「ミサトさん、この違いどう思いますか?」
僕は次の日の晩、ミサトさんに倒した使徒の形状崩壊について話した。ミサトさんの見解としては、使徒の形状崩壊はATフィールドを失ったことに起因している。なので形状が留まっているということは生命活動が続いている、即ち殲滅できていないのではないかということだ。つまりアニメの世界ではシャムシエルはまだ死んでいなく、その活動能力の失った体を回収、研究することで活動限界のないエヴァ、つまり量産機が造られたのではないかということだった。まあこれは仮説にすぎないし憶測の範囲を出ない。
「だけど……」
ミサトは続けて言った。
「何はともあれ、不安要素が減ったのはいいことじゃない?あの使徒のコアがきれいさっぱり残ってたって話も聞かないし……また一つ前進ってことにしておきましょ!」
そうミサトは声を明るくした。が、そう楽観的に考えるのはどうなんだろうとおもうカナメであった。
◇ ◇ ◇
「カナメ、今日ちょっと寄るとこあるから先学校行ってて」
ある日、通学路でシンジ君がそう声をかけてきた。
「どうしたの?」
「実は、ミサトさんに綾波のカードを渡せって頼まれちゃってさ……」
「え!ほんと?!着いてく!」
「でも悪いよ、学校からちょっと遠いし……」
「関係ないよ!ほら早くいこう!」
シンジの行く場所を聞いて僕はまくしたてるように返した。エヴァを見ていれば誰でもわかる、あのイベントだ。僕は別に綾波派ではないけれどそれ以前に一人の思春期の少年だ。まあ、だれでもそうなるだろう。この後起こることを知らずに僕に対する純粋な申し訳ない気持ちだけを発揮しているシンジ君には、きっと満面の笑みでまくしたてる僕は異質に見えているんだろうなあなと思う。実際僕でも僕自身がきもいと思う。
「たぶん、ここ……なのかな?」
地図アプリとにらめっこしていたシンジが一つのマンションの前で立ち止まる。ここら辺一帯に同じようなマンションが多く存在しており、リツコさんからもらったというマンションの情報がなかったら綾波のマンションが分からずに途方に暮れていただろう。
「402号室か……」
綾波の部屋に行くために歩みを進める。しかし蒸し暑いうえに長距離を歩いたせいか、階段を上っている最中に疲れ切った僕らの間には会話は生まれなく、ただ蝉の声と工事の音だけが鳴り響いていた。この世界、僕の好きなアニメの中ということもあって好きではあるんだけど四季がないから辛いんだよな。などと心の中で愚痴を漏らしつつ暑さで重い体を鼓舞し階段を上っているとやっと4Fの表示が見えてきた。角を曲がるとすぐ例の部屋が見えてきた。
「はあ、やっと着いた……」
「別に先に学校行っててもよかったのに」
息を切らせそう言う僕に対して、呆れたようにシンジが応えた。そんなシンジにうるさいやいっといった風に反応しつつ、深呼吸ののちに呼吸を整え顔を上げると、そこには『綾波』と書かれた表札があった。彼女にとは学校で何回も顔を合わせたものの話しかけても無視がデフォルトであり、あの鈴原をもってしても「あいつはロボットなんとちゃうか」と簡単に部分点をとれる程度の回答をさせるほどの超超無口人間だった。ただ最初は僕も何となくコミュニケーションくらいならとれるんじゃなかろうかと淡い期待を抱いていた。しかし自己紹介さえ無視されたときにはそんな考えもすぐに瓦解し、今ではシンジ君たちと共に4バカとしてふざける毎日を送っていて綾波には見向きもしなくなっていた。……噓です、実際アニメで見たときと同じくとてもかわいかったのでチラ見は頻繁にしていました……
そんな風に綾波との学園生活の回想を行っているとシンジ君が不安そうに聞いてきた。
「チャイム反応ないんだけど……入っていいと思う?」「入ろう、シンジ君」
「はやっ」
速攻で返事した。正直自分でも驚いた。
「そ、そう?一応ノックはしたほうがいいかな……?」
少し戸惑いながらもノックをした後恐る恐るドアを開けるシンジ君、使徒とは戦えるくせに意外とビビりなんだな。
「ごめんください……」
少しボソッとした声で声をかけるも反応がない。もしかして居ないのかなとも思っていたが、外出中に部屋の鍵が開いているのは少し不用心じゃないか?
「ごめんください!碇だけど。……綾波、入るよ」
もう一度、今度は大きな声で声をかけるシンジ君。が、しかしまたも反応がない。振り向いたシンジ君と目が合う。少し目くばせした後、僕らは意を決したように部屋の中にはいった。生活感のまるでない廊下を通り過ぎ中へすすむ。するとそこには薄暗い部屋があった。部屋にはベッドといす、それに小さい机と冷蔵庫しかなかったのだが、僕はその中でも血の付いた枕という異質な存在に目を奪われた。学校での綾波は常に包帯を巻いて生活していた。ただ、枕に血が付くほどの出血がある状態で学校に来ていたのか、それにそんな状態なのに涼しい表情を浮かべて生活していたのか。僕はその血痕を前にして綾波レイという存在を憂いた。そんなふうに僕が綾波レイに対して思いをはせていると、シンジ君の足が動いた。どうしたのだろうと思い声を掛けると、部屋のひび割れた眼鏡を手に取り
「これ。綾波眼鏡してたっけ……?」
と口にした。
「それは……あッ!」
「ん?なに……いッ!」
それはシンジ君のお父さんのじゃないっけ?と答えようと振り返ると、そこには裸の綾波がいた。僕がそれを見て固まっていると、同じく僕の目線の先を見ようと振り返ったシンジ君もその光景を見て固まった。そんな僕たちの行動を意に介さずにつかつかと綾波が歩み寄ってくる。
「……!い、いやあのっ!僕は、別にっ……ね!カナメッ!」
「!ちょっと僕に振ってくるのはずるいよ!」
「もとはといえばカナメが入ろうって!……うわっ!!」
言い訳合戦となって取り乱す僕たちを尻目に、綾波はシンジの手に持っている眼鏡に手を伸ばすと強引にそれを奪い取り、何もなかったかのように眼鏡ケースにしまうと、それまた何もなかったかのように着替え始めた。
「ぼ、僕はっ、た、頼まれてっ、つまり、なんだっけ……。か、カード、カードが新しくなったから、と、届けてくれって……だから、だから、別にそんなつもりは……」
そのまま着替え続けた綾波にシンジはしどろもどろになりながら今日この場にいる理由について話し始めた。一方僕は着替えから目をそらせずにいた。
「ぼ、僕はっ、た、頼まれてっ、つまり、なんだっけ……。か、カード、カードが新しくなったから、と、届けてくれって……だから、だから、別にそんなつもりは……」
「シンジ君、もう綾波聞いてないと思うよ……」
綾波が動き始めても話し続けるシンジ君に、綾波の背中を追いながらそう教えた。
「……この後どうする?シンジ君……?」
「どうするったって……謝るしか、ないんじゃ、ない……かな?」
そう話しながら僕たちは主人がいなくなった部屋で二人、頭をうならせた。
◇ ◇ ◇
結局遅れて学校には行ったものの、気まずい雰囲気を抱えたまま放課後を迎えてしまった僕らは、それはまたぎこちない動作で帰路に就いたのだった。
「はぁ~、結局謝るどころか話しかけることすらできなかった、どうしよう……」
そう肩を落とすシンジ。正直、僕もアニメで綾波がどういう人物かわかっていながら狼狽し現状を憂いているのだから、何も知らないシンジの憂慮はきっと僕の計り知れないところにあるのだろう。ましてはこの後
「シンジ君はこの後カード渡さなきゃだしね……」
「そうなんだよ、僕だって渡したいわけじゃないのに……」
そう憂うシンジの手には今朝渡し損ねた綾波の新しいカードが握られていた。そしてタイミングの悪いことに、エヴァンゲリオンのパイロットに義務付けられたシンクロテストも本日行われる手はずになっており、一足早く赴いた綾波はというと新しいカードがないのでNERVのゲートをくぐれない。つまりシンジは、この後間を開けることなく二人きりで綾波と対面しなくてはいけないのである。
「まあ、がんばってね……」
「はあ……いいよなあ、カナメはお気楽そうで」
「あはは……」
「もういっそ笑ってくれ……」
とってつけたかのような励ましの言葉にムッとしたのかシンジ君が反論してくる。が、ムッとしていてもこの先の未来は変わらないことを悟ったのか力なくうなだれた。その会話から程なくしてNERVとマンションを分かつ枝道に差し掛かると、僕らはどちらも力ない別れのあいさつを交わし別々の帰路についたのだった。
◇ ◇ ◇
シンジ君の帰宅後、NERVで起こったことの顛末を延々と聞かされた。要約すると綾波に謝ったところ、今日起こったとは気にしていなかったようだが、その際少し触れた碇指令をけなす言葉が琴線に触れ顔を平手打ちされたということだった。
「それにしても綾波にとって、父さんって何なんだろ」
頬をさすりながらシンジが問いかけてきた。
「何って……僕に聞かれてもなあ」
その質問に声を詰まらせた。実際綾波とゲンドウが仲睦まじく話していたことを僕が知っているということ自体シンジ君は知らないし、知っていたとしても僕にはなんていえばいいのかわからない。綾波が実は母親のクローンで……なんて言えるはずもなく、そもそも今のレイから見たゲンドウがどんな存在かなんてエヴァという作品を通してもよくわからなかったし……そんな風に頭を悩ましていると「さすがにわからないよね」と苦笑しつつシンジ君が口にし、また今日一日のごたごたで心身共に疲れてしまったのか「先に寝るね」とリビングを後にしたのだった。
――――――
『次回予告』
綾波の裸を目撃してしまった僕たちだったけど、謝っても謝らなくても結局綾波はどうも思っていないってのを考えると謝らなくてもいいよねって思いました。現場からは以上です。さて次はラミエルさんが出てきて超ピンチ!そして遂にシンジ君が最初の黒星を上げてしまう!
次回『決戦、第三新東京市』
この次もサービス~サービスぅ~!
大学が始まってしまったのでさらにペース落ちるかもです。申し訳ない……