エヴァンゲリオンAnotherWorld   作:時雨光多

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破章~運命~
第六話 アスカ来たれり


ラミエルが倒されてから数か月、僕らは地下での避難生活を余儀なくされていた。曰く使徒が形状崩壊したときのL.C.Lで地上は水浸しの大打撃をこうむったらしい。そんなこんなでしばらくの間支援物資を受け取る生活が続き、今日やっと家に帰れることとなった。久しぶりにマンションのベランダから見た町はビルの数が減ったのか見通しがよく、少し物寂しく感じた。そんな景色を横目に玄関を開けるとまるでお帰りとでも言うように「グエーッ!」という鳴き声を上げたペンペンに玄関で出迎えられた。

 

「ただいま!」

 

「お帰り~!」

 

久しぶりの我が家、久しぶりのシンジ君の声にしみじみと感じつつ靴を脱ぐ。廊下を進むとようやく声の主に会うことができた。

 

「ホントに久しぶりだね~。お疲れ様」

 

「ありがとう。てかあの伝言なんだよ。ご飯はカレーがいいって」

 

膝を立てて座っているシンジ君に、対面で苦労をねぎらった。すると笑みを浮かべながらシンジ君が僕たちの残した伝言について苦言を呈した。

 

「あれはシンジ君のメンタルを……」「冗談、それくらいわかるよ。ありがとね」

 

僕がその意図を話そうと口を開くと、わかっているよという風にシンジ君に遮られた。どうやら僕の魂胆は見透かされていたようだ。えへへと笑うシンジ君に僕は、「もう、大丈夫なんだ。」と素直にほっとした。

 

◇ ◇ ◇

 

その日の夜、帰ってきたミサトさんとWILLEの活動を行った。久しぶりに対面であったミサトさんは始末書か何かで忙しく眠れなかったのか、目の下にクマが深く刻まれていた。

 

「さて、今日の話だけど一つ報告があってね。」

 

先に口を開いたのはミサトさんだった。吉報なのか声のトーンがやや高い。組んでいた足をおろし、対面に座っている僕にぐっと顔を近づけて、ミサトさんは次のように続けた。

 

「ネルフで協議した結果、空路での二号機パイロットとエヴァ2号機の輸送が決定したわ。近々こっちに来ることになってるから一応確認しといてね~」

 

「えっ、それって……」

 

「そう、輸送途中の使徒襲来を未然に防げることになったわ。」

 

そう伝えミサトさんはにかっと笑った。が、その後すぐに「ただ……」と付け加えてボソッと「加持がついてくるのは癪だけど」とふてくされたような顔でつぶやいたのは聞かなかったことにしておこう。本心ではきっとうれしいに違いない、ただ素直になれないだけなんだ。

 

「あとは……そういえば、カナメ君の予言とちょっち違ったことがあって……」

 

続けて今度はあまりよろしくなさそうなトーンで切り出し始めた。いい話と悪い話という所だろうか、どちらを選ばせるかは僕に選択権はなかった。が、夜中に活動を開催していること、僕が中学生という身分であるということを考慮して手短に終わらせようとしてくれているのだろうか、その配慮に保護者らしい一面が垣間見えた気がした。まあそんなことはさておき少し深刻そうな様子で、まあそこまで重要じゃないんだけどと切り出した。

 

「今回の使徒殲滅の被害でどこか被害を受けたのか……まあ詳しくはわからないんだけど、カナメ君の言っていたジェトアローンだっけ?の起動実験を行うとかいう連絡は今のところ聞いてないわね。」

 

ネルフ諜報部からの調査結果の紙だろうか、中身は門外不出であろうことから僕でも見ることがかなわないのは残念だが、その資料を片手にミサトはジェットアローンの起動実験を行うという情報がないことを告げられた。

 

「そうですか……まあでもあれはそんなに重要じゃないと思いますし大丈夫では……僕が来たことで些細に変わってしまったということもありますし。」

 

実際僕が来たことでの、この世界の変化はどうなるのか想像もつかない、全く別の世界へ来たとすれば大きく変わってしまうのも無理はないが、エヴァの世界と同じ世界で今までの僕はたった一人の凡庸な人間だった。唯一シンジ君の友達であったというだけだ。それ以外の特殊な出生は何もない。そんな僕には世界を変えるとしても精々自分の身の回り、例えばケンスケが本当なら買うはずだったパンを先に買ったくらいのことしかできないはずだ。まあシンジ君のメンタル的に、僕がいることでシンジ君の方がエヴァで暴れた結果、だんだん結末が変わって行ってしまうということも無きにしも非ずだとは思うが……

 

「でも、そんなこと言ってたら今後来るであろう使徒の予測も意味なくなるってことになるわよ?何事にも原因はある。ひとつづつ考えていきましょ。実際時田シロウという人物は開発責任者に確認できたし、全くの検討違いってわけもないと思うし……」

 

そういって僕の意見を一蹴したあと、ミサトさんは手に持ったペンをとがらせた唇と鼻の間に器用に乗せ、頭の裏で手を組んで考え始めた。しばらく考え込んだ後あっというように何か思い出したような表情を浮かべた。

 

「……1区画ごと初号機を回収したのが悪かったかも。確かに始末書の中に通産省やら日本重化学工業共同体やらあった気がするし……」

 

「1区画ごとってどういうことですか?」

 

聞きなれない言葉に眉を上げるとミサトさんが説明してくれた。要は第三新東京市の区域丸ごとジオフロントに落として強制的にエヴァを回収するといった粗治療を行ったそうだ。これには僕も開いた口がふさがらなかった。あと、この話でやっと一つの疑問が解けた。ラミエルが来たとき初日に起こった轟音と地響き、あれミサトさんのせいだったんだ。僕はそんなミサトさんのいかれっぷりに心底驚き、生きててよかったと心の底から思うのであった。

 

◇ ◇ ◇

 

そんなこんなで日常が戻ってきた。どうせすぐ使徒が来るんだろうし……なんて考え方は置いておいてしばらくの平和な日常を享受するつもりである。そんなある朝、シンジ君が少し心ここにあらずな様子で話しかけてきた。

 

「カナメ、明日……さ、その、母さんの命日なんだけどさ、えーと、父さんに連絡して一緒に行くことになったんだけど……その、なんていうか、どうしたらいいと思う?」

 

そうか、碇ユイさんの命日なのか。僕はシンジ君とゲンドウの関係誠意はわかっているつもりだから、無遠慮にお父さんと一緒に行けることに良かったねとは言えない。でも、最後まで理解しあえることはなかったが、ユイさんのお墓参りのシーンはお父さんをシンジが知る貴重なシーンであるとも思っている。だから

 

「お父さんと色々話せたらいいね」

 

僕は暗に行くことを勧め、父と子の対話を勧めることにした。

 

◇ ◇ ◇

 

「じゃあ行ってくるわね~」

 

「頑張ってくるね」

 

「いってらっしゃい、頑張ってね」

 

翌日の朝、ミサトさんに連れられて出発したシンジ君を見送った後、僕も学校へと足を進めた。

 

「なんやシンジは休みかいな」

 

「うん、お母さんのお墓参りだって」

 

登校一番トウジがそんなことを言ってきた。シンジ君好きすぎだろと思いつつお墓参りだと答えると、トウジは「なんや今日の課題みせてもらお思てんに」……と目の前で分かりやすく項垂れた。なんだ、ただ課題が聞きたかっただけか。シンジ君あれで意外と頭はいいからなと思いつつ「僕が教えよっか?」と問いかけると先ほどまでとは一変して目を輝かせると、トウジはカバンから真っ白なレポート用紙を取り出したのだった。ちなみにこの後ケンスケとも同様の会話があったのはまた別の話……正直デジャヴかと思った……

 

◇ ◇ ◇

 

緊急事態警報が鳴ったのは、トウジケンスケ共に課題が提出できた本日の昼頃のことだった。まあ避難することになったわけだが、何故かシェルターに着く前に警報が解かれた。誤報かな?なんて思っているとピコン♪とポケットから音が鳴った。取り出してみるとホーム画面にミサトさんからの連絡のようだ。見ると『セカンドチルドレンが到着したわよん。来たいなら一応許可証も発行しといたから警備員にこれ見せてネ』という文と共に現在地のURLと入構許可証が添付されてきた。その文章を一瞥した後、最初に出た言葉が「……へ?」という間抜けな声だった。会える?うそでしょ?本物のアスカラングレーに?頭がショートしたように感じた。そもそもいつ来日するかなんて聞かされてなかったし、ましてやあの会話から数週間もかからずに来るなんて……アスカに会える、その期待値は計り知れず、そのせいで多分口をあんぐりさせていたので今の僕は見た目からしても間抜けだったと思う。そんな思考通りというか隣にいたケンスケが「そんな鳩がアハトアハト食らったような顔してどうしたの」とミリオタ基質のセリフで聞いてきた。隣にいたトウジも僕がこんな顔をしたのが初めてだったからか気になったようで「なんや?なんかあったのか?」と顔をのぞかせてきた。そんな友人たちの問いかけに答えようと口を開くが

 

「ななななんか、ミミミサトさんから……」

 

と、震えた声しか出なかった。ケンスケが「ちょっと落ち着けって!ほら、深呼吸!」と慌てて僕を落ち着かせようと空気を大きく吸って吐かせた。数回深呼吸してやっと落ち着きを取り戻せた僕はもう一度ミサトさんからの連絡を教えた。

 

「なんかエヴァ2号機が来てて……見に行ってもいいらしいって、ミサトさんが……」

 

「なんだって!?ほらカナメ!トウジ!早く準備して!俺はもういけるから!」

 

話し終わる前にケンスケがガタっと音を立てて立ち上がると、早口でまくし立てた。驚いてケンスケのほうを見ると、光る眼の奥に何倍も光る眼がうかがえた。心なしかむふーっと鼻から蒸気が出ている気がする……

 そんなこんなでまくしたてられるかの様に電車に乗ると、そのままミサトさんの位置情報を頼りに封鎖区域へと移動したのであった。

 

◇ ◇ ◇

 

封鎖区域に着くと、入り口に見知った人影が手を振っているのが見えた。

 

「シンジ君!!」

 

そう言って僕たちが駆け寄ると、「ミサトさん達あっち居るからついてきて」と道案内してくれた。歩いてる途中今日あったことを聞いた。ゲンドウとお墓参りに行って少し話せたこと、帰る途中に使徒が表れたが2号機が瞬殺したこと、これから2号機パイロットと初対面することなどを歩きながら話した。そんなこんなでしばらく歩くと、架線沿いの道の奥の方にミサトさんと、更に奥に綾波レイの姿があらわれた。

 

「皆来たわね。ちょうどよかった、そろそろ通るわよ」

 

「え、通るって、エヴァがですか?」

 

不思議な言い方に驚いて聞き返すと、ミサトさんが一瞥してにこりとした後横の架線を示した。

 

「まさか……」

 

はじめに口を開いたのはケンスケだった。どうやら何かを察してそれが琴線に触れたのか体の前で両こぶしを握り締めると、その手を上下に振りながら興奮したように話し始めた。

 

「これが諸君!果たして僕ら一般人に許されていいのだろうか!僕らのすぐ隣をエヴァ専用のリニア軌道電動貨物車によって運ばれたエヴァ、しかも新型が通る!ああ、もう今日死んでもいい!」

 

そうまくし立ててうれしさのあまり涙ぐんでいたケンスケに僕らは若干引いた。けれど、僕は僕でアスカに会える、その気持ちの方でケンスケと同じくらい感動はしているからケンスケの気持ちもわかる。はたから見たらケンスケも僕も変わらないんだろうなあ。ちょっと悲しくなった。そんなコイツと同じなのかぁという表情が伝わったのかケンスケに「なんだよカナメ!!カナメも楽しみなくせに!!」と見当違いではあるがまあ近からずも遠からずな突っ込みを食らった。実際にはそうだがそれはそれとしてコレと一緒と思われるのは流石に心外だったので「今のケンスケと同じなんて、いや~ンな感じ!」とケンスケの持ちネタを使いつつわちゃわちゃ、ああでもないこうでもないと暫く騒いでいた。

 すると、しばらくしてずっと沈黙を守っていた綾波が本日初口を開いた。

 

「くるわ。」

 

その言葉に架線の先を見ると、大きな列車がゆっくり近づいてくるのが見えた。どんどん大きくなってくる列車が、エヴァの大きさを物語っている気がした。そしてとうとう僕らの眼前にエヴァの顔がお披露目された。エヴァ2号機、その大きさを近距離でまじまじ見ると、ケンスケほどではないが興奮はしてくる。思わず「おうふ……」と声が漏れた。エヴァを見る僕らの容態は様々で、デオカメラのファインダーを夢中で覗くケンスケと、ぼうっと立っているシンジ、それにエヴァを見上げて「ふぇー……。赤いんか2号機って」と小児並みの感想をこぼすトウジの三者三様だった。そんな僕ら全員の意識を

 

「違うのはカラーリングだけじゃないわ。」

 

と、エヴァの上から突然聞こえてきた声が奪った。特に僕は雷に打たれたような衝撃だった。人生で絶対起こることはないと思っていた人物との対面、そしてこの世界に来て一番会いたかった人との対面、それが今もうすぐそこにあるのだ。その僕にとって聞きなれた声の主を目で追うと、彼女輸送されていくエヴァの上にいた。そしてその、まるでアニメの世界から出てきたような金髪の少女は僕らを見下ろし

 

「所詮零号機と初号機は、開発過程のプロトタイプとテストタイプ。けど、この2号機は違う。これこそ実戦用につくられた世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。正式タイプのね」

 

そう自慢げに続け不敵に笑った。

 この邂逅は僕にとって本当に夢のような話だった。僕はアスカのことをアニメキャラという枠組みを超えて好きになったし、映画で鳥葬されたときは号泣した。そんな前世で僕の感情を一番動かした少女が僕の目の前にいる。感極まりすぎて泣きそうだった。出会えたことへの喜び、その愉悦にしばらく浸りたい、ちょっとくらい浸ってもだれも文句は言うまい。そう思って浸ろうとしている中で、ミサトさんが「紹介するわ。ユーロ空軍のエース」と僕らに彼女を紹介しだした。そんなこと知っているし今更いらない。僕は再び自分の世界に戻ろうと目を閉じようとした。が、ミサトさんの続けた言葉がその行動を封じ、僕の意識をこの世界に引き戻した。

 

「”式波“・アスカ・ラングレー大尉。第2の少女、エヴァ2号機担当パイロットよ」

 

見知った顔に知らない苗字。嫌な予感が、僕の脳裏をかすめた。

 

――――――

 

『次回予告』

恋心を抱き、ついに会えたと思った彼女は知っているあの子とは苗字が異なっていた。そのことに絶望したカナメはこの先どうなるのか。それはだれにもわからない。

次回『カナメ、逃げもせず』

 

この次もサービス~サービスぅ~!

 

 

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