【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

121 / 467
121 縮み薬!

3年生になり、はじめての魔法薬学の授業が始まった。

生徒が集まる中に、ドラコの姿がまだ見えない事は気になっていたが、もうルイスは復活している、きっとハリーの予想通り大袈裟なフリをしているのだろう、とソフィアはため息をつく。

 

 

「ルイス、もう大丈夫?」

「うん、すっかり良くなったよ」

「…ドラコは?」

「あー…まだ痛いらしいよ」

 

 

僕は治ったのに、不可解な事もあるものだね。と呆れ口調でルイスはソフィアに告げる。ルイスもまた、ドラコはわざと痛がっているふりをしているのだとわかっていた。だが、本人が痛いと言っているのだ、他人がどれだけ否定しても彼はそれを頑なに認めないだろう。

 

 

ドラコが現れたのは授業が半分は終わった時だった。包帯を巻いた右腕を釣り、ふんぞり返り悠々と教室内を歩く。

 

 

「ドラコ、どう?酷く痛むの?」

「ああ」

 

パンジーの言葉にドラコは痛みに勇敢に耐えているような顰め面で答える。ソフィアがそっとドラコに近づき「本当に、痛むの?」と聞けば、視線をソフィアと合わせないままに「ああ」と同じように答えた。

 

 

「ふーん、…ルイスは治ったのに、お気の毒様」

 

 

ソフィアは冷ややかな声で伝えると怒りを微かに滲ませたまますぐに元の席に戻った。

ソフィアは背を向けていた為気が付かなかったが、ハリーはドラコがクラッブとゴイルにウインクをしたのを見逃さず、憎々しげにドラコを睨んだ。

 

 

「座りたまえ、さあ」

 

 

セブルスは座るように促しただけで遅れて来たドラコを注意する事は無い。

もしこれが他の生徒なら──グリフィンドール生なら間違いなくどんな理由があろうとも厳罰を科していただろう。

 

 

今日は新しい薬──縮み薬を作っていたが、ドラコはハリーとロンのすぐ隣に自分の鍋を置き、嫌そうな2人の視線を気にする事なく同じ机で材料を準備し始めた。

それを数席後ろの机で見ていたソフィアとルイスは顔を見合わせ「ドラコって、本当にたまにどうしようもなく悪い子になるよね」と盛大なため息と共に呟いた。

 

 

「先生、僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので──」

「ウィーズリー、マルフォイの根を切ってやりたまえ」

 

 

セブルスはドラコの方を見ずに言い、それを聞いたロンは髪の色と同じ色に顔を染め、憎々しげにドラコを睨んだ。

 

 

「…私も腕を怪我したら、ルイスに全て作ってもらえるかしら」

 

 

ソフィアはバラバラになった雛菊の根を見下ろしながら呟く。ルイスはソフィアが準備している無残な材料達を見て何も言わず肩をすくめた。

 

 

ソフィアの魔法薬学の調合はいつも散々だったが、ソフィアに負けず劣らず悲惨な者がただ1人いた。──ネビルだ。彼はセブルスを心から恐れるあまり、普段の10倍はミスをしてしまっていた。明るい黄緑色になるはずの縮み薬は見る影もなく──。

 

 

 

「オレンジ色か、ロングボトム」

 

 

セブルスが薬を柄杓で大鍋から掬い上げ、それを上からたらたらと垂らし入れて、わざとみんなに見えるようにした。

 

 

「オレンジ色。…君、教えていただきたいものだが。君の分厚い頭蓋骨をすり抜けて入っていくものはあるのかね?我輩ははっきりと言ったはずだ。ネズミの脾臓は1つでいいと。聞こえなかったのか?ヒルの汁はほんの少しでいいと。明確に申し上げたつもりだが?ロングボトム、いったい我輩はどうすれば君に理解していただけるのかな?」

 

 

セブルスの静かな、しかし確実に強く辱める言葉にネビルは真っ赤になり小刻みに震え、今にも涙を零しそうだった。

 

 

「先生、お願いです。私に手伝わせてください。ネビルにちゃんと直させます──」

「君にでしゃばるように頼んだ覚えはないがね、ミス・グレンジャー」

 

 

セブルスはハーマイオニーを見下ろしながら冷たく言い放ち、彼女もまたネビルと同じように真っ赤になった。

 

 

「ロングボトム、このクラスの最後に、この薬を君のヒキガエルに数滴飲ませて、どうなるか見てみる事にする。そうすれば、多分君もまともにやろうという気になるだろう」

 

 

ネビルにとって、それはトレバーの死刑宣告と同じだった。恐怖で息も出来ず顔を蒼白にするネビルを残し、セブルスはその場を去るとソフィアの方へ向かった。

 

 

「──さて、ミス・プリンス。これはどういう事かね?」

「……」

 

 

ソフィアは無言で鍋の中を見た。

ネビルの薬よりも酷い──ソフィアの縮み薬は何故か血のように赤黒くなっていた。

 

 

「…ヒルの汁を少しでいいところ入れすぎました。雛菊の根の切り方が乱雑でした。無花果の身も、入れすぎたと思います」

「…何故、それがわかっていて調合に反映する事ができないのか、つくづく疑問だ。──ミス・プリンス、君の薬も、ロングボトムと同様最後に君のフェネックに飲ませるとしよう」

「そんな!──そんな、先生、それだけは…!」

 

 

ソフィアは小さく悲鳴をあげ、必死に懇願するようにセブルスの目を見た。セブルスはその揺れる瞳を見て、少し目を見開いたが何も言わず、一度ルイスをじっと見つめた後その場を去った。

 

 

「…酷い…そんな」

 

 

ソフィアは震える手でローブのポケットに入っているフェネックのティティの膨らみをそっと撫でた。常に連れ歩いているわけでは無いが、魔法薬学が終わってからティティに昼食をあげようとたまたま連れてきてしまっていたことを、ソフィアは心の底から後悔した。

 

 

「ソフィア、一度火を止めて」

「──え?」

「いいから!何とかしてみるよ。…多分、先生もそのつもりだ」

 

 

ルイスはソフィアにだけ聞こえる程小声で囁いた。

ソフィアは戸惑いながらぐつぐつ煮える鍋を見てすぐに火を止め、縋るように不安な目を揺らしながらルイスを見た。

 

 

「まず、確認だけど。先生に言った言葉に間違いはないよね?」

「え、ええ…」

 

 

ルイスは横目でソフィアの鍋と材料の残りを見てこの悲惨な薬をどうにか出来ないかと必死に思考をフル回転させた。調合に失敗した薬を飲めば、毒でティティは死ぬ事になる。流石にセブルス──父はそこまで望んでいないだろう。とすれば、今残っている材料である程度まで戻せる、という事だ。

ソフィアの元から去る時に自分を見ていた。「お前ならわかるだろう」そう、その目は伝えていた。

 

 

──父様からの挑戦状かな。

 

 

ルイスは薄く笑い、ソフィアに小声で指示を出した。

 

 

 

 

 

間も無く授業が終わるという時、セブルスが大鍋のそばで縮こまっているネビルの方へ近づき、他の生徒に声をかけた。

 

 

「諸君、ここに集まりたまえ。ロングボトムのヒキガエルがどうなるか、よく見たまえ。なんとか縮み薬が出来上がっていれば、ヒキガエルはおたまじゃくしになる。もし作り方を間違えていれば──我輩は間違いなくこっちの方だと思うが──ヒキガエルは毒でやられるはずだ」

 

 

グリフィンドール生は恐々見守り、スリザリン生は嬉々としてそれを見物した。スリザリン生はヒキガエルの死を、期待しているのだろう。

 

セブルスはヒキガエルのトレバーを左手で摘み上げ、小さいスプーンをネビルの鍋に突っ込み、今は何とか緑色に変わっている薬を2、3滴トレバーの喉に流し込んだ。

 

何の変化も見られない、一緒あたりが張り詰め、全員が最悪の結果を──スリザリン生にとっては期待通りの結果を──考えた。だが、ポン、と小さい音と共におたまじゃくしのトレバーがセブルスの手の中で跳ねた。

 

グリフィンドール生は拍手喝采したが、セブルスは眉を顰めたまま無言でローブのポケットから小瓶を取り出し、2、3滴トレバーに落とした。するとトレバーは突然元のカエルの姿に戻った。

 

 

「グリフィンドール5点減点。手伝うなと言ったはずだ、ミス・グレンジャー」

 

 

拍手がぴたりと止んだ。ハーマイオニーは再び顔を真っ赤にして俯き、スリザリン生はくすくすと冷ややかに笑う。

セブルスはハーマイオニーを一瞥した後、鍋の前で顔を蒼白にさせて突っ立っているソフィアの元へ向かった。

 

ハリー達は心配そうにソフィアを見つめる。ソフィアが魔法薬学で作る薬はネビルと同レベルだ、毎回減点や罰則を受けている。はたして、大丈夫だろうか。

 

 

「ミス・プリンス。フェネックを出したまえ」

「…先生…でも…あの…」

 

 

ソフィアはうろうろと視線を彷徨わせ、誰かに救いを求めているように見えた。だがルイスが「大丈夫だよ」と小声で囁いたのを聞き、それでも躊躇っていたが震える手でポケットからティティを掴み出すと、その小さな体を強く抱きしめ、セブルスを見上げた。

 

 

「先生…」

「早く」

「………はい」

 

 

ソフィアは見ていて可哀想になるほど震えていた。ルイスは自分が指示を出し、出来上がった薬に自信を持っていた為、気遣うようにソフィアの背中を撫でながらちらりとセブルスを見上げる。セブルスもその視線の意味に気付き、躊躇う事なくソフィアの鍋に小さなスプーンを入れ深い緑色になった薬を掬い上げた。

 

周りの生徒達も固唾を飲んでそれを見守る。

フェネックは大人しくセブルスの手の中に収まり、不思議そうな顔をしていたが、ソフィアをチラリと見るとそのピンと立った耳をへにゃりと倒れさせ、まるでその恐怖が伝染したかのように震え、怯えだした。

 

 

セブルスはフェネックの口を指で開かせ、スプーンを近づける。

 

 

「いやぁっ!」

 

 

ソフィアは思わず悲鳴をあげ、咄嗟に身を屈めながらセブルスの腕を掴み、彼が持つそのスプーンの先を咥えた。

 

 

「──馬鹿者!」

 

 

ソフィアの思っても見なかった行動に、セブルスは大声で怒鳴りすぐに手を引いた、それを聞いた生徒達はまさか毒を飲んだのかと息を飲み、ハーマイオニーは悲鳴を上げる。──ソフィアの喉がごくりと嚥下した。

 

途端ソフィアは胸を押さえ、その場に崩れる。教室内が悲鳴と共にざわめく中、ポンッと軽い音と共にソフィアからもうもうと白い煙が上がり、誰もが驚いて顔を覆った。

 

 

セブルスが杖を振るいその煙を晴らした先には、縮み薬の効能が正しく発揮された為、縮んでしまったソフィアが何が起こったのかわからないと言った目でぐるりとあたりを見渡した。

 

 

「ソフィア…」

 

 

ルイスが小さくなったソフィアを見て呟く、服は何とか肩に引っ掛かってはいるが今にも落ちそうで、袖は大きく余っている。

 

セブルスは縮んではいるが無事だと分かると詰まっていた息を吐いた。ルイスの魔法薬学の腕を信用し、縮み薬となっていた事をわかっていた為、セブルスはフェネックに薬を飲ませようとした。

しかし、ソフィアはルイスを信じきれなかったのだろう。かといって──毒かもしれない薬をペットのためだとはいえ飲むなど正気の沙汰では無い。

 

 

セブルスはポケットから小瓶を取り出し、トレバーにしたようにソフィアの頭に数滴かける。ソフィアは冷たそうに目を閉じたが──何も起こらない。

 

 

「あー…先生…?」

 

 

ルイスがおずおずと手を上げた、その顔色は悪く、かなり困っているようで、セブルスは背筋に冷たいものが流れたのを感じる。

 

 

「…僕、ソフィアのペットが死ぬのは嫌で…その、せめて縮み薬になればいいと思って…助言したのですが…あー…ちょっと、強力に、なりすぎた…かもしれません」

「…え?ルイス、わたし、どうなるの…?」

 

 

ソフィアは服が肩からずれないよう必死に抑えながら呆然と呟いた。

教室内を何とも言えぬ沈黙が落ちる。

セブルスはソフィアを見て、そしてルイスを見て重々しく呟いた。

 

 

「ミス・プリンス…グリフィンドールから5点減点──ミスター・プリンス…スリザリンから3点減点。…授業を終了する」

 

 

初めての、スリザリンからの減点だった。

スリザリン生は少しざわめいたが、何も言わず教室からすぐに退散した。ハリー達は今すぐソフィアに駆け寄りたかったが、セブルスに「さっさと帰れ」とばかりに強く睨まれてしまい、後ろ髪を引かれる思いで教室から出て行った。

 

残ったのは、ソフィアとルイスだけだった。

 

 

「え…ちょっと、わたし…どうなるんですか?」

「…強力な解毒剤を作る。…後2時間はそのままだ」

「良かった!解毒剤があるんだね、僕てっきりもうこのままかと…」

 

 

ルイスはほっと安堵の息を吐き胸を撫で下ろす。ソフィアの見た目は2.3歳ほどだろう。このままなら流石にソフィアに謝っても謝りきれないと思っていた。

 

セブルスはポケットから杖を取り出すとソフィアに向かって一振りし、服のサイズを身体の大きさに合うように縮めた。

 

 

「わたし、つぎからのじゅぎょう…どうすればいいのよ…」

 

 

ソフィアはがっくりと項垂れた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。