EDEN ─ その5人は《楽園》を動かす。─ 作:キャメル16世
そこは、おれが大好きな街
この街は、おれを笑顔にしてくれた…
「…そうか、ゆっくり話せたのか?」
「…うん、でもごめん…なんで生き返ったのかは、分からなかった」
「それでいい、でも良かったな…その人が生き返って…」
「…本当に良かったのかな…」
「…え?」
あの後、拠点に戻ったおれは、ローレンに話を聞いてもらった
「…なぁなぁ、アクシアくんがそこまで必死になるって…一体どんな人なんだ?」
「私も気になりますぅ!」
「……うん、皆にも話すべきだよね」
おれはオリバー先生にも視線を送る
「……ガンバー・スカイビット、おれの尊敬する人だ」
「うんうん」
「…その日、おれの家は火事にあった…」
ここからは、おれの昔話
炎が燃え盛る
熱い
ただただ、熱い
おれは2階の自室で立てこもる状態となった
炎はすぐ側まで来ている
煙の勢いは増すばかり
「……ゴホッゴホッ!」
まだ小さかったおれは、ただ助けを待つ事しか出来なかった
「…お父さん…お母さん…」
両親は1階のリビングだ
未だに助けは来ない
「……うわあぁぁぁ!」
おれは泣きじゃくった
どうする事も出来ない
ただただ怖くて怖くて仕方がない
皮膚が焼けるように熱い
「……おい!そこにいるのか!?」
窓の外から、男性の声が聞こえた
おれは窓から顔だけ覗かせた
「……っ!…おい坊主!無事か!?」
「……おじさん…だれぇ?」
「…この状況でそんな事聞くか!?」
「……」
「……俺はガンバー!坊主は?」
「…アクシア」
「…よし!アクシア!来い!」
ガンバーと名乗った大男は両腕を広げた
「……なに?」
「飛ぶんだよ!大丈夫!俺が受け止めてやる!」
「……飛ぶ?」
おれの中には無かった選択だった
今まで、逃げるか、待つか
それだけだった
「…そうだ!自分で飛ぶんだ!己の恐怖に立ち向かえ!」
立ち向かう
そんな選択は今までに考えた事も無かった
だからこそ、おれの中で何かが変わった気がした
「…来い!アクシア!」
「…無理だよぉ!高いよォ!」
「大丈夫だ!俺を信じろ!」
「……」
「…泣いてばっかじゃ、何も変わらんぞ!」
「……っ!…えいっ!」
おれは二階の窓から飛び降りた
それを、ガンバーさんは受け止めた
「……はぁ…はぁ…」
「……はっはっは!」
「……なにが面白いの?」
「……いやぁ…よく頑張ったな、アクシア。偉いぞ」
「……」
頭を撫でられたおれ
その手は、俺の小さな頭と比べると、やけに大きかった
「……ガンバーさん!」
「お!アクシア!また来たのか!?」
「うん!キャッチボールしよ!」
程なくして、ガンバーさんは心臓病で入院する事となった
「……お、アクシア…来たか」
「…大丈夫?ガンバーさん」
「…なぁに…すぐに元気になるさ…そしたらまた、キャッチボールしような」
「……うん!」
「…どうしたアクシア」
「…今日友達と喧嘩しちゃって…」
「…だから今日はそんなムスッとしてんのか」
「…だって、あいつが!」
「……アクシア…お前は、笑顔が取り柄だ」
「…とりえ?」
「…あぁ、アクシア…お前は…笑顔を忘れてはいけないぞ……ゴホッゴホッ…」
「……大丈夫?」
「…俺の命はそう長くない…でもな、アクシア…」
「……」
「お前を空から見てるぞ…」
「…空?」
「…あぁ、俺はじきに、空に行くんだ。遠い遠い空へ」
「……じゃあ」
昔の俺は無邪気のままだ
「おれが、空に行ってお迎えに行くよ!」
「…そうか…楽しみにしてるぞ!俺とお前との約束だ!」
「うん!約束!」
小指を交差させるおれとガンバーさん
その次の週には、ガンバーさんは帰らぬ人となった
「……いい人だったんだな」
「…グスッ!…感動しますねぇ〜!」
「…えぇ!?ヴィンさん泣いてる!?」
「……ふふっ」
「……そうですか…ガンバー君が」
「…やっぱり知ってたんだな、エバさん」
「…そりゃあまぁ、エヴァの一員でしたから」
「……」
「…そうですか、彼が…」
「…あぁ、ガンバー・スカイビット…奴が、アクシア・クローネという人間を作り上げたんだ」
「……複雑ですね、そんな人がまた生き返ったなんて…」
「…ほんと、なんで急にこんなふうになったんだろうな」
「…やはり、『ルシファー』が関係してるんでしょうか」
「…そうは考えたくない。でも、可能性は十分ある」
「…偵察しましょう。特に、アクシア君のところを」
「……そうだな」
俺も、皆に話すべき事がある
それをいつ言うべきか…
「……ふぅ〜ん…意外といいデータが取れたね」
「…そうだな、どうする?サンプルは処分するか?」
「……うん、もう必要ないしね」
「…そうか、なら俺が」
「…いや、私が行こう」
「…なんだ?どういう風の吹き回しだ?」
「…なぁに…私は私のしたいことをするまでさ…」
アクシア・クローネ…
ローレンと共に『スローンズ』として活動する機動歩兵部隊に所属するパイロット…
興味深い…私のオモチャに出来ないかなぁ?
「…また行くのか?」
「うん!まだ聞きたいことあるしね」
「…気を付けろよ?」
「え?何が?」
「……いや、何でもない」
すると、ローレンはポケットから何かを取り出しておれに投げた
見たら銃だった
「パタ姐から借りた、言っておくが、護身用だ」
「……なんでこんなものを?」
「…念の為だ」
ローレンが不思議な事を言ったが、おれは構わずガンバーさんの元に向かった
昨夜、ガンバーさんから連絡があった
2人きりで話がしたいと
話したい事があると
それが今回の事件に関連するかはわからない。けど、会えると分かるだけで、おれは嬉しくてしょうがなかった
「……っ」
「ガンバーさ〜ん!」
「…来たか、アクシア」
「…何処に行くの?」
「…着いて来い、見せたものがある」
ガンバーさんはそう言うなり独りでに歩き初めてしまった
昨日とは何か雰囲気が違う
「…あ、待ってよ!」
でも、あの時のおれは、どうかしていた
「……ここだ」
ガンバーさんはおれを町外れにある倉庫に案内した
古びた扉が、ゆっくりと開かれる
「……ここは?」
「……『ルシファー』の、根城だ」
「……え?」
今、なんて言った?
「…俺は『ルシファー』のボスに命令され、お前と接触した。本当はお前の筈ではなかった、ローレン・イロアス。俺が接触を命令されたのはその男だ」
「……え?」
おれの頭がだんだん真っ白になって行くのが分かった
「…だが計画が変更され、お前を含む5人の抹殺を命令された。そして、俺に与えられた最期の使命は…」
ガンバーさんはスイッチのような物をポケットから取り出した
「…この根城を、お前共々爆破させる事だ…」
ガンバーさんの手は震えていた
俺の人生は糞だ
糞みたいな人生だ
行かれたヤツらと毎日のように薬の売買を行い、老いぼれから金を巻き上げた
俺は糞みたいな人生の代わりに、金と力を手に入れた
権力こそないが、金は全てを受け入れてくれた
うちのボスはマフィアの一族が代々受け継いでいた
先日、若頭が中学の番を張るようになったとか
将来有望と騒ぎ立ててる
くだらねぇ
全部くだらねぇ
俺が欲しいのは、金だけだ
「……っ」
なんつー火事だ
冬場とは言え、こんな燃えるか?普通
放火魔がいるとしか考えられねぇ
「……」
だが、俺には関係ない
あの火事で誰が死のうが、俺には
「…うわあぁぁぁ!」
「…っ!」
ガキの鳴き声
「…おい!そこにいるのか!?」
俺は気付いたら、知らねぇガキを抱きしめていた
「…あぁ?エヴァをやめる?」
「…あぁ、俺には大切なものが出来た。だから、ここで働くのは御免だ」
「……はぁ…お前は、もうちょい役に立つと思ったんだけどなぁ…」
「…グフゥ!」
「…オラオラ!半殺しじゃあ済まさねぇぞ!」
「ゲフッ!…ゴッ!」
やっぱり、俺の人生は糞だ
なんで俺、生きてんだよ
何の為に生きてんだよ
「…もういい」
「……若頭!」
「…ハァ…ハァ」
「…お前は、そうやっていつまでも逃げるんだな」
「……え?」
「…行けよ、腰抜けが」
「……」
俺は逃げた
何処までも何処までも
俺に、逃げ場所なんて無い筈だった
それくらい、糞みたいな人生だった
その筈なのに…
《ガンバーさん!》
「……なんでっ…こんな時にまで…」
「ガンバーさん!?どうしたの!?」
「…ちょっと、転んじまってな」
「…余命、半年です」
「……そう…ですか」
「…残された時間、どう過ごすおつもりで?」
「…俺は、この世に後悔はありません…」
俺の人生に価値なんて無い
いつだって、マイナスな世界を見て来た
「……でも…この世には、後悔させたくない奴がいますっ…あいつはいつも元気で…あいつは俺にとって光その物だった!…あいつが俺を照らしてくれたんだっ…」
俺の人生に価値なんて無い
でも、死にたくない
そう思わせてくれたあいつだけは…悲しませたくない!
「…アクシア…お前は…笑顔を忘れてはいけないぞ…」
「……く…くく…」
ガンバーさんの手は震えたままだった
「…ガンバー…さん?」
「……出来ない…俺には…」
「……ガンバーさん…一体…っ!」
「…っ!」
バンッという音と共に、腹部に激しい痛みを感じた
ガンバーさんの胸から、血が溢れている
意識が朦朧としてきた
「……あっ…」
「…あ〜あ、もうちょっと楽しみたかったんだけどなぁ」
「…誰…だ?」
白髪の男
白いスーツ
気持ちが悪い、全身白だ
「…あれ?ローレンから聞いてないの?…まぁ、あいつこういう事内緒にしそうだなぁ…」
なんでローレンの事を?
「……くっ…」
「…ごめんごめん、痛むよね…でも安心して」
白髪の男は胸を抑えるガンバーさんからスイッチを奪った
「…すぐに私達の街に送ってあげる」
「……っ!」
次の瞬間、鼓膜が破れたかと思う程の爆音と熱風
おれは爆風に吹き飛ばされ、倉庫の外に飛び出た
皮膚が焼けるように熱い
倉庫には炎が燃え盛る
まるで、あの日のようだ
「……ハァ……ハァ…」
おれの息が荒くなっていくのが分かる
次第に腹部の激痛も感じ無くなっていた
「……あれ?死ななかったんだ、しぶといね」
「……」
なんで炎の中を歩ける?
それに…その引きづってるのは…
「…ふぅ〜ん、これって肉体も戻るんだ」
焼き焦げた男性の身体を乱暴に引きづっていた
「……あ…あぁ…」
ガンバーさん…
「…ああぁあぁあああぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあ!!!」
おれは叫んだ
何処までも何処までも、広い空に向かって叫んだ
「……」
次第に、何もする気力が無くなった
あとはもう、死ぬのを待つだけだ
「……っ」
違うだろ…そうじゃないだろ…!
「……くっ…ぐっ!」
「……ん?」
腹の痛みが戻って来た
脳に血が登っている証拠だ
俺は生きてる
「…ぐっ…ぐぬぅう!」
「…へぇ〜…本当にしぶといね」
「…おれは逃げない!助けを待つ事もない!」
「……」
「…例えおれがここで死ぬとしても!おれは立ち向かう!」
「…私に?」
「……違う…おれにだ…」
己に立ち向かう
それが、あの人が遺してくれた、意思だ
それは、今も昔も変わってねぇ!
「…おれは怒った!怒ったぞぉ!」
「……」
「……だからこそ…」
《アクシア、いいか?怒った時こそ笑顔だ!》
《怒った時こそ?》
《そうだ!怒ると前が見えなくなるからな、自分さえも見失ってしまう》
《……》
《だから…怒ったら、必ず笑顔を忘れるなよ》
「……ふっ」
おれは口角を上げ、白髪の男の額に向けて銃を構えた
護身用だけど、約束破ってごめん、ローレン
「……だけどおれは…」
「……っ」
おれは引き金を引いた
銃弾は男の額に命中し、男の額にはポッカリと穴が空いた
男はその場に倒れる
「……生きて…帰りたい…」
みんなの元へ
おれも倒れ込む
あれが誰だか分からない
もしかしたら、『ルシファー』に関係ある人かもしれない
どちらにせよ、おれは初めて人を殺した
「……ん、ん〜!」
「…っ!?」
すると、なんと男は普通に立ち上がった
額の穴はない
なんで!?
「…あはははは!何だ今の!面白ぇ!」
「……っ」
「…なぁ、びっくりしたか?びっくりしたよなぁ!」
「……なんで…っ」
「…なんでだろぉな?少し考えりゃ分かる事さ」
男は意気揚々と歩き、その場を離れた
「…あぁそうだ、ローレンに伝えてくれ」
「……」
「…我々『ルシファー』の本来の目的は、地下帝国『NEDE』の解放。今回のはデモンストレーションだ」
「……っ」
「…止めてみなよ、『EDEN』の皆様?」
それを最後に、おれは気絶した
とても長い悪夢を見ていた
「……ん」
目が覚めると、おれは病院のベットに寝ていた
どうやら生きていたようだ
「…起きたか」
「……ローレン」
「…命に別状はないとよ、良かったな」
「……何が?」
「……ガンバー・スカイビット…」
「……」
「……残念だったな」
「……ローレン…おれさ…」
「……」
「…なんで生きてんだろうね」
乾いた筈なのに…なんでまた泣けてくるんだろう
「……おれ…何も言えなかった…ありがとうも…ごめんなさいも…ずっと謝られるばっかで…」
「……アクシア…俺はな、お前が生きてて嬉しい」
「……」
「…だからそんな自分を責めんな。お前には、帰る場所がある」
「……うぅ…くっうぅぅ!」
「……よく頑張ったな…偉いぞ、アクシア」
「うわぁぁあぁぁ!」
「……」
「……寝た?」
「…あぁ」
「……良かったぁ…念の為つけといて…」
「…パタ姐、頼みがある」
「…なんだ?」
「……」
俺はあいつを許さねぇ
アクシアから笑顔を奪ったあいつを…
「……あいつを、ぶっ殺す!」
To Be Continued...
次回
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