1mmくらいジオウリスペクトがあります。が、気にしないでください。
『ウマ娘』。
彼女たちは、走るために生まれてきた。
ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る。
それが、彼女たちの運命。
────
「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」。全国のウマ娘トレーニング施設の中でも最新鋭かつ最大規模の施設であり、教育機関でもある。「トレセン学園」や「中央」とだけ呼ばれることもある、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘たちにとっては畏怖と憧れが混ざり合う華々しくも恐ろしい場所。
その中でも魔境と呼ばれるのが、シニア級────メイクデビューを果たす年代であるジュニア級から、日本ダービーをはじめとした一生一度のレースへと挑むクラシック級を経て、トゥインクル・シリーズに出場している実績あるウマ娘ならば誰でも参加できるシニア級へと進んでいく。
無差別級、老いも若いも経験も才能もすべてがぶつかり合う世界。そしてシニア級には、何年まで在籍可能という規定が存在しない。文字通り走れなくなるまで、自ら引退を選ぶまで在籍しつづけるものも少なくない。
現在ではシンボリルドルフが未だ引退を宣言していない最古のG1勝利バであり、ジャパンカップで七冠を達成し有馬記念を連覇したのちはG1戦線から一線を退いているがトレーニングを怠ることなく六年の間現役を続けている。
その姿勢についてシンボリルドルフは、一人のウマ娘による影響だ、と語っている。
現役八年目、G1無勝のウマ娘。しかしそのほとんどの挑戦がG1であるにもかかわらず、入着未満の成績はひとつとしてない。同期にマルゼンスキー、その後のライバルがミスターシービー、皇帝シンボリルドルフ、葦毛の怪物オグリキャップを中心にしたタマモクロス、スーパークリーク、イナリワンの四強世代、スペシャルウィークとサイレンススズカを始めとした群雄割拠の黄金世代、名優メジロマックィーンなどメジロ家全盛期の名バたちとトウカイテイオー、無敗の二冠ミホノブルボンとその宿敵ライスシャワー、そして世紀末覇王テイエムオペラオーの覇道。そのすべてをターフの上で、彼女らの隣で見届けているウマ娘。
「シルバーコレクター」とも、「センターに一番近いウマ娘」とも揶揄されても、戦うことを辞めずに走り続け、どの世代、どのウマ娘とも名勝負を演じるその姿から、「
そのウマ娘の名は──────
産まれた時にはウマ娘でした。
それはまあこの世界ではごく普通のことなのだが、私はこの世界をアプリゲームやらアニメやらで楽しんだ人間としての記憶があるのがおかしなところ。ただ私が人間だったころの意識は正直薄く、なんとなく「可愛いウマ娘ちゃん達といちゃいちゃしてえ」と常々思うくらい。
それよりずっとずっと強く感じているのが「走って、勝ちたい」という気持ち。俗にいうウマ娘の本能ってやつなんだろうけど、完全インドアだった前世と違って速く走れるのが気持ちよかったから本能に抗うなんてことはせずに楽しく人生を過ごしていた。が、それも少しの間だけ。
戦えない。周囲にウマ娘がとんといないのだ。
私が産まれたのは東北の僻地。そもそも一学年の人数が2、30人であり小学校全体でギリギリ100人に届く程度の人数しかおらず、ついでに地方競バとかも無い地区だったからか私以外にウマ娘がいなかった。走るだけでも気持ちはいいが、私の中の本能が勝ちたいと叫んでいるのだ。
となると、彼女らに会いたい気持ちと併せてもうこれはトレセン学園に行くしかないとウマ娘の母からの反対を押し切ってトレセン学園中等部への受験を強行した。固い意志を見せると仕方なくといった体ではあるが母はトレーニングに付き合ってくれ、前世持ちのアドバンテージを全力で活かして学力に関しては問題なしという段階までこれた。
で、府中に来てテレビやSNSじゃない生で見るウマ娘ちゃん達に興奮しながらいざ入試というときに異常が起こった。見た瞬間にあの子だと分かった。そして私の視界なのか脳内なのかわからないが、とにかく目の前の彼女に対してこう感じるのだ。
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★★★★★
[フォーミラオブルージュ]マルゼンスキー
スピード F[118/1200]
スタミナ F [84/1200]
パワー F [105/1200]
根性 F [122/1200]
賢さ F [121/1200]
バ場適性 芝 A ダート D
距離適性 短距離 B マイル A 中距離 B 長距離 C
脚質適性 逃 げ A 先 行 E 差 し G 追 込 G
*紅焔ギア/LP1211-M LV3
最終コーナー以降で前の方にいるとギアを変えて加速力が上がる
*直線巧者
直線で速度がわずかに上がる
*先駆け
レース序盤でわずかに前に行きやすくなる<作戦・逃げ>
*ギアチェンジ
レース中盤に前の方にいると抜かしやすくなる<マイル>
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めっっっっちゃ見たことあるステータス表示だし星5だし初期から三つもスキル持っとるやんけ強過ぎィ!!
夢から醒めたような気分だった。この前世の記憶のようなものが本当の記憶なのか、妄想なんじゃないか、半端な精神でウマ娘としてふるまっていいのか、とか転生者らしい悩みとかが一気に吹き飛ぶし実際周りの視線を奪うレベルに盛大に噴き出してむせて心配された。情報過多だよこれ、と思いつつ優しい周囲の子に目を向けるとどこもかしこもステータスだらけ。ダイジョウブデス、ダイジョウブデスと繰り返していると私の受験番号が呼ばれた。実技試験としての模擬レースの入場順番が来たのだ。テンパりながらもゲートに入ろうとすると、
「さっきむせてたけど、大丈夫? 体調が悪いなら無理しないほうがいいわよ?」
隣に、マルゼンスキーがいた。私と同じようにゲートに入って。
ドクン、と心臓が跳ねた。流れてくる情報量の多さにパニックになっていた脳内が澄み渡って、一つの思考に囚われる。
────走って、勝ちたい
マルゼンスキー。8戦無敗、61馬身という圧倒的な戦績を残し、今でも歴代最強マイラーの一頭と謳われる名馬。
────見たい。彼女の走りを。見て、闘って、走って、勝ちたい!!
「大丈夫。走れるから」
マルゼンスキーの目を見て言う。思考は落ち着いていても、心臓が高鳴っている。今からのレースが楽しみで、ドキドキが止まらない。
知らず知らずのうちに口角が上がっていて、マルゼンスキーも私の言葉を聞いてそう、と微笑み、ゲートへと向かう。
芝1,200m。良バ場。人生初めてのゲートインにも落ち着いていられた。実況はいない。が、前世の記憶が、幻聴を鳴らしているような気がする。
『さあ、各バゲートに収まりまして』
そうだ、ここからだ。ようやく、私の本能のままに動ける。走れる。走って、走って、走る!
『スタートしました! 「え」
パン! という音とともに試験を受けるウマ娘たちが一斉に動き出した。私も幻聴のタイミングはバッチリで、間違いなく好スタートを決めた。しかし……飛び出していったのは、マルゼンスキーだった。
私が1m進むと、2m離れていく。私が2m進むと、5m離れていく。私はバ群の先頭にいるのに彼女と私の距離は離れるばかり。「「「むぅーりー!」」」と後ろの子が叫んでいる。残り200mの時点で8バ身離れていた。
あ、なんか叫びたくなる気持ちわかる。これは無理。むりむりむぅーりー。
ゴール。しました。
「はい、お疲れ様でしたー! 休憩しながら水分を取ってもらって、その間に体に違和感とかがあったらすぐに教えてくださいね! ウチの凄腕の保健室がなんでも治しますよー!」
結果、一着五番マルゼンスキー。二着大差で一番の娘、三着一バ身差で六番、私。
まあ、この時完全に分かってた。
レースで出走するのは、固有の名前を持つウマ娘だけじゃない。俗にモブウマ娘と呼ばれる彼女ら。その中でも「キンイロリョテイ」や「インペリアルタリス」など、別世界の名前と姿をちゃんと受け継いでる子はいいとして。
「私はどこの誰を受け継いで走ってるんですかねー」
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☆☆☆☆☆
[]サラブレッド
スピード D+[381/399]
スタミナ C+ [599/599]
パワー D [325/599]
根性 D [300/300]
賢さ SS+ [1200/1200]
バ場適性 芝 A ダート D
距離適性 短距離 G マイル B 中距離 A 長距離 B
脚質適性 逃 げ B 先 行 B 差 し A 追 込 C
*ウマ娘巧者
不思議な洞察力によってウマ娘のことがすごく分かる
*鋼の意志
*逃げ焦り
*先行ためらい
*逃げけん制
*差しためらい
・
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前世の競走馬では一度も聞いたことがない今世での自分の名前に、前世で見慣れたステータス表示の形式と、ゲームでは見たことがないほど低い限界値。もう飽き飽きするほど見てきたけど、未来がなさ過ぎて笑っちゃうんですよね。
シニア級とうとう七年目の1月。ウマ娘特有のピークの時期はとっくの昔に過ぎきっているが、低スペックすぎて分からんでしょ! という言い訳と気合とわがままでトレセン学園に居続けてるみっともないウマ娘たる私はモブウマ娘が強くなれない理由の
ちなみに去年の有馬記念ではBMW抜きになってオペラオーちゃんとブルボンちゃんがアニメ二期最後の有馬に殴り込みをかけるガチ魔境と化してた。まあ魔境ってことについては正直毎年似たようなもんだったけど、時空歪みすぎててちょっと混乱する。ちなみに私は二着でした。『また勝てなかった』だけど負けすぎて涙も出ませんわ!
なんならテイオーちゃんはただでさえ化物なのにトレーナーさんにアドバイスした結果ダービー後最低限の怪我で済んで無敗の三冠達成してるわスタミナパワー根性1200でカンストしてるわで1/2バ身差二着が善戦すぎて逆に達成感で泣きそうになるレベルよほんと。
「ここにいたんですね、先輩」
トレセン学園内のグラウンド近くで座り込んで黄昏ていた私に声をかけてきたのは、皇帝シンボリルドルフ。もう高等部三年になって私と同じくピークは過ぎてるだろうに毎年ジャパンカップに出ては去年まで1着か2着に入り続けている化物であるが、謎に慕われてて面映ゆさと暴れるデジたんが半々な感じ。
ルドルフは「先輩❤」なんて声かけてくるキャラちゃうやろ!! というオタクごころはデジたん泣いちゃうううううう!!! と狂喜する気持ちが押しつぶしてる。
「ルナちゃんうぃーす。ジャパンカップ以来だねえ」
「こんにちは。私は去年の有馬記念を見させていただきましたから、あまり久しぶりという感覚はないですね。まさしく多士済々、素晴らしいレースでした」
「そう! そうなのよみんな強すぎてヤバいんだよ! いやあ────テイオーステップまさしくここにありって感じだったねえ加速の次元が違う! 正直パーマーちゃんとブルボンちゃんが10バ身離すペースで逃げ打った時はこれ逃げ切られるかと思うし焦るかなあと思ってたけどほとんど掛かることをせず走ってしっかりみんなスパートのタイミング間違えなかったのが凄いんだよね! いやスパートが早まってテンポ崩したとか批評してる人はなんもわかってないよテイオーちゃんのスタミナと根性はみんな知ってたからあのタイミングがベストだった現に集団前につけてたテイオーちゃんを一度沈ませたことに間違いないからねあそこから抜けて勝ったテイオーちゃんが絶好調過ぎたってことなんだよ!!」
「ふふ、ええそうですね。私もテイオーのあの末脚には驚かされました」
「うんうんまさしく''全身全霊''だったねー! ''一陣の風''になるし''究極テイオーステップ''と同時にキマるんだもの噓でしょこのウマ娘!! って感じよほんと!」
ああ、この人はまさしく私の理想だ。
自分を打ち負かした相手のことをなんの陰りもなく讃えている。雲心月性、敗北しても……いや、敗北をも楽しんでいるのだ。彼女はターフの上でウマ娘が輝いていることが何より好きで、それを誰にでも知ってもらいたいと思っている。
入学当初から学園の理事に頼み込み続けマルゼンスキーのダービー参加を押し通した一件にはじまり、才能あるウマ娘を担当しているトレーナーへとアドバイスをして躍進させたことは数知れず。優秀なものしか集まっていない中央のトレーナー達と比較しても群を抜いてウマ娘を理解している観察力と、己のライバルになるというのに躊躇なく進言できるその心意気、「名トレーナーの母」とはよく言ったものだと思う。私のことを讃えるならその十倍先輩のことを讃えてほしい。……さすがに冗談ではあるが。だからこそ、これから告げることを思うと少々気が重い。
「先輩。今日は、先輩に伝えたいことがあって来たんです」
「え。……え、なになにどうしたの改まって。も、もしかしてお前そろそろ卒業しろよ的な奴ですか? それはほんとなんの言い訳もできないんだけどもうちょっとだけ待ってほしいっていうか」
「いえ。卒業するのは、私です」
「んえ?」
「私、シンボリルドルフは今年度をもってトゥインクル・シリーズを引退することにしました」
「…………」
ぽかん、と口を開けて呆ける先輩。無理もない、彼女と同期のウマ娘はもはや誰もおらず、二つ下の私の代ですらトウィンクル・シリーズに出ているのは私だけ。「
私も彼女に憧れて、ドリームリーグへの勧誘を振り切り走り続けてきた。二年前から私の身体は目に見えてキレが落ち、巷で言われているピークが終わったんだと実感しながらも、それでも先輩は、先輩のようにと走り続けた。けれど、
「昨年のジャパンカップ、私は残り200m地点で一度先頭に立ちました。沈んできたメジロパーマーと、スパートを駆け始めたマチカネタンホイザと先輩を抜き、先輩に教えていただいた私の本領。神威へと至る英華発外、その境地に辿りつきました。あの走りこそ私の”絶対”、先頭に立ったあの瞬間、私は勝てると……勝てたと、そう思っていました」
けれど、そうはならなかった。あの瞬間、私の文句なしの最高速度へと至り、後は走り抜けるだけだったその時。
『負けて、たまるかああああああああああああ!!!』
思わず振り返りそうになる気迫とともに私の横に並んだのはナイスネイチャだった。テイオーと同世代かつ彼女の後を追い続けたライバルの娘。もちろん才能があるウマ娘であり、先輩が彼女に指導している姿を見かけたことはある、けれど──私に並ぶのか。まだG1未勝利のはずの娘が、テイオーに勝てていない娘が、皇帝たる私の最高速に追いついてくるのか!
「私はナイスネイチャに負けました。私の全力が、あの娘の全力に届かなかった……」
「そうだったね。ラスト200m、ルナちゃんが固有使ったスピードよりもネイちゃんのスピードの方が上だった。でも────」
「最高速を上回られたわけではなかった。あれは私の、スタミナ不足でした」
言い切って、一息つく。私が並ばれただけだったら。差し返せばいい、今まで通り。けれどあの時、私の足はペースを上げることが出来なかった。ナイスネイチャも、スタミナが足りているようには見えずとも、それでも彼女はあの200mを根性で走りきった。
スタミナには自信もあった。レース展開にも自信はあった。けれど、ウマ娘としてのピークが過ぎたという現実は想像以上に強固な壁であり、それの理解が私には足りていなかった。
「ナイスネイチャは素晴らしいウマ娘です。悔しい気持ちはありますが、青天白日、あの敗北に翳りはありません。
ですが、私の……限界が、あの時見えてしまったのです。あの走りが、今の私のベストランでありあれ以上は今後望むことは出来ないでしょう」
そして、勝利を望むことも。
言葉にせずとも、先輩には伝わっているだろうか。ナイスネイチャはその後先輩とともに有馬記念に出走し、テイオー、先輩に続いての三着。距離も出走バも何もかも違うが、しかしナイスネイチャはテイオーには勝てなかった。今私がテイオーと競っても、勝てる確率は低いと言わざるを得ないだろう。
「有終完美。あのジャパンカップは、私のラストランにふさわしい戦いだったと、胸を張ってそう思えます。なので……お先に、失礼させていただきます」
「……」
先輩は、答えない。何を思っているのだろう。未だG1未勝利で、なおもトゥインクル・シリーズを走り続ける彼女は、何を思って走り続け、そして私の勝手な引退に何を思うのだろう。ただ一つ分かることは、これまでのように彼女と「よ」
「よ?」
「よ、よ……ようやくかーい! いつまで走ってんのかと思ったよほんとに!」
「え、え?」
予想外の反応に困惑する。全ウマ娘の理想になると言いながら途中で挫折したことに失望、されるのではないかと思っていたのに。
「あのねルナちゃん頑張りすぎだから! 二年前にルナちゃんにもピーク来たみたいだね~って話してから延々走り続けてるの見て正直ちょっと引いてたからね!? 『先輩が引退するまで走ります』って言うから早くG1勝利して楽させてあげようと思ってたのに普通に私抜いて冠獲ってくからルナちゃんいたら私引退出来ないんじゃないかと絶望してたんだよ!」
いなくなってくれて助かる~と言ってグラウンドに大の字で横になる先輩。余りにもあけすけでいつもと変わらない先輩に呆然としていたが、しばらくすると私の口角は上がっていた。
「廓然大公。……やはり、あなたは私の理想です」
そうだ。彼女はウマ娘をこよなく愛し、敗北を楽しみ、けれどその実いつでも勝利を願って努力する。最初から恵まれた能力がないことを自覚し、それでも知恵を振り絞って食い下がる泥臭いひと。それが初対面から変わることなく持っている彼女の特徴であり、彼女にとって自分が冠への道の大きな障害であったことが誇らしい。
「いやいやいや、皇帝の理想になるには大分荷が重いですやめてください。一回も勝ててないですし」
「ふふ、先輩の頼みと言えどそれは出来ませんね。……私はこのままドリームリーグに進み、サマードリームトロフィーに向けて調整を進めます」
「おお、ついにドリームリーグかあ。いやーシンザンさんとかダイナナホウシユウさんとかと皇帝シンボリルドルフが闘うんでしょ? すごいな~超見たいよ私」
楽しみだと目をキラキラさせている先輩。ドリームリーグはプロとしての意味合いもあるが、顕彰バ達の宣伝としての意味合いが強い。ウマ娘としてのピークを迎えるまではトゥインクルシリーズで活躍し、その後ドリームリーグへと進むウマ娘が多いため能力的にはどうしても現役時代よりは劣ってしまう。経験豊富だからこそのレース展開を好むファンも多いがウイニングライブが本番だ。
けれど先輩は、私とドリームリーグの面々とのレースを期待しているらしい。面映ゆさが勝るが、私の報告とは別にどうしても聞いておきたいことがあった。
「皇帝の名に恥じない走りはお約束します。……先輩は」
息が詰まる。自分でも珍しいと思うが、言葉が先に出てこない。
彼女の頑張りは知っている。彼女の意志は知っている。けれど、いや、だからこそ。生徒会長として、聞かなければならないことがあった。
「いつ、こちらに?」
「勝ったら」
迂遠でぼかした表現は、しかし先輩にすぐ伝わったらしい。いつも緩んでいる大きな丸い黒い目が見開いて刺すような視線を向けている。レースの時と同じ、恐ろしいほどに真剣な目だ。
だからと言って怯んではいられない。口元を引き締めて彼女に向き直る。
「トレセン学園高等部六年生、サラブレッド。生徒会長シンボリルドルフがあなたに告ぐ。トレセン学園はトゥインクル・シリーズに参加するありとあらゆるウマ娘の味方となるべくして設立している施設であり、成績を残せない者でなければ自主的な引退以外は無期限の参加が可能である。よってこの告知は入着を続けているあなたにとってはあくまで勧告であり強制力は持たないことに留意して欲しい。
これ以降のトゥインクル・シリーズの参加は危険だ。トゥインクルシリーズ登録バからの速やかな抹消を勧める」
「嫌だ」
私の言葉に何か返そうとして口籠るシンボリルドルフ。いやあダメだなつい言葉が強くなってしまった。真剣になった時の私の顔瞳孔かっ開いてて怖いって評判なんだから落ち着かないと。
「へへへ、ごめんごめん言葉強くなっちゃって。最初に言ったんだけどさ、卒業したほうがいいよってのは言い訳とかする気もないし出来ないから。ただ、もう少しだけ待ってくれない?」
「……先輩は、レースの頻度が高すぎる。秋天、ジャパンカップ、有馬記念、大阪杯、春天、宝塚記念、全てに出ているんですよ? 今まで怪我をしなかったのが異常なんです、もうこれ以上は……」
今のダジャレ? と言いたいけどルナちゃんの顔は暗く、意図していないのが分かるのでからかいづらい。
ううん、どうしようかなあ。スキルのため、なんて言っても伝わるわけないし、まあ怪我をしないのが異常ってのもその通りなので言い訳できないし。
「うん、ルナちゃんの言いたいことは分かるよ。でももう一年だけ、頑張らせてもらいたいんだ」
言い訳とか出来るわけないし開き直るしかないな! それにこれは本心で、今年、いや今年度の末に私の目標のレースがある。それがダメなら諦めようって気持ちは多少あるからまるっきり嘘にはならんでしょ多分。
「あと一年、ですか。……いえ、その中途で何らかのG1に勝ったらその時点で引退してください。それでよければ、一年だけ待つのは吝かではありません」
「いいよー」
いや確かにこの世界は記憶通りのレースになるとは限らないよ? でも、もし番狂わせが起きたとしても、歴史にない結果を残せるとしても、それが可能なのは
ライスシャワーが勝利する姿を誰も望んでない? そんなわけないよ、誰かが幸せな結末を願ってた。
シンボリルドルフは強すぎて退屈? そんなわけないよ、彼が勝つ姿を誰もが望んでた。
でも私の勝利なんてだーれも望んでないのよね。もしかしたら大阪杯もオペラオーちゃんが勝って真に中長距離G1制覇するかもしれないけど私がそこに食い込めるわけないんだよなあ。それくらい今までで分かってますんでそこらへんのG1、もちろん参加はするけど勝てる気しないんだよねえ。勝ちたいのに
「……そうですか。先輩の意志を、無理に崩す気はありません。ですが、私の夢は、あなたも笑顔でいられる世界です。無理はしないでくださいね」
「うん、ありがとね。……さーて、いつまでも黄昏れてても仕方ないし私は帰るかな」
ケガ率36パーセントに突っ込む気はさすがにないので、今週は休みかなー。レースにでても怪我しないしオーバーワークをしないのはいいんだけど休みを一週間単位で取らなきゃいけないのは理解されづらい。まあ休んで、体力が戻ったらステータスを
「はい、また。明日は雨が降るようなので、練習するときは風邪を引かないように気をつけて下さい。私達は体調を崩しにくいとはいえ警戒は「明日雨!!??」は、はい」
「ヤバイじゃあねルナちゃん! また声かけるから!」
そう言い残して私は走り出す。早くやよいちゃんとこに行かないと!
そう、私には歴史は変えられない。ぽっと出のモブウマ娘が獲っていいほど安い冠なんて、変えていい安い歴史なんてない。
だから私が狙うのは、歴史に残らない冠。厳しくて険しい道でも、私にワンチャン残されてるのはその冠だけ。何の才能もない歴史も未来も無い私が、唯一他の名バたちに臆せず挑める冠。そのために、私は頑張ろう。一度でいい、画面の向こうで輝いていたあの娘達に勝ちたいから。
「やよいちゃん! 天気予報雨だけど農園の芝大丈夫!? 保護してる!?」
「過保護ッ! 小雨でもなんでも構わずに来るのはやめたまえサラブレッド! 君の助言どおりすでにURAファイナルズ用の芝は厳重に保護しているッ!」
「いくら保護しても足りないんだよやよいちゃん! URAファイナルズは全ウマ娘の夢なんだよ!?」
「……! 慚愧ッ! 君の言う通りだ、今から芝農園にシェルターを作るぞたづな!」
「もう、落ち着いて下さいお二人共!」
まずは開催してもらえるように、ね?
書きたいところは書けたので満足。何か思いついたら続きます。