【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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136 何よりも優しい人!

 

ソフィアは少し痛む頭を抑えながらよろよろとグリフィンドール寮へ戻った。いつもならこの後ルイスもグリフィンドール寮へ行き、就寝時間までハリー達と過ごすのだが「今日は…もう寝るよ…」と同じように頭を抑えながらスリザリン寮へ行ってしまった。

吐き気止めはもらう事が出来たが、2人が故意ではないにしろ未成年でありながらアルコールを飲んだ事にポンフリーはカンカンになって怒り、かなり長い時間絞られていた。

 

 

「ソフィア!」

 

 

談話室に入るなり、ハリーとロンが怒りで顔を真っ赤にしながらソフィアの名を呼び、驚いて目を丸くしているソフィアの手を引くと無理矢理暖炉近くに座らせ左右からマシンガンのようにハーマイオニーの文句を言った。

 

 

「聞いてよ!さっきマクゴガナルが来て!僕の箒を持っていったんだ!」

「まぁ…」

「ブラックがハリーに箒だって?へっ!そんなわけあるか!」

「うーん…」

「ソフィア、呪いを調べるってどうやるか知ってる?ああ、どうなるんだろ…」

「さぁ…」

「分解だなんて!それこそ犯罪行為だ!」

「そうね…」

「くそっ!あの女!自分が飛行術苦手だからってハリーに恨みでもあるのか!?」

 

 

憎々しげに叫び膝を叩くロンを見てソフィアは片眉を上げる。

興奮したままの2人を落ち着かせる為にポケットに入れてあったヌガーを取り出し、包みを開くとまだ文句を言い続ける2人の口に押し込んだ。

 

 

「むぐっ…」

「うっ…」

「ハリー、ロン。…ちょっと落ち着いて?つまり、ハーマイオニーはブラックからの贈り物かも知れない。もし何か…万が一呪いがかかっているのなら、ハリーが大怪我をしてしまうかもしれない。それは悲しくて嫌だから、マクゴガナル先生に伝えたのよね?あくまで善意なのは、分かってるわよね?」

「……分かってるさ」

「うん…」

 

 

口の中で甘いヌガーを転がし、ソフィアのゆっくりとした穏やかな声により2人は少し、興奮を抑えた。

それでも胸の奥には怒りと悲しみが燻るままで、直ぐにはハーマイオニーを許せそうにない。勿論、善意でマクゴガナルに報告したのだとハリーはわかっているが、あの素晴らしい最高峰の箒の持ち主になれたのがたった数時間だなんて虚しすぎる。箒はいつ、どのような状況で戻ってくるのかわからないとなれば──腹が立つのも仕方がない。

 

 

「ただねぇ…私も、ブラックからの贈り物だとは…思いたく無いのよね」

「ブラックがこんな箒買えるか!」

 

ロンは吐き捨てるように文句を言った。ソフィアは「そうなのよ、ロン」と真面目な顔でロンを見て頷く。

 

 

「脱獄囚が箒なんて買えないわ。…少なくとも、協力者が必要になるでしょう?…それに、ハリーが箒を失ったこのタイミングでの贈り物…間違いなく、ハリーの身の回りの出来事を知ってるのよ」

「…スネイプが言ってた…内通者が、ホグワーツに居るって事?」

 

 

ハリーの唖然とした呟きに、ソフィアは肩をすくめ首を振った。わからない、そんな事を考えたくは無い。けれどもしブラックが送った箒だとわかれば、それは内通者の存在を濃厚にする。

 

 

「あまり、考えたくは無いけれどね。…まぁ、万が一って事もあるから、私も調べる事自体は賛成よ」

「ソフィア!君もか!?」

「ソフィア…」

「信じられない!全く君たちはどうにかしてるよ!」

 

 

ロンはソフィアも賛成だとは思わず、ふたたび顔を真っ赤にして怒り出したが、ハリーは腹を立てているような、困惑しているような、複雑な表情で眉を顰めソフィアを見上げた。

 

 

「私も、ハリーが傷つくのは嫌だもの。──自分が傷つくよりもね」

 

 

それだけを言うとソフィアは立ち上がり、未だに文句をぶつぶつ言っているロンと、黙ってソフィアを見つめるハリーを置いてすぐに女子寮への階段を上がった。

 

 

自室の扉を開ければハーマイオニーのベッドから啜り泣く声が響いていた、明かりも灯さず、薄暗い室内で声を震わせ泣いているハーマイオニーにソフィアは杖を降り室内に仄かな明かりを灯し、ベッドに近付くと閉められていたカーテンをそっと開けた。

 

 

「ハーマイオニー…」

「ソフィア…」

 

 

ハーマイオニーはベッドに肩を落として座り込み、絶えずぽろぽろと涙を流していた。

ソフィアはベッドの上で膝をつき、優しく頭を引き寄せ胸に抱きしめた。

ソフィアの胸に頬をつけたハーマイオニーは刹那泣き声を止めたが、すぐに大きく表情を歪め、ソフィアに縋り付くようにして泣きじゃくる。

 

 

「わ、私っ…!あ、あんな怪しい箒、きっ…危険だからっ!ハリーに、もしものことが、あったら…!」

「そうね、私もそう思うわ」

「なのに、あの2人っ…!全然、分かってくれなくて…!」

「そうね、ハーマイオニー。私はあなたが正しい事をしたと分かってるわ。私も…マクゴガナル先生に言いに行こうと思ったもの」

「ソフィア…!」

 

 

わぁんと声を上げて泣き続けるハーマイオニーを抱きしめたまま、ソフィアは優しくその背中を撫で続けた。

ハーマイオニーは正しい。あれは少々怪しすぎる箒だ。何も無いに越した事はない、それを調べる事はけっして無駄ではない。

 

 

──ハーマイオニーはいつも正しいわ。…ただ、ちょっと…いつも急ぎ過ぎなのよね。

 

 

ソフィアは自分に抱き着き、顔をくっつけたまましゃくりあげる声を聞き、そう思った。

 

ハリーもロンも馬鹿ではない。

少しカッとしやすいが、話せばわからない事もなかっただろう。いきなりマクゴガナルに報告に行くのではなく、その箒の不審な点をしっかりと伝え、話し合うべきだった。

そうすれば──勿論、拒絶しただろうが、切々と訴えれば箒を調べようと思ったかもしれない。

少なくともハリーは一年生の時に呪いが掛けられた箒に乗り、振り落とされそうになり、命の危険があったことを忘れてはいないだろう。嫌がりはするだろうが、きっと分かってくれた筈だ。

 

ハーマイオニーに落ち度があるとすれば、彼らに何も言わずマクゴガナルに報告してしまった事だ。ハーマイオニーは一刻も早く報告しなければ、談話室でハリーとロン、そしてソフィアが箒に乗ってしまうかもしれない──そう思っての事だったが、不運にもそれはハリーとロンを激怒させる事となった。

 

 

ソフィアは窓の外の景色を見て、あやすように優しくハーマイオニーの背中を叩いた。それは母親が幼子にする慈愛と暖かさの籠った──癒しの眠り魔法だった。

勿論、ソフィアはその事は知らない。ソフィアは母を覚えていない。──覚えていないだけで、魂の奥底にしっかりと母のことを記憶しているのだが、ソフィアはそれにも、気付けなかった。

 

 

癒しの眠り魔法は、それを受けた事のある者しか使えない。母から子に、そしてその子が大きくなりまた、自分の子に──。

確かな母の愛を感じた事のある子のみ受け継がれていく、そんな、ささやかで優しい魔法だった。

 

 

 

「──ハーマイオニー?」

 

 

ふと、ソフィアはハーマイオニーが静かになった事に気がつき、そっと声をかけた。

ハーマイオニーはソフィアの腿の上に頭を乗せ、頬に涙の跡を残したまま、すうすうと小さな寝息を立てていた。

 

 

ソフィアは泣き過ぎてじんわりと汗が滲み額に張り付いているハーマイオニーの前髪を優しく払う。

 

 

「おやすみなさい…」

 

 

不器用だが、とても優しい親友がせめて夢の中では心安らかであるよう願いながら──ソフィアはハーマイオニーのつむじにそっと口付けを落とした。

 

 

起こさないようにそっと杖をポケットから抜き取ると優しく数回振った。

ふわりと毛布がソフィアのベッドとハーマイオニーのベッドから飛んでくると羽のように優しくハーマイオニーを覆い、一枚の毛布はソフィア自身の肩にかかった。

ソフィアは浮かんできた枕を大きくすると、それに背中を預けた。

 

じんわりとした温かみを感じ、ソフィアも静かに目を閉じた。

 

 

 

真夜中にふと、ハーマイオニーは目を覚ました。

熱を持ち腫れぼったく、うまく開かない目を擦れば顔に感じるくすぐったさに気づく。

視線を上げれば俯いたソフィアの長い髪が自分の頬を掠めていた。

大きな枕に背を預け、ハーマイオニーを優しく抱きしめるように背中に手を回しているソフィアは、深く座ったままの姿勢で眠っていた。

 

 

ハーマイオニーはソフィアに慰められながら眠ってしまったのだとようやく気付いた。背中を優しく叩くその手があまりに心地良くて、全てを曝け出して縋りつきたくなる程の、包み込むようなじんわりと暖かいその空気に安心し眠ってしまった。

 

ハーマイオニーはソフィアを起こさないよう慎重に自分の背中にある腕を離し、そっと身を起こした。

 

小さな寝息を立てながら眠るソフィアを、ハーマイオニーはぐっと泣きそうな目で見る。

 

 

──ソフィア、あなたがいなかったら…私は…。

 

 

もし、ソフィアが居なければ。ソフィアと友人になっていなければ。きっと自分は潰れてしまっていた。ハリーとロンからの視線と怒りに耐えられなかっただろう。

自分が正しいとは分かっていても、周りがそれを認めない辛さと寂しさは自分が1番よく知っている。

 

 

今目に溢れているのは冷たい涙ではない、胸から込み上げるこの感情は、視界をぼやけさせるこの涙は──。

 

 

ハーマイオニーは服の袖で涙を拭うと座ったままのソフィアの背中にある枕をゆっくりとずらし、その体を横たえさせた。

 

 

「──んぅ…」

 

 

ソフィアが小さく身じろぎをしたが、それでも目を覚ます事はなく、ハーマイオニーはホッと息を吐くと毛布をしっかりと被せ、自分もその隣に寝転んだ。

 

 

「おやすみなさい、ソフィア…」

 

 

ハーマイオニーは小さく呟き、目を閉じた。

 

 

 

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