ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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……な、なんとか今月中に投稿……出来ました……(--;)


合わさる歯車

同日

 

現在、辰巳ポートアイランド (とある喫茶店)

 

あの駅での出来事の後、順平達は一息入れる為に喫茶店へ来ていた。

衛生上で限られた席であったが、犬であるコロマルも入店可能な喫茶店は順平達にとっては嬉しい物である。

ペットならばまだしも、コロマルは"仲間"なのだ。

入口に繋いどく様な事はあまりしたくは無いのが順平達全員の気持ちだ。

そんな想いを胸に仕舞いながら、順平達は各々が注文したドリンクやスイーツをつまんでいる時だ。

 

「……ハァ」

 

伊織 順平は溜め息を吐きながら悩んでいた。

原因は先程、謎の行動をしたコロマルを追い掛けて出会った一人の少年であった。

自分が駆け付けた時にコロマルに押し倒されていた一人の少年の姿、それは自分達が傷付けた洸夜と似ていたのだ。

髪の色、眼、雰囲気等々、頭にくる程までに似ていたのだ。

こんなのは只の八つ当たりだとは順平も思ったが、よりにもよって何故、洸夜の姿とそっくりだったのか順平は疑問と困惑に襲われた。

最早、偶然では済まない気がして成らない。

 

『口だけじゃねえか! ヒーローごっこはアンタの方じゃねえかよ!』

 

「……!? (やめろ! やめてくれよ……! こんな事を思い出させないでくれ……!)」

 

順平は嘗て、自分が洸夜へ言った言葉を思い出して胸が苦しくなる様な不快感に襲われた。

なんで自分はあんな事を言ったのか、どうして洸夜に八つ当たりしてしまったのか。

全ては後の祭りなのは順平も分かっているが、そう簡単に割りきれる物でも無いのだ。

『彼』と共に先陣切って戦っていた洸夜。

いつも自分達を守ってくれていた洸夜。

そんな洸夜に、あんな事を言うのはお門違い。

順平も分かっていたのだが、どうすれば良いのか分からない。

そう思いながら順平は注文していたコーラの入ったグラスを口へと運ぶが、久し振りの炭酸も今の気分ではなんとも感じなかった。

そんな時だ。

 

「順平……さっきからどうしたのよアンタ? なんか、上の空に成ってるけど?」

 

自分の向かいの席でケーキを食べる手を止めながらゆかりが順平へそう言ったと同時に、言われた順平自身は自分はそんな暗い表情をしていたのかと思いながらも返答しようと口を順平も口を開こうとする。

 

「いや……只、さっきーーー!?」

 

そこまで言って順平は口を反射的に閉じた。

今、自分は何を言うおうとした?

自分達が傷付けた先輩に似た生徒がいたから悩んでいた?

そんな言葉が順平の頭に過り、口を閉じさせたのだ。

先程のアイギスの言葉の事もある。

幸運と言えるか分からないが風花達は先程の言葉を深く考えず、追及する事は無かったがそれでも順平とゆかりには先程の出来事は堪えていた。

そんな出来事の後で、自分達が傷付けた先輩に似た生徒がいた等と言える訳がない。

有名人のソックリさんに出会ったと言われても、驚く人も少なからずいると思われるが大概は、だからどうした? と言って済む程にどうでも良い事と同じだ。

本人に出会った訳でもなく、先程の出来事の後で洸夜のソックリさんを見たと言う話なぞ、誰も聞きたくは無い

少なくとも、そう感じた順平はそんな想いを胸に抱えながら誤魔化す様に返答した。

 

「なんでもないって……」

 

「そう? なら良いんだけど……」

 

「様子がおかしいと思ったのは私もだから……本当に大丈夫なの?」

 

ゆかりの後に隣で紅茶を飲んでいたチドリがそう言ったが、順平は肯定する様に先程よりも少し強く首を横に振って言った。

 

「本当になんでもないって……!」

 

「……」

 

駅の時とは違い、少し感情的になっている順平の言葉にゆかり達は少し驚いた表情になるが、興味を失ったのか話の内容を変えた。

 

「ねえ? この後、どうする?」

 

「どうするって……色々とお店とかを皆で見て回るんじゃあ?」

 

皆に聞こえる様に言ったゆかりの言葉に、ゆかり達から一つ後ろの席にいた風花が事前に聞いていた予定を言って聞き返した。

 

「……うん。そのつもりだったけど、ゴメン……気分が乗らなくなっちゃって」

 

自分で言っといて勝手なのはゆかり自身も分かっている。

だが、やはりアイギスとコロマルの言葉が効いてしまった事も事実な為、悩んでしまっているのだ。

コロマルの言う通り、いつまで隠しているのかと言う事を……。

 

「ゆかりちゃん……」

 

そんなどこか暗い表情で話すゆかりに対し、風花は名前を呼んだけで下手に追及もしなければ文句も言う事は無く、逆にありがたいとすら感じていた。

理由はゆかりと同じで気分が乗らなくなったからだが、唯一ゆかりと違うのは気分が乗らなくなった理由そのものであった。

"瀬多 洸夜"……その青年がこの場にいない事が一番、風花と口には出していないが乾にとっては一番辛い現実。

元々、風花と乾は洸夜が寮を去った後にすぐに連絡をとっていたが、当時の洸夜は心が疲れきっていた時でもあり連絡を返す訳も無かった。

そして、洸夜がそんな状態になっているとは夢にも思っていなかった風花達はその後も連絡を取ろうとしていたが、風花達も暇ではなくなって行き、やがて連絡をしなくなってしまった。

だが、それから月日が経ち、今日の事が決まって連絡が来た日、風花はすぐに洸夜にも連絡しようと居ても立ってもいられなくなり、乾にも連絡をとって洸夜に一緒に連絡をとってもらった。

相変わらず返信はいくら待っても来なかったが風花と乾は、洸夜が来てくれると信じて今日と言う日を楽しみにしていたのだ。

しかし、結果はこのザマだ。

洸夜が来ることもなければ何かしらの連絡も無かった。

どうして洸夜は、自分達に連絡をくれないのだろうか?

自分達が嫌いなった?

自分達に失望した?

それとも逆に自分に絶望して会いづらい?

色々な考えが浮かぶが、考えれば考える程に風花の心は暗くなっていった時だった。

風花の隣に座っていたチドリが言った。

 

「ねえ? 行きたい所があるんだけど……良い?」

 

「チドリさんの行きたい所……ですか?」

 

「どこなんですか?」

 

アイギスと乾の言葉にチドリは静かに頷いて言った。

 

「……月光館学園」

 

「え……?」

 

チドリが希望した意外な場所に、ゆかり達は思わず互いに顔を見合わせる。

ゆかり達にとっては卒業したとは言え、それほど月日が経っている訳でもない為に懐かしい感じが薄ければ、進んで行きたいとも思えなかった。

乾に関しては懐かしい処か、現在進行形ですらある。

何故、チドリが学園を希望したのか皆が不思議がる中、乾が代表して聞いた。

 

「チドリさん。どうして月光館学園へ行きたいんですか?」

 

「私、基本的にあそこがタルタロスの時にしか行った事がなかったから、皆がどんな場所で過ごしていたのか知りたくて……普通の人達が学ぶ場所を見てみたいの」

 

チドリの言葉に皆は気付いた。

当時、人工ペルソナ使いとしてタカヤとジンと共に行動してきたチドリにとって学校は、何の縁も無ければ興味もなかった場所。

しかし、ペルソナや副作用の問題も解決し嘗ての記憶が戻り始めた今の彼女にとっては違った。

自分と同じ位の少年少女が通う場所。

もしかしたら、自分も皆と同じ様に通っていたかも知れない可能性。

もう過ぎた時間は戻らないのば当のチドリ自身が一番分かっていたが、それでもせめてその場所を見て雰囲気等を感じたかった。

そんなチドリの想いをゆかり達は察し、順平が口を開いた。

 

「……別にいいんじゃね? 俺は反対しないけど」

 

「私も良いわよ。チドリだって、もう普通の女の子なんだからせめて、それぐらいの我が儘は許されるわよ」

 

「でも、今は修学旅行中で学園内に入れるんでしょうか?」

 

「今日は小・中等部は休みですが、高等部はいつも通りですから……どうなんでしょう?」

 

「それに関しては大丈夫だと思われます。あちらには美鶴さんと明彦さんがいらっしゃいますから……恐らく事情を説明すれば分かってくれる筈です」

 

順平達の言葉に風花達が疑問を指摘したがアイギスの言葉に皆は納得し、そうと決まればと言った感じに全員が店を出る為に席から立ち上がる。

 

「良し、支払いは俺がしとくから先に皆はコロマルを連れて外で待っててくれ」

 

「珍しい……アンタが進んで奢るなんて」

 

順平の行動にゆかりだけではなく、風花達やコロマルですら頷く光景に順平はショックを受けた様に肩を落とした。

 

「み、皆……酷くない。俺だってたまにはこう言う事をするって」

 

肩を落とすと同時に両手で顔を隠して嘘泣きの仕草をする順平の痛々しい行動に、ゆかりはドン引きし風花達は苦笑する。

そして、そんな順平にアイギスが追い討ちを掛けた。

 

「もしかして、チドリさんに良い所を見せたいのですか?」

 

「そうなの?」

 

順平の行動が純粋な優しさではなく下心なのではないかと言う疑いが浮上した事で、周りのメンバーの目線が冷たいものへと変わった。

 

「ちげーよ!? それは六割だけど! 俺だってたまには進んで奢る時だったあんだよぉぉぉぉ!!」

 

「それでも、半分以上は有るんですね……」

 

「本人はもう聞いてないけどね……」

 

負け犬の遠吠え宜しくそう叫びながらレジへ走り去る順平の姿に乾がそう言い、ゆかりが呆れながらも皆を連れて店の外へと出たのだった。

 

==============

 

 

現在、巌戸台駅

 

喫茶店を出た後、順平達は月光館へ向かう為にモノレールへ乗る為に巌戸台駅へと来ていたが、その中でコロマルが順平が事前に用意していたペット用の篭で物言いたそうな眼で皆を見ていた。

 

「クゥ~ン」

 

「ごめんねコロちゃん。動物はちゃんと篭の中に入れないとモノレールに乗せられないの」

 

「あっちの駅に着いたらちゃんと出してやるから、それまで我慢してくれな」

 

風花と順平の言葉を理解したのかコロマルはもう一度だけクゥ~ンと鳴くと大人しくなり、順平が篭を重たそうにしながらもコロマルに負担を掛けないように運び始めた。

 

「コロマルも重くなったな……!」

 

「ごめんね順平、コロマル……私が無理言ったから……」

 

「おっと! チドりん….…そう言うのは無しな」

 

「遠慮は無しです。無礼講です!」

 

「アイギス……ちょっとそれとは意味が違う気が……」

 

アイギスの言葉に風花が苦笑した時だった。

駅の外れの方から数人のチャラい格好をした少年達が飛び出して来た。

その突然の出来事に、順平達や周りの一般の人達も驚いたが少年達は特に何もせずに順平達の横を走り去ってしまった。

 

「ちくひょう! なんでふぉれが、こんなふぇに……! イテェよ……!」

 

「だから止めなって言ったじゃん!」

 

「良いから早く逃げるぞ! 追ってきたらどうすんだ!?」

 

まるで誰かに追われているかの様に、そう叫びながら走り去って行く少年達の姿を乾が驚いた表情のまま見つめていた。

 

「一体、なんだったんでしょうか?」

 

「さぁ? 多分、駅外れで喧嘩して負けたんじぇねえのか? あそこじゃ、そんなのは日常茶飯事だからな」

 

嘗て、順平とゆかりは『彼』と共に駅外れに行った事があり、そこで不良に絡まれた事があった。

順平は殴られてしまい、そんな順平達を偶然居合わせた荒垣 新次郎が助けてくれなければどうなっていたか分からなかったであろう。

それ故に、順平は乾の言葉に何処か知った感じに答えたのだ。

 

「あっ……! そろそろ時間じゃない?」

 

「その様です。早く駅へ行きましょう」

 

不思議な事が起きても時間は待ってはくれない。

順平達はゆかりとアイギスの言葉に急かされる様にモノレールへと乗り込むのであった。

 

=============

 

現在、辰巳ポートアイランド駅

 

時間帯が良かったのか、モノレールの車内には殆ど乗客の姿は無くコロマルを檻に入れなくても良かったのではと感じさせる程に快適だった。

そして、そんなモノレールから降りた順平達は駅の外へと出て、コロマルを檻から檻から出した。

 

「ほら、コロマル」

 

「ワン!」

 

余程、檻が窮屈であったのかコロマルは檻から出ると一鳴きして大きく伸びをする。

そして、久しぶりの母校への通学路であった場所を順平は見渡すと、どこか表情を暗くして溜め息を吐いた。

 

「はぁ……鬱だ」

 

「なに、いきなりそんな暗い事を言うのよあんたは!」

 

「そう言うけど、ゆかりッチ……卒業したとはいえ通っていた通学路を見ると学校の嫌な気分が甦るんだって」

 

「じゅ、順平さん……どれだけ学校が面倒だったんですか……?」

 

順平の言葉に乾は苦笑しながら言い、風花もゆかり達同様に呆れ半分な感じに肩を落とした。

二年経とうが順平はどこまで行っても順平であったのだ。

友人の変わらない事に喜ぶべきか、順平の勉強嫌いからくる学校への面倒だに呆れるべきか悩みどころであった。

 

「……道が綺麗」

 

「そうですね。学生の通学路と言う事もあって、掃除や植物の手入れが行き届いているらしいから」

 

駅前とは言え綺麗に整った道や周りに植えられている木々の植物から生み出される清潔感等に感心した様に言うチドリに、風花もそう言って返して説明する。

海が近い為に色々と植物の世話も大変だが、それでもこの現状を守ってくれているのは駅員や近所の方々の賜物だ。

そんな時であった。

チドリと風花がそんな会話しているとコロマルに異変が起こった。

 

「!……クゥ~ン」

 

「?……コロマルさん、どうかしましたか?」

 

駅から今現在、自分達がいる道までの匂いを突如、嗅ぎ回るコロマルの姿はまるで何かに気付いた警察犬を彷彿とさせる程であった。

それを不思議に思ったアイギスが声を掛けたが、コロマルはアイギスの言葉が聞こえていないのか一心不乱に周りに匂いを嗅ぎ続ける。

一体、なにがコロマルをそこまで夢中にしているのかが分からない。

先程の駅での暴走行動と言い、どうも今日のコロマルの行動が今一理解出来ないメンバーも対処に困ってしまった……その時であった。

突如、まるで何かを見つけた様にコロマルは嗅いでいた地面から顔を上げると、嬉しそうに一鳴きすると尻尾を振りながら凄い勢いで走り始めた。

 

「ワン……!」

 

「えっ!? ちょっ……! コロちゃん!?」

 

「コロマル! まって!」

 

コロマルの行動に驚きながらも声を出して呼び止める風花とチドリだったが、その程度でコロマルが止まる訳もなく、コロマルは更に走り続ける。

 

「まさか……!」

 

「えっ? 何か分かったの……?」

 

コロマルの謎の行動に、順平が心当たりがある様な事を口走った事に、ゆかりが反応するが内心では今一良い予感がしなかった。

元々、そう言う性格だからか順平が、あからさまに真面目ぶった事を言う時は大抵なんだかんだでふざけた事を言う事が多い。

順平の性格を知っているから故に、そう考えたゆかりであったが、順平は真面目な表情を全く崩さずに言った。

 

「コロマル……末期なんじゃね?」

 

「……は?」

 

一体、この男はなにをいっているんだ?

ゆかりのそう思った故に、思わずそう言ってしまったのだ。

他のメンバーですら今一、言っている意味が分からずに固まっている。

そして、順平の言葉に固まるメンバーの想いをまるで代弁するかの様にアイギスが順平に言った。

 

「どういう意味でしょうか順平さん?」

 

「いやさ……ホラ、犬って人より歳とるのって早いじゃんか? だから、もしかしたらコロマルは……」

 

「歳をとったから、あんな奇怪な行動してるって言うの……?」

 

「そんな、セミじゃないんですから……」

 

「それにコロちゃんはまだ、生き生きしてて現役だと思うけど……」

 

順平の言葉にゆかり、乾、風花の順にそう言った。

乾の言う通り、セミじゃあるまいしコロマルがそれでおかしくなったとは考え難くい。

何よりも、歳とった犬があんな疾風の様な過敏で清々しい走りが出来る訳がない。

順平を除いた全員がそう思った時だ、順平が思い出す様にとんでもない事を言い放つ。

 

「でもよ、さっき駅でも飛び出した時……修学旅行生を押し倒してたしな」

 

「え?……えぇっ!? コロマル……そんな事をしちゃったんですか!」

 

「どうしてそれを先に言わないのよ!」

 

「だ、だってよ!? なんかジャレてた見たいなもんだし大丈夫かなって……」

 

皆からの気迫のこもった言葉に両手を振りながら弁明する順平だが、アイギスは冷静に言った。

 

「ですが順平さん。順平さんがそう思っていても、相手の方が襲われたと思ってしまっていたら色々と大変な事が……」

 

「あっ……」

 

アイギスの言葉に漸く、事の重大差を理解した順平。

よくよく思い出せば、あの時の学生を助け起こしたのは自分だが、相手がケガをしたかどうかは確認していない。

そう思うと、順平はダラダラと冷や汗をかきはじめた。

人にケガを負わせた場合、もしかすれば最悪……。

 

「……殺処分」

 

「え……?」

 

まるで順平の心の言葉の続きが分かっていたかの様に呟いたチドリの言葉に、全員がチドリの方を向いた。

 

「もし、順平の言葉が本当なら万が一、コロマルが誰かに何かしてしまったなら……」

 

「……」

 

チドリの言葉を聞いた瞬間、今度は順平以外のチドリとアイギスを除いたメンバーから冷や汗を流し始めながら黙り込んだ。

皆、同じ事を思っているのだろう。

コロマルの賢さは皆が知っている。

勿論、性格も穏やかで優しく、心も強い犬だ。

しかし、チドリの言葉の言う通り"万が一"の事が起こってしまうと考えた結果、皆がとる行動は只一つであった。

 

「「「「コロマルゥゥゥ!!?/コロちゃぁぁぁん!!?」」」」

 

全力でコロマルを追い掛ける事だ。

万が一の事など起こさせて堪るかと、大事な仲間を殺処分等にさせるかと想いの下、順平達は一斉に走り出した。

 

「コロマル……」

 

「コロマルさん……」

 

そんな順平達に続く様にチドリアイギスも走り始める。

そして、そんな順平達を尻目に当の本人であるコロマルは、後ろから追い掛けてくる順平達に気付くと一旦、止まると一鳴きした。

 

「ワン!!」

 

「えっ……!」

 

コロマルのその一鳴きに、アイギスは思わず足を止めてしまう。

アイギスにはコロマルの言っている事が分かるからだ。

コロマルの言葉が彼女の足を止めたのだ。

 

「ワン!……じゃねえよコロマルゥゥゥ!? コラ! 止まりなさい!」

 

しかし、アイギスが足を止めた事に気付かない順平達は、そう叫びながらコロマルへと走るが、コロマルは再び走り出してしまう。

 

「ワン!」

 

コロマルが再び走り始めた事で順平達も速度を上げて追い掛ける中、足を止めていたアイギスだけが取り残される様な感じでその場に残ってしまった。

だが、アイギスは皆が先へ行ってしまった事よりも気になる事が出来てしまった。

それは勿論、先程のコロマルの言放った言葉だ。

 

"やっぱり来てた"

 

先程、アイギスが聞き取ったコロマルの鳴き声を簡単に人の言葉に直すと、この様になる。

コロマルが言ったこの言葉と、先程からのコロマルの不自然な行動。

駅から少しだけしか離れていない道の真ん中で、アイギスは静かに考える。

この言葉と行動の意味を……。

 

「……まさか」

 

アイギスの中で、ある考えと繋がった。

 

==============

 

現在、月光館学園前

 

アイギスが悩んでいる最中、順平達のコロマル追跡は続いていた。

だが、その距離はコロマルの過敏な動きによって縮まってはいない。

基本的に駅から学園までの距離は余り遠くは無く、寧ろ近いと言える。

しかもコロマルは基本的に直進状態で走る為、かなりスピードを上げやすい状態となっているのも原因だ。

しかし、そのコロマルの走りによって順平達は、ある事に気付いた。

 

「な、なあ……こ、この道筋ってもしかして……」

 

「多分……月光館学園への登校路だと思います」

 

変に走りながら喋ったからか息を切らし始めた順平に、息を切らしていない乾がそう返答した。

そう、コロマルが走っている場所は日頃、月光館学園生が通っている登校路に順平達は気付いたのだ。

コロマルの行動の意図は、まだ分からないが行こうとしている場所は察する事が出来ていた。

 

「コ、コロちゃん……もしかして……学園に……?」

 

「風花!? 大丈夫なの!? 」

 

元々、体育会系では無い風花に短いとは言え全力短距離走状態になっている現状は酷なものだ。

更にコロマルの事で焦っている事が厄して心臓に無駄に負担を掛けているのだから尚更であった。

息を切らす風花を、ゆかりが心配する中、チドリが前に出た。

結局は元々、行こうとしていた場所へ行くのだからコロマルの心配以外では特に困る事態では無い。

 

「先に行くね……」

 

「えっ!? チドリん無駄に早ぇぇ……!」

 

一見、動きづらそうに見えるチドリのゴスロリ衣装であったが、実は動きやすく彼女にとってはなんの障害でもない。

 

「チ、チドリさん!」

 

そんなチドリに追い付こうと成長期の乾もスピードを上げ、そのまま二人は他のメンバーよりも速く学園の中へ入り軽く息を整える為に下を向き、そして学園の中で何かをしているであろうコロマルを探そうと顔を上げた時だ。

チドリと乾の目線の先を見た瞬間、二人の背筋に電流が走った。

 

「「あ……!/えっ……!?」」

 

二人の目線の先に、コロマルは確かにいたが同時に四人の人物も確認した。

灰色の短髪の人物は分からなかったが、その内の二人は美鶴と明彦だと、すぐに確認出来た。

突然のコロマルの登場に美鶴と明彦も驚いていたが、そんな事は問題ではなかった。

チドリと乾に衝撃を与えたのは、コロマルが尻尾を嬉しそうに振りながらジャレついている自分達には背を向けている、もう一人の人物。

見覚えのある季節関係なく服装が黒か、それに近い色等の服を着こなしており"馴れた"感じで己にジャレてくるコロマルを撫でる人物。

乾は、その人物の正体がすぐに分かった。

忘れられる訳がない。

シャドウとの戦いで『彼』と共に誰よりも前に出て乾自身が一番、印象に残っている姿。

頼りになると同時に安心でき、いつも大きく見えた後ろ姿。

そんな人物、乾の知る中では一人しかいない。

 

「「洸夜さん……!/洸夜……?」」

 

「その声……乾とチドリか?」

 

乾とチドリの方は振り向かないまま、あまり気付かないが少し困惑が混じった様な口調で、洸夜はそう言った。

これが乾とチドリ、勿論、洸夜にとって彼等と二年ぶりの会話であった。

 

「天田? チドリも……? どうして此処にいる?」

 

「お前達は、今日は買い物じゃなかったのか……?」

 

本来ならば、この場所に来るとは聞いていなかったメンバーの登場に美鶴も明彦も困惑を隠せなかった。

 

「私が学園を見たいって言って……」

 

「そ、そしたらコロマルがいきなり走って……」

 

チドリは美鶴達の方を向いて言ったが、乾は未だに驚きが消えないのか目を大きく開いた状態で洸夜の背を見つめながら言った。

その時だ。

 

「洸夜さん……?」

 

「せ、瀬多先輩……!?」

 

「……!」

 

乾達の後ろから聞こえてくる声。

乾同様に驚きと困惑が混じった感じに言った風花と、どこか驚きよりも恐怖に近い感情で言った順平。

そして、ゆかりは言葉すらも失っていた。

 

これが、洸夜とS.E.E.Sメンバーの二年ぶりの再会で会ったが、それが一体どのような意味を持つ事になるのかは、まだ誰にも分からない。

 

「この人達……」

 

総司は、S.E.E.Sメンバーとの突然の出会いに洸夜と美鶴達を静かに見詰めていた。

 

End


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