101 2年目の夏休み!
夏季休暇が始まった。
ソフィアとルイスはやるべき事は早めに終わらせ、その後に何も気にせず目一杯遊びたい!という性格だった為、2人とも3日で出されていた課題を全て終了させた。
2人はともに優秀だったが、かといって真面目では無かった。省ける手間は省こう──そう言い課題を半分に分けて取り組み、残りの半分は互いのを見せ合うという、双子ならではの裏技を駆使し、早めに終わらせた。
勿論、これがホグワーツの教員であり、2人の父親であるセブルス・スネイプにバレていたら大目玉では済まされなかっただろうが、幸運にもまだ一度もバレてはいない。
セブルスもすぐにホグワーツから家へ戻り家族全員で夏季休暇を過ごしていたが、去年と違う所が1つあった。
朝食後各々が好きな場所で寛ぎ本を読む中、ルイスとソフィアは同じソファに座り本で顔を隠しながらちらり、と1人肘掛け椅子に座るセブルスを見た。
「…やっぱり父様機嫌悪いわ」
「帰ってきてからずっとだね…」
こしょこしょと内緒話をするように囁き合う、2人が話題に出している張本人は眉間に深い皺を刻んだまま何か難しそうな本を読んでいたが、少しも視線は動いていない。──つまり、見ているだけで読んではいないのだ、何かを深く考え込んでいるのだろう。
いきなり怒鳴ったり、イライラとしているわけでは無い、話し掛ければ普通に答えてはくれるのだが、教師として2人に対応している時の雰囲気によく似ていた。家の中であっても気を張っていて隙がない。尚且つ、とても静かだ。
ソフィアとルイスは顔を見合わせて本を同時に閉じる。ぴょんと立ち上がるとそのままソフィアはセブルスの右側に、ルイスは左側に立って視線が全く動いていない彼の目前に顔を出し覗き込んだ。
「父様、何か悩みでもあるの?」
「ずーっと、難しい顔してるわよ」
心配そうな2人の顔を見て、セブルスは少し驚く、それほど態度と表情に出ていただろうか。いつも通り振る舞っているつもりだったが…この2人は変に勘がいい所がある。
セブルスは僅かに表情を緩め「何もない」と嘘をついた。ソフィアとルイスはそれが父の嘘だと気付いたが、それ以上追求はしない──家族間でも言えない事はあるだろう。
「──そう?なら良いんだ、ねぇ父様、これからジャックの所に遊びにいっていい?」
「…ああ、夜までには帰ってきなさい」
「はーい!」
2人は元気よく返事をするとセブルスの首元に抱きつき、軽くキスを落とす。すぐに離れるとぱたぱたと軽い足音を響かせ自室に戻り、鞄の中にお菓子を詰め、そして何の躊躇いもなくポケットに杖を差し込んだ。
「行ってきます!」
フルーパウダーを掴み、暖炉の中に投げる。「エドワーズ孤児院!」そう告げまずはソフィアが、そしてその後にルイスが緑の炎の中に消えた。
1人になった家は、急に静まり返る。
セブルスは本を閉じ、肘掛けに肘を乗せ手で頭を押さえ、重いため息を溢した。
彼が頭を悩ませているのは来年度の新しい闇の魔術に対する防衛術の教師の事だ。家に帰る前ダンブルドアが全職員に告げた人物、それはセブルスがよく知る者だったが全く歓迎出来る相手では無かった。ジャックの推薦だと言う事もあり、彼の本性が告げられても、対策が取られているのなら、と教師達は特に反対する事は無かった。──寧ろ、反対したのは自分ただ1人だ。何度もダンブルドアに危険すぎると伝えたが、全く取り入ってもらえなかった。
正直に言えば、薬さえ飲めば人狼は殆ど無害だと、わかっている。だがそれでも人狼と我が子が同じ空間にいる、それが耐えられるかどうかはもはや理論ではない、気持ちの問題だ。
もし、万が一アイツが薬を飲むのを忘れたら?その時、もし夜に寮を抜け出したソフィアとルイスに出会ってしまったら?あの2人は校則を破る事に罪悪感はない、充分にあり得る。そして、もし──噛まれてしまったら?
あくまで仮定の話だが、セブルスは背中がぞくりと冷えるのを感じた。そうなれば、きっと自分は人狼も、ダンブルドアも許せない。
「……チッ…」
セブルスは沸々としたどうしようもない苛立ちから、つい粗暴な舌打ちを溢した。
父が何で悩んでいるのか知らない2人は沢山の子供達に囲まれて幸せな時を過ごしていた。ルイスは沢山の子どもを魔法で宙に浮かせ、ソフィアは紙吹雪を沢山の小鳥や子ウサギに変え子どもたちを楽しませていた。
きゃっきゃと楽しげな声が孤児院に響く。エドワーズは優しげな目を向け、それを少し離れた所から見守っていたが、ふと壁にかけられた時計の時刻を確認すると立ち上がり手を数回叩いた。
「さあ、みんな、そろそろお昼寝の時間だ」
「えー!もっとあそぶの!」「やだやだー!」「あとちょっとー!」
「だめだめ!早く寝ないとおやつの時間が無くなるぞ?」
子どもたちはジャックの側に駆け寄ると彼の服を引っ張り頬を膨らませ不満を言ったが、おやつの時間がなくなるのは流石に嫌なのかむっつりとしたままジャックに促され寝室へと向かっていった。
「久しぶりに来たけれど、相変わらず賑やかね」
「うん、皆元気そうで良かった」
ルイスとソフィアは杖を振り、散らかった玩具を片付けながら笑う。懐かしい家と、第二の家族はいつも変わらず2人を暖かく迎え入れてくれる。勿論セブルスのいる家が一番心地良いが、その次にこの場所が2人は大好きだった。
2人が後片付けをしていると子どもたちを寝かしつけ終わったジャックが戻り、散らかっていた筈の部屋が綺麗になっていた事に驚いた。
──昔は遊んだら出しっぱなしだったのに、そんな気遣いが出来る年齢になったんだな。嬉しいような、切ないような。
「ありがとうソフィア、ルイス。…少し早いティータイムにしよう」
ジャックは杖を振るい机と椅子、そしてティーセットと茶菓子を出現させ、2人に座るよう促した。
ソフィアとルイスが席に着くとふわりと鼻をくすぐる紅茶の良い香りを感じ、ほぅ、とうっとりと息を吐いた。
「良い香りね!」
「ま、ちょっとこだわってるからな」
ジャックも席に着き、白い湯気の揺蕩うカップを掴んだ。「…で?何か俺に用なんだろ?」と、紅茶を一口飲んだジャックが聞けば、2人は顔を見合わせ頷き、ソフィアは鞄からハリーに渡された羊皮紙をジャックに手渡した。
「これ、ハリーの家の…わ…話電?番号?らしいの、どうやって使うか知ってる?」
「ああ、これは電話番号だな。知ってる知ってる」
ジャックは書かれている番号を見て軽く頷く。ソフィアとルイスはパッと嬉しそうに顔を輝かせ、机から身を乗り出すようにぐいっと身体を近づけた。
「どうやってするの?」
「んー電話があれば使えるけど、ここには無いからなぁ…マグル界に行けば公衆電話があるから、それに金を入れてこの番号を押せばハリーの家に繋がって話ができるんだ」
「こうしゅう、電話?お金って…勿論マグル界のよね?」
「繋がるって、どうやって繋げるの?紐とか?」
頭の上に疑問符を沢山飛ばしながら繰り出される質問にジャックは苦笑し、2人の質問を抑えるように両手を上げる。ソフィアとルイスは首を傾げたまま口を閉じた。
「わかった!…今から電話しに行くか?」
「やった!ありがとう!」
「嬉しいわ!あっ、それとね?サリー州のリトルウィンジングって、私たちの家から近いかしら?ハリーの所に遊びに行きたいの!」
「んー…姿現しで近くまで送っていってやるよ、流石に2人だけで電車に乗せるのは心配だ」
「流石パパ!頼りになるね!」
パパ、と呼ばれジャックの顔はすぐに嬉しそうに破顔した。つくづく子どもに甘い人だとルイスとソフィアは心の中で笑う。きっと、ジャックなら近くまで送って行ってくれるだろうと思っていたのだ。
「んじゃ、職員にちょっと伝えてくるから出かける準備だけしといてくれ」
「「はーい!」」
ジャックは立ち上がりここで働く職員──ジャックにとっては部下であり、ここで暮らす子どもたちにとっては母である女性職員の元へ向かった。
ソフィアとルイスはすぐに茶菓子を食べ紅茶を飲むと早く電話をしてみたいと目を輝かせてジャックが再び扉から現れるのを首を伸ばして待っていた。
ハリーは夏季休暇が始まって4日目にして既にホグワーツが恋しくなっていた。この家では魔法と名の付くものは全て嫌悪されている。一言だってホグワーツでの出来事を話せない、それに、日中に教科書を開いて課題をこなす事も難しかった。
この家に帰ってきてハリーがする事と言えば、なるべくダーズリー家の者の機嫌を損ねないように空気と化するしか無いのだ。それがこの家で過ごす内に覚えたハリーの悲しき処世術だった。
空気だとしても、家事は率先して行わねばならない。邪魔にならない便利な空気であることがなによりも大切なのだ。そうしていれば、とりあえず最低限の食事は補償される。
その時、ハリーは彼らの昼食を作っていた。フライパンの上にあるベーコンが焦げ過ぎず、かと言って生過ぎてもいけない。3人それぞれ好みが違うのだから、面倒くさい──そうハリーは内心で思いながら油で跳ねるベーコンを見ていた。
ジリリリ、と電話のベルが鳴る。その時たまたま近くにいたバーノンが受話器を取り耳に当てた。
「もしもし、バーノン・ダーズリーだが。───何?───あ、ああ。──そうですか。──はい、───少々お待ち下さい」
バーノンは受話器の送話口を手で押さえ、頬を怒りで赤く染め厳しい顔で台所にいるハリーに怒鳴った。
「おい!!ハリー!お前昨日公園でハンカチを落としただろう!?めんどくさい事をしよって!」
「え?ハンカチ?」
たしかに暇つぶしの為に公園に行ったが、ハンカチを落としていたとは気がつかずハリーは後ろを振り向いた。バーノンはふーっと怒りを抑える為に何度か深呼吸をすると荒い鼻息がなるべく相手に聞こえないように気をつけてーー変に思われる事など、あってはならないのだーー受話器に耳を当てた。
「ええ──いえ!──はい、同じ公園で、明日の10時ですね───ええ、すみません。いとこのハリーが──。──はい、失礼します」
バーノンはにこやかな声で相手と話し終え、受話器を置いた途端身体全体で怒りを表現させながらハリーに詰め寄った。
「明日10時、公園に行きハンカチを取ってこい。くれぐれも相手に変な素振りを見せるんじゃないぞ」
「わかってるよ。…誰が拾ってくれたの?」
「ソフィアとルイスという双子の子どもだ」
「えっ!?」
ハリーはバーノンから飛び出た名前に驚き思わず大声をあげてしまう、その途端、バーノンは不快そうに眉を顰めた。
「何だ?」
「──あ、何でもないよ。双子って珍しいなって思っただけ」
慌てて弁解し、ハリーは何も動揺してません、という顔でベーコンを炒めた。バーノンは少し気になったが、いつもの挙動不審なのだろうと考え、むっつりと不機嫌な顔のままいつも新聞を読む肘掛け椅子に向かった。
ハリーはベーコンを炒めながら、明日ソフィアとルイスと会える。その事を思うだけで今日は何をバーノンに言われ、ダドリーに蹴られようが笑って過ごせる気がした。