エヴァンゲリオンAnotherWorld   作:時雨光多

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第伍話 決戦、第三新東京市

「シンジ君がッ……!」

 

そんなミサトさんの悲痛な声とともにシンジ君の容態を知らされたのは、避難したシェルターの中でだった。

 

その日僕は久方ぶりに鳴った緊急事態警報に従ってシェルターに避難していた。あいにくと休日で家から離れていたこともありトウジ達第壱中学校2年A組の知り合いに会うこともなく、話し相手のいない中、若老何人かと一緒にスカスカのシェルターで、ひとり暇を持て余していた。僕が避難したシェルターは簡易的なもので、お世辞にもそこまでの耐久性能があるとは言えないものだった。だがまあ今回は三回目の襲来ということはラミエルなのだろうし、直線攻撃でありまた攻撃地点制圧攻撃を使うだけで民間人にはあまり危険性はないだろうから大丈夫だろうというのが僕の感想だ。そんなことを考えつつ非常電源の節約のためか昼間なのに薄暗い部屋の中でボーっと過ごす。しかしこうちょうどいい感じに暗いと眠くなるな。周りの人たちは外がどんな状況かわからずに落ち着かない様子でいるが、僕はアニメで見た光景が外で起こっているに過ぎないのであまり緊張感がなくなっていた。そのまま何となく横になると、僕の意識は数刻もしないうちに遠のいて……行かなかった。直後辺り一面に轟音が響き渡り、寝そべっていた大地がまるで鼓動のように脈打って地面にシェルターの支援物資が散乱した。その状況に、まだ幼年であろう小さい男児が声を上げて泣き出し、それに感化されたのかどよめきと不安が伝播する。ある人は胸の前で手を組んで祈りを、またある人は怒りをあらわにするように大声を荒らげ、とても正気の保てそうな空間ではなかった。どうやらここに来て簡易的なシェルターに避難したのが裏目に出たようだ。僕がこの戦いで被害を被ることはないというのはわかっている。しかしこう不安の蔓延した中ではその精神も徐々に蝕まれてきており、部屋の頼りなさに不安を覚え始めてしまっている。頼むから早く終わってくれ。今はそう願い、戦いが一刻も早く終わるのを待つ他なかった。

 

◇ ◇ ◇

 

どれほど経っただろうか、いやどれほども経たなかったのだろう。不意に外が静まり返り、そこからしばらくして緊急事態警報の解除の知らせが響いた。もうシェルターから出ていいはずだが、何が起こっているのかわからないからなのか誰もがおびえて動けない様子だった。そんな様子を横目に外に出ると、まだ陽が高く昇っていた。あの轟音は何だったのだろうか、あたりを見渡すが高いビルに囲まれ見通せず、見た段階だけでは何が起こったのかわからなかった。ラミエルの光線がビルとエヴァに当たった音か。そう自分を納得させつつシンジ君が心配になった。あの轟音と揺れ、光線にそんなパワーがあるんだ、きっとダメージも相当大きいはず。と思っていると電話が鳴った。ミサトさんからだ。シンジ君のことかと思いつつ電話に出る。

 

「はい、カナメで」「カナメ君ッ!シンジ君がッ……!」

 

電話に出ると、ミサトさんはこちらの声を遮るように焦燥感のこもった叫びを口にした。先ほどの戦いで何かあったんだろう。確かにアニメでも負けて怪我をしていたが、ミサトさんにもこの情報は共有していたしその程度では驚かないだろう。となると……思案を巡らせれば巡らせるほど嫌な汗が背を伝う。

 

「シンジ君が……どうかしたんですか?」

 

恐る恐る、震える声で質問する。心臓がいつもより早く鼓動を刻む。ミサトはこう続けた。

 

「シンジ君が心肺停止状態になったわ。今治療班が必死に蘇生作業してくれているから、助かる可能性は高いけれど……」

 

「し、心肺停止ッ!?」

 

ある程度のことは覚悟していたがまさか心肺停止とは……もしこのまま意識が戻らなければラミエルが特殊装甲を貫通する方が早くなってしまう。やっぱり僕が来たことで歴史が変わってしまったのか?焦る思考をまとめ上げるが上手く言語化できない。

 

「今のネルフの技術力でどうにかならないんですか……?」

 

「そうね、今までここまでの事態にならなかったから何とも言えないわ……これは、私たちの怠慢ね……」

 

頭が回らない中率直な意見としての不安を吐き出す僕に、ミサトさんは声を震わせながらそう答える。ミサトさんも保護者替わりとして、また上司として何か思うところがあるのだろう。

 

「急に不安にさせてごめんなさいね。でもシンジ君の友人として……いや私たち家族として、カナメ君には伝えておかないといけないと思ったの」

 

ミサトさんの言葉に心が締め付けられる。エヴァに拘る人間とただの傍観者、それがミサトさんたちと僕の関係だった。だけど、そんな何処か一線引いていたのは僕だけだったのかもしれない。そんな僕も家族として受け入れてくれたミサトさん。その温かい言葉に触れ、こんな大変な中だけれど僕は心を揺さぶられた。

 

「ミサトさん……ありがとうございます。シンジ君のこと、頼みます。」

 

 今なにもできないのは歯がゆいが、シンジ君のことはミサトさんに任せよう。あとは……

 

「僕は、僕のできることをしよう……」

 

そうひとり決心し、僕は仄暗いシェルターを後にした。

 

◇ ◇ ◇

 

シンジ君が目を覚ましたという情報を聞いたのは夕方のことだった。ミサトさんからの続報に喜びはしたが、「ヤシマ作戦」の準備に奔走しているらしき電話越しの背景音に遠慮し、あまり話せなかった。だけどシンジ君は何とかはなったようだ、本当に良かった……。ただ……シンジ君にとってはこれが初めての敗北だし、彼は死にかけたんだ。きっと今までと同じマインドではエヴァには乗れないだろうし、僕らの想像もできないことを背負ってる。

 

「だから……」

 

シンジ君に対して何かできることはないか、そう考えた結果のこれだ。そう決意し、後ろの二人……鈴原トウジと相田ケンスケに向き直った。

 

「僕らは戦いには直接かかわれない、でも……」

 

「だから、応援のメッセージを直接届けるんでしょ?」

 

「ほんま、カナメは碇碇うるさいやっちゃなあ……」

 

僕の問いかけケンスケは眼鏡を上げながら、トウジは腕を組みながら各々が笑みを含んだ顔でそう答えた。

 

「てことで委員長、ちょっとだけ時間ちょうだい!すぐ目の前の公衆電話使うだけだから!」

 

二人の確認が取れたことで、少しの時間を借りれないかと僕は委員長に直談判した。今回僕たちが戦いに一つも関われない原因として、今回は第壱中学校の全員で避難しなければいけないということもある。しかも集団行動が原則、持ち場を離れることは許さないとのお達し付きだ。なんせ前回の使徒襲来時にトイレだとか言ってシェルターを抜け出し、挙句使徒殲滅の妨げになった第壱中学校の馬鹿三人がいたとかでNERV、第壱中学校の両団体の中で大問題になったからだ。まあ僕たちなんですけどね……そんな前科者として地に頭が付きそうなほど頭を下げる頭の上で手を合わせるようなポーズで少しの許しを得た。

 

「もう……ちょっとだけよ!ただ、もう少しで公衆電話がある道に出るからそこまでは我慢してなさいよ。」

 

 

「ありがとう!それまではおとなしくしとくよ」

 

難航すると思ったが、どうやらこの先の避難経路のわきに公衆電話があるらしく、そこで電話をすることができるようだ。良かった、もしどこにあるかもわからない公衆電話探しに行くなんて言ったら、滅茶苦茶怒られて挙句電話すらできないんだろうな。三人一様に胸をなでおろし、その時を待った。全員での避難ということもあり、列の進みがゆっくりなのでとてもじれったい。そんなとても短いはずなのに長い時間歩いた結果ようやく公衆電話にありつくことができた。

 

「カナメ、準備ええか?」

 

「……うん。大丈夫」

 

自分が戦うわけではない。ただ応援するだけだ。それなのに震えが止まっていない僕にトウジが声を掛けた。実際みんなにはわからない。今回の使徒は二回でコアに陽電子砲を撃ち込めなければ僕らの負け。即ち死だ。正確に打ち抜くにはメンタルがより安定していないと難しいだろう。しかし今シンジ君には心肺停止という臨死体験で心に刻まれた死という文字がある。僕らはそれを可能な限り解消させてあげなければならない。だが、僕にその言葉が言えるのか……?大丈夫と口では言えても、そんな思いが今も僕の体を震わせた。

 

「ほな、いくで」

 

チャリンと100円玉を差し込み、通話を始めた。が、

 

「……出んわ」

 

「ええっ!!?」

 

出鼻をくじかれるとはまさにこのこと、と言わんばかりに最初から不発に終わってしまった。焦りつつ「ちょっと貸して」と受話器を借りると、受話器からは『現在、特別非常事態宣言発令中のため、全ての回線は不通となっております』との機械音が。あっと声を上げて思い出した。そうだそもそも僕らが公衆電話からかけようって言ったのも非常事態宣言中でまともに携帯電話が使えなかったからだ。てことは

 

「ネルフ広報部あてなら届くかも、あそこ使徒の情報も集めてるから非常事態宣言中でもつながると思う」

 

「すごいなカナメ、使ったことないから忘れてたよ」

 

そうケンスケに称賛されて照れつつ再度電話をかける。するとNERV広報部ですという機械音の後に僕らからの情報を伝えろという趣旨の録音時間が設けられていた。

 

「もしもし、シンジ君?」

 

総向こうに向かって呼びかける。返事はない。

 

「カナメだけど、明日の夕飯はカレーがいいな。」

 

変かもしれない。しかも一つも戦闘とはかかわりのないことだ。ただ、僕のすることはシンジ君を鼓舞することじゃない。シンジ君のメンタルを安定させ、リラックスしてもらうのが目的だ。それには当たり障りのないこと、日常のことを伝えることが一番いいんじゃないか。そう思い僕は敢えておちゃらけようと思った。次いでトウジとケンスケが話す。

 

「あの、鈴原です。碇、いや、シンジと呼ばせてくれや。シンジ、頼むで」

 

「えー、相田です。碇、頑張れよ」

 

そういえばトウジはまだ碇と呼んでたなケンスケはずっと碇だけど。でもトウジそこからいきなり呼び捨てか。なんてことを考えてると、ふと疑問がよみがえった。そういえば今の僕はシンジ君のことをシンジ君って呼んでるけど、今までの僕はなんて言っていたんだろう。そんなことを考えてはいたが、委員長のせかす声に僕らは速足でその場を立ち去らなければならず。また今度でいいやとなってしまった。

 

◇ ◇ ◇

 

戦いが終結した。終わったんだ、ラミエルとの戦いが。それを知らせる緊急事態警報解除の無線を聞き、僕は深く、息を吐きだした。地下のシェルターにいたこともあり振動、光ともにゼロに等しくとてもあっけない終わり方だったが、一般人目線ならそれが普通なのかもしれないな。そうやって何もわからずに世界が終わる。だから僕は一般人としてこの世界で過ごすつもりはない。うれしくも僕はシンジ君の友人としてこの世界に生まれ落ちた。だから僕は、この世界でサードインパクトを阻止して生き残る。僕は拳を握りしめ、そう改めて誓ったのだった。

 

――――――

 

『次回予告』

改めて僕は思う、僕は死にたくないと。僕はこの世界で幸せになりたいと。

 

次回は僕らに転機が訪れる。

 

次回『アスカ来たれり』

 

この次もサービス~サービスぅ~!

 

 




理系の国公立なので毎週めちゃ重レポート出てるので投稿頻度がさらに落ちるかもです。すみません。
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