【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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103 リーマス・ルーピン!

 

その日、ソフィアとルイスは珍しくセブルスと共に外出をしていた。

セブルスは外を出歩き気軽にウィンドウショッピングを楽しむ人間ではなく、そもそも買い出しなど殆ど行かなかった。食材や生活必需品は梟便に頼めば家まで届けてくれる、それで今まで困った事は一切無い。

それにソフィアとルイス共に買物をしているところなど、ホグワーツに関わりのある誰かに見られてしまえばどのような噂が立つなど、想像に難く無いだろう。

 

 

「父様、どこにいくの?」

 

 

ソフィアは少し前を行くセブルスの後ろをついて行きながら辺りを見回した。

姿現しをして連れて来られた場所は辺鄙な田舎だった。人は誰も居ない、寂れた場所だ。整備されていない道は凸凹としていて歩き難い。何とか道らしきものはあるが、雑草が生い茂り側には鬱蒼とした雑木林が自然のままに生えていた。

 

 

「なんだか、寂しいところだね」

 

 

ルイスもまた、ソフィアの隣で周囲を見渡し──時折石に足を取られ躓いた──率直な感想をぽつりと呟いた。

聞こえるのは野鳥の鳴き声と木々の騒めきくらいだろう。昼間だというのに、変に薄暗い。

 

 

「…ソフィア、ルイス」

 

 

セブルスは足を止め、2人の方を振り返り静かに見下ろした。

ソフィアとルイスは首を傾げ「何?」と答える。セブルスは何を言おうか悩んでいるように、2人は感じた。彼は眉間に皺を刻みながら真面目な顔で2人を見つめ、ややあって固く閉じていた口を開いた。

 

 

「今から人と会う。…だが、決して勝手に話すな。全て…私が対応する」

「…?わかった」

「大人しくしてればいいのね?」

「そうだ」

 

 

セブルスの真剣な表情に2人は小さく頷いた。今まで、セブルスが誰かを紹介した事など一切無い。─いや、そもそもジャックとルシウス以外にわざわざ外で会う人間が父に居た事にソフィアとルイスは内心で驚いた。父の交友関係はひどく狭い。今までルイスとソフィアが父の知り合いで知っているのはその2人だけだ。

 

 

セブルスは2人の素直な言葉に少し眉を寄せる、この2人は返事は良い。だが大抵の言いつけを破る事をこの2年で痛いほど理解させられた。果たして、人と関わるのが──自分とは違い──好きで、何事にもすぐに興味を持つ2人が、本当に大人しくできるのだろうか。

 

やはり、連れてくるべきでは無かっただろうか。と、セブルスは自分の判断が正しかったのか、自信が持てなかった。

 

 

しかし、ここまで連れてきてしまった。今更迷っていてももう遅い。そう思い直すと「くれぐれも大人しくしていろ」と強く2人に言いつけ、また整備されていない道を進んだ。

 

 

ソフィアとルイスは顔を見合わせ、不思議そうにしながらも大人しくその後ろをついていく。

 

 

少しして、雑木林がふいに途切れ開けた空間が現れ、その先にたった一軒。ぽつんと古く小さな家があった。蔦に覆われ、窓は板で打ち付けされている。その家はなんとも古く──いや、ボロく、朽ちかけていた。

 

 

セブルスは嫌そうに眉を寄せながら扉を強く叩く。

少ししてバタバタと足音が近付き、扉が開け放たれた。

 

 

「やぁ、セブルス。──久しぶりだね」

 

 

家主の声は柔らかく、来訪者を静かに歓迎していたが、セブルスは苦々しくその家主であるリーマス・ルーピンを睨み、不本意だという表情を隠そうとはしない。

 

ソフィアとルイスはセブルスの背の影からひょっこりと顔を出し、興味深くリーマスを見上げた。

疲れたような顔をしている。それでも、その目はとても優しい。何故か古い傷が顔中にあり、服は何度も繕った跡がある。家の状況を見て思った通り、裕福では無いのだろう。

 

 

「…よく来たね。ここで立ち話もなんだ、中へどうぞ?」

 

 

リーマスは2人に気付くと、嬉しそうに目を細めた。

ソフィアとルイスは無言でセブルスを見上げ、父の判断を待つ。大人しくしろと言われ、勝手に話すなと約束させられたのはほんの数分前だ、流石にすぐに約束を違えるわけにはいかないだろう。

 

ソフィアとルイスの視線を受けたセブルスは無言で家の中に入って行った。それを見てソフィアとルイスは小さく頭を下げ「お邪魔します」と呟き微笑むとすぐにセブルスの後を追った。

不躾な態度だったが、リーマスは少しも気にする事なく彼らを家の中に通すとすぐに客人達をもてなす用意を始めた。

 

 

「わぁ…」

 

 

ソフィアは家の中を見て思わず、感嘆の声を漏らした。

外から見る限り家は朽ちかけていたが、家の中は清潔感があり、きちんと整えられていた。確かに家具は少々古かったが、自分達の家とさほど変わりはないだろう。

 

 

「お客様なんて、本当に久しぶりだから…ちょっと奮発して良い紅茶を買ったんだ」

 

 

リーマスはしみじみと、嬉しそうに呟き杖を振るう。ティーポットは1人でに紅茶を入れ──カップの種類はまちまちだったが──静かに机の上に並んだ。

セブルスはリーマスが促しても決して席につく事は無く、その場から動こうとしない。誰が貴様の煎れた紅茶など飲むか、そう態度でありありと示していた。

それを見てリーマスは酷く残念そうに肩を落とした。流石に、なんだか気の毒に思えたソフィアはセブルスのローブを引っ張った。

 

 

「父様、私喉が乾いたわ」

 

 

リーマスは表情をぱっと明るくさせたが、セブルスは苦々しく顔を歪めソフィアを窘めるように見下ろした。

喋るなと言っただろう、とその目が渋く語っていたが、「父様」と再度ローブを引かれ、セブルスは重々しい溜息を付き、リーマスを厳しい目で睨んだ。

 

 

「毒など盛ってないだろうな」

「まさか!飲んでみせようか?」

「貴様の言葉一つとして信じられん」

 

 

リーマスはそんな事するわけがないだろうと直ぐに否定したが、セブルスはばっさりと切り捨てる。

しかし、今度は反対側からルイスにローブを引かれ、何か言いたげな怪訝な目で見られてしまい。心の底から嫌だったが、渋々席に着いた。

すぐにソフィアとルイスはセブルスの隣にすわると美しい琥珀色の紅茶が入るカップをキラキラとした目で見つめ、ちらりと父を見上げた。飲むな、とは言わない。──という事は、飲んでも構わないのだろう。

 

 

「…美味しい!」

「本当だね!…それに、いつも飲んでるものより…甘い香りだね」

「口にあって良かったよ」

 

 

目を輝かせた2人に、リーマスは安心したかのように嬉しそうに笑った。

ソフィアは紅茶を飲みながら、何故父はこんなに優しそうな人を邪険にするのか全く分から無かった。少なくとも敵意は感じないし、父も杖は掴んでいない。つまり、相手に危険があるわけでは無いのだろう。

 

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。私はリーマス・ルーピン。…君たちのお父さんとは、ホグワーツで同級生だったんだ。よろしくね」

 

 

思い出したかのようにリーマスが自分の名前を名乗り、ソフィアとルイスを見た。

すぐに2人は自分も名乗ろうと口を開きかけたが、それよりも先にセブルスが感情の籠らない早口で呟くように2人の台詞を奪ってしまう。

  

 

「ソフィアとルイスだ。この子たちと一切関わるな」

 

 

ばっさりと言い切ったセブルスに、リーマスは苦笑し紅茶を一口飲んだ。

──どうやら、少しも子どもたちと自分が交流する事を快く思っていないようだ。まぁ、その気持ちは悲しいが、充分に理解できる。

 

 

「それは難しいね。来年度から私はホグワーツの教師だ」

 

 

リーマスが肩をすくめながら言えば、ソフィアとルイスは目を大きく見開き「えっ!?」と叫んだ。

 

 

「闇の魔術に対する防衛術の先生なの?」

「この前、ジャックが次の教師は期待してていいって言ってたよ!あなたの事だったんだ!」

 

 

いきなり話し出した2人にリーマスは驚いたが、すぐに嬉しそうに微笑むと、再度2人に向かって「よろしくね」と伝えた。

 

 

「よろしくね!リーマス先生!」

「よろしくお願いします!…父様、ホグワーツの先生だから、今日私たちをここに連れて来たの?父様の子どもだって教えるために?」

「…あれ?でも、知らない先生もいるよね?」

「そうよね、父様どうし──」

 

 

不思議そうに顔を見合わせた2人はセブルスを見て、その険しく歪んだ表情に気付き──かなり遅かったが口を手で押さえた。そういえば勝手に話すなと言われていた。だが、あと数ヶ月でリーマスは自分達の教師となる、どうせ直ぐに話す事になるだろう、何をそんなに警戒しているのだろうか。

まさか、また碌でもない教師なのだろうか?──いや、ジャックはリーマスを知っている。期待して良いと言っていた。彼のその言葉に嘘はないだろう。ならば、何故──?

 

 

「…それは、コイツが人狼だからだ」

 

 

セブルスは冷たい薄笑いを浮かべ侮蔑の表情でリーマスを見据えながら吐き捨てた。

ソフィアとルイスはぴたりと固まり。ゆっくりとリーマスを見た。リーマスはそれが告げられても、困ったように笑うだけで否定はしない、紛れもない事実だからだ。

 

 

「来年度から大半遺憾だが、こいつは人狼の身でありながらホグワーツの教員となる。だから決して2人は──」

 

 

──近付くな。

そう、セブルスが言い終わるより前にルイスとソフィアは勢いよく立ち上がった。あまりに勢いよく立ち上がったせいで椅子は後ろに大きな音を立てて倒れる。

リーマスは驚愕に目と口を開く2人を見て、どんな言葉がかけられるのか──きっと何度も浴びせられた罵声だろうと、目を伏せた。分かっていてる、彼らの拒絶は正常だ。──だからと言って、胸が痛まないわけではない。

 

 

「人狼なのね!ねぇ、毛質はふわふわ?それともさらさらなの?」

「ソフィア!そんな失礼な事聞いちゃダメだよ!…あっでも僕も少し質問なんだけど、人狼は人間の時でも肉料理が好きって本当?」

「確か狼っていうわりには二足歩行だし、あまり狼っぽくないのよね?うーん、残念だわ狼ってもう殆どいないようだもの」

 

 

リーマスは顔を上げ信じられない物を見るような目で2人を見て、呆然と呟いた。

 

 

「き、君たち…私は人狼だ。──怖くないのかい?」

 

 

ソフィアとルイスは顔を見合わせ。ごく当たり前のように頷いた。

 

 

「怖くないよ」

「全然怖くないわ」

「…どうして…」

 

 

信じられなかった。

それはリーマスだけではない、セブルスもまた驚愕し無言で2人を見つめた。

てっきり怖がり、関わるなと言った意図を汲んでくれるだろうとばかり思っていたが、何故この2人は通常の魔法族が忌み嫌う差別の対象である人狼を、当然の個性だとでも言うように受け入れられるのだろうか。

戸惑いと怪訝が滲む視線を受けたソフィアとルイスは、寧ろ何故セブルスとリーマスがそんな反応をするのか分からなかった。

 

 

「だって、ジャックが──人狼は満月の日しか危険じゃない」

「薬をちゃんと飲めば僕たちと変わらない、対等な友人にだってなれるさ──って言ってたから」

「…ジャック?…まさか、ジャック・エドワーズかい?」

「ええ、私たちの育て親よ」

 

 

それを聞いて、リーマスはぐっと言葉を詰まらせた。脳裏に悪戯っぽく、それでいて優しいジャックの笑顔が浮かぶ。

──そうか、彼が育てた子どもなら、人狼に対しての感情が他の人と異なっていても可笑しくない。

リーマスは複雑そうな喜びと戸惑いが混じった顔で笑ったが、セブルスは嫌そうに顔を歪めた。

 

人狼は魔法界において差別の対象なのは皆知っている。人狼に噛まれてしまえば治ることのない嫌悪される性質をうつされてしまうのだ。中には悲観し、噛まれた段階で死を選ぶ者も、少なくない。

それでも、過去と比較すれば人狼の対応はほんの僅かに緩和されていると言えるだろう。数十年前に開発された薬は、人狼を治すものではなかったが、それでも満月の夜であっても理性を保つ事ができる、そんな画期的な薬だった。

リーマスを含め人狼達はその薬が出来たと聞いて心を躍らせたが──その薬の高額さと、調合の難易度の高さにすぐにそんな気持ちは萎んだ。

人狼達は満足に就労する事が出来ない、勿論彼らには働きたい意志は強くあったが、差別的な思想が根強く残る中で、誰が好き好んで人狼と働きたいだろうか?万が一何かあってしまえば──謝罪では済まされない。

 

 

「…あ、父様…リーマスが人狼だから、学校が始まるより前に僕らに会わせようとしたんでしょう。僕らがそれを聞いて怖がって避けると思ってたんだ?」

 

 

何故ここに連れてきたのか閃いたルイスは呆れたような眼差しでセブルスを見る。セブルスは苦い顔をして何も答えなかったが──全くその通りだった。

 

 

「まぁ父様…そんな事を考えていたの?」

「…私は人狼が教鞭を取るなど…今でも反対だ。万が一薬を飲み忘れてみろ。…被害にあうのは子ども達だ」

「…分かってるさ。ちゃんと薬は飲むよ」

 

 

ソフィアとルイスから思ったような反応が得られなかった事に苛つき、セブルスは苦い表情で唸るようにリーマスに警告したが、勿論、リーマスはそんな事言われずとも分かっていた。

 

 

「脱狼薬…父様が調合するの?」

「…不本意だが。ダンブルドアはそれを望んでいるらしい」

「さすが父様だね!あんなに複雑な薬を調合出来る人は少ないんでしょう?薬師でも作れない人がいるって聞いたよ?」

 

 

ルイスは目を輝かせ、尊敬の眼差しでセブルスを見た。脱狼薬の調合は、ルイスの目標の一つでもあった。これが調合出来れば、どんな薬でも作れるとまで言われている脱狼薬。いつか、必ずそれを作ってみたい。

ルイスの輝く目で見つめられたセブルスは、ほんの僅かに表情を緩めた。ずっと見ていなければ分からない程度の微かな変化だったが、それに気付いたソフィアは心の中で「単純なんだから」と呟く。

 

 

「大丈夫よ父様、私たちは人狼を差別はしないけれど…ちゃんとどういう存在かは理解しているもの。薬を飲んでるとはいえ…来年度は満月の夜に出歩かないようにするわ。父様がそれで安心するならね」

 

 

それで良いんでしょう?とばかりにソフィアはセブルスの顔を覗き込み、首を傾げた。

セブルスが最も望んでいた反応や対応では無かったが、満月に出歩かない事を約束するのであれば──それがどれだけ守られるのかは分からないが──まだマシだろう、そう渋々セブルスは自分に言い聞かせ、「必ず、出歩くな」と念を押した。

 

 

「ソフィア、ルイス。…私が人狼だと言う事は…」

「勿論、秘密にするわ。…残念だけど偏見は根強いもの」

「僕たち、校則は破るけど大切な約束は守るから!」

 

 

2人の真剣な眼差しに、リーマスはほっと胸を撫で下ろした。この2人が特殊なだけで、世間一般ではセブルスのような反応が殆どだ。きっと人狼だとバレてしまえば軽蔑と偏見の目で見られ、退職を願うフクロウ便がすぐに届くだろう──今までのように。

しかし、リーマスは心の底から2人の優しい眼差しが嬉しかった。人狼だと知って、それでも受け入れてくれたのは…かつての友人達だけだ。…それも、もう殆ど居なくなってしまった。

 

 

「…ソフィア、ルイス。…帰るぞ。…ここにはもう用はない」

「はぁい」

「分かったよ」

 

 

セブルスが静かに立ち上がると、2人はぱっとセブルスの脇に並びリーマスを見上げにっこり微笑んだ。

 

 

「じゃあねリーマス先生!」

「また新学期に!」

「ああ、楽しみだよ」

 

 

ルイスとソフィアは笑ったまま頭を少しだけ下げる。一刻も早くここから立ち去りたかったセブルスがさっさと扉までいってしまったのを見て2人は慌ててその背中を追いかけた。

ルイスとソフィアは扉から外へ出る前に一度振り返り、溢れるような笑顔を見せ手を大きく振った。

リーマスも、微笑みながら手を軽く振り3人を見送った。

 

 

しん、と静まり返った家でリーマスは綺麗に空っぽになっている四つのカップを見て、思わず笑みが溢れた。口ではあれだけ拒絶しておきながら、変な所で律儀なのは変わっていない。

 

──それに、リーマスは、セブルスが毎月脱狼薬を調合すると、自らダンブルドアに志願したと知っていた。それは、間違いなく自分のためではない。ソフィアとルイスの為だろう。

 

 

誰が作ったのかわからない脱狼薬を飲むよりは、しっかりと自分の手で作り、手渡し、毎月──毎回飲んだ事をしっかりと確認したい。そうでなければ不安で仕方がないのだろう。そんな父としての強い思いを、リーマスは密かに知っていたが、セブルスがルイスとソフィアの前で隠していた為2人には言わなかった。

 

 

久しぶりの来客を表す紅茶のカップを、リーマスは大切なもののようにそっと撫でた。

 

 

 

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