数日後、ジャックは懐かしさに顔を綻ばせながらホグワーツ内を探索していた。
ふと、廊下の端にしゃがみ込んだ2人の赤毛がこそこそ何かをしていることに気付き、そっと後ろから覗き込んだ。
「ーーー何してるんだ?」
「うわぁ!」
「ーージャック先生!」
声をかけられ飛び上がったフレッドとジョージは慌てて手に持っていた物をぱっと背に隠しウロウロと視線を彷徨わせた。
「あーいや、なんでも無いです」
「うん、な なーんにも無いです」
「ふーん?俺はてっきりーーこの爆弾を階段に仕掛けるのかと思ったけどな?」
「あっ!」
背の高いジャックは素早くジョージの後ろに隠された小さな爆弾を掴んだ。流石に没収されるか、とジョージとフレッドは俯き口を尖らせた。
「これ…既製品じゃないな?…作ったのか?」
「え?…あー…うん…ヒエビエ爆弾をちょこっと改良したんだ」
「へえ!どうなるんだ?」
ジャックがあまり怒っていない事に気付き、さらにその興味津々な目を見てジョージとフレッドは顔を見合わせニヤリと笑った。
「それを説明するには難しい!」
「そうとも、実際見てもらわないと!」
「ーー危険な物じゃないんだな?」
「「勿論!」」
「ならーー…」
ジャックはその言葉を聞いて同じようにニヤリと笑い、ジョージとフレッドの肩を抱くとひそりそと囁いた。
2人は驚いたが、楽しげに笑うと頷き、フレッドはポケットから沢山の改ヒエビエ爆弾を取り出した。
「あと少しで昼食の時間だ…ーー行こうか」
悪戯っぽく笑ったジャックは2人の背中を叩き、駆け出した。
大広間で生徒たちが昼食を取る中、勢いよく扉が開きフレッドとジョージが両手に爆弾を持って現れる。それを見た生徒たちは顔を引き攣らせ慌てて机の下に隠れる。
「またあなた達ですか!?」
今度は何をする気だとマクゴナガルが顔を赤くし立ち上がる。少し怯んだフレッドとジョージだったが、今回は後ろにとんでもないスポンサーがいるのだ。2人の後ろから現れたジャックは2人の背中をポンと優しく叩いた。
「今年ホグワーツでクリスマスを過ごせなかったみんなにクリスマスのお裾分けさ!」
「それっ!」
「ーー
2人が高く投げた複数の爆弾はジャックの魔法により大広間の天井を駆け回る。そしてそれは大きな音を立てて爆発し、色とりどりの雪の結晶を降らせた。
「仕上げにーー」
口をぽかんと開けて輝く雪の結晶を見る生徒たちを見ながら、ジャックは楽しげにもう一度杖を振った。その杖先から銀色に輝く蛇、獅子、穴熊、鷲が飛び出ると仲睦まじくはしゃぐように生徒たちの上を通過した。いがみあってなどいないーーこの学舎が作られた時はきっとこのようにどの寮も仲がよかった筈だ。
生徒達は歓声を上げ、自分達の頭上を悠々と通過する寮のシンボルたちや雪の結晶に手を伸ばした。
「エドワーズ!あなた、大人になってもまだそんな事をしているのですか!?」
「子どもたちと付き合うには必要不可欠な事なのですよ!ミネルバ先生!」
少しも悪びれた様子なくジャックは言うとジョージとフレッドを讃えるように頭を撫でた。
「人を喜ばせる悪戯は素晴らしい!グリフィンドールに10点!」
「なりません!!グリフィンドールに10点減点です!」
ジャックの言葉をすぐにマクゴナガルは切り捨てると加点を帳消しにした。ジャックは肩をすくめたが、ジョージとフレッドは全く気にする事は無い。生徒たちからの歓声と、ジャックが加点しようとしてくれたそれだけで十分だと笑っていた。
幻想的な光景に興奮した生徒たちは悪戯にも加点しようとしたジャックに流石に驚いたが、嫌に思うことは微塵もなくーースリザリン生は流石に眉を寄せていたがーー軽い足取りで上座の机へ向かうジャックを見つめた。
マクゴナガルはまだ怒ってはいたが、椅子に座り直すとひと睨みしてすぐにサンドイッチを食べ、次の授業の準備へと向かい大股で大広間を後にした。
ジャックは隣に座るセブルスがあまりに嫌そうな苦い表情をしているのを見ても、全く萎縮する事なく楽しそうだった。
「セブ、後継者は勝手に現れるもんだな?」
「…、…」
懐かしむようにーーどこか、淋しさを孕んだ言葉で呟くジャックの言葉に、セブルスは答えなかった。彼が誰を…誰達を思い浮かべているかなど、考えなくとも察しがついた。思い出したく無い過去の記憶を封じ込める為にセブルスは苦々しい表情のままに紅茶をひと口飲んだ。
「そういや…ルシウス、理事を辞めさせられたらしいな」
「…ああ」
「抗議してくれって嘆願書が届いたよ。…全く、俺にはそんな力無いのになぁ」
「ふん、…ホグワーツの理事達と仲が深い事を今更隠したところで何になる」
「ええ?個人的に仲良しなだけさ!俺は一度たりとも理事会の権力を掌握していないさ。…今はな」
にやり、とジャックはセブルスにだけ聞こえる小声で囁くと含み笑いをした。近々その空いた席に誰か収まるのか、セブルスはわかった気がしたが面倒ごとに関わるのはごめんだとーー聞かなかった事にした。
「なぁ。この後授業はあるか?俺空いてるんだよな」
「授業だ。…それにお前のように暇じゃない。暇つぶしは他をあたれ」
セブルスはそう冷たく告げると直ぐに立ち上がり足早にその場を離れた。つまらなさそうにセブルスを見送ったジャックは、生徒達も昼からの授業へ向かうためにぱらぱらと立ち上がり鞄を持ちながら大広間から出ていくのを見ていたが、ふといい事を思いついたーーと悪戯っぽく笑うと目の前にあるサンドイッチをすぐに食べ意気揚々と大広間を後にした。
ジャックが向かったのは、ダンブルドアの元だった。
「ジャック!何処へ行くの?教室はこっちじゃないよ」
ドラコと共に地下牢へ伸びる階段を降りていたルイスは、目の前に見知った銀髪を見つけて思わず声をかけた。ホグワーツに来てまだ数日だろうし、昔の学舎とはいえ迷ってしまったのだろうか。
「ルイス、ここでは先生と呼びなさい?」
「…はーい、ジャック先生」
「うーん、先生!…いい響きだな!」
声をかけられくるりと振り返ったジャックは愛しい子どもからの言葉に感無量、というように深くその言葉を噛み締め頷いた。
「迷ってないさ。魔法薬学の授業を見学しようと思ってね」
「えぇ?…スネイプ先生は許さないと思うけど…」
「新人研修さ、ダンブルドア先生からは許可をもらった」
そんな物がホグワーツにあったとは聞いたことが無いが、たしかにジャックが広げた羊皮紙には見学を許可する旨の言葉が書かれていた。それでも、間違いなく静かに怒るだろうセブルスを思い、ルイスとドラコは顔を見合わせた。
今にも鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌なままでジャックは陰鬱な地下牢の扉を勢いよく開けた。バタンッ、と強い音を鳴らし開かれた扉に既に教室内に居たソフィア達は驚き目を見開く。ーーまさかもう先生がやってきたのかと思ったのだ。
「ジャック?どうしてここにきたの?」
「あっ!わかった!スネイプが病気になって代わりに授業を教えてくれるんだ!」
ソフィアはきょとんとしていたが、ロンは嬉しさで跳び上がりながらジャックの元へ駆け寄った。「いや、セブルスは元気だよ。俺はちょっと勉強の為に見学に来たんだ」とジャックは悪戯っぽく笑いロンの頭を撫でると、顔を上げて困ったように苦笑しソフィアを見た。
「ソフィア、ここではーー」
「ジャック先生、ね。ごめんなさいついうっかり…」
「うんうん、やっぱり何度聞いてもいい響きだ!」
ソフィアの頭をぐりぐりと撫でればソフィアは嬉しそうに声を上げて笑いながら、ジャックを見て「見学なんて、スネイプ先生は許すの?」とルイスに似たような顔で首を傾げる。つくつぐ、この双子は似ていると笑い、ジャックは羊皮紙を彼らに見えるように掲げた。
「これがあるから大丈夫さ!」
授業開始のベルが鳴った途端、魔法薬学の教室の扉が開きセブルスがローブをはためかせながら颯爽と現れた。
いつも通りの緊張感に包まれた教室内を闊歩し、1人も私語する事のない静寂の中、セブルスはいつものように、教壇に向かいくるりと振り返り一度生徒達を見渡しーーぴたりと一点で動きを止めた。
「…何故ここにいる。教室を間違えたのかね?エドワーズ」
苦々しく静かに吐き出された言葉に、生徒たちはちらちらと名前が呼ばれた本人ーージャックを盗み見た。彼は机の上に両肘を置き手で顔を支えながらにこにこと人当たりのいい笑みを浮かべた。ーーセブルスが、そう呼ぶのなんて何年振りだろうか。まぁ、公私混同しないつもりなのだろう、双子の手前だし。
「ダンブルドア先生から見学の許可は取ってる。新人研修さ」
ジャックは立ち上がると軽い足取りでセブルスの元へ向かい羊皮紙を差し出した。「ほらな」セブルスは苦い表情でそれを見下ろし、勢いよく奪うとぐしゃりと片手で握りつぶした。
「少しでも邪魔をしてみろ…叩き出してやる」
「失礼だなぁ、俺はいつでも大人しいだろ?」
「ほう?残念ながら我輩の記憶には毛頭も無いが。…さっさと席に戻れ」
ダンブルドアが許可したのなら追い出すことも出来ず、きっと無理に追い出そうとすれば激しく抵抗するだろう事を考え、セブルスは渋々ジャックの見学を許可し、いつものように授業を開始した。
ジャックはあまりセブルスを怒らせるのも得策では無い。それにーー彼は教師だ、今まで数年かけて積み上げてきたプライドやら威厳を損ねる扱いをすれば、暫くは顔も合わせてくれないだろう。ジャックももう、学生では無い、分別をわきまえたいい大人なのだ、その気持ちは重々理解していた為、静かにセブルスの授業を聞いていた。
ーーセブルスが教師になるなんて、思いもしなかった。…まぁ、死喰い人よりは健全だな。
低い静かな声で魔法薬の効能を説明するセブルスを見て、ジャックは目を細めた。過去、あれほど闇に固執していた彼だったが、流石に今は落ち着いている。ーー間違いなく彼女達の死をきっかけに闇と決別したのだろう。
彼女達が死に、全てに絶望し心が折れたセブルスは、正直後を追うのでは無いかと思ってしまったほど酷い状態だったが、それを救ったのは…間違いなく、ソフィアとルイスの2人だろう。まだ何も知らない、何もわからない赤子の彼らは、柔く小さな手でセブルスの指を強く握っていた。ーー本当に、彼らには幸せになってほしい。彼女達の分まで。
「ーー各自調合を開始し、速やかに提出しろ。間違っても大鍋を溶かすなど馬鹿な真似は行うな」
生徒たちは一斉に教科書を開きながら今日の課題である魔法薬作りを開始する。ジャックは隣に座っていたソフィアに苦笑しながら囁いた。
「まさか、大鍋を溶かすやつなんて居ないよな?」
「いるわよーーここにね」
ソフィアは馬鹿にしたようなジャックの声に、片眉を上げて自分を指差した。ジャックはソフィアの悲惨な魔法薬学の成績を思い出し、可哀想なものを見る哀れみの眼差しでソフィアを見ながらその肩をポンと叩いた。
生徒たちが真剣な顔で調合する中、ジャックは邪魔にならない程度の距離でそれを見て回っていた。
「ーーあ、ドラコ。その根はもう少し丁寧に切ったほうがいい、切り口が滑らかな方がうまくいく」
「あ、ああ」
「パンジー、鍋のかき混ぜ方は愛しい人を撫でるように優しくな?」
「愛しい人って…うーん、わかりました」
「ロン?手に持っている材料の個数は確認したかな?」
「あっ!本当だ!…ありがとうございます!」
「おっグレゴリー、豪快に種を潰したな?オーケーならその半分だけ入れろ。ーーただし、今回の薬だけだからな?他の時にしちゃダメだぞ?オーケー?」
「お、オーケー…」
「ルイス!上手に出来てるじゃないか!後一滴その汁を垂らしてご覧?面白い事がおこるから」
「うん、やってみるよ!」
ジャックは調合を覗き込みセブルスにバレないように密かにアドバイスを与えて回り、その結果、ある程度の生徒がまずまずな薬を作ることが出来た。ジャックはそれを満足気に見ていたが、面白くないのはセブルスだろう。眉を寄せ、どこか冷たい笑いを浮かべソフィアの鍋を見ていたジャックにすっと近寄った。
「魔法薬学の教師は我輩のはずだが?」
「ん?そりゃ…そうだけど」
「ならば、生徒達に余計な口出しはご遠慮頂けますかな」
「えー?ーーあーはいはい、すみませんね黙ってます」
ジャックは上手く作れたのだからいいじゃないかと言いかけたが、セブルスの額に青筋が走っていたのを見て直ぐに何も言わず肩をすくめた。
「…って事で、助言は出来ないんだ。悪いな」
「そんなぁ…」
「まぁーー助言する所は無さそうだ」
ソフィアの大鍋を見たジャックは呟く。それを聞いてソフィアは目を輝かせた、適当にいつも通り調合していたが、今回は上手くいったのだろうか。
「上手くいってるって事ね!」
「いや、手遅れって事さ」
ジャックは「こんな酷い状態は初めて見た」とソフィアの肩を叩いた。途端にソフィアは頬を膨らませむっつりと押し黙る。
そばで話を聞いていたセブルスは、ジャックへの怒りも忘れなんともいえない気持ちになった。ーー間違いなく、この教室内で最も調合が下手なのが自分の娘なのだ。
「毎回、何故こうなるのか…芸の一種か?グリフィンドール5点減点」
セブルスは無常にもソフィアに減点を言い渡したが、それは残念ながら毎回の事でありソフィアは微塵も気にしなかった。
その後もセブルスは生徒を見回り、いつものようにグリフィンドール生達のみ細かすぎる訂正を受け悉く減点されていく。慣れた光景だったが面白くは無く、グリフィンドール生の気分は下がり、スリザリン生の気分は上がった。
「…いつもこんな感じ?」
ぱちりと瞬きを一つし、ジャックはハリーに耳打ちをした。ハリーは今しがた3点減点され、憎々し気にセブルスを見ながら頷く。
「スリザリン贔屓なんです。ーーあと、僕の事が大嫌いみたい。…僕も大嫌いですけど」
ハリーの呟きを聞いたジャックは、無言で生徒を見て回るセブルスの後ろ姿を見つめた。
ーーまだ許せてないのか。
「ーーま、気にするな」
ジャックはハリーの肩を慰めるように叩く。
ハリーが疲れたようにため息をついたのと、授業終了のベルが鳴り響くのは同時だった。
生徒達は一刻も早くここから出たいのか、すぐに作った薬を試験管の中に詰めると中央の机に提出しぞろぞろと教室を出て行く。
「片付け、手伝うよ。見学のお礼さ」
「…使用した器具を洗い場へ移してくれ」
「わかった」
ジャックは杖を振り大鍋やフラスコを洗い場へと移動させた。勿論一つも割れる事なく、それは静かに微かな音を立てて洗い場の中に収まる。ついでに軽く洗っておこうか、とさらに一振りし泡立ったスポンジに大鍋を磨かせた。
「セブ、本当に教師してるんだなぁー何だか感慨深いよ」
「…ふん」
「ただ、ちょっとスリザリン贔屓過ぎるな。生徒が調合に失敗するのはセブが威圧感出し過ぎだからだな。もうちょっと優しくしてやればいいのに」
「くだらん」
ジャックは使用されなかった薬草を纏めるセブルスに近づき、隣に並ぶと視線を薬草に落としたまま、呟いた。
「ーーまだ許せてないんだな」
ぴたり、とセブルスの手が止まったが、すぐにその手は先程と同じように片付けを開始した。
「もう12年だぞ?」
「ーージャック」
セブルスはジャックを見た。ジャックもまた、顔を上げセブルスの目を見る。
「
その目に映る憎しみと、悲しみに、ジャックは言葉を詰まらせたが、小さくため息をつくとセブルスの肩を叩く。
「そうだな。…そうだよな。ーーごめん、俺が口出ししていい事じゃなかった」
「…分かればいい」
セブルスは静かに呟くと、これ以上この話題を続ける気は無いようで直ぐに次の準備へ取り掛かる。ジャックもまた、それ以上何も言わなかった。
彼女達と過ごした時間よりも、長い時間が経ってしまった。ーーそれでも、セブルスはまだ割り切れていない。全てに決着がつくまでは、向き合う事が出来ないのだろう。
ジャックはちらりとソフィアとルイスのことを考え、少し胸が痛んだ。ーーあの子たちは、何も知らないのだ。家族に何があったのか。
「じゃあ、俺も次は授業だしそろそろいくよ。…そうだ、良いワインが手に入ったんだ!今夜伺っても?」
「…いいだろう」
「
「…構わない」
ジャックは「楽しみだ!」と嬉しそうに言うと今にもスキップしそうな足取りで教室から出ていった。
1人教室に残ったセブルスは、友人が同じ職場にいる事をようやく実感しーー何とも言えない気持ちになっていた。気軽に馴れ馴れしく話しかける者の面倒臭さと、そして、僅かな安らぎ。
セブルスは、1ヶ月で終わるこの関係を喜ぶべきかまだ分からなかった。
1ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
学年度末パーティが開催される大広間はグリフィンドールカラーである深紅と金色に彩られ、獅子が横断幕の中を悠然と駆け回っていた。去年よりさらに豪華な料理が並らんでいるのは、ジャックの送別会の意味も含まれている事を皆知っていた。
たった1ヶ月だったが、素晴らしい授業を行い、誰にでも優しくユーモアに溢れ、そしてなによりも…ハンサムだ。彼との別れを惜しみ誰もが残念がり悲しんでいた。
何度もこのまま残ってほしいと生徒たちに言われたが、ジャックの本業は孤児院の経営だ、これ以上長くここに居ることは出来ない。
賑やかな夕食後、ジャックは僅かな私物を片付けるために与えられていた部屋へと向かった。鞄に物を詰め込んでいると、扉がノックされ「どうぞ」と返事をする。ダンブルドアだろうか?と思ったが、現れた人を見てジャックは目を見開きーー嬉しそうに笑った。
「やぁ、お別れをいいに来てくれたんだ?」
「…1ヶ月だけだったが、同僚だったからな」
セブルスのぶっきらぼうな言葉に、ジャックはくつくつと喉の奥で笑う。ーーそんな下手な言い訳すぐにバレてしまうというのに、枕詞のように嫌味を言わなければ、ここでは上手く会話する事が出来ないのだろうか。
「少しだけど同僚として過ごせて楽しかった。少し寂しいよ」
ジャックは握手を求め手を差し出した。
セブルスはちらりとその手を見たが鼻で笑うと手の甲で払い除けた。
「また、昔のように戻るだけだ。…静かになって良い」
「ははっ!セブらしいな。まぁでも来年も色々ありそうだけどーーーっと、これはオフレコだった」
ジャックはわざとらしく口を手で押さえ口を閉ざす。セブルスは片眉をあげ「何を知ってる」と聞いたが、ジャックは悪戯っぽく笑った。
「ダンブルドア先生から、続けてくれって言われてさ、まぁそれは無理だから断ったんだけど…その時に適任が居ないかって聞かれて…まぁ俺が思い当たるのは1人だけだったから、とりあえず薦めたんだ。採用するのかは聞いてないが…ま、あの人は採用するだろう」
「…誰だ」
ジャックはにこり、と笑い「良い子の元監督生だよ」と答え、セブルスは暫く無言で考えていたが当時彼の交友関係はセブルスが把握しきれない程多く、その中には監督生も沢山いた為、答えを導き出す事は出来なかった。
「まぁすぐにわかるんじゃないか?ーーじゃあな、汽車の時間がもうすぐだ…2人と仲良くな」
「ああ…」
別れの言葉も、労いの言葉もないいつも通りのセブルスにジャックは薄く笑いながら鞄を手に持ち扉へと向かった。
「ーージャック」
「ん?ーーーおっと!」
声をかけられ振り向けば、顔目掛けて何かが飛び込み、反射的にジャックは手で受け取った。閉じた手のひらをゆっくりと開いたジャックは、目を見開きそして「ーーぷっ!はははっ!」ーー噴き出すと腹を抱えてひとしきり笑った。
「餞別だ」
「ははっ!どーも!」
渡されたものを指で掴み振ると、ジャックは笑顔のまま扉の向こうへ消えた。
残されたセブルスは、来年度この場を使う教師が少なくとも去年や今年よりはマシである事を願った。
「「ジャック!」」
「ソフィア、ルイス!」
「もう行っちゃうの?」
「どうせなら一緒に帰ればいいのに…」
玄関ホールでソフィアとルイスはお別れを言うためにジャックを待っていた。本音を言えば最高の教師だったジャックに行って欲しくない。だが、孤児院の経営を疎かにするわけにもいかないという事も、しっかりわかっていた。孤児院の子どもたちはジャックの帰還を今か今かと待っている事だろう。サプライズパーティの一つ用意しているかもしれない。ーーそれほど、ジャックは子どもたちに愛されている。
「はは、ありがとう。子どもたちが待ってるからね…楽しかったよ。また駅に迎えにいくからな」
「うん…1ヶ月間ありがとう」
「素晴らしい授業だったわ!」
ソフィアとルイスはジャックに抱きつき別れを惜しみ、ジャックは優しくその背中に手を回し、2人の頭をゆるく撫でた。
ふわり、と甘い香りが鼻腔を擽りルイスは顔をあげた。
「…イチゴ?」
「ああーー飴の匂いかな」
カロ、と口の中で転がせば歯とぶつかった飴が小気味いい音を立てた。
「俺の好物なんだ」
ジャックはそう言い残し、2人に手を振りホグワーツから去っていく。
口内を転がる飴は、甘酸っぱい苺の味がした。ーーたった一粒だなんて、一袋くれたら良かったのに。まぁ、セブらしいな。
門を抜け、ジャックは振り返る。
悠然と佇む古城を眺めた後、口の中で
ついに2年目が終了した。
ホグワーツ特急のコンパートメントにフレッド、ジョージ、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニー、ルイス、ソフィアの8人で乗ったがあまりにも狭く途中からーーパーシーの秘密を知ってからーーフレッドとジョージはリーのいるコンパートメントへ移動した。
徐々に特急は速度を落とし、駅構内にゆっくり侵入する。ハリーは羊皮紙の切れ端と羽ペンをカバンから取り出すと電話番号を急いで書き込みロン達の方を向いていった。
「これ、電話番号って言うんだ」
受け取ったソフィアとロンは不思議そうにその番号がかかれた数字の羅列を見る。ハリーはソフィアとルイスは使い方がわからないかもしれないと少し不安に思ったが、賢い2人なら調べてくれるだろうと信じた。
「ロンのパパに去年の夏休みに使い方を説明したから、電話頂戴?2ヶ月もダドリーとしか話さないなんて、僕、耐えられない…」
「電話番号?不思議ね!調べて、必ずかけるわ!」
ソフィアは大切そうにその紙を握ると何度も頷いた。ジャックはマグル界の事も詳しい、きっと教えてくれるだろう。
特急が停車し、大きな荷物を持ちカートに詰め込んだソフィアとルイスは、ハリー達と何度も手を振り別れた。
「今年も色々あったわね。半分石化してたから何だか…損した気分よ」
「去年は僕が眠ってたしね…来年はちゃんと一年間過ごせたらいいね」
「ええ、本当にね!」
2人はくすくす笑いながら、出口で待っているだろうジャックの元へ向かった。