EDEN ─ その5人は《楽園》を動かす。─   作:キャメル16世

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EDEN(エデン)
そこは、忘れ去られた街
この街は、思い出させてくれる…



File.21「情、呼び覚ます(エデン)

時刻 23:19

 

「…まめねこ達、よろしくお願いします!」

私の合図を元に、腕の発達した大型のまめねこ、以下「まめねこα(アルファ)」が豹変したアルドに向かって行き、手と手を掴み合い力較べをする

その横腹を叩くようにイモムシ型のまめねこ、以下「まめねこβ(ベータ)」が突っ込んだ

そして羽の生えた小型のまめねこ、以下「まめねこθ(シータ)」がハエのようにアルドの周りを飛びまわり翻弄する

最後に通常のまめねこ、以下「まめねこ」が槍で突く

 

「…うぅぅ…ごおぉぉぉお!」

「…アルド…貴方を必ず救ってみせます!」

 

私は彼と戦っている間、彼との思い出を蘇らせていた

 

 

「……フゥ〜…」

ベランダで1人で吸う毒煙はやはり美味しい

何も考えず、研究の関門の事なんかも忘れて…

まるで煙と一緒に消えていくように何処かに…

 

「こら」

「なっ!?アルド!?」

「見つけたぞ、レオス。今日はこれで何本目だ?」

「……まだ20本目です…」

「…はぁ〜…お前はもうちょっと自分の事を大切にしろよ〜…」

アルドはそう言うと私から毒煙を奪い、自分の口に持ってくる

 

「……嫌だったか?」

「いいえ、貴方も吸うんだと思っただけですよ」

男同士での関節キスを気にするほど、私は落ちぶれちゃいない

 

「…まぁ、たまにはな…」

「……ふふ」

「…何がおかしい?」

「…貴方のそのヒステリックな所、嫌いじゃないですよ」

「……なんだよ突然〜!」

少しばかり冗談を言った私の方をアルドはどつく

 

「…それにしても、流石はアルドですね〜…またしても功績を残すとは…」

「…まぁ、今回はたまたま運が良かっただけだ…」

「あんな研究いつから始めてたんですか?知らなかったですよ〜」

「……」

「…貴方なら、きっとこの世界をより良く出来ます」

「……」

「やっぱり貴方は、私の自慢の…」

「…もう辞めないか?この話」

「……え?」

アルドは毒煙の火を消し、足早にベランダから出て行ってしまった

 

「……私、何か言っちゃいけないような事…言いましたかね?」

 

今考えれば、全ての辻褄が合う

 

その次の日、アルドは朝からテレビニュースや新聞、雑誌など色んなメディアから取り上げられていた

 

『医療的革命!アルド・メグルド氏が記者発表!』

 

 

 

「…いや〜…医療的革命、ですか〜!」

「…ま、まぁな…お前には色々と迷惑もかけたし、世話になったから、一応お礼を…」

「何を言うのですか!こんな研究が会ったことさえも始めて知りましたし、貴方にこれ程までの才能があるとは思ってもいませんでしたよ〜!」

「…ありがとな、レオス」

「はい!……ん?」

「……いや、なんでもない!」

 

アルドは一躍有名となり、テレビにも引っ張りだこ

研究も同時並行で進めているらしいけど…大丈夫なんでしょうか?以前会った時は大分(やつ)れているようにも見えた

ちゃんと眠れていないのだろうか…?

 

有名になるとは、なんとも罪な事なのだろう

 

そうだ…!

今度彼に会う時は何かお土産を持って行ってあげましょう!

彼の好きなバームクーヘンなんてどうでしょうかねぇ〜

 

「…はい…はい、承知しております」

 

「……ん?」

彼の研究部屋から声が聞こえる

誰かと電話でもしているのだろうか…?

 

「…はい、必ずや皆様方のお役に立てるように……はい!日々研究に励んでいます!……ですから、もう少しだけ私に猶予を下さい!」

 

「……」

 

「…はい、では失礼します」ピッ

「……」

「…これであの人に認められれば、私も幹部職に…」

「…アルド?」

「っ!?レオス!?」

「…どうしたんですか?そんな引きつった顔をして…」

「…い、いやその…」

「……もしかして…」

「……」

「…貴方研究の方に没頭しすぎて私生活が疎かになっているのではないですか!?あの電話はもしや、滞納している家賃を取り立てるこわぁーい人達からの電話では!?」

「……え?…あ、あぁそうなんだよ…!3ヶ月滞納しちゃってなぁ〜!困った困ったぁ〜!」

「貴方はお金も充分に持っているのですから、私生活の方が大事ですよ?」

「…そ、そうだな!ちょっと研究は置いといて、1回家帰るわ!」

研究部屋を後にするアルド

 

「……」

しかし、私には嘘を付いているのがバレバレだった

 

「……さて、彼は私に何を隠しているのでしょうね〜…」

 

この日から、私の中で彼に対するイメージが少しだけ変わった気がする

 

結局彼の部屋を散策しても特に何も見つからず、不可解な点も少なかった

 

ただ1つ気になったのは…

 

「……っ」

「…どうしたんですか?まめねこ」

一緒に部屋を散策してくれていたまめねこが卓上に置いてあるアルドの研究資料の上に突っ立っていた

黒目だけを下に向け、その資料をガン見していた

 

「…貴方も気になりますか?」

「……っ」

「……やはり…」

私は少し前から気になっていた事がある

どうしていきなりこんな凄い研究をする事が出来たのか

 

これは人類史にも大きく刻まれる研究

それを成功させてもなお、彼は平常心を保っていた

 

私は研究資料を掲げ、その分をじっと見つめた

 

「……」

「……っ」

「……気になっちゃいますよねぇ〜!私も気になりますぅ〜!どうやったらこんな凄い研究が出来るのでしょうか?今度本人に訊きたいところですよぉ〜!」

「……」

「私も見習いたいですよぉ〜!流石は私のライバルですねぇ〜!」

「……っ」

 

この時の私は、少しだけどうかしていた

 

それがあの事件の大ヒントになっているとも知らずに、呑気にその研究資料を読み漁っただけだった

 

結果何も有力な情報は出て来ず、私の彼に対する警戒心は無くなった

 

だが、その後暫くして

彼が私に対する対応が変わって来た気がした

 

「……ん〜…」

「…なんだレオス?また行き悩んでるのか?」

「…まぁ、また上の方に「実用的じゃない」等と言われてしまいましてねぇ〜……少しだけ落ち込んで…」

「お前の研究は何かと無駄が多いいからなぁ〜!そう言われるのも仕方ないだろ!ははは!」

「……え?…あぁ、まぁ…」

「…いつまでも1人で悩んでないでさ〜…俺が教えてやろうか?」

「…え?」

「…あはは!冗談だよ!研究は自分で答えを探してこそだからな!それじゃレオス、俺は大事な会議があるもんで、お暇するよ!」

「…えぇ、また…」

アルドは私の返事も聞かずに私の研究部屋から去って行った

この日から、彼は私をまるで小馬鹿にするようにイジってきた

言い方を変えれば、調子に乗っていた

 

以前の謙虚さは皆無であり、今の彼は以前の彼とはイメージがかけ離れてしまっていた

 

彼自身が変わってしまったのか…

それとも周囲の“何か”が彼を変えてしまったのか…

 

だが、その日はやって来る

私は彼に全てを奪われた

地位も名誉も、希望も

 

私には研究だけだった、研究しかなかった

そう思っていた

 

だが違った…

 

私が大切に思っていたのは研究ではなく、彼という数少ない友人と過ごす時間だった

 

「私共の所に来れば、貴方の才能を限りなく発揮出来ると思いますよ?」

 

だからこそ、私は心に空いたその穴を研究で埋めた

誰かを傷付けていると気付きながらも、私は完璧な研究だけを求めて彷徨い続けた

 

そんなある日、彼らと出会った

彼らとの時間はすごく楽しく、私の心の埋まらない穴をすぐに満たしてくれた

 

でもそれは、貴方との思い出があるからですよ…?

アルド…

 

 

「ぐはぁっ!」

「ごおぉぉおぁぁあ!」

「…っ!」

アルドは両手の指を組んでアームハンマーを喰らい出そうとしていた

 

「……アルド…」

「…うぅぅ…!」

手は私の顔の寸前でストップした

一瞬彼の意識が戻ったのかと期待したが、違った

 

「まめねこα」が彼の攻撃を止めていた

その隙に私はその場から脱出

 

「…アルド…!」

しかし、それだけであそこまで苦しい表情は出来ない

いくら意識が無いと言っても、あの表情は…

 

「……」

ここには私の研究室がある

距離にして数十メートル

走ればすぐに着く

 

「うごぉぉぉあ!」

「……」

もし彼を止める薬が調合可能なのであれば、試す価値は十分にある

しかし、つまりそれはまめねこ達をここに置いていくという事を意味し、まめねこ達の身に何が起こるか分からない

 

やはりここにいるしか…!

 

「……っ!」

「……まめねこ…?」

私に背を向けたまま振り向くまめねこ

私に何かを訴えようとしている…?

 

まるで「俺達に構わず行け!」っと言っているようにも見える

いや、そうとしか思えない!

 

「……1時間…いや、30分で戻って来ます!」

「……っ」

私は全速力でアルドの元を離れ、自分の研究部屋に向かった

 

埃を被っているが材料や器具は揃っている

私は急いでフラスコやら何やらを用意し、調合に励んだ

 

『ピース』の材料を大元に、それの特効薬になるようなものを作る

解毒剤のようなものだ

 

「……えぇっと…?これは…?」

IQ10000垓の私でさえも分からない難題だ

 

「……アルド…私は貴方に何もしてやれなかった…」

私は独り言が多い

 

「…私が貴方から貰ったものは、数知れません…」

でもそれは決して変わった癖なんかでは無い

 

「…今こそ、その恩を返す時です…!」

誰でもいい

誰でもいいから、私の気持ちを聞いて欲しかっただけなのかもしれない

 

「……出来た!」

大きなフラスコに入ったピンク色の液体

これは…『ドリーム』

そう名付けましょう!

 

「ごぉぉあああああ!」

「…っ!?」

アルドが研究部屋に入ってくる

 

私を一点に見つめていた

私は目を閉じ、メガネをクイッとあげた

 

私には彼を止める義務がある

 

「……さぁ、実験開始です!」

研究者として!彼の友として!

 

「…ぶぅるぅごぉぉああぁ!」

「…はぁぁぁ!」

私はレインくんに教わった回避術を駆使しながらアルドに近付いて行く

 

「…まめねこα!β!θ!彼の動きを封じてください!」

「……っ」

「……っ」

「……っ」

するとまめねこβはアルドの身体に巻き付き、まめねこαはアルドの口を無理矢理に開ける

まめねこθが持っている槍をアルドの口の上顎と下顎に噛ませて口が閉じないようにした

 

「…いきますよ!まめねこ!」

「……っ」

最後に私が彼の身体を一気に登って行き、『ドリーム』をまめねこにパスしてもらう

『ドリーム』を受け取った私は彼の口の中に思いっきりそれを流し込んだ

 

「ごぶぅ!…ゴクッ…ゴクッ…」

「…アルド…今までありがとう」

『ドリーム』は『バース』を打ち込んだ人間の細胞を破壊し、その身体を維持させなくするもの

つまり、アルドにとってこれは猛毒だ

 

しかし、これでいい

例え彼の命が助からなくとも私はマッドサイエンティスト

彼の心が救われるのであれば、それでいい

 

「……ごヴっ…ごがぁっ!」

アルドは苦しみ始めたが、その表情は段々緩くなっていた

 

「……アルド…」

「…げ…お…ず…!」

「……え?」

「……レ…オ…ス…」

「……」

「……アリ…ガ…トウ」

「……っ」

私は溢れ出る涙を自覚しながら、彼を抱き寄せた

 

姿は変わってしまっても、彼は彼のままだ

 

「……レ…オ…ス…」

「…もういいですよっ…アルド…っ」

「……」

「…今日はここまで、上がってもらって結構……お疲れ」

「……」

これは私が彼によく言っていた言葉だ

心做しか、彼が少しだけ笑った気がする

 

「……レオス…キンエン…シロヨ…」

「……」

 

アルドの全身は灰のように脆くなり、崩れ散った

 

「…禁煙…する筈がないんですねぇ〜……」

だって、貴方と吸う毒煙が

世界で1番、美味しかったんですから…

 

「……おや…?……雨でも降りましたか…?」

メガネにこびり付いた水滴を拭きながら、私は室内に取り残された

 

4体のまめねこは、私をずっと見守ってくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月18日 23:49

 

 

 

レオス・ヴィンセント(覚醒状態)

 

アルド・メグルド (フェーズ2) を撃破

 

マディ・ガイローズはアルド・メグルドの暴走に巻き込まれ死亡

 

 

 

 

 

To Be Continued...




次回

File.22「命、守る(エデン)
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