【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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123 ボガート!

 

ソフィアはハーマイオニーに手を引かれロンとハリーと共に闇の魔術に対する防衛術の教室に入ったが、まだリーマスの姿はそこには無かった。

がやがやと後からやってきたグリフィンドール生と共にソフィア達は鞄から教科書や羽ペンをだしリーマスの訪れを待つ。

 

ハリーはソフィアの大きく重そうな鞄を見て、つい「持てるの?」と聞いたが、ソフィアは少し肩をすくめ「ルイスに浮遊呪文をかけてもらってるの」と答えた。

実際は魔法をかけた相手も、そもそも浮遊呪文ですらないのだが、ハリーはソフィアの説明で納得したようでそれ以上突っ込んで聞こうとは思わなかった。

ただハーマイオニーだけが訝しげな表情をしていたが、ソフィアは声に出さず口の動きで「父様よ」と伝えた為、無言で納得した。

 

 

教室内で賑やかに話している中──話題の中心は勿論ソフィアの見た目について、だった──リーマスが疲れた顔で少し微笑みながら現れた。見窄らしい格好は相変わらずだったが、コンパートメントで見た時よりも肌艶は良いように見え、ハリーはほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「おや、可愛いレディがいるね?」

 

 

リーマスはソフィアに気付くと興味深そうにその姿をじっと見つめ、ポケットから小さなチョコレートを出すとその手に握らせた。

 

 

「レディ、何があったかは聞いたよ。…今日は見学だよ?その姿で魔法を使うのは良くないからね」

「…ええ、リーマスせんせい」

 

 

ソフィアはチョコを受け取ったものの、少し残念そうにため息をついた。初めてのリーマスの授業を、ソフィアは密かに楽しみにしていたのだ。ジャックが良い先生だと言っていたのだから、きっと過去2年間の教師よりは幾分もマシなのだろう。

 

 

「やあ、みんな。教科書は鞄に戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ。──ソフィアは危ないから、手ぶらでね?」

「…はぁい」

 

 

ソフィアはつまらなさそうに頬を膨らませる。──それを見たハーマイオニーとパーバティ、ラベンダーはまたうっとりと吐息をこぼし愛おしげにソフィアを見つめた。

 

 

 

「よし、それじゃあ私についておいで」

 

 

みんなが立ち上がってリーマスに従う。ソフィアも椅子からぴょんと飛び降りついて行こうとしたが、当然のようにハーマイオニーに手を差し出され「はぐれないようにね」と言われてしまい、流石に苦笑いを浮かべた。──しかし、拒絶することなくしっかりとハーマイオニーと手を繋ぎ教室を出る生徒達に混じった。

 

 

どの生徒も授業中なのだろう、ソフィア達はリーマスを先頭にして誰もいない廊下を通り、角を曲がった。

その先に居たのは見回りの教師でも、フィルチでもなくポスターガイストのピーブスだった。ピーブスは空中で逆さまになりながら一つの扉の鍵穴にチューイングガムを必死に詰め込もうとしていたが、リーマスが近づいている事に気付くとにんまりと意地悪く笑い、高らかに歌い出す。

 

 

「ルーニ、ルーピ、ルーピン。バーカ、マヌケ、ルーピン。ルーニ、ルーピ、ルーピン──」

 

 

ピーブスは教師達に対しても等しく無礼であり、彼が唯一恐れ、言う事を聞くのはスリザリンのゴーストである血みどろ男爵だけだ。

リーマスはピーブスから生徒達の前で侮辱され、どのように反応するのだろうか、と皆がリーマスを見たが、彼はどこか懐かしむように目を細め微笑んでいた。

 

 

「ピーブス。私なら鍵穴からガムを剥がしておくけどね。フィルチさんが箒を取りに来れなくなるじゃないか」

 

 

リーマスが朗らかに言うが、ピーブスが大人しく従うはずも無く、くるくる空中で周りながら「ベーッ!」と舌を出した。

リーマスは小さくため息をつき杖を取り出すと肩越しに心配そうな顔をするソフィア達を振り返る。

 

 

「この簡単な呪文は役に立つよ。よく見ておきなさい。──ワディワジ 逆詰め!」

 

 

杖先をピーブスに向けた途端、鍵穴に詰まっていたガムは弾丸のように勢いよく飛び出し、勢いそのままピーブスの鼻の穴に命中した。ピーブスは逆さま状態からもんどり打って反転すると悪態をつきながら空に溶けるようにして消えた。

 

 

「先生、かっこいい」

「ディーン、ありがとう。──さあ、いこうか」

 

 

リーマスは何でもないように微笑み、杖をしまうとまた歩きだした。

皆でその後をついていきながら、全員がリーマスの事を尊敬の眼差しで見つめるようになっていた。今までの教師とは違う、ジャック・エドワーズ臨時教師のように、素晴らしい先生なのかもしれない。──そう、みんなが胸に期待を燻らせていた。

 

 

「さあ、お入り」

 

 

リーマスは皆を職員室の前まで案内すると扉を開き、一歩下がって皆を促した。職員室に入った事がない生徒が殆どで、皆は物珍しそうに職員室内を見回す。机が並び、その上には教科書や巻かれた羊皮紙が置かれている。ちぐはぐな古い椅子が沢山置いてあるがらんとした職員室に、たった一人セブルスが低い肘掛け椅子に座っていた。

 

 

「ルーピン、開けておいてくれ。─できれば見たくないのでね」

 

 

セブルスはソフィア達グリフィンドール生が入ってきた事に気付くと嫌そうに眉を顰め直ぐに立ち上がり、黒いマントを翻し皆の脇を通り過ぎた。

ソフィアは思わず、そのマントをぱっと小さな手で掴む。

 

 

「…何だ、ミス・プリンス」

 

 

セブルスは足を止めて冷ややかにソフィアを見下ろす。ソフィアは少し迷ったように視線を彷徨かせたが、おずおずと──ほぼ真上に顔を上げながら──背の高いセブルスを見上げる。

 

 

「あの…くすりは…」

「…後は煮込むだけだ」

「ありがとうございます」

 

 

薬を作っているはずのセブルスがここにいる事が気になり、つい引き止めてしまったが、どうやら解毒薬はほぼ出来上がっているらしく、ソフィアはほっとして手を離す。

セブルスは何も言わずドアへ向かったが、職員室を出る前にくるりと振り返り、その顔に嘲笑を浮かべ口を開いた。

 

 

「ルーピン、多分誰も君に忠告していないと思うが、このクラスにはネビル・ロングボトムがいる。この子には難しい課題を与えないようご忠告申し上げておこう。──ミス・グレンジャーが耳元でひそひそ指図を与えるなら別だがね」

 

 

セブルスに見つからないよう体を縮こませていたネビルはびくりと体を震わせ、その顔を真っ赤に染める。リーマスは真っ赤になり俯くネビルをちらりと見た後、眉根を上げセブルスに向かい合う。

 

 

「術の最初の段階で、ネビルに僕のアシストを努めてもらいたいと思っていてね。それに、ネビルはきっとうまくやってのけると思うよ」

 

 

リーマスのきっぱりとした言葉に、セブルスは「どうだか」と言うように薄く笑ったままバタンと扉を閉め出て行った。

ソフィアはその閉まった扉を見つめ、何故父はいつも一言余計な事を言わなければならないのだろうか、とため息をつく。──まるで、スリザリン生の友人を見ているようだった。

 

 

「さあ、それじゃ。こっちにおいで」

 

 

気を取り直すようにリーマスは言うと、皆を部屋の奥まで案内した。そこには教師達の着替え用の古い洋箪笥がぽつんと置かれているだけだったが、リーマスが近付くと急に箪笥はガタガタと1人でに揺れ出す。何人かの生徒が驚いて小さな悲鳴をあげ、後ろに下がった。

 

 

「心配しなくていい。中にまね妖怪──ボガートが入っているんだ」

「…それは、ちょっとしんぱいね」

 

 

ソフィアがボガートとは何かを知り、不安に思う殆どの生徒の気持ちを代弁すれば、皆は引き攣った顔で頷きガタガタと煩い箪笥を見つめる。

しかし、リーマスは朗らかに微笑んだまま生徒達を見渡しゆっくりとボガートの説明を始めた。

 

 

「まね妖怪は暗くて狭いところを好む。洋箪笥、ベッドの下の隙間、流しの下の食器棚など──私は一度、大きな柱時計の中に引っかかってるやつに出会った事がある。ここにいるのは、昨日の午後に入り込んだやつで、三年生の実習に使いたいから、先生方にはそのまま放っていただきたいと、校長先生にお願いしたんだよ。──それでは、最初の質問だ。まね妖怪ボガートとは、なんでしょう?」

 

 

何名かの生徒がおずおずと手を上げるなか、ハーマイオニーが真っ先に高くいつものように手を挙げた。

 

 

「ハーマイオニー、言ってごらん?」

「はい。形態模写妖怪です。私たちが1番怖いと思うものはこれだと判断すると、それに姿を変える事ができます」

「私もそんなにうまく説明出来なかっただろう」

 

 

リーマスはハーマイオニーににっこり笑いかけながら褒め、ハーマイオニーは嬉しそうに頬を染めた。

 

 

「だから、中の暗がりに座り込んでいるまね妖怪は、まだ何の姿にもなっていない。箪笥の外にいる誰かが、何を怖がるのかまだ知らないからね。まね妖怪が1人のときにどんな姿をしているのか、誰も知らない。…しかし、私が外に出してやると、たちまちそれぞれが1番怖いと思っているものに姿を変えるはずです」

 

 

まね妖怪の特性を、皆が黙って聞いた。ネビルは1番怖いもの、と聞き直ぐに思い浮かぶものがあったのか顔を蒼白にさせ動揺し「という事は…」と呟いたが、リーマスは安心させるように微笑み、その先を説明した。

 

 

「つまり、初めから私たちの方がまね妖怪より大変有利な立場にあるんだ。…ハリー、何故だかわかるかな?」

 

 

急に指名されたハリーは目を見開き、ちらりと隣で高く手を上げ爪先立ちになっているハーマイオニーを見る。彼女の側で質問に答えるのは気が引けたが、それでもハリーは思い切って答えた。

 

 

 

「えーと──僕たち、人数が沢山いるので、まね妖怪がどんな姿になればいいのかわからない…?」

 

 

少し自信がなかったハリーがおずおずと答えると、リーマスはにっこりと笑い「その通り」と答えた。ハリーはほっと表情を緩ませ、隣にいたハーマイオニーは少しがっかりした様子で手を下ろした。

 

 

「まね妖怪と戦う時は誰かと一緒にいるのが一番いい、まね妖怪が混乱するからね。まね妖怪を退散させる呪文だが…ソフィア、知ってるかな?」

 

皆の1番前でリーマスを見上げていたソフィアは少し驚きながら頷いた。初めに見学だと言われ、全く授業に参加出来ないとばかり思っていたが、問答には参加できるようだ。

 

 

「リディクラス、です」

「よく知っていたね、──その通り、君たち、まね妖怪にきみたちが滑稽だと思える姿をとらせる必要がある。初めは杖なしで練習しよう──リディクラス!馬鹿馬鹿しい!」

「リディクラス!」

 

 

クラス全員がリーマスに続いて唱えた、そのはっきりとした言葉にリーマスはにっこりと笑い生徒たちを見回す。

 

 

「そう、とっても上手だ。でもここまでは簡単なんだけどね。呪文だけでは十分ではないんだ。──そこで、ネビル、君の登場だ!」

 

 

洋箪笥の揺れよりも激しくネビルが揺れた。

過去に一度、闇の魔術に対する防衛術の授業──ジャックの授業で、ネビルは確かに呪文を成功させた事があったが、それから彼の中に自信が漲っているかというと、そうではない。僅かに芽生えた自信も、セブルスの魔法薬学の授業を受けるにつれ萎んでしまっていた。

 

ただ、リーマスの瞳はジャックと同じように優しく朗らかで、ネビルはぐっと表情を引き締めると震えながらも前に進み出た。

 

 

「よーし、ネビル。ひとつずつ行こうか、君が世界一怖いものはなんだい?」

「───ぃ」

「ん?ごめん、ネビル、聞こえなかった」

 

 

ネビルは口を動かしたものの声は出ず、リーマスが優しく聞き返せば不安げにキョロキョロと辺りを見渡しつつ「…スネイプ先生」と答えた。

 

その答えに殆ど全員が笑い、ネビル自身も申し訳無さそうにはしていたがニヤッと笑う。ソフィアは少し、苦笑した。まね妖怪の退治方法は笑いだ。この先セブルスに変身したボガートがどうなるのか──ソフィアはネビルと同じように申し訳なく思ったが、笑ってしまった。

 

 

「スネイプ先生か……」

 

 

リーマスは真面目な顔で顎を撫でながら考えた。自分としては、ボガートがセブルスに変わり、滑稽な姿を見せても構わない。生徒たちも大いに盛り上がるだろう──彼の評判は中々に悪そうだし──ただ、彼の娘は…ソフィアは父の滑稽な姿…本人ではないとはいえ、皆の笑い物にされた父を見て心を痛めないだろうか。

 

 

「…ソフィア、君もスネイプ先生が怖いかな?魔法薬学で…同じように注意されてるときいたよ」

「え?」

 

 

リーマスはそれとなくソフィアに話題をふり、膝を曲げてソフィアと視線を合わせる。ソフィアは首を傾げていたが、真面目な顔をして「大丈夫?」と告げられたその言葉の奥に隠された意味をようやく理解するとくすくすと笑った。

 

 

「すこし、こわいです。…でも、ボガートがおもしろいすがたをみせてくれるのなら…こわくなくなるかも、しれません」

 

 

悪戯っぽくソフィアが言えば、リーマスは少し驚いたように目を見開いたがすぐにソフィアと同じような笑みを浮かべ「それは良かった!」とウインクをし、再びネビルに向き合った。

 

 

「よし、ネビル。君はおばあさんと暮らしているね?」

「え、…はい。でも、僕──まね妖怪がばあちゃんに変身するのも嫌です」

「いやいや、そういう意味じゃないんだよ。教えてくれないか、おばあさんはいつも、どんな服を着ていらっしゃるのかな?」

 

 

ネビルはその唐突な質問にきょとんとしていたが、視線を上の方に向けながら祖母を思い出し「ええっと」と呟く。

 

 

「いっつも、おんなじ帽子。たかーくて、てっぺんに禿鷹の剥製がついているの。それに、ながーいドレス…たいてい…緑色…それと、時々狐の毛皮の襟巻きをしてる」

「ハンドバッグは?」

「おっきな赤いやつ」

「──よし、じゃあネビル。その服装を、はっきり思い浮かべることは出来るかな?心の目で、見えるかな?」

「…はい」

 

ネビルは目を閉じ、祖母の顔や服装を思い浮かべた。次は何をするのか、心配そうにリーマスを見上げたが、リーマスは微笑んだまま、楽しそうに頷いた。

 

 

「ネビル、まね妖怪が洋箪笥から出てくるね?そして、君を見るだろう?そうすると…スネイプ先生に変身するんだ。そうしたら君は杖をあげて──こうだよ──そして、叫ぶんだ。リディクラス!──そして、君のお婆さんの服装に精神を集中させる。全てうまくいけばボガート・スネイプ先生は禿鷹のついた帽子をかぶって、緑のドレスを着て、赤いハンドバッグをもった姿になってしまう」

 

 

その言葉に皆が声を上げて笑った、ハリーやロンは腹を抱え大爆笑する中、ソフィアも早く見たいとばかりに目を輝かせる。

 

皆がリーマスの言葉に従い、自分が怖いもの、そしてそれをどのように滑稽な姿に変えるかを目を閉じて考える中、ソフィアは自分がこの授業に参加できないのがとても残念だとため息をつく。

 

自分が心から恐れているものは何だろう。ソフィアは参加できないとわかってはいたが、目を閉じて考え込んだ。

ソフィアは蜘蛛や蛇、ゾンビ、モンスター、それに吸魂鬼だって怖くなかった。

心の底から、世界で一番怖いと思っている事──ソフィアは自分自身で分からず、首を傾げた。

 

 

「リーマスせんせい?もし、なにがこわいか…わからないじょうたいで、ボガートをみたら…どうなるんですか?」

 

 

皆が考え込む中、手を上げて質問をするソフィアに、リーマスは少し真剣な顔をし、目線を合わせるように膝を折るとじっと見つめた。

 

 

「それはね、1番…避けなければならないことだ。本人も気が付かない心の奥底の恐怖を見せられてしまうからね。──ソフィアは怖いものが思いつかないのかい?」

「ええ…」

 

 

自分が一番恐怖している事、それはなんなのか少し気になったが、あまりにもリーマスの真剣な目を見ると気軽に「ボガートと対峙したい」という言葉は言えず、ソフィアはちょっと曖昧に笑って後ろに下がった。

 

 

「今日君は杖を持っていない、下がって見学していてね?」

「はい、わかりました…」

「良い子だ。──よし、みんないいかい?」

 

 

リーマスは真剣な表情をくしゃりと崩し微笑むとソフィアの頭を撫で立ち上がる。

怖々と、それでいて早く戦いたいと言うように強く頷き腕まくりをする生徒たちを見回し、微笑みながらネビルの背をそっと押した。

 

 

「ネビル、私は後ろに下がっていよう。君に場所をあけてあげよう。いいね?次の生徒は前に出るように私が声をかけるから…。みんな下がって、さあ、ネビルが問題なくやっつけられるように──」

 

 

皆が後ろに下がり壁にぴったり張り付いた。ソフィアは「ネビル、がんばって」と小さく声を掛け、ネビルはそれに頷きながら一歩前に進む。

恐怖に顔は青ざめていたが、ローブの袖をたくしあげるとしっかりと杖を前に構え、ガタガタ動く洋箪笥を見据えた。

 

 

「ネビル、三つ数えてからだ。──いーち、にー、さん、──それ!」

 

 

リーマスが杖を箪笥に向かって振り下ろす。杖先体放たれた火花は取手のつまみにあたり、カギがかちゃりと開いた。

洋箪笥が音を立てて開き、眉間に皺を刻ませ眼をぎらつかせているセブルスが静かに這い出た。ネビルはその恐怖の光景に、本人ではないとわかっていても思わず後ずさる。

 

 

「リ、リ、リディクラス!」

 

 

上擦った声でネビルが呪文を唱えた。

パチン、と鞭を鳴らすような音が響きボガート・セブルスが躓くと黒い服が瞬く間に緑色のドレスへと変わり頭には禿鷹のついた高い帽子を被り、手には真っ赤なハンドバックを持っていた。

 

戸惑うボガート・セブルスを見て生徒たちはどっと笑い声を上げた。

ソフィアは目を驚愕で見開くと口を抑え、ぷるぷると小刻みに震えていたが耐えきれず噴き出すとけらけらと声を上げて笑った。

 

 

「あ、あははっ!!へ、へんなのっ!」

 

 

ソフィアは目に涙を浮かべ腹を捩って笑う。それを見たボガートは途方に暮れて立ち止まった。

 

 

「パーバティ!前へ!」

 

 

リーマスに大声で呼ばれたパーバティが笑みを消すと──口先はまだ引き攣るようにぴくぴくとしていたが──真剣な顔で前に進み出る。ボガートはパーバティに向き合うと、またパチンと音がして血まみれの包帯を撒いたミイラが現れた。

 

 

その後もリーマスに呼ばれた生徒が前に飛び出し、ボガートにリディクラスを唱え滑稽な姿に変えていく。

徐々にボガートは混乱しだし、足を失った蜘蛛がハリーの前にごろごろと転がり止まった。ハリーは皆と同じように杖を構えたが、リーマスはハリーの前に飛び出すと「こっちだ!」とボガートを呼んだ。

 

パチン、と音がして脚無し蜘蛛が消えると皆の頭の高さあたりにぽっかりと、丸く輝くものが浮かぶ。──満月だ。

 

 

「リディクラス!」

 

 

面倒くさそうにリーマスはすぐに唱えると、輝く満月は白い風船に変わり、そしてその口から空気を吐き出し部屋中を飛び回る。

しゅるるる、と音を立てて萎んだ風船はびしゃりとソフィアの前に落ちた。

 

 

「──あ」

 

 

目の前に落ちたボガートを、ソフィアは見下ろす。

 

リーマスが振り向いて杖を振るより先に、その萎びた風船は突如大きくなるとその姿を変えた。

 

 

「──棺桶?」

 

 

現れたのはただの棺桶だった。

ソフィアは杖を持っていない、どうする事もできずその大きな棺桶を見て、何故ただの棺桶を世界で一番恐れているのかソフィアにはわからなかった。

まさか中から何か出てくるのか、そうソフィアが身構えた時、僅かに棺桶の蓋が開く。

薄く開いた先に何があったのか、それを見る事が出来たのは一番近くにいて、さらに身体が縮み目線が低くなったソフィアだけだった。

 

 

「───っ!」

「リディクラス!」

 

 

ソフィアは顔の色をざあっと失わせると、思わず一歩下がる。だがすぐにリーマスがリディクラスを唱え、ボガートはゴキブリに変化し床を這い回る。

 

 

「──ネビル!前へ!やっつけるんだ!」

 

 

ネビルはハッとした顔をしたがすぐにソフィアの腕を引き、心配そうにするハーマイオニーの元へ押しやる。途端にボガートは再びパチンと音を鳴らしセブルスへと変わった。

 

 

「リディクラス!」

 

 

一瞬、レース飾りのついたドレスに身を包むセブルスが現れたが、ネビルが大声で「ははっ!」と笑うとまね妖怪は破裂し、何千という細い筋になって消え去った。

 

 

「ソフィア、大丈夫かい?」

 

 

リーマスはすぐにソフィアに駆け寄ると膝をつき心配そうにその顔を覗き込む。ソフィアはハーマイオニーのローブに顔を押し付けていたが、ゆっくりと離れると小さく頷いた。

 

 

「ええ、だいじょうぶ、です」

 

 

ソフィアの顔色は悪かったが、狼狽している様子はなく、リーマスはほっと胸を撫で下ろすと立ち上がり生徒たちを見回してにっこりと笑った。

 

 

「みんな、よくやった!ネビル、よくできた。そうだな…まね妖怪と対決したグリフィンドール生1人につき5点をやろう。ネビルは10点だ、2回やったからね。ソフィアとハリーとハーマイオニーにも5点づつだ」

 

 

思ってもみない大量の加点に、皆は顔を紅潮させその目をキラキラと輝かせ喜んだ。ハリーだけは何もしていない自分が何故加点させるのか分からず──情けのつもりなのか、と、少し不満げにリーマスを見上げる。

 

 

「でも、僕は何もしませんでした」

「ハリー、君たちは最初に質問に答えてくれたからね。よーし、皆いいクラスだった。宿題だ、ボガートに関する章を読んで、まとめを提出してくれ…月曜までだ。今日はこれでおしまい…──ソフィアだけ、少し残ってくれるかな?」

 

 

生徒たちが興奮して喋りながら職員室を出ていく中、──ハーマイオニーは何度も振り返り心配そうにソフィアを見つめていた──ソフィアは俯きながら、じっと足元を見ていた。

 

 

「…ソフィア…本当に、大丈夫かい?」

「…、…リーマスせんせい、わたしがなにをおそれていたか、わかりました」

 

 

ソフィアは蒼白な顔をあげると力なく微笑む。

棺に横たわっていたのは、紛れもない──ルイスだった。

 

 

「…あれはボガートだ、大丈夫。現実じゃない」

「…ええ、わかってます」

「いい子だ。…チョコレートをお食べ、気分が良くなるから」

 

 

リーマスは朗らかに言うと、ポケットから少し柔くなったチョコレートを取り出すとしっかりとソフィアの手に握らせた。

 

 

 

 

ソフィアが一番恐れていたのは、 最愛(家族)の死だった。

リーマスがリディクラスを唱えていなければ、きっとボガートは次にセブルスの遺体へと変化していた事だろう。扉が開かれる前でよかった、とソフィアは1人廊下を歩きながら考えた、もし、その扉が開かれ、棺に横たわるルイスを見てしまえば──それが偽物だとはわかっていても──泣き叫び縋り付いていた事だろう。

 

 

ソフィアは嫌な想像に身体を震わせため息を溢した。

 

 

 

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