ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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近々、NARUTO、ジアビスの小説を投稿するかもしれません。
勿論、ペルソナが最優先ですが。


アルカナ異常

同日

 

少し前……。

 

現在、黒き愚者の幽閉塔【通路】

 

青年、真次郎は幽閉塔を駆け上がって行く。

立ちふさがるシャドウを薙ぎ払い、吹き飛ばして行き、自分の進む道に立ちふさがるモノに一切の容赦もしない。

目指す場所は親友の所、そこへ行くまでこの足を止める気は真次郎にはなかったが、一定の場所では思わず足を止めてしまう事となる。

そう、洸夜の過去を見せる扉だ。

フロア間を移動する度に見せられるその光景、それを見て行く中で最後の扉を潜り、新たなフロアに足を踏み入れると真次郎は足を止め、やるせない感じで静かに息を吐いた。

 

(俺が言えた義理じゃねえが、『あいつ』といい、お前といい、なんでそこまで自分を犠牲にすんだ。辛いなら辛いって言えや……馬鹿野郎……)

 

真次郎は嘗て、洸夜が自分を助けた事を思い出してしまった。

洸夜のペルソナが持つ特殊な力によって助かったこの命。

副作用によって体温調節もまともに出来ない身体だったがそれも治り、今では戒めに近い物として赤いコートを今も年中身に着けている。

それ程の力は負担が大きいらしく洸夜はその力を使った後、数日寝込み、それを見て真次郎は辛く、そして疑問が絶えなかった。

何故、そこまでして自分を助ける? なんで自分に生きろと言うんだと、横たわる洸夜に真次郎は何度も心の中で問いかけるが洸夜が答える事はなかった。

しかし、その答えをずっと洸夜が自分に言ったいたのを真次郎は本当は気付いていた。

親友だから、その苦しみを分かっているからこそ生きて自身で同類を作らない様に伝え続けろ等と、洸夜はよく言っていた。

真次郎自身もそれも一つの答えだとも思い始めていたが、天田乾への罪悪感がそれを許さない。

美鶴からも乾の一件は、乾の母親がシャドウに呑まれた結果、新たなにシャドウが発生し、荒垣がシャドウを倒さなかったら乾が死んでいたと言うが、そんな物は何の理由にもなる筈がない。

自分の力が引き起こしてしまった事を事故で片づけてはならない。

親のいない辛さを知っている自分がまだ幼い少年から、たった唯一の母親を奪い、自分の同類を作ってしまったのだ。

この世の誰が自分を許そうと、真次郎は決して自分を許さない。

それが真次郎自身の戒め、自分で己に巻き付けた罰。

 

そして、乾がS.E.E.Sに参加する事が決まった事を皮切りに真次郎も戻り、あの事件が起こった。

乾の母親の命日であり、大型シャドウとの戦いが起こった日に乾に呼び出された真次郎。

その理由を真次郎は分かっていた、母親を殺した自分への復讐の為だと言う事に。

この時、乾は既に荒垣が抑制剤によって短命だった事を知っていた、それを洸夜が治した事も。

洸夜を責める乾を真次郎は偶然にも立ち聞きする形で見てしまい、乾の想いを知ってしまう中、洸夜との会話で迷いが乾に生じてしまっていた事も知ったが、真次郎は最初から乾に殺される覚悟は固まっている。

唯一、その事で真次郎が心配なのは乾がちゃんと命を背負えるかと言う事ぐらいだ。

復讐の相手であっても命を奪う事には変わりはなく、その重さをしっかりと乾が理解出来るのか、本当にそれだけが心配だった。

まだ幼く、感情をコントロール出来るとは真次郎も思ってはいなかったが、命の重さを知る事に子供も大人も関係ない。

命日が近づくに従い、何処となく何とも言えない気分にもなった。

だが、それを察してか『彼』が真次郎に話しかける事も多くなる。

何を考えているかは分からないが、真次郎が『彼』を無視する理由もなく、何だかんだ一緒に過ごして行き、色々と充実した日々なのは間違いなかった。

 

だが、時は必ずその時を与える。

それが命日のあの日、とある場所に呼び出す乾、呼び出される真次郎。

とある場所、自分が殺めた命の場所、逃げようと、忘れようと何度もしたが無意識に訪れた場所。

 

『僕の母さんは殺された。あれは事故じゃない!』

 

『ここに来たって事は分かってるんでしょ? お前が母さんを殺したんだ!!』

 

『僕がお前を殺してやるッ!!』

 

耳に響く自分が生んだ復讐者の声。

残された者の叫び、亡くした者への想いによって奏でられる哀しき調べ。

やはり、洸夜の言葉でも乾を止める事は出来なかったのだろう。

乾を自分の同類にしたくなかったと言う想いが真次郎の中にはあったが、それは自分の弱さが生んだ感情だとし、真次郎はその思いを黙殺する。

そして、その調べを身体全体で聞く真次郎は、自分が思っていた事を乾へ語る。

 

 

自分を殺す事は構わない事、だが今は憎しみだけでも必ず命を背負う時が来る事を真次郎は乾へ伝える、自分がそうであった様に。

その言葉に乾は少し怯みが、槍を払い、誰が背負うか! と否定されてしまった。

だが、真次郎は分かっている。

必ず、乾も自分の様に背負ってしまう時が来る事を。

今のままでは潰れてしまうが、明彦や美鶴、そして洸夜と『彼』がなんとかするだろうと思いながら真次郎が覚悟を決めた後、乾の槍で自分は断罪されるだけだった……だが、その瞬間に”やつ”が来た。

ストレガのリーダー格、タカヤである。

銃口を乾と真次郎に向け、復讐の正当性やら何やら語るタカヤだが、同時に彼は乾が真次郎を殺した後、自分も死のうとしている事を見抜く。

真次郎を呼び、母の死んだ日にその場所にいる事で乾の中ではもう願いが叶ったにも等しくなっていた。

そんな乾にタカヤは”救い”を与えようと、銃口を向け、その引き金を指に掛け、銃声が辺りに響き渡った。

 

 

だが、乾に銃弾は届かなかった。

真次郎が彼の前に立ちふさがったからだ。

これで良い、そう言って目に前の現状に涙を流す乾に真次郎は言った。

……もう、自分の為だけに生きろと、それを伝え終わったと同時に駆けつけた明彦達の姿が見える。

悲しみの顔の明彦、信じたくないと言う顔の洸夜。

そんな”家族”の顔を見た瞬間、真次郎は微笑み、そして倒れた。

そんな真次郎が意識を途切れる瞬間に見たのは、タカヤに向かって行く洸夜と、自分と、そんな洸夜を見ながら困惑している乾の姿だった。

そして、荒垣真次郎と言う一つの命が終わった……筈だった。

 

(……だが、俺は生きていた)

 

病院に担がれた真次郎は奇跡に近い形で助かったのだ。

医者も驚く程だったらしいが、意識はまだ戻らない筈の真次郎は意識が戻り、目の前にいたのは理事長である幾月であった。

何故いるのかも分からず、あまり好感が持てる人物では思わなかったが、自分の生存を許せなかった真次郎は虚ろな意識の中、幾月に願った。

 

『俺……が生きている事は……隠してくれ。それ……が、アイツ等の為なんだ……』

 

自分がいては乾に何かしらの影響をまた与えてしまう、洸夜達にもきっと。

それでは解決できる物も出来なくなってしまう。

それだけは駄目だと、もう自分が皆の足を引っ張っては行けない、そう幾月に願い、真次郎は再び意識を失うがその間際、幾月の歪んだ笑みが印象に残る。

だが、次に目を覚ました時、真次郎は全てが手遅れである事を知る事になる。

 

 

真次郎が次に目を覚ましたのは、それから六ヶ月後の事だった。

意識が戻った真次郎を出迎えたのは慌てた様子で医師を呼ぶ看護師、そしてその後、桐条の者を名乗る黒服の男。

その黒服は幾月から通じ、今は亡き武治から真次郎の面倒を頼まれたのだと言う。

そして、その後に病室に案内され入って来たのは美鶴だった。

真次郎を見た美鶴は最初は目を大きく開いて驚いた後、今度は怒りになり真次郎と美鶴は少し揉めてしまったがその後に和解し美鶴は現状を真次郎へ説明した。

タルタロス・影時間の消滅が叶った事、だが、そこまで経緯の途中で幾月の裏切り、武治、ストレガ、『彼』の死があった事。

そして、洸夜が街を去ったと言う事実が真次郎へ伝えられた。

今になっては幾月の意図は分からないが、自分の生存を隠してくれていた事が確かなのは真次郎も理解はしている。

だが、それでも犠牲が多すぎた事に真次郎は多少なりともショックを隠せなかった。

特に『彼』の死には堪えるものもある。

短い時間だったとはいえ、気に入ってしまっていたのだ。

自分の作る食事を美味い美味いと言ってお代わりし、暇があれば自分と過ごした『彼』を。

自分の選択が間違っていたのかと思う真次郎だが、美鶴から細かい詳細を聞く限りではそんなレベルではない事を悟り、更に虚しくなる中、真次郎はある疑問を美鶴へ問いかけた。

 

『洸夜はどうしたんだ? あいつはただ本当に街を出ただけなのか?』

 

卒業したとはいえ、あの変な所で他人優先の洸夜がそんなあっさりと街から出て行くとは考えにくい。

真次郎は嫌な予感を察し、美鶴へ問いかけたのだが案の定、美鶴の表情は曇り、口を閉じてしまうが美鶴はすぐに洸夜の事を話した。

美鶴達と洸夜の一件、それを聞いた真二郎は馬鹿か、と怒りを表に出そうとしたが一番馬鹿なのは自分だと気付き、特に言う事をしなかった。

今、真次郎に分かっているのはもう洸夜も『彼』もいないと言う事。

そして、暫く沈黙する中、美鶴はこれからの事を真次郎へ語った。

二度と桐条の様な事態を招かない様に、シャドウ関連の事件を未然に防ぐ部隊の設立を考えている事を美鶴は真次郎へ話すと、真次郎もそれには賛成だった。

自分と乾の様な事はもう二度と起こしてはいけない。

ならば、今の自分に出来る事は分かり切っており、真次郎は美鶴へその部隊の参加を申し出るが、同時に頼みも申し出る。

 

『アキやアイツ等には俺の事は絶対に言うな。俺は裏方に回り、文字通り影からお前等を支える事にする』

 

誰からの評価や礼も要らず、純粋にこの世界の為だけに生きる。

それが真次郎の見つけた新たな罪滅ぼし、己への罰。

美鶴は予想通り反対したが、真次郎も生半可な気持ちで言っている訳はない為、美鶴を何とか説得し裏から支える事を承諾させた。

 

 

そして、『シャドウワーカー』の設立が完了すると真次郎は裏で動き始め、美鶴や黒沢からの任務を聞き行動する。

参加しているであろう明彦達には絶対に悟られな様に、最善の注意を払いながら。

荒垣 真次郎の新たなる戦いの扉はそう開いたのだ。

 

 

▼▼▼

 

現在、黒き愚者の幽閉塔【最上階】

 

『ガ……ガァ……!』

 

洸夜の影が怯んでいるのを確認すると、真次郎は洸夜を抱える風花の下へ近付いて行くが当の風花本人は真次郎の登場に未だに混乱していた。

目をぱちくりしながら何度も真次郎を見つめる風花に、真次郎は気まずい雰囲気を隠しずらかったが何とか呑み込み、倒れている洸夜を見る。

 

「生きてんのかよ……洸夜?」

 

洸夜へ呼びかけるが、洸夜が真次郎へ返答する事はなかった。

ただただ目を閉じ、静かに倒れている親友の姿に真次郎は何とも言えない気分になってしまう。

そして、そんな真次郎へ風花は恐る恐るに話しかける。

 

「あ、あの……本当に荒垣先輩なんですか……?」

 

「……安心しろ、足は付いてる」

 

平然とそう返答する真次郎に、風花は本当になんて言えば良いか分からず絶句するしかなかった。

だが、そんな時だった。

 

「シンジ……」

 

「アキ……か」

 

声に真次郎が振り向くと、そこには家族であり親友である明彦と仲間達の姿があった。

全員が困惑の視線を向ける中、一番会いずらかった者もそこにはいた。

 

「荒垣さん……」

 

天田 乾、彼との因縁とも呼べる日から既に二年近く、あの事件からは更に経っていたが、自分の事を見る乾の瞳は何処か困惑の色を含むと同時に、何処か優しさも存在している。

そして、そんな乾の目線に真次郎は目を逸らさずに見詰め、全員に対して言った。

 

「言いたい事は分かる……けどよ、今はあのシャドウが優先だろ」

 

そう言って洸夜の影を見る真次郎。

その目線の先には今まさに立ち上がろうとする洸夜の影の姿があった。

先程の攻撃に真次郎は手を抜いてはおらず、寧ろ本気で挑んだがどうやら致命傷にもなってはいないのが分かる。

その様子に真次郎は思わず舌打ちをした。

 

「チッ……随分と丈夫なシャドウだな」

 

「まあ、兄さんのシャドウですから」

 

聞き覚えのない声に反応し、真次郎が声の主の方を見ると、そこには洸夜に似た灰色の髪と雰囲気を持つ少年が自分を見ていた。

初めて見る少年だったが、真次郎はすぐにその正体に気付く。

 

「話は聞いてる。お前が洸夜の弟だな……」

 

「はい、瀬多総司です。あなたが……荒垣真次郎さんですか?」

 

総司の言葉に真次郎の目元が少しだけ動く。

 

「俺を知ってんのか?」

 

「……写真で見ただけです。それに、あなたは死んだと聞かされていたので」

 

随分とハッキリ言う総司に、真次郎は洸夜の面影を見たのか破れているニット帽を被りなおしながら思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「それで間違っちゃいねえよ……俺は死んだ身だ。まあ、表上での話だがな」

 

「そう! そこっすよ! なんで生きてるんすか!?……アッ!? 今のは文句とかじゃなくて、なんで撃たれて生きているのかって言うか……死んだっつうより、葬式までしたじゃん!?」

 

真次郎の生存にパニクリ、頭で整理するよりも口が動いてしまっている順平。

よく喋る順平に真次郎は、相変わらずの様子に再び笑みを浮かべるしかなかった。

 

「その事は後で話すって言ったろ……ったく、相変わらず人の話を聞かねえ連中ばかりだな」

 

「そう言うな。皆、お前が生きているのを知らなかったのだから仕方ない……」

 

真次郎の言葉に平然と返す美鶴。

その美鶴の言葉にはまるで最初から真次郎の生存を知っていたかの様な口振りであり、明彦は今度は美鶴の方を見てしまう。

 

「美鶴!? お前、シンジが生きているのを知ってたのか! なんで黙ってた!?」

 

「……美鶴を責めんな。全部、俺が頼んだ事なんだ……これが終わったら全部話す」

 

「……今度こそ本当なんだな?」

 

やはり少し疑いの目で見る明彦。

散々、好き勝手して最後には勝手にいなくなり、そう思っていたら本当は生きていた。

そんな事ばかりをしていた真次郎を疑うなと言える方が難しい。

また、勝手に何処か行ってしまう可能性だってあるからだ。

そんな明彦の想いを悟ったのか、真次郎は黙って、ああ……とだけ言うと、チラリと乾を見て言った。

 

「もう、逃げねえよ……」

 

そう言って、今度は倒れている洸夜へ再び真次郎は視線を送った。

 

(随分と掛かったが……戻って来たぜ、洸夜)

 

今度は自分が親友を守る番であり、漸く背負っていたもう一つの重き荷を下ろす時が来た様だ。

真次郎はハルバートを強く握り直し、集中力を高めようとした時であった。

洸夜の影の咆哮が辺りに響き渡る。

 

『ガアァァァァァッ!! シンジィ……ロウゥゥゥゥゥッ!!!』

 

大気が震え、耳にがキィィンとなり思わず耳を塞ぐメンバー達を他所に、洸夜の影をただの大型シャドウとしか見ていない真次郎は、相手が自分の名前を呼んだ事に驚きを隠せなかった。

 

「あのシャドウ……俺を知ってんのか? そう言えば、洸夜のシャドウとかさっき言ってたな……」

 

先程の総司の言葉を思い出した真次郎は、その詳細をしる為に総司と美鶴達を見るが、メンバー達は真次郎の視線に合わせる様に道を開くと、最後に真次郎の先に写ったのはクマであった。

皆の意図が分かっているからか、クマはやれやれと言った感じだ。

 

「ハァ~今回は本当に説明が多いクマね……」

 

「ッ!? な、なんだ……ぬいぐるみが喋ったのか……!?」

 

目の前のモフモフした存在に息を呑む真次郎。

何故、こんな物体が此処にいるのか、何故に誰も何も言わないのか不思議でならない真次郎は未知との遭遇に思わず手を伸ばす。

 

「ってコラ! お触りは厳禁クマよ!」

 

御安くはないらしく、真次郎から離れるクマ。

ちゃんと意志を持ち行動している物体に、真次郎は半分絶句しながらも謝罪した。

 

「あ、あぁ……すまねえ……」

 

「まあ、良いクマ。そんじゃあ説明するけども……」

 

クマはもう何度目かの説明を真次郎へ話す。

説明係となり始めている自分を理解してなのか、何だかんだで丁寧にクマは説明し終えると、真次郎は事態の真相が分かった事で一呼吸入れるが、様子は至って冷静であった。

 

「……つまり、あれは洸夜でもあるのか」

 

「それだけじゃありませんよ? 洸夜さんのペルソナ全ての力を持っているんです、あのシャドウは……」

 

乾の瞳が洸夜の影を睨むが、真次郎は至って冷静な表情を崩さない。

 

「だから……洸夜なんだろ?」

 

まるで乾の言葉に何とも思っていない真次郎。

嘗めているのか、恐怖が麻痺しているのかは分からないが、少なくとも真次郎は洸夜の影に恐怖を持っていないのは確かだ。

真次郎の強さは皆も知っているが、それは既に二年前の事。

やはり、少し不安を覚えてしまうのは仕方なかったが、そんな不安の中で洸夜の影は止まる訳が無かった。

 

『ガアァァァァァ!!』

 

真次郎の生存が余程、精神的ダメージにでもなったのか、洸夜の影の動きが先程よりも乱暴的になっていた。

咆哮しながら突っ込んでくる洸夜の影に全員が構える中、洸夜の影の姿が歪むとそのまま景色に溶ける様に消えた。

 

「またクマッ!?」

 

「皆、広がれッ!!」

 

クマの叫びと同じタイミングで明彦は、固まる事で一網打尽にならない様に全員にそう言い放ち、総司と美鶴達はバラけた。

その中で真次郎だけは動かなかったが、まるで何かを探るかの様にメンバー達の場所を確認していた時であった。

真次郎の目線の先にゆかりが写った瞬間、真次郎は彼女に向けて腹の中から叫んだ。

 

「後ろだッ!!」

 

「ッ!!」

 

真次郎の声に驚き、ゆかりへメンバー達は視線を向け、ゆかりも反射的に動こうとしたがそれよりも先に動いたのは叫んだ真次郎だった。

 

「カストール!」

 

真次郎はペルソナを召喚するとカストールをそのままゆかりの方へ突っ込ませ、彼女の背後へカストールの馬が体当たりをすると、見えない何かにぶつかった瞬間、周囲に怒号が響く。

 

『ガアッ!! シンジロウッ!!!』

 

見えない何かの正体は洸夜の影だった。

カストールの体当たりを受け、洸夜の影は姿を現すと後ろへ飛んでカストールから距離をとる。

そんな洸夜の影を逃さないと言わんばかりに真次郎は睨み付けるが、ゆかり達には現状を理解する事が出来ず、明彦が真次郎へ説明を求めるのは当然であった。

 

「シンジ……! お前、なんであのシャドウの場所が分かったんだ!?」

 

「ま、まさか……探知タイプクマか!?」

 

クマは真次郎が風花以上の探知タイプなのではないかと思ったが、真次郎はそんな彼等に視線だけを向けるとそれを否定した。

 

「んな器用な事できるか……ただ、洸夜ならそうすると思っただけだ」

 

真次郎は洸夜の戦い方を知っている。

必ず最初は補助を狙うのが洸夜であり、先程は探知の風花を狙ったが失敗した時点で別の人物を狙うのは分かっていた。

回復が可能な美鶴かゆかりのどちらかだが、戦闘力が高い美鶴を狙うのはリスクも高い。

ならば、狙うのはゆかりなのだ。

真次郎はそう言うと、視線を元に戻すが順平達にはそれだけでは納得できないものがある。

 

「い、いくらなんでもそれでけ出来るもんなんすか!?」

 

「言いたい事は分かりますけど、そう上手くいくものなんですか……」

 

はっきり言って順平と乾達は洸夜の影に押され気味なのは事実であり、簡単に言えば自身がなくなっていた。

勿論、それは他の一部のメンバーにも言える事でもある。

異常な力、そして自分達を知っている洸夜の経験に自分達は勝てないのではないかとすら心の隅で生まれ始めてもいる。

順平と乾が思わず下を向いてしまう……その時だった。

 

「情けねえ顔してんじゃねえッ!!」

 

辺りに真次郎の怒号が響き渡る。

あまりの怒号に全員が顔を上げ、総司も無表情ながらも驚いたのか身体が少し傾いてしまっていた。

そして、真次郎はメンバー達の方へ向かず、洸夜の影を見詰めたまま口を開く。

 

「テメェ等は一体、こんな訳の分かんねえ所まで来てなんで戦ってんだ? 謝罪か? 自分達が生き残る為か? どれも違うだろが……洸夜を助ける為なんじゃねえのか! ふざけた事を言う前に自分のやれる事をやりやがれ!!」

 

真次郎の一喝に全員の目に再び覚悟が目覚め始めた。

確かに、自分達は洸夜を助けたい、そしてもう一度だけ皆と笑いあいたいと思った筈。

彼等の目にはまだ迷いもあるが、戦う気持ちの火はまだ消えてはいない。

しかし、風花だけはそんな単純な問題ではなかった。

 

「で、でも私……能力を封じられてるから、皆の役には……!」

 

ジャミングによって風花の探知は意味をなしていない現状、戦闘能力を持っていない風花にはそうそうどうにか出来るものではない。

それは真次郎も分かっているらしく、少しだけ視線を風花へ向けるがすぐに元へ戻してから口を開いた。

 

「お前だけに言えた事じゃねえが……テメェ等、心のどっかでまだ迷ってんじゃねえのか?」

 

振り向かない真次郎の言葉に全員の動きが止まり、真次郎はそれを知らぬまま更に続けた。

 

「自覚があるないは関係ねえ、だが、ペルソナは心の力……テメェ等はまだ、どっかで洸夜には勝てねえ、洸夜への申し訳なさ……そんな無意識な迷いが力を乱してんじゃねえのか?」

 

「だが、真次郎……あのシャドウは私達について知り過ぎている。全て、見透かされてる……」

 

美鶴は思わず弱音を漏らしてしまった。

あの時の一件がここまで大きくなってしまった事実、それは美鶴達を惑わしてしまうのに十分な力。

しかし、真次郎はそんな美鶴の言葉に可笑しそうに微笑んだ。

 

「らしくねえな美鶴。お前がそんな弱音を吐く様な奴かよ……迷ってんなら、そこで倒れている奴が誰なのかよく見てみろ」

 

その言葉に全員が風花の傍で倒れている洸夜へ向かう。

何の反応もせず、静かに眠っている洸夜。

こんなに弱弱しい洸夜は初めて見たぐらいに、メンバー達は何処か不思議な感じを覚え、真次郎は話を続ける。

 

「そいつは誰だ? ただの壁か? ただの戦力か? ただの洸夜か?」

 

次々に言われる真次郎の言葉にメンバー達は気付き始め、その言葉を否定して行く。

只の壁な訳がない、只の戦力でもない、勿論、只の洸夜な訳がない。

無意識に全員の手に力が入る。

そして、その言葉にゆかりの目に涙が漏れ出してしまう。

 

(荒垣先輩の言う通りだ……瀬多先輩も……洸夜さんも『彼』や皆と同じ、大切な人。そんな当たり前の事を忘れてて……順平みたいに謝罪もしないで……ごめんなさい……ごめんなさい洸夜さん!)

 

口を押え、声が漏れるのを防ごうとするゆかりは溢れる涙と共に思い出も次々に蘇ってしまう。

迷いや恐怖でペルソナを召喚が出来ず、ゆかりが『彼』を助ける事が出来なかった時も洸夜は彼女をフォローしていた。

初めて寮に来た時、洸夜はゆかりに順平の時の様な事を思っていたが、父の事を知りたがっていたゆかりの覚悟に負け、特には何も言わなかったがちゃんと彼女に優しく接してあげていた。

当時、周りに壁を作っていたゆかりにとって洸夜は鬱陶しいと思っていた。

ただ先輩風を吹かしたいのか、上下関係を示したいのかとか当時のゆかりはそう思っていたが、ペルソナを召喚出来てからのタルタロスで彼女を洸夜がシャドウの攻撃に庇って怪我をした事で見る目は変わった。

左手から血を流す洸夜を、ゆかりは心配し焦りながら謝罪するが洸夜は笑いながら許し、そんな洸夜にゆかりは頭がおかしい、変な奴と思ってしまったが、それよりも先にでた想いは今までに思っていた事への謝罪の想い。

それからだ、恋愛感情まで覚えなかったが、兄の様な暖かさを洸夜から感じてしまったのは。

 

「うぅ……あぁ……!」

 

あの時の事を思い出し、ゆかりの口から遂に声が漏れてしまう。

皆も気付いていたが、敢えてそれには触れなかった時だ。

 

『ガアァァァァァッ!! ナンデ生キテんだッ! ナンで、お前がガ……!』

 

口調や行動が荒々しく、そして理性のない洸夜の影の姿に真次郎は笑みを浮かべてハルバートを構える。

そして、首を横に向いて明彦達を見て言った。

 

「俺に見えたのは……親友の危機だ。だから俺は戻り、戦うんだ……」

 

真次郎はそう言うと、ニット帽を被り直した瞬間、目を大きく開き叫ぶ。

 

「オラァァァァァァァッ!!!」

 

叫びと共に洸夜の影へ向かって行く真次郎、そして彼の仮面カストール。

洸夜の影も向かい討つ形で剣を振り、真次郎とカストールとぶつかった。

そんな光景に総司とクマは、首を鳴らしてアップをすると刀と爪を構えた。

 

「クマ!」

 

「分かってるクマよ!」

 

互いに呼びあって総司とクマは真次郎に続けとばかりに突っ込んで行き、そんな彼等の光景に美鶴達も互いに頷きあい倒れている洸夜を見た。

瞳を閉じ、傷付いて倒れる洸夜の姿が美鶴達に覚悟を思い出させ、全員は互いに頷きあい、洸夜の影へと向かって行った。

 

『凍えろ……ニブルヘイム!』

 

総司と真次郎へニブルヘイムを洸夜の影は放ち、巨大な氷が彼等へ降り注がれる中、クマがキントキドウジと共に前に出た。

 

「させないクマ!」

 

クマはキントキドウジのミサイル攻撃を放ち、そのままニブルヘイムへとぶつけて氷を砕いた。

しかし、それは所詮は氷山の一角であり、まだまだ巨大な氷が総司と真次郎へ迫り、二人はペルソナを召喚し氷へ向かった。

 

「イザナギ!」

 

「カストール!」

 

イザナギは大剣からジオンガを放ち、カストールは馬の角に力を集中させてヒートウェイブを放つと、一点と広範囲の攻撃が上手く直撃して氷は完全に砕けて総司と真次郎に当たらないまま地面に欠片となって降り注がれる。

そして、真次郎はそんな総司に攻撃を見え驚いていた。

 

(ペルソナに迷いがねえ。あの歳で既に覚悟は固めてるのか……!)

 

自分はこの時、迷ったり後悔ばかりしていたが目の前の少年は違った。

躊躇いもなければ遊び気分も感じさせない真剣な総司の表情を見て、真次郎は無様な戦いを見せまいと追撃を緩めなかった。

 

「カストール!」

 

主の命に先程よりも強い光を角に集め、それを洸夜の影目掛けて突進しようとした時だった。

洸夜の影は盾を横にして鋭利に向けると、それを攻撃によって隙が生まれた真次郎へ薙ぎ払う形では放ち、真次郎は咄嗟に武器で防ごうとした。

だが、洸夜の影の盾は真次郎に当たる前に、鎖の様な何かが絡めとってしまう。

 

「アルテミシア!」

 

盾を防いだのは美鶴のアルテミシアの鞭だった。

盾を絡めとった鞭から氷が発生し、有無を言わせる前に盾を氷結させた。

 

「なんだ、腑抜けてたわりにはいい攻撃じゃねえか?」

 

美鶴を見て小馬鹿にする様に真次郎は言い、美鶴もそれに対し笑みで返した。

 

「なに、ウォーミングアップは先程で終わったと言うだけだ」

 

「義姉さんのウォーミングアップは遅い……」

 

意味はなかったのだろうが、総司は美鶴達とは違う明後日の方を向きながらそうボソリと呟いた時だった。

突如、総司の頭を何者かに掴まれ、錆びた機械の様な動きで後ろを振り向くと、そこには片手で自分の頭を掴んでいる美鶴がいた。

怒りの笑みと言う器用な表情をしている美鶴は、総司の目を見て一切彼から視線を外さないでいた。

 

「聞こえている。どうやら君は随分と余裕の様だな……」

 

「……」

 

美鶴からの視線に言葉を出さない総司、恐らくは照れによる怒りだと思うが美鶴の表情を見る限りでは言わぬが花だ。

しかし、何を思ったのか総司は余計な事を口走ってしまう。

 

「その照れてる姿を見せたら、兄さんもイチコロですね……義姉さ---」

 

「ふんッ!!」

 

美鶴の握力が火を噴いた。

怒っているのは分かるが、それでも美鶴の顔は赤くなっており、やはり照れていた。

しかし、忘れてはならないのが今は戦闘中だと言う事。

馬鹿な事をしている二人を見ていた真次郎が事態に気付き、咄嗟に叫んだ。

 

「上だッ!!」

 

真次郎の叫びに総司と美鶴が上を向くと、そこには今まさに自分達に剣を振り下ろそうとしている洸夜の影の姿がそこにあった。

やばいとは二人も流石に感じた、しかし、洸夜の影の顔が突然、爆発を起こして攻撃は放たれる事は無かった。

 

「アイギス! そのまま援護を頼むぞ!」

 

「了解であります!」

 

総司と美鶴が空から声が聞こえたと思い、上を見るとアイギスが空を飛びまわりながら援護射撃を繰り出し、明彦はペルソナを出さずに全力ダッシュで洸夜の影へ向かっていた。

そして明彦は、そのまま洸夜の影の羽織を掴みながら一気に洸夜の影の顔に接近すると全力の拳を放つ。

洸夜の影も向かい討つ言わんばかりに顔を後ろへ逸らし、そのまま頭突きの様にして明彦を迎え撃った。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

『目障リなァァァァァァァッ!!!』

 

ぶつかり合う両者の一撃は辺りに轟音と衝撃を生み、互いの押し合いが始まった。

物理無効を持つ洸夜の影だが、明彦ももう勝ちを与えるつもりはなかった。

明彦は目を一瞬だけ閉じ、カッ!と開けた瞬間、腕に血管が浮き出た。

そして、明彦の瞳に火が灯る。

 

「ウゥゥゥゥゥ……オォォォォォォォッ!!!」

 

明彦は物理無効など関係ないと言わんばかりに押し、洸夜の影の態勢が崩れて後ろへ倒れはじめた。

更に真次郎は”拳の心得”で更に強化して駄目押しし、一気に行った。

 

「ドリャアッ!!!」

 

明彦は拳の力を一気に放ち、洸夜の影を殴り倒してしまった。

周りに砂埃を発生しながら倒れる洸夜の影も、その衝撃に思わず口から息を吐き出してしまう程に。

 

『ガハッ!!』

 

「今だ! 一気に叩け!!」

 

明彦の号令に何処からともなく現れた順平、乾、コロマル、チドリは己のペルソナと共に倒れた洸夜の影の真上から追い打ちを掛ける。

アギダインとジオダインをペルソナに放たせ、順平達は上から更に袋叩きを喰らわせる。

物理無効持ちだろうが関係なく、休ませないのが重要。

しかし、洸夜の影もやられているばかりではなく、再び背景に溶ける様に姿を消してしまった。

 

「またジャミングです!」

 

「バラけろ! 互いをカバーしあえ!」

 

アイギスと真次郎が警戒を促し、皆が周りを警戒する中、それを見ていた風花にも変化が起こった。

皆、先程までよりも動きが変わり、洸夜の影と互角の戦いになっている。

それならば自分はどうか、風花はユノの力を集中させて瞳を閉じた。

ただひたすらに集中し、己の力を信じるのみ。

風花は今、自分の持てる力を極限まで出すかのようにしてユノから得られる情報を受け取る。

目の前の光景、皆がまたシャドウを探している。

やはりユノでも分からないが、風花は諦めずに集中し、そしてその時は訪れた。

 

「!」

 

風花のビジョンにある違和感が発生した。

目の前の光景、その中で順平の後ろで陽炎の用に僅かに歪む存在を見つけたのだ。

気づけば、風花は叫んでいた。

 

「順平くん! 後ろにいる!」

 

風花の言葉に全員が順平の後ろに視線が集まり、順平本人も動こうとした時だった。

一本の矢が順平の背後に放たれ、何もない空間に刺さり、浮いている様になる。

 

「とっとと出てきなさいよ!」

 

先程とは変わり、今度は弾かれずに洸夜の影に矢を当てたゆかり。

そして、その攻撃により洸夜の影が苦しみの叫びを放ちながらその姿を現した。

 

『ガアァァァ……! なンナんダ……さっキよリも……!』

 

そう言って洸夜の影は美鶴達、ゆかり、そして風花を睨み付ける。

先程までとは力が違う、真次郎の出現に何かが変わったのだ。

そして、その風花の探知には順平も声を出して喜んだ。

 

「やったな風花! こっからが俺達全員での反撃だ!」

 

「うん!」

 

順平の言葉に頷く風花、そしてその光景に互いに美鶴達は頷きあってそのまま洸夜の影を見る。

もう、先程とは違う、迷いを斬った今が攻勢の時なのだ。

全員が身構え、攻撃を行おうとした時だった。

突如、洸夜の影からドス黒い闇が溢れだし、洸夜の影の瞳から光が放たれた。

 

『■■の戯れ』

 

洸夜の影から放たれた光は総司、明彦、ゆかり、チドリを捉え、彼等を包み込んだ。

光は黒から青に変わり、その青い光に包まれた総司達は困惑しながらも己の状態を確認した。

直接的なダメージがないならば、これは状態異常なのは間違いない。

だが、風花とクマから見ても総司達に状態異常は存在していない。

ならば、今の光はなんだと言う話なのだが、その答えを語ったのは十字架に縛られる皇帝であった。

 

「ち、ちげえ……んだ……!」

 

「あっ!? カンジ!」

 

洸夜の影に気絶させられた完二が十字架から目を覚まし、縛られながらも苦しそうに何かを総司達に伝えようとしていた。

 

「じょうたい……いじょうじゃねえんだ……あ、あ……!」

 

「完二! 無理はするな!」

 

青い光を纏いながら総司は完二の身を心配するが、完二はそれでも何かを伝えようと力を振り絞った時だった。

顔を上げた完二が見たのは、今まさに総司達へ剣を横へ向けて振ろうとしている洸夜の影の姿、その姿に完二は叫んだ。

 

「避けろぉぉぉぉぉッ!!」

 

完二は叫ぶが、総司達が気付いた時には遅かった。

既に洸夜の影の攻撃準備終わり、剣を横へ振って青色の衝撃波を総司達に目掛けて放つ。

 

『愚者の戯れ』

 

放たれた衝撃波、全員は武器とペルソナで防御をする。

そして、衝撃波が彼等を襲った。

 

(ぐっ!……ってあれ?)

 

身体を縮めて防御をとり、己を襲うであろうダメージを覚悟していた順平だったがダメージは殆どなく、強い強風程度の技にしか感じられなかった。

周りはどうなのだろうと、順平は皆を見るが他のメンバーも自分と同じ感じなのだと分かり、ただのハッタリなのだと思った時だった。

その場に倒れる者達がいたのだ。

それは総司、真次郎、明彦、ゆかり、チドリの五人、そう先程、真次郎を除けば謎の光を浴びたメンバー。

 

「ガッ!?」

 

「なん……だ……と!」

 

「あう……!?」

 

膝を付いたり、その場に倒れる総司達に美鶴達は驚きを隠せない。

 

「明彦! 真次郎! 総司! ゆかり……チドリ……一体、なにが」

 

先程の攻撃を受けたのは間違いなく全員、違いがあるのは最初の技を受けたかどうかと言う点だけ。

最初の技に何かあるだと思う中、完二が再び叫ぶ。

 

「そいつが変えたのは……”アルカナ”だッ!!」

 

「アルカナ……? まさかッ!?」

 

ペルソナやシャドウの存在を示すアルカナ、その意味や存在は理解していたが一体、完二が何を言いたいのかはまだ分からないメンバー達だが、風花を一言呟くと何かに気付き、急いでユノで倒れたメンバー達を調べた。

集中して調べるのは主に、彼等のペルソナのアルカナだ。

そして、風花は完二の言葉の意味を知った。

 

イザナギ:*法王*

カストール:法王

カエサル:*法王*

イシス:*法王*

メーディア:*法王*

 

ダメージを受けたメンバー達のペルソナのアルカナが”法王”に統一されたいたのだ。

元々のアルカナが法王であるカストールには見られないが、他のメンバーには見た事のないエラーの様なマークと共に法王のアルカナにされていたのだ。

風花は完二の言葉、そして先程の攻撃の意味を知った。

 

「アルカナの強制変更!? いや、アルカナ異常!?」

 

「どういう事ですか、風花さん! 説明して下さい!」

 

そうとしか言えない風花の言葉、それに乾が説明を求めた事で風花を説明を皆にした。

恐らく、最初の攻撃はアルカナを変更させる技、二回目の攻撃は指定したアルカナだけの者全員を攻撃する技。

そうじゃなければ、最初の攻撃を受けていない真次郎の事が説明できないからだ。

風花の説明を聞き、残ったメンバー達に緊張が走った。

 

「ア、アルカナ変更なんて……聞いた事ないクマよ!?」

 

「アルカナ異常の方が正しいかも知れませんね……ワイルドのシャドウ、その真髄と言う事でしょう」

 

「グルル……!」

 

クマは困惑、アイギスは冷静に分析、コロマルは唸る等の様子だが、ハッキリ言って辛い事は皆同じだ。

そして、攻撃を受けたメンバー達も何とか立とうとするもダメージが大きく、チドリも回復が間に合っていなかった。

そんなメンバー達に美鶴とクマは回復の為に駆けつけ、風花もユノの『癒しの波動』で出来る限りの回復を試みた。

その間に戦える順平、アイギス、乾、コロマルが前に出て洸夜の影に対峙した。

皆を見下す洸夜の影、そんなシャドウを総司は倒れながら見上げる。

 

「くッ……! まだだ……!」

 

『そウだ、マだだ! 死の絆……キズ……ナ……!』

 

狂ったかの様な咆哮を上げる洸夜の影、まだ戦いは終わらない。

そして、皆が戦っている時、倒れている洸夜は己の精神世界へと誘われていた。

 

▼▼

 

現在、洸夜の心【精神世界】

 

洸夜は自分の精神世界で佇んでいた。

何故、精神世界だと分かるのかと聞かれれば、そうとしか感じられないからとしか言えない。

反射的、無意識、直感、それらによって分かってしまうのが、此処が己の精神世界だと言う事実だけ。

沢山のアルカナや扉、それらが辺りで浮かんでいる世界。

数々の色も存在している世界は良く言えば種類豊富やら何やら言えるが、悪く言えば統一性がないとしか言えない。

そんな自分の世界で洸夜はただ静かに今までの事を考えながら呟いていた。

 

「結局、俺は一体、何をしたかったんだろうな……」

 

もう分からなかった。

最初は自分の身を守る為、そして仲間達、学校の皆、そして世界と規模が大きくなった。

洸夜は自分の戦いの歴史について思い出すが、最終的には『彼』の死でつまづいてしまう。

稲羽でも事件は解決出来ないでいる、美鶴達のせいにもしたが結局は自分の撒いた種。

自分の存在価値、戦う理由、もうどうでもよくとも思える。

 

「……ん?」

 

そんな時だった。

洸夜は何やら視線を感じ、その視線の方を見てみた。

そこにいたのは、”真っ黒な服”を着た自分と同じ姿をした男が立っていた。

 

(ああ、シャドウがここまで来たのか……)

 

何も言わずにジッと自分を見て来る、もう一人の自分を洸夜はただのシャドウとしか思えず、抗う気も既にない。

このまま殺された方が良いのかも知れない。

そう思うと、不思議と洸夜はおかしく思えてしまい、そんな目の前の洸夜?に語り掛けていた。

 

「もう良いさ。このまま終わらせてくれ……今更、抵抗する気もない」

 

このまま自分が死ねばシャドウも消え、少なくともこの一件は幕を閉じるだろう。

そんな事を思いながらの言葉だった、しかし、洸夜?からの返答は洸夜が思っていたのとは違う物だった。

 

『諦めるのか? たった一人で無理して、足すらも止めた……その代償の答えがそれか? 案外、呆気ない”命の答え”だった……いや、答えですらないか』

 

失望、無念、情けない、まるでそう言っている様にしか聞こえない洸夜?の言葉。

洸夜はその言葉に驚く反面、何故か気に食わなかった。

 

「なに言ってんだ? 俺を殺したい……それが否定されたお前の願いだろ!」

 

『……それはお前の願いだろ。自分が許せない、一人は嫌だ、お前は一体、今まで何を見て、何を感じていたんだ? 何故、そこまで『アイツ』の事等で一々足を止めるんだ?』 

 

他人事、そして全く気にもしていないその言葉に洸夜は怒りを覚えた。

 

「見殺しにしたんだぞ! 『アイツ』は家族を失って、あそこからが本当の人生だったんだ! なのに、俺はただ兄貴面して……親父さんだって……稲羽の被害者に対してだって……」

 

やはり元はそこなのだ。

洸夜にとっても『彼』の存在は大きく、悲しいだけで済む問題ではない。

勿論、他のメンバーにも言える事だが。

洸夜は下を向き、拳を強く握りしめてしまう、自分が憎い、情けない、そんな思いが強くなった時だった。

 

『何故、一人で背負い込む?』

 

洸夜のその言葉に、洸夜は思わず顔を上げた。

洸夜?のその表情と口調は、洸夜も驚く程に優しげなものであり、洸夜は驚いてしまう。

そんな洸夜を見つめ、洸夜?は話を続けた。

 

『ワイルドを持つ者ならば分かっている筈だ。たった一人の力がどれ程に弱く脆いのかが。……あの仮面達がどうやって生まれ、お前と共に戦って来たのかも忘れたのか?』

 

「たった一人の力……」

 

思わず呟いてしまい、洸夜?はそれに頷いた。

 

『『アイツ』はどんな時でも選択して前に進んでいた筈だ。お前等がいたからだ……『アイツ』にとって家族はお前等だけだった。だから進めた、どんな真実を知ったとしても……』

 

「……俺は、もう一度だけ進めるのか、オシリス?」

 

無意識の内だった、目の前の自分をオシリスと呼んでしまった事が。

それしか心当たりがなく、そしてそれが正しいとも思えてならないが、同時に何か違和感を覚えてしまう。

正しいが何かを忘れている気がする、目の前の自分にそう思ってならない。

そんな洸夜の様子が通じたのか、洸夜?は目を閉じながら言った。

 

『オシリスではある……だが、それはお前と『アイツ』の絆によって変わった姿。そして、あの時にお前が最も望んだ力がオシリスへと転生させたのだ』

 

「それは覚えている……だが、転生前の名を俺は思い出せないんだ」

 

消えない靄が隠しているかの様に、何度も思い出そうとしても思い出すことが出来ない。

真次郎やチドリも助ける事が出来た程の力、それを持つペルソナの名を洸夜は今も思い出せないでいる。

だが、洸夜?は今の言葉に静かに頷いた。

 

『私が忘れさせた……姿が変わると言う事は力が変わると言う事。オシリスでは二人を救った力は使えないが、お前の本質は変わった訳ではない。使えないのに使おうとする事……それはお前への負担にしかならない、だから記憶を封印した。私の名を隠す事で』

 

「なんで名前を……?」

 

『名は己の存在を示す巨大な力。何物でもない者には何の力も使えない……』

 

つまりは、オシリスに転生した事で転生前の力は使えなくなり、このままでは負担になる為に名を封印して力を封じたと洸夜?は言いたいらしい。

単純な物忘れとは思ってはいなかったが、まさかそんな理由があろうとは洸夜も思っておらず一息入れる事で落ち着かせる事にするが、洸夜?の話が終わった訳ではなかった。

 

『本当ならば、全ての絆を力にしていたお前は最も『ユニバース』の近くにいたのだ。だが、それと同時に絶対に辿り着く事も出来なかったがな。迷いある絆ではワイルドを越えた力は応えられない』

 

そう言うと洸夜?の前に光り輝く道が生まれ、洸夜と洸夜?はその道の上に立っている。

そして、その目の前には謎の強大な壁が発生する。

先程の話を目に見える様に説明している様だ。

 

『お前はこの壁の前で止まり続けていた……道はそれしかなかったからだ。だが、そんなお前に『アイツ』は新しい道を作った』

 

そう言って洸夜?が右手を翳すと、壁の手前の道が横へと延びて行き、新たな道が生まれた。

 

『本来ならば歩む己の愚者、その命の旅をお前は一旦中断させた。そして、純粋に『アイツ』の力になる道を選んだのだ。一人のワイルドを持つ者ではなく、純粋な仲間として……その結果がオシリスだ』

 

そう言うと光は消え、元の精神世界へと戻る。

 

(俺は元の旅に戻らなければならないんだな……)

 

『彼』と歩んだ命の旅、それはもう終わってしまった旅。

洸夜はそれを頭で理解すると、悲しく、そして虚しく思えてならなかった。

だが、足を止める事など出来ないのだ、誰かしら必ず前に進んでいる。

それがただ、己の望む先なのか、意味があるかの違いだろう。

しかし、洸夜にはあと僅かな迷いがあった。

 

「俺は進んでも大丈夫なのだろうか……俺の力は他者を傷付けすぎてる。誰かを傷付け、シャドウを殺すだけの力……命を襲う黒きーーー」

 

洸夜がそこまで言った時だった。

突如、洸夜の背後から強大な光が放たれる。

直視出来ない程の光、だが何故か邪魔だとか不快には思わなかった。

寧ろ、懐かしく暖かい光であり、洸夜はゆっくりとその光を見ると中心に誰かがいた。

その誰かの姿に洸夜は眼を開き、言葉を失った。

 

(ッ!? アイツは……!)

 

光の中心で洸夜が見たのは一人の『少年』だった。

学生服を纏い、前髪で片方の目が隠れている少年が洸夜を見詰めており、少年は笑顔を浮かべると洸夜へ言った。

 

”違う……先輩の力はそんな力じゃない。安心できて、皆を守ってくれる……暖かい黒なんだ”

 

少年の言葉に未だに言葉がでない洸夜だが、その後ろにいる洸夜?も笑みを浮かべていた。

 

『お前が再び、私の名を呼ぶ日を待っている……』

 

「ッ! オシリス……!?」

 

洸夜が振り向くと、洸夜?の姿は薄くなっており、洸夜?は最後にこう言った。

 

『”あれ”もまた……お前自身の姿。受け止めてあげてくれ……ワイルドの中に入らず、ずっと負の絆を背負って来たあの仮面を……』

 

そう言って洸夜?は消え、洸夜は少しだけその場所を見詰めていたが重要な事を思い出し、再び先程の『少年』の方を見るがその少年もまた姿が薄くなっていた。

 

「ッ! ま、待ってくれ!? 俺はまだお前に!」

 

謝らせてくれ、お礼を言わせてくれ、何か一言を言わせてくれ。

洸夜は内心では分かっているが、言葉には出せないで混乱してしまった。

だが、そんな洸夜に少年は再び小さな笑みを浮かべるとその姿が消え、その少年のいた場所には『タナトス』が立っていた。

 

「タナトス……?」

 

『……』

 

洸夜の言葉にタナトスは何も言わないが、その姿には恐怖などは感じられない。

不思議な気分だった、こんな安心できるタナトスなど洸夜は見た事が無かったからだ。

そんな不思議な光景に洸夜は目を奪われるが、やがてタナトスから光が溢れて洸夜を包み込ん行く。

 

「ああ、そうか……」

 

洸夜は何か気付いた様に頷くと、何かに納得した様に優しい笑みを浮かべる。

そして、再び洸夜はタナトスの方を見るとタナトスも洸夜を見ていた。

そんなタナトスに笑みを返すと、光は更に強まる。

 

「……お前は最初から……ずっと……」

 

洸夜は光に包まれ、意識を現実へと戻して行った。

 

 

End

 


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