ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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久々の投稿です。
大学の一部の講義が非常に手間取ってしまい、投稿も遅れてしまいました。
誤字も目立つと思いますが、すいません(-_-;)


再会は鳴き声へと共に

同日

 

現在、月光館学園

 

月光館学園の二階の廊下。

そこでは、伏見を先頭に美鶴、明彦、洸夜の順に歩いていた。

だが、先頭を歩いている伏見の表情は何処か暗かった。

 

「すいません。来て頂いたのにこんな事には成ってしまって……」

 

「気にするな伏見。洸夜が言った通り元々、無理に予定したモノなのだからこうなっても不思議じゃないさ」

 

「ですが……」

 

気を使ってくれた美鶴の言葉だが、伏見はそれでも申し訳なさそうな表情を止めなかった。

何故、彼女がこんな顔をしているかと言うとそれは、伏見がお茶とお茶菓子を取りに行った時に校長に言われた言葉に原因があった。

 

『予定の時間調整を間違えてね……すまないけど多分、桐条君しかスピーチ出来ないから上手く伝えておいて欲しい』

 

伏見は絶望した。

態々、来てもらい交通費まで出したのにこれでは来てもらった洸夜と明彦に申し訳無い。

元々、無理矢理捩じ込んだ企画だから仕方ないと言えるが、責任感の強い彼女からすればこの問題の全てが自分の責任に感じてしまうの言うまでも無い。

しかし、そんな事は予想の範囲内だったのか美鶴、明彦、洸夜の三人は伏見の言葉にすぐに納得すると同時に彼女を責めなかった。

 

『無理矢理捩じ込んだ企画なんだ。問題が発生しない方がおかしい』

 

洸夜のその言葉に少し胸が軽く成るのを伏見は感じたが、だからと言ってすぐに立ち直る事も出来ず現在に至っていた。

 

「……」

 

そんな彼女に対して明彦も何か言おうとしたが、そんなに親しいと言う訳でも無い為に何を言っても慰め程度にしか思われる無いだろうと思ったらしく伏見と親しい洸夜にフォローして貰おうと、洸夜の方を向いた。

 

「……。(さっきもフォローしたのに今度は何を言えば良いんだ……)」

 

明彦の視線の意図を察した洸夜だが、既に伏見をフォローしている為に少し考えた。

流石に時間の経っていない二度目のフォローは、逆に相手からすれば完全に只の慰めにしか思えなくなるだろう。

その為、そんなすぐにはフォローなど入れられる訳がなかった。

しかし、ここで何か言わなければ伏見はテンションが最低値の状態で修学旅行生の前でスピーチする事に成ってしまう。

洸夜は悩んだ結果、自虐的なフォローを入れる事を決めた。

 

「伏見……俺はその方が良いと思うぞ。こんなフリーターが何か言うよりは、美鶴が何か言った方が遥かに良いに決まってる」

 

洸夜がそう言うと明彦も続く様に口を開いた。

 

「ああ、俺も大学に入学はしたが殆ど行かずに世界を回って武者修行に行ってるしな。はっきり言って来てみたは良かったが……何を言えば良いか思い付かなかったからな」

 

「……。(……明彦。この二年でまた常識が欠落でもしたのか? 良く見ると服装もおかしい……)」

 

明彦の言葉に洸夜は少し呆れながらも、明彦の服装に疑問を覚えた。

先程は再会で意識が服装に向かず気付かなかったが、良く見ると明彦の服は所々破れており、ギリギリ布切れを回避していると言った感じの服装であった。

洸夜は"猛獣に破られた"訳でも有るまいにと思いながらも、ズボンの生地の傷が斜めに入った綺麗な三本線の傷を見た瞬間、一瞬だが自分の考えが正しかったのでは無いかと思い明彦の今の生き方に疑問を持った。

だが、服装が変なのは明彦だけでは無かった。

洸夜は次に美鶴の服装に目を向けると、美鶴の服装も明彦に負けじ劣らずの格好をしていた。

首に掛け両肩から垂れ下がる白くモフモフとした何かの毛皮の様な物は少し嫌味に感じてしまうが、そこは流石は美鶴と言うべきか彼女が持つ特有の気品がそんな負の感情を無くさせる。

しかし、サブは良いとしても問題はメインにあった。

色は黒寄りで色自体は目立ちはしないが、そのメインの服装は美鶴のスタイルが良く分かるボディースーツの様な物だった。

恐らく、洸夜の人生の中でもこんな服を拝めるのはこれが最初で最後だろう。

もし、逆に美鶴以外でもこの服を着ている者に遭遇したのならば、この国のファッションセンスは崩壊したと洸夜は断言する自信がある程だ。

洸夜はそんな事を思っていたが、気付いてから見れば見る程に美鶴のスタイルがモロとまでは言わないが、それなり分かる服装だ。

 

「……。(少なくともピュアな小学生レベルには見せられないな……変な性癖に目覚め将来、犯罪に走っても誰も責任は取れないぞ)」

 

そう思いながらこれから美鶴がスピーチする事に不安を覚えたが、過去に洸夜達男組が美鶴に押し押しまくって美鶴にビキニアーマーを着せた事があった事は洸夜はすっかり忘れている。

そして、洸夜と明彦の言葉に伏見は漸く顔を上げた。

 

「……うぅ。先輩達が自虐しながらも私を励ましてくれているのに……私ったら落ち込んでばかり。先輩……ありがとうございます! 私、やりきって見せます!」

 

「あ、あぁ……そうか、頑張れ。(自虐……)」

 

自分の気合いを入れ直して表情を生徒会長その人のモノにする伏見だったが、伏見の言葉に洸夜は軽くショックを受けた。

自分で言うのは良いが、人から言われると何故か複雑や嫌な気分に成ってしまうからだ。

また、そんな洸夜達の会話に美鶴は別の視点で聞いていた。

 

「洸夜……。(まさか、私達との事が原因で就職も儘ならないのか……私が何かしてやれたら良いのだが、私の力等は借りたくは無いだろう。だが……)」

 

美鶴はそう思いながら洸夜に気付かれない様に複雑な表情で見た。

前に洸夜が精神科等に行った等と聞いた為に、罪悪感を更に強く感じてしまったのだ。

別に洸夜が就職しないのは只少し、自由に生きたいと言う理由なのだが稲羽に来る前まではバイトはしていたが、精神が病んでいたのは間違い無いので実は強ち間違いでは無かったりする。

そんな感じでそれぞれが色々と考えを持っていた中、洸夜は不意に自分がここに来てそれなりに時間が経っていた事に気付いて心の中で言った。

 

「……。(そろそろ、総司達が此処に来る頃だな。別から見れば良い街だ……気に入ってもらえると良いが)」

 

洸夜からすると嫌な思い出を考えれば、この街は既に居づらい場所として自身が認定してしまっているが、それでも他者からすれば良い街なのは変わらない。

複雑なモノだ。

内心では嫌な場所だが、全面的に他者から否定されたくないと言う気持ちもある。

こんな想いをしていても、こんな風に考えてしまう……人間とは単純な様で複雑な生き物。

洸夜はそんな風に考えながら伏見達と共に修学旅行生達を迎える為に校門へ行くのであった。

 

===============

 

現在、月光館学園(校門)

 

洸夜達がそんな会話をしてから凡そ一時間後、総司達、修学旅行生達も月光館学園の校門へと到着していた。

月光館学園独特の模様が入ったゲートが、中心から割れる様に横へ移動し先生方が先導しながら総司達も校内へと入った。

周りに植えられた木々や土では無く玄関まで続くパネルの地面、海に面しているにも関わらず不快な潮風では無く新鮮さと清々しさを感じさせる風と、それによって回る白い人工風車。

学園も青く輝くミラー等が日に当り輝き、爽やかさを醸し出す。

そんな出来てから歴史は浅いが、雰囲気を初めとしたモノ全てが自分達の学校とは天と地とも言ってしまいそうになる程な月光館学園の姿に、稲羽を出たことが無い千枝、雪子、完二や他の生徒は驚きや嬉しさからテンションが上がる者、目を大きく上げて周りを見る者、ただ静かにその場の新鮮な雰囲気を味わう者それぞれの反応をする。

それは、都会暮らしであった総司、陽介、りせ、直斗にも言える事であった。

 

「うぉぉぉぉ! すげぇぇ!」

 

「広さも八十神よりも広いですね……」

 

「この学園って小学生から高校までエスカレーター式だし設備を良くて有名なんですよ……なによりも、洸夜さんが通っていた学園なんですよね瀬多先輩」

 

「あぁ……兄さんから色々と聞いていたけど、こんなにも凄いなんて。(兄さんも、最初はこんな想いだったのかな……)」

 

自分と洸夜の思考は似ている部分が多い事を分かっている為、総司はそうだと良いなと思いながらゆっくりと、りせ達と歩きながら学園の周りを見て驚いていた。

千枝も又、周りに植えられている木々を指差して言った。

 

「見てみて雪子! あの木なんか蹴りの練習にピッタリの太さなんだけど!」

 

「ち、千枝……一人だけ喜ぶポイントが違うよ……」

 

「つうか、恥ずかしいんで……そう言う事は小さい声で言って下さいよ」

 

千枝の言葉に呆れる雪子と完二だが、総司は一人で何処か最低限ではあるが不自然に辺りを見渡す直斗が気になり声を掛ける。

 

「直斗。何かあるのか……?」

 

「いえ……只、ちょっと気になる事があったもので……」

 

「気になる事……? どんな事だ?」

 

直斗の言葉に総司は気になって聞き返す。

兄の母校であり、自分達が今から学び楽しむ場所でそんな事を言われたら不安に成るからだ。

直斗も悪気があって言った訳では無いのは総司も分かっているが、直斗自身は思った事をそのまま言ってしまう性格及び、そんなに重要な事では無いのか直斗は総司に普通に返答した。

 

「この学園に限った事では無いのですが……何年か前、この学園の生徒達が一斉に鬱病に掛かったり、駅前広場の外れで謎の不審死体が見付かった等、この街には色々とおかしな出来事や事件が起きていたんです」

 

「……本当なのかその話」

 

総司の言葉に直斗は静かに頷いた。

 

「えぇ……僕達、探偵の業界や警察では有名な話です。なによりも、この人工島の建設自体に桐条が関わって要る時点で……」

 

直斗がそこまで言うと、直斗は一旦口を閉じて考え込むと数秒後に言った。

 

「止めましょう……折角の修学旅行なんですから。今回は桐条が関わっていませんからね」

 

直斗は総司へそう言って、自分のクラスへ戻ろうとして前を向いた時だった。

先程とはうって代わり目を大きく開いて驚いた表情をする直斗。

だが、すぐに表情に冷静に戻すと再び足を止めて言った。

 

「……そうでも無かった様です」

 

「え……?」

 

直斗の言葉に総司が、その視線の先を見ると月光館の校長と女子生徒と挨拶をかわす八十神の先生達、そんな光景を横で見ていた三人の男女が目に入った。

三人の男女の見た目や服装等から察するに、修学旅行のしおりに書かれていた月光館のOB達と予想出来る。

三人とも容姿や雰囲気を良く、いつの間にか総司のクラスメイト達もそんな三人の男女の姿に騒ぎ始めた。

 

「おい……! なんだ、あの女性……反則級の美人だろ!?」

 

「あぁ……! モデルか何かか!」

 

「ねぇ? あの人達、凄く格好良くない!?」

 

「うんうん! なんかクールっぽくて頼りに成りそうで……!」

 

ざわざわと私語を続けるクラスメイト達。

だが、その三人は総司にとっては見覚えのある三人であり、総司は三人の姿を見ながら呟く様に言った。

 

「兄さん!……と、美鶴さんと明彦さん……?」

 

三人の内の一人は日頃から一緒に生活している為、見間違う筈のない兄である洸夜だ。

そして、残りの二人も総司にとって印象に残っている人物達、桐条美鶴と真田明彦であった。

両名共に今回は服装が個性的過ぎて凄い意味で目立っていたからか、総司もすぐに思い出したのだ。

また、洸夜に会ったのが初めてでは無い者は総司だけでは無い。

一部のクラスメイト達や勿論、陽介達も含まれると同時に全員が洸夜に気付きりせが手を振りながら洸夜の名を呼んだ。

 

「洸夜さぁーーん!」

 

「!……あそこに居たのか。ハハ……あんなにも、はしゃいで」

 

りせの呼び声に洸夜も気付き、りせ達の反応に嬉しそうに微笑むと軽く手を振り替えした。

そんな洸夜の姿に千枝達も各々の反応を示した。

 

「洸夜さん、本当に来てたんだね……ん? あの洸夜さんの隣にいる二人……何処かで?」

 

「あ……千枝もそう思った? 私も……最近、何処かで見掛けた気がするの」

 

「オレもッスよ。でも……あんな二人、見掛けたら忘れられねえけどよ。(特に、洸夜さんの隣にいる短髪の野郎……眼だけで分かるぜ。アイツは強いってな)」

 

「私も何処かで……って花村先輩?」

 

皆が見覚えを覚え完二が明彦の強さをヒシヒシと、その身に感じる中、りせが陽介の異変に気付いた。

はっきり言って洸夜の側にいる美鶴はアイドルである、りせから見てもかなりの美人だと思える程だ。

他の男子達もざわざわと騒いでいるにも関わらず、こう言う事に真っ先に反応しそうな陽介が反応しない事にりせが気付き、千枝も心配し陽介へ声を掛けた。

 

「花村? どうかしたの……? あっ! もしかしたら、あの紅い髪の女の人を見て変な事とか考えてるんでしょ? 全く……あんたは修学旅行でも変わんないよね」

 

「それは里中先輩も同じだと思うッスけど……。(花村先輩。また怒るんじゃねえか……?)」

 

千枝の言葉に完二が呆れた様に呟く中、完二は陽介がツッコミ的な反論をしてくると思い陽介の方を向く。

勿論、雪子とりせ、言った本人である千枝すらもそう成ると思っていたが結果は全く違い、千枝の言葉に陽介は何かを考え込む様に右手に洸夜からの写真を見る様に下を向いていたのだ。

 

「……」

 

「え……? ちょっ……花村?」

 

反応を返して来ない陽介に千枝が心配し肩を叩く様に声を掛けると、陽介は呟く様に言った。

 

「これ見ろよ……」

 

陽介は先程も見ていた写真を千枝達にも見える様に片手に持って上げた。

そんな陽介の反応に千枝達も気になるのか写真を覗き込むと全員が驚いた。

 

「っ!? これって!」

 

「洸夜さんの仲間の人達……!?」

 

千枝と雪子はそう言いながら美鶴と明彦の二人と写真を何度も見比べた。

写真に写る者と現在、自分達の目の前にいる者は明らかに同一だったのだ。

そして、そんな写真に今度は完二が気付いた。

 

「あぁ? この帽子男と犬って……さっきの奴等じゃねえか!?」

 

「え? 本当だ……! ハハ……世間って狭いね 」

 

「ほ、本当だね……って、と言う事はあの人達もペルソナ使い……!」

 

「そう言う事ッスよね……なんか、新鮮って言うか複雑っつうか……」

 

偶然に偶然が重なり軽く笑う、りせと雪子だったが皆、直に見る自分達とは違うペルソナ使いの存在に言い表せない気持ちに成る中、洸夜の事情を理解している陽介と千枝は笑う事等出来る訳が無く互いに周りに聞こえない様に囁いた。

 

「なぁ……洸夜さん、なんか表面でしか笑って無くないか?」

 

「うん……私も思ってたけど、もしかして洸夜さんに色々と言ったのってあの人達なのかな?」

 

千枝の言葉に陽介は総司と美鶴達、それぞれの方をチラチラ見ながら言った。

 

「相棒は知らないから気付いてないっぽいけど……少なくとも、まだ良く分かんねえ。洸夜さん、言われた事は教えてくれたけど、誰が言ったのかまでは言ってねえから」

 

「うっ……確かに、一人じゃないぐらいしか分かって無いんだった」

 

陽介の言葉に千枝は事実上の手詰まり状態だと悟った。

別に分かった所で何が出来る訳でも無く、下手して乱入したら更に状況を悪化させる事に成るかも知れない。

そこまで理解しているからか陽介と千枝は、そこまでで考えるのを止めたが話の渦の中心にいる美鶴と明彦は総司の存在に気付くと、あからさまでは無いが驚いた表情で総司を見た。

 

「稲羽の学校とは聞いていたが……まさか、彼もこの学校の生徒だったとは」

 

美鶴の言葉に明彦も頷き言った。

 

「あぁ……世間は本当に狭いんだな」

 

「……。(本当にな……)」

 

美鶴達との会話を聞いていた洸夜もそれには納得出来た。

自分の現在の状況が今まさにそれだからだ。

洸夜がそんな事を思っている中、明彦が誰にも気付かれない様に咄嗟に美鶴に小さく囁いた。

 

「美鶴、瀬多 総司……彼から何か感じ取れないのか?」

 

美鶴も多少だがサポート系の探知能力を持っている事から、明彦は総司がペルソナ能力を本当に持っているのか知る為に美鶴へとそう言ったのだ。

その事を美鶴も分かっているらしく、然り気無く総司の方を一瞬だけ見るのだが残念そうに首を横へと振った。

 

「駄目だ……何かの力自体は感じるがどうにも、あやふやにしか感じ取れない。風花が居てくれれば何とか成ったかも知れないが……」

 

S.E.E.Sメンバーの中で純粋な探知能力を持つ特別なペルソナを持つ風花。

彼女ならばワイトのジャミング等の特殊な状況下では無い限り、この集まっている者達の中で何人がペルソナ能力を所持しているか分かるだろう。

美鶴も明彦も、風花のこの場の不在に悔やんだ時だった。

八十神の生徒達の整列が終わったのか、伏見が美鶴達の下へと走って来ると、そのまま美鶴に言った。

 

「それじゃあ桐条先輩! 早速ですがスピーチの方を……!」

 

「なに……!?」

 

美鶴は驚いた。

普通、本来ならば校長等が先に何か言うべきなのが当たり前だと思うのだが、何故に卒業生の美鶴が先陣を着るのか明彦は愚か洸夜すらもそう思っていた。

そして、そんな事態に美鶴は元凶で有ると思われる校長の方を見ると、校長は既にマイクを持って美鶴の紹介を言っていた。

 

「……と言う事で皆さん。今から本学園の卒業生であり、桐条グループのトップの桐条 美鶴さんのお話を聞こうと思います。では、宜しく」

 

「……」

 

単純かつ簡単な台詞を言って美鶴へバトンを素早く渡す校長の行動に美鶴を始め、洸夜と明彦、伏見ですら言葉が出なかった。

しかし、本来ならば話は長いが、校長がそんな性格では無い事を知っている洸夜達は校長が、事前に周りから何か言われていたのか、どうも美鶴を持ち上げようとする節を感じる校長の行動に洸夜は静かに溜め息を吐いた。

 

「……。(どうせ、色々と腰の低い教育機関のお偉いさんが言ったんだろうな。桐条のトップがわざわざ居るんだ。美鶴に活躍させて持ち上げるつもりだったんだろうけど……残念賞を引いたな)」

 

美鶴がそういう事を嫌っている事を知っている洸夜は、そんな事を思いながらこの場に居ない顔も知らない人物へ対して鼻で笑った。

桐条と言う存在にそれぐらい恩を売るつもりだったのかと、可笑しかったからだ。

だが、同時に洸夜は自分が美鶴の事を理解している見たいに思え、勝手に気まずく成ってしまい溜め息を吐きながら空を眺めて気を紛らわしたが、無心に成ろうとして別の事を考えられる余裕が出来たのが仇に成り、洸夜はS.E.E.Sメンバーの事を考えてしまった。

不思議な物だ、人は親友と言う関係まで築いたとしても絆が崩れる時は呆気ないものだ。

少なくとも洸夜は皆と絆を築いたとは思っていたが、今と成っては『彼』とのコミュ以外は胸を張って築けたとは言い難く成っている。

只単に、自分が美鶴達との一件で彼女達の事に対して負の感情を抱いているからそう思っていると言う見方も出来る。

だが、だからと言って風花達にも会いたいとも思えない。

彼女達が美鶴達と同じ様な事をしないと言う保証が無いからだ。

 

「……。(いつからだ……? いつから俺は……こんなに)」

 

弱くなったんだーーー

 

「っ! (グッ! 胸が……!)」

 

洸夜はいつか何処かで聞いた様な声と共に、胸に針を刺した様な鋭い痛みを感じた。

身体全体が氷の様に冷たくなる様な感覚を覚えると同時に、何度も体験した眼の奥の痛み。

忘れる訳が無かった。

洸夜がこの痛み……忘れられる訳が無かった。

 

「ハァ……! ハァ……! (落ち着いたと思った矢先に暴走の予兆か……!)」

 

弱い……仮面を……自分を……仮面使いの自分を捨てーーー

 

「洸夜……?」

 

「はっ!」

 

明彦の問い掛けに洸夜は我へと還った。

我へと還った瞬間、胸の痛みや眼の奥の痛みが消えていた。

洸夜は無意識に額を手で拭ったが額には一切、汗などは無く少なくとも汗をかいていたと思っていた洸夜は不思議な感覚に陥り掛けた。

まるで眼の錯覚の様に手応えが無いが、確実に自分に影響を与えている……その様な感覚に。

 

「本当に大丈夫か洸夜?……お前、もしかしてまた暴走をーーー」

 

「違う!……頼むから、俺の事はほっといてくれ……」

 

顔色を悪くしながら言った洸夜に明彦は、また何か余計な事だったのでは無いかと思い、申し訳無さそうな表情で言った。

 

「……あぁ、すまない。だが、美鶴がもうスピーチをする。俺達はスピーチをしないとは言え、しっかりとした姿勢で見ていないと修学旅行生達に悪いだろ?」

 

「……そうだな。(落ち着いたか……)」

 

洸夜達がいるのは生徒達の前であり伏見達の隣である為、何か変な事をすれば目立ってしまう。

先程は美鶴達が注意を引いていた為、洸夜の異変には気付かなかったが次はそうも行かないだろう。

いくら騒がしくしても流石に限界がある。

八十神の生徒達も既に落ち着いているだろう。

そう思いながら洸夜は、静かに呼吸をし精神を落ち着かせて姿勢を正してスピーチをする為に真ん中へと移動した美鶴の方を見た……が。

 

「ヤ、ヤベェ……! さっきは考え込んでて気付かなかったけど、良く見たら滅茶苦茶美人じゃん! しかも、あんな凄ぇ格好の御姉様がスピーチって誰得だよ!」

 

「……。(静かに成ったと思えばなんだ、あそこの少年は……! 格好の事はもう良いだろ!)」

 

先程まで美鶴の事を見て一部の生徒達のテンションが上がり騒いでいたが先生方の言葉に落ち着いたと思ったのだが、騒ぎに一人遅れた花村が美鶴の姿をマジマジと見た瞬間に日頃の陽介と成って興奮し、現在に至る。

また、そんな陽介の言葉が先程から耳に入っている美鶴も怒りと羞恥から少し表情を赤くしながら拳を握り締めていた。

元々、あまり女子らしい事を意識もしなければ興味も無かった美鶴にファッションについて言うのは酷と言う物だ。

彼女からすれば大事なのは外見よりも、その服の動きやすさ等の所謂、性能重視だ。

何より、本人に自覚は無いが素が最初から良い美鶴が何を来たとしても自然に着こなしてしまうのだ。

他者が来たらドン引きされるが、美鶴が着れば最初は驚くが直ぐに慣れて自然な認識と成る。

 

「なあなあ相棒! 洸夜さんとのお見合いの時にも会ってたんだよな! もしかして、あの格好で……」

 

陽介は迫る様に興奮しながら総司へと聞いた。

 

「それは無い」

 

総司が直ぐに一蹴したが、美鶴の我慢もそろそろ限界であった。

本来ならば彼女の伝家の宝刀"処刑"が放たれてもおかしくは無いのだが、流石に時と場合がある。

修学旅行生に処刑をして良いものか美鶴が悩み始めた時だった。

 

「もう……花村くぅん! 静かにしないと先生がお仕置きするわよぅ! (なによ皆して! あんな赤毛よりも私の方が何百倍も綺麗でしょうが!)」

 

「真面目に聞こう」

 

「そうだな」

 

別の事で怒りを覚えていた総司達の担任である柏木の言葉に、一瞬で冷静になり黙る総司と陽介。

その影響は他の生徒にも及び、男女問わずに全員が真剣な表情で美鶴の言葉を待った。

年齢詐称の色々な意味でモロキンをも凌駕する柏木は、総司達にとっては逆らいたくない相手なのだ。

そして、静かに成った事で美鶴も漸く演説を始め様と口を開いた。

 

「(やれやれ……漸くか) ……初めまして皆さん。私は先程、校長先生から御紹介して頂いた桐条 美鶴です。今回、私はこの学園の卒業生として先ずーーー」

 

「流石は美鶴だ。あんな状態だったのに、何事も無かった様に演説を始めている」

 

「……あぁ、そうだな。(本当に、そう言う所は変わらないんだな)」

 

明彦の言葉に流石の洸夜も頷いた。

美鶴は伊達に生徒会長等、人前に何度も立っていた訳では無い。

何度も体験して来たこの状況で美鶴が言葉を詰まらせる事はまず有り得ないだろう。

何よりも、"桐条 美鶴"と言う人物の演説がどれ程に凄いのか知っている者達からすれば、八十神の生徒達の私語等は有って無いような問題だ。

勿論、洸夜も例外では無く美鶴の凄さを知っている。

まるで、唄を歌っているかの様に……詞でも読み上げているかの様に……美鶴の演説は飽きる事無く聞く事が出来るのだ。

彼女に見とれる者も少なからず存在するが、それは美鶴の存在感の強大さを意味してもいる。

現に、先程まで騒いでいた八十神の生徒達は皆、黙って美鶴の演説も聞いている。

中身の入っていない言う事だけが立派な演説等は違い、少なくとも美鶴の言葉の一つ一つに中身と重みと、幼い頃から重き荷を背負って来ている美鶴だからこそ感じられる説得力。

どれもそこら辺で聞き、体験出来る物では無い。

 

「……。(あの時もそうだった……)」

 

凡そ二年ぶりに演説をしている美鶴の姿を見て洸夜は、自分の月光館での入学式を思い出してしまった。

それが"瀬多 洸夜"にとって"桐条 美鶴"との初めての遭遇でも有ったからだ。

 

「……。(五年前。月光館の入学式で俺は美鶴達と初めて有った。入学式で新入生代表でスピーチをしたのが美鶴だった……)」

 

入学式のスピーチ等、誰が何を演説した所でまともに聞いている者は少ないであろう。

怠い、 面倒、早く帰りたい……色々と個人的な感情を誰もが抱いている。

勿論、それが同じ新入生であろうと例外では無い。

中等部から美鶴を知っている者ならば未だしも、洸夜を含む高等部から受験で入学して来た者達はまさにそんなメンバーであった。

洸夜ですら当時、入学式のスピーチ等を頭に入れず寮にある荷物やクラスメイトと成る者達を観察する等、どうでも良い事ばかり考えていた。

美鶴のスピーチを聞くまでは……。

 

「……。(人の上に立つ才能が有ったんだろう。俺を含めた受験組は、あの時に初めて桐条 美鶴と言う存在を知り……その凜とした姿に驚かされたんだ)」

 

今の総司達へのスピーチの様に当時も美鶴は、平然と当たり前の事をしているかの様な雰囲気を感じさせながらも、誰もが美鶴の雰囲気に文句を付けられない程に美鶴は堂々としていた。

その姿に全員が真剣に聞いていた。

一人……洸夜を除いて。

 

「……。(美鶴の姿には驚かされた……だが、あの時の俺は美鶴の表情が気にくわなかった。責任、焦り、不安……表情の中に色々な負の感情を混ぜていた。何に対しての感情かは分からなかったが、少なくとも入学式に関する事では無かったな。だが、当時の俺はイゴールの夢の事も有ってカリカリしていたからな……入学式で人前に立って堂々とした態度をした奴がそんな表情を見せる成って思っていたんだった……)」

 

過去の事を思い出しながら洸夜は再び美鶴を見て、再認識した。

総司達へ演説している美鶴の姿は、過去以上に凛々しく、そして堂々としている。

桐条グループのトップを継ぎ、過去の事への償いなのか……シャドウワーカーも設立している美鶴からすれば自然な成長と言えるだろう。

だが、洸夜は美鶴が前に進んでいると言う現実を見れば見る程、謎の不安で胸がざわつくのを感じ、この不安の答えを知る為に明彦へと小さく声を掛けた。

 

「明彦……今、良いか?」

 

「……! ああ、別に良いが……どうした?」

 

まさか洸夜から話し掛けられるとは思っていなかった明彦は、少し驚きの表情を見せながらも周りにバレない様に顔などは一切動かさずに口だけ動かす様に言い、洸夜も同じ様な感じで言った。

 

「……俺の事は一切、関係無しで聞きたい。お前……なんでシャドウワーカーに参加したり、大学にも行かずに武者修行に行っているんだ……?」

 

純粋に洸夜は知りたかった。

一体、何を思って明彦や美鶴がそんな生き方をしているのかを。

そして、洸夜の言葉に明彦は少し考える様な素振りを見せ、洸夜の言葉を理解し呟く様に言った。

 

「……美鶴は桐条という守り、償わなければ成らない物の為にしているが少なくとも俺は美鶴の様な立派な理由じゃない。只……純粋に力を求めている。妹……親友……色々な出来事で俺は自分の無力を知り俺はお前に……」

 

取り返しのつかない事をーーー。

そう言おうして明彦は洸夜の言葉を思い出して言葉を中断させた。

理由は分からないが、洸夜は今の自分達の事を知りたがっている。

そこまでは察した明彦はそう思い一旦、誤魔化す様に一息入れて続きを言った。

 

「……大学も実を言うとそれほど感心が無い。行ければ良かったと言う気持ちの方が強いかも知れないな。だから単位とかも殆ど気にして無いから、こんな風に世界を回って武者修行をしている。シャドウワーカーも……強者や自分の力量を測る為にしている事もあるから、さっきも言った様に俺は美鶴の様な立派な理由じゃない」

 

明彦の言葉が無意識の謙遜なのか、それとも本当にそうなのかは洸夜には分からない。

だが、少なくとも明彦の性格上から察するにそんな理由だけでは無いのは分かる。

きっと、何かしら明彦も思う所が有ったのだと思った洸夜は言った。

 

「……だが理由はともかく、お前も他のメンバーもシャドウワーカーに参加しているんだろ?」

 

洸夜の問いの意図が今一掴めない明彦は、少し眉間に指を当て悩む仕草をし言った。

 

「確かに全員が所属している訳じゃないが、順平達は頼めば参加してくれている。なんだかんだでシャドウワーカーは"特殊部隊"だからな。流石に職業が特殊部隊は色々と辛いと言っていた」

 

それからーーー

 

明彦がそう言って話の続きを言っているが、洸夜の耳には既に入っていなかった。

明彦の言った事は前にアイギスが言った事と殆ど同じあったが洸夜は、 あの時にアイギスに言われた時より強いショックを受けた。

まるで、現実と言う名の重い何かを背負わされた様にズッシリとそして、確かにその身に感じさせる様な衝撃だ。

美鶴も明彦も、アイギスや伏見でさえ前にちゃんと進み、順平達と共にペルソナを命と世界の為に使っている。

その事実は洸夜は自分が惨めだと感じさせ洸夜は、心の中で言った。

 

「……。(前に進めず二年も無駄にし……その後に稲羽に向かえば二人も死なせ……総司達の為と言って助けれた命を見捨て……もう、総司達は俺がいなくて大丈夫な程に成長した。なら、俺の存在の意味はあるのか? ……シャドウワーカーと言う組織に属している訳でも無く、ペルソナで人を守る処か自分で制御も間々ならく成っている……!)」

 

どんな事も背負うと覚悟していたが、時が経てば経つほど、自分で言えば言う程に辛さが増し惨めに思えて仕方ない。

それが今の洸夜の心情であった。

前へ進む美鶴達に比べ、弟や稲羽の人々を守り事件を解決する為に覚悟を決めたが現実は、犠牲者二名、誘拐も防げず、挙げ句の果てにペルソナの制御も間々ならない。

洸夜は今、いつの間にかに広がった美鶴達との差を酷く痛感したのだ。

他者から見れば洸夜は普通に立って演説を聞いている様に見えるが、心の中では既に膝を着いて悔しさと情けなさで涙を流していた。

 

「……。(一体、俺はどうすれば良いんだ……俺は本当に必要なのか……?『■■■』……俺はどうしたら良いんだ……!)」

 

洸夜が自分の今の現状を、既にいない友に問い掛けていた時だ。

悩む洸夜の目に演説を聞く総司の姿が目に入った。

その総司の姿はまるで、この月光館に入学してきた当時の自分の様に洸夜は感じてしまうと同時に、何処で自分の人生がおかしく成ったのか考えてしまった。

 

「俺は……。(もう分からない。只の学生だったんだぞ?……ベルベットルームに招かれた時か? 木刀を忘れて深夜の学園に侵入した時か? 美鶴達にS.E.E.Sに参加を頼まれた時か?……『アイツ』だけに全てを押し付けてしまった時か……?)」

 

洸夜の頭の中で誰も答えをくれない問いをずっと自問自答していた時だった。

そんな洸夜の耳に、誰かが自分を呼ぶ声が届いた。

 

「洸夜!!」

 

「っ!? 美鶴……?」

 

いつの間にか自分の目の前にいた美鶴の呼び声に、洸夜は我に返ると同時に何故、美鶴が演説中に自分の目の前にいるのか混乱気味に疑問に感じた洸夜は周りを見ると、伏見が先程まで整列していた八十神の生徒達にプリントを配布しながら、生徒の大半が学園の中へと入って行く光景が目に入る。

 

「何が……あったんだ?」

 

寝惚けている様に今一、現状が掴めていない洸夜に説明する様に美鶴は言った。

 

「洸夜……演説はとっくに終わったぞ? 皆が移動し始めても無表情で下を向いてままだから、私が声を掛けたんだ」

 

「終わった……? えっ!? あっ……本当なのか?」

 

少なくとも演説は全体的に40分はあった筈なのを洸夜は資料で見て覚えていたが、その演説が終わったっと言う事は美鶴の後の伏見の話も考え事をしている間に終わったと言う事に成る。

だが、まだ10分も経っていない様に感じていた洸夜からすれば現状が不思議でしょうがなく、そんな洸夜の様子に美鶴と明彦は互いに顔を見合せ、困惑した表情で洸夜へ言った。

 

「……洸夜。やはり、何かあるのか?」

 

「先程の質問の時もそうだったが、さっきから様子がおかしいぞ?」

 

「俺は……!」

 

洸夜の頭は、まだ状況が整理出来ず混乱してそう言った時だ。

総司が一人、洸夜の下へ走って来たのだ。

 

「兄さん!」

 

「総司……」

 

学園に入る前に兄に一言挨拶したかったのか、明るい表情の総司の登場に洸夜は漸く落ち着きを取り戻し、美鶴達も総司に声を掛けた。

 

「暫くぶりだな、総司君」

 

「まさか、君も修学旅行生の一人とは思わなかったぞ?」

 

美鶴達の言葉に、総司も軽く頭を下げ挨拶した。

 

「お久しぶりです美鶴さん、明彦さん」

 

本当は言う程に月日が経っている訳では無かったが、何故か不思議と久し振りに感じてしまった総司と美鶴と明彦。

しかし、再会の挨拶を交わす三人だったが美鶴が何者かの視線に気付き振り返った。

 

「あれは……?」

 

美鶴の視線の先に写ったのは特徴的な青い帽子を被り、自分を見ている人物……直斗であった。

 

「……。(白鐘 直斗……稲羽の事件捜査に協力している事は黒沢刑事からの資料で知っていたが、総司君と同じ高校に通っていたのか)」

 

資料で直斗の事を知っていた美鶴だったが、別に今は特に問題を抱えている訳でも無いからか下手に警戒せず、珍しい者を見た程度の気持ちで直斗を見ながら心の中でそう言い、振り返られた事で美鶴と目があった直斗は誤魔化す様に帽子を被り直しながら学園の玄関へ向かい心の中で呟いた。

 

「……桐条 美鶴ですか。(洸夜さん達、本当にお知り合いだったんですね。まあ、別にどうかすると言う訳では有りませんが一応、何があっても警戒は怠らない様にしないと)」

 

相手が今まで警察や数々の探偵達に苦汁を飲ませてきた桐条だからか、直斗は修学旅行にも関わらず場違いな雰囲気を纏い歩いて行き、美鶴も直斗がリアクションしないと分かると再び洸夜達の方を向き直すと、洸夜と総司は色々と会話していた。

 

「どうだ? この学園に来てみての感想は……?」

 

「悪くない処か、今まで来た学校の中で一番凄いんじゃないかな? 兄さんが此処を選んだのも頷ける」

 

弟との会話に少し落ち着いたのか、洸夜は総司の言葉に軽く微笑みながら言った。

 

「はは……別に見た目だけで選んだ訳でもないさ。まあ、悪くはないが……」

 

只の変鉄もない兄弟の会話だが、洸夜は落ち着いた気分に成っていた。

『彼』もそうだったが、総司も不思議と側に居ても嫌な気分に成らない。

席が沢山ある店で、自分の隣に来ても何故か嫌な気分に成らない……そんな感じだ。

洸夜がそう思っていた時だ、明彦が洸夜と総司の前に出ると 、総司を見ながら言った。

 

「すまない総司君……君に聞きたい事がある」

 

「……なんですか?」

 

何処か鋭い目線の明彦に気付いているかどうか分からないが、総司は不思議そうに聞き返した。

どうやら、総司は自分が前に明彦達に"ペルソナ"発言している事を忘れている様だ。

久保の一件もあり、仕方ないと言えば仕方ないが明彦は忘れてはいなかった様だ。

 

「総司君……君はペルソナを何処まで知っているんだ?」

 

「なっ! 待て明彦! 総司は……!」

 

予想通りの言葉に洸夜は言われた総司よりも早く反応し、そう言ったが明彦は静かに首を横へ振った。

 

「洸夜。すまないが俺は、現在、稲羽で起こっている怪奇事件……お前と彼が関わっている様に思えて成らない」

 

「ふざけるな。そんなのお前の推測だろ? 既に解決した事件に総司を巻き込むな」

 

「……! (兄さん……なんで明彦さん達にそうまでして隠すんだ? 前に言っていた事と関係があるのか?)」

 

洸夜の明彦への言葉に総司は違和感を覚えたが、明彦が洸夜へ反論した。

 

「……じゃあ、お前は一体、何処でペルソナを使っているんだ? 抑制器が壊れたと言う事実が、お前がペルソナを使ったと言う証明に成っている。……洸夜、ここまで言えばお前なら俺の言いたい事が分かる筈だ。稲羽の怪奇事件……シャドウが関わっているじゃないのか?」

 

「違う! ニュクスは既にいない! シャドウが稲羽に出現する訳がない!!」

 

ニュクスは存在しないが、それでもシャドウが誕生する事は美鶴達は知っており、洸夜も経験と明彦の言葉から感づいていた。

だが、洸夜は無意識の内に明彦の言葉を全て否定しようとしていた。

洸夜の目の前には弟がいるから。

そして、洸夜の言葉に明彦は少し表情を暗くして言った。

 

「お前らしくないな洸夜。シャドウやペルソナに常識は通用しない……それがお前の口癖だったろ? ニュクスの一部と人の負の感情でシャドウが生まれる常識は通じない筈だ」

 

「だが……!」

 

明彦の言葉に洸夜はまだ煮えきれなかった。

そんな様子に美鶴が総司へ言った。

 

「総司君。単刀直入に聞こう……君はペルソナ使いか?」

 

「俺は……」

 

どこか真剣な表情の美鶴と明彦に、別に言っても良いと思っていた総司は返答しようとしたが、洸夜が間に入り二人の会話を遮った。

 

「止めろ! お前等は総司にも何かを押し付けるつもりか!?」

 

「っ!? 洸夜……? 一体、何を……」

 

必死の表情の洸夜の言葉の意味が美鶴には分からなかった。

しかし、今の総司を"過去の自分"と重ねてしまった洸夜には美鶴達と総司を関わらせたく無かった。

自分は美鶴達との出会いで運命が変わったのかも知れない。

そう思い込み始めた洸夜は総司を自分の二の舞にしたく無かった為の行動であった。

勿論、美鶴と明彦は総司に酷い事をする気は微塵も無い為、美鶴は洸夜へ落ち着かせる目的で言った。

 

「待て洸夜! 落ち着け! 私達は只……!」

 

「只なんだ?……お前等が何もしない保証は無い筈だ! 元はと言えば……全部、お前等がーーー」

 

美鶴達へ洸夜は思いの丈を叫ぼうとしたが、洸夜はそこまでしか言う事が出来なかった。

何故ならば……。

 

「ワンッ! ワンッ!」

 

背後から、自分へと向かって吠えているであろう、聞き覚えのある"犬"の鳴き声が耳に届いたのだから。

 

End


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