ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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台風に気を付けよう!

そしてこの所、普通に文字数が二万を越えてしまう今日この頃。


負の人形使い

同日

 

現在、黒き愚者の幽閉塔【十二階】

 

「イシス!」

 

「トリスメギストス!」

 

洸夜の影の言葉が終わると同時に、ゆかりと順平は武器を構えながらペルソナを召喚し目の前の敵に向かって走り出した。

 

「待ってゆかりちゃん! 順平くん! まだ相手の情報が分かってないから!?」

 

探知が終わっておらず、洸夜の影のステータスが分かっていない為に風花は二人を止めようと声を掛けたが、二人はそのまま走り続けた。

 

「私達は大丈夫! 風花はそっちに集中して!」

 

「先手必勝して困る事はねえからな!」

 

そう言ってペルソナの共に二人は走り、そのまま二手に分かれ洸夜の影を挟む形となった。

そして、互いのペルソナも攻撃態勢をとった。

 

「イシス! ガルダイン!」

 

「トリスメギストス! ギガンフィスト!」

 

主の命により、二体のペルソナは洸夜の影に攻撃を放った。

イシスは巨大な風を放ち、トリスメギストスは身体に光を纏い、そのまま洸夜の影へ突撃を行う。

その二体の攻撃はフロアの床を削りながら進んでおり、どれ程強いのかはすぐに理解出来る程だ。

しかし、そんな二体の攻撃に対し洸夜の影は何もせず、動こうとしない。

そんな光景に、ゆかりと順平の二人は怒りを隠せなかった。

 

「どこまで馬鹿にする気よ!」

 

「当たっても自己責任だかんな!」

 

その攻撃に対し、文字通り避けるまでないと言わんばかりの洸夜の影の態度に対して叫んだ二人の言葉と同時に攻撃は洸夜の影に当たり、大きく爆発を起こした。

そして、そこを中心に巨大な衝撃波がフロアを駆け巡る。

 

「アテナ!」

 

皆を守る為、アイギスはアテナを召喚してその巨大な盾で衝撃波から美鶴達を守り、ゆかりと順平もそれぞれ膝を曲げるなどしてその場に踏ん張った。

 

「っ!……どうなった……の?」

 

「手応えは合ったぜ……俺っち的にはだけど」

 

攻撃によって発生した煙によって洸夜の影の姿は見えず、どうなったのかが分からない。

しかし、二人は内心では手応えを覚えており、倒せないまでもかなりのダメージを与えたと言う確信があった。

次の瞬間が訪れるまでは。

 

『ククク……ハハ……』

 

「っ?! 二人共構えて! 洸夜さんのシャドウは生きてる!」

 

聞き取れるかどうかの小さな笑い声が放たれた瞬間、探知を急いでいた風花が最初に異変に気付き、二人に対して叫んだ。

その風花に声を聞き、ゆかりと順平はすぐさま構え直して煙が晴れるの待つ。

晴れた瞬間に反撃されるかも知れないからだ。

しかし、全員が見たのは予想外の光景だった。

 

『アハハハハッ!! 所詮はそんなもんだよな? ワイルド亡き仮面使いの実力は……』

 

笑い声と共に全員が見た光景。

それは、まるで洸夜の影の両肩から生えている様に両脇に佇む黒い二体の何かが先程のゆかりと順平の攻撃を防ぎ、洸夜の影を守っている光景であった。

そして、その二体の何かはペルソナ『マサカド』と『ジャターユ』に似ており、マサカドがトリスメギストスを刀で受け止め、ジャターユがイシスのガルダインを翼で受け止めたのか、翼から煙が発生していた。

その光景にゆかりと順平は勿論、美鶴達も驚きを隠せなかった。

 

「やはり、ペルソナか……!」

 

「あの時と同じ。ホテルでの暴走か!?」

 

美鶴と明彦が悪い夢だと言わんばかりに呟き、ゆかりと順平は洸夜の影が無傷の姿に目を大きく開いて驚いていた。

だが、それが同時に大きな隙を生み、洸夜の影はそれを見逃さなかった。

 

『マサカド! ジャターユ!』

 

それは刹那の出来事だった。

マサカドが刀でトリスメギストスを殴り倒し、そのまま順平へ身体を大きく広げて迫る。

ジャターユも同じ様にゆかりへ翼を広げて迫った。

 

「ゆかりさん! 順平さん!」

 

乾が二人に危機を伝える為に叫んだ。

しかし、ゆかりと順平は一体、目の前で何が起こったのか分からず、それが原因で認識が遅れてしまっていた。

刀を順平へ振り上げるマサカド、鋭利な刃の様なクチバシをゆかり目掛けて飛んで行くジャターユ。

それが、気付いた二人が見た光景であった。

だが、二体の攻撃は二人に届く事はなかった……それを遮る者達がいたからだ。

 

「カエサル!」

 

「メーディア……ポイズマ!」

 

順平の前に明彦が、ゆかりの前にチドリが二体のペルソナの前に立ちはだかったからだ。

チドリのペルソナであるメーディアは、ジャターユに目掛けてポイズマを放ち、それが当たるとジャターユは苦しむ様に奇声を上げ、ゆかりに届く前に地面に落ち消滅した。

そして、順平に迫っていたマサカドの攻撃もカエサルが大剣で受け止めると、明彦は己のペルソナを踏み台にしマサカドへ拳を降り下ろした。

 

『拳の心得』

 

カエサルの力も明彦を強化し、明彦の拳はそのままマサカドの腹部へめり込み、マサカドは腹部優先に地面にめり込むとそのまま消滅する。

 

『弱い……弱い……その程度の絆ではこの程度の力か。片腹痛いな……』

 

先程の光景を見ていた洸夜の影は、先程からしているつまらなそうな口調でそう呟く。

その時だった。

 

「ほう、戦いの最中に独り言とは 余裕だな?」

 

『ッ!』

 

そう言い放ち、洸夜の影に現れたのはサーベルを降り下ろして来ている美鶴の姿だった。

洸夜の影は咄嗟に後ろへ下がったが、肩にサーベルがかすり、洸夜の影が表情は初めて歪んだ。

しかし、美鶴は攻撃を止めず、追撃して行く。

一回、二回とサーベルを振ってからの付き、そして一定のタイミングで身体を一回転して蹴りを入れる。

無駄の無い動き、しかもそのスピードが早いとなれば尚も辛い。

なんとか避ける洸夜の影だったが、ダメージが少しずつ蓄積していき、それは咄嗟の隙を生む。

先程より、ワンテンポ、たったのワンテンポずれた洸夜の影の動きが鈍くなった瞬間、美鶴は洸夜の影に強烈な蹴りの一撃を入れた。

 

『グッ……! 』

 

綺麗に腹部に美鶴の蹴りが入り、表情は更に険しくなる。

しかし、流石はシャドウと言うべきか、常人ならば数メートルは吹っ飛んでもおかしくないにも関わらず、洸夜の影は両足で耐え、殆ど動かなかった。

それを見た美鶴は更に追撃を試みる為、前へ出た。

しかしその瞬間、洸夜の影の瞳が光り、足下から大量の縄の様なものが現れる。

美鶴は咄嗟に後ろへ下がり、それから距離を取ると美鶴は縄の正体が分かった。

それは縄ではなく、蛇……ヤマタノオロチであった。

 

『ヤマタノオロチ……!』

 

洸夜の影の言葉にヤマタノオロチの頭全てが美鶴に牙を向く。

 

(やはり、あのホテルの屋上と同じ……いや、力だけならそれ以上!)

 

前にホテルでの戦った時以上の力を美鶴は感じとっていた。

動きも威圧感も全てが別物であり、まるで洸夜本人と戦っている様に思えてならない。

しかし、ここでそれを受け入れ殺される気は美鶴は更々なく、アルテミシアを召喚しヤマタノオロチを迎え撃った。

 

「アルテミシア! 鞭を振れ!」

 

美鶴の指示にアルテミシアは弾く様に鞭を素早く降り、ヤマタノオロチの二つの頭を一撃、二撃と素早く叩いて美鶴を牙から守る。

だが、その瞬間に残りの頭がアルテミシアへ襲い掛かった。

戦えるヤマタノオロチの首は先程の二つを除けば残りは六つであり、その内の四つが攻撃を繰り出して行く。

四つの内の二つはアルテミシアの首と腰に巻き付きながら締め上げ、残りの二つは両腕へ噛み付き動きを封じに掛かった。

アルテミシアも一応は鞭で反撃するが、ヤマタノオロチは鞭ごと噛み付き一進一退の攻防となってしまう。

しかし、ヤマタノオロチにはまだ二つの頭が残されていた。

アルテミシアとヤマタノオロチの四つの頭が戦う中、残り頭が左右から飛び出し美鶴を直接狙いに掛かったのだ。

 

『シャアッ!』

 

美鶴を狙う二つの頭の内の一つが口からブフーラを美鶴へ放った。

 

「ッ!」

 

美鶴はそのブフーラを後方へ飛びそれを回避した。だが……。

 

『シャッ!』

 

もう一つの頭が時間差で美鶴が後ろへ飛ぶと同時にブフーラを美鶴へ放つ。

タイミングが完全に合ってしまい、今度は避ける事が出来ない。

その為、美鶴はその場でサーベルを振りブフーラを弾いた。

 

「ハァッ!」

 

サーベルとブフーラが衝突し、美鶴は手に微かに冷たい感覚を感じる程度に済んだ。

直撃していたらどうなっていたか分からないからだ。

しかし、美鶴はすぐにある異変に気付き、先程ブフーラを弾いたサーベルを見た瞬間、美鶴は目を大きく開いた。

 

「なっ! しまった……サーベルが!」

 

美鶴のサーベルの刃の部分は、先程のブフーラを弾いた為に氷付けになってしまっていたのだ。

特別製とはいえ、解凍に時間が掛かると同時にこれではサーベルは使いものにならない。

 

「まずい!美鶴さんが……! 風花さん!シャドウの能力はまだ分からないんですか!?」

 

風花の護衛をしていた乾が美鶴の状況に焦りを覚え、隣で額に汗を滴ながらも必死にペルソナを駆使している風花へそう聞いてしまう。

 

「もう少し待って……! あのシャドウ、ジャミング能力を持っているの……」

 

そう乾に返答し、風花は額の汗を拭かずに必死の表情で探知を続けて行く。

針に糸を通す様に慎重に、だが力は抜いてはいけないと言うかなりの力を駆使した作業を風花は行っている。

おそらく、洸夜のシャドウはペルソナ『ワイト』の力も持っている。

それ故に、探知特化のユノですら情報が砂嵐や文字化けの様な形で風花に届けられ、完全な情報が得られずらい事この上ないのだ。

しかし、風花もただジャミングに振り回されている訳でもなく、洸夜の影の使うペルソナ達がなんなのか位は掴めていた。

 

「天田くん……よく聞いて。あのシャドウが操っているペルソナだけど、あのペルソナ達は形だけのものなの」

 

「形だけ……ですか?」

 

「うん。あのペルソナ達はあくまで形だけで、その中身はあのシャドウなの。だから、結論を言うとあのペルソナ達はあのシャドウが形だけペルソナにしているだけで、力そのものはあのシャドウの力」

 

目の前のシャドウが使うペルソナの正体を乾に伝える風花だが、それはあのシャドウが洸夜のペルソナ達全ての力を得ている事の証明でもある。

それを理解している為、風花はある決断をする。

 

「天田くん。私は大丈夫……だから、皆を助けてあげて!」

 

「えっ! でも、ユノに戦闘能力はないんですよ?」

 

乾はそう言って風花の案に反論する。

既に何度も言われているが、探知特化の能力を持つユノはその代償と言うべきか戦闘能力がまるでなく、探知中はまるで無防備となる。

その為、万が一の為に護衛は不可欠なのだ。

しかし、それは風花自身が一番良く分かっている。

 

「でも、あのシャドウは洸夜さんの力の集合体と同じ。皆で戦わなきゃ駄目。私も万が一の時はなんとかするから、天田くん……お願い」

 

「で、でも……!」

 

一歩踏み出せない乾。

風花はそう言っているが、本当に万が一が起こったらどうするのか?

だが、洸夜の影の力が異常なのも確かだ。

乾が顔を前へ向けると写し出される苦戦する仲間の姿。

乾の槍をを掴む手に力がこもり、そして乾は結論を出した。

 

「風花さん。僕、言って来ます。でも、なにかあったらすぐに言って下さいよ?」

 

「うん。その時は呼ぶね?」

 

風花からの返答を聞くと、乾は頷いて槍を片手で持って洸夜の影へ立ち向かって行く。

そして、ヤマタノオロチに苦戦するアルテミシアと美鶴を洸夜の影が無表情で眺めている時だった。

洸夜の影の背後に何者かが迫った。

 

「今だカエサル!」

 

『ラクンダ』

 

洸夜の影の背後をとったのは明彦とカエサルだった。

カエサルは地球儀から光を放ち、それを洸夜の影へ当てた。

それはラクンダの光、相手の物理・魔法防御を下げる技だ。

 

『グッ……!』

 

それを浴びた洸夜の影は怯み、動きを一時的に止める。

しかも防御低下のおまけ付きでだ。

 

(もらった……!)

 

ボクシングと武者修行で得た勘が明彦に確信を与える。

この攻撃は通ると、そう明彦自身が絶対の自信を持った。

そして、明彦が拳に力を入れてカエサルと共に洸夜の影の背後を睨みながら攻撃を繰り出した。

その時だ。明彦は洸夜の影の背中がウネウネと変形した様に見えた瞬間、背中から血液の様に黒い何かが飛び散り出したのだ。

 

(一体、今度は何をする気だ?)

 

警戒する明彦だが、攻撃についての確信が消えた訳ではない。

その為、そのまま攻撃を続行したその時だった、明彦が洸夜の影の背中に金色に輝く大量の"目"の存在に気付いたのは。

 

『ガアァァァァァ! マザーハーロット……!』

 

「!……なんだとっ!?」

 

まるで激痛に苦しむかの様に洸夜の影は叫び、血潮の様な黒い液を背中から飛び散らせながら冠を被る七つの首を持つ獣と、それに股がるグラスを翳す骸の淑女『マザーハーロット』が飛び出して来た。

そして、マザーハーロットが操る七つの首を持つ獣はそのままの勢いで明彦へ襲い掛かる。

攻撃の勢いによって明彦はブレーキが掛けられない。

そのままぶつかればあの質量のペルソナが相手であり、それでは明彦自身も被害を免れない。

だが、明彦は諦めなかった。

 

「迎え撃てカエサル!」

 

主の命にカエサルがマザーハーロットへ大剣を降り下ろし、それを迎え撃とうするがマザーハーロットはそのままカエサルへ飛び込んで行った。

 

『ジオダイン』

 

カエサルはジオダインを大剣へ纏わせる形でマザーハーロットの獣へ降り下ろした結果、マザーハーロットの獣の七つの首の内、その三つが両断される。

黒い血潮を辺りに撒き散らすマザーハーロットの獣。

だが、マザーハーロットがグラスを明彦へ向けると残り頭がカエサルへ噛み付き、そのまま押し返して行く。

それに明彦も受けて立つが、マザーハーロットはでかい。

その為、純粋な力押しが起こってしまい明彦は洸夜の影へ離されて行く。

 

「くそ!……この程度で怯むと思うな!」

 

「真田先輩がヤベェ! なら……次は俺だ!」

 

明彦と美鶴のピンチに次は順平が剣を構えながら洸夜の影へ向かって行った。

フリーターとは言え、子供達に野球のコーチをしている身だ。

その足は皆が思っている以上に速く、気付けば既に順平の射程圏内となっていた。

 

「タッチアウトだぜ!」

 

フルスイングで剣を洸夜の影へ振る順平。

しかしその瞬間、洸夜の影の瞳が蒼白く光った。

 

『残念だがセーフだ』

 

洸夜の影は”見切り系”のスキルを使用し、順平の攻撃を容易に回避した。

そして、洸夜の影はそのまま地面に拳を叩きつけ、物理技のデスバウンドを放つとそのまま衝撃は順平を襲った。

 

「ゲッ!う、嘘だろぉぉぉぉっ!!」

 

そう叫びながらまるで凧の用に吹き飛んで行く順平。

次々と攻撃を防がれるメンバー達だが、だからと言って諦める訳もなく順平がやられた直後に動きを見せる者たちがいた。

 

「コロマルさん。私が仕掛けますのでその隙に……」

 

「ワン!」

 

アイギスはコロマルに指示を伝えるとそのままコロマルよりも一歩先に出た。

そう、アイギスには秘策があるのだ。

前にホテルの屋上で戦った時に見せた事、そうオルフェウスの存在だ。

洸夜の影も洸夜だからこそ『彼』の事で何かしらの反応があった。

それが前回、屋上でオルフェウスを召喚した時に一時的に動きを止めた事だ。

洸夜の影の中に洸夜の心がまだあるならば、きっと何かしらの動きを見せてくれるだろうとアイギスは思っており、コロマルとの距離が一定になった時、アイギスは動いた。

 

「オルフェウス!」

 

主の呼び声に何かが砕ける音と共に吟遊詩人が洸夜の影の前へ姿を現す。

 

「オルフェウス……そうか!」

 

その光景に美鶴達もアイギスの意図を読み取る中、洸夜の影もオルフェウスの存在に気付いた。

 

『オルフェウス……!』

 

アイギスの作戦通り、オルフェウスを見た洸夜の影の動きは止まった。

そして、それを見たアイギスはコロマルヘ呼び掛けた。

 

「コロマルさん!」

 

アイギスの言葉にコロマルはワンと一鳴きして洸夜の影へ向かって行き、同時にケルベロスも召喚して洸夜の影へ迫った。

洸夜の影はまだ動いていない。

アイギスは攻撃が通る事への確信を得た。だが……。

 

『ククッ……』

 

(!?……笑った……?)

 

アイギスは一瞬、洸夜の影が口元を歪めた様な気がした。

そしてそれからすぐに洸夜の影は、一瞬だけコロマルを見た事でアイギスは気付く。

 

「いけない! オルフェウス!」

 

洸夜の影は全て分かっていた。

オルフェウスを見て動きを止めたのも演技。

それに気付いたアイギスはオルフェウスで洸夜の影へ攻めた。

精神的攻撃が無理ならば直接攻撃してコロマルの攻撃を助ける為にだ。

そして、アイギスの命にオルフェウスはハープを構えながら洸夜の影へ接近した。

 

『ヨシツネ……』

 

洸夜の影が何かを呟いた瞬間、アイギスが見たのは何か素早いモノに両断されたオルフェウスの姿であり、それと同時に自分の背後に何者かが迫っている事に気付く。

 

「クッ!」

 

何者かが刃を降り下ろして来る中、アイギスは間一髪で背後を振り向き腕で相手の攻撃を受け止めると目の前の敵を睨んだ。

 

「見た事のないペルソナです……」

 

オルフェウスを両断し、アイギスに攻撃を仕掛けた者の正体は古い甲冑姿のペルソナ"ヨシツネ"であった。

ペルソナブレイクとなり、消滅するオルフェウスとそれによって攻撃のダメージがアイギスへ伝わりながらも彼女はヨシツネの攻撃を受け止め続ける中、その背後で洸夜の影が笑っていた。

 

『ハハハハハッ! そんなモノでオレを止められると思っていたのか!? あの時とは違い、今のオレは真なる影だ! そんな子供騙しはもう効かねんだよ!』

 

「クッ!アイギス……!」

 

美鶴がアイギスを心配して呟くが、今の自分達も余裕がないのは事実。

なんとかしたくても出来ない歯がゆさを覚える中、アイギスはヨシツネと戦闘を始めていた。

 

「元は物理に強いペルソナだったようですね」

 

『……』

 

アイギスの言葉に特に返す訳もなくヨシツネは刀をアイギスへ振り下ろし、アイギスは腕でそれを防ぎながらも指や頭部に内蔵されている火器を至近距離で放つ等、高度な接近戦を繰り広げている。

伊達に対シャドウ兵器として作られていた訳ではないアイギス。

洸夜の影からしても、今いるこのメンバーの中でも一番厄介なのはアイギスであったりする。

生身でシャドウと平然と戦う力と経験やペルソナ能力。

精神的に疲労させた美鶴や明彦、そして平和ボケして戦いと言う経験から離れていた残りのメンバー比べればアイギスが一番の脅威なのは言うまでもないのだ。

しかし、そんなアイギスにダメージを与え、最強クラスのペルソナであるヨシツネをぶつけられた事で洸夜の影の優位は更に増える。

 

「グルルル……!ワン!」

 

アイギスとの作戦は失敗したが、それでもコロマルは小太刀を咥えたまま洸夜の影へ飛び掛かった。

 

『見えてるんだよっ!!』

 

飛び掛かってきたコロマルに対し洸夜の影は、まるで最初からコロマルの動きを予知していたかの様に無駄ない動きでコロマルを左手で掴んで捕えた。

 

「!?ワン!……グルル!」

 

掴まれた時に小太刀を落としてしまったコロマルだが、首を掴まれても屈しないと言わんばかりに吠え、洸夜の影を睨み付ける。

 

『ハハハッ……!憎いか?洸夜の姿をしたオレが?洸夜の姿でお前の大事な者達を傷つけるオレが?クク……良いぞ憎め!それが俺達の絆だ。そうだろコロマルゥ!』

 

怒りで満ちているコロマルの赤い瞳を見て洸夜の影はそう言い放ち、その言葉にコロマルは思わずビクリと身体を振わせた。

動物は人よりも敏感だと言い、コロマルは直感的に洸夜の影の深層心理を見てその底なしの負に恐怖を覚えてしまった。

そして、そんな仲間のピンチに今度は乾とチドリが動いた。

 

「コロマルを離せ!」

 

乾が叫び、その隣で距離を取りながらナイフを構えながら走るチドリ。

だが、洸夜の影はそんな二人を見ずにコロマルだけを見ている。

また甘く見てるのか、それとも嘗めているのか、理由は考えれば幾つでもあるが今はそれが好機と思い二人は走って武器を持つ手に力を入れた。

その時だった、突如、乾とチドリの視線が上へ上がった。

重力に逆らう様な感覚が同時に二人に襲い掛かり、自分達に何が起こったのか二人が知るのに時間は掛からなかった。

 

「これ……は!」

 

チドリが下と周りを向くと、自分と乾を掴んでいる巨大な腕の存在に気付いた。

そして乾もまた、こんな丸太の様な巨大な腕を持つ者の存在に一つしか心当たりがなく、まさかと思い下を向くと布で顔の殆どを隠し、唯一出ている赤い目が目に入った。

 

『ヴォォォォ……!』

 

「あれは……!?」

 

「洸夜のベンケイか!」

 

唸り声をあげるペルソナの存在にゆかりと明彦が目を開く。

ベンケイは物理攻撃力だけならば、洸夜のペルソナの中で不動の頂点に存在する。

その代償にスキルにベンケイの弱点が存在するが、洸夜の影の一部となった今もそれが存在するのかは断言できない。

今言えるのは、少なくともあのペルソナは危険だと言うことだ。

 

『未熟だな。復讐の正義!偽りの刑死者!』

 

復讐の正義とは真次郎に復讐を考えていた乾を指し、偽りの刑死者は本当のペルソナ使いではチドリの二人の生き方とアルカナに因んだ呼び方なのだろう。

その呼び方にベンケイに握られながらも、二人は洸夜の影を睨み付けた。

 

「お前……お前は……洸夜さんなんでしょ?なのに、なんでそんな事やこんな事ができるんだ!」

 

乾の悲痛な叫びだった。

洸夜は乾にとって尊敬する人物の一人であり、自分を家族言ってくれた恩人だ。

だが、目の前の存在は乾が見てきた洸夜とは似ても似つかない存在。

そんな目の前の存在が洸夜等と乾は認めたくなかった。

 

『ハッ!表面だけの絆だけで満足していたガキが何を知っている!何を分かっている!我は影、宿主が抑圧していた真なる我!内側に隠されていた本当の瀬多洸夜だ!』

 

「それが本当の姿ならなんで私を助けたの? そんな事をする意味は貴方にはない」

 

自分の時の事を思い出したのだろう。

少し不安な瞳でチドリは洸夜の影へ問い掛ける。

自分に未来をくれた事までもそんな感じならば悲しすぎる。

そう思ったからチドリは問い掛けたのだが、洸夜の影は鼻で笑った。

 

『ハッ!……お前、ゴミをゴミ箱に入れるのに理由を一々聞くのか? やれたからやった、ただそれだけだろうがっ!!』

 

平然と言い放った洸夜の影。

意味などはない。

自分の答えが洸夜の本性であると言わんばかりの言葉に弁慶に捕まる乾とチドリの瞳にも悲しみと怒りが現れる。

だが、その感情は洸夜の影にとってはまさに計算通りだった。

 

『そうそう! その感情だ! 怒れ、憎め! そして築け!新たな絆を!お前等の力の源は負の感情が生んだものだからなっ!!』

 

面白おかしく話し、狂った様に笑い出す洸夜の影。

そんな洸夜の影を見ていた風花が洸夜の影に禍々しい力が溢れている事に気付く。

 

「な、なに……?この力って一体……!」

 

何かがおかしい洸夜の影の力に戸惑う風花だが、洸夜の影は乾とチドリへ話を続けた。

 

『誰を恨む乾? 母を奪った今は亡き真次郎か? それともシャドウに呑まれて暴走させ、真次郎に人殺しの汚名を作らせた母親自身か?それとも、影時間を生んだ桐条か!?』

 

「!?……お、お前!」

 

乾はベンケイの腕の中で怒りを露にした。

真次郎だけではなく母親の事まで言われたのが乾は許せなかった。

 

「乾! 落ち着いて、シャドウに呑まれる!」

 

もう片方の腕に捕まるチドリが乾へ語り掛けたが、洸夜の影の目線はそのままチドリへ移った。

 

『お前もそうじゃないのかチドリ? 非道な実験によって身体も心もボロボロにされ本当の記憶も失い、そのまま人工のペルソナ使いにされて本当ならば得る事の出来たかも知れない暖かい世人生を得れたのかも知れなかったんだぞ? 憎くないのか桐条が!?』

 

「!……黙れ!失った過去は戻せない。なら、私は皆と一緒に未来を生きるの!」

 

チドリはそれだけ言って止めた。

頭を冷静にする事に意識を向けないと本当に洸夜の影の思う壺になってしまうからだ。

しかし、チドリはともかく乾の怒りはそうそう収まる事は出来なかった。

乾は洸夜の姿で好き勝手言い、尚且つ真次郎と母親を侮辱された事に何も出来ない事に思わず悔し涙を流しながら洸夜の影を睨む。

 

「違う……! お前は洸夜さんじゃない! 洸夜さんなら荒垣さん達の事をそんな風に言う筈がないからだっ!!」

 

『ククッ……今はそんな話じゃない。憎いか憎くないかの話だ。そう思わないか二人とも!』

 

「……!」

 

「?!」

そう返答し睨み反された洸夜の影の瞳を見た瞬間、乾とチドリはまるで心臓を握られた様な感覚に襲われた。

全てを見透かされている。

あのシャドウは自分の全てを知っている。

そんな感覚が二人を包み込もうしているのだ。

 

『なあ、乾? 少なくとも桐条が馬鹿な事をしなければ真次郎がS.E.E.Sに入る事も無ければ母親がシャドウに呑まれる事もなかったんだぞ? チドリも同じさ。だから……憎くないか桐条が?』

 

「桐条……」

 

「桐条の研究員……!」

 

先程までの二人はどこへ行ったのか。

乾とチドリの瞳から段々と復讐等の負の感情が芽生え始めていた。

 

『そうだ。想像してみろ、今思う自分の幸せを。それが桐条がお前達から奪ったものだ!恨め憎め!それがお前等の力のーーー』

 

バシュ!

 

洸夜の影がそこまで言った時、コロマルを掴んでいた腕の方から何やら音が聞こえ言葉を中断し腕の方を見ると、そこには一本の矢が存在していた。

だが、矢があるのは大した問題ではない。

問題なのはその矢がコロマルを掴んでいた洸夜の影の腕に"刺さっている"と言う事だ。

その現実を目の当たりにした洸夜の影は思わずコロマルを離してしまった。

 

「グルルル……!」

 

解放されたコロマルは素早く小太刀をくわえ直し、再び洸夜の影へ威嚇をするが洸夜の影は矢が刺さっているにも関わらず特に何も言わなければ叫ぶ事も激情をしなかった。

それどころか、平然と矢を腕から引っこ抜くと放たれたであろう方向を見るとそこには弓を自分の方へ向けているゆかりがいた。

ゆかりは先程の事などもあってか若干震えているが、弓だけは力強く握り締めている。

 

「これ以上、あんたなんかの自由にさせない!」

 

力強い目で洸夜の影へ言い放ったゆかりだが、先程矢を当てた部分がみるみる回復する洸夜の影の姿に再び矢を装填する。

時間稼ぎでも何でも良い。

何とかあのシャドウの行動を妨害する、そうゆかりは思いながら弓を向ける。

その直後だった、今度は乾とチドリを掴んでいたベンケイを弾丸が襲う。

 

『ヴォォォォ……!?』

 

ダメージ自体は無かった様だがその衝撃で乾とチドリを離してしまうベンケイは、そのまま地面に存在する洸夜の影の足下にある影に呑まれる様に沈んで行く。

そして、ベンケイから解放された乾とチドリは尻餅を着きながらも弾丸が飛んできた方向を見る。

勿論、洸夜の影も同じ様に見るとそこには膝を着くヨシツネの隣で両腕を向けるアイギスの姿がそこにあった。

アイギスは特に何も言わず、そのまま腕を美鶴と明彦が対峙するヤマタノオロチとマザーハーロットへ向け弾丸を放ち、弾丸はそのままそれぞれに吸い込まれる様に被弾する。

 

『シッ!?』

 

『!?』

 

その場で崩れる様にへたり込むヤマタノオロチとマザーハーロットは、そのままベンケイ同様に地面に呑み込まれる様に消えて行き、アイギスの隣にいたヨシツネも同じ様に消えた。

 

『アイギス……!』

 

アイギスによって戦力を潰された洸夜の影は、そんな彼女を憎しみの瞳で睨み付ける。

だが、アイギスも腕を洸夜の影へ向けながら口を開いた。

 

「もう、終わりにする気はありませんか?」

 

『シャドウを殺す為だけの機械が言う言葉か?』

 

アイギスの言葉に小馬鹿にする様に返答する洸夜の影だが、アイギスは何処か悲しいモノでも見るかの様な寂しい瞳で洸夜の影を見つめながら話を続けた。

 

「私にはあなたが可哀想に思えます。あなたは知らない……知る事が出来なかった。『あの人』の真意、本当の想いを……」

 

アイギスが静かに語る中、漸く氷を解凍した美鶴達がアイギスの近くに集まり始め、それでも警戒を解く事もなく武器は身構える。

 

『想い?『あいつ』の……?』

 

洸夜の影はそう呟く様にアイギスへ聞き返し、アイギスはそれに頷いた。

 

「はい。『あの人』は全てを終わらせました。ですが、それは『あの人』の本心であり、何の迷いもない『あの人』自身の”意志”だったんです」

 

『……』

 

アイギスの言葉に黙る洸夜の影。

そんな黙っている僅かな間に風花も合流し、美鶴は他のメンバーの無事を確認した。

 

「皆、大事はないか?」

 

「ああ、少しかすった程度で俺は大丈夫だ」

 

そう言って腕を組む明彦だが、右の脇腹から血が流れており全くの無事とは思えなかった。

何だかんだでペルソナとシャドウ相手にインファイトを繰り広げていた明彦。

寧ろ、この程度で済んだのが無事と言えるのかも知れない。

しかし、怪我なのは違いなく、そんな体力馬鹿な先輩の発言にゆかりは呆れた顔で溜息を吐いた。

 

「かすっても怪我は怪我ですから、無理だけはしないで下さい。ペルソナでも癒せるのは怪我までですから……」

 

そう言って明彦の怪我を治し始めるゆかりの言葉に、明彦自身も反省したのか小さくすまん……とだけ言って黙って治療して貰った。

そんな時だ、そんな二人の後ろでフラフラで近づく者がいた。

 

「ゆ、ゆかりっち……次はおれっちも頼む……」

 

今にも事切れそうな声に振り向く一同。

そこには一人、メンバー達の中でも異常にボロボロの順平の姿がそこにあった。

 

「ワン!?」

 

「順平さん!だ、大丈夫なんですか!?」

 

まるで戦場から帰還した兵士の様な順平に思わず声を出してしまったコロマルと乾。

今思えば、順平は先程明彦の援護で追撃しようとした時、洸夜の影に反撃されてしまいデスバウンドを諸にくらったのだ。

 

「順平……生きてる?」

 

「いくらなんでもこんな状態で死んでいるとは思えないが……」

 

剣を杖代わりにして立つ順平にチドリと美鶴が心配するが、順平の足は完全に震えていて立っているのもやっとの様だった。

これでは帰還兵から生まれたての小鹿になるのは時間の問題だ。

 

「ちょっ!?あんた耐えなさいよ!もう少しでこっちも終わるから!」

 

「岳羽、俺はもう良いから順平をーーー」

 

「何言ってるんですか!真田先輩も見た目より傷が深いんですよ!?」

 

見た目よりも酷かった明彦の傷に文句を言うゆかりの言葉に何も言えない明彦。

その光景に戦闘に集中したかった美鶴だが、今はそう言えずやれやれと言った様に順平を癒す為に近づいた時だった。

美鶴と順平は勿論、メンバー全員の足元から心地よい光があふれ出し、メンバー全員の傷を癒しはじめたのだ。

 

「これは確か……」

 

光の正体に見覚えがあった美鶴だが、その正体はすぐに分かった。

 

「すまないな風花。君も消耗している中で」

 

そう言って美鶴が風花を見ると、風花とユノから癒しの光である『癒しの波動』が出されていた。

 

「いえ、今回の私……ジャミングにやられて上手く探知できないですから。せめてこれぐらいのサポートぐらいはと思って……」

 

「風花……変に責任は感じなくて良いんだからね?疲労してるのは皆同じなんだから」

 

ゆかりは責任を感じている様子の風花に心配そうに言う。

戦闘能力が無い為、探知能力でしか皆を助けることが出来ない事を一番気にしているのは風花自身だ。

その為、今の様に相手が探知能力に耐性を持っている時は風花は気にしてしまう。

別に風花の能力が低い訳でもなければ、その事で何か言う者はメンバーの中にいないのだがそこは風花の性格の為に少しマイナス思考に考えてしまっている。

そして、風花がゆかりに小さくありがとうと言っていると、その隣でチドリが何かを考える様に乾へ話しかけた。

 

「乾、さっき洸夜のシャドウに聞かれた時、何か違和感なかった?」

 

その言葉に乾は目を開き、少しだけ間をあけて口を開く。

 

「……はい。さっき、母さんと荒垣さんの事を言われた時に少しだけ」

 

まるで夢でも見ていたかの様にあやふやな感覚。

少しの振動でも崩れ去る様な、まるでトランプタワーの様に繊細な感じ。

ついさっきの事にも関わらず、明確に思い出せない時間。

乾もチドリもそんな時間を味わってしまったのだ。

そして、乾は槍を持つ手を震わせながら乾は話し始める。

 

「僕は……荒垣さんを許しました。だけど、さっきシャドウに言われた時、僕の中に確かに存在していたんです。荒垣さんへの憎しみが……あの時と同じ、いや、あの時よりも強い憎しみを……!」

 

母を死なせ、自分に殺される事を望むと同時に命を背負う事を説いた真二郎。

自分を庇って凶弾に散って死んだ真二郎。

そんな荒垣真二郎を乾は許した。

その変化はペルソナにも現れ、ネメシスと言う存在からカーラ・ネミへと姿を変えている。

だが、先程の言葉通り、乾もチドリも今無い復讐心と憎しみが存在したのだ。

 

「あのシャドウ……やっぱり何かが違う」

 

チドリが先程から黙る洸夜の影を見ながらそう言った。

 

「……それが”黒のワイルド”の力ですか?」

 

そう発した声の方を全員が見ると、今も洸夜の影の方を見ているアイギスの姿があり、メンバーに背を向けながらアイギスは話を続ける。

 

「前に『あの人』と洸夜さんが仰ってました。ワイルドは他者への繋がりが強い分、他者への影響も強いと。……”白のワイルド”は他者と絆を築く事で色を”貰い”強くなり、”黒のワイルド”は他者と絆を築き、色を”与える”事で強くなると」

 

アイギスのその言葉はメンバー全員に聞き覚えのある言葉だった。

他者との絆を力とするワイルド。

その能力を持つ二人の男、世界を救った『彼』とそれを支えた瀬多洸夜。

何処か人間らしさがなく、感情が乏しかった『彼』。

誰とでも接し、感情豊かで絆を築き上げる瀬多洸夜。

その二人を色に表すならば、まるで自分は無だと言わんばかりの『彼』は”白”であり、誰にでも接し色々と持っている瀬多洸夜は”黒”だ。

洸夜と関わる事で色々と変化する者。

色んな者達と関わり、変化していった『彼』。

メンバー達はそれを己で見て感じてきたのだ。

ワイルドを持つ二人の男の歩みを。

 

『そうだ。それが黒の力だ。他者への影響が大きい……つまり、その人物の心が詳しいと言うことだ。だからこそお前等はオレに抗えない、絶対に勝てない』

 

アイギスの言葉にそう返答する洸夜の影の言葉に、勝ち等に敏感な治療を終えた明彦が反論した。

 

「戦いに絶対はない。命のやり取りをする以上、互いに絶対は言い切れない」

 

『普通ならばそうだが、お前等に限ってはオレ限定にそれが適応する』

 

「なんだと?」

 

美鶴が険しい瞳で洸夜の影を見つめるが、それは他のメンバーも同じことであり洸夜の影は特に気にしていないかの様に話を続けた。

 

『思い出してみろ?メンバーのリーダーとして表で支えたのは『アイツ』だが、裏で支えて戦いのサポートをしたのはオレだぞ?だから分かるんだよ、お前等の行動、怒らせる方法、心の傷つけ方、その全てが!』

 

その言葉に美鶴達が心当たりを思い出す。

二年前の一件、ホテルでの戦闘、先程起こった突然の感情の暴走、そして戦いの中で洸夜の影の異常な強さ。

敵は洸夜そのものと頭では理解させていたが、それでも異常に強く思えた理由はそれだったのだ。

洸夜の影は知っていた。

美鶴達の事を、それだけで洸夜の影の有利が大きく存在していたのだ。

只でさえ強い力にも関わらず、絆を築いた者達限定で更に力を上げる。

その事実は美鶴達を実感させる、今まで戦ってきたシャドウの中で最凶だと。

自分達を理解し、アルカナを多数使用すると言う点ではある意味ではニュクスよりもたちが悪い存在なのは間違いない。

だからと言って美鶴達もそれを認める気もないと思ったのだが。

 

「あっ……どうりで戦いずらいと思ったぜ」

 

やはり、平然と言い張るの我等の順平であった。

そんな順平に全員が何か言いたそうだが、面と向かって言えないのはやはり少しそう思っている証拠なのだろう。

そして、そんな様子のメンバーに洸夜の影は再び表情を歪ませ、そのまま歪んだ笑みを浮かべた。

 

『ハハハッ! お前等がどう思おうが何を言おうが"真実"は変わらねんだよ! 桐条の罪、ムーンライトブリッジ、苛め、ペルソナの暴走、妹、父親、母親、飼い主との死別、桐条の人体実験! お前等の始まりこそが"負の絆"が幕を開けた!ここにいるのも負の絆の導き! お前等の全てだ!』

 

洸夜の影の言葉は相変わらずメンバーを不快にさせるが、その言葉の全てを否定はメンバー達には出来なかった。

桐条が下らない野望を考えなければ、美鶴が桐条の罪を背負う事も無く、父である武治が死ぬことも無かった。

ゆかりも父親を失う事も無く、アイギスも生まれる事はなかったが『彼』の人生を狂わせる事も無かった。

真次郎もペルソナに関わる事も無かったかも知れず、乾が母親を失う事も無かったかも知れない。

チドリも人工ペルソナ使いにされず、人並みの幸せを得たかも知れない。

明彦や風花、コロマルも妹と飼い主の死別、苛めが無ければS.E.E.Sに参加していなかったであろう。

 

(……あれ? 俺だけあまり関係ある言葉が無いような?)

 

先程から聞いていた順平ただ一人だけがそう思ってしまった。

今思えば、参加の理由も夜中にコンビニへ行き立読みしていた時に影時間に巻き込まれ、そこを明彦に発見されてスカウトされただけである。

肉親が死別したとか、人体実験されたとかそんな過去も勿論だが無い。

一時期、自分よりも活躍していた『彼』や洸夜に対し嫉妬に近い感情を持っていたが、それが始まりと言う訳でもない。

順平は自分だけが何も無い事が良い事なのか、それとも何か悪いのか悩み始める中、美鶴が悟った様に口を開いた。

 

「確かに……お前の言葉の全ては否定出来ない。だが、不謹慎かも知れないが私は……桐条の罪によって皆に会えた事を後悔しない。寧ろ、こんな仲間が出来た事が私の誇りだ!」

 

その言葉に頷くメンバー達、ワンテンポ遅れて順平も頷くが全員が同じ気持ちなのは変わらない真実であった。

 

『……愚かだな。そこまで言うならば、お前等は乗り越えられるか見せて貰うぞ?』

 

洸夜の影は右手を上へ掲げると同時に、先程崩れ去った筈の美鶴達に似せたドール達が立ち上がり始める。

今度は何をする気だと、美鶴達が警戒する中、風花が異変に気付く。

 

「ッ!? 上です!」

 

その言葉に一斉にフロアの上を見るメンバー達。

フロアの天井は周りと同じデザインだったが、その天井を多い尽くす程に巨大な何かが光学迷彩が解除されて行くかの様にその姿を露にする。

鳥のクチバシの様な細い顔、薄汚れた長い白髪、首に着けているあらゆるアルカナを示す仮面のネックレス、ボロボロで暗い色合いの洋服、裁縫針の様に細い指。

段々と現れて行く敵の姿に美鶴達も息を呑む。

 

「な、なによ……コイツ!」

 

「大型シャドウ……!」

 

ゆかりと風花がそれぞれ口を開きながらも、その姿を露にした大型シャドウ『ドールマスター』が洸夜の影の隣に降り立った。

 

『人の負の感情により生まれしこの大型シャドウ。お前等が負を否定するならば乗り越えて見せるんだな!』

 

そう言って姿を霧の様に消す洸夜の影。

そして、洸夜の影が消えた事で全員の視線はドールマスターへと向けられ、ドールマスターは針の指から虹色に輝く光の糸をドール達へと繋いで行き、ドール達はまるで新しい命でも吹き込まれたかの様にカタカタと動き始める。

足が存在しておらず、空中に浮かびながらドール達を動かすその光景はまさに人形劇。

そんな命を賭ける人形劇に明彦も血をたぎらせる。

 

「どうやら、あの変な人形を操っていたシャドウは奴の様だな」

 

「どちらにしろ相手は大型シャドウだ。明彦、油断はするな。……風花、あのシャドウの情報は?」

 

美鶴の問いにユノを召喚して探知をする風花。

洸夜の影はジャミングで探知を妨害されたが、今度の相手はジャミング能力を持っていない為、風花も自分の力を大いに発揮出来る。

 

「"ドールマスター"……アルカナは"愚者"、弱点属性は物理、耐性持ちは光と闇です」

 

「物理が弱点……ですか?」

 

「おっ? それなら俺達が有利だな!」

 

アイギスの言葉に順平が嬉しそうに言った。

普通に考えれば無理もなく、下手に属性攻撃や弱点無しよりはやり易い相手だと言える。

下手に小細工等せずに、ただ殴れば弱点を突けるからだ。

しかし、それは美鶴達だって分かっている事であるが、心配は別の所にある。

 

「あの人形達、さっきまでとは動きも雰囲気も違う……」

 

チドリの呟きに順平を除く全員が頷く。

例えるならば、先程までは烏合の衆だったが今は訓練された軍隊の様だ。

 

「どちらにしろ、戦わなければならない相手だ。あんなものでもな……」

 

『カカカ……!』

 

美鶴が疲れた感じに呟きながらドール達を見るが、美鶴、明彦、ゆかり、順平の形をしたドール達はただ口をカタカタと動かすだけ。

やれやれと、メンバー達もそう思った時、ドールマスターが指を動かすと同時にドール達が一斉に美鶴達へ襲い掛かって来た。

 

「そんな単純な動きで俺がやられる思ったか!」

 

基本的に先程のフロアの時と同じ様に単純な動きで仕掛けてくるドール達に、明彦はそう言い放ってペルソナも召喚しないで拳で反撃しようと目の前の自分と同じ姿をしたドールへ仕掛けた。

だが、その時、明彦に思いしない事が起こった。

 

『ジオダイン!』

 

「なっ! クッ……!?」

 

突如、明彦目掛けて拳の先からジオダインを放つアキヒコドール。

その攻撃に明彦は反射と本能で避けたが、ジオダインは威力の高い技だ。

身体を仰け反らして避けたは良いが、ジオダインが少しかすり、露出の多い明彦の服装が災いして身体に僅かに焦げあとが残ってしまう。

自分の失態に思わず舌打ちする明彦だったが、ドール達の攻撃は終わらない。

 

『ブフダイン』

 

『アギダイン』

 

『ガルダイン』

 

次々に放たれる属性技に対し、美鶴達は咄嗟にペルソナを召喚してそれを防ごうとする。

 

「ペルソナ!」

 

美鶴達はペルソナを召喚し、相手の属性技に耐性を持つ美鶴達が前に出てそれを防いだが、それだけでは安心できないのが現状だ。

 

「明彦! ペルソナを召喚しろ! この人形達は既に生身で戦える相手ではなくなっているぞ!」

 

「分かっている。カエサル!」

 

美鶴の言葉に明彦も漸く召喚するが、ドール達はそれを見て後退して行く。

無闇な攻撃はしないのか、それともただの様子見かは分からないが、ドールマスターは気味の悪い笑みで美鶴達を見下す。

 

「風花、あのドール達の情報は?」

 

「えっと……あの人形達、全部にアルカナや技が存在しています。それぞれのアルカナと技はあの人形のモデルになっている人と全て同じです!」

 

風花言葉に全員が成る程と思った。

見たまんまと言う事であり、ある意味では己との戦いとでも言えるかも知れない。

 

『カカカ!』

 

ドールマスターが再び指を動かすと、ドール達も再び一斉に攻撃を始める。

 

「あの大型シャドウをどうにかしない限り、あの人形達は止まりませんよ!?」

 

「それなら……!」

 

乾の言葉にアイギスは空中へ飛び上がり、ドールマスターの背後へ一気に回り込むと背中の中からガトリング砲を取り出して引き金を引き、無数の弾丸がドールマスターへ降り注がれる。

 

『!』

 

しかし、弾丸が当たる前にミツルドールとアキヒコドールが間に入って攻撃を遮ったのだ。

その光景にアイギスは眼を開いた。

 

「速い……! ですが、これなら!」

 

今度は頭部と指先の銃器を放つアイギス。

先程からの攻撃の後ではこれは防げまい。

そうアイギスは思っていたのだが、シャドウはアイギスの考えの先を行っており、二体のドールは四肢のパーツを全てバラしてアイギスの攻撃を防いだ。

 

「なんだあれ!? 人形達が全部防ぎやがった!」

 

「皆さん! まずは人形を全て行動不能にして下さい! 人形がいる限り、あのシャドウは攻撃を全て防ぎます!」

 

風花の言葉に目付きを真剣なものへ変えるメンバー達。

アイギスは少しでも戦い易くさせる為、ドールマスターへ攻撃を続ける事でドール達を足止め兼そのまま倒そうとし、残りのゆかりと順平のドール達へは美鶴達が相手をする。

 

『カカカ!!』

 

美鶴達へガルダインとアギダインを放つドール達だが、すぐさまイシスとトリスメギストスが間に入り、盾となって技を無効化する。

やはり、所詮は人形であり単純な攻撃だけしかしてこない。

 

「カーラ・ネミ!」

 

攻撃の反動で動きが鈍くなっており、その隙に乾が二体の懐に入り槍を強化して凪ぎ払う形で槍を振って二体に刃が当たる。

だが、乾は手応えを薄く感じとった。

 

(浅い……!)

 

そう、攻撃は致命傷にまではならなかった。

後一歩の所でドール達が後ろへ下がったのが原因だが、下がったと言うのは謝った表現であり、誰かが引っ張ったのが正しい表現。

そして、誰がそれをやったかは乾は分かっており、顔を険しくしながら上へ向けると、そこには意地の悪い笑みを浮かべるドールマスターがいた。

ドールマスターはただドールを操っている訳ではなく、どちらかと言えば指揮官に見える。

だがそれで、はいそうですかと言う美鶴達ではない。

美鶴と明彦が追撃する形でドール達へ迫るが、ドールマスターの瞳が美鶴と明彦を捉えた瞬間、風花がそれに気付く。

 

「下がって! 大きい攻撃が来ます!?」

 

風花が叫ぶが、メンバー達の頭上に蒼白い光の球体がそこにあり、その球体が急速に落下しメンバー達を襲う。

 

『メギドラオン』

 

「ッ!? 明彦! コロマル!」

 

「おう!」

 

「ワン!」

 

美鶴の声に明彦とコロマルが答え、アルテミシアが鞭で弾き、拡散するメギドラオンをカエサルが地球儀を使い重力で更に弾き、ケルベロスがブースタで強化したマハラギダインで更に拡散させてメギドラオンの欠片はメンバー達を襲う事はなく、フロアの周りへ降り注ぐ。

爆散するフロアの中、アイギスが相手をしていたドール達にもそれが直撃して粉々に砕け散り、ドールを失った事でドールマスターの守りが手薄となった事でチドリとゆかりが動いた。

 

「貰った……!」

 

「外さない!」

 

ナイフを手にメーディアと共にドールマスターへ迫るチドリと、イシスを召喚したまま弓を同じくドールマスターへ向けるゆかり。

だが、ドールマスターは残ったドール達を一斉に力を送り、最後の反撃に出た。

 

『マハタルカジャ+マハスクカジャ』

 

『カカカカ!』

 

物理・魔法・命中・回避を一斉に強化された二体のドールから、禍々しい光が放たれており、先程よりも素早い攻撃で目の前にいた美鶴と明彦へ襲い掛かる……だが。

 

『カカカーーー!』

 

「遅い!」

 

「隙だらけだぞ!」

 

一閃するサーベル、降り下ろされる拳。

それと同時に両断、破壊されるドール達。

 

「やはり、洸夜のシャドウの方が手強いな」

 

「まったく……コイツらにここまで苦戦するとは、俺もまだまだか」

 

相手が洸夜の影だった事や過去の事も重なり苦戦を強いられた美鶴達だが、この程度の大型シャドウに負ける様な実力ではない。

そして、己を守るモノを失ったドールマスターにまずはチドリが迫った。

 

「メーディア!」

 

主の命に左手に持つ杯からアギラオをドールマスターの顔面へ放つメーディアに、顔面に直撃して腕を振り回すドールマスター。

だが、攻撃はまだ終わっていない。

まだ、ゆかりの攻撃が残っているのを忘れてはいけない。

ゆかりは弓を構えたまま、暴れるドールマスターの額に照準を合わせる。

失敗は許されない、いや、失敗等最初からする気なんて微塵もない。

不特定に揺れる的だが、ゆかりは何の躊躇いもなく矢を放ち、その矢は吸い込まれる様にドールマスターの額を貫き、ドールマスターが地面に着く。

 

「今だ! 一気に畳み掛けるぞっ!!」

 

美鶴の号令に一斉にドールマスターへ飛び掛かって行くメンバー達。

その勢いによって砂埃が発生し、ドールマスターは勿論、攻撃している美鶴達も見えない。

これが集団攻撃、伝家の宝刀『ボカスカアタック』である。

 

「攻撃やめ!」

 

美鶴の声に攻撃を止めるメンバー達。

煙が晴れるのを待ち、様子見をしていると煙は晴れ、そこにはボロボロになり粒子状になりながら消滅して行くドールマスターの姿があった。

 

「勝ちましたね」

 

「え、えぇ……スッゴい疲れたけど……」

 

「これ、めっちゃ疲れるんだよな」

 

「二人とも大丈夫……?」

 

アイギスの言葉にゆかりと順平が肩で息をし風花が心配する中、周りがそれを見ながら微笑んでいた時だった。

パチパチ……と、どこからか拍手の様な音が聞こえ始めた。

 

『あの程度のシャドウじゃ相手にならないか……』

 

声はドールマスターの向こう側から聞こえ、ドールマスターが消えるとその姿を現すが、案の定、声の主は洸夜の影であった。

 

「大型シャドウは倒したんだから、そろそろ洸夜の下へ案内して欲しいんだけど?」

 

もう洸夜の影の挑発に慣れたのか、チドリが平然と言い放った。

だが、洸夜の影は首を横へ振る。

 

『まだだ。お前達はまだ知らなければならない。黒の過去……黒の産声を……クク、耐えられるか見物だな……』

 

そう言って洸夜の影は消え、それと同時に入口と出口の鎖が消滅する。

その事に誰も何も言わず、一旦だが危機が消えた事に安堵の息を吐いた。

 

「……あれが、洸夜さんの本心なんでしょうか? 僕、洸夜さんの事、全然分かっていなかったんじゃーーー」

 

先程の洸夜の影の言葉が気になったのか、不意に乾がそんな事を言い放った。

洸夜の影は自分は洸夜だといっていた、つまり洸夜の意思だとも取れる。

乾がそれが気になっていたのだ。

洸夜は本当は自分の事を何とも思っていなかったのでは無いかと。

だが、そんな乾に明彦が声を掛けた。

 

「乾。一体、何が洸夜の本心なのか俺にも分からん。だが、だからこそ俺達は洸夜に会わなければならないんだ。結末がどんな形になったとしても、俺達はそれを受け止めなければならない」

 

乾にそう言う明彦だが、その言葉は他の仲間達、そして明彦自身にも言っている様に思えるが、少なくとも乾に通じたらしく乾は小さくはい……とだけ言った。

少し重い空気が流れるフロアだが、次の瞬間、聞き覚えのある二人の声が美鶴達の耳に届く。

 

「センセイ!通れる様になってるクマよ!」

 

「本当か! 良し急ぐぞ!」

 

それは先程のフロアに取り残されたクマと総司の声であった。

戦いで忘れていたが、声からして無事なのが分かる。

美鶴達は総司達が無事な事で安心したのだが、近付いてくる二人の声は何処か焦った様子。

 

「クマ急ぐぞ! このままじゃ……!」

 

「耐えるクマよ! すぐに皆と合流するクマ!」

 

なにやら不穏な会話が聞こえてくる。

美鶴達は互いに顔を見合せ、もしかしたら総司かクマのどちらかが怪我をしたのではないかと予想する。

怪我でもしたならば、この慌てた様子が分かる。

そして、それから一分も経たない内に二人はフロアへ上って来た。

 

「着いた!……あ、美鶴さん!」

 

「皆いるクマ!」

 

上って来た総司とクマは美鶴達を発見するや否や、美鶴達の下へ走るが総司は背中に何かを背負っていた。

 

「無事だったんだな二人共」

 

「心配したんですよ?」

 

美鶴と乾がメンバー達を代表する形でそう言って二人の無事に安心するが、総司とクマは何処か様子がおかしかった。

 

「ふ、二人共……どうしたの?」

 

「何かあったの?……って言うか何か背中にいるんだけど……」

 

風花とゆかりが何かを背負っている総司へ話し掛けた。

すると、総司とクマは何処か辛そうな表情をしながら少しだけ黙るが、それからすぐに口を開いた行く。

 

「すいません。俺達のせいで……!」

 

「クマ……!守れなかったクマよ!」

 

一体、何を守れなかったのか?

美鶴達は互いに顔を見合せるが何だかんだで気になるのは総司が背負っている、何処か見覚えのある形をした何かであるが、今は総司達の言葉を待つことにした。

 

「美鶴さん……俺は……」

 

そう言って総司は背負っていたモノを美鶴達の前へ置いて見せる。

総司とクマは気まずそうだが、それを見た瞬間、美鶴達もある意味で眼を大きく開いてしまう。

そう、総司とクマが背負ってきたモノ、それは……。

 

『……』

 

何も言わないで横になっている順平ドールであった。

これは一体、何を意味しているのか。

美鶴達も突然の事に眼を点にしてしまいそうになるが耐え、代表して思わず頭痛を起こしそうになった美鶴が総司へと聞いた。

 

「総司……これは一体、どういう意味なんだ?」

 

「すいません。さっきのフロアで俺とクマは誤って順平さんを攻撃してしまったんです……!」

 

「ずっと回復はしていて、ジュンペーもカカカカ! って言って場を和ませてくれたんだけども、さっき突然喋らなくなったんだクマよ!」

 

拳を握り締め、本当に悔しそうに言う総司とクマだが、美鶴達は一体どうすれば良いのか逆に分からなかった。

わざとなのか、それとも本気なのか。

どの道、こんな事をしている場合ではない為、美鶴達はゆっくりと本物の順平へ視線を送る。

 

(責任持ってお前が何とかしろ)

 

そんな意思を込めて、美鶴達は本当に眼が点になって自分の人形とそれを見て悲しむ総司とクマを見ている順平に対処をさせようとする。

別に責任は順平にないのだが、どうにかこの茶番を終わらせたかった美鶴達。

チドリが放心に近い順平を押して前に出し、明彦が総司とクマへ語り掛ける。

 

「総司、クマ、君達は"これ"が何に見える?」

 

「何を言っているんですか、順平さんですよ」

 

「アッキー!仲間を"これ"扱いなんて酷いクマよ!」

 

言っている言葉は良いものだが、明らかに今は使って欲しくない言葉に明彦は溜め息を吐きながら、目の前にいる順平を指差した。

 

「じゃあ、君達の目の前にいるのは何に見える?」

 

そう言って総司とクマの視線は目の前にいる本物の順平に向かされる。

 

「……多分、順平……さん?」

「あれ? なんでジュンペーがそこにいるクマか? ジュンペーは目の前で力尽きて……」

 

真顔でそう言いながら、本物の順平と目の前に置かれている順平ドールを交互に見る総司とクマ。

本物の順平、順平ドール、本物の順平、順平ドールの繰り返しで何度も確認する二人に本物の順平も敢えて沈黙で待っている。

まさかこんな人形と本気で間違われているとは思いたくない順平は、総司とクマの言葉を待っている間はショックで燃え尽きたかの様に真っ白に見える。

そして、何度か二人は見たのち、その時がやって来た。

 

「っ!?」

 

しまった! まさにそんな表情をする総司とクマの二人に、遂に順平の我慢も限界に達してしまう。

 

「しまった! じゃねえよ!? どこをどうしたら間違えんだよ! 俺じゃん! 明らかに本物はオレッちだろ!?」

 

必死に言い放つそんな順平に対し、総司とクマは冷や汗をかきながらもポーカーフェイスを決め込み、必死に眼だけ逸らしていた。

 

「も、勿論、冗談ですよ。いくらなんでも人形と間違える訳ないですよ……HAHAHA!」

 

「ク、クマも最初から分かっていたクマよ!? クマぐらいになれば本物と偽物ぐらい匂いで分かるクマ……」

 

「嘘つけ!? 眼が笑ってねえじゃん! 本気だったろ! 本気でオレッちとこの人形の区別がついてなかったろ!? 」

 

あからさまな嘘を言う二人に畳み掛けるかの如く言い続ける順平。

そんな順平に総司も言い返した。

 

「順平さん! 互いが互いを信じなければ、本当の絆なんて作れません!」

 

「どの面が言ってんだ!? お前、クールな顔してとんでもない事を言ってるぞ?!……って言うか! 眼だけ逸らしてる時点で後ろめたいと思ってるんだろ!?」

 

そう、総司だけ先程から一回も順平に眼を合わせようとしていないのだ。

絶対にこっちを順平を見ず、無理に見ようとしてもプログラムされているかの様に無駄のない動きで眼だけを逸らし続けるのだ。

 

「いや~それにしてもおかしいとは思ったクマよ? 何言ってもカカカカ! としか返さないもんだから」

 

「普通にふざけているだけだと思ってました。別に違和感もありませんでしたから」

 

最早、自然に開き直っている総司とクマだが、順平は顔をピクピクと動かしながら聞き続けるが、後ろから笑い声も聞こえてくる事からゆかりやチドリ辺りが笑っている事が分かり、更に腹が立つ。

そして、順平は目の前に寝かされている元凶であるドールを睨む。

平然と間の抜けた顔をしているのがハッキリ言ってムカつく中、順平はある事に気付く。

 

(ん? この人形、額に何か書かれて……)

 

ドールの額を覗き込む順平。

そこには、平仮名で"じゅんぺい"と書かれていた。

子供のイタズラの様な文字。

そんな文字に順平の堪忍袋の緒が切れた。

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!」

 

順平は素早く人形の頭を掴むと、そのまま上に投げた瞬間にトリスメギストスを召喚してそのままドールを一刀両断にする。

 

「あっ! 順平さんが!?」

 

「違うって言ってんだろぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

▼▼▼

 

「と言う訳で、私達は君達が来るまで洸夜のシャドウと戦っていたんだ」

 

「そんな事が……」

 

順平の一件を済ませた後、総司とクマは自分達がいなかった時に起こった事を美鶴達から聞いていた。

因みに、順平は最後の総司の言葉に対するツッコミによって息切れを起こし休憩中である。

 

「それじゃあ、次のフロアに行けば良いクマね?」

 

「はい。ですが……」

 

クマの言葉にアイギスも頷きはするが、その目線は心配そうに次のフロアへの扉へ向けられていた。

次のフロアへの扉、それは先程も開けた洸夜と美鶴達の一件を見せられた黒い扉と同じデザインの物であった。

また何かあるのか、皆もそれが心配なのは雰囲気だけでも隠す事が出来ない事実。

風花と乾も先程の洸夜の影の歪んだ笑みが頭から離れないでおり、不安だけが積もっている。

 

「"黒の産声"……あのシャドウ、そう言ってたわね」

 

「……黒の産声?」

 

思い出した様に言うゆかりの言葉を総司も繰り返す様に呟くが、心当たりはまるでなかった。

周りに重い空気と時間だけが過ぎて行く。

だがそんな時、美鶴が一人扉の方へ歩き出し、それを見たアイギスが声を掛けた。

 

「美鶴さん。宜しいんですか? もしかしたら、先程の光景よりも……」

「大丈夫だアイギス。さっき、洸夜のシャドウの前でも言ったが覚悟なら、既に出来ている」

 

そう言って再び皆に背を向けて扉の方へ歩き出す美鶴の背に、他のメンバー達もそうだったなと言う感じで少し笑みを浮かべた後、表情を真剣なものにして美鶴の後を追う。

それを見ていた総司とクマも、先程とは違う何かを美鶴達から感じ取ったのか安心した様子で皆と扉の前へと向かい、そのまま扉を静かに開く。

しかし、総司達はまだ知らない、黒の産声の意味を。

そして、総司達はすぐに知る事になる、黒の産声の意味を。

 

(これは……!)

 

総司達は再び見る。

黒き愚者の過去を……。

 

End

 

 




オリジナルシャドウ

名前:ドールマスター
アルカナ:愚者

洸夜のシャドウに影響され突然変異した大型シャドウ達の集合体。
まるで、ワイルド能力者とその仲間達との関係を皮肉めいた様に表すかの様に美鶴達の姿をした人形を操って来る。
攻撃は自分での属性攻撃と人形達を強化する等して攻撃し、人形を的確に操り美鶴達を苦戦させたが、それでも二年前を生き抜いた美鶴達にとっては勝てない相手ではなく、最後は己で放ったメギドラオンが仇となり美鶴達の"ボカスカアタック"により消滅した。
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