EDEN ─ その5人は《楽園》を動かす。─   作:キャメル16世

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EDEN(エデン)
そこは、欲望に満ちた街
この街は、とても醜い…



File.6「嘘、蔓延る(エデン)

「……」

ある研究施設の地下研究室

研究員であるレオス・ヴィンセントが

薬の調合に励んでいた

 

「……うわっ!」

ドンッ!

という音と共に、黒煙が立ち上る

加熱を加えた結果薬が爆発を起こした

 

「…はぁ〜、何でこんなに上手く行かないんでしょ〜」

最近になりスランプになったのか

薬の調合が上手くいかなくなっていた

 

「……はぁ〜…一服しましょうかね」

彼は独り言が多い

でも、その言葉は彼一人だけに向けられたものでは無い

 

「…まめねこは外に行ってなさい」

「……っ」

エデンの街では個人での飼育が禁止されている

通称「まめねこ」

私の唯一無二の存在であり

家族のような物だ

 

とても賢い彼はそそくさと部屋を後にした

 

内ポケットから毒煙の箱を取り出す

タバコでは無い、毒煙だ

 

「……ふぅ〜…」

喫煙室に入り一服する

 

すると、見知った男が喫煙室に入って来た

 

「…また吸ってるのか?レオス」

「…アルド…いいでしょう?私の勝手ですよ?」

「ま〜たそんな事言って…早死しても知らないぞ?」

「余計なお世話ですよ、大体私は…」

「…あ、すまんレオス…また今度な…」

自身の電話が鳴ったアルドは喫煙室を後にした

 

「…………ふぅ〜…」

アルドは私の友人であり、ライバルだ

でも彼はこの研究施設ではエリートとして活躍している

なんでも、医療的革命を起こしたらしい

今まで不治の病として扱われた病気のワクチンの開発に成功したようだ

彼は一躍有名になり、私とは比べ物にならないほど成長していた

 

一方私は、出来損ないとよく言われる

私の研究は信憑性がなく、実現不可能と何度も言われ

疎まれた

 

彼と私には、決定的格差がある

 

灰皿に毒煙を押し付け、消火する

火種は火事の元だ

 

「…明日は研究発表会、ですか…」

「……っ」

戻ってきたまめねこが慰めてくれた

 

「…明日こそは…明日こそは、私の研究を認めさせてやりますよ!」

私はその後も薬の研究に没頭した

 

そして、発表会当日

発表方式は、街の各所の研究者が集まり

プレゼン方式でやる物だ

 

「…レオス!お前も来てたのか!」

「アルド…君もですか…」

「おう!お互い頑張ろうな!」

「…えぇ、尽力しますよ」

会場につき、友人と言葉を交わす

 

まめねこは胸ポケットに隠れ、私は眼鏡をくいっと上げた

 

「……」

沢山のオーディエンスに見守られながら、私は手を大きく広げた

 

「……諸君!本日はお集まりいただき誠に感謝する!」

お辞儀をして、右手を胸に当てる

 

「…私こそが、レオス・ヴィンセントだ!」

 

 

「…ローレン・イロアス…あんたの作ってる薬について話がしたい…」

「……」

右手には手錠

私に乗っている女は変わらず絞め技を決め込んでいる

 

奥にも2人いる

合計は4人か…

 

「…聞いてるのか?」

「…いきなり押しかけておいて、そんな態度はないんじゃないですか?」

私は赤髪の男を煽る

 

「…あぁ?」

赤髪の男は私の胸ぐらをつかみ、立ち上がらせた

絞め技は解除された

 

「…あんたの作った薬のせいで…この街が今どんな状況になってるのか知らないのか!?」

「……知りませんよ…私には関係ありません」

「…てめぇ…いい加減に…」

「君こそ、いい加減手を離した方が良いですよ?」

「…はぁ?」

私は研究室の奥に潜んでいる「彼」に視線を送った

 

「…今です…まめねこ」

「…?…っ!?」

すると、奥から両腕が人間のように発達した全長2メートル弱ある

「まめねこ」の品種改良によって生まれた怪物を解放させた

 

「……」

まめねこは4人をロープで拘束し、柱に縛り付けた

 

「…諸君!本日はお集まりいただき誠に感謝する!私こそが、レオス・ヴィンセントだ!」

「…自己紹介はもういい…」

「…そうでしたね、警察の方」

「…ローレン・イロアスだ」

必死に足掻いている4人

黒髪の青年

高身長の男

赤髪の女

そして…

 

「…そうですか、ローレン君」

「……」

赤髪の青年

物凄い眼光で睨んでくる

 

「…それで?何が目的なんですか?君達は」

「…さっきも言ったが、あんたの作った薬について聞きたい」

「…あぁ…私の完璧な研究についてですか…」

「…完璧な研究だと?」

ローレンは拳に力を入れる

 

「…ローレン…」

黒髪の青年はそんなローレンを見て心配した

 

「…あんたが作った薬のせいで…この街がどれ程泣いてるのか知らないのか!?」

「知りませんよ…私には関係ありません」

「あんたが作った薬だろ!もっと責任持てよ!」

ローレンは叫んだ

研究室に響く

 

「…では…」

私は顔を彼の顔面に近付けた

 

「…銃を作ってる人間は犯罪者か?」

「…っ…それは…」

「…そうですよね?銃を使う奴が悪い…元々銃は人を傷つける為のものではありません…」

私は彼から離れ、『ピース』の研究資料を持った

 

「これも同じですよ…この薬を使った本人が悪い…私をどう罪に問うつもりですか?」

「…くっ…」

ローレンは絶句した

 

「……」

「……」

「……その薬のせいで…何人もの人が死んだ…」

「…そうですね」

「…何人もの人が傷付いた」

「……」

「…あんたは、そんな人を傷つけるかもしれない研究をして、楽しいのか?」

「…っ!」

「…確かに…ピースによって出来たクリーチャーはあんたのせいじゃない…でも、自分の作った薬で…誰かが傷付くのを、あんたは本当に望んでるのか!?」

「……っ!」

私は机を叩きつける

先程まで飲んでいたコップの水が少しだけこぼれる

 

「そんなわけないでしょう!誰が望んで、そんな事したいって思うんですか!?」

「…っ!」

ローレンは驚いていた

私は彼の顔を見る

 

「…私は元々、この街をより良くしようと日々研究に勤しみました…」

私は椅子にへたれこむ

 

「…でも、世間には醜い人々ばっかでした…そんな人達がいるのに、なんでこの街をより良くしようと思ったのか…私は甚だ疑問に思いましたよ…」

「……」

「右も左も、見渡す限り、この街には悪人ばっかです…」

「……どうしてそう思う?」

「……アレは…何年前の話でしょうかねぇ…」

「……」

私は、過去の記憶を振り返った

そう、私の人生の中で

一番消え去って欲しい記憶

 

「…アレは…私の人生を大きく変えました…」

 

 

研究発表の出来は良かった

我ながら素晴らしいプレゼンだ

この研究が実現出来れば、私も医療的革命を起こせる

彼と共に肩を並べることが出来る

 

そう思っていた

 

「…これ、本当に君の研究?」

「……は?」

プレゼン終了後、聴いていた研究員の1人が質問してきた

 

「…間違いなく、これは私の研究ですが…」

「本当かなぁ?君の今までの経歴から察するに、とても君のような人間にはこのような研究は出来ないと思うけど…」

堅物じじいが…

 

「…そう言われましても…」

「…これさ、買ったんじゃない?」

「……は?」

最初に聞いた時は信じられなかった

このじじいは今なんて言った?

 

「…余りにも自分の研究が出来損ないからといって、そんな事しちゃいけないよォ」

まるで決定したかのように言う

 

「…誰から買ったの?ん?」

私の拳に力が入る

頭に血が上る

あぁ…人は怒ると衝動的になってしまうのは

仕方の無いことなのか…

 

私はその研究員を睨んだ

 

でも、そんな私の怒りも束の間

ある人物が、部屋に入ってくるなり言った

 

「すみません!」

その人物はアルドだった

 

「…あぁ…アルド君か、びっくりしたよ」

「…誠に申し訳ございません…少し良いでしょうか?」

「…アルド…?」

アルドは私の目を見た

そして、目の笑っていない笑顔を見せた

 

「…実は彼の研究…私が授けたものなんです!」

「……は?」

今度は何が起こっている?

彼は今なんと言った?

 

「ただ、決してお金は動いておりません。私が研究に行き悩んでいる彼に、余っていた研究資料がありましたので、彼に授けたのです」

「やはりか!?まぁ…そんな事だろうとは思ってはいたが…」

「……」

私は信じられなかった

彼の言葉を

彼は私を救い出そうとしているのか?

それとも…

 

そして私は見た

彼が見えないように不敵な笑みを浮かべていることを

 

「……アルド…まさか…」

「…まぁ今回の事は穏便に済ませてやる。しかし、きっちりと罰は受けてもらうからな?」

「はい、なんなりとお申し付けください」

 

研究発表会が終わり、私と彼が2人っきりになった時

私は彼の胸ぐらを掴み壁に押し当てた

 

「おいおい落ち着けってレオス〜」

「…お前…自分が何をしたか分かってるのか?」

「…何って…お前の研究は俺の物になった、それだけだ」

「それだけって何だよ!あれは、私の血と汗と涙の結晶なんだぞ!」

「そんな汚いもん出すなよ〜…いいか?あの研究はな、お前みたいな出来損ないが発表していい物じゃ無いんだよ!」

アルドは私を押し倒した

 

「…くっ…私は、貴方に憧れて…貴方の隣に立ちたくて!」

「そんなのどうでもいいだろ!…大事なのは、誰に相応しいかだ、お前の素性なんてどうでもいい!」

「……くっ…」

「…お前みたいな万年底辺にいるような奴はな、俺に利用されとけばいいんだよ…お前が誰かにチクったところで、俺には信頼がある。誰も俺の事なんて疑わない!」

「…まさか…こんな事を、何度も…?」

「…あいつらは金さえ渡せばホイホイと俺に譲ったぞ?お前は俺の親友じゃないか…分かってるな?」

「……」

私は絶句した

 

「…欲しけりゃくれてやる。研究の報酬でたんまりあるからな…それに、俺には財産っていうものもある」

アルドの父親は天才と言われるほど凄腕の研究者で

財産はそれなりにあったらしい

しかし、その息子として生まれたアルドは地頭が悪く

とても研究者としての器ではなかった

 

世間からのプレッシャーもあってか、彼は他者の研究を買収し始めた

それにより周りの人間はあたかもアルド本人の研究だと思い込み、彼を讃えた

 

彼が起こした数々の偉業も、全て偽りの物だったのだ

 

結局、私は彼から口止め料を受け取らされ

私の研究は彼のものとなった

 

「……」

このお金…

タバコを買うお金に回そうか…

 

そんなふうに思っていた

でも、彼に対する憎悪が

私に金を川に捨てるという選択を生み出した

 

「……」

橋から大量の紙幣が舞う

水面に触れ、水が滲む紙幣

 

後悔なんてなかった

 

ただ、そこにあるのは虚な感情ばかりだった

 

そんな時だった

 

「…貴方が、レオス・ヴィンセントさん、ですね?」

毒煙に日をつけようとした時に、白スーツの男が話しかけてきた

 

「…はい?」

「…貴方の今日の発表、聞いていましたよ?」

「…そうですか」

私はなるべく1人になりたくて、素っ気なくした

 

「…あの研究、正真正銘貴方の物ですよね?」

「…え?」

「…私共の所に来れば、貴方の才能を限りなく発揮出来ると思いますよ?」

その男は名刺を渡して去って行った

 

それが、数年前の出来事だった

 

 

「…私はルシファーに入り、誰にも邪魔されずに研究に没頭しました。もっと完璧なものを作る為に…そして、見返してやるんですよ!私の研究が、どれ程世間に影響を与えるものなのかを!」

「……」

「…でも、こんな事になるとは…私はただ、研究者として情熱を持っていようと思っただけなのに…」

私は額を机に擦り付ける

 

「…私はいつから、マッドサイエンティストになったんでしょうか…」

「……」

ローレンは私を見つめ続けた

 

笑うがいい

こんな私を

惨めで、愚かで、馬鹿な私を

 

「…悪人がいないなら、そもそも警察なんて必要ない。悪人が蔓延るこの街には、俺もうんざりすることばっかだ」

ローレンは口だけを動かす

でも、目が輝いている

 

「…でもな」

ローレンは他に縛られている3人を見た

 

「…真っ直ぐ生きてる人達が輝いて見える…それがこの街のいい所だ」

「…っ」

「…俺はな、あんたみたいな奴を許す事は出来ねぇ…」

「……」

「…でもな、受け入れる事は出来る」

「…っ!」

ローレンの目はまっすぐとこちらを見つめてきた

嘘はついていない

 

「…だからあんたも、自分の罪を受け入れて生まれ変われ。それが、今のあんたに出来る唯一の罪滅ぼしだ」

「…罪滅ぼし、ですか…」

私は眼鏡をくいっと上げた

いつもの癖だ

 

「…まめねこ、彼らを解放してあげなさい」

彼らの後ろにいた大型のまめねこは4人のロープを解き、解放した

 

「……」

ローレンは手首を軽くまわし、私を見た

 

「…なんでいきなり?」

「…君のような人に出会うのは初めてですよ…本当に呆れた…」

「……」

私は改めてローレンの目を見た

 

「…でも、嫌いじゃないです…」

「……レオス…」

「…私も、この街が悲しむところは見たくない……私が知っている事なら、なんでもお話しますよ?」

私はローレンの前に手を差し出した

 

「……ふっ」

ローレン君は私の手をガシッと掴んだ

 

「…よろしくな!ヴィンさん!」

彼の瞳に映るのは、無限の輝きだった

私も彼のように、輝けるのだろうか?

 

それもこれも、私が罪を受け入れた後の話だ

 

To Be Continued...




次回

  File.7「謎、深まる(エデン)
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