夜、クリスマスディナーを食べにソフィア達は大広間へ向かった。
途中でグリフィンドール寮へやってきたルイスは差出人不明のファイアボルトを見て──やはりハーマイオニーとソフィアと同じように怪しんたが、それがブラックからの物だとは判断できないと首を振った。
大広間にいつもならある四つの長机は壁に立てかけられ、その代わりに中央にテーブルが一つと食器が12人分用意されていた。生徒が少ないと思っていたが、まさかこんな人数しか居ないとは思わずソフィアはテーブルをまじまじと残った生徒を見た。
たった一人、一年生が緊張で身を縮こめながら石のように硬い表情で座っているだけだ。
「メリークリスマス!これしかいないのだから、寮のテーブルを使うのはいかにも愚かに見えてのう…さあ、お座り!お座り!」
ルイスとソフィアは互いに顔を見合わせた。セブルスの隣りが空席だ。──間違いなく、ハリー達は進んで座ろうとしないだろう。
ルイスがさっとセブルスの隣に座り、その隣にソフィアが座る。ほんの少しでも、家族として一緒にいるような空間が、なんだか2人は嬉しかった。
セブルスはちらりとルイスとソフィアを見たが何も言わなかった。──ただ、その口元がいつもより穏やかに見えたのは、きっとソフィアとルイスの勘違いではないだろう。
「クラッカーを!」
全員が席に着いたのを確認すると、ダンブルドアは嬉しそうにはしゃぎ大きな銀色のクラッカーの端をセブルスに差し出した。
セブルスはしぶしぶクラッカーを受け取り引っ張れば、大砲のような破裂音と共に中から禿鷹の剥製を乗せた大きな三角帽子が現れた。ソフィアとルイスは顔を見合わせ思わず吹き出したがセブルスにぎろりと睨まれ慌てて咳き込み、笑ってないフリをした。
「どんどん食べましょうぞ!」
ダンブルドアはセブルスから押し付けられた帽子を被るとにっこり笑いながら皆を促した。少ない人数であれ、クリスマスディナーは楽しいしおいしい。ソフィアはソーセージに齧り付き、その溢れた肉汁で舌を火傷してしまった。
各々が好きな料理を食べていると大広間の扉が静かに開き、トレローニーがすっと音もなく近づいて来た。
「シビル、これはお珍しい!」
ダンブルドアは立ち上がりにっこりとトレローニーの来訪を歓迎した。
「校長先生、あたくし水晶玉を見ておりまして、あたくしも驚きましたわ。皆様とご一緒の姿が見えましたの。運命があたくしを促しているのを拒む事ができまして?あたくし、取り急ぎ、塔を離れましたのでございますが、遅れてごめんあそばせ…」
「それはそれは、椅子をご用意いたさねばのう」
ダンブルドアは目をキラキラと輝かせセブルスとマクゴナガルの間に椅子を出現させた。
ハーマイオニーはトレローニーが来た事で一気に不機嫌になり──もともと、箒の事で不機嫌だったが──むっつりとした表情でロースト・ポテトを食べた。
「校長先生、あたくし、とても座れませんわ!あたくしがテーブルにつけば13人になってしまいます!こんな不吉な数字はありませんわ!お忘れになってはいけません。13人が食事を共にするとき、最初に席を立つものが最初に死ぬのですわ!」
「シビル、その危険を冒しましょう。かまわずお座りなさい。七面鳥が冷え切ってしまいますよ」
トレローニーは真っ青になり恐々と悲鳴をあげたが、それを聞いてマグゴナガルは苛々としながら自分の隣を指差す。トレローニーは返事はしなかったが迷った末に空いてある席に座った。その表情は今にも不吉な事が起こる事を予見しているように見えた。
しかしついに恐々と目を開けて、もう一度周りを見渡して訪ねた。
「あら、ルーピン先生はどうなさいましたの?」
「気の毒に、またご病気での。クリスマスにこんな事があるとは、まったく不幸なことじゃ」
ダンブルドアは軽く言うと皆に食事を取るように進めた。ハリー達はマクゴナガルとトレローニの静かなる交戦に目が離せず料理に伸ばしていた手が止まっていたが、ソフィアとルイスは全く気にする事なく目の前の料理を食べ、今がチャンスだとばかりにセブルスに話しかけていた。
「スネイプ先生、その前のオニオンスープ取ってください」
「……あぁ」
セブルスはルイスが示したスープの入った大きな器に向かって杖を振るい、ルイスの目の前まで移動させた。ルイスは嬉しそうに「ありがとうございます!」とにっこりとセブルスに笑いかけ良い匂いのするスープを器に盛った。
「あっ。スネイプ先生?もしよければ、その…ロースト・ビーフを取ってくださりませんか?」
「……」
セブルスは同じように杖を振り、ソフィアの側までロースト・ビーフを移動させれば、ソフィアは数枚の肉を皿によそうと嬉しそうに笑い「ありがとうございます」と愛想よく微笑んだ。
セブルスは静かにスモークサーモンを食べながら、横目で楽しげな2人を見て少しだけ目元を緩めた。
「ルイス、それとって?」
「ん?これ?」
「ええ」
ソフィアはルイスの目の前にある葡萄ジュースの瓶を指差し、ルイスはラベルをよく見ないまま自分のグラスにもそれを注ぎ、ソフィアのグラスにも同じように並々と注いだ。
「ありがとうルイス」
「どういたしまして」
2人は顔を見合わせ「メリークリスマス!」と言いながらその葡萄ジュース──に見えた赤ワインを飲んだ。
普通なら、誰かが──ダンブルドアが止めただろう。だが今彼はマクゴナガルとトレローニーとの静かな言い争いを宥め落ち着かせており、他の生徒や教師は皆それをじっと見守っていた。セブルスもまた、あまり2人を見ないようにしていた為、2人がぐびぐびと飲んでいるものが赤ワインだと、誰も気がつかなかった。
「なんか苦いね?これ」
「うーん、でも悪くないわ!ロースト・ビーフと合うわよ!」
「え?──本当だ、肉料理とあうね」
「ええ、ねえもう一杯頂戴?」
「勿論だよ!」
こうして2人はどんどん大きな瓶の中身を2人で消費していたが、止める者は居なかった。
「──セブルス、ルーピン先生にまた薬を造って差し上げたのじゃろう?」
「はい、校長」
セブルスが答え、それを見たハリーとロンは顔を合わせ本当にそれは薬なのか信じられないという嫌そうな表情をした。
ダンブルドアは大きく頷き、きっとそれならリーマスはすぐに良くなるだろうと皆に告げた。
「あはははは!スネイプせんせーが、く、薬だって!」
突如とても楽しそうなケラケラとした笑い声が響き、皆一体何事か──この場で本人を目の前にして笑える者など、一体誰かと声がした方を振り返った。
ルイスが顔を真っ赤にさせて腹を抱え何がそんなに可笑しいのかケラケラと笑い目に浮かんでいた涙を指で拭っていた。
「ル、ルイス!だめよ!みんな毒を盛ってるんじゃないかって、おもってるのは、スネイプ先生知ったら、そんな事…あははは!」
次に支離滅裂な言葉を言い、同じように顔を真っ赤にしたソフィアがルイスの背中をバンバンと叩きながら──ルイスは危うく目の前の料理に顔面から突っ込みそうになったがそれすらも愉快なのか笑い転げていた──爆笑した。
「ルイス!ああ、ほら、みんなが、見てるわ!」
「うーん、きっとスネイプ先生が、また禿鷹の帽子を被るのを期待してるんだよ!ああ、僕も、み、見たかっ─あははは!」
「あはははっ!」
壊れたように笑い転げる2人を見て、ハリーはまさかこの料理に何か魔法薬でも入っているのかと考えたが、ダンブルドアはちょっと眉を寄せながらソフィアとルイスの周りにある空の瓶を手に取ると「なんということじゃ!」と呟いた。
「まぁ!ダンブルドア先生?それ、すっごくあれなの!」
「うんうん、ぜひ、飲んでみて!僕らのおすすめ!」
2人はダンブルドアに駆け寄る為に同時に立ち上がった。その瞬間トレローニーが悲鳴を上げ2人を見る。
「あなたたち!どちらが先に席を離れましたの?どちらが?」
ルイスとソフィアは一瞬笑顔を消し──それでも顔は真っ赤だったが──きょとんとしたがにんまりと顔を見合わせ笑うとトレローニーの側に近づき、左右から覗き込むとにやにやと笑った。
「トレローニ先生!私質問があります!」
「な、なんでしょう…」
「はい!13人家族なら、どうなるんですか?毎日一緒に食事をしますよね?」
「…それは…」
「はい!僕も質問です!ねえトレローニー先生ってトンボ好き?」
「なっ…」
ルイスの言葉にロンとハリーが吹き出した。マクゴナガルは口元をひくひくとさせてけっして笑おうとはしなかったが、なんとか堪えているのが見てとれた。
「これこれソフィア、ルイス。シビルを困らせてはいかんよ」
「はぁいダンブルドア先生!」
「あっねえそれ、そのジュースもうないの?それ、すっごく美味しいんです!」
2人はダンブルドアの元に駆け寄ると、心から楽しげにくすくすと笑い「もっとちょーだい?」とダンブルドアが手に持つ空の瓶を指差した。
「楽しくなってきたわ!」
「僕も!」
「…どうやら2人は葡萄ジュースと間違えて赤ワインを飲んでしまったようじゃのう」
ダンブルドアが苦笑しながら言うと、ハリー達は驚愕しそれで、こうなってるのかと納得した。
真っ赤な顔、呂律の回らない舌、絶えずけらけらと笑い続けている様子──間違いなく2人は笑い上戸だ。
2人は手にダンブルドアから渡された空の瓶を握りしめながら元の席に戻った。酔っ払い達には中が空かどうかの区別は──どうやらつかないらしい。
セブルスはけらけらと笑う2人を見て、苦々しいため息をつき額を抑えながら杖を振るった。
───バシャッ!
ソフィアとルイスの頭上に大きな水玉が出来、それが2人目がけて落下した。
ソフィアの隣に座っていたハーマイオニーは水飛沫に身体を逸らしながらも、いきなり固まり動かなくなったソフィアとルイスを不安そうに見た。
ロンとハリーは水を躊躇いなく浴びせるセブルスに、相変わらず容赦が無い、とルイスとソフィアを気の毒に思った。
ぽたぽたとルイスとソフィアの髪から雫が垂れていたが、突如2人はゆっくりと顔を上げ髪をかき上げる。
「…うん。ごめんなさい」
「ごめんなさい。お酒って…怖いわね」
酔い覚ましの薬入りの冷水により一気に酔いが覚めた2人は真剣な顔をして静かに座り直した。
ダンブルドアは朗らかに笑いながら杖を振るい2人をさっぱりと乾かすと、今度は本当の葡萄ジュースの瓶を差し出した。
「ま、クリスマスじゃから大目にみよう。大人が気付かなかったのも責任がある」
ダンブルドアはルイスの隣にいたセブルスをチラリと見たが、セブルスはその目を無視した。
「さあ、これはちゃんとした葡萄ジュースじゃ、飲みなさい」
「あーいえ。水で…はい、水でいいです」
「私も、水で…」
「ふむ、水はこっちじゃ。酔いは覚めてもアルコールは残っておるからの、沢山飲みなさい」
水の透明な瓶を2本渡された2人は小さな声で「メリークリスマス…」と互いに呟き瓶をぶつけ合うと一気に水を飲み干した。
その後はトレローニーも、そしてソフィアとルイスも普通に過ごしていた。少しアルコールのせいで気持ち悪さがあり料理を食べる手が止まっていたが、それは仕方のない事だろう。
2時間後、デザートまで平らげたハリーとロンははち切れそうになった腹を摩りながら立ち上がり、ハーマイオニーとソフィア、ルイスにもう戻るかどうかと聞いた。
「君たちも帰る?」
「…私、ちょっと…吐き気止めを貰いに行くわ」
「ぼ、ぼくも…」
「私、マクゴナガル先生にちょっとお話があるの」
ハーマイオニーはハリーとロンを見ず、空の皿を見ながら呟いた。
ソフィアとルイスは顔を見合わせ、ハーマイオニーが何をマクゴナガルに話すのかわかり、付き添おうとは思ったが──。
「「うっ…」」
真っ青な顔で口を抑えた2人は、急いでトイレへと向かわねばならなかった。