エヴァンゲリオンAnotherWorld   作:時雨光多

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第拾六話 戰い

「エヴァンゲリオン3号機、起動ッ!!」

 

静寂の中、機械仕掛けの獣が目覚める。前回のような神経が逆立つような不快感もなく、僕の気持ちはいたって平常だった。いや、使徒が来ているというのに僕の心は、しっかりとしたパイロットとして、使徒に寄生されていないいたって普通のエヴァンゲリオンに乗れているという事実に高揚さえ覚えていた。

 

 

「射出準備完了! ゲージ開きます!」

 

 

ネルフスタッフの声が響く。僕の胸の高鳴りは頂点に達していた。巨大な射出孔が開き、まばゆい光が差し込む。座席に体が沈み込むほどの加速Gがかかり3号機が上昇するにつれて、耳が詰まるような感覚に陥る。そのトンネルを抜け、視界にどこまでも広がる巨大な地下空間、その平原の天井には、無数の構造物が複雑に絡み合い、まるで巨大な機械の繭のようなものが浮かんでいた。

そして、その繭の下で、エヴァンゲリオン初号機の姿があった。初号機は既に戦闘態勢に入り、その視線の先は、まだ見えない何かを警戒しているようだった。

 

「シンジ君!」

 

僕が呼びかけると、メインモニターの端にシンジ君のコックピットが浮かび上がった。僕と同じように真剣な眼差しで操縦桿を握りしめるシンジ君の顔が、はっきりと見える。彼の顔に刻まれた覚悟の色が、僕の胸にも伝わってきた。

 

「カナメ、本当にエヴァに乗ったんだね」

 

シンジ君の声が、クリアに響く。それは僕の言葉に対する返答というだけでなく、僕がここにいることを、彼が、そして初号機が確かに認識している証だった。かつては彼に守られるばかりだった僕が、今、彼の隣に立つ。同じ高さの視点で、同じ敵を睨む。その事実に、僕の体中に新たな力が漲るのを感じた。まるで、僕の胸の中で眠っていた何かが目覚めたかのように、強烈な連帯感と、それを上回る静かな闘志が湧き上がってくる。もう一人じゃない。背中を預けられる仲間が、すぐそこにいる。

くる。もう一人じゃない。背中を預けられる仲間が、すぐそこにいる。

その瞬間、天井の繭の一部が不気味に膨れ上がり、ひび割れた。絹織物のような不気味な触腕が、ぬらぬらと姿を現した。それに続き、禍々しい使徒の顔がゆっくりと、しかし確実に姿を現した。 

 

「来るッ!」

 

シンジ君の叫びと同時に、初号機が宙を駆る。

 

「行くぞ、シンジ君!」

 

僕は操縦桿を強く握りしめ、3号機を加速させる。シンジ君が僕を命がけで救ってくれたように、今度は僕が、彼と、この世界を守る番なのだ。

 

「シンジ君、僕は援護射撃で触腕を!」

 

予めミサトさんから聞いていたように、近接と援護を

僕の声に、シンジ君のコックピット映像が頷いた。

「分かった! 僕はコアを狙う!」

ミサトさんから予め聞いていた作戦通り、初号機が、その巨体からは想像もできないほどの俊敏さで使徒へと肉薄する。シンジ君は得意の近接戦で、コアを狙うつもりだ。僕は3号機のプログレッシブナイフをホルダーから抜き、使徒の触手が届かない位置から、パレットライフルを構えた。

 

「目標、使徒の触腕!」

 

トリガーを引く。衝撃が3号機の腕を伝わり、放たれた弾丸が光の筋となって触手へと向かう。シンジ君は、使徒の注意を引きつけるように、その巨体をいなし、使徒の攻撃を巧みに避けていた。初号機の放つ拳や蹴りが、使徒の肉体を何度も叩きつける。

しかし、僕の放った弾丸は、触手を貫くどころか、その表面で弾かれるように逸れていく。シンジ君の渾身の打撃も、使徒のA.T.フィールドに阻まれ、何のダメージも与えられていないように見えた。

 

「効いてない、か....」

 

そうだろうなとは思っていた、がこの結果はわかっていてもつらい。シンジ君のコックピット映像に、驚きと焦りの表情が浮かんだ。僕たちの全力の連携攻撃が、まるで蚊を叩いているかのように、使徒には通用しない。

その瞬間、使徒の顔からまばゆい光が放たれた。それは光の盾のような形をしていたが、次の瞬間にはそれが質量を持った壁として、僕たちの目の前に立ちはだかった。僕の放った弾丸も、シンジ君の拳も、その見えない壁に完全に阻まれ、弾き返される。そして、そのA.T.フィールドが僕たちを遠くまで吹き飛ばした。

 

「ぐっ…!あんなのありかよッ!!」

 

A.T.フィールドが強いのは分かっていたけど、テレビ版とは質も量も違いすぎる!!何重にも折り重ねられたA.T.フィールドによる衝撃に3号機が大きく体勢を崩す。シンジ君の初号機も、地面を滑るように後退させられていた。使徒は、僕たちの攻撃を意にも介さず、巨大な顔で僕たちを見下ろしている。その瞳には、まるで遊びのような、冷たい光が宿っていた。さらに、そのA.T.フィールドが、僕たちの機体を押し潰すかのように収縮し始める。

 

「まずい! このままじゃ…!」

シンジ君の焦りの声が響く。このA.T.フィールドは強い。 質量を持ち、攻撃を完全に防ぐだけでなく、相手を吹き飛ばし、そして押し潰すこともできる。これは、僕たちが想像していたよりもはるかに絶望的だった。

僕の思考が高速で回転する。このA.T.フィールドをどう突破するか。

最中、地下空間の別の場所から、けたたましい音が響いた。同時に、メインモニターの通信回線に、新たな顔が浮かび上がる。ピンクのプラグスーツを身にまとったマリだ。少し乱れた髪と、いたずらっぽく吊り上がった目が、状況を楽しんでいるかのようだ。

 

「あれ? もしかして、遅れたかにゃ〜?」

 

マリの声が、ひょうひょうと響き渡る。その直後、視界の隅に鮮やかなエヴァンゲリオン2号機が、轟音と共に滑り込んできた。

 

「マリ!?」

 

僕が驚きの声を上げると、シンジ君のコックピット映像にも、安堵と困惑が入り混じったような表情が浮かぶ。

 

「アスカじゃない?」

 

シンジ君の素直な問いかけに、マリはニヤリと笑った。

 

「おやおや、お忘れかい? あの屋上で、お眼鏡にかなった美少女にゃ〜」

 

マリの言葉に、シンジ君の顔がハッとしたように変わる。その時のことを思い出したのだろう、少し照れたような表情が浮かんだ。

 

「シンジ君、マリは僕らの仲間だ。詳しい話は後!」

 

僕がそう言うと、マリは「それより、情報共有といこーかにゃ」と、話を切り替えた。僕はできるだけ明確な言葉で伝える。

 

「あの使徒は、A.T.フィールドを多重に展開して攻撃と防御どっちにも使ってるみたい。接触したものを吹き飛ばしたり、押し潰したりもできる。」

 

「あの使徒のA.T.フィールドは想像以上に強固だ。たぶん...通常の攻撃では傷一つつけられない。まるで、全身が分厚い壁で覆われているみたいだ」

 

僕の言葉に、マリは面白そうに片眉を上げた。その声には、どこか挑戦的な響きがあった。

 

「”通常”の攻撃じゃなければ、良いわけだ」

 

マリはニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま、そうつぶやいた。その言葉の意図を測りかねていると、マリはさらに続けた。

 

「あの使徒は、多重のA.T.フィールドで防御と攻撃を兼ねている。まるで、全身が分厚い壁で覆われているみたいだにゃ。だから、正攻法でぶつかっても無駄ってワケ」 

 

シンジ君の表情はさらに険しくなった。僕も同じように考えていた。僕らの全力攻撃でもかすり傷一つつけられなかったのだ。

 

「だが、だからこそだ」

 

マリの声に、僕らは意識を向けた。

 

「あのA.T.フィールドは、質量と密度が高い分、割れた時がチャンスなはず。つまり、一点に集中した高密度の攻撃なら、あるいは…」

 

マリの言葉に、僕の脳裏に電流が走った。一点集中。高密度。それは、僕が持つ、あの「予測不能な攻撃」と繋がる。

 

「シンジ君、マリ!」

 

僕は二人の名前を呼んだ。メインモニターのシンジ君のコックピットと、マリの顔が同時に僕の画面に映る。

 

「あの使徒には、たぶん…僕にしか知り得ない攻撃がある。これまで経験したことのない、予測不能なやつだ。だから、もし僕が合図したら、躊躇なく、思いっきり避けてくれ」

 

僕の言葉に、シンジ君の表情に疑問の色が浮かび、マリは面白そうに片眉を上げた。

 

「信じてほしい。この戦いは、僕らの連携にかかっているんだ!」

 

僕の切迫した声に、シンジ君は一瞬ためらい、やがて強く頷いた。マリはニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま、短く「らじゃー」と返した。

僕らは再び使徒と対峙する。使徒は、僕たちの動きを完全に読み切っているかのよう に、その巨大なA.T.フィールドで僕らの攻撃を弾き、押し潰そうとしてくる。

 

「シンジ君、マリ! 機体を限界まで近付けて!」

 

僕の指示に、シンジ君とマリは迷いなく従う。初号機と2号機が、その俊敏な動きで使徒の攻撃を紙一重でかわしながら、徐々に距離を詰めていく。僕も3号機を操り、二人の後を追う。

 

「もう少しだ! あと、数メートル!」

 

僕の視線は、使徒のA.T.フィールドの一点に集中していた。そこに、僕の「予測不能な攻撃」を叩き込む。

 

「今だッ!」

 

僕の叫びと同時に、シンジ君とマリはA.T.フィールドの出力を限界まで引き上げる。一人の力じゃできなくても、三人ならばッ!

使徒の多重A.T.フィールドは、まるで厚いガラスのように、亀裂が走り始めた。そして、その亀裂は瞬く間に広がり一枚、二枚、と崩壊していった。がその瞬間、使徒の顔の下で、帯状の腕が不気味に蠢き始めた。それはまるで生き物のように、ドラム缶状に丸まり、ぐっと縮む。予備動作は異なるが、あの攻撃だ。

 

「マリ! 避けてッ!!」

 

僕の叫びがコックピットに響き渡ると同時に、丸まった腕が勢いよく伸ばされ、2号機めがけて襲い掛かる。それは単なる腕ではなく、強力な刃物と化したかのような鋭さだった。

マリは僕の警告を受け、反射的に機体を限界まで傾けた。2号機の左腕に、ひやりとした風が走る。まさに間一髪、刃と化した使徒の腕が、2号機のわずか数センチ横を、轟音と共にすり抜けていった。もし回避が遅れていれば、2号機は無残にも両断されていただろう。

 

「ひゃー、間一髪だったにゃ!」

 

マリのやや興奮した声が響く。シンジ君も、冷や汗をかいたような表情で、2号機を見つめていた。僕も心臓が跳ね上がった。使徒はA.T.フィールドを失いかけてなお、僕らの想像を超える攻撃を繰り出してくる。

使徒は、マリの2号機に深手を負わせそこねたことに苛立ったかのように、再びその巨大な顔で僕たちを見下ろしている。その瞳には、冷たい光が宿っていた。

マリは使徒の攻撃を間一髪で避けたものの、その顔から楽しげな笑みは消えていなかった。むしろ、その瞳の奥には、新たな闘志の炎が燃え盛っているように見えた。

 

「あらら、随分とお熱いお出迎えだにゃ」

 

マリの声がコックピットに響く。その声には、冷や汗をかくような状況への焦りではなく、むしろ待ち望んでいたかのような高揚感が混じっていた。

 

「相手の底は見えた!これならいけるッ……試してみっか!」

 

マリは操縦桿を強く握りしめ、次の瞬間、コックピット内に警告音が鳴り響いた。メインモニターの端に、赤く点滅する文字が浮かび上がる。「裏コード・ザ・ビースト」。

 

「マリさん! 何してるの!?」

 

シンジ君の声に、動揺の色が混じる。僕も同じように驚き、マリのコックピット映像を見つめた。

 

「2号機、リミッター解除ッ!! モード反転……裏コード、ザ・ビースト!!」

 

マリの叫びと同時に、2号機の全身から、おぞましいほどのエネルギーが迸った。機体の外装が軋み、2号機の肩に装備されていた拘束具が木っ端微塵に吹き飛び、そこから二本の突起物が出現する。操縦席の上に立ったマリが前かがみになると同時に、2号機も同じ姿勢になって背中から突起物を出現させる。背中に左右五本ずつ、計十本と、腰の辺りからさらに四本の突起物を出現させた2号機は、この後驚異的な能力を発揮することになる。それはもはや、兵器としてのエヴァンゲリオンではなく、獣の咆哮を上げる怪物そのものだった。

 

「がぁあああああッ!!」

 

2号機から発せられたのは、機械の駆動音とは異なる、動物的な咆哮だった。その叫びは地下空間に木霊し、僕たちの体にまで振動となって伝わってくる。

 

「なんだこれ…」

 

シンジ君の声が震えている。僕もまた、目の前の光景に息をのんだ。エヴァにこんな機能があるなんて。いや、違う。シンジ君もエヴァ初号機でなってはいた。てことは

 

「…危険すぎないか。マリは大丈夫なのか!?」

 

そんな心配とは裏腹に苦痛と愉快が入り混じったようなマリの声が聞こえる。

 

「フフ…さぁ、お遊びは終わりだにゃ!」

 

マリは獣と化した2号機を駆り、信じられないほどの速度で使徒へと肉薄した。その動きは、先ほどまでの精密さを超え、本能のままに獲物を仕留めようとする獣の獰猛さを孕んでいた。使徒のA.T.フィールドが、マリの放つ攻撃をまともに受け止めきれず、破れていく。2号機の拳が、爪が、まるで生きた刃物のように使徒の肉体を切り裂いていく。

「シンジ君! 僕も続く!」

 

僕は操縦桿を強く握りしめた。マリが命がけで切り開いてくれたこのチャンスを、無駄にするわけにはいかない。

僕とシンジ君は、マリの切り開いた活路に呼応し、使徒への猛攻を開始した。シンジ君の初号機はプログレッシブナイフを構え、使徒の巨体に隙を探す。僕の3号機は、パレットライフルを連射し、使徒の動きを牽制する。マリの2号機は、獣のように使徒に喰らいつき、その肉体をえぐり取る。

 

「コアだ! シンクロ率を上げて、一気に!」

 

シンジ君の叫びが響く。僕もそれに合わせ、シンクロ率を極限まで引き上げた。初号機が、使徒の注意が2号機に向いている隙を突き、電光石火の速さでコアに迫る。

 

「今だッ!」

 

シンジ君の渾身のプログレッシブナイフが、使徒の核心であるコアへと向かって振り下ろされる。僕たちには、確かに「取った」という確信があった。この一撃で、使徒を沈めることができる。誰もがそう信じた。

しかし、ナイフがコアに触れる寸前、コアの表面がまるで生物のように蠢き、硬質な殻が瞬時に閉ざされた。ガチリ、という鈍い音がコックピットに響き渡る。僕らの視線の先で、初号機のプログレッシブナイフは、完全に閉じられたコアの殻に阻まれ、刃先が滑るように弾かれた。

 

「くっ…!」

 

シンジ君の表情に、焦燥の色が浮かぶ。あと一歩、まさに届くというところで、使徒は予測不能な防御を見せてきたのだ。僕たちの猛攻は、一瞬にして虚しく打ち消された。

その瞬間、使徒の巨大な顔の下で、再び帯状の腕が不気味に蠢き始めた。それはまるで生き物のように、ドラム缶状に丸まり、ぐっと縮む。

 

「また来るぞ! アレだ!」

 

僕の叫びがコックピットに響き渡る。僕たちは即座に回避行動をとろうとしたが、使徒の動きは僕たちの意図を嘲笑うかのように速かった。ドラム缶状に丸まった腕は、前回よりもはるかに速い速度で伸び、シンジ君の初号機めがけて一直線に迫る。

シンジ君は咄嗟に機体を横に傾けるが、使徒の腕は執拗に初号機を追尾する。まるで意思を持った刃物のように、初号機の全身を狙っている。

 

「くっ…速いッ!」

 

シンジ君の苦悶の声がメインモニターから聞こえる。初号機は湖面を滑るように後退しながら、ギリギリのところで使徒の腕をかわし続ける。しかし、その刹那、使徒の刃と化した腕が、初号機の右肩を大きく切り裂いた。鈍い金属音が響き渡り、火花が散る。右肩から赤い液体が勢いよく噴き出し、シンジ君のコックピットのモニターにも血しぶきのような警告表示が点滅した。

 

「シンジ君ッ! 大丈夫か!?」

 

僕の声に、シンジ君は顔を歪ませながらも「だ、大丈夫…!」と答える。しかし、その声は明らかに苦しげだった。マリの2号機も、リミッター解除の影響で機体が軋む中、使徒の腕による猛攻を必死に回避していた。獣と化した2号機も、流石にこの予測不能な攻撃には苦戦しているようだった。

使徒は、僕たちをさらに追い詰めるように、その巨大な顔で僕たちを見下ろしている。その瞳には、冷たい光が宿っていた。

――――――

 

『次回予告』

エヴァ初号機、2号機、そして3号機。三体のエヴァが力を合わせ、強大な使徒に挑む。しかし、核心に迫る一撃は、まるで意思を持つかのように硬い殻に阻まれ、シンジの初号機は深手を負ってしまう。

 

じり貧の戦況の中、追い詰められていく僕たちの前に立ちはだかるのは、底なしの絶望。迫り来る使徒の猛攻は、さらに苛烈さを増し、僕たちの精神と機体を削り取っていく。

 

そして、その時、最も恐れていた事態が訪れる。活動限界の赤ランプ。頼みの綱であるエヴァの電源がダウンする時が迫っていた。

 

僕たちは、この絶望的な状況を打ち破ることができるのか? 諦めかけたその時、空から、いや、月面から、地球へと落ちてくる影があった。

 

次回、「月からのシ者」

 

この絶望に、光は差すのか。

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