それからソフィア達は図書館に行き、何かヒッポグリフを勝訴に導くいい判例はないかと探し続けたが、これと言った収穫はなかった。
ハグリッドの小屋での出来事は楽しいものではなかったが、ハリーの意識をブラックから逸らす事は出来たといえるだろう。
流石のハリーもあんな状態のハグリッドをさらに追い詰める事はできない。それに、ハリーはブラックの事を考えずにハグリッドの手助けをする為に色々考えなければならなかった。──忘れたわけでは無いが、それだけを考え続けるわけにもいかない。
クリスマスの朝、ソフィアは目を覚ましベッド脇にある沢山のプレゼントを見て嬉しそうに微笑んだ。色々あった最近は楽しい事が無かったが、久しぶりにソフィアは心が温まるのを感じた。
隣のベットで人が起きる気配とベッドの軋みが聞こえ、ソフィアはすぐに駆け寄るとにっこりと笑いベットのカーテンを開けた。
「ハーマイオニー、メリークリスマス!」
「ソフィア、メリークリスマス!」
いきなり開かれたカーテンに少し驚いたものの、ハーマイオニーはにっこりと笑い、嬉しそうにベッド脇のプレゼントの山を見た。
「はい、ハーマイオニー!」
「まぁ、ありがとう!…メリークリスマス!」
ソフィアは綺麗にラッピングされた小さな包みをハーマイオニーに手渡し、ハーマイオニーもすぐに小さな箱をソフィアに渡した。
ハーマイオニーがソフィアに用意したのは少し大人びた印象を与えるシンプルなネックレスだった。きらり、と緑色の一粒石が輝き、一眼見てソフィアにぴったりだと購入した。
ソフィアがハーマイオニーに用意したのは常に暖かい温度が保たれ、優しい癒しの香りが仄かに漂うアイマスクだった。最近、特に寝るのが遅く毎日疲れた目をしているハーマイオニーの為に、少しはこれで癒されてほしいと思った。
「ありがとう、まぁ、なんて綺麗な石…私の目に合わせてくれたのね?早速つけるわ!」
「まあ!アイマスク!ちょうど欲しかったの、ありがとう!」
2人は顔を見合わせ幸せそうに微笑む。
ハーマイオニーはネックレスの留め金に苦戦しているソフィアにくすくすと笑い後ろに回ると、そっとその留め金をつけ、髪の毛を指でなでた。
「どうかしら?」
「とっても似合ってるわ!」
「大切にするわね!」
ハーマイオニーはソフィアの首元で美しく可憐に輝く石を見て、自分の目に狂いは無かったと満足げに微笑む。
ソフィアは喜びからぎゅっとハーマイオニーに抱きついた。──しかし、ソフィアはふと身体を離すとまじまじとハーマイオニーの胸を見た。その視線と、その先にあるものが何だかわかるとハーマイオニーはすこし頬を染め身を引き、胸の前で腕を交差した。
「な、何?」
「ねぇ、ハーマイオニー。…どうしたら大きくなるの?」
「え?…うーん…さあ、わからないわ」
「私、全然大きくならないの」
ソフィアは自分の胸を見下ろし悲しげにため息をつく。ハーマイオニーはソフィアのほぼ平らな胸元を見て──たしかに、かなり小ぶりだわ。と心の中で呟いた。
「触ってもいい?」
「ええっ!?…えー…うぅーん…まぁ、いいけれど…」
ソフィアの言葉にハーマイオニーはぽっと頬を赤らめたが、同性だし、何よりソフィアの表情があまりに真剣なため、小さく頷いた。
ソフィアはそっと両手をハーマイオニーの胸に当てる。ハーマイオニーはなんだか気恥ずかしくてくすくすと笑った。
ほやん、として柔らかく、それでいてしっかりとした質量があり──ソフィアはガツンと頭に衝撃を感じ、よろりと離れる。
「ぜ…全然、違うわ…」
自分の胸に手を当てたソフィアは愕然と呟き、本来の胸の柔らかさに口をあんぐりと開けた。
ハーマイオニーはそんな表情を見せるソフィアがたまらなく可笑しくて「あはは!」と声を上げて笑ってしまったが、ソフィアはむっつりと頬を膨らませるとハーマイオニーの背後にサッと回り後ろから胸に手を伸ばした。
「──きゃっ!?」
「笑うハーマイオニーなんて、こうよ!」
「ちょっと!や、やめ──っ!あっ、ははっ!ひゃあ!」
ソフィアは片手でハーマイオニーの胸に──やや遠慮しながら──触れ、もう片方の手で脇腹をくすぐった。ハーマイオニーは擽りと揉みしだきに身を捩って悶え笑いながら息も絶え絶えに「やめてよ!」と叫ぶ。ソフィアは悪戯っぽく笑いやめることはなく、もつれるようにして2人でベッドの上に倒れ込んだ。
ハーマイオニーの髪がベッドに散らばり、ソフィアは押し倒したような形で自分の下で頬を真っ赤に染め目を潤ませながら、どこか恨めしそうに睨むハーマイオニーを見下ろした。──なんとなく、見てはいけないものを見た気がしてソフィアは息を呑む。
「もう!ソフィアったら!」
ハーマイオニーは乱れた呼吸を落ち着かせながらソフィアを軽く押し自分の上から引かせると身体を起こした。ソフィアは「ごめんなさい!」と言いながらも楽しそうに笑う。
「ねぇ、ハーマイオニーって…何カップ?」
「え?…ソフィアは?」
「…見てわかるでしょう?」
「あー…そうね」
どう見てもA──かなりよくいってBだろうその胸を見てハーマイオニーは苦笑する。
そしてちょっと考え、そっとソフィアの耳元に口を寄せ囁いた。この部屋には2人しかいない、そうわかっていたが何となく普通に言うのは恥ずかしかった。
ソフィアは囁かれたアルファベットに、目を見開いて驚愕し、指を一本一本数えるように折っていった。
「──なんてことなの…!」
「もう!──バストの話はもういいわ、ハリーとロンが起きたかどうか、見に行きましょう!クルックシャンクス!おいで!」
ハーマイオニーは自分の胸を驚愕の目で見つめるソフィアをベッドから立たせるとその背中を押して話を無理矢理中断させた。名を呼ばれたクルックシャンクスは「にゃあ」と一鳴きするとすぐにハーマイオニーの後ろを歩く。
ソフィアは背中を押され階段を降りながら、どうすれば自分の胸が大きくなるのか、むしろ、これから大人になり成長するのかどうか──少し不安に思った。
男子寮のハリーとロンがいる部屋に着いた2人はそっと耳をすませ既に起きている事を確かめるとノックもせず扉を開けた。
ハリーとロンはベッドに座り何やら楽しげに笑っている。ハーマイオニーは足元にいるクルックシャンクスを抱き上げて部屋に入ると「2人して、何笑ってるの?」と首を傾げた。
「そいつをここに連れてくるなよ!」
ロンはハーマイオニーの腕の中にいるクルックシャンクスに気付くと慌ててベッドの奥にいるスキャバーズを拾い上げ、パジャマのポケットにしまいこみ強くクルックシャンクスを睨んだ。
この猫を飼うときに男子寮には入れないと言ったはずじゃないか、とロンは怒り心頭だった。
「メリークリスマス、ロン!ハリー!──まぁ!!こ、これ、どうしたの!?」
ハーマイオニーに続いて部屋に入ってきたソフィアはにっこりとクリスマスの挨拶を2人に言ったが、ハリーが手に持つファイアボルトに気づくと声を裏返しながら叫びすぐに駆け寄った。
「うわぁー!す、すごい…ねぇ、ハリー?触ってもいい…?」
「うん、勿論だよ」
ハリーはにっこりと笑い頷くとソフィアにファイアボルトを手渡した。ソフィアはピカピカと輝く箒の柄をそっと撫で、その手に吸い付くような滑らかさに感嘆のため息を漏らした。
「ハリー、一体誰がこれを?」
「さっぱりわからない、カードも何も無いんだ」
ソフィア達は素晴らしい箒に興奮していたが、ハーマイオニーは表情を翳らせ、じっと不安げにソフィアが撫でる箒を見ていた。
「どうかしたのかい?」
「わからないわ。でも、何かおかしくない?つまり…この箒は相当いい箒なんでしょう?違う?」
「ハーマイオニー、これは現存する箒の最高峰だ」
ロンはこの素晴らしさは、見ただけでわかるだろうと誇るように言ったが、ハーマイオニーは更に顔を曇らせた。
ソフィアはきょとんとしてハーマイオニーを見て、そしてファイアボルトに目を落とし、ハリーを見た。
ハーマイオニーが何を不安がっているのか、何を気にしているのかようやくわかったソフィアはそっとベッドの上に箒を置き、一歩離れた。
「とっても高いはずよね」
「たぶん、スリザリンの箒を全部束にしても敵わないくらい高い」
「そうね、そんな高価なものを送って、しかも自分が送ったって言わないなんて…一体誰なの?」
「誰だっていいじゃ無いか、ねぇ、ハリー、僕試しに乗ってみてもいい?」
「絶対にダメ!まだ誰も乗っちゃいけないわ!」
ハーマイオニーの叫び声にロンは苛々としながら振り返る。ハリーも何をそんなに気にする事があるのかと怪訝な顔でハーマイオニーを見た。
「この箒でハリーが何をすればいいんだ?床でも掃くかい?」
ロンが意地悪げにからかえばハーマイオニーはすぐにかっと顔を赤らめ言い返そうと口を開いた。しかしハーマイオニーが何かを言う前にクルックシャンクスが置かれていたベッドの上から飛び出し、ロンの懐を直撃した。
「コイツをここから連れ出せ!!」
「きゃっ!」
ソフィアは慌ててハリーのベッドの上に退散し、クルックシャンクスにより攻撃されているロンをおろおろとした目で見た。隣にいるハリーは箒にぶつかっては堪らないとばかりにしっかり箒を抱き寄せて避難している。
ロンはクルックシャンクスを振り下ろし、蹴飛ばそうと思ったが狙いが外れハリーのトランクを蹴飛ばした。その衝撃でトランクはひっくり返り中身が飛び出て、ロンは痛みで叫び跳ね回る。
一瞬の惨劇に、ハーマイオニーは呆然としていたが我に帰るとクルックシャンクスをむんずと掴み、暴れる身体を抑えた。
突如、ヒュンヒュンという甲高い音が響き渡る。トランクの中にあったスニーコスコープが床の上でピカピカ光りながら回転していた。
「これを忘れてた!この靴下は出来れば履きたく無いな…」
「ハーマイオニー、その猫、ここから連れ出せよ」
ロンが涙目になり爪先をさすりながら低く唸るようにハーマイオニーに行った、ハーマイオニーは唇を強く結んだままクルックシャンクスを抱きかかえぷいとそっぽをむいて部屋を出ていった。
「あー…私…戻るわ、…後でね」
残されたソフィアは少し悩んだ後にそう言うとハーマイオニーの後を追いかけ自室へと戻った。
「ハーマイオニー!」
「ソフィア!見た!?ロン、酷いわ、クルックシャンクスを蹴ろうとして…!」
「うーん…でも、ハーマイオニー…クルックシャンクスをあの部屋に連れて行くべきじゃ無かったわ」
最もなソフィアの言葉にハーマイオニーは言葉を詰まらせるとがくりと肩を落とした。鼠を追いかけるのは猫の本能だ、仕方がないとは思うが──なぜ、スキャバーズを執拗に追いかけ回すのだろう。
ハーマイオニーはきっと、一度狙った獲物を変更したく無いのだろうと考えた。いや、いまはそんなことよりも重大な問題がある。
真面目な顔でハーマイオニーはソフィアを見つめ「あの、箒だけど」と切り出した。
ソフィアは何が言いたいのかわかり、ため息を一つつく。
「わかってるわ…ハーマイオニーは、あの箒はブラックがハリーを呪う為に送ったんだって、思ってるんでしょう?」
「ええ!そうよ!やっぱり、ソフィアもそう思う?」
ソフィアも同じことを思うなんて、きっと自分の考えに間違いは無いのだとハーマイオニーは少し表情を緩める。
だがソフィアは真剣な顔をすると、一度ハーマイオニーの手を引きベッドに座らせ、自らその隣に座った後、言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
「うーん…。箒の件についていえば、わからないわ。だって、犯罪者が箒を買えるかしら?…ねぇ、ハーマイオニー。私、去年は色んな事を一人で考えていたから…大変な目にあったでしょう?」
「え?えぇ、そうだったわね」
いきなり何の話かとハーマイオニーはきょとんと目を瞬かせた。
去年、ソフィアは1人で秘密の部屋の真実に近づき過ぎた為に、石化されてしまった。その事を言っているのだと思い出してハーマイオニーは戸惑いながら頷く。それと、今と何が関係あるのだろう。
「だから…私は…ハーマイオニー、あなただけには…私の考えを伝えようと思うの」
「わ、私だけ?…ハリー達には…?」
「…父様が関わってるから…言えないの」
「ああ…成程…ええ、わかったわ」
ハーマイオニーはソフィアの父であるセブルスが関わっているのなら自分以外に言えなくとも仕方のない事だろうと理解した。その上で真面目な顔をし、声を顰めてその先を促す。
「それで…話って?」
「この前、三本の箒でハリーのお父さんとブラックとジャックが友人だって聞いたわよね?」
「ええ…」
「…実は、父様とリーマス先生も同級生なの。父様とジャックは同級生だから…皆同級生って事なのよ。歳の違う友人じゃなくてね」
「え、──ええっ!?そんな…ルーピン先生も?…どうして、それを知ってるの?」
ハーマイオニーは驚いて大声を上げ──自分で思ったよりその声は部屋に大きく響き慌てて口を手で抑える。まさかこんな繋がりがあるとは思わず驚愕し眉を顰めた。
ソフィアはすこし沈黙していたが真面目な顔でハーマイオニーに伝える。
「実は…リーマス先生と夏休みに会ったの。父様の紹介で…ジャックから教えられたんじゃなくて、父様と会いに行ったの。わざわざ、父様が私たちを子どもだと教える為にね」
「えっ…どうして?先生達は…みんな知っているの?」
「いいえ、知らない先生が殆どよ。…ハーマイオニー、何故…父様はリーマス先生に自分が父親だとわざわざ伝えたのか…わかる?」
ソフィアのその言葉は疑問ではなく、遠回しな言葉でハーマイオニーに何かを伝えようとしていた。
ハーマイオニーは困惑しながらも唇を結び一度視線を落とす、深く考え、そして囁くようにソフィアに聞いた。
「…ルーピン先生が人狼だから…父親が目を光らせているから、近づくなって…ルーピン先生に警告する為…?」
ソフィアは真剣な顔をすこし緩めて頷いた。やはり、彼女は彼の秘密に気が付いていたのだ。聡明な彼女なら、きっとすぐに気付くだろうとソフィアは思っていた。ならば、なぜセブルス──父がリーマスと会わせたのかも、きっとわかるだろうと。自分からリーマスの秘密を言う事が出来ないソフィアは、こうして遠回しに聞くしかなかった。
「そうよ。…まぁ、リーマス先生が人狼だと私達に伝えて、私達が怖がるのを期待してた…って言うのが、本当なんだけど」
「人狼…ああ、ソフィア…大丈夫なの?私…人狼について調べたわ、すごく…怖くて…」
ハーマイオニーは今まで独りでリーマスの秘密を抱えていた。本人に確認したわけではないが、満月の日に居なくなる事、ボガートが満月に変身した事、そして人狼について学んだ事により──きっと間違い無いのだろうとは思っていた。
身体を震わせ怯えた目をするハーマイオニーに、ソフィアは優しく微笑み首を振る。
「大丈夫よ、父様が毎月脱狼薬を造ってるもの。…ハリーが見た毒は本当に薬なの」
「ああ…そうだったの…」
「まぁ、リーマス先生が人狼なのは、どうでもいいわ」
ハーマイオニーはちっともどうでも良くないと思い怪訝な顔をしたが、まだソフィアが言葉を続けていたため、途中で口を挟む事は無かった。
「…皆同級生でしょう?…それで…ハロウィーンの日の父様がダンブルドア先生に言った言葉、──覚えてるかしら?」
「…内通者の手引きなしでは、侵入は不可能──まさか!そんな、ルーピン先生が?」
「私も、そうは思いたくはないわ!だって…すごく優しい先生だもの。ダンブルドア先生も、内通者は居ないっておっしゃられていたのも確かだし。…でも、父様はリーマス先生が人狼だと言う事以外で…何かあるんじゃないかってずっと疑っているみたいなの」
ソフィアは俯いてため息をこぼす。
ソフィアも、リーマスが内通者だとは思っていない──思いたくはない。ただ、この奇妙な繋がりの中で客観的に見れば怪しいのは一人しかいない。
「私、本当にリーマス先生を疑っているわけではないの。ジャックが…信頼できる人だって言ってたし…。ただ…そう、誰かに、聞いて欲しかったの」
「ソフィア…ええ、わかってるわ。…この事は、2人だけの秘密にしましょう」
「…ありがとう、ハーマイオニー。…あ、ねえ、もう一つ言わなきゃならない事があるの」
「えっ…ま、まだあるの?」
あまり問題ばかりだと更に頭を悩ませる事になる、とハーマイオニーは顔を引き攣らせた。ソフィアは苦笑し、気苦労を増やす事に申し訳なさを感じながらも、忍びの地図で自分の本当の名前がハリーにバレてしまうかもしれないという事を伝えた。
「…やっぱり、ろくな事にならない地図だわ!」
「確かに、今思えば怒られてもマグゴナガル先生に言えば良かったわ。…もう二度とハリーが使わなければいいんだけど…約束を守るかしら…」
「それは、無理ね」
ばっさりと言い切るハーマイオニーに、ソフィアは「そうよねぇ」と力なく微笑んだ。