「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
三種類の絶叫が響き渡ったのは、山の中腹にあるいたって普通の小さな神社。長い階段を上った先にある趣深いその神社に他と違うところがあるとすれば、それはそこに紫色の巨人が寝そべっているところであろう。目測80mあるその巨人の足跡はどこにも存在せず、どうやら空から落ちてきたもののようだった。先ほどの絶叫はそんな落ちてくる巨人に恐れおののいた者たちの声であろう。声をたどりその主を探すと、声は巨人の指の間から聞こえてくるようだ。そこには第三新東京市立第壱中学校2年A組の三人組が半泣きで肩を抱き合い震えていた。どうしてこんな状況になってしまったのか、三人のうちの一人、この物語の主人公であるカナメは数刻前にあったことを涙目になりながら思い出した。
◇ ◇ ◇
「緊急事態警報が発令されました。民間人の方はシェルターに避難してください。繰り返します――――」
唐突に警報が流れ始めたのは今朝の二時限目、国語の授業中だった。シンジ君も一緒に受けていたのだが、緊急事態警報と同時に鳴り響いた携帯電話の着信をとるや否や、先生と僕らに一瞥してすぐ教室を後にしてしまった。シンジ君はNERVの一員で主人公、方や僕は一般生徒、もともとファンとアニメキャラの関係とはいえ今は友人関係にあるので遠くに行ってしまったシンジに少し寂しさを覚える気がした……「いてっ」物思いにふけりながら肩を落としていると誰かに後ろから頭を何かではたかれた。まあ誰かは何となく予想はついているが……
「何するんだよ鈴原……」
「シャキッとせやカナメ。ほら、そないな顔してへんで碇みおくったろうや」
後ろを振り返ると案の定というか、丸めた下敷きを片手にしたトウジがそう提案してきた。
「見送るって……もう行っちゃったよ??」
「ほら、あそこがあるだろ??」
そう会話に割って入ってきたケンスケが親指で示したのは校庭側に面したベランダ。そうか、確かにそこならシンジ君を見送れる。
「そうと決まったら早よしたろや、ほら、おったで」
目線の先には校門に停められた黒塗りの高級車へと駆け寄っているシンジの背中があった。見かけによらず運動神経のいいシンジは躊躇しているとすぐ行ってしまいそうだ。トウジ達と目くばせし、
「がんばれよー碇!」「勝たんと承知せんで~」「シンジ君っ!頑張って!」
各々の声援を叫んだ。僕らの声に気付いたのかシンジ君は半身をこちらに向けるようにして振り返り、大きく手を振り返してくれた。それが僕たちの関係が守り守られだけの関係でなく、対等な友人として接することができていることの表れに感じて嬉しかった。そんな感慨にふけって何もなくなった外を呆然と見つめていると、どこからか叱責の御言葉を頂戴することになった。2-Aのthe委員長こと洞木ヒカリだ。
「ほら校内放送聞こえてたでしょ!カナメ君は転校してきてまだ日が浅いから私が案内するわ!いくわよ!」
「でもな委員長、ワシらがついてるから大丈夫や……」「鈴原だから心配してるんでしょ!ほらカナメ君!こんなのと絡んでないでさっさと行きましょ!」
「なんやて~~!?カナメもなんかこのおにばばに言ってくれんかい!」
「鬼婆ですって~~!?」
「お、落ち着いて二人共、とりあえずシェルターに行こうよ……」
途中から夫婦漫才が始まりその場にとどまる二人を慌てて止めて取り敢えずシェルターに避難することを促す……が、しばらく言い合いを続ける二人、いや、一方的な戦況だった。話し合い(という名の一方的なお叱り)が終わったのか何かすっきりしたようなヒカリがこちらに向き直ると、
「だいぶ遅れちゃったけど、シェルターに行きましょっか」
と周回遅れの避難の開始を宣言するのだった。
◇ ◇ ◇
さて、これにて避難生活が始まったわけだが
「ねえ、ちょっと二人共、話があるんだけど」
と、いつにもましてそわそわした様子のケンスケが話しかけてきた。ああ、あのイベントかと思いながら僕もそわそわしてきた。そんな二人の様子を見かねてかトウジが「しゃあないなあ」と腰を上げ、クラスメイトと談笑中の委員長に向かって
「ワシら三人、便所や!」
と、集団行動の中で自由の利かない中、秘密の話がしやすい場所への場所移動を取り計らってくれた。もちろん委員長には嫌な顔をされたが……まあ、背に腹は代えられないということで御堪忍ください。……てか委員長と話してた子かわいいな。今度お近づきになりたい。まあこの考えは今のこととは全く関係ないので無視していいよ。なあんてことを考えながらトウジ達についていくと男子トイレが近づいてきた。
「で、なんや?」
トイレに移動するとトウジが用を足しながらさっきの話についてケンスケに問いだした。
「死ぬまでに、一度だけでもみたいんだよ!」
「上のドンパチか?」
「本物なんだよ!今度いつまた、敵が来てくれるかもわかんないし……」
「ケンスケ、おまえなぁ……」
「なあ、カナメも見たいだろ?それに碇が戦ってるんだぞ?」
「実は超見たい」
「だろ~??だから、な!頼むよ~。このときを逃しては、あるいは永久にっ!ロック外すの手伝ってくれ」
「よしっ、取りあえずは二対一だね」
「はあ、しゃあないなぁ。……お前らホンマ、自分の欲望に素直なやっちゃなぁ!」
半ば呆れたように僕らを見つめるトウジと反対に満面の笑みを浮かべるケンスケ、まあ僕もにやけてはいるんだけどね。
と、そんな調子でシェルターを飛び出し、体力の限界を忘れたように山を駆け上がって山の中腹にある神社からシンジ君の戦いを見下ろしたところまではよかったんだが……とカナメは今日の出来事を思い出す。そしてその後、冒頭の話に戻った。
◇ ◇ ◇
赤いイカのような、いやエビのような見た目の『使徒』と呼ばれる敵性生命体に狙いを定め、引き金を引く。これが電動ガンやエアコキの銃なら着弾箇所がすぐわかるのだが、これは実弾。着弾したら爆炎を出すしそれが視界を遮るのもまあ道理なのだろう。
「馬鹿、爆煙で敵が見えない!」
「くっ!」
しかし、実際そんなことは聞かされていない。シミュレーションと違う光景にシンジは苦戦を強いられていた。乗りたくはない、しかしカナメや新しく仲良くなったみんなのためにもこの敵を倒さなければいけない。そんな考えがシンジをこの敵と戦わせる理由になっていた。並走ビルをも切り裂く二本の触手から放たれる斬撃をすんでのところでかわし、咄嗟に別のビルの陰に隠れる、が、まるで豆腐を切るかのようにビルが切られ、次いで爆散する。焼けた鉄の雨を浴びながら初号機はガトリング砲を使徒に向けるが、弾が切れておりカチッという音だけが鳴り響くだけだった。
「はあ、はあっ……」
集中のし過ぎか頭に酸素が回らない、息を切らしながら次の行動を考える。そんな思考の間を縫うように使徒から光の鞭が放たれる。
「ひっ……」
その自分へとむけられた命を刈り取る攻撃に怯みシンジはとっさにかがむ。その隙に距離を詰める使徒。
「予備のライフルを出すわ、受け取って!」
ミサトの合図で、新たなライフルが格納されたケージが、地上から射出される。が、シンジは動けない
「……シンジ君?シンジ君!?」
遠くでミサトが声を掛けるのを感じてはいるが体が動かない。今シンジの体を支配しているのは目の前の敵に対する恐怖だった。怖い怖い怖い。体が言うことを聞かない。
「うわっ!」
そんな、動きを止めてしまったシンジをもてあそぶかのように、初号機の足に触手を絡めると空高く放り投げた。宙を舞う初号機、その体が中空で二、三回転した後シンジの体にドンっと鈍い衝撃が走った。シンジが痛みに体をこわばらせながら起き上がる。エヴァの巨体を起き上がらせるために力を籠めようとして、何気なく力の込め先を見るとそこには、そこにに居るはずのない見慣れた三人の姿があった。
「~~~~~~ッ!」
声にならない悲鳴を上げるシンジと、半泣きで抱き合っている三人組。状況を素早く察知したミサトはシンジに三人組の収容を命じエントリープラグのハッチを開かせた。
「そこの三人!乗って!」
慌てて乗り込む三人組。ドボンッと音がして暫くごぼごぼ言った後にハッチが閉まりエヴァが動き出す。カナメはL.C.Lがどんなものか気になってはいたが、実際に経験して改めてエヴァパイロットの凄さに気付かされた。……うん、これは慣れることはできなそうだな。エヴァに乗れたうれしさよりもL.C.Lを取り込む放の恐ろしさのほうが若干強かった。がそんな思考も『エントリー、スタート』の声とともに映し出されたモニターの様子に引き込まれ消えた。画面全体に映る使徒
「う……くっ!」
シンジが力を込めるのに連動して投げ飛ばされる使徒、その巨大さと気持ちの悪さに圧倒される。
「今よっ、後退して!回収ルートは34番。山の東側に後退して!」
「碇、逃げろ言うとるで!碇!?」
ミサトさんの指令がエントリープラグ中に鳴り響く。が、動こうとしないシンジにトウジが声を掛ける。が、動こうとせずプログレッシブナイフを装備するシンジ。アニメでも同じことをするんだから当然だ。でも……とカナメは思う。アニメではトウジに殴られたりで参ってたからひかなかった。でも今回は状況が違う。シンジ君は殴られてないし何ならトウジ達とも仲良くなっているのに。
カナメが答えのわからない問いに思案する中、シンジは吠えた。ここで皆を守るために。
「うわあぁぁぁーーー!!」
山を滑り降り使徒めがけナイフ一本で白兵戦を仕掛けるシンジ、しかしリーチの都合上先に攻撃が届いたのは使徒のほうだった。腹部に光の鞭が刺さり激痛にあえぐシンジ、しかしシンジはひるまなかった。ナイフを持ちかえ両手でしっかり握りしめるとコアめがけて思い切り振りかざした。マヤによる初号機活動限界へのカウントダウンとシンジの方向が鳴り響く中、
「11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……」
活動限界が来たと同時に使徒の体が爆散し、大量のL.C.Lと化して消えていった。初号機の活動限界が来たと同時にエントリープラグの画面が消え、暗い閉所に中にシンジの息切れだけが木霊した。
「シンジ君……お、おつかれさま」
そんな重々しい空気で、僕はぎこちないねぎらいしかすることができなかった。
◇ ◇ ◇
「それでカナメ君、なんで君はあそこにいたの?」
僕ら三人組はエヴァが回収された後、別々に聴取を受けた。そして今が僕の番、なぜかミサトさんが対応することになった。
「え~とですね……ケンスケが……」
「相田君が外に出ようといったから、あんな戦場に飛び出したワケ?……これがどれほど危険なことか、最初に迎えに行ったときに十分わかっていたものだと思ってたけれど?」
「はい……申し訳ありません」
いつもとは違い声を落としたまじめな声色のミサトに気圧され下を向いていることしかできない。
「今回無事なのはよかったけれど、次回大丈夫という保証はないわ。それに、カナメ君は私の大事な協力者なんだから、自分を大事にしてもらわないと困るわ、よっと!」
「わっ、分かったからやめてくださいよ!」
一通り叱った後、いつものトーンで髪をわしゃわしゃしてくるミサトさんに少しひるむ。どうやらお叱りの時間は終わったようだった。
「あ、それと……」
帰り際言い忘れたことがあったのかミサトが話してきた。
「シンジ君も叱ったんだけど、あの子繊細だと思うからケアお願いしてもだいじょ~ぶ?」
「分かりました。一応やれることはやってみます」
「まかしたわよ~ほいじゃバイビ~」
と少し古臭いことを話しながら立ち去るミサト。僕はシンジ君が家出していないかを危惧しながらとりあえず帰路に向かった。
◇◇◇
「ただいま。シンジ君いる??」
帰宅したはいいものの暗い部屋に声をかけたが返事がない。やっぱり家出してしまったのか……なんて思いつつシンジ君の部屋をノックする。
「シンジ君?入るよ~」
部屋に入るとS-datを聞きながら寝転んでるシンジがいた。
「あ。え~と……今日、大丈夫だった?」
なんて我ながらぎこちない話しかけ方をしてしまった。
「うん。でもミサトさんに怒られちゃったよ。父さんにもぶたれたことなんてなかったのに……」
等と聞き覚えのある文句で答えてくるシンジに不謹慎ながら少し笑いそうになってしまった。
「ねえ、カナメ」
落ち着こうと別のことを考えているとシンジから話しかけてきた。
「みんなを守るために戦うのって悪いことなのかな。そんな気持ちよりも、命令のほうが大事だと思う?」
少しうるんだ目を向けながらシンジが尋ねてきた。そうか、あの時シェルターにいるみんなや僕らのために早く倒そうとしてくれていたのか。僕と同い年の少年が、そんなことを考えて戦っていたのか。と僕は苦しくなった。そんな重要な問いに僕はちゃんとした答えは用意できないと思う。でもシンジ君の苦悩を少しでも楽にしたい。答えになっていなかったとしても僕なりにシンジ君に応えたい。その一心で僕は口を開いた。
「僕はみんなを守るために戦うことはいいことだと思う、命令に背いてでも。だって世界を守る以前に、みんながいなくちゃ悲しいでしょ?」
その答えにシンジが顔を上げた。
「それに、今回ミサトさんがシンジ君をぶったのだって、ミサトさんにとってシンジ君の命も大切だからでしょ?今回の戦いでは勝てたけど、あと一秒でも遅かったらシンジ君が負けていたかもしれない。」
「そしたら、シンジ君、死んじゃうんだよ?そしたら僕も、悲しいよ……」
「カナメ……」
「それに、言えなかったけどぼくもトウジもケンスケもシンジ君に感謝してる。ミサトさんも今回怒っちゃったことを心配してたから大丈夫だよ。」
「カナメッ!」
いつの間にか涙と鼻水で顔面をくしゃくしゃにしたシンジが、がばっと抱き着いてきた。
「僕、ミサトさんに謝ってくるよ。それにカナメにも心配かけてごめん。」
「いいんだよ。そうだ、ミサトさんに謝るなら手作り料理もあったほうがいいよ!そうと決まれば買い出し言ってこよ!」
「そんなこと言ってカナメが僕の料理食べたいだけだろ??」
そう笑うシンジの顔は、等身大の中学生のようだった。
◇ ◇ ◇
その日の晩、夕飯を終えベットの上で今日あったことを思い出している最中、一つの違和感が僕の中で糸を引いていた。あの使徒は、殲滅されると同時に形状が崩壊していた。僕の知る中では形が残っており、その復元されたコアからs2機関の研究が行われていたはずである。と、いうことはもう
「エヴァ量産機は作られないってこと……なのか?」
そうひとり呟き思案したが、結局のところ未だ何もかも僕には想像すら付かなかった。
――――――
『次回予告』
さて、二番目の使徒を倒して多分量産機の作成も遅れるであろうことはまあ何となく予想がつきそうなもんだが……どうなるかはまだわからない。とりあえずミサトさんに報告でもしておこう。次回は無口美少女レイちゃんがついに!登場するかもしれない……
てことで!
次回『一人一人の向こうに』
この次もサービス~サービスぅ~!
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