同日
現在、月光館学園ー玄関前広場ー
「ワン!」
聞き覚えのある鳴き声の正体がコロマルと分かった瞬間、自分の周りをコロマルが回っていた。
洸夜は一体、なにが起こったのか最初は分からなかったのだ。
嘗ての仲間のコロマルとの再会に、洸夜は先程の美鶴達への怒りが急激に冷めるのを感じた。
コロマルとの再会が、洸夜の頭を冷静にする良い薬となった様だ。
しかし、それと同時に美鶴達との一件以来の二年と言う時間によって生まれた、嘗ての仲間への罪悪感や苦手意識に近い何かすらも目覚めさせた事となってしまい、洸夜は自分の足下で再会に喜ぶコロマルを気まずそうに見る。
「ワン!ハッ!ハッ!」
「……」
洸夜の気持ちを知ってか知らずか、嬉しそうに鳴き続けるコロマル。
そんな様子に洸夜はコロマルから視線を逸らした。
「……。(もう、昔の様にはいかないんだ……)」
そう心で言って……。
だが。
「!……クゥ~ン」
「っ!」
洸夜が眼を背けた事が悲しかったのか、コロマルは顔を下げて本当に悲しそうに一鳴きしたのだ。
そんな様子に洸夜も、罪悪感が湧かない訳がなかった。
「……コロマル」
「!……ワン!」
気付いた時には洸夜はコロマルの頭を撫でていた。
昔と同じ様に、今だけは二年前に戻った様に思える程に懐かしむ様に頭と顎の下を撫でていたのだ。
そんな洸夜から撫でられるのが嬉しいのか、コロマルも嬉しそうに鳴いている。
しかし、いつまでもこんな事をしている訳にはいかない。
何故、此処にコロマルがいるのかは洸夜にとって謎だが、美鶴達からしても予想外だった様だ。
「コロマル……! 何故、此処にいる?」
「コロマル……」
驚きの表情を見せる美鶴と明彦。
しかし、洸夜は自分でも驚く程に己が冷静になっていく事に気付いていた。
コロマルとの再会が洸夜に教えているのだ。
これは始まりだと言う事に……。
「「洸夜さん……!/……洸夜?」」
「……。(やはり、この街に来た事は運命だったのかもな……)」
後ろから聞こえた声に、洸夜は歯を食い縛りながら静かに眼を閉じた。
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そして、現在。
嵐の前の静けさ。
現在の雰囲気を表すならば、まさにこの言葉が相応しい。
そして、その嵐の中心にいるのは勿論、洸夜だ。
洸夜がジャレてくるコロマルを撫でていた手を止めると、コロマルは物足りなさそうに鳴いた。
「……クゥ~ン」
「……フッ」
そんなコロマルの姿に和んだのか、洸夜は軽くコロマルに微笑む。
そんな時だった。
洸夜の隣で今一、現状を脳が処理しきれていないのか、少し混乱気味に周りを見ていた総司がコロマルを見て漸く気付いた。
「この犬……確か駅で……」
それと同時だった。
洸夜の背中を見ながらビクビクしていた順平も、表情を困惑と後悔を込めたままの状態で総司に気付いた。
「あっ!? お前……確か、駅でコロマルに押し倒された修学旅行生……」
「えっ……!」
順平への言葉へなのか、それとも総司の姿を見たからなのか、風花はそう驚きの声を出すと総司と洸夜を交互に見ながら言った。
「こ、洸夜さん……この男の子は、もしかして……?」
「……前に何回か言った事があったろ? 俺の……弟だ」
「っ!?」
金槌で思いっきり頭を殴られた。
例えるならば、そんな衝撃が洸夜の言葉を聞いた順平を襲った。
総司が洸夜に似ているとは思っていたが、まさか弟だったとは流石に予想できなかった。
と言うよりも出来る訳がない。
この広い世界、国、街の中で自分達が傷付けた人の弟と出会う等と一体、どのぐらいの確率なのか。
しかし、順平はそれと同時に後悔もした。
出会う確率とは言うが、今思い出せばそれらしい事があったではないか。
あのコロマルが理由も無しに押し倒す様な事をする人物、明らかにコロマルが好意を持っている人物か、それに親しい人物だと考えれば分かる事だった筈。
なによりも、一番はあの姿そのものがヒントであったのだ。
独特な灰色っぽい髪、シリアスと言うか無愛想と言うか、何を考えているか今一つ読めない眼。
違いがあるとすれば髪の長さと、所々違う顔の微々たる違いぐらいだ。
現に、自分は最初に総司を見た瞬間、洸夜と間違えている。
順平が、そう思いながら運命のイタズラの怖さを実感していると、洸夜の言葉に風花達が驚いていた。
「えぇぇっ!!? 洸夜さんの……弟さん!?」
「この人が洸夜さんの……?」
「眼が似てる」
「……」
風花、乾、チドリの順でそれぞれが総司を見て思った事を口にする。
総司については洸夜から色々と話を聞いていた為、存在は知っていたが会うのは初めてであり、更に洸夜との再会の衝撃も手伝い、色んな感情が合わさって一体、いま自分がどの様な感情になっているのかも分かり辛い事態に風花と乾は陥っていた。
だが、だからと言って総司との出会いが嫌な訳では無く、寧ろ嬉しいと言える。
尊敬し憧れに近い感情を持っていた洸夜の弟と会ったのだ。
嬉しく思わない方が難しい。
しかし、そんな風花達を余所に、ゆかりは未だに口を開けないでいた。
理由は勿論、順平と同じ洸夜への申し訳ない感情からくる混乱等であったが、そんなゆかりの気持ちを今現在、ちゃんと理解している者はいない。
そしてそんな状況で、いつの間にか話の中心にいた総司もどんな反応をすれば迷っていた。
写真でしか見た事もなければ、詳しい事も知らない人達から珍しそうに見られても安易な反応で返す訳にはいかない。
総司が悩んでいる時であった。
「あれ……? (この子……)」
風花が総司から何かを感じ取った。
山岸 風花。
彼女のペルソナ"ユノ"は『アナライズ』の能力を持つ探知系に特化された特殊なペルソナであり、その力はペルソナを召喚していない状態でも多少は探知能力が発揮できる程に強力。
そんな風花が、総司からなにか特別な力を感じ取ったのだ。
その力は自分を含め、洸夜達も持っている仮面の力。
だが、どうにも違和感がある。
上手く完全に感知が出来ないのだ。
それはまるで、蓋が閉じられた箱の中に入っている様に思えた。
総司から感じ取れるのは、その箱から漏れ出している僅かな力だと思われるが、風花は今一確信がなかった。
それほど迄に、あやふやな感じだからだ。
兄である洸夜がペルソナ使いだから何かしらの影響が出ているのかとも考えたが、どうも納得出来ない。
「……。(他の人達も一緒だから……? でも、今までそんな事は無かったのに……)」
風花がそんな風に悩む中、総司も未だに悩んでいた。
年上と年下だが、相手は兄である洸夜の仲間で自分からすればペルソナ使いとしの先輩だからだ。
しかし、だからと言って何も言わずに黙っているのが、一番よくない事を理解している為に総司は冷静を装いながら言った。
「瀬多総司です。兄がいつも……御世話になっています……?」
これが総司にとっては精一杯の言葉だった。
少しあやふやな返答してしまい風花達に変な想いをさせなかったか心配し、総司が風花達の方を見ると。
「ふふ……!」
「……」
笑われてしまった。
嫌味ではなく嬉しそうに風花が笑う姿に、総司が少し心配になった時だ。
そんな総司の想いを察したのか、風花が慌てた様に総司へ言った。
「ご、ごめんなさい!? えっと……せ、瀬多くんがおかしかったんじゃなくて……」
「総司で良いですよ」
別に総司は自分の呼び方はなんでも良かったが、瀬多くんだと洸夜と被った様に聞こえてしまいシックリとこない為そう言ったのだ。
なにより、風花が洸夜との事もあり"瀬多くん"は呼びづらいと思ったのが理由だ。
そんな総司の意図を察したのか年下であり、昔も洸夜に気をつかってもらっていた事もある為、その洸夜の弟である総司にも気をつかわれた事で風花は少し恥ずかしそうに言った。
「あ、ありがとう……総司くん。それに自己紹介も遅れたね。私は山岸風花。ここ、月光館学園の卒業生で洸夜さ……瀬多先輩の後輩なの」
「僕は天田乾と言います。高等部ではないですけど一応、僕も洸夜さんの後輩で、洸夜さんには本当に御世話になりました」
「私は……チドリ。呼び方もチドリで良い。……私も洸夜に助けられたの」
「……」
風花達の言葉に総司は思わず黙ってしまった。
先程から聞いていれば、兄である洸夜が風花達にとって大切な人となっている事が分かり自分の事の様に嬉しくなったからだ。
兄の功績に総司は静かに微笑んだ。
すると、風花達が再び自分を見ている事に気付く。
「似てる……」
言ったのはチドリだ。
チドリは総司の顔を覗き込む様にマジマジと見て、その距離は息がかかるのではないかと思う程まで近くに来ており、チドリのほのかに甘い匂いに総司は漸く現状に気付き、冷静を装いながらチドリから離れる。
「っ!……えっと、兄弟だから一応、似ているとは思いますけど……」
少し不自然な総司の様子にチドリは、少し不思議がる素振りを見せるが、先程のチドリの言葉が自分と洸夜との事を言っている思い、そう言った総司にチドリは首を横へと振る。
「?……そうじゃない。洸夜とも似てるけど『彼』にも似てたから」
「っ!」
「……本当だ」
チドリの言葉に、意外にも反応したのは順平とゆかりの二人だ。
見た目も似ている点も多いが、雰囲気に関しては瓜二つ。
ふと、一瞬でも総司を見ると『彼』の面影が見えてしまう。
「……本当ですね」
「……うん」
風花と乾にも思う事があるのか、皆と同じ様に総司をマジマジと見る。
別に見られること自体は何の問題もないが、落ち着く訳でもない。
しかし、風花達の自分を見る眼が何処か悲しそうな人もいれば、嬉しそうに見たりと十人十色の視線になんと言えば良いか困る。
それに、総司には気になる事もある。
「ところで、風花さんはなんでさっき俺を見て笑っていたんですか?」
チドリの言葉も気になった総司だが、最初の疑問は風花が自分を笑った為、そちらが総司的に優先順位が上になっている。
その為、チドリの言葉を一旦は保留にし話題を最初に戻した。
「あっ……! それはね、さっき総司くんが洸夜さんが御世話になっているって言ったでしょ? 御世話になったのは私達の……方だった……から……!」
「洸……夜……さん……!」
「!? (な、泣いてる……?)」
総司は焦った。
先程まで明るい雰囲気だったのに突然、風花と乾の眼から涙が流れ、泣き始めてしまったのだから。
なんで泣いているのが分からず総司は、思わず他のメンバー……名前もまだ知らない順平とゆかりの方を見る。
「あっ……っ!」
「……」
「?」
総司が二人を見ると、順平はなにかを言おうとしているが煮えきれない様な感じに黙るの繰り返しで、ゆかりは何故か総司を黙ってチラ見しながら洸夜の背中を見るの繰り返しで、二人共なかなかに挙動不審な様子だ。
どうも、何かがおかしい。
そう思う総司だったが、それよりも気になったのは風花達だった。
「洸夜さん……!」
乾は軽く涙を流しながらも、未だに自分達の方を向かないまま総司と乾達の話を黙って聞いていた洸夜の背中に抱きついた。
二年前、突如として自分達の前から姿を消した洸夜。
あの事件、そして『彼』の一件での罪悪感等の全てを背負って消えた自分達の兄貴分。
少なくとも、美鶴達から真実を聞かされていない乾はそう想いながら洸夜の名前を呟き、そんな乾に洸夜も静かに口を開く。
「……背が伸びたな」
「……はい。成長期ですから……!」
まるで二年前の様だと思い、乾は嬉しそうに言い、風花も嬉しそうに自分の涙をふく。
「洸夜さん……来てくれていたんですね。私……もう、本当に会えないって思い始めてた……!」
そう言いながら風花も、そして乾も確かに感じる洸夜の存在に思わず昔の事を思い出していた。
自分達にペルソナ等について教え学ばしてくれた洸夜。
あの寮で自分達の居場所を暖かくして支えてくれていた『彼』とは別の意味で大切な先輩。
そして、いつも自分達を守ってくれた者であり、風花と乾は洸夜が傷ついてない姿を見た事がない。
いつも自分を犠牲にしていた洸夜を、風花と乾は誇りであり憧れであり目標であり、そして……いつかしっかりと肩を並べて共に戦い、守ってあげたい人。
いつも守ってもらっていた風花と乾にとって、自分の代わりに洸夜が傷ついていた事が一番辛い事でもあった。
ミスが許されない戦いの世界だが、自分達が探知や技のミスで他のメンバーが危機に至る事もあった。
しかし、そんな状況をカバーしてくれていたのが洸夜と『彼』の二人だ。
この二人がいなければ世界は既に滅びを迎えていたと言っても過言ではない。
そんな二人に全てが終わったら、なにかしてあげようとも風花達は思っていた。
だが、それは叶わない事となってしまった……あの戦いの後『彼』は眠り、洸夜は街を去った。
まるで、もう自分達がやり残した事はないと言っているかの様に、二人のワイルドを持つ者達がいなくなった場所に残ったの"寂しさ"や"虚無感"だけであった。
しかし、洸夜は今ここにいる。
風花達にとって、これ以上に嬉しい事は今の所はない。
「洸夜さん! 僕と風花さんのメールを見てくれたんですよね!」
洸夜がここにいる理由。
それは自分と風花が送ったメールだと思っていた乾は洸夜に嬉しそうにそう言った……だが。
「……いや、メールは見ていない」
「えっ……?」
伏見からOBとして洸夜が呼ばれていた事を知らない風花と乾は、自分達のメールを洸夜が見て、この街に来てくれたのだと思っていた為、洸夜の言葉に一瞬だが思考が止まり、同時に洸夜から何故か距離を感じてしまう。
優しく頼りに見えた洸夜の背中も、何故か冷たく感じてならない。
「……俺がこの街に来たのは、伏見からOBとして呼ばれたからだ。そして、俺なりに二年前の事件の"ケジメ"をつける為だ」
「「っ!」」
「「洸夜……!」」
「「っ!? 洸夜さん……!」」
洸夜の言葉に順平とゆかりが、美鶴と明彦が、風花と乾が困惑や驚愕の表情でそれぞれそう言った。
美鶴達がそれぞれ、洸夜の言葉にどう言う想いを抱いたのかは誰も分からないが、その表情から察するに風花、乾チドリ後、コロマル以外は後悔と罪悪感の念を抱いているのは間違いないだろう。
そして、そんな緊迫とした状況下で総司が何も思わない訳がない。
「……ケジメ?」
総司も、そんな兄の言葉に疑問を抱く。
家に戻った時の洸夜の異変や、先程からの二年ぶりにも関わらずどこか冷たい感じの洸夜の姿。
何かがおかしいのだが、あと少しと言うところで今一分からない。
「……。(兄さんと美鶴さん達……本当にあと少しなんだ。二年前に何かがあったのは確かなんだ……)」
二年前の洸夜と美鶴達の決別の切っ掛けの事件を知らない為、総司の推理はここで止まってしまった。
総司の中では考えもつかないのだろう。
命懸けで戦った仲間と洸夜との間に、あの様な揉め事が起こった等と……。
総司が色々と考える時だ、この重苦しい空気を破る者が出た……天田 乾だ。
「っ! 洸夜さん!!」
乾はまるで、何か覚悟を決めたと同時に決心を固めた様に表情を真剣なものとし、気付けば洸夜に大声で叫んでいた。
こうなってしまえば、後はもう突き進むしかない。
「僕……ずっと洸夜さんに言いたかったんです! あの事件と『あの人』の事を……洸夜さんが全ての責任を感じて背負う必要は無いってっ!!」
「っ! (乾……)」
「「「「っ!?」」」」
思わず乾の言葉に洸夜は反応し、美鶴達も洸夜とは別の意味で反応した。
「……?」
皆の意識が乾に行く中、そんな美鶴達の反応にチドリが気付いた。
先程からどうも様子がおかしかったが、洸夜と再会してから更にその様子がおかしくなった気がしてならない。
本人達は平常を装っている様だが、走ったとは言えそれでも過剰に思える汗の量、異常に鳴り響く心拍数によって揺れる服、平常を装うとして意識した結果、ときどきしてしまうおかしな呼吸。
彼女も伊達にストレガにいた訳では無い。
無意識の内に磨かれていた洞察力で、チドリは順平達の違和感に気付いたのだ。
自分を含め、洸夜との再会はずっと皆が望んでいたのは間違いない。
それを証拠に現に、風花と乾は思わず涙を流し、コロマルは喜び尻尾をちぎれんばかりに振っている。
だが、美鶴達のリアクションは風花達とは違い、嬉しさの感情が読み取りずらい。
美鶴と明彦からは多少は嬉しさが感じ取れるが、なにかを悟り、覚悟を滲ませている表情に、その嬉しさを隠せる程に感じ取れるのは"罪悪感"や"恐怖"に近いなにか"負"の感情に近いもの。
チドリ自身、美鶴達や洸夜と一緒にいた時期はそんなに長くはないが"瀬多 洸夜"と言う人物と皆との関係性は把握しているつもりだ。
その為、美鶴と明彦からそんな感情がながれるのはおかしい事この上なかった。
しかし、一番おかしいのは順平とゆかりの二人。
この二人からはあからさまに、この場に不相応な感情が多く感じ取れる。
罪悪感、恐怖、後悔、不安、緊張。
自分が入院していた時、順平は『彼』と洸夜の事をよく自分の事の様に自慢をしていたのをチドリは覚えている。
それ故に、何故この二人からそんな感情しかでないのか理解に苦しむと同時に、ある考えが過る。
「!……。(もしかして、洸夜がいなくなったのってーーー)」
「洸夜さん! どうして一人で抱えるんですか……? 僕達……そんなに頼りないんですか……?」
「……」
自分の言葉に沈黙で返す洸夜に、乾は不安になるばかりであった。
洸夜が学園都市を黙って出ていったのは、一人で全てを背負ってしまったから。
少なくとも、それが乾の考え。
そして、何も言わない洸夜に風花は悲しそうな表情で聞いた。
「洸夜さん……辛くないんですか? 一人で背負って……一人で……本人に辛くはないんですか?」
「……」
「どうしてなにも言ってくれないんですか…… あの事件で背負う事があるなら、それは私達も背負う必要がある筈……もう、一人で傷付かないで下さい……!」
「風花さんの言う通りですよ! 僕達……寂しかったんですよ? 黙って消えて……それっきり連絡もない。洸夜さんはいつもそうです……周りの事ばかりで、自分の事はいつも後回しにする……」
乾はそう言いながらポケットから黄金色の鈴を取りだすと、風花も同じ様に財布に付けている緑色の鈴を取り出した。
「洸夜さんから貰った鈴……まだ、皆ずっと持っているんですよ? 思い出であると同時に、これが洸夜さんと私達をいつかもう一度、出会わせてくれると信じてたから……」
風花はそう言って鈴を優しく握る。
彼女の中で小さく鳴る鈴はまるで、風花達と洸夜の再会を祝っている様にも思えるが、それは少なくとも風花達だけなのかも知れない。
「風花……乾……お前等は、俺なんかともう一度会いたかったのか?」
「……洸夜さん。洸夜さんは、もう……僕達とは会いたくなかったんですか?」
どこか興味が薄らいでいる様な感じに話す洸夜に、乾は更に不安になりながら聞き返す。
だが、その眼は決して洸夜の背から動かさない。
もう二度と、洸夜を見失わせない様に自分を言い聞かせているかの如く乾の眼は強く光っていた。
……次に洸夜の言葉を聞くまでは。
「それはお前等の方も一緒だと思うがな。……そうだろう?……順平? ゆかり?」
洸夜は誰も見ていないが、眼を強ばらせている。
「「っ!」」
「「え……?」」
そして、洸夜からの突然の言葉に順平とゆかりは静かに顔を上げ、風花と乾は一体、洸夜がなにを言っているのか分からずに言葉のまま順平とゆかりを見る。
そんな様子に対し、美鶴と明彦は黙って状況を見守り、順平とゆかりは思わず風花達から目を反らし、コロマルは心配そうに皆を見る。
洸夜はそんな状況で黄昏るかの様に、静かに顔を空へと向ける。
「なにも言わないならば、それで良い。なにか言った所で変わる訳じゃないからな……総司」
「なに?」
「先に行っている。お前も早く花村達と合流して、指定された教室へ行け」
洸夜はそう言って静かに学園の方へと歩き出した。
やはり無理だ……と内心で思いながら。
千枝の言った様に、心のどこかで和解しても良いと言う自分もいるのは確か。
だが、美鶴達と会った瞬間に迷い、分からなくなる。
許して良いのか?
許した所で、また裏切るのではないか?
洸夜の不安は尽きない。
しかし、先程からの順平とゆかりの黙りを感じていると段々、イライラしてくるのを洸夜は感じている。
それはまるで、子供に悪戯の理由を聞いた時、その子供がウジウジとずっと黙り続ける時の様なイライラだ。
当事者である自分が目の前にいるのだ。
風花達を前に言いたくないのか、それとも総司の存在があるからなのかどうかは分からない。
だが、順平達がずっと黙っているのは確かな事実だ。
「あっ! 洸夜さん!?」
「一体、どういう事ですか……? さっきの洸夜さんの言葉……順平さん達となにかあったんですか?」
なにか察した乾が、先程から黙っている順平達を不安な表情で見る中、美鶴が洸夜を呼び止めた。
「待ってくれ洸夜。少しだけ話を聞いてくれないか……?」
「……この"偽り"の状況でこれ以上、俺は一体なにを聞けば良いんだ。風花と乾に、偽りを植え付けたお前等からの懺悔でも聞かせたいのか?」
美鶴の言葉に洸夜は足を止めてそう言ったが、相変わらず見ている方向は順平達とは正反対だ。
しかし、美鶴も洸夜を呼び止めてまで、そんな事を聞かせたい訳ではない。
神へ赦しを乞う様な事もしなければ、再会によって生まれた驚き等の感情を利用してあやふやにする様なマネもして、この場を修めると言うオチにするつもりは既に美鶴と明彦の心には無い。
「その通りだ洸夜。今、この場は偽りの状況だ。だからこそ……偽りを"真実"へ正さなければな。風花、乾。そして、君も聞いてもらえるか?」
「俺も……?」
総司の問いに美鶴は静かに頷いた。
一体、なにを聞かされるのか総司は予想できないが、これから美鶴が言う言葉を自分は聞かなければ
いけない気がした。
いや寧ろ、ここで聞かないと自分は絶対に後悔すると、総司は判断した。
やっと分かるかも知れないのだ。
自分が知らない……兄の抱えている心の傷の正体が。
「それは償いのつもりなのか……美鶴?」
洸夜は咎める様な感じに美鶴の方を向かずに彼女へそう言いったが、美鶴は首を横へ振る。
「違う……こんな事では、なんの償いにもならんだろう。ただ私は……真実を教えるだけだ」
「あの……? 一体、なんの事を言っているんですか?」
「皆さん。さっきから様子がおかしいですよ……一体、なんのーーー」
「乾。今は静かに……ね?」
美鶴からの只ならぬ覚悟を感じたのか、乾に今は静かに言う様にチドリは言った。
まるで乾の姉の様な感じに優しく話すチドリに、乾は思わず黙ってしまう。
だが、洸夜はそんな美鶴達の言葉を黙って聞く気はなかった。
「言うタイミングは幾らでもあったろ……。お前等の自己満足に付き合う気は無い」
本当は、こんな事を言いたい訳じゃない。
ベルベットルーム、稲羽、千枝と陽介、美鶴達。
その場所・人物の前では何度も悩み、許そうとする感情を何度も感じていた。
だが、現に自分は美鶴達・順平達の前で怒りと憎しみが顔を出し始めている。
それだけならまだ良いが、無関係であり自分に好意を懐いてくれている風花達をも遠ざけようとしている。
自分が一体、なにを望んでいるのか分からない。
それに今更、こんなタイミングで言ったからなんだと言うのか。
自分の目の前で見せ、自分達の謝罪の念でも見せようとしているのだろうか?
洸夜は内心でそう思い悩みながらも、美鶴達を無視して再び学園へと歩きだそうと足を一歩、前へと進ませた。
「待って下さい。洸夜さん」
自分を呼び止める声が洸夜の耳に届くと同時に、洸夜は反射的に足を止める。
そして、自分を呼び止めた相手に向かって言った。
「お前だけが来てない訳が無いとは思っていた。それで、今度はなんだ……アイギス?」
洸夜を呼び止めたのは先程、駅で足を止めていたアイギスであった。
今、漸く追い付いたのだろう。
また、ある意味で修羅場と言えるこの状況を見ても、特に怯んだ様子を見せないのは流石と言うべきかアイギスは洸夜の言葉を聞きながら静かに洸夜の方へ歩き出す。
「アイギスさん……?」
「お久し振りですね総司さん。菜々子ちゃんは、お元気ですか?」
「はい。菜々子は、アイギスさんに会いたがっていましたよ」
「私もです」
「え? ねえ、アイギス? なんであなた、総司くんの事を知っているの?」
「僕達が総司さんに会ったのは、ついさっきなんですよ?」
ゆかり達からすれば当然の疑問であろう。
アイギスの総司への接し方や会話内容から察するに、総司の事を聞いていたからとかではなく、明らかに一度は出会っている者同士なのが分かる。
初対面でこんな会話が出来る者がいたら逆に見てみたい。
ゆかり達はまさにそんな想いだ。
「美鶴さんのお見合いの時に一度、お会いしたんです。その時に、菜々子ちゃんと言う女の子とも仲良くなったりしまして」
「お見合い?……もしかして、前に言っていた桐条先輩のお見合いの事すか?」
「ああ、そのお見合いでの事だ。俺も付き添いで言ったから総司くんと会うのは、これで二度目だ」
「……ちょっと待って下さい。美鶴さんのお見合いで総司くんと会ったって事は、美鶴さんのお見合い相手ってもしかして……」
そう言ってゆかりが自分達に背を向けている洸夜を見て、そのまま今度は美鶴の方を向いた。
どうやら、お見合い相手が誰か察しがついた様だ。
ゆかりを始めとして他のメンバーも美鶴の方をジッと見始めた事で、美鶴はバレているであろう事実を言った。
「お見合い相手は……その…………洸夜だ」
自分ではポーカーフェイスを決め込んだつもりだったが、やはり恥ずかしいのか美鶴の表情は仄かに赤くなっていた。
そして、その美鶴の言葉と様子に案の定、メンバー達が騒ぎ出した。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「美鶴さんと……洸夜さんが……お見合い……!」
「おめでとう……パチパチ」
「チドリ、まだお見合いしただけなんだから……」
苦笑しながらゆかりはチドリにそう言うが、彼女の表情には漸く笑みが浮かばれている。
それは他のメンバーにも言える事でもあった。
似ているのだろう。
今、この雰囲気やノリがS.E.E.S時代の時と……それ故に、思わず笑みが生まれたのだ。
「……。(泣いたり笑ったり忙しい人達だな)」
先程とは打って変わって再び明るいムードな感じになった事で、総司もゆかり達の事をどこか芸人かなにか見る様な眼で見てリアクションを楽しんでいる。
「えぇい! 少し静かにしてくれ!」
自分が言おうとしていた事は、こんな事ではない。
美鶴はそんな想いの中、ゆかり達を一喝して静かにさせる。
だが、そんな中で順平だけが口を開いた。
「……すいません。一つ良いすか?」
「,どうした順平?」
どこか悩みを抱えた様な順平の様子に明彦が聞き返す。
「いや、その……今の話からすると先輩達は今日よりも前に瀬多先輩と……」
「……ああ、会っていた」
「一応、言っておくが隠していた訳じゃない。少し問題もあってな。話すにも話せなかったんだ」
美鶴の言葉に明彦がそう付け足すが、順平は特に気にはしていなかった。
「そう……だったんすか」
「……順平さん?」
その場で再び顔を下にして考え込む順平にアイギスが問い掛けるが、代わりに答えたのは先程まで沈黙していた洸夜であった。
「いい加減にしろ! アイギス! お前が俺を呼び止めたのは、こんな事を聞かせーーー!?」
己の感情が混乱している中、S.E.E.S時代の雰囲気を洸夜も感じ取った事で更に訳が分からない気持ちになり、洸夜は話を中断させようとアイギスへ言おうとしたが、それは叶わなかった。
洸夜の頭に再び、あの"声"が聞こえたからだ。
"……何故、悩ム? 何故、後悔スル?……これハ、お前ト美鶴達が"築イタ"関係ダロ?"
「グゥ……! ガアァ……! (これは、また……! お前は一体、なんなんだ……!)」
お見合いの時にも感じ、再び聞こえだした謎の声。
だが、今度の声は前とは違った。
前よりもシャドウに似た雰囲気が強いのだ。
謎の声によって身体全体がザワザワとした不快感に襲われながらも、洸夜は自分の意思をしっかりとし、声の相手を非難する感じに心で良い放った。
しかし、だからと言ってその声が止む訳でもなかった。
"我ハ……汝……"
「こ、洸夜さん……?」
「クゥ~ン……」
洸夜の異常に気づいた乾とコロマル。
しかも、今の洸夜からは先程まで感じていた洸夜の優しさや安心感は既になかったと同時に、こんな風に洸夜が声を発する姿を乾は見たことがなかったからだ。
また、そんな状況を驚いていたのは総司も一緒だ。
「兄さん……どうしたの? 様子がさっきからおかしい」
「なんでも……ない! 良いから……早く教室へ行ってくれ……。(マズイ……目眩が……!)」
歪む視界、流れ出す汗、耳に届く画用紙を擦り合わせた様なガサガサとした雑音。
そんな状況下でも、洸夜の自分の問題に総司を巻き込みたくないと言う想いが総司の言葉を一蹴させ、無事に見せる為か今度こそ学園へ行こうとする洸夜。
そんな時だ。
「……くれ……待ってくれ瀬多先輩!!」
そう言って洸夜を呼び止めたのは……順平であった。
その表情は先程の不安な表情とは違い、なにかを決意した表情をして真っ直ぐに洸夜の背中を見据える。
「……。(順平……)」
そんな順平の言葉に洸夜はまたもや足を止めたが言う事が出来ないのか、足をしっかりと立たせるだけで精一杯だ。
しかし洸夜は、何故かそんな状況でも順平の言葉を待ってしまい、順平は無言で静かに洸夜の方へと近付き、その様子を他のメンバーも心配そうに見詰める。
そして……。
「……俺……俺……すいませんでしたっ!!!!」
洸夜の背中まであと少しと言った所で、順平はその場で洸夜に向かって"土下座"をして謝罪したのだ。
地面に頭を擦り合わせた時にゴツンと鈍い音が聞こえ、順平自身もズキズキとした痛みを感じたがそんな事はどうでもよかった。
美鶴達は自分よりも前に洸夜と既に会っていた。
そして、今度は今日。
洸夜が自分とゆかりに余り言わないのは美鶴達に既に色々と言っているからなのかも知れない。
それに美鶴は今、皆の前であの事を言おうとしている。
行き当たりばったりで出来る事じゃない、覚悟を決めていた証拠だ。
そう理解出来た瞬間、順平は直感的に動いていた。
「……。(ここで瀬多先輩から逃げたら、俺は……自分を一生許せねえ……!)」
この二年、順平自身もずっと悩んでいた。
何故、自分が洸夜にあんな事を言ってしまったのか?
何度も何度も問い掛けた質問。
答えは分からなかった……考えたくもなかった。
自分の過ちに、向かい合う勇気がなかった。
その内、時間が解決してくれるかも知れないとすら思っていたかも知れない。
だが、今日の再会が順平の頭を冷静にしてくれた。
今、自分が洸夜になにをしなければならないのかを……気付いたら、既に行動に移していた。
「順平さん!? なにしているんですか! 」
「学園の中で土下座なんて……どうしたの!?」
何度も言う様に、洸夜と美鶴達の出来事を知らない風花達からすれば今の順平の行動は理解出来ないだろう。
いつものおふざけかなにかとすら思ってしまうだろう。
そして、そんな順平をチドリとゆかりも見ていた。
ゆかりは驚き、チドリは察していたかの様に冷静に見ており、美鶴と明彦は順平の行動に驚きながらも冷静に物事を判断して順平に近付く。
「やめろ順平……洸夜は謝罪は望んでいないんだ」
「下手な謝罪は逆に洸夜を傷付ける……」
「……分かってます。でもよ……俺はどうしても瀬多先輩に言わなきゃならない事があるんすよ!」
額を赤くしてそう叫ぶ順平の姿に、風花と乾、総司ですらもう何がなんだかわけが分からないでいた。
そして、洸夜自身も順平の話を殆ど聞こえていなかった。
アイギスの時と同じだ。
段々と意識がなくなって行く
そんな感覚に襲われていた。
「ハァ……ハァ……グウゥ……!! (なんだ……順平が……なにか言っているのか? ……なんて言ってる? 聞こえ……)」
"望ンダのはお前等ダ。お前等ガ望ンダ……真ナル"絆"ダ"
「ち、違う……! こんなものが……絆な訳が……"ない"だろ!…………ハッ!?」
"………"
洸夜は自分の中から、なにかが込み上げてくるのを感じた。
「先輩……俺ずっと悩んでた。なんであの時、先輩にあんな事を言っちまったのか……本当になんであんな馬鹿な事したのか今でも分かんねえけど、少なくとも……俺達が先輩を傷付けたのは事実だ!」
「……順平さん。一体、なにを言っているんですか?」
「傷付けたって……なんの事を?」
「……まさか」
この状況で混乱している乾と風花はまだ真相に辿り着けない。
だが、総司は気づきかけていた。
二年前の兄の様子、苦しみ。
今の順平達の様子や、前に見た美鶴達の様子から総司はある可能性に辿り着いたのだ。
もし、大切な人達が犠牲になる程のシャドウ事件で万が一、責任等の話になったとしたらどういう事になるだろうか?
ワイルド能力者の二人の内、一人は自らの命を掛けたのにも関わらず、もう一人のワイルド使いは生きている。
その状況で、なにも思わない人物がいるのだろうか?
もし、その状況が自分の兄に当てはまっているとしたら……。
総司は真実を知る為、敢えて順平の言葉に口を挟まず聞き続けた。
「けど……勝手だけど、本当に勝手っすけど! もう、あのメンバーで笑い合えないのは嫌なんすよ……俺。でも、だからってそんな簡単に許して貰おうとも思ってねえ!……だから……だから……!」
順平は息を呑み、拳を握り締めて言った。
「俺は許さなくて良いっすから……せめて、ゆかりっちと真田先輩。そして……桐条先輩の事は許して上げて下さい!!!」
「!?……順平」
「お前……」
「順平……なにを言っているんだ!」
順平の言葉に美鶴達は案の定、順平に詰め寄った。
そんな事は自分達は望んでいない。
順平一人が罰を受け、自分達はのうのうと許される事等、合って良い訳がない。
洸夜もそんな事を承諾する訳がない。
「でも、俺……桐条先輩と真田先輩が、瀬多先輩とこんな関係になるのは嫌なんすよ! あんなに信頼し合ってて……原因を作った俺が言うのもなんなんすけど、こんな事は荒垣先輩も……『アイツ』だって望んでねえ!」
そう言って、順平は帽子に気を付けながら再び頭を下げた。
「……順平」
順平の言葉に美鶴も心の中で似たような事を感じていた事を思い出した。
確かに、二年前のあの戦いが終わったにも関わらず、自分達と洸夜に溝が生まれた。
『彼』も、こんな事態を招く為にニュクスを封印した訳ではないのは全員が分かっていると同時に『彼』の想いも知っている……洸夜を除いて。
自分達の後悔や現実を受け止めきれない弱さが招いた事件とも言える事実上、S.E.E.S最後の戦い。
全てが終わったとは思っていない。
少なくとも、洸夜と自分達との問題が解決しない内は二年前の事件は全てが終わったと言えない。
それが美鶴の考えだ。
そして、拳を握り締めながら頭を下げる順平の姿にアイギスも思わず瞳を閉じ、洸夜へ言った。
「洸夜さん……あの出来事で洸夜さんの責任はありません。洸夜さんは誰も守れていないとおっしゃいましたが、そんな事はありません。現に私達は生きています!」
「……」
アイギスの声は、まるで藁にもすがる様な想いが感じ取れたがそれでも洸夜は黙っている。
その様子にアイギスはもう一度だけ、口を開いた。
「ただ許して上げて欲しいとは言いません。ですが洸夜さん……せめて、せめて一度だけでも良いですから順平さんの言葉を聞いてあげてください」
「兄さん……」
アイギスの想いの詰まった言葉を聞き、総司もこれは尋常ではない覚悟だと判断し黙ったままの兄を見る。
そして、気付いたら。
総司の位置からギリギリ洸夜の口許が見え、その口許は優しそうに微笑んでいる様に見えるのだ。
洸夜は順平とアイギスの言葉になにを思い、感じたのかは総司にも誰にも分からず、その微笑みの意味がなにを意味しているのかも分からない。
しかし、洸夜が二人の言葉になにを感じてくれているのは確かだ。
それから、総司が言葉を発して十秒程度の時が過ぎた時だった。
洸夜は、初めて順平達の方を振り向き始め、そして……。
"我は汝……汝は我……"
『無理だな……!』
先程、見えた優しい笑みを歪んだ笑みへと変え、その瞳を禍々しい金色の瞳に変貌させ、そう言い放ち、身体から黒い力を放出させながら総司と美鶴達を見据えた。
この状況は正に、影の目覚めの時であった。
End