【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

125 / 467
125 黒い犬!

 

ソフィアはその日、大広間でサンドイッチを数個ナプキンで包み鞄の中に入れると1人でホグワーツの廊下を歩いていた。

ハリーとロンは魔法薬学の宿題に追われ、ハーマイオニーは数占い学について教師に質問をしに職員室へ行ってしまった。ソフィアもついていこうかと思ったが、ふと全科目受講するにあたってのジャックの助言を思い出し──あまり頑張りすぎないようにする事に決め、1人花束を持つ少女の部屋で本でも読もうと決めていた。

あの部屋の書棚にある本をまだあまり読めていない。セブルスとジャックが残した本を久しぶりにゆっくりと昼食を取りながら読もう、そう思っていた。

 

 

「──あら、ルイス?」

「ソフィア!珍しいね、1人?」

 

 

廊下の角を曲がると丁度ルイスとばったりと会い、ルイスは周りにハリー達が居ないことに気付くと珍しさから首を傾げる。ルイスは常にドラコと行動を共にしているわけではないが、ソフィアは常に誰かと一緒にいることが多かった。

 

 

「ハリーとロンは宿題、ハーマイオニーは授業の質問をしに職員室よ。私は花束を持つ少女の部屋にいこうかと思って…ルイスは?」

「僕?…ま、ソフィアにならいいか…ちょっと薬草を採取しに森に行こうかなって」

「…森に?」

 

 

ルイスの言葉にソフィアは怪訝な顔をし眉を顰める。森に入る事は勿論禁じられている、ルイスがそれを知らないわけは無いだろう。──まぁ、ルイスだけでなく、森に入ろうとする者は密かに多いのだが。

 

 

「勿論、奥深くまではいかないよ?この前の魔法生物飼育学の時に…森の入り口あたりに薬草が生えてることに気付いたんだ、それをちょっと取ってくるだけさ」

「ふーん?…私も行くわ」

「え?部屋にはいかなくていいの?」

「ええ、いいの。それにルイスと2人で過ごすのは久しぶりでしょう?」

 

 

ソフィアはにっこりと笑いルイスの隣に立った。ルイスは少しきょとんとしたが、嬉しそうに笑うと頷き、「じゃあ行こうか」と隣に立つソフィアの手を握った。

 

 

2人は青々とした芝生を横切り、ハグリッドの小屋に近い森の直ぐそばまで走る。ハグリッドがもし小屋から2人に気付けばすぐにそれを止めただろうが、ハグリッドの小屋はカーテンが引かれ、しんと静まり返っている。

ビッグバークの一件からハグリッドはかなり気を落としてしまったようで、いつ見ても小屋は暗かった。そのことを心配していた2人だったが、今は──2人にとっては、好都合だっただろう。

 

 

「ほら、見て。これが何かわかる?」

「100葉クローバーね、こんなにたくさん…」

 

 

ルイスは一本の木の元にしゃがみ込むと、鞄の中から透明な袋を出し青々とした小さな葉を沢山持つクローバーを指で摘みいくつか袋に入れた。

 

 

「これ、そんなに珍しくは無いけど、よく使うんだよね…──父様もここで採取してたりして」

「…あり得るわね」

 

 

2人は木の元にしゃがみ込みプチプチと薬草を採取するセブルスを想像し、くすくすと笑った。

2人の想像は遠からず当たっていたと言えるだろう。学生時代、セブルスはこっそりと森へ赴き薬草の採取をしていた。──大人になりある程度の財力を持った今は、そんな事はせず全て購入しているのだが。

 

 

「…あ、ルイス!あれを見て」

「…!苦り苔だ!…ちょっと入ってもいいよね、うん。真昼間だし──」

 

 

ソフィアが指差した森の奥には紫色の苔が生えている場所があり、ルイスは躊躇うことなく森へ足を進めた。ソフィアは少し周囲を見渡し誰も見ていない事を確認すると杖を手に持ちその後に続く。

 

 

「わー!これは…うん、状態もいいね」

「…意外と沢山あるのね」

 

 

ルイスは鞄からシャーレと小型ナイフを出すとその苔むした場所を削り取るようにして採取を続ける。その目は生き生きと光り輝き、とても楽しそうに細められていた。

 

 

「あ!あんなところにも──」

「ちょ、ちょっと!あんまり奥には…」

 

 

すぐに目を輝かせさらに奥に進もうとするルイスに、ソフィアは流石に焦り声をかけたがルイスは「大丈夫大丈夫!」と振り返る事なく声を上げさらに暗い森を進んだ。

 

 

「…もう!」

 

 

かと言って1人突き進むルイスを放っておく事も出来ず、ソフィアは少し怒りながら──それでも仕方がないかとため息をこぼしその後を追った。

 

 

しゃがみ込み、うきうきと採取するルイスの背中を見ていたソフィアは一度後ろを振り返る。まだ森の出口が見えるほど近い、それ程奥では無いここなら、まだ魔獣も現れないだろう。基本的に森の中に住む危険な生き物は奥深くに生息していると聞く、きっと問題は無いはずだ。

そう思ってはいたが、手にはしっかりと杖を持ち何かあればすぐに魔法を唱えられる準備はしていた。

ルイスは採集に夢中で杖をポケットに差したままにしている、何かあれば私が対処しないと──本当に、ルイスを1人で行かせないでよかったわ。

 

 

「ルイス、もうそろそろ戻りましょう?」

「──うん、後少しだけ…」

 

 

そう、ルイスが答えた時、近くの茂みからガサガサと音が響く。ソフィアはぱっとルイスを背に隠すように茂みとルイスの間に立ちはだかるとその動く茂みに杖先を向けた。

 

 

「──何?…だれか、いるの?」

 

 

ソフィアは硬い声で呼びかける。ルイスもゆっくりと立ち上がり採取した薬草達を鞄に突っ込むとポケットに差していた杖を手に取りその茂みに向けた。

 

 

 

──ガサッ

 

 

 

一際大きく茂みが揺れ、その先から黒い生き物が飛び出した。

 

 

 

「「──…犬?」」

 

 

茂みからのっそりと現れたのは大きな黒い犬だった。その犬は体のいたるところに泥や草をつけ汚れ、かなり見窄らしい犬だったが目だけは爛々と輝いていた。

 

一瞬、ソフィアとルイスはその犬を見て死神犬を思い浮かべたが、どうみても実体があり、恐ろしい雰囲気はない。──寧ろ、庇護欲を刺激するほどの哀れな見た目だった。

 

 

ソフィアとルイスは顔を見合わせ杖を下げると、黒犬と視線を合わせるためにその場にしゃがみ込む。

 

 

「誰かに捨てられたのかなぁ…」

「まぁ…可哀想に…」

「クーン…」

 

 

黒犬はへにゃりと耳を下げていたが、ぴくりと鼻を動かすとふんふんと鼻息荒くソフィアに近付き──ルイスは噛みつくかもしれない、とすぐにソフィアを庇うように手を広げた──彼女が肩から下げている鞄に鼻面を当てた。

 

 

「ワン!」

「…あ、もしかして──」

 

 

ソフィアは鞄の中からサンドイッチの包みを取り出す。途端に黒犬は跳び上がり「ワンワン!」と必死に吠えながらその場にキチンとお座りをし、尻尾を揺らめかせソフィアを見つめる。

 

 

「多分…犬が食べても大丈夫だとは思うわ。──お食べ?」

 

 

ソフィアはそっと地面の上に開いたナプキンを置き、その上にサンドイッチを乗せる。黒犬は目を輝かせると勢いよくそのサンドイッチに齧り付いた。

 

 

「余程お腹が減ってたのね」

「魔獣…じゃないね、ただの犬だ。…森の中では狩りが難しいのかも…ほら、こんなに痩せて…」

 

 

ルイスはサンドイッチを勢いよく食べる黒犬にそっと手を伸ばし──黒犬はぴくりと耳を動かしたが特に避ける事はなかった──身体を撫でる。手に伝わったのはゴツゴツとした骨の感触で、殆ど骨と皮だけの状態なのだと分かると少し心配そうに黒犬を見た。

 

 

「いつから居るのかしら…」

「うーん…少なくとも、かなり長い間じゃ無い?」

「──ワン!」

 

 

サンドイッチを食べ終わった黒犬はぺろりと舌舐めずりをするともう無いのか?と言うように首を傾げる。ソフィアは鞄の中を探り、ティティにあげようと思っていたクッキーを黒犬の前に置いた。

 

 

「食べて良いわよ?」

「ワン!」

 

 

犬は嬉しそうに吠えるとそのクッキーもすぐに食べる。くしくしと前足で顔を擦り、クッキーの食べかすを器用に落とすと静かな目でソフィアとルイスを見上げた。

まるでホグワーツ城まで連れて行ってほしそうなその眼差しに、2人は申し訳なさそうに眉を下げる。

 

 

「うーん…流石に飼えないわ…最近新しい子を迎えたばかりだもの…ごめんね?」

「きゅーん…」

 

 

黒犬は降っていた尻尾を力なく下げ、項垂れた。まるで言葉がわかっているようだ、犬は賢く幼児程度の知能があると聞く、きっとこの犬もかなり賢いのだろう。

 

 

「…泥だらけだね、──スコージファイ」

 

 

ルイスが黒犬に向かって杖を振えば、爽やかな一陣の風が黒犬の身体を撫で、その身体についた汚れや葉っぱを一掃した。黒犬はぶるぶると震え、自分の身体中を見渡し綺麗になって嬉しいのか下がっていた尻尾をまた上げた。

 

 

「毛が絡まってるわね…」

 

 

ソフィアは黒犬の身体を撫でながら呟き、足元にある石に向かって杖を振るう、石は小さな音を立ててブラシへと代わり、ソフィアはそれを掴むと犬の毛を優しく撫で絡まった毛を引っ張らないように解した。

 

 

黒犬は少々くすぐったそうに身を捩ったが、嫌ではないのか大人しくソフィアの好きにさせていた。

 

 

「──よし!…うん、少しマシになったかしら?」

 

 

ソフィアはふう、と息をついて黒犬を見る。

汚れがすっかり取れ、毛の絡まりも無くなった黒犬は先程の見窄らしさはかなり軽減されていた。

それでも長い間まともなものを食べていなかったのか、毛質は悪く酷く痩せてはいたが。

 

 

「君は、ここにずっといるの?」

「…ワン」

「そうなの…じゃあ、たまにご飯を持ってくるわ」

「ワンワン!」

 

 

ソフィアは黒犬の言葉がわからなかったが、どうやらずっといるらしいと何となく思い犬にご飯を持ってくる約束をした。

黒犬は嬉しそうに吠えるとのそりと立ち上がりソフィアとルイスの身体にその身をそっと寄せた。

 

 

「…人懐っこい子ね」

「うん…あ、後ろ足…怪我してる」

 

 

ルイスは黒犬の後ろ足に怪我があることに気がつく。赤い血が見えるその箇所は犬の毛が禿げていて、かなり痛々しく見えた。きっと、この怪我のせいで満足に狩りが出来なかったのだろう。

なんとか治してあげたい気持ちはあったが、2人は治癒魔法を知らなかった。──そもそも、治癒魔法はかなり高度なもので知っていたとしても使う事は出来なかっただろう。

 

 

「…あ!薬草がある!」

 

 

ルイスは「良い事を思いついた!」と言うように顔を輝かせ鞄の中から先程採取したばかりの薬草を数種類取り出しソフィアをチラリと見た。

 

 

「ソフィア、すり鉢とすりこぎ棒出せる?」

「ええ、出来るわ」

 

 

ルイスの言葉に何をするのかわかったソフィアは近くにあった魔法を唱え杖を振るう。途端に小石はすり鉢とすりこぎ棒へと変化した。

 

 

「流石!…ちょっと待っててね──アグアメンティ(水よ)

 

 

少量の水が現れたすり鉢の中にルイスは薬草を放り込むと棒ですり潰すように混ぜ始める。青々とした匂いが広がり、すぐに薬草はどろりとして粘り気のある緑色の物へと変わった。

 

 

「よし、痛み止めと、化膿止めだよ」

 

 

ルイスは指で薬を掬うとそっと傷口に優しく塗った。黒犬は染みるのか少し身体をそわそわと揺らせ「きゅーん」と情けない声を出し不安げにルイスを見上げる。ルイスはその真っ黒な目を見て安心させるように微笑み「大丈夫、すぐによくなるよ」と犬の頭を撫でた。

 

 

フェルーラ(巻け)

 

 

ソフィアが黒犬の後ろ足にちょんと杖を当てれば杖先から白い包帯が現れ薬が塗られた傷口を覆った。

黒い犬の足に真っ白な包帯が巻かれ、黒犬は立ち上がるとその場でくるくると周り「わん!」と吠える。

ソフィアとルイスは、まるでお礼を言っているかのような黒犬ににっこりと微笑み「どういたしまして」と答えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。