立ち上がれ、ミスターシービー   作:ふーてんもどき

6 / 18
五話:とあるウマ娘の日記(一部抜粋)

 

 

 

【2月×日】

トレセン学園から合格通知書が届いた。

今でも信じられない。お父さんとお母さんもすごく喜んでくれた。

 

お母さんがお祝いだって張り切って夕飯を作りすぎちゃったけど残さず全部食べられた。

 

トレセン学園では寮に入るから、入学したらしばらく家のご飯は食べられない。今のうちにたくさん食べておきたい。

 

 

 

【4月〇日】

制服を着ると自然と気持ちが引き締まる。これからは私も中央のトレセン学園の生徒なんだと自覚する。

 

しかし私と同じ新入生だけでもすごい数だ。中学の比じゃない。

皐月賞や日本ダービーで勝てるのがこの中のたった一人だという事実を初めて実感した気がする。

 

大丈夫。気持ちじゃ絶対に負けない。

 

走って勝って、今までレースオタクとか言ってバカにしてきた連中を見返して、私が笑ってやるんだ。

 

 

 

【4月☆日】

同期にとんでもない奴がいる。ミスターシービーっていうらしい。

選抜レースで一緒に走ったけど手も足も出なかった。才能ってやつ? けっこういいとこの出らしい。

一着でたくさんのトレーナーからスカウトを受けていたけど全部断ったみたいだ。なんかムカつく。

 

それで今度は二着だった私の方にスカウトが来たけど、なんか「この子でもいいや」って感じで妥協された気がして、全部断ってしまった。

 

どうしよう。入学早々ヤバいかも。

 

 

 

【4月*日】

チームに入ることになった。トレーナーは黒沼さんっていうグラサンをかけたムキムキの怖そうな男の人。

 

つーか怖かった。入部試験でいきなり3000メートル走らされた。しかも実戦形式。そんな長距離のレース走ったことないからペースなんて分かんないし、皆バテてた。途中でリタイアしちゃった子もいる。私は根性で最後まで走り切った。

 

死ぬかもって思ったけど、見込みがあるって言われたのは嬉しかった。これから頑張ろう。

 

 

 

【9月☆日】

デビュー戦勝てた!

すっごく嬉しい。坂路トレーニングとかその後で自主練するのとか滅茶苦茶きつかったけど、全部報われた気分。

しかも8バ身差の圧勝。観客や司会だけじゃなくて、いつも無表情な黒沼トレーナーまでびっくりしてた。どうだ見たか。いや、実は私もびっくり。

 

これって私にも才能があるってことだよね。努力した分だけ結果がついて来るって、そういうことだと思う。

良かった。お父さんとお母さんにも良い報告が出来る。

 

 

 

【11月@日】

今日のレースは最悪だった。13着。思い出したくもない。

 

当たり前だけど、レースの世界は甘くないんだ。皆勝ちたいんだから、皆努力してる。

 

やっぱり私の才能は平凡みたい。トレーナーにもそう言われた。

だから誰よりも必死になって努力を積み重ねなきゃならないんだ。埋もれないために。

 

そろそろジュニア期が終わってクラシックに入る。ホープフルは回避するつもり。次こそは慎重に、必ず勝って、ずっと目標にしている皐月賞への切符を手に入れるんだ。

 

 

 

【4月+日】

皐月賞で走った。勝ったのはミスターシービー。私は11着だった。

 

シービーは強敵だからって、トレーナーと一緒に過去のレース映像を見て対策を練ったけど、それでもあの暴力的な末脚には勝てなかった。ビビッて伸びきれなかった自分が憎くて堪らない。

 

出遅れるくせになんで追いつけるんだろう。不良バ場をものともしないし。しかも走り終わった後はいつも清々しそうに笑ってるし。

 

やっぱり才能か。ムカつく。

 

 

 

【5月〇日】

今日はトレーナーに怒られた。勝手に自主練習してたことがバレたのと、あとは変な走り方してたから。

 

どっちも私が悪い。うちのチームの練習は凄く厳しいから下手に自主練してもオーバーワークになるだけ。分かってはいても日本ダービーが控えてるんだって思ったら居ても立ってもいられなかった。

 

でも走り方については、言い訳のしようもない。て言うか忘れたい。トレーナーも忘れてくれないかな。

端的に書くとシービーの真似をしてた。

追い込みでごぼう抜きするあれを真似たくて色々やってみたけど、てんで駄目。最低のタイムしか出なかった。

 

トレーナーにも言われたけど、そもそも向いてないんだ。私はやっぱり先行で堅実に戦わなきゃいけない。

大丈夫。NHK杯では勝てたじゃないか。自分を見失うな。

 

 

 

【5月@'日】

また負けた。また負けた! ふざけんな!

これでシービーは二冠ウマ娘だ。くそっ、かっこいい。ちくしょう。

 

世間はもうシービーの話題で持ちきりだ。誰も彼も、あいつが三冠を獲ることを期待している。そりゃそうだ。あんなに強い奴そうそう出てこない。ダービーポジションをガン無視して勝てるなんて夢にも思わなかった。

 

これから夏になる。七月には長期合宿が待っている。それを過ぎたらもうクラシック期も折り返しだ。

憧れの一年が終わってしまう。このまま燻っていたくない。

 

世間が期待してるからって勝ちを譲る気は毛頭ない。シービーは十中八九、菊花賞トライアルのどれかに出走してくる。それに合わせて私も出走できるようトレーナーに相談しよう。

 

勝ちたい。

 

 

 

【7月〇'日】

合宿だからってわざわざ海に来る必要ある?って思ってたけど砂浜での走り込みとか海で泳ぐのとか、やってみるとけっこう効果がある気がする。

心なしか練習に身が入りやすい。日常とは違う環境にいるからだろうか。毎日新鮮な気分だ。

あとやっぱり楽しい。黒沼トレーナー、ビーチバレーめちゃくちゃ上手いし。

 

それはそうと、昨日シービーが吉田トレーナーと一緒に帰ってしまったらしい。体調を崩したから実家で療養するって話を又聞きした。もう合宿には復帰しないかもしれない。

 

夏合宿ではどのウマ娘も実力が一回りか二回りは成長するってトレーナーが言っていた。

まあシービーくらいの才能があれば関係ないかもしれないけど。

大丈夫だろうか。

 

 

 

【10月△日】

京都新聞杯でついにシービーに勝った。でも正直なところ納得はしていない。

 

夏の間中、シービーは夏風邪を拗らせていたらしい。それで結局、合宿に戻ってくることもなかった。

この前のセントライト記念は回避しての出走だったけど、それでも万全じゃなかった筈だ。これを勝ち星に数えるのはちょっと違う気がする。

 

次は菊花賞だ。初めて本番で走る3000メートル。

そういえば入学したての頃、チームの試験で走らされたのも同じ距離だった。今じゃ調整のために一日に何本も走っている。

 

大人になるにつれて時間が早く過ぎていくってお父さんが言ってた。その感じ、今はちょっと分かるかも。

 

 

 

【11月€日】

20着。シービーが三冠を獲った。

あんな大歓声はじめて聞いた。

 

あーあ。なにやってんだろ、私。

 

 

 

【11月N日】

今日は久しぶりの全休。なんだか走りにキレがなくて、トレーナーから心配されて特別に休みを貰ってしまった。チームの皆んなにも迷惑をかけた。

 

不貞腐れている場合じゃない。クラシック三冠が私の最終目標ってわけでもないんだ。

 

やっぱり走るのは大好き。

その気持ちだけは誰にも負けないって、今でも胸を張って言える。

 

だから、うじうじするのは今日でおしまいだ。きちんとシニア期の計画を立ててトレーニングに打ち込んでいかなきゃ。

 

それはそうと、先日のジャパンカップにはシービーが出なかった。理由はよく分からない。吉田トレーナーはインタビューで「万が一を考慮して」とか言ってたけど怪我でも脚部不安でもないのに慎重すぎじゃないか。外部からもけっこう批判されてるし。

 

もしくは、またシービーの気分任せでこうなったのかも。ジャパンカップを走る気分じゃないとか、そういうの。あいつならそれもあり得そうなのがヤバい。主人公サマの特権ってか。

 

駄目だ。またいじけた感じの文章になってる。

こんなのチームの後輩たちにはバレたくない。気を付けよう。

 

 

 

【1月1日】

チームの皆で初詣に行ってきた。おみくじは末吉。

後輩の一人が大吉出るまで何度も引いていたけど、あれじゃもう運勢とか関係ない気がする。嬉しそうだったから良いけど。

 

実家に帰る子たちの方が多いけど今年の私は居残り組だ。少しでもターフから離れるのが惜しい。

お父さんとお母さんには悪いけれどシニア期はとことん詰めたい。やれるとこまでやる。

 

そういえばシービーは有マ記念も回避していた。せっかく三冠を獲ってファン投票も集まったはずなのに、何を考えているんだろう。

 

 

 

【4月○日】

新入生がわんさか入ってきた。どの子も見るからに緊張している。入学した時は私も同じ感じだったのかなってしみじみ思う。

 

うちのチームにもたくさんの入部志願者がきて、黒沼トレーナーは忙しそうにしていた。

 

私も忙しかった。たくさんの子からサインをねだられる。全然慣れてないからただの署名みたいになっちゃったけど良かったのだろうか。

 

その中で私に憧れてチームに入ったのだと言う子がいた。GⅠでは一度も勝ってないし、シービーみたいに華々しい戦績も残せていないのに、私を見るその子の目はとてもキラキラしていた。

なんか尚更負けられなくなった気がする。先輩としての重圧だ。

 

正直、ちょっと嬉しかった。

 

 

 

【4月?日】

シービーが脚部不安で長期休養に入るって話がニュースで流れた。

雑誌なんかでも記事になっている。ジャパンカップと有マ記念を走らなかったのもそれが理由か。

 

あいつは目の上のたんこぶだけど、目標でもある。早く良くなって復帰してほしい。じゃないと張り合いが無い。

 

お見舞いは……まあ私が行かなくても他が放っておかないだろうから、別にいいか。

 

 

 

【5月×日】

シービーが吉田トレーナーとの契約を解除したらしい。学園中その話で持ちきりだ。

 

あの二人すごく仲が良かったはずだけど何があったんだろう。やっぱりシービーの足が原因なのか。けど、ただの脚部不安で契約解除までいく? よく分からない。

 

廊下を歩いていたらシービーとすれ違ったので聞いてみたが、はぐらさかれてしまった。いつも通り何考えるのか分からない笑顔をしてたけど、どこかあいつらしくないと言うか、覇気ってやつが無かったように感じた。

 

いや、他人の心配をしている場合じゃない。私は私で頑張らなきゃいけないんだ。

 

それにきっとシービーなら大丈夫。

吉田トレーナーと契約を解除した途端にスカウトされまくってるらしいから、足が良くなればすぐにレースにも復帰するだろう。

 

 

 

【6月⚪︎日】

勝ったー!!

ついに、ついにGⅠ初勝利だ!

宝塚記念一着だ!

どうだ見たか、やってやったぞ!

 

ウイニングライブの後、チームの皆と焼肉で祝勝会をした。お金はトレーナーが快く出してくれた。

うちはけっこう大所帯だしウマ娘は基本的に人間よりもたくさん食べるから大丈夫かなって思ったけど、こんな時のために小口で貯金してあるらしい。ほんと、トレーナーには頭が上がらない。

 

でも油断してはいられない。今回の宝塚記念にはシービーが出てないんだ。ベストコンディションのあいつを倒さなきゃ私はきっと満足出来ない。

 

それにもう一人、気になる奴がいる。生徒会長のシンボリルドルフだ。

デビュー前から噂にはなっていたけど、この前クラシック二冠を達成してしまった。しかもこれまで負け無し。

 

皐月賞と日本ダービーは現地観戦に行って実際に見てきたけど、はっきり言って怪物だ。私より一年遅くデビューしたのに、あの先行策の完成度は異常だ。少し自信無くす。久しぶりに才能が羨ましいと思った。

 

このまま行けば必ずシービーとシンボリルドルフの二人とぶつかる日が来る。

それまでに限界まで鍛え込むんだ。一日だって無駄にはできない。

 

ああ、でも今日の焼肉は美味しかったな。

 

 

 

【7月×日】

今年も夏合宿の季節がやってきた。

かなりの猛暑だ。学園のターフで走ってたら絶対にバテる。

 

今回はシービーも来ている。中堅どころのチームに入ったみたい。

しかし脚がまだ本調子じゃないのをいいことに毎日ろくにトレーニングもしないで遊んでいる。あれじゃただのバカンスだ。

 

あいつのとこのチームトレーナーも何でなにも言わないんだろう。

単純にシービーを制御するのを諦めているのか、三冠ウマ娘だからちょっとくらい手を抜いても勝てると思っているのか。

もし後者だったらぶん殴ってやる。

 

こっちは忙しくて仕方ない。

はしゃぐ後輩たちの気を引き締めるのにも一苦労だ。強化合宿に来たのだから普段よりも真剣に取り組まなきゃいけないのに。

 

そんな愚痴をこぼしたら先輩から「去年のあんたも同じようなものだったよ」と言われてしまった。

 

嘘だ。私は去年も真面目だったはずだ。

 

 

 

【10月△日】

毎日王冠で勝った。

格付けはGⅡだけど厳しさはGⅠにも全然劣っていなかった。その中で勝てたのは嬉しい。

 

何より、今日はシービーの復帰戦だった。最終直線で仕掛けてきたシービーを抑え込んでの一着だ。

 

あいつはやっぱり強かった。

上り三ハロンのタイムを見てゾッとした。夏に遊んでいたのが信じられない。

 

けど、それ以上にあの凄まじい追い込みをねじ伏せることができるようになった自分に感動している。時が経てば努力も発言権くらい持つんだ。私の今までのトレーニングは決して無駄じゃなかったんだ。

 

文句なしの勝利だったと思う。トレーナーからもそう言ってもらえた。

でもなぜかスッキリしない部分がある。

言葉じゃ上手く説明できないし、自分の中でも明確な理由が分からない。

ゴールした時もウイニングライブの時も、ずっと心の片隅にモヤモヤがある感じ。

今こうして日記に書いてみても納得のいく答えは出ない。今日のレースで満足できない点があっただろうか。

 

私自身の走りに問題が無いなら、シービーに原因があるのかも。

分からない。

勝ったのは素直に嬉しいのに、変な違和感が残っていて、それが少し気持ち悪い。

 

 

 

【10月#日】

してやられた。秋の天皇賞の盾を取り逃した。最後ものすごい競り合いになって、私は五着になってしまった。

 

一着はシービー。後から何度もレースの映像を見返したけど、シービーは今回もほとんど最終直線に入ったくらいで仕掛けて来ていた。

どうしてあれで届くのか。もう二年以上の付き合いになるけど未だに解せない。本当に理不尽な才能だ。

 

けどこれでハッキリした。毎日王冠の時に感じた違和感はやっぱり私の勘違いだった。

 

次走は前からトレーナーと話し合って決めてある。ジャパンカップだ。去年は不安が強かったので回避したけど今年はガチで行く。

そこで全力のシービーと戦って、絶対に私が勝つんだ。

 

 

 

【11月€日】

京都のレース場まで菊花賞を観に行った。ルドルフが三冠を達成した。

 

二年連続で三冠ウマ娘が出るなんて奇跡みたいだ。

これからのレースの歴史の中で、こんなことがもう一度でも起こり得るのだろうか。今はたぶん、レース史の大きな転換点。その中心に私も立っている。

 

ルドルフはレース後のインタビューで今年のジャパンカップへの出走を表明した。

世間はお祭り騒ぎだ。どこもかしこも三冠ウマ娘対決に熱狂している。

 

それに対して、非公式のレースの予想サイトで私は10番人気。

こうなると逆に燃えてくる。

 

三冠がなんだ。絶対に退かないし、負けないぞ。

 

 

 

【11月*'日】

嬉しいのに、嬉しくない。なんだこれ。おかしい。

 

私はジャパンカップで勝った。

選び抜かれただけあって海外のウマ娘たちは恐ろしいほど強かったけど、それでも勝てた。

日本のウマ娘がジャパンカップの優勝トロフィーを持ち帰れたのは私が初めて。とても名誉なことなんだ。

 

でも、どうしたって納得がいかない。

ルドルフもシービーも腑抜けた走りをしやがった。

 

ルドルフは体調不良だったみたい。

菊花賞から中一週での強行スケジュールが祟ったのかも。それでも十分に強かったけど、選手ならベストコンディションでレースに臨むのが当然じゃないのかって気持ちが治まらない。

 

でも何より許せないのはシービーだ。

あいつ、10着だった。

 

これまでのレースの最終直前で毎回感じてたあの重圧が今日は全く感じられないと思ったら、バ群に沈んでいたらしい。

そのくせライブでもインタビューでもしれっとした顔してるし、意味分かんない。あんなレースで悔しくないのだろうか。

私だったら悔しくて死ぬ。

 

こんなんで勝ったって喜んでいたら、私がバカみたいじゃないか。

ほんと、ふざけんな。

 

 

 

【12月31日】

今年のお正月は実家で過ごしたくて帰ってきた。

やっぱり落ち着く。今日ばかりはトレーニングもせず家でずっとゴロゴロしていた。

こんなに贅沢な時間の使い方したのいつぶりだろう。

 

有マ記念を走って、一つ決心がついた。

 

私はもっと上を目指したい。

ルドルフに負けてしまったけど得たものは大きかった。

自分の才能でドリームトロフィー・シリーズに挑戦できるか迷っていたけど踏ん切りがついた。『そこそこ良いとこまで行った』程度で終わりたくない。

 

そのことをお父さんとお母さんに改まって報告した。

レース選手を長くやっていると怪我の心配もあるし反対されるかもと思っていたけど、二つ返事で賛成してくれた。

 

もう憂いは無い。目標はサマードリームトロフィー。来年の夏まではレースに出ず特訓漬けだ。

地道な練習あるのみ。頑張るぞ。

 

今、外から除夜の鐘の音が聞こえている。もう少しで年越しだ。

この一年はあっという間だったけど、その分濃い一年だった。

どうか来年もいい年になりますように。

 

 

 

【4月+日】

春の天皇賞の観戦に行った。ルドルフが勝った。

 

これでシンザン以来の五冠達成だ。

皆が皆、皇帝と呼んではやし立てている。

噂では凱旋門賞を目標にした海外遠征プランを練っているらしい。どこまでのし上がれば気が済むんだろう。

 

って、私も人のことは言えないか。上を目指せばいつかは再びぶつかる日が来る。それまでに爪を十分研いでおこう。

 

しかし気になるのは五着になったシービーだ。

最後、全然伸びなかった。

 

あいつの走り方ってあんなんだったかな。

追い込みには違いないんだけど、どこか肩肘張ってるって言うか、固い印象を受けた。

一緒のレースで走っている時は気付かなかったけど観客席から見ると一目瞭然だ。

 

正直、今のシービーは見ているのが辛い。

 

 

 

【6月〇日】

トレーニングの小休憩中、シービーがこっちを盗撮していたので少し話した。

 

春からつけていたギプスはとれたみたいだけど、練習は再開していないらしい。いつも暇そうに学園のどっかをぶらついてるって噂を聞く。

 

ひょっとして、もう走る気が無いんじゃないか。

 

凄んで聞いてみたけど、あいつはヘラヘラ笑ってまともに答えなかった。でも私から目を反らしかけたのは見逃さなかった。

 

頭にくる。

後輩やトレーナーが側に居なかったらシービーの胸倉を掴んでいたと思う。

 

あいつのあんなに腑抜けたところなんて、見たくなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 新月の夜半。栗東寮の一室で、一人のウマ娘が机に向かいペンを走らせていた。

 部屋の明かりは勉強机に備え付けられた小さなスタンドの光だけ。窓の外にはチラチラと僅かな星が瞬いて見える。

 

 書き終わったのだろう。日記帳を閉じて鍵付きの引き出しにしまい、机の灯りを消す。すぐ側で寝ている同室相手を起こさないよう静かに伸びをしてから布団に潜り込む。

 

 瞼を閉じればすぐに睡魔がやって来る。

 意識が落ちるまでの数分間、微睡みの中でカツラギエースは強く思う。

 次こそは勝ちたいと。

 ただそれだけの思いが彼女の心を焦がしている。

 

 

 そしてどうか、ライバルも同じ気持ちでありますように、と。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。