EDEN ─ その5人は《楽園》を動かす。─ 作:キャメル16世
そこは、私が生きる街
この街は、必ず誰かがそばにいる…
5年前──
「……チッ」
つまんね〜
何か面白いことないかな〜
エデン大学になってしばらく経つが、何一つ面白いことがない事に、当時のレイン・パターソンは嘆いていた
「…レイ〜ンちゃんっ!」
「うわっ!」
後ろから昔からの中であるサニーが飛びついて来た
ピンク色のショートヘアが私の頬にまで掛かる距離の近さだ
「ちょっ…サニー!近いよ!」
「えぇ〜いいじゃん!女同士なんだし!」
「そうじゃなくて!…周りが見てるから…」
「…あっ…それはごめん」
少しだけ離れるサニー
「……ぷッ」
「…ふふっ」
私の人生はつまらないものだ
でも、退屈はしない。だって、私には彼女がいるから
彼女と出会ったのは2年前、エデン大学に入って間もない頃だった
第一印象は、最悪だった
当時、クラス内での交流会の為、班別で課外活動があった
「……」
入学早々、浮いていた私には誰も話しかけてこなかった
別に暗かったわけじゃないと思う。でも、多分だけど…
私には人を寄せつけない何かがあったんだ
「……あの…」
「……あぁ…レインさん…だっけ?私達と一緒に…やる?」
「……う、うん」
仕方なく人数の足りない班に自ら声を掛け入れてもらった
「……ふ〜ん…」
課外活動の内容は簡単で、海についてのレポートを作成する事
水、という観点で
「……はぁ〜…」
浜沿いで深呼吸を、心を落ち着かせる
最近あまり眠れていない
私は眠たい目を擦る
「…やっ!」
「…へっ?」
バシャーン
という音と共に私は下半身と両手が浸水している事に気が付いた
「……へ?」
「……」
振り返ると、班のメンバーの1人のピンク髪の女の子が後ろに立っていた
「……」
なんで?
そう言おう口を開いた瞬間
「なんでそんなめそめそしてるの!?」
大きな声で言われた
大きな口、大きな目、その目は私を真っ直ぐ見ていた
「……わ、私は…」
「…初めて会った時から思ってたんだ!なんでずっと下向いてるの?」
「…っ!」
さっきもそうだ
私は足元しか見ていなかった
だから後ろから近付く彼女にも気付けなかった
「…ねぇ!」
「……」
「……ウチと友達になろ!」
それが彼女との初めての出会いだった
そこから段々仲良くなり、ある日に水族館に誘われた
海を知ることは、私にとって有意義な時間となった
「……カッコイイ…」
「…サメ?」
「……うん、なんか…」
大きな水槽を優雅に泳ぐサメを見て一目惚れした
私はその日、サメのぬいぐるみを買った
「……強そう」
私は強くなりたかった
その日から、強さを求めた
下しか見てこなかった私は、前を見て進むことが出来た
これも彼女のおかげだ
たまに暴力沙汰を起こす私は学校からも一目置かれることとなった
いつしか「赤毛のレインに近付くと海に引きずり込まれる」なんて言う噂というか、伝説が残った
「はっはっは!凄いねレインちゃん!また別校のヤンキー返り討ちにしたの?」
「まぁね、あいつらなんて片腕で十分だよ」
それでも、彼女だけは私を見捨てないでいてくれた
それは多分…
「うわぁぁぁん!」
「……子供?」
「なになに?迷子?」
「……」
道端に蹲っている幼児の男の子
よく見ると、膝に擦り傷があった。転んだようだ
「……ボク?立てるか?」
「…お姉さんだれ?」
「…いいから足出して」
私はポケットからハンカチを取り出し、バックから水筒を取り出す
水筒の水でハンカチを濡らし、帯状にして男の子の膝に当てる
「……うっ」
「我慢しろ、男だろ」
「…う、うんっ」
「よし」
「……」
男の子の傷口をハンカチで覆い、帰らせた
「…あのハンカチ、この間買ったばかりのやつでは?」
「あれが1番いい使い方だよ。別に新しいの買えばいいし」
「……ふふっ」
「…な、なんだよ…」
「…いやぁ…皆もレインちゃんの優しさに気付けばいいのにな〜って」
「……なんだよそれ〜…」
「……でも…」
「…?」
「……今レインちゃんの優しさを独り占め出来るのは、ウチだけなんだよね…」
「……サニー」
「…ん?」
「…今度さ、また水族館行かない?」
「……うん!行く!」
あの日だった
私の全てを変えたのは、あの日、あの場所で、あの人と出会ったから…
サニーと私が水族館に行く約束をした日
道中、2人で駅から歩いて向かっている時だった
「……レインちゃん!危ない!」
「…っ!」
サニーは私を庇ってバイクにはねられた
周りは騒然としているが、誰も一向に助けてくれない
私はサニーの横で腕の傷口を抑える事しか出来なかった
頭からは血を流している
嫌だ…嫌だよ…
死なないでよ…またいつもみたいに笑ってよ…
私は溢れ出る涙を拭うことも出来ず、ただただ意味もなく傷口を押さえるだけだった
今の私に出来ることは、これだけだった
もう救急車は呼ばれただろうか
なぁ…見てないでさ…誰か助けてよ…
誰か…
「大丈夫ですか!?」
「……っ」
顔を上げると、緑色の髪をした長身の男性が声を掛けてきた
「……サ、サニーが…」
「…脈が…出血も…」
「……ねぇ…サニーは…どうなっちゃうの!?」
「落ち着いて!俺が何とかするから!」
「……」
「…君、名前は?」
「……レイン…パターソン…」
「…よし、レイン君。君はまず彼女のご両親に連絡を…そこの貴方!119番通報を!そこの貴方はAEDをお願いします!」
野次馬の男女が返事をした
「…そこの貴方は何か枕になるものを!俺は今から胸骨圧迫を始めます!レイン君、そのまま止血を続けてください!」
男はサニーに応急処置を施した
胸骨圧迫、人工呼吸、止血など、出来る事は全てやった
やがて救急車が来て、後ほど連絡があった
サニーは一命を取り留めた
あの男の適切な処置がなければ今頃…と言われた
「……あの!」
「…ん?何ですか?」
サニーが救急車に運ばれた後、私は男に頭を下げた
「…ありがとうございました!」
「…いいえ、あの子が無事な事を祈ります。それよりレイン君」
「…っ」
男は私の頭に手を乗せた
「…よくあそこで諦めずに頑張りましたね、偉かったですよ」
「……っ…」
男は振り返って何処かに行ってしまう
「…あ、あの!」
「……」
「…お、お名前は!?」
「……オリバー・エバンス、教師です」
翌年、意識が回復したサニーは復学し、普通の大学生活を取り戻し始めていた
「…そっかぁ〜…」
「…うん、私…あの人みたいに、人を守る事がしたい」
「……じゃあ…ボディガード、とか?」
今日は新しい先生が来るらしい
噂では、結構イケメンらしい
『それでは、新任の先生をご紹介します』
「……オリバー・エバンスと申します。皆さん、以後よろしくお願いしますね」
「……」
オリバー・エバンス
あの人だ…あの日、サニーを助けてくれた…
「……先生!」
「……おや…君は確か…」
「……」
「……レイン君、ですね?」
「……は、はい!」
久しぶりに話したオリバー先生は相変わらずだった
あの日の事も覚えていたし、私の事も覚えていた
「お元気そうで何よりです。ではレイン君、また明日。良い夢を」
「うん!オリバー先生!また明日!」
でも、その日からだった
私は先生に違和感を持つようになった
私はエデン大学を卒業し、ありとあやゆる武術を身につけた
もっと強くなる為に
もっと多くの人を守れるように
もっと…あの人に近付けるように…
「……ハァ…ハァ」
放たれた弾丸は私の頬をかすって床に突き刺さった
「…ハァ…ハァ…ハァ」
「……レイン君、君はどうしてボディガードになったんですか?」
「……え?」
オリバー先生は突拍子のない事を言う
「……」
「……ハァ……ハァ…」
「……」
「………ハァ…」
息を整え、私は口を開いた
「……先生みたいに…なりたかったから…」
「……僕のように?」
「……うん……あの日…先生がサニーを助けてなかったら、私はボディガードなんてなってないよ…」
「……」
「…あの人混みの中…先生だけが、自分から動いてサニーを助けてくれた…私は見てる事しか出来なかった……そんなの嫌だァ!」
「……」
コンクリートの壁に、私の声が反響する
「……私は…人を助けられる人間になりたい…この街を守りたい……そう思わせてくれたのは…他でもない、貴方だ」
「……」
「…今の私は、先生を信じる事は出来ない…だけど…」
私はオリバー先生の構える銃の銃口を私の額にくっつける
「……もう怖くない」
「……レイン君…」
「……」
オリバー先生が引き金に指をかけたところで、私は目を瞑った
「……」
……
「……」
……
「……」
……あれ?
私はゆっくりと目を開ける
そこには、オリバー先生の笑顔があった
「……先生…?」
「……レイン君、怖がらせてしまって申し訳ない」
「……え…?」
「……実はね、君が僕をつけていたのは知っていたんだよ。それも、誰に指示されたのかも」
「……え?…え?」
「……あの日…」
「ローレン君、少しいいですか?」
「…え?…あぁ、分かったエバさん」
別室に移動した僕はローレン君に今日の出来事を話した
「……なるほど、ルシファーの連中が…」
「…なにか向こうでも動きがあるようですね、ですが向こうは僕の事はまだ信頼している様子で」
「……罠って可能性は?」
「どっちのですか?」
「…向こうが、エバさんに」
「……そうですね、その可能性は十分にあるでしょう。ただ、僕が貴方達を騙している可能性も…」
「ゼロだな」
「……え?」
「エバさんが俺達を騙す筈がねぇ。エバさんはポーカーフェイスは上手いけど、嘘は下手だからな」
「……あはは…そこまで言われると、なかなかに恥ずかしいですね…」
「……これからどうするんだ?」
「…しばらくルシファーの懐に潜入してみます。随時皆さんにも報告しておきますね」
「……いや」
「……?」
「…パタ姐には、まだ言わないでくれ」
「どうしてですか?」
「…多分だが、この戦いはもっと激しくなる。命を掛けた戦いだ。それに女であるパタ姐を巻き込むのは、性にあわないんだ」
「……」
「…ただ、パタ姐にそれ程の覚悟があるのか確認したい。エバさん、パタ姐にエバさんを着けさせる。その時、パタ姐の本音を聞き出してくれ」
「二重スパイ、というやつですね」
「……な、なんだよぉ〜!」
私はヘタレ混む
なんだ…全部は私の覚悟を知る為の演技だったのか…
「君は死を選んでも、この街を守りたいと言った。その思いに、僕は応えたいです。僕は君を危険な道へと導いてしまった人間です」
「……先生…」
「…ならば、せめて君の行く末を見守ってあげたい。それが、今の僕にしか出来ない事です!」
「……」
オリバー先生は私の頭に手を乗せる
まるで、あの日のように
「……レイン君、僕達でこの街を守りましょう」
「……うん!」
私は涙を流しながら応えた
私はあの日、友人を助けてもらった
でも今度は、私自身が助けられた
また、この憧れの存在に
私は、この人みたいな
立派なボディガードになる!
To Be Continued...
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