1人でも行くと言うハリーの言葉についにソフィア達は折れ、5人はハグリッドの小屋へ向かった。
ロンが扉をノックしたが答えはなく、中から変な音がうっすらと外に漏れ出しているだけだった。
「出かけてるのかな?」
「でも、何か変な音が聞こえるわ」
ソフィアが扉のまでより耳をそっと近づける。ハリー達は顔を見合わせ同じように扉に近づき、中から低く、呻くような声が聞こえる事に気がついた。
「誰か呼んだ方がいいかな?」
ロンが不安げにソフィアの顔を見る、ソフィアは少し悩んだが口を開く前にハリーが強く扉を叩きハグリッドの名を叫んだ。
「ハグリッド!中にいるの!?」
重い足音がして、扉が軋みながら開いた。
ハグリッドは真っ赤な泣き腫らした目をして現れ、涙を滝のように流したままハリーの首元に抱きついた。
「聞いたか!」
おんおんと大声で泣くハグリッドに、抱きすくめられたハリーはぐっと息を詰まらせた。ぼきりといやな音がハリーから響き、ソフィア達は慌ててハリーがハグリッドの重みで潰される前にハグリッドを両脇からぐいっと支えて持ち上げ、なんとか小屋に押し込んだ。
ソフィア達にされるがままハグリッドは椅子に運ばれ、机に突っ伏して泣きじゃくる。
ソフィアは額に滲んだ汗を拭いながら困惑した表情でハリー達を見たが、皆同じように困惑している。
「ハグリッド、何事なの?」
「…ハグリッド、これは…何?」
ハーマイオニーが唖然として聞き、ソフィアが机の上にある広げられた手紙に気付くと、ハグリッドはさらに大きく泣いた。
手紙をソフィアに押して渡し、受け取ったソフィアはそれを困惑しながら読み上げた。
そこにはヒッポグリフが生徒を攻撃した件についての調査で、ハグリッドには何の罪も責任も無いと言う言葉が書かれていた。
「じゃ、オーケーだ。よかったじゃ無いかハグリッド!」
ロンが嬉し泣きだったのかとほっと表情を緩ませ明るくハグリッドの肩を叩いたが、ハグリッドは首を振り泣き続けた。
ソフィアは眉を顰めたまま、その後に長く続く文を読んだ。
ハグリッドは責任がないが、ヒッポグリフは事情聴取が行われると書かれている。
ソフィアは読み終えると泣き続けるハグリッドの肩を優しく気遣うように撫でた。
「うーん…だけど、ハグリッド。バックビークは悪いヒッポグリフじゃないって、そう言ってたじゃないか、絶対、無罪放免──」
「お前さんは、危険生物処理委員会っちゅうとこの怪物どもを知らんのだ!連中は面白れぇ生き物を目の敵にしてきた!」
ハグリッドは叫ぶと袖で目を拭いながら言葉を詰まらせる。
突然、小屋の隅から物音がしてソフィア達は弾かれたように振り返った。ヒッポグリフのバックビークが小屋の隅にいて、何かをバリバリと食いちぎっている。その床が血で染まっているのを見たハリー達は何を食べているのかと顔を引き攣らせすぐに視線を逸らした。
「こいつを雪ん中につないで放っておけねぇ、たった一人で、クリスマスだっちゅうのに!」
「ええ、ええそうよハグリッド!こんな酷いことはないわ!」
ソフィアはうんうんと頷き、血まみれのバックビークに近づくとそっとお辞儀し、触れるのが許された後優しくバックビークの頭を撫でた。
ハリーとロンとハーマイオニーとルイスは互いに顔を見合わせた。ソフィアは別として、ハグリッドが面白い生き物と呼ぶものは、他の大多数にとって恐ろしい生き物である事を、4人はよく知っていた。
だが、大蜘蛛やドラゴンを飼っていた事を考えると、まだヒッポグリフは──ハグリッドとソフィアの基準では──可愛らしい生き物だといえるだろう。礼儀を持っていれば、ヒッポグリフは危険では無い。
「ハグリッド、しっかりした強い弁護を打ち出さないといけないわ。バックビークが安全だって、あなたがきっと証明できるわ」
ハーマイオニーはハグリッドの腕に手を置いて優しく言う。ルイスも強く頷き、そっとハグリッドの顔を覗き込んだ。
「僕、弁護についていこうか?」
「それでも、同じこった!やつら、処理班の悪魔め、連中はルシウス・マルフォイの手の内だ!やつを怖がっとる!もし、裁判で負けたらバックビークは──」
ハグリッドは喉を掻き切るような動作をし、止まりかけていた涙をまた滝のように溢れさせると両腕に顔を埋めた。
「…ハグリッド、ダンブルドアは?」
ハリーがおずおずと聞いた、ダンブルドアならきっと、バックビークを処分させないだろう、そう思ったがハグリッドは力なく首を振り弱々しく答えた。
「手一杯でおいでなさる。吸魂鬼のやつらが城の中に入らんようにしとくとか、シリウス・ブラックがうろうろとか──」
ロンとハーマイオニーは急いでハリーを見たが、ルイスはずっとハグリッドの丸まった背中を撫で続けていた。
ロンとハーマイオニーはブラックが話題に上がった事で、ハリーがハグリッドを責め立てると思っていたが、流石にこんな──友人が、こんなに打ちひしがれて心を痛め泣いているのに、そんな事はとても、ハリーには出来ない。
「ねぇ、ハグリッド。諦めちゃダメだ。ハーマイオニーの言う通りだよ、ちゃんとした弁護が必要なだけだ。僕らを証人に呼んだらいいよ、ルイスも証言してくれるし」
ソフィアはバックビークを撫でていた手を止めてハグリッドに駆け寄ると、ひしっとその巨体を抱きしめた。
「そうよ!あんな素敵な子が処刑されるなんて間違ってるわ、私どうにか出来ないか調べてみる!」
「私、ヒッポグリフいじめ事件について読んだことがあるわ。たしか、ヒッポグリフは釈放されたっけ──探してあげる、ハグリッド。正確に何が起こったのか調べてみるわ」
ハグリッドはソフィア達の優しさがたまらなく嬉しくて、さらに声を上げて泣いた。
ハリーとハーマイオニーは困った顔で黙ったままのロンを見る。ロンは少し視線をうろうろとしたがすぐに口を開いた。
「あー…お茶でも淹れようか?…誰か気が動転してるとき、ママはいつもそうするんだ」
ロンは肩をすくめて呟いた。
「ええ、そうしましょう。ハグリッド、泣きすぎて脱水になるわ!」
ソフィアはいい考えだと手を叩くと杖を出し棚に収められている大きなポットを浮かすと水を入れ紅茶の準備を始めた。
ハグリッドはまだ泣いていた為、ハーマイオニーと共に紅茶の葉はどこだろうかと棚をさぐり──ついでに茶菓子も探した──ようやくそれらしき缶を見つけた。
ロンとハリーとルイスは2人が紅茶を淹れている間中ずっとハグリッドの体をさすり慰め続けた。
ソフィアは、大きなマグカップに温かい紅茶を注ぎハグリッドに差し出した。
ハグリッドはまだ泣いていたが、紅茶を飲むと少し落ち着いてきたらしくテーブルクロスほどの大きなハンカチで鼻をかむとようやく口を開いた。
「ありがとう…お前さん達の言う通りだ。ここで俺がボロボロになっちゃいられねぇ、しゃんとせにゃ…このごろ、俺はどうかしちょった…バックビークが心配だし…だーれも俺の授業を好かんし…」
「まぁ!私は大好きよ!」
「みんな、とっても好きよ!」
「うん、凄い授業だよ!」
ソフィアはにっこりと本心を言ったが、ハーマイオニーとロンは優しい嘘をついた。
「あー
何かハグリッドが元気になる話題はないものかとロンが咄嗟にレタス食い虫のことを言ったが、ハグリッドは小さく「死んだ、レタスの食い過ぎだ」と暗い目で答えた。
「あーそれは…」
「ああ、そんな!」
ロンはこんな悲劇はないよ!と口では言いながら、口元はニヤリと笑い、苦笑するルイスに目配せをした。
「それに、吸魂鬼のやつらだ。連中はとことん俺を落ち込ませる。三本の箒に飲みに行くたんび、連中の側を通らなきゃなんねぇ…アズカバンに戻されちまったような気分になる──」
ハグリッドは黙り込んで紅茶を一口飲む。ソフィア達は息を潜めてハグリッドを見た。彼らはハグリッドが短い期間だが、アズカバンに入れられていた事は知っているが──どんな所なのか、聞いた事がなかった。
やや、間おいてハーマイオニーが遠慮がちに聞いた。
「ハグリッド、恐ろしいところなの?」
「想像もつかんだろう。あんなところは行った事がねぇ、気が狂うかと思ったぞ。ひどい思い出ばっかしが思い浮かぶんだ…ホグワーツを退校になった日、親父が死んだ日、ノーバートが行っちまった日…暫くすると、自分が誰だか、もうわからねぇ。そんで、生きててもしょうがねぇって気になる。寝ているうちに死んでしまいてぇって、俺はそう願ったもんだ…釈放された時は、もう一度生まれ変わったような気分だった。色んなものが一気に戻ってきな、こんないい気分はねえぞ。そりゃ、吸魂鬼のやつら、俺を釈放するのを渋ったもんだ」
「でも、あなたは無実だったでしょう?」
ソフィアが優しく言えば、ハグリッドは涙を擦りながら吸魂鬼を思い出しふんと鼻を鳴らす。
「連中の知ったこっちゃねぇ。そんなこたぁ、どうでもええ。誰が有罪か無罪かだなんて…連中にはどっちでもええ」
「…酷いところね…」
ハグリッドは暫く自分のマグカップを見つめたまま黙り込んでいたが、ぽそりと呟いた。
──その声はこの巨体から出ているとは思えないほど、弱々しい呟きだった。
「バックビークをこのまんま逃そうと思った。遠くに飛んでいけばええと…だけんど、どうやってバックビークに言い聞かせりゃええ?どっかに隠れてろって…法律を破るのが、俺は怖い…」
ハグリッドはゆっくり顔を上げ、ソフィア達を見た。その小さな黒い目から、ぽろりと一粒の涙が溢れる。
「俺は、二度とアズカバンに戻りたくねぇ」
どうする事も出来ない。とハグリッドは項垂れる。ソフィアはぐっと胸を詰まらせて慰めるようにハグリッドの背中を撫で続けた。