EDEN ─ その5人は《楽園》を動かす。─ 作:キャメル16世
そこは、道を示す街
この街は、何処に向かっているのか分からない…
「…はっ!」
「ふふっ!」
距離を取りつつ銃で発砲しながら私は戦っていた
一方メルスの方は手持ちのナイフで私の弾丸を弾き飛ばし、更に距離を詰めてくる
「あらあらどうしたの〜?さっきの威勢は!!」
「ぐっ!」
押し込まれる私
地面を滑って一気に危機的状況になった
「…っ!」
「……」
目と鼻の先にあるナイフの刃
銃は少し遠くにある
手を伸ばせば届きそうだけど…
「…女っていうのはね、男に利用されて、廃棄物のように簡単に捨てられる哀れな種族なの…そんなの、あんまりでしょ?」
さっきもした話をメルスは繰り返した
「女は女として産まれてきたことを後悔し、無惨に散っていく……全てに絶望し、全てを捨てて生きていく…それが女よ」
「……」
「…私は女が自由に生きれる世界を作る。何者にも縛られず、ただ人間として生きる。彼はそんな私の願いを受け入れてくれた…」
彼……ネディ・デイジーの事か…
「私はそんな世界を望む。貴方もそう思うでしょう?」
「……」
ここで否定すればこのナイフが私の顔面を貫く事は容易に想像出来る
だけどここで肯定すれば私のプライドが許さない
「…私は…女として産まれたことを後悔したことなんてない!」
「……っ」
「……女である私を、みんなは1人の人間として見てくれた!遠慮もしない!デリカシーがないのはどうかと思うけど…それでも私は嬉しかった!」
「…だから!私は女という概念を…!」
「私が言いたいのは…女も男も関係ない!女が偉いとか、男が偉いとかも関係ない!同じ人間として産まれたなら、どっちも仲良く生きようよ!分かり合えるのが人間のいい所だ!」
「…そんなのただの甘えよ…!一瞬でも気を抜けば、支配されるのは女の方なんだから!」
メルスはナイフを振りかぶる
今だ!
「やっ!」
「がふっ!」
私はガラ空きになった腹部に思いっきり蹴りを入れた
「……くっ…」
「…私は依頼人の為に任務を遂行する…それは男も女も関係ない。ただみんなが元気にいる事が、私は嬉しいから」
「……」
「……私の名前はレイン・パターソン、みんなの命は…私が守る!」
「……見損なったわ…あんたは女の風上にも置けない子ね…少し猶予を与えてあげようと思ったけれど…」
メルスは注射器を取り出した
「…それは!?」
「気が変わったわ…貴方を溺死させて美しいまま捕食する。私の本領が発揮される時みたいね…」
「溺死させて捕食…?一体何を言って…!」
するとメルスは注射器を左腕に刺し、中の液体を注入させる
「……これで私もフェーズ2の領域に…もう後戻りは出来ないわ!」
「…っ!?」
メルスの皮膚は魚の鱗のようなものに覆われ、左腕はタコの触手のようなものに変貌した
右手には水かきとヒレのようなものまで
さっき自分でセイレーンとか言ってたけど、これがセイレーンなのか?美しいような、醜いような…どっちとも捉えられる
「…そして…更に!」
メルスは右手を開ける
すると、部屋の中に水が溜まり始めた
「…な、なんだ!?」
「今からここは私のフィールド…貴方は勝てないわ!」
水はどんどん溜まっていき、遂には私も埋まる程に
更にどうやって出来ているのか分からない激流により、私は流されるがままになってしまっていた
「…やっ…まずい…!」
「はっはっはっは!暴れ狂いなさい!そして苦しみながら死ね!」
「…っ…誰か…助け…!」
私は静かに水の中に沈んで行った
水の中はとても暗かった
「……気が変わった。俺が相手をする」
「…っ!ぐわぁ!」
「ローレン!」
アクシアの言葉を最後に、俺はガルーシュになぎ飛ばされた
「……チッ」
「…お前の事はネディから聞いている。俺と戦え、ローレン・イロアス」
「……まぁ、そうしなきゃあいつと決着付けれねぇからな!」
ガルーシュは黒の革手袋を指にフィットさせる
黒のロングコートは床まで届きそうなくらい長かった
「……」
「……ふっ!」
先に仕掛けたのは俺だった
まずは正面突破
パンチやキックを連続で叩き込んだ
しかし、ガルーシュはそれを軽々避ける
だがそんなのは想定内
「喰らえ!」
「…っ!」
俺はポケットから煙玉を取り出し、地面に叩き付けた
辺り一体が煙に覆われ、視界が悪くなる
「……」
「おりゃァァ!」
ガルーシュの位置を把握した俺は渾身の一撃を叩き込んだ
今度は手応えがある
だが……この感じは…!
「……っ!?」
「……」
ガルーシュは俺の拳を受け止め、凛とした態度で立っていた
ガルーシュの掌に収まる俺の拳
押しても引いても動かねぇ
なんだ…こいつのパワーは…!
「…ふんっ!」
「ぐわぁ!」
ガルーシュは俺を投げ飛ばし、俺は壁に直撃した
「……ハァ…ハァ」
「……」
底知れぬ強さ
さっきから感じる強いプレッシャー
間違いねぇ…
こいつは俺より遥かに強い!
「たぁ!やぁ!」
「…フッ…フッ」
攻撃を受け流し続けるガルーシュ
俺は隙を探っていた
「…がはっ!」
「……よそ見をするな、俺はここだ」
「…チッ…お見通しかよ…」
「…貴様の攻撃には魂を感じない。もっと想いを込めろ」
「…はぁ?」
「俺は戦いに於いて、遠慮や手加減はしない…そして、勝ちもしない」
「……?」
「…そいつの本気を見るまではな!」
「…っ!」
ガルーシュは俺との距離を一気に縮め、俺の腹部に発勁をする
「…くっ…くくっ…!」
「…耐えるので精一杯か?お前の底力はそんな程度じゃ無いはずだ」
「…何がしてぇんだ…お前」
「…ん?」
「…俺はネディに用があったんだ…お前に用はない」
「…貴様にその気がなくても、俺は貴様と戦い本気を見るまであいつの元に行かそうとは考えていない」
「案外ねちっこいんだな、あんた」
「…なに?」
「キザな態度とってる割には情が熱いところとか、俺と戦いたいという御託を並べておいて、あいつと俺を接触させねぇって魂胆だろ」
「……」
「……あんたがどんな人間なのか、あいつとはどういう関係なのかなんて知ったこっちゃねぇ…だが…」
俺はガルーシュの目をじっと見た
「…俺はあいつにどうしても伝えなきゃいけねぇ事があるんだ…その為に、あんたを倒す」
「……なるほどな…だからあいつは…」
「…?」
「……良いだろう…貴様の覚悟は感じられた。俺も全力で貴様を倒すとしよう…!」
ガルーシュはさっきとは違う構えをとって戦闘態勢へと入った
俺も左手を構えて標準を合わせる
「……」
「……」
なぜだか周りが静かになった気がする
そう思える程に、俺は集中していた
「…はぁぁ!」
「…はぁぁ!」
互いにぶつかり合う俺たち
拳が交差し合い、頬や服に傷が出来ていく
「…おりゃァ!」
「…くっ!」
回し蹴りでガルーシュの頭部を狙う
ガルーシュはすかさず俺の足を掴んで身動きを封じた
「…くっ…てやぁ!」
「なっ…!」
左脚を浮かして胸部を蹴る
衝撃でガルーシュは俺の足を離す
「……フッ…やるな…」
「これまでEDENを守って来た、警察の実力を舐めんな!」
「…くっ…なかなかいい攻撃だが…やはり俺には劣る」
「…なにっ?」
すると、ガルーシュは付けていた革手袋を脱いだ
「…っ…その手…!」
「……」
見ると、ガルーシュの右手の甲には少しだけ火傷の跡があり、左手に関しては完全に火傷した跡があった
「……フッ!」
「…っ!」
更にロングコートを脱いだガルーシュの身体を見て俺は驚いた
タンクトップ姿から見える腕は、両腕とも火傷の跡があった
「……あんた…その身体…!?」
「…俺は昔火事に遭ってな、その時こうなった」
「……その状態で戦っていたのか?」
「…いいや、この状態だから戦っていたんだ」
「…へ?」
「……見せてやろう…フェーズ2の領域を既に超えている俺の力を!」
「…っ!」
ガルーシュの両手から蒼い炎が出現した
爪が発達し、まるで獣の手のようになった
「……それは…!」
「
「…君にとっての楽園…悪くないね」
「……」
「…でも、新たなる楽園を創造するのは私たちだ。君たちじゃない」
「……はぁっ!」
覚悟を決めたおれはネディに突っ込んだ
「…よっ…ほっ…」
「たやぁ!はぁ!」
「……ん〜…」
「はぁぁ…ぐはっ!」
おれは謎の衝撃波で吹き飛ばされる
「ダメダメ〜!そんなんじゃ私は倒せないよ〜」
「…く…くそっ…!」
「君は覚悟を決め、恐怖を乗り越えた。そんな君に足りないものとはなんだと思う?」
「…き、急に何の話だァ!」
構わずおれは攻撃を続けた
ネディの白い髪にしか攻撃は当たらない
「君は強い、きっと『ルシファー』に入ればもっと活躍出来る…でも私は君を選ばない」
「…はっ!たっ!」
「…それは何故か…答えは…」
「はぁっ…なっ…!」
おれの拳を掴むネディ
「……君には、非情さが足りない」
「…ひ、非情…?」
「優し過ぎるのさ…さっきから私の頭を狙っているが、無意識に逸らしているのは君だ」
「…っ!」
「もっと私を殺すつもりで来い…この間のあの眼は良かったよ?ちゃんと怖かった…うんうん」
「……」
「…私は君の恩師であるガンバー・スカイビットを殺した。そして何より、君を殺そうとした…」
「……っ」
「…ほら?遠慮する必要なんて無いんだよ?殺していいんだよ?君が私にされた数々の苦行を思い出してご覧よ」
「……」
「…ローレンは2年経ってもあの事件の事を忘れてはいなかったし、私を憎み続けてる。でもそれでいい、それがいいんだ。私がこよなく愛する事は何か分かるかい?それは私に対する反逆の精神!神に逆らうという愚かな行動が、私を高揚させるんだ!」
「……何が神だ…」
「…ん?」
「…お前なんか!ただの人殺しだ!ガンバーさんを殺しておいて!おれが許すわけないだろ!ローレンをあんな顔にさせて!許すわけないだろ!」
「……ふふっ」
「…おれは…お前を絶対に許さない…だからこそ!」
「……」
「……お前から何もかもを吐き出させる!おれのやるべき事は復讐じゃない!お前に罪滅ぼしをさせる事だ!」
「……それが甘いと言っているんだァ!」
おれは拳銃を構え、ネディの身体を狙う
「…ぐっ…かっ…!」
2発
おれはネディに弾丸をお見舞した
だが…
「……最強というのは、なんと罪な事なんだろう…」
「……くっ…!」
やはり不死身の身体
傷は一瞬で癒えていた
「……君には分からないだろう…私の気持ちが…」
「…え?」
「…誰からも愛されず、孤独に生きて来た私は…この街に希望を感じなかった…」
「……」
「…だがこの街にはそういった人たちが沢山いることを知った…私はそういう人たちを集め、組織を形成した」
「…それが…『ルシファー』…?」
「…私は彼らの希望である必要がある…そしてこの希望の無い街にも、私の光を灯し続ける!」
「……」
「……我が楽園は、ここから始まるのだ!」
「…くっ…!」
ネディは連続でパンチを繰り出す
おれは腕でガードするも、押されていた
「…私は蘇り最強の力を手に入れた!何者にも負けない最強の力を!だが…それ故の圧倒的孤独!寂しかったさ!強さとは、罪なのだ!」
「ぐはっ!」
地面を滑るおれ
いつの間にか外に出ていた
それにしても、ダメージがでかい…
「……君には仲間がいる。友がいる。しかし、いずれは崩れる関係…そんなものに何の意味があるんだ?」
「……」
「……はぁ〜…この世で1番理解に苦しむのは人間関係だ…自分とは違う価値観が違う人間と仲良くなって何が嬉しい?それならまだ、同じ苦しみを分かち合える者と共にいた方がいいじゃないか?」
「……みんなバラバラで当たり前だ」
「……ん?」
おれは喋りながら立ち上がる
雨が降ってきて、雷も鳴っていたが関係ない
「…人は、その時一瞬一瞬を一生懸命生きてるんだ…どんなに時が流れようと、どんなに時代が流れても、みんなお互いを理解し合い、同じ人間として生きてるんだ…みんな価値観が違うからいいんだ!だから人は分かり合えるんだ!」
「……」
ネディは目を閉じ、暫く停止した
「……」
ローレン…君は…
《あいつはな、俺のたった1人のバディなんだよ》
「……」
そうか、やっぱりそうなんだよね…
「……」
私は手を広げ、空を仰いだ
「……天と共に…この魂は不滅」
「…え?」
すると、雨が降っている筈だった空から光が差し込んだ
太陽の光がネディを包んだ
「……っ」
ネディの背中から、純白の翼が生える
その黄色い瞳がおれを見詰めた
「…これが私の真の姿…」
「…っ」
「……さぁ、抗え……EDENの英雄達よ…!」
「……ハァ……ハァ」
「……」
天から差し込む光
まさか、ネディの奴…真の力を解放したのか…?
「……ア、アク…シア…」
「……」
倒れ込むローレン・イロアス
俺の炎をモロに喰らって、全身から血が吹き出ている
意識も薄れて何を言っているのかも分からん
こいつも時間の問題か…
良いよな?ネディ…
俺がトドメを刺しても…
俺は手に蒼炎を纏わせ、この男に最期の一撃を喰らわせようとした
「……ネ…ディ…」
「……」
「……俺は…お前を…」
「……さらばだ、英雄よ」
7月18日 23:42
ローレン・イロアス 死去
To Be Continued...
次回
File.20「醒、目覚めの