【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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120 カウンセラー!?

 

夕食の時、ハリー達はハグリッドの顔が見たくて真っ先に大広間に向かったが、教職員の席にハグリッドの姿はなかった。

ソフィアが医務室から帰ってきてからすぐに2人は無事だと聞いて──ドラコはともかく、ルイスが無事だと聞き──ハリー達はほっと胸を撫で下ろしていた。

 

ソフィアもまた、怪我を負った2人よりもハグリッドの落ち込み具合を気にしていたが、ハグリッドは夕食が開始されても大広間にその姿を見せることは無かった。

 

 

「ハグリッドをクビにしたりしないわよね?」

「そんな事、しないといいけど」

 

 

ハーマイオニーとロンは心配そうな顔をしたまま呟き、食事に一切手をつけなかった。

ソフィアは二人にせめてサラダかスープでも飲んだほうがいい、と2人の前にスープを押しやりながら不安そうに空席を見つめる。

 

 

「ルイスがちゃんと証言してくれるとは思うわ。ドラコがヒッポグリフを侮辱したって…でも、理事会に報告は…いくでしょうね…」

 

 

ソフィアはひと匙だけミネストローネを飲んだがすぐにスプーンを置くとため息を零す。

 

 

「まぁね、休み明けの初日としちゃあ、なかなかに波乱に富んだ1日だったと言えなくもないよな」

「そうだね…あ、ソフィア、そういえば占い学の終わりに僕に言ったの、あれってどう言う意味だったの?」

 

 

ロンの言葉を聞き、ハリーは1日にあった事を思い返し、ソフィアに聞いた。

しかしソフィアはきょとんとしたまま首を傾げる。1日に色々ありすぎて、午前中にあった事をすっかりと忘れていたが、焦ったそうなハリーの目を見て漸く思い出すと何でもないことのように告げた。

 

 

「ああ…ハリーのカップに、犬が見えたって言った事かしら?」

「そう!でも、その後…僕には何も見えなかったって言ったよね」

「えっそうなの?」

 

 

ハーマイオニーは怪訝な顔をしてハリーとソフィアを見る。

占い学での出来事や、その後ロンと言い合った事からハーマイオニーは占い学が既に嫌いになりあまり話題にしたくはなかったが、つい聞こえてきた話に反応してしまった。

 

 

「トレローニー先生って、色々予言じみた事を言ってたけど、全部不吉なものだったでしょ?多分、あの先生は人が不幸になるかもしれないっていう恐怖心を煽っているのね、人って幸せな気持ちより、辛い気持ちの方が印象に残りやすいから──あの人が本当に優れた予言者なのかどうか、私は知らないけれど…あのハリーのカップを見た先生の様子から、きっと碌でもない事を言うと思ったのよ」

 

 

ソフィアはカボチャジュースを一口飲むと、まだ話の先が見えず疑問符を掲げるハリー達に悪戯っぽく笑い、さらに言葉を続けた。

 

 

「だから、あの本の中にある1番嫌な象徴を言ったの。──あの滓はぎりぎり生き物に見えなくもなかったからね」

「ソフィア、君も死神犬を信じてないの?僕のおじさんは、死神犬を見た24時間後に死んじゃったんだ!」

 

 

ロンはまさかソフィアもハーマイオニーと同じ考えなのか、と愕然とし、昼間のハーマイオニーとの言い合いを思い出したのか既に少し怒り始めていた。

しかし、ソフィアは涼しい顔でロンを見ると首を傾げる。

 

 

「あなたのおじさんは、墓場に行ったの?」

「え?──さあ、知らない、けど…?」

「トレローニー先生も言ってたでしょう。死神犬は基本的に墓場にいるの、墓守りとしての側面もあるから…もし、墓場に行ってなくて、ただの道や公園で黒い犬を見たなら、それはただの野良犬よ」

「ほら見なさい!」

 

 

ソフィアの言葉にハーマイオニーは勝ち誇ったように胸を逸らしロンをじろりと睨んだ。秀才2人からの真っ向からの反論に、ロンは暫くくちをぱくぱくさせたが、良い言い返しが思い浮かばず、絞り出すように「でも…でも、本当に死んじゃったんだ…」と呟いた。

ソフィアは少しだけ眉を下げてロンの肩を優しく撫で「ロン」と宥めるようにゆっくりと囁いた。

 

 

「ロン。あなたのおじさんがお亡くなりになって、悲しかったのね?」

「──うん、急に、だったし…病気もしてなかったから…」

「それは、…うん、とっても悲しいわ。…あのね、ロン、人は最愛の人の…不合理な死や、理不尽な死に耐えられないの、何処かで理由を求めたがるのよ」

「…理由…?」

 

 

ソフィアは少し、考えながら口を開く。

 

 

「ええ、そう。死神犬を見たから、不幸にも亡くなってしまった。──そう思う事が、悪い事だと私は思わないわ。それで亡くなったおじさんのご家族の心が落ち着くのなら、良いと思うわ。」

「…ソフィア、君ってカウンセラーになれるんじゃない?」

「…そうかしら?」

 

 

ロンは力なく笑った。

ソフィアの言っている事は、ハーマイオニーとはまた違った意見だったが、そちらの方がまだロンは許容する事が出来た。──たしかに、おじさんは墓場には行っていなかった。いつものように仕事に出かける時に道で死神犬を見てしまい、その翌日に急死したのだ。

ロンはまだ死神犬の存在を信じているが、先程まで胸に燃えていた怒りはすっかりと引き落ち着いた。

 

 

「…結局、ソフィアはグリムはいないって思ってるの?」

 

 

ソフィアの言葉は信じているようにも、いないようにも捉えることが出来た。夏休み中に聞いた時はあまり信じてなさそうだったが、結局どっちなのだとハリーは眉を顰める。

 

 

「うーん。グリムと呼ばれている犬の亡霊は居るんじゃない?人間のゴーストがいるくらいだもの。──けど、グリムを見たから死ぬ、というわけではないと思うわ」

「…成程…?」

 

 

ハリーはわかったような、わからないような気がして眉を寄せたまま頷く。ソフィアは苦笑してカボチャジュースをまた一口飲み、軽く言った。

 

 

「大丈夫よハリー、あなたは死なないわ」

 

 

何の根拠もなさそうなソフィアの言葉だったが、ハリーは心がぽっと明るくなったような気がして微笑み、ほんの少しだけ緩くなったスープを飲んだ。

 

 

 

夕食後、ソフィア達はグリフィンドールの談話室で変身術の宿題に取りかかったが、4人ともしばしば中断しては塔の窓から外をちらりと見ていた。

4人とも言葉には出さないが、やはりハグリッドの事がずっと気になっていた。

 

 

「ハグリッドの小屋に灯りが見える」

 

 

窓の外を見ていたハリーはその微かな灯りに気付くと立ち上がり窓に顔を近づける。ロンは腕時計を見てまだ外出可能な時間だと知るとすぐに教科書を閉じた。

 

 

「急げば、ハグリッドに会いにいけるかもしれない。時間も早いし…」

「それはどうかしら」

 

 

ハーマイオニーは含みを込めた視線をハリーに向ける。途端にハリーはハーマイオニーが何を考えているのかわかり、かっと顔を赤くした。

 

 

「僕、校内を歩くのは許されてるんだ!シリウス・ブラックは、ここではまだ吸魂鬼を出し抜いてないだろ?」

「そうね、ハリー。…行きましょう」

 

 

ムキになりつい声を荒げたハリーを落ち着かせるようにソフィアはゆっくりと言うと教科書を閉じる。

 

 

「どうせ、気になって夜中に抜け出すよりは、今行った方がマシだわ。──宿題も、みんな手につかないみたいだしね」

 

 

ハリー達はソフィアの言葉に、まだ開始当初から殆ど進んでない宿題を見下ろした。

ハーマイオニーは少し複雑そうな目をしたが、彼女もハグリッドの事は心配で、何より宿題に手がつかないのも事実だったため、それ以上反論する事はなかった。

 

4人はすぐに宿題を片付けると肖像画の穴から外に出た。足早に廊下を進み、正面玄関にたどり着くと近くに誰もいない事を確認してそっと大きな扉を押し開ける。

 

まだ湿り気を帯びている芝生を踏みしめながら走り、空を真っ赤に染める黄昏時の中、ハグリッドの小屋についたハリーは強く扉をノックした。

 

「入ってくれ」

 

 

中から呻くようなハグリッドの声が聞こえ、ソフィア達は顔を見合わせたあと直ぐに小屋の中に入る。

ハグリッドはテーブルの前に座り、バケツほどの大きさがある錫製のジョッキを掴み、焦点の合わない目で入ってきた4人をぼんやりと見つめた。

 

ソフィア達はひと目見ただけでハグリッドが相当深酒をしたのだと分かった。顔は赤らみ目はうつろで、おまけに小屋の中に強いアルコールの臭いが漂っている。

「すごい臭いだわ…」と、ソフィアは袖で鼻を押さえながら直ぐに窓に近づくと大きく開き、小屋の中に新鮮な空気を呼び入れた。

 

 

「こいつぁ新記録だ。1日しかもたねぇ先生なんざ、これまで居なかっただろう」

「ハグリッド、まさか、クビになったんじゃ!」

 

 

ハーマイオニーは自虐的なハグリッドの言葉に息を呑んだ。「まだだ」とハグリッドは否定したものの、どうせすぐにクビになるに決まってる、と思い込んでいるようだった。

 

 

「だけんど、時間の問題だ。マルフォイとルイスの事で…」

「そんなに悪くないんだろ?ソフィアから聞いたけど」

 

 

4人はハグリッドの前の席に座りながらなんとか慰めようと思い、ロンが聞いた。

 

 

「マダム・ポンフリーができるだけの手当てをした…ルイスはもう大丈夫だと言ったが…きっと俺に気を使っとるんだ…あいつは優しいからなぁ……マルフォイはまだ疼くと言っとる…包帯ぐるぐる巻きで…呻いとる…」

「ええ?私が見た時は…そりゃ少しは痛むようだったけど…そんなに呻いてなかったわよ?」

「悪いふりをしてるだけだ!マダム・ポンフリーならなんでも治せる。去年なんか、僕の片腕の骨を再生させたんだよ。マルフォイは汚い手を使って、怪我を最大限に利用しようとしてるんだ」

 

 

ハリーはいつものドラコの手だと怒りながら言うが、ハグリッドは肩を落とし力なく萎れきり、目はじっとテーブルの木目を見つめていた。

 

「学校の理事達に知らせがいった。当然な…。俺が初めから飛ばし過ぎだって、理事達が言うとる。ヒッポグリフはもっと後にすべきだった…レタス食い虫かなんかから始めていりゃ…1番の授業にはあいつが最高だと思ったんだがな──みんな俺が悪い…」

 

 

心の底から後悔しているハグリッドのその悲しい言葉に、ソフィア達は強く胸を痛め、気がつけば口々に叫んでいた。

 

 

「ハグリッドの授業、最高だったわ!悪いのはあなたじゃないわ!」

「そうよ、悪いのはマルフォイの方よ!」

「僕たちが証人だ、侮辱したりするとヒッポグリフが攻撃するって、ハグリッドはそう言った。ちゃんと聞いてなかったマルフォイが悪いんだ。ダンブルドアに何が起こったのか話すよ。それに、ルイスも証言してくれるよ!」

「そうだよ。心配しないで、僕たちがついてる」

 

 

ソフィア、ハーマイオニー、ハリー、ロンからのそれぞれの優しい言葉に、ハグリッドはその小さく黒い瞳からぽろぽろと涙を溢した。ハグリッドは手の届くところにいたハリーとロンを強く──骨が砕けたと、2人は思った──抱きしめた。

 

 

「ハグリッド、もう充分呑んだと思うわ」

「そうよ、…お酒じゃなくて、お水をのみましょう?」

 

 

ハーマイオニーがテーブルからジョッキを取り上げ中身を捨てるために外に出た。

ソフィアは水はどこかとキョロキョロとあたりを見渡したが、近くに酒瓶以外の飲み物は見当たらなかった。

 

 

「ああ、ソフィアの言うとおりだ…」

 

 

ハグリッドはハリーとロンを離すと、ふらふらと立ち上がりハーマイオニーの後から外に出る。

軋んだ胸を摩るハリーとロンに、ソフィアは「大丈夫?」と小声で聞いたが、2人は無言で頷くのが精一杯だった。

 

水がばしゃんと跳ねる大きな音が外から聞こえ、ハリーとロンとソフィアは顔を見合わせ首を傾げた。てっきり水を取りに行ったのかと思ったが、そうでは無さそうだ。

 

 

「ハグリッド、何をしてるの?」

 

 

ハリーは空のジョッキを持って小屋に戻ってきたハーマイオニーに聞いた。ハーマイオニーはちらりと後ろを振り返りため息を吐きながら「水の入った樽に頭を突っ込んでたわ」と答え、ジョッキを机の上に戻す。

その後すぐに長い髪と髭をびしょ濡れにして、目をぬぐいながらハグリッドが戻ってきた。

 

 

「さっぱりした」

 

 

ハグリッドが犬のように頭をブルブル振るった為にあたりに大粒の雫が飛び散り、4人ともびしょ濡れになってしまった。

 

 

「なぁ、会いに来てくれてありがとうよ、本当に俺──」

 

 

ハグリッドは一気に酔いが覚めたのか、正気を取り戻した目でハリーを見据えると急に立ち止まり、まるではじめてハリーがいる事に気づいたかのようにじっと見つめた。

 

 

「お前たち、一体なにしちょる。えっ?」

 

 

ハグリッドがあまりに急に大声を出した為、4人とも30センチは飛び上がった。

今更何を、とソフィアが言い出すよりハグリッドは真面目な顔で足早にハリーに近付くとその腕を強く掴んだ。

 

 

「ハリー、暗くなってからうろうろしちゃいかん!お前さんたち!3人とも!ハリーを出しちゃいかん!──来るんだ!」

 

 

ハグリッドは怒りながら言うとハリーの腕をドアまで引っ張っていく。ソフィアとハーマイオニーとロンは顔を見合わせお互い困惑した表情を浮かべているのを見ながら、立ち上がるとハグリッドと、引っ張られるハリーの後を追った。

 

 

「俺が学校まで送っていく。もう二度と、暗くなってから歩いて俺に会いに来たりするんじゃねえ。──俺にはそんな価値はねぇ」

 

 

苦しげに吐き出されたその言葉に、ソフィアは思わず「そんな事言わないで!」と言ったが、ハグリッドはちらりとソフィアを見ただけで何も言わず無言でのしのしと歩き足早にハリー達を城の前まで送り届けると、4人の視線から逃れるようにさっさと小屋へ戻ってしまった。

 

 

城前に残された4人は、夜へ変わりつつある空を見上げ、無言で正面玄関の扉をくぐった。

 

 

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