ソフィア達は魔法動物ペットショップへ向かった。
ロンは店員に二叉イモリの世話を聞いている魔法使いの後ろに並び、ハーマイオニーは新しく迎え入れる家族を探しに行った。ソフィアもまた、ティティのおやつを何か買おうと陳列棚を探し、ハリーとルイスは特に何も買う予定が無かった為共に籠に入ったさまざまな動物を見ていた。
「ハリー、もしタランチュラが見えたらすぐに教えてね、目を閉じるから」
「うん、わかった!…わぁ、見てガラスヘビだって、ソフィアが欲しがりそうだね」
「よくわかったね…」
体全てがガラスで出来ている蛇は太陽の光を浴びて透明な舌をチロチロと出していた。腹の部分に何が黒くて赤いものが見えるが、ハリーとルイスはなるべくその腹に入ったものが何なのか…考えないようにした。
「でも、ソフィアには…なんていうか、その…あのフェネックは、らしくないペットだって思っちゃった」
ハリーがソフィアに聞こえないように声を顰めて伝える。ルイスは自分もそう思ったと苦笑しながら頷いた。
「僕も、てっきり蛇か虫か…を買うと思ったんだけど…本当、普通のフェネックで良かったよ…」
「うん、とっても可愛いしね!」
少なくとも蛇よりは何倍もマシだとハリーは笑った。ソフィアがそういった生き物を好んでいるのは知っていたが、これから毎日ホグワーツで会うことになるソフィアの側にグロテスクで悍ましい生き物が居るのは──少々嫌だった。
「──スキャバーズ!」
ロンの悲鳴が響き、ハリーとルイスは何事かとカウンターにいたロンを振り返る。床に落ちたスキャバーズは出口目掛けて遁走し、ロンも慌てて店を飛び出した。
ハリーとルイスは顔を見合わせ「大変だ」と呟くと──この広いダイアゴン横丁でネズミ一匹を探し出すのはかなり難しい事だろう──すぐにロンの後を追った。
「ねえルイス!これとこれどっちが良いかしら──あら?」
ソフィアは手に二つのおやつを持ち棚の間から現れたが、先程までいたルイスが居ないことに気付きキョロキョロと辺りを見渡す。
「ソフィア、私迷っちゃうわ…どの子も素敵に見えるもの!」
「わかるわ、私も迷ったもの…ねぇ、ルイスを知らない?」
同じように棚から出てきたハーマイオニーに聞いたが、ハーマイオニーも同じように辺りを見渡した後に首を振った。
「いいえ、見てないわ。…それより、ソフィア…あなた何を持ってるの?」
「え?ティティのおやつよ!」
ソフィアは笑ってハーマイオニーの目の前にその袋を突き出したが、ハーマイオニーは顔を引き攣らせ大きく身をそらした。
「うっ…あんなに可愛い顔をして、そんなのが…おやつなのね…」
「ええ、そうなの」
袋にみっちりつまったコオロギとゴキブリを見たハーマイオニーは身体をぶるりと震わせた。魔法薬学で虫を使用する事は何度もあるが、それでもいきなり大量に詰まった虫の大群を目前に見せられてしまえば、流石のハーマイオニーも少々背中に嫌な寒気を感じた。
「私なら…クッキーにするわ…」
「そういうのもあったわ!」
「ほら…虫はホグワーツでも捕まえられるでしょう?それなら…ほら、ペット用のクッキーの方が良いんじゃない?」
明日からのホグワーツ生活で、ソフィアとハーマイオニーは同室である。
さらに虫達と同居するのは流石にごめんだとハーマイオニーが自然にペット用クッキーへ誘導すれば、ソフィアはぱっと顔を輝かせて虫の入った袋を陳列棚に戻すと、丸く薄いクッキーの入った袋を手に取った。
「確かにそうね!そうするわ!」
ソフィアがカウンターに向かうのを見て、ハーマイオニーは後ろで微笑みながらほっと胸を撫で下ろした。
「おや、お嬢さん達はさっきの男の子達の知り合いかい?…ほら、ネズミを見せにきた…」
「ええ、そうです」
ソフィアはカウンターにペット用クッキーの袋と代金を置く。店員は代金を受け取り、ソフィアの差し出された手にクッキーの袋とおつりを渡しながらカウンターに置かれたままになっている小さな赤い瓶をハーマイオニーに渡した。
「その男の子が、このネズミ栄養ドリンクを忘れてね。持って行ってくれないかい?」
「まぁ!…ロンったら何のためにきたのかしら…ええ、必ず渡しますね」
ハーマイオニーは少し眉を顰めたものの、店員にはにっこりと笑いその瓶をポケットに入れた。
「あの、私フクロウが欲しくて───その子は?」
ハーマイオニーは棚の上で丸まりながら太くふさふさとした尻尾を揺らす猫に目を止めた。ハーマイオニーの髪のような、明るい毛色を持つ巨大猫だった。
「この子ですか?クルックシャンクスという猫で…随分長い間飼い主が現れなくてね…」
店員は手を伸ばしむんずとクルックシャンクスを掴むとカウンターの上に置いた。
クルックシャンクスは大きな毛玉のようにふわふわとしていたが、気難しそうな表情をしやや不貞腐れたようにその顔は潰れていた。
「まぁ!可愛いわ!」
「ほんと、すっごく素敵ね!」
ハーマイオニーとソフィアは目を輝かせ、クルックシャンクスを褒めた。褒められたことがわかったのか、クルックシャンクスはふとい尻尾を揺らし「にゃあ」と甘えたような声を出すと立ち上がり床に軽やかに着地するとハーマイオニーの足元に擦り寄る。
「決めた!この子にするわ!」
「フクロウじゃなくていいの?」
「ええ、運命の出会いよ!」
ハーマイオニーは大きなクルックシャンクスを抱き上げると、その長い毛に顔を埋め幸せそうに微笑んだ。ソフィアもまたクルックシャンクスを一目見て気に入っていた為「良いと思うわ!」と大きく頷く。
「…あ!ティティとの相性はどうかしら?ホグワーツでは一緒の部屋で過ごす事になるでしょう?」
「それもそうね…」
ハーマイオニーは胸に抱いていたクルックシャンクスをそっとカウンターの上に乗せ、ソフィアはカバンの中から両手で収まるほど小さなフェネックのティティを取り出す。
そっと小さなティティをクルックシャンクスに近づけた。
真っ黒なティティのつぶらな瞳と、深い茶色をした眠そうなクルックシャンクスの瞳が交わる。
お互いじろじろと相手を見ていたが、クルックシャンクスはティティの鼻頭をぺろりと舐め、ティティはくしくしと顔を掻きながらも嫌では無かったようで「きゅー」と嬉しそうに鳴き、ソフィアの手から飛び出すとクルックシャンクスの上に乗った。
「相性はばっちりね!」
ハーマイオニーは、ティティに乗られても全く怒る様子のないクルックシャンクスと、上で伸び伸びと四肢を伸ばすティティを見て決まりだ!というように顔を綻ばせ、ソフィアも仲の良い2匹を見て嬉しそうに頷いた。
「スキャバーズ!どこ行った!?」
「ロン、僕あっちを探すよ」
顔を青くしたロンが叫びながら身体を屈め地面を必死に探していた。ハリーは左側を指差しすぐに同じように身体を屈めて地面を見る。
「僕はあっち側探すね。スキャバーズの特徴は?」
「ありがとうルイス…スキャバーズは前足の指が一本かけてるんだ」
「オーケー、探してくる!」
ルイスは人混みの中頭を下げながら左右を見渡した。──こんな人混みの中に紛れ込んでいたらきっと踏み潰されてしまう、もう少し端の方を探した方がいいかな?
先程来ていたアイスクリーム店まで戻ったルイスは机の下や店裏にあるゴミ箱を覗いたが、スキャバーズらしきネズミは中々発見できなかった。
「シェイド!」
ルイスは空に向かって呼びかける、アイスクリーム店の屋根に留まっていたシェイドはすぐにひらりと大きな羽を広げてルイスが差し出す腕に留まった。
「ロンのスキャバーズを探して欲しいんだ、でも…食べちゃダメだよ?いいね?」
「──クー」
シェイドはルイスの指を甘噛みするとすぐに空を飛び少し空を旋回していたが羽をたたみ地上近くまで降りてきた。まさか、もう見つけたのだろうか?ルイスは少し疑いながらもシェイドが居る高級クィディッチ用具店に向かった。
「ルイス!スキャバーズ見つかった?」
人混みを掻き分けながら進んでいると、息を切らしたハリーが辺りを見ながらルイスに駆け寄った。その言葉を聞きまだ見つかってない事を知ったルイスはシェイドが向かった方を指差す。
「ううん、シェイドも探してて…クィディッチ用具店に行ってみよう」
「…シェイド、食べちゃわない?」
心配そうなハリーの呟きにルイスは「大丈夫だよ…多分ね」と答え肩を竦めた。
ちょうどロンもクィディッチ用具店の近くを探していた為、3人は共にシェイドの「カアカア」という鳴き声に引き付けられるようにして用具店の裏に向かった。
ゴミ箱の上にシェイドが留まり、羽を大きく広げながら「ここだよ」という風に頭を下げる。
ロンはすぐに地面に頬をつけるようにゴミ箱の下を必死に探し──「見つけた!」と歓声を上げるとゴミ箱の下に手を突っ込み震えるスキャバーズを取り出した。
埃やらゴミがついたスキャバーズを撫でながらロンが立ち上がり、ポケットにしっかりとスキャバーズを戻す。
「ありがとう、君は賢いね!」
「クー」
ロンはシェイドに向かってにっこりと笑いかける。シェイドはこんな簡単な事余裕だよ、というように胸を逸らしルイスの元へ優雅に飛んだ。
「シェイド、ありがとう…良い子だね」
ルイスは腕に留まったシェイドの頭を撫で、鞄に手を突っ込み中から小さな肉を取り出しシェイドに与えた。美味そうに食べるシェイドの様子を見て、ルイスは微笑んでいたがロンとハリーはその肉が一体何の肉なのか──聞く事はなかった。
シェイドをまた空に戻してから3人は再び魔法動物ペットショップへと向かう。ロンはポケットの膨らみを撫でながら怪訝な顔をしてハリーとルイスを見た。
「あれは一体何だったんだ?」
「巨大な猫か、小さな虎かのどっちかだ」
「猫じゃない?虎だったら…ソフィアが喜んで飼うよ」
「そんなことになったら…スキャバーズの姿が見えなくなるのも時間の問題だ!」
ロンは肩をすくめたが、もう既にソフィアがフェネックを飼っていることを思い出し嫌そうに眉を顰め、何度もポケットを撫でた。
ちょうど3人がペットショップの前についた時にソフィアとハーマイオニーが店の中から出てきた。
ハーマイオニーは両腕にしっかりと愛おしそうにクルックシャンクスを抱きしめていて、それを見たロンは口をあんぐりと開け、信じられないような目でハーマイオニーを見た。
「君、あの怪物を買ったのか?」
「この子、素敵でしょう?ね?」
「ええ、とっても素敵よ!」
得意げなハーマイオニーと、隣で何度も頷くソフィアを見て、ハリーは見解の相違だ、もしかして女の子というものは奇妙な生き物に惹かれるのだろうか、と思った。
どうみてもクルックシャンクスは愛らしさはなく、ふわふわとして確かに抱き心地は良さそうだったが足はちょっとガニ股気味であり、気難しそうな顔は少々潰れていた。
「うーん、見解の相違だね」
ハリーの心の中を代弁したかのようにルイスはソフィアとハーマイオニーに気付かれないよう小声で呟く。ハリーはそれを聞いて少し笑ってしまった。
「ハーマイオニー、そいつ、僕の頭の皮を剥ぐところだったんだぞ!」
「そんなつもりはなかったのよ、ねえ、クルックシャンクス?」
「それに、スキャバーズの事はどうしてくれるんだい?こいつは安静にしなきゃいけないんだ、そんなのに周りをウロウロされたら安心できないだろ?」
ロンは嫌そうに胸ポケットの膨らみを撫でたが、ハーマイオニーは思い出したようにポケットに手を突っ込み赤い小瓶をその手に押し付けた。
「あなた、ネズミ栄養ドリンクを忘れていたわよ。それに取り越し苦労はおやめなさい。クルックシャンクスは私の女子寮で寝るんだし、スキャバーズはあなたの男子寮で寝るんでしょう?」
ハーマイオニーの藩論にロンは言葉を詰まらせたが、それでもまだ不服だと口を尖らせる。
「何が問題なのよ?ああ、可哀想なクルックシャンクス。あの魔女が言ってたわ、この子もうずいぶん長い事あの店に居てたって、誰も欲しがる人がいなかったんだって」
ハーマイオニーはゴロゴロと甘えた声を出すクルックシャンクスの喉を優しく擽りながらそのふわふわとした巨大に顔を埋めた。
「本当に、不思議よね…」
「ああ、不思議だよ」
ソフィアとロンはそう呟いたが、2人の声音は全く異なっていた。
「じゃ、欲しいものは買ったし、漏れ鍋に行こうか」
そろそろ話題を変えなければこの2人はどんどん険悪になる──と思ったハリーの素早い話題変更に、彼らは否定する事なく頷き、漏れ鍋へ向かって歩き始めた。