ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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ナルトとジアビス、この二つですねアイデアがあるのは。
あぁ~早く書きたい。どっちを書こうかな。


その名を呼ぶ……

同日

 

現在、黒き愚者の幽閉塔【最上階】

 

『果てろッ! ラグナロク!!』

 

洸夜の影は口を開けると巨大な豪炎し、最強の炎系技『ラグナロク』が総司達へ放たれる。

 

「マズイ! ホワイトライダー!」

 

「お前もだ! トリスメギストス!」

 

総司と順平がラグナロクを防ぐ為、自分とメンバー達の前に炎に強いペルソナで迎え撃つ。

耐性がある為、予想通りラグナロクは防ぐ事は出来た。

しかし、ラグナロクはメンバー達に当たる事は無かったが、防がれた事で周りへラグナロクの残り火が流れ、辺りの地面を溶かして空気を熱し、それはラグナロクの威力がどれ程のものだったのかを理解させるのには十分であった。

そして、それを十字架から見ていた完二は、その光景に怒りを覚えずには入られなかった。

 

「あのシャドウ……! 俺達に手を抜いてたのかよ!」

 

目の前の威力の技。

洸夜の影は、そんな凄まじい攻撃を完二達には放っていない。

だが、それでも自分達は負けたのだ。

完二からすれば情けない事この上なく、悔しくて堪らない。

そして、完二が怒りを覚える中、コロマルのケルベロスが残り火を吹き消して安全を確保するが洸夜の影の攻撃はまだ終わらなかった。

 

『ハハッ!……抉れ! 』

 

「ッ! 皆さん避けて! 最大疾風技来ます!」

 

風花のサポートに全員は一瞬も休まず、全力でアクセルを踏んでいる様に全力行動。

威力も強い技が続き、洸夜を移動させられず総司達の行動が制限される中、洸夜の影は技を放つ。

 

『万物流転!』

 

洸夜の影の前に巨大な風の塊が出現した。

辺りの破片を吸い込んでは削るその疾風の塊、それはまさに攻撃する為だけに生まれた風。

それが総司達に再び迫る中、今度はゆかりが前に出た。

 

「舐めんじゃないわよ! イシス!」

 

イシスを前に出し、万物流転を受け止めさせた。

だが、それでも万物流転は止まらずに少しずつゆかり達へ迫る。

 

『所詮、『アイツ』がいなければ何も出来ないお前には無理だな……!』

 

「くぅ……! まだ……私は……!」

 

ゆかりは歯を食い縛って耐えるが、それでも時間の問題なのは目に見えている。

見下す様に洸夜の影は笑い、止めを刺そうと右手の刀をイシスへ向けたその時。

 

「メーディア!」

 

「キントキドウジ!」

 

「アテナ!」

 

チドリ、クマ、アイギスの三人が油断していた洸夜の影にペルソナを接近させていた。

 

『なに……!?』

 

突然の奇襲に洸夜の影も対処に遅れ、三体のペルソナ達はそれぞれの技を洸夜の影へ放った。

 

「マハラギダイン!」

 

「マハブフーラミサイルクマ!」

 

「ゴッドハンド!」

 

それぞれの技が洸夜の影の身体にそれぞれぶつかり、その直後に爆発した。

そのおかげなのか、イシスが押さえていた万物流転も消滅してゆかりも呼吸をして肩を落とす。

耐性持ちとは言え、相手の技を耐える為にペルソナを維持するにも力はいる。

そして、爆煙で洸夜の影が見えなくなるが美鶴達は警戒は解かない。

あの程度で消滅するとは全く思ってないからだ。

 

「皆、油断はするな。総司達の話では暴走したシャドウの目的は宿主の殺害……」

 

「何処から狙うかも分からんからな。山岸、ジャミングは気にするな。今は君の出来る事に全力に取り組むんだ」

 

「は、はい!」

 

明彦の言葉に風花は力強く頷いた。

洸夜のワイトの能力は本当に探知特化&探知潰し。

それは風花にとって能力を事実上封じられたと言っても同然だ。

だからと言ってメンバー達は風花を足手まといとは思っていないが、風花自身が己を許せない。

明彦はそれ分かってか、そう風花に言ったのだ。

勿論、風花にも出来る事はある。

先程の様に技が来る時のサポートは風花にしか出来ない。

 

「よっしゃ! 俺も攻撃に回るぜ!」

 

風花の気持ちが落ち着いた事で順平も断然やる気が現れ、爆煙に呑まれている洸夜の影を睨んだ時だった。

 

『月影』

 

バシュ!

 

チドリとクマ、その二人のペルソナ達の中を一本の光が走る。

鋭く鋭利な一本の光。

その正体は煙の中から伸びる一本の太刀、洸夜の影の攻撃だった。

満月時に威力を上げる物理技『月影』。

この世界に存在する多色の満月がその技の威力を上げたのだ。

そして、洸夜の影の一閃はメーディアとキントキドウジを確かに捉えており、それは同時に宿主へのダメージも意味する。

 

「ッ! カハッ!」

 

「グギャ!」

 

自分達のペルソナが地面に落ちると同時に、口から痛みによって息を吐くチドリとクマ。

二人はそのまま膝を付き、洸夜の影がチドリの姿を捉える。

 

『まずはお前だ……偽りの仮面使い』

 

チドリへ刀を振り上げる洸夜の影。

そんな洸夜の影をチドリは睨み付けるが、痛みによって眼力は低く負け犬の遠吠え程度しか威圧できない。

 

「チドリ!」

 

「チドリさん!」

 

チドリの危機に武器を構えて走り出す順平と乾の二人。

彼女を副作用から解放して救ったのは洸夜だ。

なのに、その洸夜の力によって彼女の命が脅かされる事はあってはならない。

だが、そんな二人に気付かない洸夜の影ではなかった。

洸夜の影が順平と乾へ視線を向けた瞬間、首のアルカナの仮面のネックレス、その内の”死神”の仮面が光ると黒い光が二人に降り注がれる。

 

『デビルスマイル!』

 

「ッ!?」

 

「なっ!?」

 

突如、順平と乾に悪寒が走る。

寒く不安で、全身の震えが止まらず動けない状態『恐怖』状態に陥ってしまったのだ。

 

『……先ずは一人目』

 

邪魔がなくなり、今度こそ洸夜の影の攻撃が振り落とされた。

 

「させるかぁッ! イザナギ!!」

 

しかし、今度は総司が洸夜の影の攻撃を妨害した。

イザナギはそのまま自身の大剣で洸夜の影の刀を振り上げて隙を作り、イザナギは再び大剣を振りかぶる。

 

「総司さん!」

 

『マハタルカジャ』

 

更にそこへアイギスからの追撃もとい、補助が入りイザナギの力が増強され、そのままイザナギは大剣を洸夜の影目掛けて全力で振った。

 

『グオォォォォォッ!!?』

 

強化されたイザナギの攻撃に耐えきれず、フロアの奥まで吹き飛ばされる洸夜の影。

相手に隙と距離が生まれた事で総司達は態勢を整え始めた。

ゆかりはチドリ達四人に近づいて回復に専念した。

 

「ほら、しっかりしなさいよ!」

 

順平と乾にはメパトラを、チドリとクマにはメディア系を掛けようとするがチドリはそれを制止させた。

 

「ゆかり、私は大丈夫だから他の皆を……私には『生命の泉』があるから」

 

生命の泉、それは宿主の体力を回復させる自動効果スキルの類であり、それによってチドリの体の傷は確かに消え始めていた。

しかし、ゆかりはチドリの言葉に首を横へ振った。

 

「何言ってんのよ。どんな力だって万能じゃないんだから、特にチドリは無理出来ないでしょ?」

 

ゆかりはチドリの言葉を一蹴し、彼女にも回復を掛ける。

ペルソナの回復だって万能ではないのは事実、命を失ってからでは遅いのだ。

だからゆかりは癒すのだ、誰も死なせない為に。

そして、先程から戦いを見ていた明彦は未だに洸夜を支える美鶴へこう言った。

 

「美鶴。俺達も出るぞ……洸夜も守らなければならないが、俺達が後衛のままで倒せる程、あのシャドウは生易しくはない」

「確かにそうだが……」

 

明彦の言葉を聞くが、美鶴には迷いがあった。

自分達はシャドウに踊ろされたとは言え、洸夜を傷付けた。

ならば、今度こそ自分の目の届く所にいればそんな過ち等は起こらないのではないか。

そう心の中で美鶴は思ってしまい、それが彼女の迷いになってしまっている。

そして、そんな彼女に気付いたのか風花が洸夜は自分が見ていると伝えようと二人の傍に近付いた時であった。

 

「うぅ……美鶴……か?」

 

「洸夜!? 目を覚ましたのか?」

 

洸夜が目を覚まし、薄らと開ける瞳で美鶴を見た。

それに美鶴も声を掛け、近くにいた明彦と風花や総司と他のメンバーも洸夜の方を向き、美鶴は洸夜へ今の状態について説明しようとする。

 

「洸夜、今はーーー」

 

「……すまない」

 

「えっ……?」

 

説明しようとした美鶴の言葉を遮り、洸夜からでた言葉は謝罪の言葉であった。

陽介達の時とは違い、何処か悲しみと深い謝罪の念が感じ取れる。

しかし、美鶴達は洸夜に謝れる事はされていない。

寧ろ、謝罪をするのは自分達の方だと、明彦は洸夜へ言った。

 

「洸夜、謝罪するのは俺達の方だ。お前は謝罪するなと言ったが、少なくともお前が俺達に謝罪する理由はないんだ……」

 

親友への謝罪。

ただの謝罪は洸夜を傷付けると明彦は理解しており、直接ではなく感情でそう表した。

だが、洸夜は明彦の言葉に宙を悲しげな眼をしながら首を横へと振った。

その眼に涙を浮かばせて。

 

「違う……違うんだ明彦。全部、原因は俺だったんだ……全部、俺は知った……思い出した……すまない……!」

 

歯を食い縛り、涙を流しながら洸夜は深く美鶴達へ謝罪を続ける。

あまりの謝罪に思い違いとも思えないが、一体何に対しての謝罪なのかは美鶴も明彦もゆかりと順平ですら分からない。

それは他のメンバー達にも同じだったが、総司ただ一人だけは意味深に兄の事を見ていた時だった。

皆の背後から、声が響く。

 

『そいつは思い出したんだ。己の真髄、黒きワイルドの力の意味を!』

 

「洸夜さんの影……!」

 

「グルルルル!」

 

立ち上がり、此方の方に迫る洸夜の影に再び構えるアイギスとコロマルだが、一切のダメージが無かったかの様に洸夜の影は先程とは変わらない足取りで迫っていた。

 

「どう言う意味だ。お前は本当に知っているのか!」

 

『当たり前だ。俺自身がそうだったんだからな』

 

美鶴の言葉に小馬鹿にした様に返答する洸夜の影は、微かに瞳を開けている洸夜を一瞬だけ見ると静かに喋り始めた。

 

『お前達は見てきた筈だ。ここに来るまでにその男の過去を……』

 

「あの扉の事クマね」

 

クマの言葉に洸夜の影は頷いた。

 

『そうだ。だが、重要なのはその扉で見た内容だ。負の感情を中心とした嘗ての過去……その意味が分かるか?』

 

「分からないわよ。知ってるならとっとと言いなさいよ」

 

ゆかりが噛み付く様に返答するが、今までの洸夜の影の行動から考えればそれは仕方ない事だと言える。

そんなゆかりに対し、洸夜の影も対して何も思わずに鼻で笑い、話を続けた。

 

『俺は言った筈だ。負の感情も絆の一つだとな……孤独に生きてきた一人の愚者。他者に影響と色を与える黒き愚者。黒は全、全とは全てを意味する……正と負、どちらも欠けても黒のワイルドにはなりえない。クク、ここまで言っても分からないか?』

 

「……」

 

洸夜の影の言葉に誰も返す者はいなかった。

本当は分かっているかも知れないが、自信もない。

そして、そんな何も言わない美鶴達に洸夜の影は失望した目で見下した時であった。

 

「兄さんは正と負、その二つを力にしていると言う事だろ?」

 

口を開いたのは総司だった。

総司の言葉に皆が総司を見る中、洸夜の影も総司を見た。

 

『ほう、やはり気付いていたか……』

 

「兄さんの過去、そして美鶴さん達との一件やペルソナの暴走……そう考えれば納得できる」

 

既に答えに辿り着いているからか、総司の言葉に迷いは感じられない。

手探りで話している訳でもなく、総司は答えに辿り着いているのだ。

そして、辿り着いた者はもう一人だけ存在する。

 

「やはり、そう言う事だったのですね……」

 

「アイギス……君も分かっているのか? この事件の真相が……!」

 

静かに呟くアイギスに美鶴が聞く。

皆、答えが知りたいのだ。

何故、自分達が洸夜を傷付けてしまったのか、何故、それが自分達と洸夜の絆なのかが。

答えを求める仲間達、そして、そんな仲間達に答えを与えたのはやはり総司だった。

 

「本来、ワイルドを持つ人が絆を繋ぐ時、喜び等を分かち合い、その人と互いを理解しあって初めて出来る。でも兄さんは孤独で寂しかった。だから、兄さんは全てを繋がりにしてしまったんだ……憎しみや嫉妬等の”負の感情”さえも」

 

その総司の言葉に美鶴達のピースが勢いよく填まり出す。

ここまで見てきた洸夜の過去、それは別に辛い出来事をただ見せていた訳ではなかった。

洸夜のワイルド、黒のワイルドの力の片鱗を見ていたに過ぎなかったのだ。

 

「それじゃあ、洸夜のワイルドは……」

 

「……負のコミュを築く事で力を得て、それが色……つまりアルカナからペルソナを誕生させたんだ。本来の絆と共に」

 

明彦の言葉に総司は更に言葉を付け加えて伝え、その答えに美鶴達はショックを隠せなかった。

負を力、絆にすると言う事はそれはつまり自分達と洸夜の一件が意味するのは……。

 

「つまり、私達と瀬多先輩の一件は……」

 

「……はい。恐らく、総司さんがおっしゃれた様に負の絆だったのでしょう」

 

「マジかよ……そんなのって……」

 

順平は洸夜の影と総司が言っていた事を思い出していた。

月光館から言っていた洸夜の影の言葉、そこから全て真実しか言ってなかったのだ。

つまり、自分達は本当の意味で絆を否定した。

順平はもう、何が何なのか分からなくなってきた。

そして、そんな順平達を見て洸夜の影は歪んだ笑みを浮かべる。

 

『……漸く気付いたか。そうだ、あの時、お前等は『アイツ』の一件で傷ついていた。勿論、洸夜もだ……そしてその結果、ワイルドはお前等の心に反応した。ワイルドはお前等の心に応えたに過ぎん! 皮肉だが、その絆がお前の中で一番大きなモノでもあったがな』

 

「そう言う事だ。皆……全部、俺が招いた事だったんだ……被害者面して、俺は……自分が情けない……!」

 

己のシャドウの言葉に洸夜は涙を流し、美鶴達へ謝罪する。

自分が招き、余計な傷を残してしまった。

洸夜はそれが情けなく、全てを知った事で自分が許せなかった。

勿論、それは美鶴達も同じ事でもある。

 

「洸夜、あの事は偶然が重なってしまっただけだったんだ。だから、お前が一人で傷つく事も責める事はないんだ。私達にも責任ある……」

 

「洸夜、共に前に進もう。今度は俺達も一緒だ」

 

美鶴と明彦は漸く洸夜とちゃんと話すことが出来た。

二年と言う月日、それは長いものと見えるが短くも見える。

だが、少なくとも美鶴と明彦にはとても長く感じるものであったのは間違いない。

そして、そんな洸夜へ話す事が出来た二人を見て順平もまた涙を流し男泣きをしていた。

 

「うおぉ……うおぉぉぉ! よがったぜ先輩達ぃ……!」

 

「順平……」

 

「くぅ~ん……」

 

チドリとコロマルが心配し、順平に静かに近づこうとしたが泣き方が尋常ではなかった為、少し引いてしまい結局は後ろへ下がってしまう。

そんな光景に笑いや涙がある中、ゆかりだけはまだ洸夜へ近付けずにいた。

原因があったとは言え、引き金を引いたのは自分だとゆかりは分かっていた。

だから、直に洸夜の前に出ると不安で怖く仕方なかった。

しかし、美鶴も明彦も順平ですらケジメは付けた。

だが自分は逃げるか? 

 

(嫌! それはもっと嫌だ!)

 

ゆかりは心の中で叫んだ。

逃げて何になる、一番それが嫌ならば今、自分がする事は一つだろう。

ゆかりは覚悟を決め、洸夜の下へ行こうとしたその時だ。

周囲に洸夜の影の怒号が響く。

 

『笑わせるッ!お前等が和解した所で絆を否定したのは変わらん! そしてお前がペルソナをも傷付けた事もなあ!!』

 

「ッ!!」

 

洸夜の影の怒号により、ゆかりの覚悟はかき消され、洸夜もその言葉に怯える様に言葉を失った。

 

『あの一件、本来ならば今まで通りに絆となって終わる筈だった。だが、あの絆はお前自身ですら受け止める事が出来なかった。それどころか否定し、その結果、連鎖爆発の様に他の絆にも影響を与えた。それがペルソナ達の暴走だ! 正と負の絆によって生まれた仮面達、どちらかを否定すればペルソナ達は己の存在が維持できなくなるのは当然だった。ペルソナはずっとお前に助けを求めていたが、結局お前がそれに気付く事はなかったがな』

 

「そう言う……事だったのか……」

 

洸夜は今まで暴走したペルソナの事を思い出す。

消えたペルソナ達、そして暴走して消えて行ったペルソナ、その全てがただ暴走した訳ではなかった。

苦しんでいたのだ、絆が否定された事でそれによって生まれた仮面も否定された事になり、徐々に消滅して行く事で。

洸夜は美鶴に支えられたまま俯いてしまった。

ペルソナは裏切っていなかった、自分が勝手に否定し見限ってしまっていただけだった。

洸夜にとってそれは苦しい真実であり、その洸夜の様子に洸夜の影の雰囲気も変わった。

鋭利な戦いの雰囲気へと。

 

『もう良いだろ。どちらにしろ、これで終わりだ……!』

 

「ッ!? 力を溜めてる!? 攻撃に備えて下さい!」

 

風花が攻撃に気付き、皆にそれを伝えると明彦が単身、洸夜の影へ向かって行った。

 

「明彦ッ!?」

 

「撃たせる前に叩けば良い! 美鶴は洸夜を頼む!」

 

美鶴の制止も聞かずに明彦は突っ込み、カエサルを召喚し洸夜の影に挑む。

 

「行くぞカエサル!」

 

『ジオダイン!』

 

剣からジオダインを放つカエサル。

だが、洸夜の影は左手の盾を翳し、ジオダインがその盾に直撃し攻撃を防いだが、それだけでは終わらなかった。

盾に直撃したジオダインは消滅せず、そのまま威力で明彦へ迫る。

 

「反射系スキルクマ!?」

 

「真田先輩!?」

 

明彦の危機に叫ぶクマと風花。

だが、明彦はそんな攻撃には目もくれずにカエサルに対処させると、うずくまる形で一気に洸夜の影の懐付近に迫った。

 

「舐めるなよ。そんなオウム返しで俺をーーー」

 

明彦はそう言い返し、洸夜の影へ顔を上げた瞬間、明彦の世界がスローモーションに写る。

洸夜の影が的確に自分を捉え、右手である刀を振上げていたのが明彦の世界。

 

『言った筈だ。お前等の事は理解していると……』

 

明彦の動きは読まれていた。

どこにくるか、完全に読まれていたそれは例えるなら正に溜め攻撃がドンピシャで直撃するかの様。

 

「キントキドウジ!」

 

その直後、明彦のピンチにクマが援護を出した。

キントキドウジのミサイルが洸夜の影に直撃し、洸夜の影は怯み態勢を崩す。

 

『ッ!? 目障りだ……!』

 

ミサイルの爆煙を払う洸夜の影。

その隙に明彦は洸夜の影から距離を取り態勢を整えた。

 

「すまない。完全に油断した……!」

 

「気を付けるクマよ、アッキー! 大センセイのシャドウはアッキー達の事は知られてるクマ。クマの鼻もフウカちゃんの探知も制限されてるし、スタンドプレーじゃ勝てないクマ!」

 

クマと風花の探知は現在、相手のステータスを見抜く事ができない。

技が来るのは分かるが、大型シャドウの割に洸夜の影の技スピードは速く、サポートを直接的にも封じられ総司達には分が悪い。

それが洸夜の影の狙いでもあるのだから仕方ないのだが。

それを理解してか、明彦も気まずそうにしながらも悔しそうな表情で洸夜の影を睨んだ。

 

「ああ、それは反省するが……まさか、あそこまで見抜かれているとは……!」

 

あのシャドウは自分の二年間の努力を優に超えている事を認める気はない明彦。

だが諦めている訳でもなく、ふて腐れている訳でもない。

寧ろ、内側から沸々と熱い気持ちが溢れて来る。

純粋な戦士とした明彦の闘争心が燃えているのだ。

そして、明彦とクマが集まる中、残りのメンバー達が洸夜の影に追撃を加えていた。

 

「カーラ・ネミ!」

 

「メーディア!」

 

「アォーン!」

 

乾、チドリ、コロマルがペルソナで追撃し、アイギスは武装をフルに活用して戦いを行っていた。

 

「皆さん! 下がってください!!」

 

その言葉に傍にいたメンバー達がアイギスの方を向くと、彼女の手には束になった手榴弾が握られており、アイギスはそれを全力で投げ、それが洸夜の影に当たった瞬間に爆発する。

 

「やったか!?」

 

順平が思わずそう呟く、普通のシャドウなら木端微塵は間違いない。

だが、煙には大きな影が蠢いていた。

 

『どうした? 『アイツ』や洸夜がいなければ何も出来なのか?』

 

「……効いてませんね」

 

「恐らく、物理無効……」

 

煙や焦げは発生しているが、洸夜の影にはちゃんとしたダメージが見られない。

思わず嫌になりそうだが、メンバー達は構え、今度は明彦とクマもその中へ入って行く。

そして、それを総司は日本の刀を構えて見ていた。

自分も行かねばならないが、まだやる事があり総司は洸夜と美鶴の下へ行く。

 

「兄さん……」

 

「……総司。結局、俺はお前も巻き込んだんだな……お前が戦う覚悟をした時から、せめて二年前の事だけには巻き込まない様にしようとした俺自身が……守りたかった弟を巻き込んでしまった……ごめんな……!」

 

洸夜が再び戦う覚悟をした一番の理由は総司を守る事だ。

大切な弟が危険に晒されようとされる中、兄が何もしないでどうする。

過保護と思われるかも知れず、『彼』の一件も関係ないと言えば嘘だが、洸夜にとっていつまでたっても大切な弟なのも事実。

本当ならばペルソナやシャドウに関わって欲しくなかったのが本音だが、しっかりとした覚悟を持った弟を止める事は出来ない。

ならば、自分に出来る事は側で共に戦ってやる事、洸夜はそう己に言い聞かせていたのだが、目の前の現実に洸夜は己の無力、そして原因が自分と言う悲しさに打ちのめされてしまった。

側にいる美鶴と風花も心配を隠せず洸夜を見守るが、心が既に折られている洸夜は歯を食い縛り、絞り出すかの様な口調で己の心の淵を語り出した。

 

「寂しかっただけだったんだ……父さんも母さんも家にいない。両親と一緒にやる行事だって、一度も一緒に参加した事もなかった……周りを見るだけでも当時は胸が苦しかった……!」

 

「……」

 

総司は兄の言葉をただ静かに聞き続ける。

兄の本心、ずっと知る事の出来なかった真実。

総司はそれを己の心に深く刻ませ、美鶴と風花も総司が静かに聞いている事も手伝い、彼女たちも黙ってそれを聞き続けた。

 

「家にも誰もいなくて孤独だった、だからかな……出会った人達、その人達との出来事を俺はずっと繋がりの様に考えていた……良し悪し関係なく、そう思う事で自分が一人じゃなと実感出来た唯一の方法だったんだ……!」

 

天を見ながら洸夜は話を続ける。

本当なら一番、両親からの愛情が欲しかった時期も洸夜が物心ついた時には既に両親は多忙な毎日。

それ故に、自分が我儘を言えば両親が困ってしまう事も早くに学んでしまい、洸夜が両親に我儘を言う事が無くなって言ったのは必然であった。

 

「けどよ……散々、そうやって来たのに突然それを否定したら、そりゃペルソナ達も困るよな……結局、何もかも俺の自己満足なだけだったんだな……家族も……そして仲間も……」

 

そう言って洸夜は眼を閉じる。

まるで、もう終わりにしたいと言う諦めた感じに。

だが、今度はそんな洸夜に総司が語り始めた。

 

「兄さん。兄さんは少し一人で頑張り過ぎたんだ。兄さんが周りに迷惑かけない様に出来るだけ一人で背負い込んでいたのは俺も気付いてたし……勿論、父さんも母さんも」

 

「父さんと母さんが……?」

 

意外そうに聞き返す洸夜に、総司は頷いた。

 

「兄さんは覚えてるかな……かなり昔のクリスマス……」

 

洸夜と総司がまだ幼い頃、二人の両親はある事を考えていた。

ずっと息子達と一緒にクリスマス等を過ごしておらず、一度だけ何とか二人とも休みを得て家族でクリスマスを過ごした事があった。

しかし、休みを得たまでは良かったが何を息子達にプレゼントすれば良いのかと言う問題が発生してしまう。

残念ながら息子達の欲しい物は疎か、今流行りのゲームや玩具も分からない。

そんな両親が考えたのは自分達と同じ子持ちの同僚から聞く事で、今子供達の間で流行っているゲームがある事を知り、それを仕事仲間の協力で何とか洸夜と総司の分を確保する事に成功した。

そして、クリスマス当日に両親はそれを二人に渡し、洸夜と総司はそれに喜び両親も息子達の笑顔に肩を撫で下ろす。

日頃、相手をしてあげられず随分と寂しい想いをさせた。

それを分かっている為、息子達の笑顔が両親にとっては最高のプレゼントだった。

それから数か月、両親が帰宅した時は洸夜も総司もそのゲームをしており、更に嬉しく思えたある日の事。

両親が帰宅し洸夜と総司が眠る中、興味本位で二人のゲームを起動してみる。

話の種、そして息子達が嵌っているゲームはどんなものだろうかと思い、両親は機器を起動してゲームを見てみた。

だが、そこに写ったデータに両親は我が眼を疑った。

二人のやっていたゲームデータ、そこに写るプレイ時間が一時間も無かった。

そんな訳はない、自分達が帰ってきてはそのゲームをしていたのを両親は見ている。

だが、目の前の現実に両親は嫌な予感を覚えた。

 

それからある日、偶然母親が学校に行った時に保護者達と会話する中、母は洸夜のクラスメイトの男の子に洸夜の事を聞いてみる事にしたのだ。

嫌な予感が正しいかどうかを知る為に。

そして、そのクラスメイトの子の言葉に母は自分と夫の過ちに気付く。

 

『洸夜も、洸夜の弟も、そのゲームには興味ないって前に聞いた』

 

クラスメイトの言葉に息を呑み、母親は知ってしまった。

息子達は自分達に気を使っていただけだったのだと。

そして後に会った先生達の言葉に母親、父親は更に悩む事になる。

 

『洸夜くんは物覚えも良く、分からない子にも進んで教えてくれるんですよ』

 

『総司くん、この間の体育で活躍して美術でも金賞を取ったんです』

 

洸夜くんは、総司くんは、洸夜くんは、総司くんは、先生や他の保護者から聞かされる息子達の事。

昔、洸夜から総司との時間を作る様に言われ、総司の事は多少は分かっていたが洸夜の事は聞くこと聞くことが新鮮、驚きの連続。

 

『親御さんの教育が宜しいんですねきっと……』

 

そう言われ、母親も父親は何も言えなかった。

息子の評価は嬉しいが、その事が素直に喜べない。

なにせ、自分達は何もしていなかったのだから。

洸夜が一人で築いた評価、そんな洸夜に親らしい事をしてあげられただろうか。

お金だけを与え、本当に与えたかった物は与えられなかったのではないか。

生活の為の仕事とは言え、両親は息子達へ対しての愛情を与えられなかった事に後悔してしまった。

 

そんなある日の事、洸夜からお願いを両親はされた。

 

『行きたい学校がある』

 

進学校の事の相談なのに、両親はそれがとても嬉しかった。

息子の事が少しだけでも知れた気がしたからだ。

本当ならば、自分達の望む高校にして一緒に暮らしたかったのが本音だが、洸夜からの純粋な我儘はこれが初めての事。

そして、両親はそれを承認した。

 

そこまでの事を、洸夜が家を出た後に聞かされていた総司が洸夜に伝え、その後の想いを更に伝えた。

 

「母さん達はさ、ずっと兄さんに我慢させてから……将来だけでも困らない職に付けたかったみたい。だから兄さんが卒業した後に色々と考えて行かせたい大学、学ばせたい事があったけど、色々とあったから当時は兄さんに大学や就職もさせなかったんだって……多分、美鶴さんとのお見合いも……」

 

総司の言葉を三人は黙って聞き続ける。

一件、親の勝手な良い分だが、洸夜も総司もその真意は分かっており、総司は堪えきれずに笑みを零してしまう。

 

「うちの家族は皆、不器用だね。兄さんも、もっと話せばよかったんだよ。天城にも同じ事を言ったんだろう?」

 

悩む雪子に洸夜が言った言葉を、今度は悩む兄に総司がそれを伝えた。

そんな弟の言葉に洸夜も小さく笑みを浮かべた。

 

「本当だな……!」

 

漸く笑みを浮かべる洸夜に総司、そして美鶴と風花も嬉しく思えた。

あの一件から誰も洸夜に会えず、笑顔すら見る事はなかった。

だが、久しぶりに見れた洸夜の笑顔は昔から変わっておらず、安心したのだ。

そんな三人を見ながら、総司は預かっていた刀とペルソナ白書を洸夜へ渡すと、三人へ背を見せる。

 

「今度は俺が兄さんを守る番だ」

 

「ッ!? 総司!」

 

弟を止めようとする洸夜だったが、総司は走って戦いへ向かう。

 

『どうした! やはりそんなものかッ!!』

 

「乾! 踏ん張れッ!!」

 

「はいッ!!」

 

洸夜の影の刀を受け止めるカエサルとカーラ・ネミの二体。

体力切れとペルソナの過度でゆかりに回復してもらっているクマとチドリ。

そして、後方から援護射撃するアイギスだが物理無効によってダメージは与えれず、僅かに意識を自分の方へ向けるので精一杯。

 

「行くぞコロマルッ!」

 

「ワンッ!」

 

武器を構え、ペルソナと共に洸夜の影へ挑む順平とコロマル。

 

『『アギダイン!』』

 

洸夜の影へ放たれる二体のペルソナのアギダイン。

周りの空気を燃やしながら二つのアギダインは一つとなり、より巨大なアギダインとなって洸夜の影へ迫る。

しかし、洸夜の影は明彦と乾の相手をしながら順平とコロマルのアギダインに先程、カエサルの技を防いだ盾を翳す。

すると、巨大なアギダインは盾に吸い込まれる様な形で吸収されてしまった。

 

「なッ!?」

 

まさか、明彦と乾の相手をしながらも攻撃を防がれた事に順平は驚く中、コロマルがケルベロスと共に駆け出して行く。

 

「ワンッ!!」

 

『耳障りな……ソニックパンチ!』

 

洸夜の影は左手の盾を鈍器の様に使い、ケルベロスへ直撃させた。

その攻撃にケルベロスは消え、衝撃はそのままコロマルを吹き飛ばした。

 

「わんッ!!?」

 

「コロマル!? クソッ……!」

 

間一髪で順平がコロマルを抱き留めたが、その間にも洸夜の影は明彦と乾を追い詰めてゆく。

そんな二人を助ける為にアイギスはガトリング砲を出し、更に援護射撃を畳み掛けた。

 

「もう……誰も傷付けさせない!」

 

『ならば、お前が死ね!』

 

洸夜の影が首に付けている仮面のネックレス、その中の”隠者”の仮面が光った瞬間、アイギスの周りの空間が裂け、その裂け目から巨大な大筒の先端がアイギスへ向けられた。

裂け目からの一斉砲撃による全体物理技、洸夜のペルソナ『マゴイチ』の専用技であるその名は……。

 

『空間殺”砲”!』

 

裂け目の大筒がアイギスへ一斉に火を吹いた。

その一斉砲火にアイギスを足に火を入れ、空へ上がり回避する。

回避が難しい時は物理に耐性のあるアテナで防ぎ、洸夜の影へ銃器で反撃をするが、洸夜の影は口を大きく開くとその口内に光が洩れていた。

そして、その光景に風花がアイギスへ叫ぶ。

 

「逃げてアイギス! メギドラが来る!」

 

「ッ!」

 

風花の言葉にアイギスは気付くが、洸夜の影は空中のアイギスを捉えている。

やられた、そうアイギスが思った瞬間に総司が走って来ていた。

 

「イザナギィッ!!」

 

主の呼び声に応え、イザナギは大剣を洸夜の影の顔面目掛けてフルスイングをかました。

今からメギドラを放とうとしていた中での攻撃、その結果、洸夜の影の顔面は暴発し周囲に衝撃波が発生する。

暴発によって顔面から煙が立ち上る洸夜の影だが、総司達は下がって集まった。

 

「アイギス! 総司! 二人共大丈夫か!?」

 

「はい、総司さんのおかげで助かりました……」

 

心配する明彦とお礼を伝えるアイギス、だが総司は何も言わずにイザナギ同様に構えながら洸夜の影を睨む。

しかし、煙の中から金色の瞳もまた総司を睨み付けていた。

 

『どこま……でも……邪魔を……!』

 

「負ける訳にはいかないからな。お前には絶対……!」

 

互いに睨み合う双方。

そして、洸夜の影が仕掛けた。

 

『月影!』

 

「ジオンガ!」

 

両者でぶつかる大剣と大剣。

衝撃波と放電が重なり、周囲のフロアを削りとって行く。

しかし、両者はその場から動かなかった。

力がほぼ均等だからであり、総司も戦えると思った……だが。

 

ブシュッ!

 

「ッ! イザナギ!」

 

一本の槍がイザナギを"貫いた"のだ。

何が起こったのか分からない総司、しかし、原因はすぐに分かった。

洸夜の影の大剣、そこから生える様に真っ黒に染まった上半身だけのタムリンがおり、そのタムリンがイザナギを貫き、そのダメージが総司を襲う。

 

「グッ……!?」

 

貫かれたイザナギと同じ腹部に痛みが総司を襲い、思わず膝を付きそうになったが総司は耐え、前屈みになりながらも目線は洸夜の影から離さない。

 

「総司くん……!? この……!」

 

ゆかりが矢を洸夜の影へ放つ、だが、顔面に矢は当たったがカキンッと音を発しながら弾かれてしまう。

そして、そんな攻撃に洸夜の影の瞳が輝いた。

 

『黒の嘆き!』

 

洸夜の影の瞳から放たれた光を総司、そして総司を援護しようとしていた明彦達は浴びてしまう。

その直後、総司達は己の異変に気付いた。

 

「身体が……重い……!?」

 

「なんだ、身体に力が入らん……!」

 

総司と明彦は自分の身体に力を入れようとするも、上手くそれが出来ない。

勿論、アイギスや乾達も同じ現象が起きていた。

 

「ペルソナが召喚できません!?」

 

「ゴホッ! 身体が怠い……!」

 

「ヤロウッ! ぶっ■してやるクマッ!!」

 

ペルソナを封じられ、顔色も悪く、クマがキレている等、収拾がつかなくなってくる事態に離れていた為に難を逃れていた風花はユノで全員のステータスを見た。

すると、風花は目の前に映し出された光景に目を疑った。

何故なら、全員が何らかのバットステータスの状態になっていたからだ。

 

「全員がバットステータスに罹ってる!? どうして……!」

 

「さっきの光だ! そいつのさっきの攻撃は全員にランダムで状態異常にするって俺の仲間が言ってたんだ!」

 

驚く風花に十字架に吊るされている完二が事態を説明し、洸夜の影を睨む。

 

「それだけじゃね……そのシャドウ、まだ他にもーーー」

 

『黙っていろッ!!』

 

余計な事を言うなと言わんばかりに洸夜の影は完二の言葉を遮り、目を光らせると完二の十字架に衝撃が走り、完二の意識は途切れてしまった。

 

「ぐはッ!……ちく……しょう……!」

 

「完二……!」

 

苦痛の表情で完二の方を総司は心配しながら見るが、その隙を洸夜の影は見逃さない。

 

『終わりだな……メギドラ!』

 

先程とは違い、今度は一切の溜め無しでメギドラを総司へ放った。

バッドステータスの影響で周りの援護も間に合わない。

そして、メギドラは総司へ放たれ爆発した。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

「ッ!? 総司ぃぃぃぃぃッ!!」

 

弟がメギドラに呑まれ、洸夜は何とか起き上がろうとするも身体に力が入らない。

総司は無事なのか、全員が心配する中で洸夜の影は勝利を確信した歪んだ笑みを浮かべている。

そして、煙が晴れて行き、全員が総司の安否を心配する中、煙の中から一本の閃光が洸夜の影へ放たれた。

 

『グウゥッ!!』

 

再び押し出される形で後ろへ飛ばされる洸夜の影。

攻撃をしたのは言うまでもなく総司だった。

ペルソナに守ってもらったのかイザナギはボロボロに見え、総司にも完全にダメージを防ぐ事は叶わなかった。

総司は肩で息をしながら、未だに洸夜の影から眼を逸らさないでいる。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

状態異常からのメギドラをくらっているにも関わらず、総司は膝を地に付かせる事すらしていない。

それどころか、武器を構え直しイザナギも主と共に洸夜の影へ何度でも挑もうとする姿に洸夜は耐えられなかった。

 

「もう良い……もう良いんだ! 止めろ総司ッ!! お前がそこまで傷付く事は無いんだ! 花村達を連れて皆と逃げろッ!!」

 

限界だった。

これ以上、弟と仲間達に傷付いて欲しくはない。

洸夜は胸が締め付けられる様な思いで総司へそう言い放った。

しかし、総司は動かない。

それどころか、総司は満足そうに笑えを浮かべ、洸夜へ振り向かずに己の想いを語り始めた。

 

「兄さん……俺にとって兄さんは憧れであり、いつか越えたい目標なんだ。両親がいなくても兄さんはずっと俺の事を気にかけてくれて、優しくて強くて……ずっと格好いい兄さんだった」

 

「だが、総司……お前も見たろ。俺の過去を……俺は本当はお前が思っている様な人間じゃない。本当は弱くてちっぽけな人間だ……」

 

洸夜のこの言葉は別に暗くなっているからとかが原因ではなく、目の前の事などを見ての思いだ。

強がった結果、自分を傷付け、それが周りにも招いてしまった。

それが目の前のシャドウだ。

自分がしっかり受け入れればそうはならなかったのに、洸夜は受け入れる事が出来なかった。

何だかんだで一番『彼』の死を受け入れられなかったのは自分なのだと洸夜は気付き、そんな自分が総司が言う程、誇れる人間ではないと分かっていた。

そんな兄の想い、しかし、それを聞いても総司は笑みを崩す事はなかった。

 

「それでも良いんだ……それでも、俺にとって"大切な兄さん"である事には変わらない」

 

そう言い、姿勢を真っ直ぐに伸ばす総司の後ろ姿に洸夜は、ふと考え込んでしまう。

こんなにも、弟の背中は大きかったのかと。

 

「俺は決して逃げない。だから……だから……兄さんも負けないでくれよ……過去にも今にも未来にも……そして"自分"にも……」

 

弟のその言葉に洸夜は何も言えなかった。

これ程までに情けない姿を見せた兄を、総司は未だに信じていてくれているのだ。

 

「立派な弟じゃないか、洸夜」

 

美鶴が総司の事を褒めるが、洸夜は未だに言葉が見つからなかった。

しかし、その時だ。

 

『ならばこれはどうだ?』

 

洸夜の影が総司目掛けて武器を構えていた。

止めを指す気なのだと一瞬で理解し、先程のダメージで動けない総司を見て、洸夜は己のシャドウへ叫んだ。

 

「やめろッ!!?」

 

『貴様は黙っていろッ! 弱者の見る夢!』

 

声をあげる洸夜に対し、洸夜の影は禍々しい金色の瞳で捉えると洸夜はガクンッと力が抜けた様に首を下にした瞬間、突如、顔を上げて発狂したかの様に叫んだ。

 

「ガアァァ……!? アァ……カハッ!」

 

「洸夜!?」

 

「兄さん!」

 

美鶴と総司、そして風花も心配そうに洸夜に近付く中、先程の洸夜の影の攻撃に明彦はホテルでの戦いを思い出す。

 

「今のは確か……ホテルでのやつか。精神攻撃の類だと思ったが……」

 

ホテルの屋上での戦闘で明彦は洸夜の影から、洸夜と同じ技を受けている。

自分のトラウマを見せられ、中々に強烈な技なのが印象的であった。

そして、明彦の言葉を聞いた総司達は反射的に洸夜の影を睨むが、洸夜の影は皮肉めいて笑い、先程の攻撃を説明し始めた。

 

『ハハハ……黒は他者へ大きな影響を与える。それはつまり、他者のトラウマも分かっているとも言える事だ。相手の心に干渉し、相手の最も辛い光景を見せる、それが『弱者の見る夢』だ!』

 

「つまり、洸夜さんにまた酷い事を……!」

 

毒状態で体力が減り、力が入らない乾が洸夜の影を強く睨み付けるが洸夜の影はそれを否定する様に首を横へ振る。

 

『違うな乾。オレは確かに洸夜に”弱者の見る夢”を放ったが、最初に放った時に見せたのは黒のワイルドの本質と美鶴達との一件の真実だ。そして今見せてるのも洸夜自身のトラウマ、つまりは実際にあった真実のみ。オレはあくまで、実際にあった真実しか見せてはいない』

 

恐らく、完二が最初に言っていた洸夜の受けた精神攻撃とは”弱者の見る夢”の事だ。

ずっとここにいた洸夜が己の事を知った理由も、シャドウの言う事が正しければ頷ける。

他者の事を知り尽くし、心にまで干渉、更にペルソナの力の全てを持っている大型シャドウに全員の表情も疲れが隠せなくなって来ている。

しかし、洸夜の影は休ませると言う事を知らず、刀を総司へ突き出した瞬間、美鶴も同時に走り出した。

 

「風花、洸夜を頼む!」

 

「は、はい!」

 

風花が洸夜を受け止めたかどうか確認せず、美鶴はアルテミシアを召喚させ洸夜の影へ鞭を振らせ刀へ巻き付かせると攻撃を総司から逸らせた。

 

「私が控えているのを忘れられては困る」

 

『……眼中になかっただけだ』

 

睨み合う美鶴と攻撃の影の間で火花が散る中、クマが全員に栄養が高くて有名なアムリタソーダ配り、状態異常を治そうと奮闘していた。

 

「ホラホラ! 早く飲むクマよ!」

 

「ま、待て! 自分で飲め……ッ! ガバババババッ!!?」

 

順平の口をこじ開け、クマはそのまま順平にアムリタソーダを流し込ませる。

時間が無い為にするクマの行動だが、流し込まれては堪らないと総司達は自分でそれを流し込んだ。

かなりキツイ炭酸が喉を攻撃するが、そんな事を言っている暇はない。

そして、自分達の身体が楽になるのを明彦達は感じ取る。

一体、原料は何のか気になるが、そんな呑気な事を言っている暇はなく、総司達は美鶴と合流を果たす。

 

「明彦、修行の成果はそんなものなのか?」

 

「まさか。まだまだこれからだ!」

 

そうは言う明彦だが、他のメンバーも洸夜の影に対してどう対処すれば良いか分からないのが心情であった。

先程からの攻撃も全てが効いている様に思えない。

このままでは軈て、押し切られるのが目に見えている。

だからと言って諦めた訳でもなく、全員が再びペルソナを召喚し洸夜の影と対峙する。

そんな、総司達がおかしいのか、洸夜の影はメンバーを見下す。

 

『これがワイルドの力だ。お前等が頼るだけ頼って見捨てた力だ……』

 

「なによ、それ。そこまで言う事ーーー」

 

『ならば否定できるのかッ! 『アイツ』便りで、その中にデスがいたと判明した時に何かしら言っていた貴様らが言えた事かッ!!』

 

「そ、それは……」

 

全員がその言葉に思わず言葉を詰まらせた。

何か言い返せる物はあったかも知れないが、それが出る事もなく、総司とクマを除くメンバー達が一々辛くなるような事しか洸夜の影は言わなかった。

だが、そんな洸夜の影に疑問を持つ者がいた、クマだ。

クマは何やら唸り声を出し、身体を揺らしながら何やら考えている。

 

「どうしたクマ?」

 

「まさか、諦めたとかじゃねえよな?」

 

総司と順平がクマに問いかけるがクマは首を大きく横へ振って否定した。

 

「違うクマよ! なんて言うか……あの大センセイのシャドウ、なんかシャドウらしくないっていうか……」

 

『ッ!?』

 

クマの言葉に洸夜の影の動きが変わる。

まるで、何か触れられてはいけない何かに触れられたかの様に見えるが、誰もそれには気付かなかった。

 

「シャドウらしくない……? しかし、あれはシャドウなのだろう?」

 

「シャドウなのは間違いないクマ。でも、な~んか腑に落ちないって言うか違和感って言うか……」

 

美鶴の言葉にも煮え切らないクマ。

ここの住人であるクマだから分かる何かがあるのかも知れない。

そう総司が思った瞬間、とても強い力が彼等を襲った。

 

『無駄話は止めだ。もう、終わりにしよう……メギドラオンッ!!』

 

突如、総司達の真上に光の塊であるメギドラオンが出現する。

見ただけでもドールマスターより威力が高いのが分かり、総司と美鶴達は一斉に散らばり、それとタッチの差でメギドラオンを落下し周囲を巻き込む様に爆発した。

 

「クッ……!」

 

「なんて威力……!」

 

ゆかりとチドリが顔を隠しながら爆風に悪態をつくが、その瞬間、避けながら総司、美鶴、明彦、アイギスが洸夜の影へ反撃を試みる。

ペルソナ達が全員、同じタイミングで洸夜の影へ武器を振り下ろす。

 

『アンチマハアナライズ』

 

しかし、洸夜の影は佇む姿のまま風に溶ける様にその姿が消え、総司と美鶴達の攻撃は宙に消えた。

 

「消えやがった!?」

 

「また探知妨害!? 一体、どこに……!」

 

順平と乾が辺りを急いで見回すが、姿は見えずどうしようもない。

総司と美鶴達は息を呑み、警戒に集中しようとした時、コロマルが何かに気付き風花と洸夜の方へ吠える。

 

「ワンッ! ワンッ!」

 

「ッ! しまった!? 風花さん、そこから逃げて下さい!!」

 

「えっーーー」

 

アイギスがコロマルの意図に気付き、風花へ退避を伝えるが風花やメンバー達が気付いた時には遅かった。

まるで何も学んでいないかの様に同じ戦法をされてしまった。

風花の背後から、先程とは逆再生の様に洸夜の影がその姿を現した。

 

『ギガンフィスト!』

 

右手の刀から蒼白い光がにじみ出て、風花ごと洸夜を殺そうする洸夜のシャドウ。

しかも、メンバー達は先程のメギドラオンの回避によって散っており、風花と洸夜から離れていた。

それでも仲間の危機に全員が駆け出すが、洸夜の影の攻撃準備は既に完了しており、どうあがいても間に合わないのは誰の目から見ても明らか。

それを悟ってか、風花は洸夜を抱き寄せて身を固め、ユノが洸夜の影へ立ちふさがった。

少しでも壁になろうとしているのだろうが、戦闘力が比無のユノでは何の壁にもならない。

だが、もう動き事は出来ず、仲間も間に合わないならば自分がどうにかするしかない。

風花は今度は自分が洸夜を守る為、自爆覚悟の様な気持ちで洸夜を守ろうとしているのだ。

 

「クソッ!」

 

「間に合ってくれッ!!」

 

追う者、ペルソナを向かわせる者、それぞれが何とかしようとする中、非情にも洸夜の影の刀は振り下ろされた。

 

「兄さんッ!! 風花さんッ!!」

 

総司の叫びが虚しく辺りに轟き、クマも叫ぶ。

 

「も、もう駄目クマよぉ~!!?」

 

虚しく木霊する弱者たちの叫び声。

結局、また自分達は守る事ができないのか。

美鶴達の心が圧倒的な無力に呑みこまれようとされた、まさにその瞬間だった。

 

『ゴッドハンド』

 

洸夜の影の攻撃がユノへ触れようとされた時、巨大な力の拳が上から降って来て洸夜の影に直撃し、その衝撃で洸夜の影は怯み、攻撃が不発となる。

しかも、洸夜の影にも当たり所が良かったのかダメージも入る。

 

『ガハッ!! な、何が……一体、どうしたと……』

 

それは此方が聞きたい、そう思ってしまう総司と美鶴達。

一体、何が起こっているのか聞きたいのは自分達の方だと言わんばかりに立ち尽くしてしまう。

攻撃したのが自分達ではないのだ、それならば誰だと言う事になる。

そんな総司達の気持ちを知ってか知らずか、洸夜の影は原因があると思われる背後へ振り向こうとしていた。

 

『誰だ……一体、誰がッーーー』

 

叫ぼうとする洸夜の影だったが、それは遮られてしまう事になる。

突如、バンッ!と最上階の扉が破裂音の様な音を発す程に強く開かれた瞬間、”黒く巨大な何か”が凄い勢いでフロアに侵入して来たのだ。

それが何なのか誰も考える暇なく、”それ”は洸夜の影の背後にそのままの勢いで接近すると、そのまま洸夜の影を吹っ飛ばしてしまう。

 

『ガアァァァァッ!!?』

 

結局、一体何が起こったのか分からぬまま洸夜の影は総司達の真上をアーチ状になりながら通過し地面と衝突する形で落ちてしまった。

そんな洸夜の影を全員が見る中、乾は先程侵入してきたモノの方を見た……そして、言葉を失った。

 

「えっ……」

 

目の前の”現実”が乾から言葉を奪った。

何故ならば乾が見た”それ”は、もうどこにも存在する筈がないからだ。

乾にとって”それ”は嘗て、母を奪った時に見たモノで復讐の象徴とも言えるモノ。

そう、それは巨大な”黒い馬”だった。

黒い馬に跨り、胸に剣を突き刺したモノ。

それを見た瞬間、言葉を失ったのは乾だけではなく、総司とクマを除く全員が言葉を失っていたのだ。

だが、美鶴だけが何かを悟った様な表情をしていた事には誰も気づかない。

 

「まさか……! いや、そんな……!?」

 

明彦も、突然の事に戦いの最中でありながら構えを解いてしまう程の衝撃を味わう中、遂にその時が訪れた。

 

「ったく……いつまでたっても世話の掛かる奴等だぜ! テメェらはよ!!」

 

気迫が混じった迫力の言葉と共に一人の青年が先程、黒い馬が侵入した事で半壊した扉からフロアへ足を踏み入れ、黒い馬も主の下へ向かう様に青年の隣へ戻る。

敗れたニット帽から飛び出す長髪、傷だらけの季節外れの赤いコートを纏い、そして何より、自分の身長よりもあるハルバートを片手で振り回す青年の存在感に総司とクマは息を呑む。

だが、他のメンバーは違った。

 

「は、はは……瀨多先輩と再会した時点で特別な日だとは思ってたけどよ、これは流石のオレッちも予想外過ぎるわ……!」

 

順平はおかしそうに笑い。

 

「もう、なにが起こっても驚かないわよ?」

 

ゆかりは呆れた様に言いながらも嬉しそうに笑みを浮かべ。

 

「えっ……えぇッ!!?」

 

風花は思考が追い付かず。

 

「なによ、生きてたんじゃない」

 

チドリはあまりに変わらず。

 

「ワン! ハッハッ!」

 

「コロマルさんも喜んでおります。かくゆう私も同意見であります……が、これはあまりにも予期せぬ事でした」

 

コロマルとアイギスも楽しそうに笑い。

 

「やれやれ、やはり来たんじゃないか? だが、遅すぎる。もっと早くこれたんじゃないのか?」

 

美鶴はあまり驚かずにそう呟く中、明彦と乾の二人だけは言葉が見つからなかった。

勝手に消え、勝手に背負い、勝手に一人で苦しみ続けていた勝手過ぎる男。

少なくと、明彦と乾はそう真っ先に思った。

そして、救いようのない程の大馬鹿野郎とも、明彦と乾はそう思いながらも込み上げる想いは隠す事は叶わなかった。

 

「……いつもそうだ、お前は。生きていたなら……そう言え……馬鹿野郎……!」

 

明彦は手で目元を隠しながらそう呟くが、手の隙間からは雫が漏れていた。

そして、乾もその青年を見ながら槍を強く握りしめていた。

 

「あなたは本当に卑怯でずるい……! ずっと守って、勝手に消えて……死んだと思っていたら本当は生きていた? 本当にずるいですよ……」

 

己の想いを言葉にする二人が想う目の前の青年。

そんなもう呼ぶ事が叶わないと思っていた青年の名を二人は呼ぶ。

 

「なあ、”シンジ”!!」

 

「”荒垣”さん!!」

 

「……フッ」

 

明彦と乾の言葉に青年『荒垣 真次郎』は小さく笑みを浮かべ、彼の仮面『カストール』と共に仲間達、そして、この世界(非現実)に舞い戻った。

 

 

End


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