EDEN ─ その5人は《楽園》を動かす。─ 作:キャメル16世
そこは、命が蔓延る街
この街は、新たな何かを生み出す…
時刻 23:26
「……」
全身の力が抜けて行く…
真っ暗な水の中、私はまたしてもあの日を思い出していた
サニーが事故に遭い、私は彼女を助ける事が出来なかった
結果的にオリバー先生が助けてくれたから良かったものを、あの人が助けてくれなかったら、彼女は今頃どうなっていただろうか…
助けられる命が目の前にあるのに、私は助ける事が出来なかった
だからこそ私はあの日を後悔し、糧とした
いつか人を助ける事が出来る立派な大人になってみせる
そんな夢物語を描いていた
「……」
もう誰かが苦しむ姿なんて見たくない…!
だから私はボディガードになったんだ!
「……っ…!」
気張れ!
力を降り絞れ!
私に出来ることを…
私にしか出来ないことをするんだ!
どれだけ深くとも、どれだけ暗くとも
光を灯せば明るくなる!
目を開けろ!
もう恐れるな!
私はもう迷わない!
「……っ!」
目を開ける私
すると、水が張ってあった底から光が漏れた
それはまるで、宇宙の中を照らし続ける太陽のような…
すると、水の底から1匹のサメが泳いで来た
そこまで大きくはない
例えるならそう、私がいつも持っているホオジロ…
「……っ!?」
違う!これホオジロさんだ!
生きてるのか!?なんで!?
そんな疑問を他所に、ホオジロさんは私に何かを訴えた
何故だか私はホオジロさんのヒレをつかみ、ホオジロさんに促されるがままに上へ上へと泳いで行く
「……ぷはぁっ!」
「…っ!?」
「…ゴホッ…ゴホッ……あ〜!死ぬかと思ったァ〜!」
「…な、何故だ!?何故あそこから這い上がれた!?」
疑問に満ち溢れるメルス
怒鳴りながらも私に触手を伸ばして来た
「…ぐっ!」
「答えなさい!」
「……ホオジロ…さん!」
「…っ!?」
ホオジロさんはガブッとメルスの触手に噛み付き、食いちぎった
「…がぁぁ!」
「……ふぅ」
私の首の締めも解放され、呼吸を整える
水面だけど
「……お、おのれ…!」
「……」
「…ま、まさか…!これが貴方の『覚醒』とでも言うの!?」
「…覚醒?何だそれは?」
「…認めない…!……認めてたまるかぁ!」
今度は触手と一緒にヒレを使って迫って来た
「…っ!」
「はぁぁ!」
ヒレは刃物のように鋭さを増し、咄嗟に避けるが髪に触れる
「ふんっ!」
「ぐっ…!」
再び触手で首を絞めるメルス
「私は証明しなくちゃいけないの!この世の全ては力によって左右される!どれだけ足掻いてもこの格差社会は治らない!」
「……っ」
「唯一この腐った社会を正せられるのは、絶対的な権力を持った者だけ!それが
蹴り上げられた私
彼女に対する怒りが、沢山の笑顔を思い出させた
《ありがとう!》
「……」
例え依頼でも、依頼人から受けたその言葉は
私を前進させた
もっと沢山の命を守りたい
もっとカッコよく…!
「……なっ!」
「……」
水面に……立って…!?
「…ごちゃごちゃうるせぇんだよ……」
「…っ!」
「…レイン・パターソン…これより対称・メルスを撃破する…」
「……っ!?」
「……任務開始!」
私は水面を走りながら銃を構えた
「…くっ…!」
水中に逃げるメルス
「待てっ!」
すぐさま水中に潜る私
「……近寄るな!」
「…ふっ!…はっ!」
メルスが伸ばす触手を避ける私
「…ま、まさか…本当に…『覚醒』を…!?」
「何言ってるのさ!」
水中にも関わらずパンチを繰り出す
「ホオジロさん!」
「…なっ!?」
ホオジロさんは牙を立ててメルスの腹部にガブッと噛み付いた
「がぁぁぁ!」
「……っ」
「…あっ…あぁっ…!」
痛い痛いと喚くメルス
「……ごめん…だけど…」
「……ぐっ…死ぬっ…死ぬぅ!」
「……私は…!」
私は手を伸ばしてホオジロさんから特殊な銃を受け取った
水中でも使える、魚雷のようなものだ
「……喰らえぇ!」
「やぁぁぁぁあ!」
魚雷をモロに受けるメルス
「……っ!?」
「…許さない…許さい許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」
メルスの右腕は損傷
身体も抉れてる
それなのになんでまだ体制を保っていられるんだ…!?
「…私の美しい身体を…よくも…!」
「…っ!」
メルスの身体は再生し始めた
しかし、その戻った部分は真緑色の皮膚で
お世辞にも美しいとは言えなかった
醜い姿へと変貌したメルスは膨張した右腕を伸ばして来た
「ぐっ…!」
「…死ねっ!…死ね死ね死ね死ね!…死んじゃえぇ!」
「……もう…無理だ…!」
「…やぁぁぁぁぁあ!」
「…君は…私の手で…!」
「やぁぁぁあ!……ギャァァア!」
「……」
私は震える唇を噛みながらメルスにもう1発魚雷を放った
「……ホオジロさん!」
ホオジロさんは私の肩へとやって来て、私は彼を両手で押さえる
ホオジロさんの口の中からゴッツイ銃口が飛び出てくる
ホオジロさんに仕掛けた、最後の切り札だ
「……喰らえ!ホオジロさんビーーム!」
「…ギャァァア!」
銃口からビームが発射され、水の中を一直線に進む
それに直撃するメルスは全身にそれを浴び、水上まで打ち上げられた
「……」
女である事を、ここまで恨んだことは無い
私は富豪の名家の娘として生まれた
しかし、両親やその他の親族は私をいいように使い、自分の手柄にしていた
勉強も、御作法も、全ては家柄を守る為
それでも私は刃向かえなかった…
理由は簡単だ
私が弱いからだ
人間として弱いからだ
私をまるで奴隷のように扱い、仕事が出来ないと叱られる
近親相姦も当たり前のようにあった
知らない男と夜を過ごされた事もある
それも裏で金が動いていた
女に生まれた以上、私たちは男に従うしか無かった
この世は所詮格差社会
弱肉強食
でもそんなの不合理だ!
他の女があまりにも可哀想だ!
男が女から自由を奪うと言うのであれば…
私が男から自由を奪ってやる…
「…私が…女の自由を守る…!」
私は女をたぶらかす男共だったり
女をいいように使って捨てるような男を探し出し…
片っ端からこの世から消してあげた
全ては女の自由の為
私は容姿だけは整っていたから、あらゆる男を誘惑し
その後は…
「…ほ〜…君がメルスさんですかー」
「……ん?」
「やーこれはまたお綺麗なこと〜…これはさぞかしモテる事でしょ〜」
「……貴方、誰?」
「…ん?私ですか?…私はネディ、君を導く者だよ」
その日から、私の全てが変わった
彼は私の、男共を排除し腐った社会を正すという私の野望を見込み、『ルシファー』の一員…それも幹部職に選出した
「……」
「ほらほら皆〜!喧嘩しないの〜!」
「こいつが先に売ってきたんだぜ!?」
「違います。ただこの人がおかしな事を…」
「あんだとぉ!?」
「……」
「まぁまぁ!ほら、メルスさんも何か言ってやってよー」
「…知らないわよ。興味無いわ」
「……っ」
わけも分からない筋肉男にメガネ男、一匹狼男に白髪のキモイ男
どこもかしこも男ばっかで気持ちが悪い
「…ちぇー…つれないなぁメルスさんは〜…」
「当たり前よ?私は「男殺しのメルス」。貴方たちを殺す事だって容易なのよ?」
「……フッ」
「…なによ」
黒づくめの男が不敵に笑う
「…ネディを殺す?それは無理な話だな」
「…はぁ?」
「こいつはもう人間を超えた存在だ、お前に勝ち目なんて無い」
「コラコラガル!ダメだよ仲間なんだから挑発しちゃ」
「……ふんっ」
「……なんなのよ…」
「…まぁ、私がそういう存在って事は事実だけど…もしかしたら君たちも私と同じような存在になれるかもよ?」
「……は?」
「…どういう意味ですか?ネディ」
ネディは意味深な発言をした
それな対しメガネ男が応える
「……『覚醒』だよ。EDEN出身の人間にはその潜在能力が兼ね備えられている」
「…か、覚醒?」
「人知を超えた力、その種類は人それぞれ…だが、その発生条件は厳しいものでね〜…正直私にも分からないんだ」
「…その力を手に入れて、どうしようっての?」
私は彼に質問した
「…決まってるじゃないか、この世界を正しく導くのさ」
「……」
「…世界の平和?人間の自由?どうでもいいね…!」
「……っ」
「私はただ、この街が醜く見えるだけさ…だから全てを壊すんだよ」
「……ゴクッ」
この男は、本気だった
本気でこの街を変えようとしていた
今まで出会った生半可な男共とは違う
彼からは何かを感じた
「…その為に!ただ今着々と準備が進んでいるよ!マディさん、説明よろしく!」
「…はぁ、相変わらず人使いが荒い人ですね……現在、私の下でレオス・ヴィンセントという人物が『ピース』の臨床実験を行っている最中です」
「……ピース?」
「…人間の身体を怪物へと変貌させる薬品ですよ。ですが、それだけでは足りない…彼の研究を利用し、新たなる薬品のプロジェクトを考えています。それが成功すれば、我々も人知を超えた力が手に入るのではないでしょうか?」
「流石はマディさん、仕事が早いねぇ〜!」
「…そいつがありゃ、俺たちもネディのようになれるってのか!?」
筋肉男が切り出した
「えぇ…確実とは言えないが、我々はネディに名を受けた選ばれし人物…光明が見えるかも知れません」
「えへへ〜!」
「…いずれにせよ、俺たちがあの街に報復を示すのはまだ先だ。焦る必要は無い」
「お!ガルたまにはいい事言うじゃん!」
「……るせっ」
「……」
ツンデレなのかしら…この男は…?
「…どうだいメルスさん」
「…え?」
「…私たちと一緒に、EDENの夜明けを見に行かないかい?」
「……EDENの…夜明け…」
「……」
手を差し出すネディ
「……馬鹿な男もいるものね…」
「…?」
「…でも、嫌いじゃないわ」
「…っ」
私は振り向き彼の手に手を重ねた
「…そこまで言うなら見せてちょうだい?この街の夜明けを」
「…あぁ、必ずね」
「……フッ」
私は男が嫌いだ
男なんてものは自分の事しか考えていない野蛮な種族
だけど…
世の中には、こんな男もいるのね…
私はこの日、少しだけ男というものを見直した
「……ところで貴方は私たちの部下なんですから、そう易々とタメ口を使わない事ですね」
「…なっ!?」
メガネ男が切り出した
「なんですって!?」
「あーあ、騒がしいですね…厄介者が増えました」
「…あ?俺の事言ってんのか!?マディ!」
「貴方以外考えられないでしょう、うるさいが増えたな」
「なんて無神経な男なの!?やっぱり男は嫌いだわ!」
「……フッ」
「…あれ、今ガル笑った?」
「……いや」
「……」
「……ハァ…ハァ」
「……強いわね、貴方…」
「…まぁ、ほとんどホオジロさんのおかげだけど…」
ホオジロさんは水面から顔を覗かせていた
かわいい
「……強い女は、嫌いじゃないわ」
「…メルス…君は男を恨んでたよね」
「……えぇ、男なんて所詮は女の道具…男に価値なんて無いわよ」
「それは違うよ」
私はきっぱり否定した
私は今まで溜め込んだ怒りを全て吐き切る事にした
「…男も女も、どっちも大事な命だよ。そこに性別なんて関係ない。一人一人が大切な命だ」
「……一人一人に、価値があると…?」
「その通り!私は今まで沢山の命を守って来たけど、いらない命があるなんて1度も思わなかったし、それに何より…」
「……」
私はめい一杯の笑顔で言った
「…君も私にとっては、みんなと同じ命だ!」
「…私が…みんなと同じ…」
そうか……
私は生きる為に男を殺して来たり、騙したりして来た
でもそれが当たり前だと思っていた
弱肉強食のこの世界を生き抜くには、力が必要と考えていた
私は普通とはかけ離れた生活をしていた
でも彼女にとっては…
私も“普通の女”として、生きられたのかな…
「……うぐっ…ごめん…なさい…!」
「……っ」
「…ごめんなさい…!……ごめんなさい…!」
「……メルス…」
私は謝った
今まで殺めてきた全ての命に
男も女も関係ない
全ての命に価値がある
私もそんな価値ある命になりたい
彼女と出会って、初めてそう思えた
「……レイン・パターソン…」
「……なんだ?」
「…私からの…依頼があるわ…」
「……」
「……この街のみんなの命を、守ってあげて…」
「…あぁ、任せろ」
「……貴方…カッコイイわね…」
強さと弱さ、美しさと可愛らしさだけが女の武器だと思っていた
だけど……
これ程までに魅力的な女性を、私は見た事がなかった…
「……」
メルスは皮膚の鱗から灰のように散って行った
「……任務完了…そして…」
私はホオジロさんを拾って前髪を整えた
「……任務開始…!」
私の新たな任務が、幕を開けた
7月18日 23:58
レイン・パターソン(覚醒状態)
メルス・ラフガーベラ(フェーズ2)を撃破
To Be Continued...
次回
File.23「時、満ちる