたら気が済むのよアンタは!」

 

「いや俺も一言、言わせてけどよ。待って無かったゆかりっち達も悪いんじゃーーー」

 

「先に遅れたアンタが悪いわよ!」

 

「お二人共……この様な人通り多い場所で騒ぐのは止めた方が宜しいかと」

 

怒るゆかりと恐る恐る反論する順平。

そして、そんな二人を仲介するのは白いワンピースを身に纏うアイギスだ。

また、そんな状態に他のメンバーも溜め息を吐きながら見ていた。

元々の原因は、先に待っていたゆかりと風花は順平達を待っていたのだが、時間が過ぎても一向に来ない事に一旦飲み物を買いに行き、その場を離れた。

しかし、その後に順平達は到着したのだが、二人がいない事に順平は怒り、そのタイミングで戻ってきたゆかりと風花と対面。

口喧嘩が勃発した中でアイギスとチドリが合流し現在に至る。

 

「そんな風にばっか生きてたら、その内チドリにも愛想尽かされるわよ!」

 

「ふふふ……甘いなゆかりっち。俺とチドリんの絆はそんなじぁ消えねえ! なあ!」

 

ゆかりの言葉に順平は無駄に今世紀最大の決め顔でチドリの方を向くが、当のチドリは……。

 

「……。(なんだろう……なんか今の順平ちょっと残念。昔は輝いて見えたけど……) はぁ……」

 

「えぇ!? その溜め息の意味は!?」

 

「諦めなさい順平。分かってるでしょ」

 

「順平さんが劣化した事にチドリさんは残念なんですね」

 

「劣化ってなんだ!? チクショー! コロマルゥゥゥ!」

 

「クゥーン……」

 

久し振りの再会にも関わらず、チドリからも溜め息を吐かれ順平はコロマルに泣き付いた。

そんな順平にコロマルも前足を順平の肩に置いて慰めた。

しかし、なんだかんだで順平の性格を知っているからか、コロマルを覗き全員が世間話へ突入した。

 

「アイギスもチドリちゃんも元気そうで良かった」

 

「お久し振りです風花さん」

 

「風花も元気そうで良かった……」

 

「あれ……? 天田くん、背が凄く伸びたんじゃない?」

 

「そうですか? 自分では良く分からないんですけど.……」

 

「……良いんだ良いんだ。コロマルだけだ……」

 

それぞれが会話を始める中、本当に誰も自分を構ってくれない事に順平はイジけてしまい、駅の真ん中で体育座りを始めてしまう。

そんな姿に乾が順平を慰めに入るが……。

 

「順平さん……」

 

「ふ~んだ……」

 

良い歳して本当にイジけてしまった順平。

そんな姿にゆかりは呆れ、風花やアイギスは苦笑い。

そんな中、チドリが順平へ近づいた。

 

「順平……久し振り」

 

「!……チ、チドリ~ん!」

 

チドリからの言葉に嬉しさの余り飛び上がってチドリに抱き着こうとする順平だが……。

 

「やめい!」

「へぶっ!?」

 

チドリと順平との間にゆかりが入ってそれを阻止した為に、順平はチドリの下へ行けずにその場で倒れた。

 

「ゆ、ゆかりっち……ヒドイ……ガク!」

 

「「ハァ……」」

 

その場で倒れる順平。

そんな相も変わらない順平の様子に不思議と安心してしまうが、それを通り越してゆかりとチドリは溜め息を吐いてしまう。

そして、順平とのやり取りを終えたゆかりはアイギスに質問した。

 

「ところで……ねぇアイギス。美鶴さん達の予定ってどうなっているの?」

 

「はい。美鶴さんと明彦さんは学園での用事を終えた後、何が起こっても対応できる様にする為に学生の方々と同じホテルに泊まる筈です」

 

「さ、さすが美鶴さん達……」

 

「相変わらずあの人達、そう言う所もとことんしっかりしてるよな……」

 

アイギスの言葉にゆかりと復活した順平が驚きながらそう答えた。

昔からそうだったが、美鶴と明彦がそう言う所で徹底的な事は皆知っている為、ゆかり達以外も苦笑いしていた。

そんな時だった。

風花と乾の二人が何かを探す様に辺りをキョロキョロしていた事に順平が気付いた。

 

「どうしたんだ二人共?」

 

「あっ……ううん。只、ちょっと……」

 

順平からの言葉に風花は少し表情を暗くした。

そんな彼女の様子に周りのメンバーも彼女の周りに集まりだし、今度は乾が口を開いた。

 

「洸夜さん……来ていないんですね」

 

「!」

 

「天田くん、洸夜さんは……」

 

乾の言葉に順平が言葉を詰まらせると、ゆかりが乾の言葉を繋いだが乾は首を横に強く振った。

 

「分かってます!……洸夜さんが自分を責めて街を去った事は……でも……!」

 

「……今日の皆がこの街に集まる事をメールしたんだけど、返信も無かったから……やっぱり」

 

「……れ、連絡したんだ」

 

風花の言葉に順平は僅かだが冷や汗をかいた。

はっきり言って、風花と乾は洸夜が姿を消した本当の理由を知らない。

本当の意味で知っているのはゆかりと順平……そして、それを見ていたコロマルと、コロマルから聞いたアイギスだけだ。

勿論、ゆかりと順平は知らない。

コロマルとアイギスが自分達と洸夜の間に起きた出来事を知っている事に……。

そして、順平が冷や汗をかく中で乾が更に話を続けた。

 

「僕、一度だけ洸夜さんを責めた事があったんです」

 

「えぇ!?」

 

乾の言葉に順平は驚いて声を上げた。

乾や風花が洸夜にどれだけなついていたか知っているからだ。

そんな乾が洸夜を責めた事があるなんて想像も付かない事だった。

 

「洸夜さんが自分の力でチドリさんの様に荒垣さんを治した時、そんな力が有ったならなんでお母さんを助けてくれなかったんですか!……そう言って泣き叫んだんです。本当なら洸夜さんを責めるのは筋違いだって言う事は分かっていました。でも、洸夜さんそんな僕の事を責めないで……只、抱き締めてくれたんです。そして、頭を撫でながら……ごめんな……ごめんな……ってずっと言って僕が落ち着くまでしてくれた」

 

「天田君……」

 

そんな事が有ったなんて風花もアイギスも分からなかった為、驚いた表情を見せる二人だったが、ゆかりと順平は別の事で驚いている様で何処か表情が苦しそうだった。

 

「結局、僕は荒垣さんが亡くなって……洸夜さんがいなくなって……いなくなった後でしか何かを出来ない! ……僕、もう一度だけ洸夜さんに会いたいんです。あの時のお礼と……あの戦いで洸夜さんだけが背負う事は無いって……言ってあげたいんです」

 

「私も、天田君と同じ……洸夜さんにお礼と一人で背負わなくて言いって言いたい。そして……『あの人』の想いも……」

 

「「……」」

 

二人の言葉にゆかりと順平は言葉がでなかった。

いや、逆に何を言えば良いんだと思っていた。

チドリの事や色んな事を助けて貰った先輩……そんな洸夜に自分達がした事を言える訳が無い。

そう思っていた順平は、下手に何か言わない方が良いと思い笑顔で返答した。

 

「お、俺もそう思ってた! チドリんの事も有るし……色々と……なあ?」

 

「……え? あ、うん……そうよね……」

 

「……?」

 

何処か二人の様子がおかしい事にチドリは気付いた。

だが、その意味が分からず只の気のせいに成ってしまった……その時、コロマルがゆかりと順平に向かって吠えた。

 

「ワン! ワン! ……グルルルル!」

 

「え?コ、コロちゃん……?」

 

「コロマル……?」

 

普段のコロマルからは考えられない様な吠え方をする事に皆が疑問に思うと同時に、吠えられたゆかりと順平は驚いてしまった。

 

「どうしたの?」

 

「腹でも減ったのか……?」

 

コロマルが自分達に吠える理由が分からず、不思議がる二人だった……が。

 

「……"いつまで黙っているんだ"……コロマルさんはそう言っています」

 

「「!?」」

 

コロマルの言葉を翻訳するアイギスの言葉にゆかりと順平は思わず息を呑みながら動きを止め、コロマルとアイギスを交互に見るが、言葉の意味が分からない風花達は不思議がった。

しかし、順平は意味を分かっている為、流れる冷や汗を手首で拭いてアイギスに視線を向けた。

 

「……なあ、アイギス。もしかして……コロマルとお前って……」

 

何処か恐る恐るな口調の順平の言葉にコロマルは一鳴きしアイギスは頷いた。

 

「ワン!」

 

「……はい。コロマルさんから全てを聞いております」

 

「え!」

 

アイギスの返答にゆかりは自分の心拍数が早く成るのが分かった。

ドクンドクンドクン……まるで素早く太鼓を叩く様に段々と早くなる心拍数。

ゆかりは息を呑み、順平も思わず拳を握り締めた。

 

「じゃ、じゃあ……なんで何も言わねんだよ! ……知ってるんだろ? 俺達が……瀬多先輩をーーー」

 

順平がそこまで言った時だった。

 

「あっ! 皆……あれ」

 

何かに気付いたチドリが順平の言葉を遮り、駅の方を指差した先に駅から出てくる学生達の姿があった。

月光館でも無く、この近くでは見た事が無い制服姿。

そんな制服姿の集団に皆、心当たりは一つしか無かった。

 

「あれが修学旅行の人達でしょうか?」

 

「そうみたいですね……取り敢えず、少し移動しましょう。ここに居ては邪魔に成ってしまいます」

 

「そうですね」

 

「……あぁ」

 

アイギスの言葉に皆が頷く中、順平は何処か納得がいかないと言うよりも気まずいと言った感じに頷き、皆が歩き出した時だった。

 

「!……ワン! ハッ! ハッ!」

 

突如、何を思ったのかコロマルが尻尾を振りながら先程、駅に着いた修学旅行生の集団に走って行ってしまったのだ。

そんなコロマルの姿に他のメンバーも驚かない訳が無い。

 

「コ、コロちゃん!?」

 

「コロマル!」

 

風花達がコロマルを呼ぶが、コロマルは止まらずにそのまま走り続ける。

そんなコロマルを順平が追い掛ける為に走り出した。

 

「コロマルは俺が何とかすっから! 先に向こうで待っててくれ!」

 

「あぁ!順平さん!……どうしますか?」

 

「コロマルの事は順平に任せて、私達は先に向こう行ってよう」

 

乾の言葉にチドリはそう言って返答し、皆は駅の少し離れた壁まで移動し始めアイギスも移動しようとした時だった。

ゆかりがアイギスに話し掛けたのだ。

 

「あ……! アイギス……さっきの先輩に事なんだけど……」

 

「……ゆかりさん。この事を知っているのは私とコロマルさんを除けば、ゆかりさん達や美鶴さん達だけです。どうすれば良いのかは、もう私でも分かりません。ですが、ゆかりさん達がどうにかしたいと思う気持ちが有るなら……きっと、やり直せると信じています」

 

それは、前にアイギスが洸夜と美鶴達との関係を修復しようと思い洸夜と話した結果を踏まえての答えであった。

この問題は自分一人で解決できる問題では無くなっているのだ。

今の洸夜は何か問題に囚われている。

ペルソナの暴走、シャドウ化。

その様な事もあってアイギスは、ゆかりにそう言ったのだ。

 

「アイギス……」

 

そして、足を止めて振り返りながら言ったアイギスの言葉に、ゆかりは何か胸に突き刺さる感じを覚えた。

自分達がしてしまった事なのだから、自分達の手で解決 しなければ成らない。

何より、自分達が生み出した過ちで洸夜を傷付けてしまったのだ。

逃げてばかりでは要られない。

先程、風花達の言葉を聞いた時は思わず逃げ出しそうに成った程だ。

あの時、自分が弱いばかりに洸夜に八つ当たりしてしまった。

甘えていたのかも知れない。

洸夜ならば受け止めてくれる。

そんな事を思った結果が今の自分達と洸夜の関係。

 

「……。(本当に何してるんだろ……私。あの時……『彼』の事で瀬多先輩の責任なんて何も無かったのに、自分の事は棚に上げて……)」

 

================

 

現在、巌戸台駅

 

「ふぅ……やっと着いたな」

 

「いや、まだだって……この後、モノレールに乗らないと」

 

現在、総司達"八十神高等学校"の生徒達は無事に辰巳ポートアイランドへと到着しており、これからモノレールの乗って月光館学園へと向かう為、モノレールを待っている。

また、基本的に田舎である稲羽市から出た事が無いからか、総司、陽介、りせ等と言ったメンバー意外は普通の駅ですら物珍しそうに見ていた。

だが、総司は総司で全く別の意味で街を見ていた。

 

「これが……兄さんが居た街。(そして、シャドウの事件が起きたもう一つの街)」

 

総司はこの街に来るまでは、心の何処かで本当に洸夜がこの街でシャドウと戦っていたのか自信はあったが確信は持てなかった。

しかし、今は確信を持って言える。

この街で何かが在ったと……。

電車から降りて街に足を踏み入れた瞬間、初めて来たにも関わらず懐かしさの様な不思議と安心できる何かが身体の隅々まで流れるのを感じたのだ。

まるで、誰かが自分を見守ってくれている様にも感じられる。

総司は兄の戦い抜いた場所であるこの街からの歓迎されている様な雰囲気に、嬉しそうに空を眺めながら目を細めた。

そんな総司の様子に千枝が気付く。

 

「……瀬多くん。この街がさ……洸夜さんのペルソナ使いとしての出発点だったのかな?」

 

「多分……いや、絶対そうだと思う。なんか、不思議な感じがするんだこの街から……どんな感じかって説明は出来ないけど、なんか誰かに見守って貰っている様に安心出来る」

 

総司は自分が感じた事を千枝に返答する形で答えた。

普通ならば意味が分からないだろう。

言った総司自身もそう思っていたのだが、皆の反応は総司の予想とは全く違った。

 

「あ……! それ、私も感じてた」

 

「二人も?……実は私も」

 

「俺もだぜ!」

 

「私も……ストーカーとかそんな嫌な感じじゃない何か最も大きく安心出来る感じ……」

 

「……俺もッス。不思議ッスね……ペルソナ使い全員が何かを感じるなんて」

 

千枝の言葉を皮切りに次々と皆が総司と同じ感覚を覚えた事を口にし、総司はそんな皆の様子に最早なにか疑う余地は無かった。

 

「此処が、もう一つのシャドウ事件の場所……」

 

総司の呟きに陽介も総司の様に空を眺めた。

 

「俺……まさか修学旅行でこんなに不思議な位に清々しい気分に成るなんて思わなかったぜ……」

 

「私も……なんか、この街から懐かしさに近いモノも感じる」

 

「洸夜さんや他のペルソナ使いの人達が戦い抜いた街……」

 

「やべ……なんか緊張して来やがった……!」

 

「ふふ……皆、同じ気持ちなんだね」

 

陽介、千枝、雪子、完二、りせの順でそれぞれがそう言った。

総司も皆の様子にゆっくりと頷いて返した……その時。

 

「ワン!ワン!」

 

「へ………? うわっ!?」

 

「な……犬?」

 

総司達が話をし会話が落ち着いた瞬間、一匹の犬が総司達のクラスメイトの集団の隙間を猛スピードで抜けて来たのだ。

綺麗な白い毛皮に宝石の様に綺麗な赤い眼をした犬の突然の登場に、周りのクラスメイトがパニックに成り、総司達も状況を掴めない中、その犬と総司の眼が合った瞬間、一直線にそのまま総司へ飛び掛かって押し倒した。

 

「ぬおっ!?」

 

「相棒!」

 

「瀬多くん!」

 

「なっ! 瀬多が犬に押し倒されてるぞ!」

 

「まさか……瀬多の灰色の髪に同族的な何かを感じたのか……!」

 

「こ、これが都会か……!」

 

犬に押し倒された総司の様子に心配する陽介達とクラスメイト達だが、当の被害者である総司は未だに現状が理解出来ないでいた。

しかし、そんな時……総司は犬の様子に気付いた

 

「ハッ! ハッ!……クゥン……!」

 

「あれ……?」

 

「……な、なんかその子。瀬多君を襲っているって言うよりは……なついてる?」

 

雪子の言葉に総司も他のメンバーも同意せざる得なかった。

嬉しそうに尻尾を振りながら舌を出してジッと総司を見ている姿は、明らかに好意を持っている姿であった。

そんな犬の姿に総司も無意識にジッと眺めていた時だ。

さっきは驚いて気が付かなかったが総司は、犬の姿に見覚えがあった。

特徴ある赤い眼の犬。

自分は何処かで見た事が無かっただろうか?

総司がそんな疑問を持った時、隣にいた雪子が犬の首輪に付いているあるモノに気付いた。

 

「あれ、その子の首輪に付いてる"鈴"……洸夜さんから貰ったのに似てる……」

 

そう言って雪子は財布に付けている洸夜から貰った鈴を取りだし、犬の首輪に付いてる雪子の鈴より少し濃い色の眼と同じ"赤い鈴"を見比べた。

鈴は少し傷が付いているが、洸夜の鈴特有の模様が入っている。

実はこの鈴は嘗て、洸夜がある町の駄菓子屋の店主が趣味で作っていた鈴。

だが、そも独特の模様の為に大量に売れ残っていた所を洸夜が大量に安く纏めて買った物だった。

たまにストックを買う為に洸夜がその駄菓子屋を訪れるが、やはり売れ残っている事から持っている者は限られる。

その結果、総司達からすればその鈴の所持者は洸夜の関係者にしか思えないのだ。

 

「あれ、確かこいつ……」

 

雪子が自分のと犬の鈴を見比べていると、陽介が何かを思い出した様に懐から一枚の写真を取り出した。

そんな陽介の行動に完二が気付く。

 

「花村先輩。なんスかその写真」

 

「ああ、これは洸夜さんと仲間の人達が写ってるんだ。前に洸夜さんに冗談で一枚下さいって言ったら余ってるのを貰ったんだよ」

 

なんでその写真を修学旅行に持ってきているのかは誰も聞かなかったが、陽介はそう言ってその写真と見比べた。

そして、気付いた。

 

「っ! アアァァァァァッ!? この犬ってーーー」

 

そこまで陽介が叫んだ時だった。

一人の青年が陽介の言葉を何かを叫びながら遮って、此方に走って来たのだ。

 

「コロマルゥゥゥゥッ!!? こら、何してんだ! ハァ……ハァ……お、お前……大丈夫か……?」

 

走って来たからか青年は、息を切らしながら犬の名前であるコロマルの名を呼び、総司に心配の言葉を掛けながらコロマルを抱き上げると総司に片手で手を差し伸べた。

傷が入った帽子から髪の毛が飛び出ている何処か頼り成さそうな青年だが、飼い主かどうかは分からないとは言え自分を助けてくれた事は事実。

総司は下を向いていた顔を上げた。

 

「大丈夫です。ありがとうございます」

 

そう言って総司が青年の手を握り返し、青年の顔を見た時だった。

 

「なっ!?……せ、瀬多先輩……?」

 

「え……?」

 

総司の顔を見た瞬間、青年の表情が変わったのだ。

何処か頼りなさそうな表情が、青くなり何処か恐怖の色が浮かんでいた。

一体、どうしたのだろうか?

総司も疑問に思ったがすぐさまに別の疑問が生まれた。

この青年は先程、自分の事を何と言った?

瀬多先輩……。

明らかに相手が年上である為、相手は明らかに誰かと自分を間違えている。

瀬多先輩と呼び……自分と間違えている人物、そんな人物は総司の中で一人しかいなかった。

総司はそう考え、青年に聞き返そうとした……が。

 

「!……あ、あぁ……ごめん。人違いだわ。本当にごめんなっ!」

 

「あっ!」

 

青年は正気に成ったのか、そう言いながら総司を急いで起こすとそのままコロマルを抱えたまま走り去ってしまった。

青年の素早い行動に、総司も声を掛ける事は叶わなかった。

そんな青年の姿に完二が気に食わなそうに口を開いた。

 

「なんだったんスかね。つうか、飼い主ならちゃんと躾とけよな……謝罪もしっかりしてけってんだ。(でも、あの犬……フワフワしてそうだったな)」

 

「って言うか……さっきの人にも見覚えがあった様な……?」

 

「あっ……私もそう思った」

 

「今の人。もしかして……」

 

千枝の言葉にりせも同意し、総司がある可能性を考えた時だった。

 

「ちょっとぉ~あなた達、何をしてるのぉ? モノレールが来るわよぉ!」

 

「え? あぁ! もう、皆がいないじゃん!」

 

「皆、早く行こう」

 

先生である柏木の言葉に千枝が周りを見回すと、既に自分達とクラスの数名を残して皆は駅へと向かっていた。

そんな光景に自分達が遅れる訳にはいかないと、総司は駅へと向かう。

だが……一人、花村陽介だけが動かずにその場で佇んでいた。

一枚の写真を手に持って、只々その場を動かない陽介に総司が声を掛けた。

 

「陽介! 早く!」

 

「!……あ、あぁ! 今行くって!」

 

総司の言葉に陽介は写真を制服の内ポケットにしまうと、総司達の後を追い掛ける様に駅へと入った。

 

「……。(さっきの犬と……男……間違いねえ。洸夜さんの……仲間だ……!)」

 

写真によって分かった先程の二人の正体を心に呟きながら……。

 

End


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