【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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128 代理教師はまさかの人で!

 

寮長によりグリフィンドール生だけでなく、スリザリン、ハッフルパフ、レイブンクローの寮生たちも大広間に集まった。

これからホグワーツ中をくまなく捜索するのだろう。先程までの楽しい雰囲気は一気に消え、誰もが困惑し、不安げに目を揺らしていた。大広間に集まった教師達も皆真剣な面持ちで油断なく生徒たちを見ている。誰か1人でもここに居ない生徒が居ないか調べているようだ。

 

 

「先生たち全員で、城の中をくまなく捜索せねばならん。──ということは、気の毒じゃが、皆今夜はここに泊まることになろうの。皆の安全のためじゃ。監督生は大広間の入り口の見張りに立ってもらおう。首席の二人に、ここの指揮を任せようぞ。何か不審な事があればすぐにわしに知らせるように。──ゴーストをわしの伝令に使うがよい」

 

 

ダンブルドアの言葉にパーシーは表情を引き締め生徒達を見渡した。

誰も、何も話さなかった。ダンブルドアは何があったのかしっかりと説明しなかったが、只事ではない事が起きたのは確かだと、グリフィンドール生以外は思い誰も疑問を口にしなかった。──いや、出来る雰囲気ではなかった。

 

 

「おお、そうじゃ。必要なものがあったのう…」

 

 

ダンブルドアは捜索に向かうために大広間から出て行こうとしたがくるりと扉の前で振り返ると杖を振った。

長いテーブルが大広間の端に飛んでいき、きちんと壁を背にして並んだ。もう一振りすると何百ものふかふかとした紫色の寝袋が現れ、床一面に敷き詰められた。

 

 

「ぐっすりおやすみ」

 

 

大広間を出て行きながら、ダンブルドアは生徒達に微笑みかけ声をかけた。

ぱたんと扉が閉まった途端たちまち大広間中が騒がしくなった。グリフィンドール生が何があったのかを他寮の生徒に説明して聞かせ、誰もが驚愕し肩を震わせた。

 

 

「みんな、寝袋に入りなさい!さあ、さあ、お喋りはやめたまえ!消灯まであと10分!」

「行こうぜ」

 

 

パーシーが生徒達に大声で注意するのを見たロンは嫌そうにパーシーを睨みながらソフィア達に声をかけ、ソフィア達はそれぞれ寝袋を掴んで大広間の隅に引き摺っていった。

 

 

「ねぇ、ブラックはまだ城の中だと思う?」

 

 

ハーマイオニーの心配そうな囁きに、ロンは頷いた。

 

 

「ダンブルドアは明らかにそう思っているみたいだな」

「ブラックが今夜を選んでやってきたのは…ラッキーだったと思うわ」

 

 

4人とも服を着たまま寝袋の中に潜り込み、頭を突き合わせ頬杖をつき、声を顰めながら話し続けた。

 

 

「きっと、今日がハロウィンだって知らなかったのよ…今夜は皆大広間にいたから…」

「きっと、逃亡中で時間の感覚がなかったんだろうな」

「ええ…もし知ってたら…きっとここを襲撃してたわ」

 

 

ロンとソフィアは真剣な表情で囁き合い、ハーマイオニーはそれを聞いて嫌な想像をしてしまったのか身を震わせた。

 

周りでも誰一人として静かに寝ているものは居ない。皆友人達と同じような事を話し、どうやってここにきたのかとひそひそ意見を交わしていた。

 

 

「いったいどうやって入り込んだんだろう」

「きっと、姿現し術を心得ていたんだと思うよ。ほら、どこからともなく現れるアレさ」

「変装してたんだ、きっと」

「飛んできたのかもしれないぞ」

 

 

聞こえてきた話に、ハーマイオニーは眉を寄せる。このホグワーツでは姿現しを行う事が出来ないと知っているのはまさか自分だけなのかと怪訝な顔のハーマイオニーに、ソフィアは小さく苦笑した。

 

 

「まったく。ホグワーツの歴史を読もうと思ったのは私だけなのかしら?」

「多分そうだろ…でも、何でそんな事を聞くんだ?」

「私も読んだわよ、ハーマイオニー。…あのね、ホグワーツでは姿現しは出来ないの。この城には沢山の守りの呪文がかけられていて…こっそり入り込めないようになっているのよ」

 

 

ハーマイオニーはソフィアも知っていた事に少し表情を和らげると、「へー知らなかった」という表情のロンを窘めるように見ながら声を低くして囁いた。

 

 

「それに、吸魂鬼の裏をかくような変装があったら拝見したいものだわ。校庭の入口は一つ残らず吸魂鬼が見張ってる。空を飛んだって見つかるはずよ。その上、秘密の抜け道は全てフィルチが知っているから、そこも吸魂鬼が見逃していないはず…」

「──灯りを消すぞ!全員寝袋に入って、お喋りはやめろ!」

 

 

パーシーが怒鳴り、蝋燭の火が一斉に消えた。

大広間が暗くなり、暫くして天井に無数の星が瞬く。ほんの僅かな光の中、薄ぼんやりとお互いの姿を見ていたソフィア達は「おやすみ」と小さく囁き合い寝袋の上に寝転がる。

 

しかし、パーシーの願いは届かず、ひそひそとした生徒の囁きが至る所で交わされる。

皆、こんな状況で直ぐに眠れるわけはない。安全だと言われていたホグワーツに侵入者──それも、凶悪な殺人鬼──が居る。そんな状況ですぐに寝付ける神経の図太いものは誰一人として居なかった。

 

ソフィアも横になったまま目を開け、天井に写る星々を眺めていた。その中で一際輝く星を──おおいぬ座のシリウスを見つめた。

太陽を除いた恒星の中で、最も明るい恒星であるその星は、生徒達の不安な顔なんて気にする事なく、美しく夜空に輝いていた。

 

 

 

ようやく生徒達の何割かが寝始めた朝の3時ごろ、ダンブルドアが静かに大広間に戻ってきた。

ソフィアは一瞬微睡んでいたがすぐに覚醒し、生徒達の合間を縫ってパーシーに近づくダンブルドアを横目で見る。

パーシーはソフィア達のそばに居たため、起きていたロンとハーマイオニーとハリーは急いで寝たふりをした。

 

 

「先生、何か手がかりは?」

「いや。ここは大丈夫かの?」

「異常なしです、先生」

 

 

パーシーは寝入った生徒達を起こさないように小声でダンブルドアに聞いた。ダンブルドアは異常が無いと分かると少し目元を緩め長時間見回っているパーシーの肩を労うように叩いた。

 

 

「よろしい。何も今すぐ全員を移動させることはあるまい。グリフィンドールの門番には臨時の者を見つけておいた。明日になったら皆を寮に移動させるがよい」

「それで、太ったレディは?」

「3階のアーガイルシャーの地図の絵に隠れておる。合言葉を言わないブラックを通すのを拒んだらしいのぅ。それでブラックが襲った。レディは非常に気が動転しているが、落ち着いたらフィルチに絵の修復をさせようぞ」

 

 

良かった、レディは無事だったんだ。あんなに切り裂かれていて──もしかしてもう修復不可能かと思ったが、本当に良かった。そうソフィアは小さく安堵の息を吐いた。

 

大広間の扉が再び開き、別の足音がこちらへ一直線に向かってきた。ソフィアは寝返りをするふりをしながら身体を反転させ、その現れた人を盗み見た。

 

 

──父様。

 

 

「校長ですか?…4階はくまなく捜しました。ヤツはおりません。フィルチが地下牢を捜しましたが、そこにも何もなしです」

「天文台の塔はどうかね?トレローニー先生の部屋は?ふくろう小屋は?」

「全て捜しましたが…」

「セブルス、ご苦労じゃった。わしも、ブラックがいつまでもぐずぐず残っているとは思っておらなんだ」

 

 

流石にもう逃げた後だったのか、ブラックは見つからなかったようだ。

ソフィアは目を閉じたまま聞き耳を立てる。近くにいるハリー達の寝息が奇妙に静まったところを見ると、きっと同じように聞き耳を立てているのだろうとわかった。

 

 

「校長、ヤツがどうやって入ったか…。何か思い当たる事がおありですか?」

「セブルス、色々とあるが、どれもあり得ないことでな」

「校長。先日の我々の会話を覚えておいででしょうな。たしか──1学期が始まった時の?」

「いかにも」

 

 

セブルスはダンブルドアに対し、どこか苛立ち怒っているように見えた。その言葉から滲むのは全てを知っているのかと訝しんでいるのが手にとるようにわかる。

 

 

「どうも──内部の手引きなしには、ブラックが本校に入るのは殆ど不可能かと。我輩はしかとご忠告申し上げました。校長が任命を──」

「この城の者がブラックを手引きしたとは、わしは考えておらん」

 

 

ダンブルドアの言い方にはこの件はこれで終わりだというはっきりとした拒絶があった。セブルスはぐっと口を結び沈黙する。目だけは冷たくダンブルドアを睨んでいたが、ダンブルドアは全く気にする事は無い。

 

 

「わしは吸魂鬼達に会いに行かねばならん。捜索が終わったら知らせると言ってあるのでな」

「先生、吸魂鬼は捜索を手伝おうとは言わなかったのですか?」

「おお、言ったとも」

 

 

パーシーの言葉に、ダンブルドアは冷ややかに答えパーシーを見た。びくり、とパーシーが肩を震わせる。

 

 

「わしが校長職にあるかぎり、吸魂鬼にこの城の敷居は跨がせん」

 

 

パーシーは息を呑み恥いった様子で俯いた。ダンブルドアは足早にそっと大広間を出て行き、パーシーは再び見回りに戻った。

暫くセブルスはその場にたたずみ、ダンブルドアが消えた扉の先を憤怒の表情で見ていたがやがてゆっくりと大広間から出て行った。

 

 

ソフィアは目を開け、そっと顔を動かす。

ハーマイオニーとロンも同じように目を開けていたが天井の星を見上げていて、ハリーとは目があった。

 

 

「いったい、何のことだろう」

 

 

ロンがソフィア達にだけ聞こえる小さな声で呟いた。

 

 

「…もう、私は寝るわ…ブラックが城に居ないってわかったら…眠くなってきたから…」

 

 

ソフィアはもぞもぞと寝袋をたくしあげてその中に顔を埋める。おやすみ、と小さなロンの言葉がくぐもって聞こえてきた。きっと、ロンもようやく安心して眠りにつく所なのだろう。

 

 

ソフィアは寝袋の中でセブルスの言葉を考えた。

 

 

──父様は、内通者がいるって思ってるのね。でも…それは…それなら…。

 

 

 

セブルスが誰を疑っているかなど、想像は難しく無い。ホグワーツに新しく迎えられた者は、たった一人しか居ないのだから。

 

 

数日間、学校中がシリウス・ブラックの話で持ちきりだった。どうやって城に入り込んだのか、皆が自論を語るうちに尾ひれが付きどんどん話が大きくなる。

 

ハリーにとってはその大きくなった噂ばなしや、新しくグリフィンドール寮の入り口にかけられたカドガン卿より、教授達が何か理由をつけてハリーに付き添い片時も目を離さないのが何よりも嫌だった。いつまたブラックがハリーを狙いに来るかわからない、きっとそう考えているのだとハリーはわかっていたが流石に気が滅入った。

 

 

しかし、なんとか耐えられていたのもクィディッチの開幕が近く練習に明け暮れる事が出来たからだろう。空を箒で飛んでいる間だけは、嫌な事を全て忘れる事ができた。

──最も、初戦の対戦相手がスリザリンではなくハッフルパフに変更されたのは心から悔しく、嫌だったが。

 

 

試合前日になると雨風はいっそう激しさを増し窓を叩きつけた。きっと明日も同じような天気だろう。こんな中で試合など、果たしてまともに──持っている力を全て出し切る事が出来るだろうか。

 

 

ソフィアとハーマイオニー、ロンは次の授業である闇の魔術に対する防衛術の教室に向かっていた。ハリーは廊下でグリフィンドールチームのキャプテンであるウッドに呼び止められ長い戦略を聞かされていて仕方がなく置いてきた。もはや、走らなければ3人も遅刻してしまうだろう。

 

 

なんとか授業開始ギリギリに教室に飛び込んだソフィア達は上がった呼吸を抑えながら席についた。ハリー以外の生徒達は皆揃っている。まだリーマスは現れていないがきっとすぐに来るだろう。

 

授業開始のベルが鳴った。

途端に扉が強く開け放たれ現れたのはリーマスでは無く、セブルスでグリフィンドール声達は驚愕し話していたお喋りを一気にやめた。

 

 

「ルーピン先生は体調不良で欠席だ。──我輩がこのクラスを教える事となった」

 

 

教室内の窓にかかるカーテンに向かって杖を振るい、全て閉めながら教壇まで着くとセブルスは振り返り、沈黙する生徒達を見渡す。明るかった教室内は翳り、陰鬱な雰囲気に様変わりしていた。

ネビルはリーマスの授業が好きだった為に前の方に座っていたため身を縮こまらせがくがくと震える。

 

ロンは「嘘だろ…」と呆然と呟き、嫌そうに顔を歪める。折角の楽しい授業が今日は最悪なものになるに違いない。そう思ったのはロンだけでなく、ほぼ全員のグリフィンドール生が俯きながらそう思っていた。

 

 

ソフィアだけは物珍しそうにセブルスを見つめる。父が闇の魔術に対する防衛術の教鞭を取りたがっていたのは知っていたが、どうしても魔法薬学の教授であるイメージが強い。地下牢ではなくここにいるセブルスを見て、なんとも言えず不思議な気持ちになった。

どんな授業をするのだろうか、どうせグリフィンドール生に大量の減点をする授業だろう。──嫌な授業にならなければいいが。

 

 

「さて…ルーピン先生はどのような授業をしていたか──」

 

 

セブルスはゆっくりと呟き、教壇の上にあるノートを手に取るとぺらぺらと捲った。しかし全く記録されていなかったのか、眉を寄せると軽蔑ともとれる嘲笑を浮かべ、リーマスのだらし無さを生徒達に伝えようとした途端、バタンと大きく扉が開きハリーが飛び込んできた。

 

 

「遅れてすみません。ルーピン先生、僕──」

 

 

ハリーは謝りながら教壇にいる筈のリーマスを見たが、そこに居るのはセブルスであり、驚愕から息を飲み言葉を止めた。

ソフィアはハリーの不運さに、流石に不憫に思った。きっとリーマスなら遅刻を注意するだけだっただろう。しかしセブルスが──ハリーを何故か嫌っている父が、注意程度で済ますわけがない。

 

 

「授業は10分前に始まったぞ、ポッター。グリフィンドールから10点減点とする。座れ」

「ルーピン先生は?」

「今日は気分が悪く、教えられないとの事だ。──座れと言った筈だが?」

「どうなさったのですか?」

 

 

ハリーは動かない。脳裏に浮かんだのはセブルスがリーマスに渡したゴブレットの一件だった。──もしかして、本当に毒だったのか。

 

セブルスは暗い目を細めハリーを睨むと「命に別状はない」と静かに伝えた。

 

 

「グリフィンドール、さらに5点減点。もう一度我輩に座れ、と言わせたら50点減点する」

 

 

ハリーはゆっくりと自分の席まで歩いていき、座った。隣にいたロンが自分を憐れみの目で見ている事に気付いたが、何か言う気力もない。

 

 

「ポッターが邪魔をする前に話していた事ではあるが、ルーピン先生はこれまでどのような内容を教えたのか、全く記録に残していないからして──」

「先生、これまでやったのはまね妖怪、赤帽鬼、河童、水魔です。これからやる予定だったのは──」

 

 

ハーマイオニーが手を挙げて一気に言い、次行う筈だった授業内容を伝えようとしたが、セブルスは強い目でハーマイオニーを睨み「黙れ」と厳しく吐き捨てる。ハーマイオニーは顔をかっと赤らめ悔しそうに唇を噛んだ。

 

 

「教えてくれと言ったわけではない。我輩はただ、ルーピン先生のだらしなさを指摘しただけである」

「ルーピン先生はこれまでの闇の魔術に対する防衛術の先生の中で、ジャック先生と同じように最も素晴らしい先生です」

 

 

ディーンはリーマスの授業がとても好きで、何より彼を尊敬していた。果敢にもセブルスに言い返せば、クラス中が口々にそうだとそれを支持する。セブルスは不快そうに眉を顰めると、薄く笑みを浮かべ嘲笑した。

 

 

「ふん、点の甘い事よ。ルーピンは諸君に対して著しく厳しさに欠ける。──赤帽鬼や水魔など、一年坊主でも出来る事だろう。我々が今日学ぶのは──人狼である」

 

 

セブルスは教科書の1番後ろのページまで捲ると静かに伝えた。ソフィアはその言葉にセブルスの隠れた悪意と、真意に気付き思わず立ち上がった。

 

 

「先生!この2年間私たちは碌でもない教師ばかりにあたり、まともな授業を受けていません。ジャックが──ジャック先生が教えてくれたのはほんの少しで、リーマス先生はそれを埋める為にまず優しいものから対処法を教えてくださりました。これからやるのはヒンキーパンクです」

「ミス・プリンス」

 

 

セブルスは静かにソフィアの側まで近寄ると冷たい目で見下ろす。ソフィアはそれを睨め付けるように見返したが、セブルスは少しも態度を緩めなかった。

 

 

「この授業は我輩が教えているのであり、君ではない筈だが。その我輩が、諸君に394ページを捲るように言っているのだ」

「…先生、人狼なんて滅多にいません。その対処法を学ぶより、出現率の高いヒンキーパンクの対処法を学ぶ方が有意義ではありませんか?」

「──それは、どうかな?…全員、今すぐ教科書を開け!」

 

 

セブルスはソフィアの言葉に含みを持たせ薄く微笑むと、ソフィアの言葉を聞く気など毛頭もない、というように黒いマントを翻し教壇に向かった。暫くソフィアはむっすりとセブルスを見ていたが、隣にいるハーマイオニーに袖を引かれ仕方なく席に座った。

 

 

──父様は、リーマス先生の正体を気付かせたいんだわ。

 

 

この事に気づいたのはソフィアがリーマスの正体を知っているからだろう。セブルスは自分の力でリーマスを退職させる事が出来ないのなら、生徒にその事を気づかせ、保護者まで連絡が行き沢山の苦情と退職を願う手紙が届く事を望んでいるのだ。

その隠された悪意に、人狼に対する迫害を許せないソフィアは、父であっても許せなかった。

 

 

 

 

全員が渋々教科書を開き、人狼についての記述を見た。

あちこちで苦々しい目配せが交わされ文句を呟くものも居たが、これ以上セブルスに反抗的な態度を見せれば間違いなく大幅に減点されるだろう。次第に文句の呟きも消えていく。

 

 

「人狼と真の狼とをどうやって見分けるか、分かる者はいるか?」

 

 

皆が身動きもせず静まり返るなかで、ハーマイオニーとソフィアだけは高く手を挙げた。しかし当然の事のようにセブルスはその手を無視し「誰かいるか?」と嘲笑を浮かべて教室を見渡す。

 

嘆かわしい、というようにわざとらしくため息をひとつ零したセブルスは薄ら笑いを浮かべる。

 

 

「すると、何かね。ルーピン先生は諸君に、基本的な両者の区別さえまだ教えていないと──」

「お話した筈です、私たち、まだ人狼まで行ってません」

「…スネイプ先生。私たちが人狼がまだ学んでいないから今から教えてくれるんじゃないんですか?…まぁ私はわかってますが、どうやら私の手は透明になってしまったようですし」

 

 

パーバティが珍しく、突然セブルスに意見をいい──その声は震えていたが──ソフィアがそれに続いて皮肉混じりに薄く笑いながらセブルスに伝えた。

 

 

「黙れ!」

 

 

セブルスの強い叱責に、パーバティはぐっと言葉を詰まらせ俯き、ソフィアはセブルスを睨みながら口を閉ざした。

 

 

「さて、さて…三年生にもなって、人狼と出会っても見分けもつかない生徒にお目にかかろうとは、我輩は考えても見なかった。諸君の学習がどんなに遅れているか、ダンブルドア校長にしっかりお伝えしておこう」

「先生、人狼にはいくつか細かいところで他の狼とは異なります。人狼の鼻面は──」

「勝手にしゃしゃり出てきたのはこれで2度目だ。ミス・グレンジャー」

 

 

ハーマイオニーが我慢できず手を挙げたまま早口で伝えたが、セブルスはハーマイオニーを見る事なく冷ややかに伝えた。

 

 

「鼻持ちならない知ったかぶりで、グリフィンドールからさらに5点減点する」

 

 

ハーマイオニーは真っ赤になって手を下ろした。その肩は小さく震え、目には大きな涙が溜まっている。

クラス中の誰もが──ソフィアは別として──ハーマイオニーを知ったかぶりと呼んでいたが、泣きそうなハーマイオニーを見て、皆がセブルスを睨みつけた。皆がセブルスに対し嫌悪感をこれ以上ないほど募らせた中、ロンが大きな声で叫んだ。

 

 

「先生はクラスに質問したじゃないですか、ハーマイオニーとソフィアは答えを知っていたんだ!答えてほしくないなら、なんで質問したんですか!?」

 

 

言い過ぎだと、クラス中が思った。

セブルスは嫌に静かにロンを見つめゆっくりとその距離を詰める。

皆が息を顰める中、セブルスは自分を睨むロンに顔を近づけ「罰則だ、ウィーズリー」と淡々と言い放った。

 

 

「さらに、我輩の教え方を非難するのが再び耳に入った暁には、君は非常に後悔することになるだろう」

 

 

ロンは顔をさっと蒼白にさせ俯いた。ぎりぎりと歯を食いしばる音が静かな教室内に響く。

しかし、その痛いほど重い沈黙を打ち破ったのは強い音だった。

 

 

──バン!

 

 

その音に誰もが跳び上がり後ろを向いた。ハーマイオニーは隣からの音に落ちかけていた涙を引っ込め、呆然とソフィアを見上げた。

 

 

ソフィアは手に持っていた教科書を強く机に叩きつけ、セブルスを強く睨んだ。

 

 

「先生!ロンの言葉が真実だから聞きたくないんですか?先生の考えを非難せざるを得ません!この授業だけに限った事ではありません。魔法薬学でも、私とハーマイオニーは不当な扱いを受けています!」

 

 

ロンのそばに居たセブルスはすっとソフィアに近寄る。

その目を近くで見たハーマイオニーは──娘に対して見せる眼差しではない、とその目の強さに怯え心配そうにソフィアを見たが、ソフィアは少しも怯えを見せず顔を怒りで真っ赤にしていた。

ソフィアにとって、ハーマイオニーは最も大切な友人の一人だ。勿論ロンとハリーもだが、彼女に対する侮辱を無視する事が出来なかった。

 

 

「ミス・プリンス」

 

 

恐ろしく静かな声が教室に響く。

その声を聞いただけで生徒たちはセブルスの強い怒りを感じ、体を縮こまらせながら気遣うようにソフィアを見た。

 

 

「教師である我輩に向かってその態度はなんだ。グリフィンドールから10点減点。それと罰則だ──お前の兄は優秀だというのに、それに比べて…お前は出来損ないのようだな」

 

 

吐き捨てられた酷い言葉に、グリフィンドール生は怒り、ざわついた。

ソフィアはたしかに魔法薬学の調合は人よりかなり不得意だ、しかし座学に関して言えばソフィアの知識は優秀そのものだ。決して出来損ないなんかではない。ハリーは言い返そうと怒りと憎しみを込めてセブルスを見たが──。

思わず苦情を言いかけ開いた口は何も言葉を漏らさなかった。

「しまった」というような、確かな後悔と狼狽がちらりとセブルスの目に写っているのを、ハリーは見逃さなかった。

 

 

「…ソフィア…」

 

 

ハーマイオニーの小さな声が響いた。

ソフィアは顔を真っ赤に染めたまま目を見開き、その大きな目に涙を浮かべ声も出さず──泣いていた。

 

 

「──っ!」

 

 

ソフィアは勢いよく立ち上がり、流れる涙を乱暴に擦りながら教室から飛び出した。

 

 

重い沈黙が、教室に落ちる。

セブルスは暫く強く閉ざされた扉を見ていたがくるりと踵を返すと教壇に向い何事もなかったかのように、いつもと同じ表情で授業を始めたため、ハリーはきっとさっきのは自分の見間違いだと思い込んだ。

 

 

 

教室を飛び出したソフィアは誰もいない廊下を走りながら嗚咽をこぼし、溢れ出てくる涙を必死に拭っていた。

そしてグリフィンドール寮へ向かうと何か叫んでいたカドガン卿を無視し合言葉を告げすぐに中に入り談話室を横切る。授業のない生徒が何人か驚いた目でソフィアを見たが、声をかける間も無くソフィアは女子寮の階段を駆け上がった。

 

 

「っ…う、ううっ……」

 

 

ソフィアはベッドにうつ伏せに倒れ込み、シーツを強く握りながら泣きじゃくる。

ベッドで昼寝をしていたティティは跳び上がりソフィアに駆け寄ると心配そうに前足でソフィアの頭を掻いた。

 

 

「きゅーん…」

 

 

ティティは悲しそうに鳴くと、そっとその小さな体をソフィアに寄せる。ソフィアはティティに手を伸ばし抱きしめ、その柔らかな身体に顔を埋めた。

 

 

 

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