ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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卒研が終わり、久しぶりにPS2引っ張り出し、テイルズ・D・R・Aやってました。
リオン!?リオォォォォン!!
クレアァァァァァァァァァ!!
俺は悪くねぇぇぇぇぇぇぇ!!

全部が懐かしい……。


黒の終劇

同日

 

現在、黒き愚者の幽閉塔【最上階】

 

ペルソナを召喚すると同時、洸夜と総司、美鶴達は洸夜の影へ駆け出した。

それぞれが己のペルソナと共に進み、それを見た洸夜の影は服から”魔術師”の仮面を取り出すと自分の顔へ付けた。

すると、洸夜の影の服の色が一つの色に統一され、雰囲気も少し違うものとなりながら洸夜の影は洸夜達に両手を翳す。

 

『灰も残さねえ……ラグナロク!』

 

洸夜の影から放たれた炎系最強技ラグナロク、それが己へ向かってくる洸夜達へと放たれた。

地面を溶かしながら進む巨大な業火、それを見た総司とコロマルは一気に前に出てカグツチとケルベロスを押し出す。

 

「カグツチ!」

 

「ワン!」

 

主の命にカグツチとケルベロスはラグナロクの目の前に行くと、身体全体でそれを受け止めた瞬間、己が持つ炎耐性を利用して一瞬にして掻き消す。

ケルベロスの力もそうだが、カグツチの力は強大であった。

掻き消したラグナロクを今度はそのまま、自分の大剣へ集めると洸夜の影目掛けて振り下ろす。

 

「カグツチ!」

 

総司の言葉と同時に敵へ向かうカグツチのラグナロク、それは生き物の如く、そして烈火の様に激しい炎となり、洸夜の影が放った以上のものとなって洸夜の影を包み込む。

だが……。

 

『嘗めんなッ!!』

 

洸夜の影はそう叫ぶと、そのまま己を包むラグナロクを吹き飛ばした。

辺りに降り注ぐラグナロクの火は、地面に落ちる前に燃え尽きるが洸夜の影には傷はほとんどなかった。

魔防が高く、耐性もあった為にダメージは互いに通らなかったのだ。

それに風花も気付き、皆にそれを教える。

 

「あのシャドウ、身に着けている仮面によってアルカナと能力が変わっています。今は魔攻・魔防共に高く、属性攻撃の耐性も多くあります!」

 

「表と裏……その中で裏の絆を司る、洸夜さんが持つ最後の力。……これで最後です! 過去から在りし私達全員が清算しなければならない罪。それを今日、ここで終わらせます!」

 

アイギスは自分が何もしてあげられなかった事が後悔だった。

『彼』の一件に囚われ、洸夜達の事に自身で気付くも止める事も出来なかった事が悔しくて仕方ない。

だが、それも今日で終わる。

アイギス達は選らんでいる、自分達は前に進む事を選らんでおり最後の仲間である洸夜を迎えにきた。

そして、洸夜に迷いが消えた今、アイギスにも迷いはなく、アテナを洸夜の影に突撃させる。

 

「アテナ!」

 

槍を向けて突っ込むアテナ、しかし洸夜の影は魔術師の仮面を外して服に付け直すと今度は”戦車”の仮面を被り、アルカナと能力を変化させる。

そして、洸夜の影はそのままアテナの槍を鷲掴み、攻撃を防ぐ。

 

『どうした? どうした!? そんなものかよッ!!』

 

「……クッ!」

 

攻撃が防がれると、今度はアイギスが直接飛んで空から援護射撃を開始した。

銃弾はアテナと取っ組み合いをしている洸夜の影に直撃するが、物理に強くなっているらしく銃弾の攻撃力は届かない。

 

(物理に強くなってる……なら、他のペルソナを……!)

 

アイギスは己のワイルドを使おうとするが洸夜の影にそれは見透かされており、洸夜の影の仮面がいやらしく歪んだ。

 

『今更そんなのが効くかよ……鉄屑がッ!!』

 

洸夜の影は顔をアイギスへ向けると、その口を大きく開けて中から疾風攻撃を繰り出した。

攻撃はマハガルダイン、広範囲の強力技にアイギスは回避行動を取るが範囲も広く、それによって発生する周囲の強風でアイギスはバランスを崩してしまった。

 

「ああぁッ!?」

 

バランスを崩したアイギスにマハガルダインが迫る。

避けるのは不可能、だが彼女もまた一人ではない。

 

「アイギス!」

 

アイギスとマハガルダインが接触する前に、ゆかりのイシスが割り込んで攻撃はイシスの前で掻き消される。

難を逃れたアイギスは洸夜の影から一気に距離をとると、ゆかりへ礼を言った。

 

「ありがとうございます、ゆかりさん!」

 

「私だって、泣いてばかりじゃいられないわよ!」

 

お互いに親指を立てて合図する二人、だが洸夜の影の能力を突破した訳ではない。

真の姿になっても面倒な力、それを見ていた乾は槍に力を入れて攻撃を仕掛けようとした時、そんな彼を真次郎が止める。

 

「ちょっと待て!」

 

「なッ!? なんですか、早くしないと……!」

 

慌てる乾だが、真次郎は親指を”とある方向”へ向けながら乾へ言った。

 

「俺達には、やらなきゃいけねえ事があんだろ……」

 

「えっ……?」

 

真次郎の言葉に、乾は理解できずに首を傾げてしまう中、洸夜・美鶴・明彦の三人も攻撃に参加し始めていた。

 

「ヘーメラーはタルンダを! アイテールはラクンダだ!」

 

洸夜は新たな二体のペルソナ達に命令し、ヘーメラーとアイテールはそらぞれの技を放とうと光を集め始めるが、それに洸夜の影も気付くと、アテナを力づくで引き離し距離を取る。

そして……。

 

『おっと! それに当たるのはご免だな! あらよっとッ!!』

 

洸夜の影はしゃがむと、そのまま一気に力を入れて飛びあがり、洸夜達の真上を通り過ぎながら笑みを浮かべた。

 

『ハッハッ! 当てれるもんならやってみやがれ!!』

 

よっぽど回避に自身があるのか、洸夜の影は洸夜に挑発しながら飛び回り続ける姿に順平とゆかりは引き摺り下ろす為に攻撃を仕掛けた。

 

「いけ! トリスメギトス!」

 

「撃ち落してやるわ!」

 

金色の翼を広げてトリスメギストスは斬りかかり、ゆかりは矢を放って攻撃を仕掛けると、その攻撃は全て直撃して洸夜の影は叫び声をあげた。

 

『ギャアァァァァ……な訳ねえだろ!?』

 

洸夜の影にダメージは通ってはおらず、逆にその攻撃の衝撃は当の順平とゆかりへ回り、自らの攻撃に襲われる。

 

「うげぇッ!?」

 

「ぐッ……! なん……で……!」

 

心構えをしていなかったダメージに思わず膝を付く二人、そんな二人を見て洸夜の影は見下しながら笑う。

 

『どうだ、物理反射のお味はよ? アルカナなんて興味ねえとか思ってねえだろうな? これが”剛毅”のアルカナの真骨頂だッ!!』

 

いつの間にか仮面が変わっており、小馬鹿にする様に笑う洸夜の影に、順平とゆかりは悔しそうに睨むも洸夜の影は更に笑い、二人の抵抗は負け犬の遠吠えとなってしまう。

そして、そんな二人の姿に今度はクマが攻撃に出た。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! クマを舐めると痛い目に遭うクマよ! ブフーラミサイル!」

 

クマは洸夜の影目掛けてミサイルを放ち、多数のミサイルが洸夜の影へ飛んで行くのだが……。

 

『はい、残念賞!』

 

洸夜の影はすぐさま仮面を魔術師に取り換えると、耐性を利用してミサイルを全て手掴みし、そのままクマの方へ投げ飛ばした事でミサイルはクマ目掛けて飛んで行く。

 

「のわぁッ!!? それ反則でしょうよッ!?」

 

元は自分の攻撃に背を向けて逃げるクマの姿に、思わず洸夜の影は腹を抱えて笑った。

 

『ヒャ~ハッハッハッハッ! 口ほどにもねえって意味を身を持って実感したかよ!』

 

その言葉は先程返り討ちにした順平とゆかりへにも含まれており、小馬鹿にする様な洸夜の影の笑い声が辺りに響く。

だが、そんな洸夜の影を立ち上がった順平とゆかりが見ていた。

 

「いつまで笑ってられっかな?」

 

『ああぁ……?』

 

挑発的な口調の順平に対し、振り向き様に首を傾げる洸夜の影だが、その姿は隙そのものであり、洸夜は見逃す訳が無かった。

 

「ヘーメラー! アイテール!」

 

力を溜めていたヘーメラーとアイテールは、洸夜の言葉に溜めていたタルンダ・ラクンダを洸夜の影へ放ち、そのまま洸夜の影の背中へ直撃をみせる。

そして、その影響は早くも洸夜の影へ出た。

 

『ガアァ……! 力が……クソが……!』

 

物理・魔法の攻防のステータスを一気に減らされた洸夜の影、突然の脱力に膝を付いてしまうが洸夜の追撃はまだ終わってはおらず、二体に力を注ぎ、洸夜とその二体から巨大な蒼い光が溢れ出た。

 

「ヘーメラー! アイテール!」

 

二体は洸夜の言葉に、膝を付く洸夜の影目掛けて突っ込むとヘーメラーは左手を、アイテールは右手を洸夜の影へと触れた瞬間、巨大な光が解き放たれた。

 

『下天の光明』

 

『上天の光明』

 

二体から放たれた光は巨大な力となって放たれ、零距離で当てられた洸夜の影を包みながら巨大な爆発を生み、その想像以上のダメージに洸夜の影は叫び声をあげながら吹き飛ばされた。

 

『ギャアァァァァッ!!? な、なんだこの力……!?』

 

身体が焼ける様に熱く、中身が全て破壊されるかの様な衝撃。

今まで洸夜が誕生させたペルソナの力を持ち、知り得てきた洸夜の影だったが、つい先程に誕生させたばかりのヘーメラーとアイテールだけは例外であった為、自分の知り得ぬ力に驚きを隠せない。

耐性を無視した先程の攻撃は恐らく、万物属性の攻撃であり喰らえば事実上防ぐことは出来ない。

だが、吹き飛ばされ洸夜の影は咄嗟に反撃を試みた。

 

『ッ! マハブフダイン!』

 

洸夜だけで飽き足らなかったらしく、広範囲の技で迫る洸夜の影。

力を落とされても威力は侮れない……だが、それは愚作であった。

 

「ムラサキシキブ!」

 

「アルテミシア!」

 

「キングフロスト!」

 

洸夜・美鶴・総司がそれぞれペルソナを召喚し、皆と盾となったのだ。

耐性持ちによる盾で全員を防ぎ、防がれた洸夜の影に隙が生まれた瞬間、今度はコロマルが駆け出した。

 

「ワンワン!」

 

コロマルはその小柄を利用し、小太刀で斬りつけながらケルベロスも召喚して連携で挑んだ。

コロマルが斬り、ケルベロスが噛む、その力の前に洸夜の影のダメージは蓄積されて行く。

 

『ガアッ! この……!』

 

剣の様に尖った洸夜の影の腕がコロマルに向けられる。

鋭利なその指で払われればコロマルも只では済まないのは分かっている事であり、ゆかりがコロマルに援護射撃を開始した。

 

「させるもんですか!」

 

一本、また一本と矢を放ち、計四本の矢が洸夜の影へ飛んで行き、その矢は綺麗に一列の形でコロマルを襲う洸夜の影の右手に突き刺さった。

 

『ッ!?……甘いんだよ!』

 

しかし、洸夜の影もそれで動きを止める事はせず、微々たるダメージを無視してコロマルへ腕を伸ばそうとするが、今度は順平が反撃に出た。

 

「行け! トリスメギストス!」

 

順平の声にトリスメギストスは身体を真っ直ぐにし、クチバシ部分をまるでダーツの矢の如くの勢いで洸夜の影へ飛んで行き、そのまま腹に命中して更に吹き飛んだ。

 

『カハッ……!? まだ……だッ!!』

 

吹き飛ばされた洸夜の影だったが、気合で立て直すと受け身を取って順平達から距離を稼ぐが、そこにはチドリがメーディアと共に立っていたのだ。

チドリは自分に近付いてくる洸夜の影に怯む様子も見せず、洸夜の影もチドリの存在にまだ気付いてはいない事も幸いとなり、彼女の攻撃はそのまま洸夜の影へ放たれる。

 

「メーディア……”マリンカリン!”」

 

メーディアが放った技、それは敵の動きを制限させる”悩殺”のバットステータスにする技であり、メーディアが放った桃色の光を浴びた洸夜の影は身体が思う様に動かせず、胴体着陸した飛行機の様に身体を地面に擦らせながら倒れ、そのまま見上げる様にチドリを睨み付けた。

 

『こ……の……! 偽りの……出来損ないの仮面使い……が……!』

 

「……その言葉は否定しない。私自身、今思えば嫌な生き方だって思ってるから。でも、洸夜と順平達は私を救ってくれた……だから、私は今もメーディアと戦う!」

 

強い意志で言い返すチドリ、そんな彼女の言葉が面白くない様に舌打ちする洸夜の影。

 

『チッ! この……クソ”貧乳野郎”がッ!!』

 

精神攻撃のつもりの暴言だったのだろうが、洸夜の影のその言葉にチドリの中の”何か”がキレた。

そして、チドリは何やらメーディアに指示を出すと、メーディアは静かに動きが止まっている洸夜の影へ近付くと手に持っている火が灯されている杯を洸夜の影の顔に直接押し付けた。

 

『アチャチャチャチャッ!!? クソがッ!!』

 

チドリの思いがけない反撃に悩殺状態にも関わらず高く飛びあがって距離を取る洸夜の影、次は周囲にも集中して周りに誰もいない事を確認している。

そして、洸夜の影は魔術師の仮面から”女教皇”と”女帝”二つの仮面を混ぜて被ると、回復スキルを使用して回復を図った。

 

『メシアライザー!』

 

全回復・バットステータス回復の両方を持つメシアライザーを唱え、己に当てる洸夜の影にアイギスと風花は驚きを隠せなかった。

 

「アルカナを組み合わせた……!」

 

「ステータスの向上も大きい! アルカナの組み合わせが来たら止めて下さい!」

 

本領が発揮され始めた風花の探知はすぐに相手の技の利点をあげ、皆にそれを伝えるが、そんな彼女を洸夜の影は静かに捉えていた。

 

『……邪魔だな』

 

元々、洸夜の影が風花とクマを集中的に狙っていたのは鼻が弱っているクマとは違い、純粋な探知タイプである風花を恐れたからだ。

嘗ての戦いの時も探知を妨害されていた事もあった風花だが、あれから二年と言う月日は確実に彼女を強くしていおり、敵からすれば邪魔な存在としか言えないのだ。

 

『……!』

 

そこからの洸夜の影の行動は速かった。

仮面を戦車のアルカナへ変えると、洸夜の影は飛びあがってそのまま風花へ刃の様な鋭利な爪を向けて迫った。

だが、風花はそれに動じずに正面から洸夜の影を見詰めていると……。

 

「……」

 

『ッ!?……こ、これは!』

 

洸夜の影が目の前に迫った瞬間、風花とユノは景色に溶ける様にその姿を消してしまい、洸夜の影は攻撃を中断して辺りを見るが風花の気配は何処には存在していなかった。

 

『ま、まさか……!』

 

何かに気付いた洸夜の影、そんな時、洸夜の影は背後から聞き覚えのある笑い声を耳にする。

 

『カシャシャシャシャ!』

 

『ッ!!?』

 

聞き覚えのある乾いた音の様な笑い声に洸夜の影へ振り向くと、そこには先程消えた筈の風花とユノが美鶴達の下におり、しかもその風花の真上には彼女を包むかの様にボロボロのマントをなびかせるワイトの姿があった。

ワイトは小馬鹿にする様に洸夜の影を笑い、その様子を見ながら洸夜は己の影へ言った。

 

「ワイトはもう、誰も傷付けない……俺の仲間を守ってくれる」

 

『……ッ! クソがッ!!?』

 

全てのペルソナが洸夜に戻った事で、洸夜との形勢が逆転している事を悟った洸夜の影はその事を認めないと言わんばかりに右手に力を溜め、攻撃の準備をした。

しかし、それは風花に読まれていた。

 

「広範囲の物理技、来ます!」

 

「ならば……アルテミシア!」

 

風花の言葉に美鶴はアルテミシアに指示を出し、アルテミシアの鞭は力を溜めていた洸夜の影の右手に巻き付き、そのまま一本釣りの様な形で引き、洸夜の影はその衝撃でそのまま宙へと浮いた。

 

『グウッ! そんなものでッ!!』

 

空中で洸夜の影は空いている方の腕を使い、アルテミシアの鞭を引きちぎろうとする。

 

「明彦!」

 

「おうッ!」

 

牽きちぎろうとする洸夜の影の背後の真上から明彦とカエサルが現れ、そのまま明彦は拳を、カエサルは大剣を洸夜の影の背中へ叩きつけ、洸夜の影はそのまま地面に叩きつけれた。

そして、それを見ていた総司はカグツチで追撃を試みた。

 

「行け、カグツチ!」

 

剣を構え、カグツチは洸夜の影へ向かうが弱っていても大型シャドウだ。

洸夜の影は迫っていたカグツチを左手で鷲掴みにして捉えた。

 

『ふざけるな……半端なペルソナ使い如きにッ!!』

 

そのままカグツチを握り潰そうとする洸夜の影だったが、力を入れた瞬間、カグツチの身体を赤い光が包み込む。

 

『炎殺の産声』

 

『ガアァァァァァッ!!?』

 

カグツチから放たれる巨大な炎は、そのまま掴んでいた洸夜の影へ襲い、洸夜の影は忽ち火だるまとなり、あまりの攻撃にカグツチを手放した洸夜の影。

まるで赤い光の柱の様に巨大な火柱、それを見ていた洸夜とクマは驚いた。

 

「なんて力だ……」

 

「センセイ……凄いクマ……!」

 

異常な熱風がカグツチから放たれており、例え自分達でも迂闊には近付く事が出来ないのを洸夜達でさえ思わず理解してしまう程だ。

 

「兄弟揃って出鱈目だな……」

 

「でも、凄いです……洸夜さんも、総司さんも!」

 

呆気に囚われる明彦とアイギス、だがその時だった。

洸夜の影を包み込んでいた炎が弾き飛び、多少焦げた洸夜の影がその姿を現した瞬間、洸夜の影は仮面を”星”に変えて両手を翳すと洸夜達の真上に巨大な力の塊が出現した。

 

『くたばれッ!! 明けの明星ッ!!』

 

それはルシファー等の限られたペルソナ専用の万能技『明けの明星』であった。

その威力は最大万能属性技であるメギドラオンさえも上回り、その力は正に最強クラス。

 

「明けの明星!? この技まで使えるのか……」

 

己のシャドウの無茶苦茶な力に何度目か分からない驚きをしてしまう洸夜だったが、落ち着いて瞳を閉じるとオシリスへ命じた。

 

「オシリス……」

 

『……』

 

主の命に落ちて来る明けの明星の前に立ちはだかるオシリスは、左手をゆっくりと翳すと黒き力がオシリスを、そして洸夜達を包み込み、やがて障壁の様な壁となる。

 

『黒の壁』

 

向き合った事で誕生した新たな力『黒の壁』。

出現した黒の壁と明けの明星が衝突し巨大な爆発を生むのだが、まるで世界が遮られているかの様に黒の壁は爆発を遮り、洸夜達を守った。

 

「万能属性の攻撃を……!」

 

「防いじゃった……!」

 

チドリとゆかりが驚き、目を丸くする。

防ぐ術などないと思われた万能属性の技を正面から防いだからだ。

 

「対万能属性に特化した補助技……」

 

「これが、黒の……兄さんとオシリスの本当の力」

 

技に対して調べる風花、そして兄のペルソナの力を直に体験した総司もまた驚きを隠せせず、そして明けの明星が消滅すると黒の壁も砕ける様に消え去った……だが、その瞬間---。

 

『貰ったッ! メギドラオンッ!!』

 

先程、明けの明星があった空中に出現する巨大な光の集合体。

洸夜の影の攻撃はまさかの二重構えの攻撃だったのだ。

威力は落ちたがそれでも当てれば洸夜の影の勝利であり、目の前の事態に順平達も慌ててしまう。

 

「マジかよ! また撃ってきやがったッ!!」

 

「クッ……! 洸夜、もう一度さっきの技を!」

 

明彦が洸夜へ黒の壁を頼んだ。

目の前のメギドラオンは、ドールマスターや最初の洸夜の影が放ったメギドラオンとは桁違いの威力なのは探知タイプではないメンバー達でさえ分かる。

正面から防ぐには洸夜の力が必要なのだ。

だが……。

 

「……グッ!」

 

「ッ!? 洸夜さん!」

 

明彦達が洸夜の方を見ると洸夜は膝を付いており、それに気付いたアイギスが駆け寄ると洸夜の額からは汗が出ており、息を乱れていた。

 

(まさか……黒の壁一回でここまで力を持っていかれるとはな……!)

 

万能属性を防ぐ黒の壁を扱うには多くの力を消費してしまう。

勿論、洸夜が弱った理由はそれだけではなく、身体と心への負担が蓄積してしまった結果でもある。

そして、それは美鶴達にも言える事であり、つまり現状は……。

 

「絶対絶命クマよぉぉぉぉッ!!?」

 

「あんたはもう黙ってなさいッ!?」

 

現状に再び絶望するクマ、そのクマを一喝するゆかり。

絶対絶命なのは皆も分かっているからであり、そんな事を言っている間にも洸夜の影渾身のメギドラオンが迫っている。

そして、そんなメギドラオンに対し、体力がメンバー達の中でも披露している筈の総司・美鶴・アイギス・明彦の三人が直撃だけは防ごうとペルソナと共に迎え撃とうと構えるが、それを理解している順平は慌て半分で驚いた。

 

「先輩!? アイギス!? 総司も!? 防ぐより逃げた方が良いって! いまのままじゃ本当に死んじまう!」

 

「何もしなければ本当に死ぬぞ!」

 

「完全に防げなくとも、直撃だけ防げれば良いッ!」

 

明彦と美鶴が激を飛ばし、四人はメギドラオンの真下で身構えるとそれを聞き、見たメンバー達もメギドラオンの真下に集結して迎え撃とうとする。

しかし、真上から迫る重苦しい威圧感、それはメギドラオンの威力をも意味している。

その中でゆかりは洸夜の回復に回っているが、黒の壁が唱えられるまで回復できるかは絶望的だ。

全員が息を呑む。

そして、一定の距離になった瞬間、メギドラオンの落下速度が加速して洸夜と総司達へ迫り、全員の身体に力が入った……その時だった。

 

「ふふ、メギドラオンには……メギドラオンでございます!」

 

何処からか声が聞こえた瞬間、洸夜達へ迫るメギドラオンの真横から割り込む形で洸夜の影のメギドラオンを倍は大きいメギドラオンが出現し、そのまま洸夜の影のメギドラオンを消し飛ばしてしまう。

そして、その余波は洸夜の影を襲い、そのまま吹っ飛ばし床に激突させた。

 

『カハッ……! 今のメギドラオンは……まさか!?』

 

洸夜の影は仰向けのまま空を見上げると、空に君臨する多色の月に重なっている小さな人影があった。

統一されてない色の月を背景に空に浮かぶ人影、その人影の周りを小さな何かが飛び回っている。

その正体こそ、洸夜の親友であるエリザベスとそのペルソナ『ピクシー』である。

エリザベスは自分を見上げている洸夜の影の姿に、楽しそうな笑みで返す。

 

「ふふ、爪が甘いメギドラオンでございました。その程度は私、決してワックワク致しませんので」

 

『エリザベス……だと!?』

 

まさかの乱入者に洸夜の影は驚きを隠せず、洸夜も嬉しい意味で驚いていた。

 

「エリザベス……来てくれるとはな」

 

洸夜も空を見上げて彼女の姿を捉えた。

空に浮かぶ親友の姿、規格外ではあるが洸夜も総司も慣れている為に騒ぎはしないが、見慣れていない者達にとっては洸夜の影以上にある意味で驚く事であり、美鶴達がエリザベスに気付くと目を開いて驚いてしまった。

 

「な、なんだ……彼女は?」

 

「空を……飛んでるな」

 

美鶴と明彦は呆気になってしまう中、ゆかりや順平も同じ気分を味わっていた。

 

「『彼』もそうだったけど、洸夜さんの交友関係ってどうなってるんだろ……」

 

「って言うか俺、あの子をどっかで見た様な?」

 

順平の脳内がエリザベスの姿に反応してしまう。

何処かで『彼』と一緒にいた所を見た様な気もするが、何故か不自然な程に印象がない。

そんな風に順平が己の記憶に悩んでいると、エリザベスも視線を美鶴達に移すと美鶴・アイギス・ゆかり・風花へそれぞれ視線を向かわせる。

 

「な、なんなんだろう……?」

 

「なんでしょうか?」

 

面識がない様な人物に見られれば誰だってそう思うだろう。

風花とアイギスが困惑気味に首を傾げていた時であった。

 

「ドヤァ……!」

 

エリザベスは空から美鶴達を見ながら、言葉通りにドヤ顔を決めた。

それは明らかに洸夜と総司を含めた者達を除き、美鶴・アイギス・ゆかり・風花の四人へ向けられたものだ。

 

「ゆかり、なぜ私達は面識のない筈の者からあんな顔をされているんだ?」

 

「分かりませんけど……なんだろう? なんか凄く悔しく感じてしまうのは」

 

ゆかりはエリザベスの表情に謎の敗北感を覚えてしまう。

まるで、自分よりも知っている事があるとでも言うかの様に感じてならない。

勿論、それはアイギスと風花にも言える事だ。

 

「なんでしょうか、この気持ちは……モヤモヤした様な、今一判断が出来ません」

 

「私も同じ気分……」

 

四人全員がエリザベスに対してやり返す形で視線を向けるが、それでもエリザベスはその楽しそうな笑みを消すことはなかった。

それでも窮地を乗り越えたのは変わりないが、この展開に納得しない者が一人いた。

それは勿論の事、洸夜の影であった。

 

『何故、お前が此処にいる!?』

 

「ふふ、全ての絆を力にするワイルド……私にとって、それは大変興味深いものなのでございます。そして、そのワイルドに身を隠していた最後のアルカナにも興味がそそられるのです」

 

洸夜の影にも笑みを崩さずにエリザベスは言い返す。

そんな彼女の態度に洸夜の影は怒りのボルテージを上げてゆき、怒気を含ませながらエリザベスを睨み付ける。

 

『興味本位って言いてえのか? 一番、胸糞悪い答えだなッ!?』

 

怒気を含んだ洸夜の影の叫びが辺りに響き渡る。

だが、洸夜の影もエリザベスの強さを知らない訳でもなく、寧ろ洸夜の中にいた時に戦っている為、その強さは身を持って知っている。

ハッキリと言えば邪魔なのだ、エリザベスの存在が。

勿論、彼女の真意の一つも洸夜の影が言っていた事は間違いではなく、エリザベスも自分の目的があっての介入でもある。

しかし、それだけでもない。

 

「その言葉は否定致しません。ですが、私が此処を訪れた理由はそれだけではありません。私が持つ絆、それを守る事……親友の危機に駆け付けたのでございます」

 

そう言い放つエリザベスの表情はとても爽やかな笑みであったが、その笑みには不似合いの威圧感も放っていた。

掛かってこい、洸夜の影にそう言い放っている様にも見れるエリザベスに洸夜の影は息を呑み、洸夜も呆れ半分だが嬉しさを隠すことは出来ずに笑みを零してしまう。

そして、エリザベスがそう言い放って間もなく、彼女は己の指先にピクシーを立たせながら口を開いた。

 

「ですが、私の目的はあくまで手助けでございます。そちらがメギドラオンや明けの明星を放つ時こそ、私の出番となるでしょう。私の現在のテンションがグ~イグイと上がり、そこからのボーナス確定状態でございます」

 

『……!』

 

メギドラオンや明けの明星を放つならば、何度でも自分が防ぐと言う意味の言葉を放つエリザベス。

その言葉に洸夜の影は怒りを隠せず、今すぐにでも撃ち落してやりたいと思ったが、今の状況でエリザベスとも戦うのは辛い。

追い詰められているのは洸夜の影、その事実は明白なものとなり始めている。

だが、大型シャドウがそう簡単に負ける筈がなく、洸夜の影は腹に力を入れて全力の咆哮をあげた。

 

『シャドウ共ッ!! 餌が残ってるぞぉぉぉぉッ!!!』

 

幽閉塔全体に洸夜の影の声が届く。

そして、それが意味することは一つしかなかった。

 

「シャドウ達が……!」

 

「この数は……!」

 

洸夜と総司が見た物、それは洸夜の影の周辺や空に続々とシャドウ達が現れた光景であった。

飢えている獣の様に唸ったり笑うシャドウ達、そのシャドウ達はエリザベスの周りにも出現する。

 

「おやおや……」

 

全方向を包囲されエリザベスは困った感じに呟くも、その姿は空中で優雅に座っており、本当に困っている様な感じはしない。

だが、それはエリザベスだからであり、美鶴達にとっては脅威である。

だからと言って諦めた訳ではない。

 

「やれやれ、随分と出てきたものだ」

 

「それだけ追い詰められていると言う事だろ」

 

ペルソナと共に構える美鶴と明彦、それに続くようにアイギス達も構え、洸夜と総司も武器とペルソナを構えて皆へ背を向けたまま言った。

 

「皆、ここからが正念場だ。もう少しだけ……手伝ってくれ!」

 

「終わらせるんだ……兄さんや皆さんの為にも」

 

背中から語られる洸夜と総司の言葉に、美鶴達も横に立つ等して応える。

対峙する歴戦のペルソナ使い達と大型シャドウ率いるシャドウの群れ。

そして、洸夜の影は言い放った。

 

『ヤレッ!!!』

 

一斉に吠えだすシャドウ達、その牙は洸夜達に向かって行く。

まるで地震の様に揺れが大きくなって行き、シャドウ達の進撃が迫ろうとしていた。

しかし、その時であった。

突如、洸夜達へ向かって行くシャドウ達を巨大な風や炎が包み込んだ。

それは空中のシャドウ達にも及び、空にシャドウ達も氷漬けや雷に打たれながら落ちて行く。

 

「ま、間にあったぜ……!」

 

シャドウ達が倒される中、総司の耳に聞き覚えのある声が届き、その声のする場所を見るとそこにいたのは五人の人影と五体の巨大なシルエットがあった。

勿論、総司はその正体を知っている。

 

「陽介ッ!! 皆!!」

 

そこにいたのは、先程まで十字架に貼り付けにされていた自称特別捜査隊メンバーである陽介や雪子達の姿であった。

そして、総司の声に気付き、陽介達は総司達へ手を振って自分達の無事を伝える。

 

「相棒! 洸夜さん!」

 

「皆、無事だよ!」

 

陽介と雪子が、総司と洸夜に語り掛ける中、美鶴達の視線は陽介達のペルソナであるスサノオやアマテラスへ向けられていた。

 

「あれが、彼等のペルソナか……」

 

「なんか派手だな」

 

「でも、みんな強い力ですよ」

 

美鶴の言葉に反応する順平の言葉に風花はそう言った。

話は聞いていたが実際に見るのとでは違う中、風花は陽介達のペルソナの力を静かに感じ取っていた。

しかし、そんな陽介達の参戦に納得できないのは洸夜の影だ。

洸夜の影は視線を陽介達の方へと向けた。

 

『貴様等一体、どうやって……!』

 

ペルソナ能力を封じる十字架から陽介達が自力で脱出するのは、まず不可能。

一体、どうやって十字架から脱出したのか疑問に思う中、陽介達の隣に見覚えのある二人に気付く。

そこにいたのは、一仕事終えた様な雰囲気を纏いながら武器を肩に乗せる真次郎と乾の二人が立っていた。

 

『まさか、お前等が!』

 

「ハッ! 今更、気付いたのかよ」

 

「僕達がしなければならない事……この事だったんですね」

 

戦闘から離脱していた真次郎と乾がしていた事、それは十字架から陽介達を助け出すことであった。

二人は手短に状況を説明しながら五人を助け出し、洸夜の影と対峙する。

 

「先輩! 洸夜さん! 話は大体分かってます!」

 

「周りのシャドウ達は私達が相手するから、洸夜さん達は大型シャドウを!」

 

「サポートは任せて!」

 

完二、千枝、りせの言葉を皮切りに陽介達は周りのシャドウ達へ向かって行く。

 

「センセイ! 大センセイ! クマもヨースケ達の手伝いをして来るクマ!」

 

そう言ってクマも、陽介達同様に周りのシャドウ達へ向かって行き、そんなクマの代わりに真次郎と乾を合流を果たす。

 

「これで戦い易くなったろ?」

 

「いい仕事をしてくれるな……二人とも」

 

友の言葉に洸夜と真次郎・乾は互いに笑い合う。

だが、そんな状況になっても洸夜の影が諦める事はない。

 

『何故だ! なんでこんな事が起こる! 絆を否定した奴、死んだ奴、封じた奴、どいつもこいつもなんでこんなに集まり、その男を助ける! なんでこんな事ばかりが起こるッ!!?』

 

「……終わりの時なんだ。俺が招いてしまったこの一件、二年前の事、俺自身の事、この全てが終わろうとしている。決着をつける! 俺は皆や過去と共に……未来を歩むと決めた!」

 

洸夜のその言葉に全員が構え直し、洸夜の影と対峙する。

全員から伝わる気持ちや、周りでシャドウ達と戦う陽介達の姿に洸夜の影は初めて気圧された。

かつて、洸夜の影もそれを直に感じた事があるからだ。

最初に感じた時は洸夜の中で、次はシャドウとして目の前でだ。

だが、洸夜の影は戦いを止める事はない。

 

(何故だ、何故に皆はこの男に集まる? 全ての色、ペルソナは何故に従う? ずっと苦しい絆を支えていた俺を認めないこの男を……!)

 

己の全てを否定した宿主に対する憎しみは消えない。

全ては此処で変わるのは皆、分かっている。

そして、洸夜の影の咆哮を合図に戦いは始まった。

 

『ガアァァァァァッ!!!』

 

洸夜の影は爪を向けながら突進し、洸夜達の中で大きく振り回すが洸夜達はそれを回避すると、洸夜の影はチドリへ視線を向けた。

 

『チドリッ!? 己を道具にして命を弄んだ桐条が憎くないのか!?』

 

「確かにあの時の事は忘れる事はできない。でも、私はもう誰も恨まない。皆と笑いながら未来へ生きるの!」

 

チドリは自分に爪を向ける洸夜の影の攻撃と言葉を否定し、交差するタイミングでメーディアで反撃をする。

メーディアの放つ炎が洸夜の影を襲い、洸夜の影はそれを鬱陶しい様に払う。

 

『クッ! ゆかり! コロマル! お前等はどうなんだ!? 父を奪い、大切な場所を襲う原因を作った桐条が憎くはないのか!?』

 

「それはもう区切りをつけたわ。周りやお母さんの事で苦しい思いをしたけど、私だっていつまでもこのままじゃいられないのよ!」

 

「ワンッ!」

 

ゆかりの矢とコロマルの攻撃が洸夜の影へ放たれ、一瞬怯んでしまう洸夜の影。

 

『ッ! 真次郎! 乾! シャドウに呑まれ、自分を人殺しにした女が憎くないのか! 母親を奪った男を本当に許せるのか!』

 

「あれは俺の未熟さが生んだ事だ。それは今もこれからも変わらねえ、そして、俺が憎いのはそれを招いて逃げていた俺自身だ!」

 

「僕はもう復讐を望まない! 僕は拒絶されるのが怖かった、恨んでいないと立っていられなかった! でも、もう誰かに守ってもらってばかりの僕じゃない! 母さん、荒垣さん、洸夜さん、『あの人』、今度は僕が皆を守る番だ!」

 

真次郎と乾はその場で飛びあがり、洸夜の影の胴体にそれぞれ一閃して攻撃を放つ。

 

『グゥッ! 風花! 虐められていたのに他人を信用できるのか!?』

 

「できます! あんなだった私にも友達や仲間ができたんです! 心が辛かったけど、皆が私を信じてくれた様に私も皆を信じたい!」

 

風花は洸夜の影の攻撃を読み、その攻撃を回避した。

 

『クソッ! 順平! 『アイツ』や洸夜が妬ましくなかったのか!?』

 

「わりぃけど、そんなガキだった俺は止めたんだ。ふらふらしている様な俺だけどよ、俺が今、一番何をしなければならないか位は分かってるつもりなんだよッ!!」

 

トリスメギストスが洸夜の影へ突撃し、態勢が崩れた洸夜の影へ順平は剣でフルスイングを繰り出した。

 

『ガフッ!? あ、明彦! 妹を助けなかった周りが憎くないのか!?』

 

「俺が憎いのは、あの時に美紀を助けられなかった俺の無力だ。それは今でも変わっていない!!」

 

明彦の顔面ストレートが洸夜の影に直撃する。

顔面にめり込みながら吹き飛ぶ洸夜の影だが、咄嗟に受け身を取って態勢を整えた。

 

『美鶴! アイギス! 沢山の命を終わらせ、奪い、狂わせたお前等が誰かを助ける事が出来ると思っているのか!?』

 

「人によっては私の行動や生き方を否定するだろう。だが、少なくとも私はその罪をなかった事にするつもりはない! どれだけの人に恨まれようが桐条の罪を背負う覚悟! この想いに迷いはない!」

 

「兵器として作られ、沢山の命を傷付けた私ですが『あの人』や洸夜さん、そして皆さんの為にも私は生きて戦い続けます! それが私の覚悟であります!」

 

アルテミシアの鞭で弾かれ、アイギスが銃弾の雨をお見舞いする。

洸夜の影はその攻撃を避ける様に距離を取ると、総司の方を向いた。

 

『総司ッ!! 兄を傷付けた奴等が憎くはないのか!!?』

 

「それは俺がどうこう言う事じゃない。その件で俺がやれるのは全力で兄さん達を見守り、支える事だ!」

 

総司の言葉にカグツチからイザナギにチェンジし、イザナギは大剣を振って洸夜の影をそのまま吹っ飛ばす。

最早、美鶴達も総司にもそんな言葉遊びは通じない。

彼等の目の前にいる兄の影、負の道化師。

どれだけの言葉を並べ惑わされようとも、もう一人じゃない。

 

『セェェタァァァァァコウヤァァァァァッ!! なんでそんな奴等を信じられる!? そいつ等は自分の事だけ棚上げし、お前を裏切った奴等だぞ! なのになんで信じる!? 何故、共に戦えるんだ!!?』

 

「気付けば単純だ。共に生きた三年間に……嘘はつけない。……タナトス!」

 

己のシャドウを真っ直ぐに見詰めた洸夜は、新たなにタナトスを召喚し対峙する。

また、召喚されたタナトスの姿は元の色よりも黒色が濃く、今までの様な危うい感じは全く感じられない。

力だけのタナトスの異変に、洸夜の影は思わず驚いて動きを止めてしまう。

 

『不純物のタナトスが何故、お前自身のペルソナの”様に”なっているッ!?』

 

「このタナトスはもう不純物じゃない。本当の意味で俺のペルソナになったんだ!」

 

洸夜は叫び、タナトスはそれを合図に猛スピードで洸夜の影へ突っ込む。

その姿に洸夜の影もまた、迎え撃つ様に両手を構えるがタナトスの速さは予想以上であり、そのままタナトスは通り過ぎる間に斬りつけられ、膝を付きながら痛みの叫びをあげた。

 

『グオォォォォッ!! こんな、こんな事が……あってたまるかッ!! ペルソナ使い共は全員、皆殺しだッ!!』

 

洸夜の影はそう叫ぶと、身体に取り付けていた仮面を全て外して自分の両手で包み込んだ。

何かをこねている様にも見える動きを見せる洸夜の影だが、やがてその両手を広げると中から出てきたのは黒一色の仮面が出てきた。

見ただけでも無言の圧力を感じてしまう黒の仮面、それを洸夜の影は顔に取り付けると全身に力を溜めた。

 

『コンセントレイト!……そして、これで終いだッ!!』

 

洸夜の影から大きな力が溢れ、それを見た風花はその目的を察知し全員に呼び掛けた。

 

「全体技が来ます! 備えて下さい!」

 

風花の言葉に全員が何かを言うよりも先に防御の態勢をとる。

ペルソナを盾にする形をとり、後は態勢を縮めたり等してダメージを和らげようとしているのだ。

そして、洸夜達が防御をしたとほぼ同時に洸夜の影の攻撃は放たれた。

 

『冥王の呪縛』

 

 洸夜の影はオシリスの専用技を放ち、洸夜達を中心にし辺り一面に禍々しい稲妻が降り注がれた。

 轟音と共に辺りを包む稲妻。それは洸夜の影の持つ負の全てを具現化した程に重く、そして叫びの様に何処か悲しい光。

 そんな攻撃もやがて収まり、辺りに煙が発生し始めた。

 

『……』

 

煙が隠し、洸夜達の姿は確認できない。

だが、コンセントレイトで強化した渾身の一撃を喰らえば、直撃を回避したとしても只ではすまない。

洸夜の影は意識を洸夜達を見つける事に集中する。

 

『まだだ』

 

まだ、洸夜は死んでない。

半身とも言える洸夜の影にはそれが分かる。

宿主の死、それが意味するのは洸夜の影にとっては己の消滅も意味する。

だが、自分は生きている事実と否定された憎しみが、洸夜の影に洸夜の生存を教えているのだ。

洸夜の影が意識を未だに探索に集中していたその時、洸夜の影は少しずつ晴れて行く煙の中で一瞬だが”灰色”の髪を捉えた。

 

『そこだぁぁぁぁぁッ!!!』

 

目標を捉えた瞬間、力を溜めた爪で洸夜の影は襲い掛かった。

殺す、終わりにする、ただそれだけの為に。

放たれた洸夜の影の殺意、それはその目標に直撃した様に見え、その衝撃で煙も晴れてその目標の姿が現れた。

その姿は……。

 

「……残念賞!」

 

イザナギで攻撃を受け止めながら、してやったりと言った笑みを浮かべている総司だった。

洸夜ではない、その現実に洸夜の影の身体は怒りで震えあがる。

 

『また貴様かぁぁぁぁッ!!』

 

怒りの咆哮をあげ、大気を揺らす洸夜の影。

しかし、洸夜の影はすぐに現実に戻った。

洸夜ではないなら本物の洸夜は今どこに?

その当然の疑問が洸夜の影の頭を過った瞬間、洸夜の影は何かに気付き、空を見上げた。

 

『そこかッ! コウヤッ!!』

 

洸夜の影が見上げた先に、オシリスに支えられながら自分の方へ向かってくる洸夜の姿があった。

 

「オシリス。これで終わらせる……力を貸してくれ」

 

主の言葉にオシリスは頷く様な仕草をすると、その身体は光の粒子となって洸夜の刀を包んだ。

そして、その蒼白く光る刀を洸夜は構え、そのまま己のシャドウの下へと落ちて行った。

 

『なめるなッ! 小剣の心得で斬られるかッ!』

 

洸夜の影は迎え撃つ形を取り、右手の巨大な爪を下にして構える。

洸夜と洸夜の影、その最後の戦いを総司と美鶴達や陽介達も息を呑んで見守っていた。

そして、その時は訪れた。

 

「黒は新たな力を創る……そうだろ、オシリス?」

 

落ちながら呟く洸夜の言葉を聞き、それに応えるかの様に刀を包み光が強くなった。

だが、それは眩しくて頭が痛くなるような不快な光ではなく、それは優しく安心できる光だ。

そして、その刀の光に洸夜の影の顔色が変わった。

 

『ッ! なんだ……なんだそれは!? それは小剣の心得じゃない! それは---』

 

「……『小剣の心髄』」

 

洸夜の影は最後は聞かれる事はなく、洸夜によって振り下ろされた刀に両断された。

傷口から吹き出す黒い霧の様な物を吹き出しながら、洸夜の影は静かに消滅していった。

 

 

▼▼▼

 

洸夜の影が消滅すると、陽介達と戦っていたシャドウ達は一斉に逃げ散ってしまった。

自分達に影響を与え、力を渡していた洸夜の影抜きでは歴戦の美鶴達に対抗できないと思い、各上の洸夜や美鶴達が怖くて逃げたのだろう。

一部、エリザベスに睨まれ既に逃亡したシャドウもいたが、少なくとも今この場所にシャドウはいない。

そんなエリザベスもいつの間にか消えていた。

そして美鶴達と陽介達は、洸夜と総司の下へと集まった。

 

「これで終わったんだな、洸夜」

 

「少なくとも、大型シャドウは消えた筈……」

 

美鶴と陽介がそれぞれ口にするが、洸夜はその言葉に首を横に振る。

 

「すまん、まだなんだ」

 

そう言って洸夜はある一点を指さし、皆もその一点を見詰めるとそこにいたのは金色の瞳をし、洸夜?の姿になっているシャドウの姿があった、

思わず全員が身構えそうになったが、その構えはすぐに解かれた。

何故なら、洸夜?の姿でもその姿は”幼い子供”の姿だからだ。

 

「あれは……確か、洸夜の子供の頃の姿だな」

 

明彦の言葉に全員が静かに頷いた。

洸夜の過去を見た時に見ているので忘れる事はない。

勿論、それは洸夜自身も分かっており、洸夜はシャドウに近付くと、その手前で立ち止まって静かに語り始めた。

 

「単純に寂しかった……両親のいない家、誕生日、クリスマス、保育園や学校の授業参観もいつも俺だけ一人だった。寂しい、と一言言えば良かったのかも知れない。けど、それを言うと父さんも母さんも困ってしまうのは幼い頃の俺にだって分かってた」

 

当時から両親が忙しいのは子供ながらに分かっていた事だった。

忙しい中での幼い洸夜の子育てについて、両親が夜中に揉めていたのも知っている。

いつも一人、友達も出来たと思えば引っ越しで関係は薄れて行く。

一番付き合いが続くのは大学の友達と言うが、それは正しい部類に洸夜は思っている。

幼稚園、小学校、中学校、どの全ても引っ越してから少しは手紙や電話、メール等をして交流するが自然とそれもなくなってしまう。

 

「だからだろうな。寂しかった故に、俺は孤独を恐れて他者との繋がりを求めていたのは……それが良いか悪いか関係なくな」

 

他者との繋がり、仲良くする普通の繋がりや負の感情で繋がる負の絆。

孤独を恐れていた故に築いてしまった絆。

それが洸夜のワイルドの本質、全てを力にしている黒のワイルドだ。

 

「だが、それでも全てに嫌になった時もやっぱりあったんだ。何も変わらない日々にイラついて、グレてやろうとも思ってたよ。けど、そんな時だった……総司、お前が産まれたのは」

 

洸夜の言葉に反射的に総司に視線を向けるメンバーだが、総司はそれに気付かず黙って兄の言葉を聞いている。

 

「なにを考えているのか分からない無邪気な顔をして、危なっかしいったらなかった。だが、だから思ったんだろうな。この子に俺と同じ辛さを味あわせてはならないと」

 

自分が得る事が出来なかった家族の愛情。

それを総司にも味あわせてはならないと言う想いをバネに、洸夜は総司との時間を大切にした。

誕生日やお祭り、ゲームセンターにも兄弟でいって楽しんだものだ。

それは勿論、総司も分かっていた事であるがようやく兄の本音が聞けた気がして嬉しかった。

余談だが、話を聞いていた真次郎が感動して目が潤んでいた事は誰も知らない。

 

「ワン?」

 

真次郎を見ながら首を傾げる一匹を除いて。

そして、そこまで言うと洸夜はゆっくりと自分のシャドウに近付くとしゃがんで目線を合わせた。

 

「だが、そんな中でもこいつはずっと築いてくれていた。今までの事、美鶴達の事も全部今まで通りにしてくれていただけだった。……なのに、俺はそれを否定した」

 

お互いに眼を離さず、洸夜は語り続ける。

もう、力はいらない。

今いるのは想いを乗せた言葉だけだ。

 

「傷付いたよな。ずっと頑張ってくれていたのに、それを否定されれば誰だって。……すまなかったな。お前にも今更になってしまったが、頼む……戻って来てくれ」

 

そう言って洸夜は己のシャドウへ頭を下げた。

今回の事はもう洸夜自身は認め、己の弱さを受け止めている。

残るは、己のシャドウだけだ。

最悪、また暴走するかも知れないと洸夜は内心で思っていたが、言葉を発してから生まれた少し長い沈黙に耐えていた時だ。

洸夜は自分の前で音が聞こえ、頭を上げるとそこには自分の顔を見つめるシャドウの姿があった。

しかし、そのシャドウの表情は先程まであった憎しみは一切なく、嬉しそうな笑顔であった。

 

「ごめんな。お前は俺だ……おかえり」

 

『……!』

 

そう言って洸夜が両手を広げると、シャドウは満面の笑みで洸夜に抱き付いた行った。

その姿は寂しさから解放された幼い子供そのもので、抱き付いたシャドウはそのまま光の粒子となり、そのままオシリスと一体化していった。

そして、そのオシリスの目の下には道化師を思わせる、涙の様なデザインの模様が浮かんでいた。

 

「終わったね」

全てを見守っていた総司が洸夜へ言うと、洸夜は立ち上がって弟達の方へ振り向いた。

 

「ああ、ようやく終わらせられた」

 

そう言う洸夜の表情はとても穏やかなもので、迷いも苦痛の表情も一切感じられない。

黒のワイルドが生んだ絆、二年前の一件はようやく終わることが出来たのだ。

そして、その洸夜の表情を見て、美鶴たちにも笑顔が戻り、美鶴は洸夜へ近付いた。

 

「……洸ーーー」

 

「洸夜さぁぁぁん!」

 

りせは全力で洸夜へ向かって行き、そのままの勢いで抱き付いた。

あまりの勢いに洸夜も避ける訳にもいかず、りせをそのまま受け止める。

 

「おおぉ! りせ!?」

 

「洸夜さん! 私、頑張りましたよ! 」

 

抱き付いたまま洸夜の胸にスリ付き、甘える様にりせは言う。

そして、その光景に陽介達は呆気に取られていた。

 

「私じゃなく……私達な」

 

「って言うか、この子はまた。行動が日々エスカレートしている」

 

「仕留めるなら……今かな」

陽介、千枝、雪子がそう呟くがりせの耳には入っておらず、りせは抱きつくのを止める気配はない。

半分呆れた空気が流れる中、美鶴達はと言うと。

 

「……」

目の前の事に無言の直立不動状態を維持する美鶴。

何も言わないが、美鶴の周りには確かな威圧感が存在し、少なくとも彼女の機嫌が良くない事だけは明彦達は悟る。

 

「み、美鶴……無言で威圧するのは止めろ。洒落になってないぞ」

 

「止めとけ、アキ。今は触れねえ方が良い」

 

明彦が説得に乗り出すが、真次郎は無駄だと判断して明彦を止める。

美鶴には触れられない状態、その中で他のメンバーの意識は元凶であるりせへ向けられる中、順平が気付いた。

「つうか、よく見るとあの娘……アイドルのりせちーじゃん!?」

 

休業しているとはいえアイドルのりせ。

ノーメイクだからと言えど、順平の目は見抜いていた。

だが、正体はこの際どうでも良く、問題は何故に洸夜がアイドルに抱きつかれているのかと言う事だ。

 

「ア、アイドル……そんなの、勝ち目なんて……」

 

風花は風花でショックを受けており、思わずその場に崩れて落ちてしまう。

 

「ふ、風花さん! 大丈夫ですからしっかり!」

 

「これが修羅場……でございますね」

 

風花をフォローする乾、状況に新しい何かを学んでいるアイギスの二人。

また、場を見ていたチドリはチドリで興味が無いらしく、少し離れてコロマルと戯れていた。

その中で何故か、ゆかりはりせから隠れる様に距離を取っていたが、それに気付く者は誰もいない。

そんな中、事の原因であるりせはと言うと……。

 

「洸~夜さん! 私、修学旅行もほっといて洸夜さんの為に頑張ったんですよ?」

 

相変わらず洸夜の胸に顔を沈めながら甘えており、千枝と雪子は溜息を吐くしかない。

洸夜が基本的に優しい事を知っているりせは、既にこう行動してしまえば洸夜が無理やり引き離す様な事を出来ないと計算にいれている。

ただ、今回に限っては一つりせにも誤算があった。

 

「ああ、ありがとう……りせ。お前たちのおかげで助かった」

 

自分の胸に顔を埋めるりせを、今度は洸夜がそのまま抱きしめた。

両手を優しく背中へ回し、りせを自分の方に近付けた事で洸夜とりせの頬が接触を起こす。

そんなまさかの反撃を喰らう、基本的に純粋なりせは……。

 

「ふぇッ!!? こ、こうや……さん!?」

 

先に仕掛けたのは自分にも関わらず、りせの表情はリンゴの様に一気に真っ赤に染まった。

顔に熱が発生しているのをりせ自身も気付いている。

 

(ええぇ!? こ、これは流石に予想外すぎるよ!?)

 

恥ずかしさと緊張で頭がショート寸前のりせ。

そんな中で彼女が考えたのは、昨夜、修学旅行が楽しみで寝付けなかった事で肌が荒れてないか、顔がむくんでいないかの心配、そして、戦闘終了してばかりで変な匂いをしていないかと言う事。

最早、思考がおかしくなるのは時間の問題のりせだが、反撃はまだ終わっていなかった。

 

「総司、お前もりせに礼があるだろ?」

 

「ふぇ、ふぇえ?」

 

洸夜の言葉にりせは後ろを振り向くと、そこには素敵な笑みを浮かべて両手を広げる総司の姿があった。

そして、洸夜がりせをくるりと回して総司へ正面に向けると、今度は総司が感謝の抱擁をする。

 

「$%#&%$#!?」

 

最早、言葉にもならない声を出すりせ。

頭は完全にショートしてしまった。

 

「ありがとう、りせ」

 

総司がお礼を呟くが、りせは口をパクパクと酸欠の金魚の様になっている。

そして、総司が少し力を入れた時だった。

 

「ご、ごめんなさ~~い!!」

 

りせのやっとの言葉が辺りに響いた。

 

そして……。

 

「うぅ……」

 

真っ赤な顔を両手で隠し、皆から少し離れているりせ。

積極的な行動はするが、相手からの真っ直ぐな事にはこうなってしまう初心な心を持つ少女、それが久慈川りせだ。

そして、りせに反撃を終えた瀬多兄弟はと言うと。

 

「ブイ」

 

「ブイ」

 

兄弟揃ってVサインを陽介達に向ける洸夜と総司。

りせの扱いに慣れている二人に、陽介達はまた溜息がでてしまう。

 

「……あいつ、あんなに初心なのになんでやるんだ?」

 

完二は一人、別の事で悩んでおり、周りの様子には気付いていない。

そんな中、洸夜は今度は陽介に近付くと彼の頭にポンっと手を置いた。

 

「花村、ありがとな。お前の言葉、確かに届いた……本当に皆、成長が早いな」

 

「え? あ、いや、その……」

 

成長等を認めたと受け取れる洸夜の言葉に陽介は一瞬、戸惑ってしまうが高校生で頭を撫でられた事への照れくささも手伝って顔を背けてた。

 

「俺だって、いつまでも子供じゃないんですよ。やる時はやるんだ」

 

「フッ、そうか。なら、俺から言える事はもうないかもな」

 

洸夜はそう言って陽介の背中を優しくポンッと叩くと、後の事は総司に任せて自分は自分の仲間の下へと足を進める。

そして、メンバーの先頭にいた明彦と真次郎の前に立った。

 

「……洸夜」

 

「……」

 

二人は気まずそうに小さく言った。

先程まで洸夜のシャドウと言う倒すべき敵がいた事でなんとかなっていたが、それが終わった事でどこか気まずい感じを覚えてしまう。

 

「……」

 

洸夜もまた二人の前で黙ってしまう、と思ったが。

 

「……フッ」

 

洸夜は両手を上げ、それぞれ拳を作ると明彦と真次郎の前に突き出す。

二人はなんなのか理解に遅れてしまうが、洸夜はそんな二人を見て笑みを浮かべて言った。

 

「やっと、終わった」

 

洸夜はもう一度、拳を突き出す。

そして、今度はその意味を明彦と真次郎も理解する事ができ、二人も笑みを浮かべて拳を作った。

 

「フッ、そうか」

 

「……ハッ」

 

互いに拳をぶつける三人。

まるで、昔ながら悪友達の挨拶だ。

その光景を見て、順平が一人で感動している。

乾とチドリも互いに顔を見合わせて一息入れ、コロマルは嬉しそうに尻尾を振る。

 

「やっと、全員が揃いました」

 

「……お前にも心配かけたな、アイギス」

 

そう言って互いを見詰める洸夜とアイギス。

もう、前の時の様に洸夜が彼女にも怒りをぶつける事はない。

洸夜はアイギスとも拳をぶつけ合っていると、後ろから洸夜は呼びかけられた。

 

「あ、あの……洸夜さん」

 

「おお、風花か」

 

洸夜が振り向くと、風花は少し緊張した感じにモジモジしていた。

 

「ありがとな、風花。お前にも随分と守ってもらった」

 

「えッ、いえ、私……あんまり役立てなかったし」

 

マハアナライズを封じられた事を風花を気にしていた。

ここぞと言う時に役立てなかったのが辛かったが、洸夜は勿論、誰も責めてはいない。

洸夜はそれを伝える為、彼女の前に立った。

 

「風花、俺は覚えている。俺が倒れてる間、お前が俺を守っていてくれたろ。見違えたよ」

 

「ええっ!? いえ、私、そんな……」

 

お礼を言われた事は嬉しいが、それを素直に受け止める事が出来ずにオドオドしてしまう風花。

そして、そこから会話が続きそうにない雰囲気が漂い、洸夜は困りながらも移動しようとした時だった。

後ろから風花に近付く影が一人……ゆかりだ。

ゆかりは何気なく風花に近付くと、さりげなく風花の背を押した。

 

「きゃッ!」

 

突然の事でバランスを崩し、前方に倒れる風花はそのまま目の前にいた洸夜が受け止める形となり、洸夜の胸の中へとダイブしてしまう。

 

「へッ!?」

 

「おお、どうした!?」

 

何が起きたか分からない風花、突然の事で焦る洸夜。

それから一瞬の間が空いた瞬間、我に返った風花は叫びながら洸夜から離れた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁッ! ゆかりちゃんッ!!?」

 

顔を真っ赤にして風花は原因であるゆかりへ詰め寄って抗議するが、ゆかりは真剣な顔をで風花へ言った。

 

「私ね、美鶴先輩も風花も応援する事にしたんだけど、少なくとも風花に積極性がないのよ。元が悪い訳じゃないんだから正面から攻めれば良いのよ!」

 

「で、でもそんな……!」

 

真顔で言い張るゆかり、少なくともそんな度胸はない風花。

そして、状況を理解するために二人に近付く洸夜。

 

「どうした? 一体、何を……」

 

「実は風花が―――」

 

「ゆかりちゃん!?」

 

慌ててゆかりの口を封じる風花。

全く状況は分からなかったが、これ以上は話を聞けそうにないと判断して洸夜は最後の一人の下へ向かう。

何故か、辺りを無言で威圧している人物、美鶴の下へ。

 

「……」

 

「……」

 

二人はお互いを確認するが、言葉が見つからず黙っている。

美鶴も威圧するのは止めたが、互いの溝が深かったのは事実。

なんて言えば良いのか分からない。

明彦達もここが一番心配であり、二人を黙って見守るが互いに何も話さない。

このまま平行線で終わるのかと、誰もが思った時だった。

 

パァン!

 

洸夜と美鶴は何も言わず、互いにハイタッチをした。

言葉はないが、お互いに表情は穏やかな笑みを浮かべている。

何も言わずとも、お互いを理解しているのだ。

もう、この二人の溝は想い等によって埋められていた。

 

 

▼▼▼

 

場が落ち着き、自称特別捜査隊と元S.E.E.Sメンバーが互いを意識し始めた時だ。

陽介が何か思い出す様に突然叫んだ。

 

「ああぁぁぁぁッ!!? 修学旅行どうすんだよ!?」

 

先程まで格好つけていた陽介だが、冷静になった事で我に返ったのだ。

そんな陽介の姿に千枝と完二は呆れた様に彼を見る。

 

「花村……あんたさ、学校では散々格好つけてた癖に今更それ?」

 

「一瞬でも花村先輩が格好良いと思った俺が馬鹿だったぜ」

 

「はぁ!? なんだよ言いたい放題言いやがって! 少なくとも問題にはなってるだろ。俺達、勝手に消えた様なもんなんだからよ!」

 

意外にも現実的な反論で千枝と完二へ反撃する陽介。

しかし、最早過ぎた事と思っている雪子とりせは慌てた様子はなかった。

 

「でも花村君。もう、過ぎた事だし、騒いでも仕方ないじゃない」

 

「そうだよ! それに正論言ってるけど、確か言いだしっぺは花村先輩でしたよね?」

 

「うぐ! い、いや……それはなんか気持ちが抑えられなかったと言うか」

 

思い出したのか、陽介は二人の言葉に詰まってしまう。

無我夢中だったとしか言えないが、言ってしまったのも事実。

そして、ああだこうだと騒いでいた陽介達の話を聞いていた美鶴が陽介達の前に出る。

 

「修学旅行の事ならば、私から学校側に上手く伝えておこう。今回の一件は私達が君たちを巻き込んだ様なものだからな」

 

「え! でも、良いんですか?」

 

美鶴からの提案に雪子が聞き返す。

巻き込まれたと言うよりは自分達で勝手に飛び込んだ様なもののため、美鶴の提案は嬉しいが簡単に受け入れるには申し訳ない気持ちが強かった。

だが、そんな雪子の気持ちを察したのか美鶴は笑みを浮かべて言った。

 

「そんなに深く考えなくて良い。受け入れずらいならば、先程の君達がシャドウの注意を引いていてくれたお礼だと思ってくれて良い」

 

美鶴からすれば月光館には顔が効く為、言う程に難しい事ではない。

そのため、雪子達が受け入れてくれればすぐに出来る事だ。

そして、自分達が受け入れやすいように伝えてくれる美鶴の優しさに陽介達にも変化があった。

 

「……俺。誤解してた。洸夜さんの昔の話を聞いて、最低な連中だと思ってたけど、本当は優しい人達だったんだんだな」

 

陽介の呟き。

それを聞いた美鶴達は特に怒る事は無かった。

寧ろ、それで納得ができた。

 

(彼等から感じていた敵意に近いのはそう言う事だったか)

 

陽介達からは微かに口調等に敵意が込められていた。

理由は分からなかったが、今は陽介の言葉を聞いて分かった。

洸夜は彼等にとっても大切な仲間なのだと。

 

「私も、凄い格好していたし、そう思っていた」

 

「うん。凄い格好してるもんね」

 

(……ん?)

 

美鶴は何やら千枝や雪子の言葉に違和感を覚えるが、それを口にする前に完二とりせも話し始める。

 

「確かに、直視はできねえよな」

 

「グラビア撮影でも、あんなの着た事ないよ」

 

「……」

 

最早、陽介達にとって美鶴達の印象は彼女たちの強烈な衣装によって植えつけれらてしまっていた。

ボディスーツや半裸、弁解の余地はない。

洸夜ですらそれは思っていた為、フォローは出来ない。

その後ろで順平も笑いを堪えている。

 

「おれっちだって口に出さなかったのに、平然と言うんだな」

 

「ああ、確かに美鶴の服装は異常とも見れるだろ」

 

「お前はそれ以上だろが」

 

明彦の言葉に真次郎がの言葉が飛び、美鶴は服装の事ばかり言われ、それ以外の言葉が出てこない。

また、洸夜と総司は我関せずと言った態度を取り、二人で空の満月を眺めている。

そんな時だった。

洸夜の左手から何か巨大な何かが溢れ始めた。

 

「ッ!? これは……」

 

「月光館の時の……」

 

それは、月光館で起きた力であり、テレビの世界に来た原因であるものと同じものだった。

それに気付いて美鶴達と陽介達も洸夜達の方を見るが、その力は徐々に大きくなってあっという間に全員を呑み込んでしまった。

 

(長かったな……)

 

現実に帰る中、洸夜はやっと終わった事で身体が軽くなった様な想いだった。

長かった事件は終わった。

呑み込まれながら穏やかな笑みを浮かべる兄を、総司もまた隣で見ていた。

 

――その時だった。

 

”やはり、あなた方は不思議な存在ですね……”

 

 

 何処かで聞き覚えのある声に洸夜と総司は振り向こうとしたが叶わず、その身体と意識は現実へと戻されていった。

 

 

End




近々、テイルズでジアビスの小説を投稿します。
だからと言って、ペルソナの投稿が疎かになることはないので安心してください。

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