5人は販売員の魔女から買った沢山のお菓子を食べながら窓の外の景色を見たり、新しく始まる科目について話した。──尤も、授業の話をしていたのはソフィアとルイスとハーマイオニーだけで、ロンとハリーは学校が始まる前に授業の事など考えたくないのだろう、嫌そうな顔をしながらクィディッチや、ファイアボルトの話をしていた。
楽しく会話をしていた5人だったが、突如通路から複数の足音がしてコンパートメントの扉が開かれた。
現れた人を見てソフィアとルイス以外は嫌そうに顔を顰めた。
「へえ、誰かと思えば。ルイスとソフィア…それにポッター、ポッティーのイカれ君と、ウィーズリー、ウィーゼルのコソコソ君じゃないか!」
ドラコは嘲笑を浮かべハリーとロンを下品な蔑称で呼びながら2人を見下した。
後ろに控えていたクラッブとゴイルは低く馬鹿にしたように笑う。
「ウィーズリー、君の父親がこの夏やっと小金を手にしたって聞いたよ。母親がショックで死ななかったかい?」
ロンが怒って立ち上がった拍子にクルックシャンクスの籠を床に叩き落としてしまい、けたたましい音が鳴り響く。
ルイスはため息を一つつき、ロンのそばをさっと通るとドラコの前に立った。
ドラコはルイスの呆れたような視線を受け、また何かうるさく言われるのかと少したじろいだ。
「ドラコって、もしかしてハリーとロンが好きなの?」
「気色の悪い事を言うな!そんなわけがないだろう」
「じゃあなんでハリー達のいるコンパートメントをわざわざ探したわけ?」
「それは…ルイスを探して…」
ごにょごにょとドラコは口籠るように答える。それを聞いてルイスは少し目を見開き大きくため息をつくと額を手で押さえた。
「それなら普通に入ってきなよ!…ほら、行くよ」
ルイスはドラコの肩を掴みくるりと無理矢理反転させるとそのまま強く通路へ押しやった。
扉を締める前に振り返り、ハリーとロンに「ごめんね」と申し訳なさそうに苦笑いしながら告げ、後ろ手に扉をぴしゃんと閉めた。
「本当、ルイスとマルフォイが仲良しだなんて…今でも信じられないわ!」
嵐が去った後のような静けさの中、ハーマイオニーが吐き捨てるように言うとロンとハリーもそれに賛同した。
汽車がさらに北へ進むと雨もその激しさを増した。窓の外は真っ暗になり、見えるのは窓を叩きつける大きな雨粒のみとなり、薄暗くなった車内を照らすために通路と荷物棚にぽっと灯りが点った。
「もう着く頃だ」
汽車が速度を落としたのを感じ、ロンが身を乗り出しリーマスの身体越しに窓の外を見る、真っ暗で何も見えないが、外にホグワーツ城の灯りが見えないかと目を凝らし伺っていた。
「いつもより早いわね」
「まだ着かないはずよ」
ハーマイオニーもいつもより早いことに気付き、腕につけている時計を見ながら呟く。
「じゃ、何で止まるんだ?」
汽車はますます速度を落とした、早く響いていたピストンの音が遅く小さくなり、窓を打つ雨風の音がより際立ってコンパートメント内に響く。
1番扉に近い位置にいたハリーとソフィアが立ち上がって通路の様子を伺ったが、同じ車両のどのコンパートメントからも不思議そうな顔が突き出していた。
突如速度を落としていた汽車はガクンと止まり、バランスを崩したソフィアがハリーに向かってよろめく、咄嗟にハリーはソフィアの肩を掴み、なんとか2人揃っての転倒を防いだ。
「あ、ありがとうハリー…」
「ううん、大丈夫?」
「ええ…──わっ!」
ソフィアがハリーの胸元に手を当てながら顔を上げ頷いた瞬間、何の前触れもなく車内の灯りが一斉に消えた。生徒の小さな悲鳴と不安そうな騒めきが聞こえる中、ソフィアはぎゅっとハリーの腕を掴む。
「一体何が起こったんだ?」
「痛っ!ロン!今私の足を踏んだわ!」
ハーマイオニーが叫び、ロンが謝る声が聞こえたが、ハリーとソフィアにもその姿は見えなかった。
「故障しちゃったのかな?」
「さあ…?」
「…なんか、あっちで動いてる。──誰か乗り込んでくるみたいだ」
ロンが窓ガラスの曇りを腕で拭き、外の様子をじっと見た。ようやく目が暗闇に慣れ始め、お互いの輪郭がぼんやりと見え始めた頃突如コンパートメントの扉が開き、誰かがソフィアとハリーにぶつかった。
「きゃっ!」
「だ、だれ!?」
「ごめんね、何がどうなったのかわかる?」
飛び込んできたのはどうやらネビルだった、ソフィアはぶつけた肩を押さえながら鞄に入っているティティの無事を確認し、ほっと胸を撫で下ろすとポケットから杖を出した。
「
ぽっとソフィアの杖先に小さな灯りが灯る。
ソフィア達は顔を見合わせ、少しホッとしたようにぎこちなく笑い合った。頼りない小さな灯りだったが、無いよりは幾分もマシだった。
「私、運転手に何があったのか聞いてくるわね」
ソフィアが杖先で扉の向こうの闇を照らしながら静かに告げる。
唯一の灯りが無くなることにハリー達は不安そうに眉を下げたが、何があったのか気になるのも事実であり、「お願い」と扉に手をかけるソフィアを見送った。
「わっ!ジニー!?」
しかし直ぐに不安げな顔をしたジニーと出会い、ソフィアは目を丸くして足を止めた。
「ソフィア!」
「どうしたの?」
「ロンを探してるの」
「ああ、居るわよ。通路は暗いから入って」
「ありがとう──わっ!」
「アイタッ!」
ジニーはほっとしてコンパートメントにはいったが、ソフィアが照らす灯りでは足元まで光が届かなかった為にネビルの足を踏んでしまい、ネビルが悲鳴を上げた。
「静かに!」
突然、しわがれた声が聞こえ、ジニー達は騒いでいた声をぴたりと止めた。
運転手に聞きに行こうと思っていたソフィアは、リーマスがこのコンパートメントに居たことをようやく思い出し、生徒よりは先生が聞きに行ったほうがいいかも知れないと、狭くなったコンパートメント内にまた戻った。
カチリという音と共に柔らかな灯りがコンパートメント内を照らした。リーマスは手のひらに大きな炎を抱えるように持ち、不安そうなソフィア達の顔と、疲れたようなリーマスの灰色の顔を照らす。しかし、リーマスの目だけは油断なく鋭く辺りを警戒していた。
「動かないで」
リーマスはそう言うとゆっくりと立ち上がりソフィアとハリーを座席近くに優しく押しやると、手のひらの灯りを扉に突き出す。
リーマスが扉を開ける前に、その扉は1人でに開いた。
その先には黒いマントで覆われた天井まで聳えるほどの大きな影が立っていた。
急激にコンパートメント内の気温が下がり、ソフィア達は身体を震わせる。
「
ソフィアが小さく呟くのと、吸魂鬼がすう、と何かを吸い込む動作をしたのは同時だった。ソフィア達は顔色をさっと無くし、よろめいた。──幸福な気持ちが、吸われている。そうソフィアはわかったが、それを防ぐ事の出来る呪文をまだソフィアは習得していなかった。
ハリーが震え、身体を硬直させたまま目の前にいるソフィアに向かって倒れ込む。「ハリー!」ソフィアは叫びながら慌てて気を失ったハリーを支えようとしたが、身長差と体格差からその場に倒れ込んでしまった。
リーマスはそれを見ると表情を険しくさせたままソフィアとハリーを跨ぎ吸魂鬼に向かって杖を突きつけた。
「シリウス・ブラックをマントの下に匿っている者は誰もいない。──去れ」
リーマスの厳しい言葉にも吸魂鬼は動かずハリーを見下ろしていた。リーマスは素早く守護霊魔法を唱え、杖先から銀色の光線が吸魂鬼に向かって放たれた。
ついに吸魂鬼はそれを嫌がるように身を縮めると背を向けてすっとその場から去った。
暫し重い沈黙が落ちる。
ソフィアは思い出したように「ハリー!ハリー!」と未だ気絶しているハリーの肩を揺さぶった。吸魂鬼が居なくなるとコンパートメント内に再び灯りが戻り、表情を硬らせたソフィア達を明るく照らし、ゆっくりとホグワーツ特急が再びに鈍い音を立てながら発車し出した。
「ハリー!ハリー!しっかりして!」
ソフィアは自分の膝の上にハリーの顔を横たえさせるとその頬を軽く叩く。ロンやハーマイオニーも心配そうにその様子を見つめていた。
「う…うーん…?」
ハリーはぎゅっと眉間に皺を寄せながら目をうっすらと開けた。ソフィアはほっと胸を撫で下ろし、ハリーの額にぴったりと張り付く前髪を優しく指で払った。
暫くハリーはぼんやりとソフィアの顔を見つめていたが、ゆっくりと身体を起こしずれた眼鏡を指で押し上げる。──顔に冷や汗が流れている事に気付いた。
ソフィアとロンとハーマイオニーは顔色の悪いハリーを支えながら席に座らせ、ロンが恐々と「大丈夫かい?」と聞いた。
「ああ…何が起こったの?あいつはどこにいったんだ?──誰が叫んだの?」
ハリーは扉の方をちらりと見ながら困惑したようにソフィア達に聞いた。
ロンはさっと表情を悪くし、心配そうに眉を下げた。
「誰もが叫んで無いよ」
「でも、僕──叫び声を聞いたんだ」
ハリーはロンの返答を聞き、困惑したようにコンパートメント内を見渡したが、ジニーとネビルは黙ったまま蒼白な顔でハリーを見つめるだけだった。
あの叫び声が幻聴なわけがない、あんなにはっきりと──哀願するような、悲痛な叫び声だった。
沈黙が落ちるコンパートメント内に、パキッという大きな音はいやに響き、ハリー達は跳び上がり音のした方を一斉に振り向いた。
リーマスがカバンから大きな板チョコを出して割った音だとわかると、ソフィアは固くなった表情を少し緩めた。
たしか、吸魂鬼に会った時はチョコを食べると落ち着くと書いてあった。チョコの持つ甘さと優しさ、そしてその成分が疲労回復を促すらしい。
「さあ、食べるといい。気分が良くなるから」
リーマスは特別大きく割れた一切れをハリーに渡し、安心させるように微笑んだ。
「あれは何だったのですか?」
「ディメンター、吸魂鬼だ。──アズカバンの
ハリーの疑問に答えながらリーマスはソフィア達にもチョコを配り、ソフィアは少しだけチョコの端を齧った。
「食べなさい、元気になる。…私は運転手と話してこなければ…失礼」
リーマスは全員にチョコを配り終えると空になった銀紙をくしゃくしゃと丸めポケットに突っ込みながらすぐに通路へと向かいその姿を消した。
「ハリー、本当に大丈夫?」
まだ蒼白な顔をしているハリーを見てハーマイオニーは心配そうに呟く。ハリーは額に流れる汗を拭いながら少し頷いた。
「僕…訳がわからない、何があったの?」
ハリーの疑問に、ハーマイオニーが吸魂鬼が現れ、ハリーが気絶してからのことをぼそぼそと話した。恐怖を思い出したネビルが「怖かったよぉ…」と涙ぐみ身体をぶるぶると震わせる。
「僕、妙な気持ちになった…もう一生楽しい気分になれないんじゃないかって…」
ロンが腕を摩り、身を屈めながら気味が悪そうに呟く。ジニーはハリーと同じように気分が悪そうで隅で膝を抱えながら啜り泣き、それを見たソフィアは側に寄るとそっと慰める肩を抱きしめた。
「大丈夫よ、もう吸魂鬼はいないわ」
「ソフィア…」
ジニーの目には大粒の涙が溢れ、顔色は蒼白のままだ。身体は凍えているのか恐怖からか、小さく震えている。
ソフィアは強くジニーを抱きしめるとその背を優しく撫でた。
「だけど…誰か、僕以外に気絶した?」
「ううん…ジニーはめちゃくちゃ震えてたけど…」
気まずそうにいうハリーに、ロンがぽつりと呟き、また心配そうにハリーを見た。
ハリーは気絶したのが自分だけだと知ると恥ずかしさで目を伏せる。何故みんながこれ程心配そうに自分を見つめるのかが分かり、どうしようもなく──嫌だった。
リーマスが沈黙が落ちるコンパートメントに戻ってくると、入ってくるなりみんなを見渡し、小さく笑った。
「おやおや、チョコレートに毒なんて入れてないよ」
リーマスは少しだけちらりとソフィアを見た。ソフィアはその目配せの意味がわかり──この前会いに行き、セブルスがリーマスに言った言葉を揶揄っているのだろう──同じように少し微笑む。
ハリー達は促されるまま、チョコなんて食べる気分じゃなかったが一口齧る。途端に手足の先まで一気に暖かさが広がったのを感じた。
「後10分で着く、ハリー、大丈夫かい?」
「はい」
ハリーは何故自分の名前を知っているのか聞かず、呟くように答えた。