エヴァンゲリオンAnotherWorld   作:時雨光多

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第参拾参話 グルガルタ、約束の地

5機のエヴァが射出された直後、ヴンダーの艦内を激しい衝撃が再び襲った。

 

「被弾!右舷シールドジェネレーターが沈黙!艦体に直撃!」日向が切迫した声で報告する。

 

「すぐに艦体を反転!主砲でErlösungを狙え!奴らの火力が一番厄介だわ!」

 

ミサトは怒鳴るように指示を出した。彼女の顔には、汗とすすが混じり、凄まじい緊迫感が漂っている。

 

「無理です、艦長!主砲の射線は、Erbsündeによって塞がれています!」

 

マヤが叫ぶ。

 

「チッ……!あの連隊が厄介ね!」

 

ミサトは即座に決断した。

 

「進路を南南東へ!Erlösungの背後へ回り込め!ヴンダーは囮になる!エヴァ隊が目標地点へ到達するまで、全戦力で耐え抜くわ!」

 

L.C.L.の赤く濁った深海で、巨大なヴンダーと、ネルフの二隻のNHGが、互いの総力をもって、激しい砲撃と砲撃を応酬させながら、死闘を繰り広げ始めた。

ヴンダーの格納庫から射出された五機のエヴァは、L.C.L.の海中を、ヴンダーの激しい戦闘音を背に、急速に潜航していた。マリの8号機が、過去の資料と現在のL.C.L.濃度データを重ねて表示させた。

 

「本来のフォースインパクトは、リリスとアダムス、そしてロンギヌスの槍、さらに贄と黒き月が揃って、初めて人類補完計画を完遂できる。今、リリスの身体はすでに活動を停止した躯となっている。……だからこそ、今が最大のチャンス。こんな何もかも足りない状況で、ゲンドウ君が何を考えているのかは怖いけど。」

 

カナメは決然と言った。

 

「僕らの目的は、儀式が行われるカルヴァリーベースを破壊すること、そして、アダムスの器全機を殲滅するか、碇ゲンドウを拘束することだ。僕たちは誰も殺したくない。だから、ゲンドウは拘束する。勝算は高い!」

 

五機のエヴァは、海底へと急速潜航する。

 

シンジの初号機、アスカの2号機、マリの8号機、カナメの3号機、そしてレイの零号機の五機は、濃密なL.C.L.の抵抗を受けながらも、そのコアの力で海水を掻き分け、爆心地の最深部を目指す。

初号機のプラグ内で、シンジは機体操作に集中していた。ミサトたちヴンダーのクルーが、自分たちを戦場へ送り出すために命を懸けているのが、肌で感じられる。

 

「ヴンダーの援護、確認したわよ、ワンコ君」

 

マリの声が響く。彼女は8号機で、他の四機を率いるように先頭を泳ぐ。

 

「ええ。僕たちが早く目標を達成しないと、ミサトさんたちが…」

 

シンジは緊張に声を詰まらせた。

カナメは、3号機のプラグ内で、冷静に状況を分析していた。

 

「大丈夫だ、シンジ君。ミサトさんは、僕らを信じて道を開いてくれている。だから、僕らはこの海の底で、最後の敵と相対するんだ」

 

アスカが舌打ちする。

 

「無駄口叩いてないで、さっさと行くわよ、カナメ!エコヒイキ、前は任せるわよ」

 

零号機のプラグ内で、レイは静かに応答した。

 

「了解。私は、目標への進路を確保する」

 

アスカが続けた。

 

「底に、何か見えてきた!臨戦態勢を整えて!」

 

カナメとシンジのモニターに、巨大なシルエットが映った。しかし、潜航深度が目標に達したとき、カナメが見たのは、予想していた巨大な建造物ではなかった。

そこにあったのは、ナスカの地上絵を思わせる巨大な地上絵と、その中心にある円形状の構造物だった。

赤くコア化した大地に、白いラインで複雑に描かれた巨大な模様。それは、かつての人類が想像すらできなかった、儀式のための、壮大な魔法陣のように見えた。

 

「これは……ただの構造物じゃない!」

 

カナメが驚愕の声を上げる。

マリが冷静に分析する。

 

「あそこの旧研究室跡地にゲンドウ君がいるはず!そこをたたく!」

 

マリの声が警戒に変わった。

 

「待って!カナメ君、シンジ君!新しい反応よ! 予想外の増援が来たみたい!」

 

前方のL.C.L.の中から、五機を迎え撃つように、無数の人造兵器が静かに姿を現した。

 

「あれが、僕らを阻む、最後の壁だ……!」

 

カナメはプラグを握りしめた。その視線の奥、地上絵の中心に、黒い肉塊と化した四体のアダムスの器が、静かに佇んでいるのが見えた。

 

「全機、戦闘用意!目標は、中央の円形構造物! 一気に突破する!」

シンジの指示が飛ぶやいなや、前方の2体のうち、円盤状の本体の平面に二本の鋭い爪を生やした異形の敵、が、一気に加速した。その動きは、L.C.L.の濃密な抵抗を無視するかのような、凄まじい推進力を持っていた。機体周囲のL.C.L.が渦を巻き、その異質なエネルギーを物語っている。

 

「来る!シンジ君、回避!」

 

カナメがプラグ内で警告する。

円盤状の敵は、機体の周囲にアンチA・T・フィールドを展開。そのフィールドを纏ったまま、機体を錐のように超高速で回転させながら、シンジの初号機目掛けて一直線に突進してきた。その目標の正確さに、シンジの背筋に冷たいものが走る。

シンジはすぐさまA・T・フィールドを機体前面に展開し、防御壁を築くが、敵の爪がそのエネルギー障壁に甲高い軋みを上げながらズブリと突き刺さる!

 

「嘘だろ!? A・T・フィールドが中和してない!ただの物理攻撃で穴が開くのか!?」

 

シンジは驚愕に声を上げる。

敵は依然回転を止めず、まるで巨大なドリルが岩盤を砕くように、フィールドに抉り込み、侵食する。初号機は押し込まれ、機体が悲鳴を上げるような振動がシンジの体を襲った。シンジは限界まで出力を上げ、フィールドを維持しようと歯を食いしばるが、敵の力は圧倒的だった。

その時、初号機のモニターに赤く「パターン青」の文字が点滅した。

 

「嘘!使徒は全部で12体のはずじゃ!?」

 

 

ブリッジからカヲルが回線に割り込んできた。彼の声は冷静だが、その奥に深い思案を含んでいた。

 

「動揺しないで、みんな。彼らは使徒ではないよ。本来、使徒は12体のみだ。あれは使徒の持つ生命の実を模して造られた模造品だ。ダミーシステムによって動かされている、エヴァの派生機だと考えて大丈夫だ。彼らの急所は、恐らくエヴァと同じコアブロックだ」

 

カヲルの説明が終わるのを待たず、敵は二本の爪を左右に一気に開き、シンジのA・T・フィールドをガラスが割れるような音と共に引き裂いた。防御力を失った初号機めがけて、円盤状の中心部から無数の小型飛行物体が射出され、散弾式のエネルギービームを浴びせ始めた。

 

「ぐっ!」

 

初号機の装甲にビームが着弾し、火花が散る。そこにマリが冷静だが、怒りを含んだ声で叫ぶ。

 

「パターン青……!使徒の生命維持装置を模倣することで、稼働時間の限界を強引に突破したんだ!これは、まさか……四号機の構想と同じじゃない!ネルフは、自爆したはずの四号機の実験データを元に、これを造ったのね!」

 

「識別コードを暫定的にコード4Aとする!急所はコアブロックと断定!シンジ君、一旦距離を取って!マリ、援護おねがい、コード4Aの機体中央を狙って!」

 

カナメが即座に戦術を修正する。

 

「錐の回転が止まる、体当たり直後の隙を狙うんだ!」

 

シンジはカナメの言葉を受け、あえて機体の退避を止め、姿勢を低くする。彼は次の突進を待った。L.C.L.が渦巻く中、コード4Aが再び錐の態勢に入り、超高速で接近してくる。シンジは初号機の右腕にプログレッシブナイフを構え、その回転の軸を見極めた。

 

「来い!」

 

コード4Aが初号機に再接近し、体当たりを仕掛けようとしたその瞬間、シンジは初号機を左へ急旋回させた。

体当たりは辛うじて回避されたが、コード4Aは急旋回した初号機の右腕に、その回転する爪の先端を掠らせた。装甲が激しく削られ、火花が散る。シンジは激痛に耐え、左腕の動きを止めなかった。

 

「今だ!マリさん!」

 

「合点でいっ!ワタシはこういうダーティな戦い方、嫌いじゃないよ!」

 

マリは即座に応答。8号機は、機体下部から高速レールガンを素早く展開。シンジが回避行動で作り出したコード4Aの体勢が崩れた極わずかな間隙を突いて、連射体制に入る。

ダダダダダッ!

高速徹甲弾がL.C.L.を切り裂き、コード4Aの機体中央、コアブロックの位置を正確に貫いた。弾丸は防御フィールドを突破し、コアブロックの硬質な外殻を叩き割る。

凄まじい白光と共に爆発が起こり、コード4AはL.C.L.の中で機能停止。その残骸は、エネルギーを失い、海底に沈んでいった。

 

「くっ、ありがとう、マリさん。カナメ」

 

シンジは荒い息を吐きながら、装甲が削られた初号機の右腕を確認した。これが、使徒とは違う、ネルフの人の意志が作り出した敵の恐ろしさだった。しかし、二体目の敵が、間髪入れずに動いた。

 

「バカシンジ!次が来るわ!あれは……大きい触手!?」

 

アスカが叫ぶ。

暫定コードコード4Bは、機体から粘着質のフィールド反射膜を展開。その膜から、無数の長い触手が鞭のように伸びてきた。触手は、一瞬にしてアスカの2号機とレイの零号機を狙い、複雑に波打ちながら一塊の束となって収束。二機を完全に取り囲むようにして、光る輪を作り上げた。

触手の輪は、収束部に向かってエネルギーを集中させ、強烈な白色の光を帯びて激しく輝き出し、その光は一点に集中して2号機の顔面を焼き付けるように照射された。

 

「うわっちっちっちっち、何この光! A・T・フィールドが中和してない!機体が熱で歪む!」

 

アスカの悲鳴がプラグ内に響く。

強烈な光熱とチクチクと刺すような痛みが2号機と零号機を襲う。二号機同様、アスカの左目とレイの左足は、プラグ内で異常な赤光を発し、コックピット内のL.C.L.に血の色をした小さな気泡が連続して噴き出した。レイは息を殺し、アスカは激しく耐えるが、触手の放った光が防御限界点を突破。連鎖的に小さな爆発を引き起こし、二号機と零号機に衝撃を与え続ける。

 

「クソッ、攻撃の糸口がないわ!本体は触手を伝って逃げ回って、攻撃が当てられない!」

アスカは激しく舌打ちする。

 

「なんとかしなさいよ……! バカシンジ!」

 

その切迫した叫びは、シンジの脳裏に焼き付いた。

 

「分かった!アスカ、レイ、少し我慢して!」

 

シンジは即座に判断。初号機は、プログレッシブナイフを逆手に構え、内蔵された高周波振動を最大出力に設定。触手の輪めがけ、全ての力を込めて横一線に剣を走らせた。

ギュォォォン!

高出力の刃は、エネルギーの塊となった触手をまとめて切断。コード4Bの光が収束できなくなり、連鎖爆発が止まった。

 

「今だ!急所はコアブロックだ!」

 

シンジが叫ぶ。

アスカは、触手の拘束から解放された2号機改で、逃げ回るコード4Bの本体を目で追い続ける。 敵は再び体勢を立て直そうと、残った触手を滑るように逃走を図る。

その時、レイの零号機改の手が、コード4Bの本体に電光石火で掴みかかって動きを封じた。

 

「エコヒイキ!?」

 

アスカが驚きの声を上げる。

零号機の装甲が、コード4Bのコアのエネルギーによってみるみるうちに赤熱し、高温になってゆく。凄まじい熱量と、敵の抵抗がレイを襲っていた。

 

「くっ……早くっ……」

 

レイが激痛に苦しみながら、アスカに向かって掠れた声で言った。

 

「……アスカッ……」

 

シンジが、レイの危険な状態に気づき、叫ぶ。

 

「わかってるっちゅーのぉぉぉーーー!」

 

アスカは荒々しい気合と共に咆哮した。

2号機はプログレッシブナイフを一本振りかざし、レイが掴み続けるコード4Bの正面、コアブロックに向かって刃を突き出した。右手のナイフに続いて、左手のナイフがハの字型の溝を刻むように素早く突き立てられる。

ナイフはA・T・フィールドを切り裂き、深く食い込んだ。しかし、まだ完全に核を破壊するには至らない。

 

「もういっちょぉぉぉーーー!」

 

アスカは2号機の膝を、敵のコアに突き刺さったナイフの柄の底めがけて突き出し、渾身の力を込めた膝蹴りで、プログレッシブナイフをより深い部分へと押し込んだ。

次の瞬間、使徒のコアはガラスが砕けるような音を響かせ、中央から真っ二つに割れ、跡形もなく光と共に飛散した。

コード4Bは、激しい光と共に崩壊し運命の地にその残骸を沈めた。

 

「ふん。チクチク痛かっただけだわ。次!」

 

アスカは荒い息を吐きながら、レイの零号機に一瞥をくれ、次なる敵を見据える。

零号機は赤熱した手をゆっくりと見下ろした。レイの呼吸は荒かったが、その瞳には強い光が宿っていた。

多数の敵を目前に、既に疲労の色が、浮かび始めていた。

 

――――――

 

『次回予告』

 

コード4A、4Bを下した子供たち、それを見定めるかのように次の試練が待ち受ける。迫りゆく魔の手が、カナメたちを追い詰める。

次回「コンマ数秒の奇跡」

冬月の指導力は、未だ衰えていない。

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