【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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138 スキャバーズ!

 

新学期が始まり、気がつけば2月になった。ソフィアとハーマイオニーはよく花束を持つ少女の部屋に来ていた。

ここなら誰にも邪魔をされず、そして──ハーマイオニーにとって嫌な事が聞こえる事も無かった。

 

 

「…2人とも、夜寝れてる?隈がすごいよ。…特にハーマイオニーは…」

 

 

ルイスは山のように積み重なる教科書の奥で必死になって羊皮紙に何か書き込み続けるハーマイオニーを見て心配そうに呟くが、ハーマイオニーは少したりとも目を上げなかった。そんなお喋りに付き合う余裕も、今彼女には残されていない。

 

ルイスもまた、ソフィアとハーマイオニーと共にヒッポグリフの件で色々と有利な判例を探していたが、難航していると言って良いだろう。魔獣が許される事件はそもそも少ない。

 

 

ソフィアはルイスの心配そうな声に羊皮紙に向かっていた手を止め、顔をあげると目を擦った。たしかに、最近はよく眠れていないかもしれない。勉強の事、ヒッポグリフの事、そしてハリー達との事…頭を悩ませる事が多すぎる。

 

 

「はぁ…なかなか終わらないわ…ハーマイオニー、少し休憩に──」

「しないわ」

 

 

ソフィアの言葉を全て聞く前にハーマイオニーはキッパリと告げ、書き込んでいた手を止め新しい羊皮紙を広げ──また物凄い勢いで書き込み始める。

ソフィアとルイスは頑なに休息を取らないハーマイオニーに顔を見合わせ肩をすくめた。

 

こんな追い詰められていては、宿題はこなす事が出来ても、精神的にすり減って行く。

 

 

ソフィアは一度大きく息を吸い、そして意を結したような目で立ち上がりハーマイオニーの元へ向かった。

さっと上から細かく動く羽ペンを取るとすぐに背中に隠す。

 

 

「何するの!?」

 

 

 

ハーマイオニーは机を叩きながら立ち上がる、身長差から、ハーマイオニーが見下ろすようにソフィアを睨んだが、ソフィアは怯む事なくその目を見返した。

 

 

「ハーマイオニー、少しは休まないとダメよ。そんな気持ちで勉強しても、辛いだけだわ!」

「休む暇なんてどこにあるの!?返してよ!」

 

 

ハーマイオニーは首を振り、イライラとしながらソフィアに手を突き出す。だがソフィアは一歩後ろに下がりすぐに返そうとはしなかった。

 

 

「駄目!お願い、10分でいいから…じゃないとハーマイオニー…あなた、倒れちゃうわ!」

「10分!10分ですって!?そんな時間あると思う?私、明日までに後300ページ以上も読まなきゃいけない本もあるの!」

「でも──」

「返してソフィア!私が倒れてもあなたに関係ないでしょう!?私とあなたは違うの!私はあなたみたいに適当に終わらせる事なんて出来ないのよ!──もうほっといてよ!」

 

 

ハーマイオニーはヒステリックに叫びながらソフィアに飛びかかり後ろに隠されていた羽ペンを無理矢理奪い取るとすぐに強い目で睨む。

ソフィアが何か言う前に、ハーマイオニーは鞄に素早く教科書を詰めると直ぐに出口へ走り──飛び出していってしまった。

 

 

「ハーマイオニー…」

 

 

ソフィアは出口を見ながら悲しげに呟き、大きなため息を吐き肩を下げると静かにソファに座った。ルイスはすぐにその隣に移動すると、項垂れるソフィアの頭を自分の肩に乗せ、ぽんぽんと叩く。

 

 

「…かなり、まいってるようだね」

「ええ…ハーマイオニー…本当に、少しも休息を取らないし…追い詰められてるの…箒の件もあるでしょう?いつも泣きそうで、辛そうで…もう、私…見てられないわ…」

「…そうだね…。ハーマイオニーは真面目で、自分にも厳しいから。少しも手を抜く事が許せないんだよ」

「ええ…彼女の美点だわ。…今は、──欠点だけど」

 

 

ソフィアはため息をつき、ハーマイオニーに渡すはずだったチョコレートをぱくりと口に入れた。口内にじんわりと甘さが広がるが、ソフィアの落ち込んだ気持ちは晴れなかった。

 

 

「ソフィア、元気出して?…今日は幸せな気持ちを思い出さないといけない日だ」

「ああ…そうね、そうだったわ…」

 

 

木曜日の5限目はセブルスとの守護霊魔法の練習の時間だ。ソフィアはもぐもぐと口を動かしながら、今心から幸福だといえる気持ちに──果たしてなれるのか、微塵も自信はなかった。

 

 

昼休みが終わり、ソフィアとルイスは少女の部屋の前で別れた。この次は確か闇の魔術に対する防衛術のはず、ソフィアは久しぶりに一人でその教室へと向かった。

 

 

 

もう、きっとハーマイオニーは先に行っただろう。そう思ったが、教室に向かう途中の廊下で壁に背を預け教科書を読みながらハーマイオニーが独りぽつんと立っていた。

 

 

「…ハーマイオニー?」

「ソフィア…」

 

 

ハーマイオニーは顔を隠すように読んでいた教科書を下げると、顔中に後悔を滲ませた表示で、今にも泣きそうになりながら目を伏せた。

 

 

「ご…ごめんなさい、私…あなたに…ひどい事を…」

 

 

閉じられた教科書を胸の前で抱き締めるその腕と声は小さく震えていた。

ソフィアはふっと微笑み直ぐに「気にしてないわ」と言おうとしたが──思いとどまり、無言でハーマイオニーの側に近付いた。

ハーマイオニーはいつもならすぐに何かを言ってくれるソフィアが無言である事に、きっと凄く怒っているのだと思い項垂れたまま視界に映るソフィアの足を見た。自分の少し前でソフィアは止まり、それ以上進む事も──抱きしめてくれる事も、ない。

 

 

「許さないわ」

 

 

静かなソフィアの声に、ハーマイオニーはぎゅっと目閉じ肩を震わせた。

いつもソフィアには救われていた、その優しさに甘え過ぎていたかもしれない。

 

 

──ずっと気にしてくれていたのに、私はなんて事を…。

 

 

ハーマイオニーは深く後悔し、例え許されなくとも。もう一度謝ろうと勢いよく顔を上げソフィアを見た。

 

ソフィアは、いつものように優しく目を細め、どこか悪戯っぽく笑っていた。

 

 

「夕食後、ハーマイオニーの時間を私にくれるのなら──許すわ」

 

 

虚をつかれたような顔で目を見開いたハーマイオニーは、次の瞬間には顔をくしゃりと歪め、手に持っていた教科書を床に落とすと両手を広げるソフィアの胸に飛び込んだ。

 

 

「ソフィア!本当にごめんなさい…!」

「気にしてないわ、ハーマイオニー」

 

 

ソフィアは強く自身を抱き締めるハーマイオニーの背中を優しく撫でる。ハーマイオニーは胸に込み上げる熱い気持ちに、一気に視界がぼやけるのを感じた。

ソフィアの肩に強く目を押し付けたまま、ハーマイオニーは心の底から謝った。

 

 

「ごめんなさい…私…私、本当に…」

「もう謝らないで!…ハーマイオニーはちょっと頑張りすぎよ、…ほら、肩の力を抜いて、後でお菓子を食べましょう?そうすれば気分も良くなるわ!」

 

 

ソフィアはハーマイオニーの肩を持ち優しく体を離すと、ぽんぽんとその肩を叩いた。同じように授業を取り、同じようにビックバークを救うために毎日夜遅くまで調べているというのに、ソフィアは少しも追い詰められていない。──いや、本当は辛いのかもしれない。しかしそれを微塵も出さず他人を気遣うことのできるソフィアに、ハーマイオニーは羨望とも、憧れとも取れる眼差しを向けた。

 

どうすれば彼女のように、何に対しても優しくなれるのだろう。同じ歳なのに、いつも彼女は優しくて、暖かくて──。

 

 

「ほら、行きましょう。今日最後の授業が始まるわ」

「ええ…ソフィア。これ…あなたが持ってて?」

 

 

ハーマイオニーは落ちた教科書を拾うソフィアに、自分の首にかけていた逆転時計を外しそっと手のひらに乗せて渡した。

ソフィアはきょとんとしていたが、すぐに頷き受け取ると、しっかりと首にかけ服の中に隠す。

 

 

「ごめんねハーマイオニー。これを持ってる事も…負担だったわよね」

「…ええ、少しね…。ソフィアに任していいかしら…?」

「勿論よ、安心して!悪戯には使わないわ!」

 

 

ソフィアはにっこりと笑い、ハーマイオニーも疲れたような表情だったが薄く微笑んだ。

 

 

 

 

闇の魔術に対する防衛術の授業が終わった後、ソフィアは守護霊魔法を習得するためにセブルスの研究室へと向かった。走る動きに合わせて揺れる逆転時計を感じ、たしかにハーマイオニーには重荷だったかもしれない、とぼんやりと思う。

逆転時計はかなり貴重な物であり、危険な物だ。万が一にも、無くしてはいけない。そのプレッシャーを半年間ハーマイオニーはずっと感じ続けていた。それを誰よりも信頼できるソフィアに渡したハーマイオニーは、少し気が楽になっていた。

 

 

「先生、ソフィアです」

 

 

ソフィアは扉を数回叩く。

すぐに扉は開かれ、セブルスではなくルイスがソフィアを迎え入れた。

 

 

「ソフィア遅いよ」

「ちょっと図書室に寄り道してて…父様、ごめんなさい」

 

 

ソフィアは肩をすくめながら研究室に入り、その先にいるセブルスにも申し訳なさそうな表情で謝った。

 

 

「構わん。…杖を出しなさい」

「はーい」

「ええ、わかったわ」

 

 

ルイスとソフィアはすぐに杖を出し、真剣な表情で目を閉じ幸福な記憶をじっと考えた。

 

 

「「エクスペクト・パトローナム!」」

 

 

2人の杖先から銀色の光が溢れ、それは盾のように広がり何か形をつくろうとはしていたが直ぐに四散する。

何度も練習を重ねている2人だったが、これ以上先に進む事が出来ていなかった。前回と同じような成果に、ソフィアもルイスも残念そうに眉を下げため息をこぼす。

 

 

「うーん、何で出来ないんだろう」

「…思う気持ちが足りないのだろう」

 

 

ルイスの呟きにセブルスは軽く答える。優秀な2人ならすぐに出来るようになると思っていたが、セブルスの想像以上に苦戦していた。

 

 

「…幸せな記憶って…もう思いつかないわ…」

 

 

ソフィアは眉を顰め、じっと自分の杖を見る。ソフィアは色々な記憶を思い出していた、父とルイスの事や一年生の時の誕生日パーティの事、ルイスが深い眠りから覚めたこと…どれもソフィアの幸福な記憶には違いなかったが、守護霊を出す事は叶わない。──それは、ルイスも同様だった。

 

 

「本来、この魔法は子どもには困難だ。人生経験が少ない分…幸福の記憶も少ない」

「大変な記憶なら、かなり沢山あるんだけどね。…この2.3年で」

 

 

ルイスは肩をすくめぽそりと呟いた。

間違いなく、他の子どもよりは稀有な試練を乗り越えてきた2人は、顔を見合わせて苦笑した。──しかし、今必要なのは過酷な試練の記憶ではなく、最も幸福な記憶だ。

 

 

ソフィアとルイスは杖を構え直し、その後何度も練習したが、やはり守護霊を出す事には至らずこの日の練習も終了してしまった。

 

 

 

 

夕食後、ハーマイオニーとソフィアは談話室で沢山の教科書や羊皮紙を広げていたが、いつもとは違いすぐに勉強に取り掛かるのではなく、少しの菓子を広げゆっくりと食べていた。

 

 

「またホグズミードへ行きたいわね」

「ええ、お菓子がもうすぐ無くなってしまうし…やっぱり疲れた時に甘いものはいいわね?」

「ええ…本当に、そうだわ…」

 

 

ハーマイオニーは口の中で甘酸っぱい飴を転がしながらしみじみと呟いた。

この時間があればきっと本の数頁は読めただろう。だが必死になればなるほど、脳の奥がチリチリとして言いようもない焦燥感に駆られていた。

目の前の課題は何一つ埋まっていない、いつもなら焦ってすぐに取り掛かっていただろうこの光景を見ても、不思議と心は凪いでいた。

 

 

「ハーマイオニー、私はあなたが心から楽しんで勉強している姿を見るのが好きよ」

「…そうね…忘れてたわ、前まではあんなに楽しかったのに…今は──苦しくて」

 

 

ハーマイオニーは勉強が好きだった。

マグルの世界から夢のような魔法界に来ることが出来て、想像もつかないような物事を知るのが何よりの楽しみだった。数々の本を読む事も苦ではなく、寧ろ新たな知識を得る事に胸をときめかせていた。

だが、今年は──今は、少しも楽しくなかった。無理矢理知識を詰め込み、必死に目の前の事をこなすのに精一杯で、趣味の読書も何も出来ていない。…追い詰められていた。

 

 

「…さあ!今日の宿題を終わらせましょう!」

「そうね、やりましょうか」

 

 

ソフィアは、ぱんと手を叩くと数占いの教科書を開き、ハーマイオニーはマグル学の教科書を開いた。

何も宿題は終わっていない。菓子を食べただけで根本的な事は何も解決はしていない。

だが、それでも──たしかに心は穏やかで、いつもよりも冷静に宿題に取り組めた。

 

 

 

ソフィアとハーマイオニーが談話室の一角を占領し、多すぎる本の山を築き上げながら宿題をしていると、突如談話室内が騒めいた。

 

何事かと2人は顔を上げ、生徒たちが集まりつつある場所を見る。

 

 

「ポッターは居ませんか?」

「え?ハリー?…ええっと…居ません」

 

 

ロンは何かハリーが仕出かしたのか不安になりながらぐるりと辺りを見渡す。8時ごろに出て行ってからまだハリーは戻ってきていない。

マクゴガナルは不安そうな生徒たちを見ると手に持っていた箒を少し掲げる。それに気づいたロンは目を見開き、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

「この箒の点検は全て終えました。結果──何も不自然な所はありませんでした」

 

 

わぁっと大きな歓声が上がる、クィディッチチームの生徒たちは飛び上がって喜び頬を紅潮させハイタッチを至る所で交わした。ウッドは何度もガッツポーズを作り、笑顔のフレッドとジョージに肩を組まれている。

 

 

「見かけたら私のところに来るように伝えてください。この箒を返さねばなりません」

 

 

そう言うとマクゴガナルはすぐに談話室から出て行く、残されたグリフィンドール生は口々に少しだけ見る事が出来たファイアボルトの素晴らしさを語り合った。

 

 

「良かったわね、何もなくて」

「ええ、…そうね」

 

 

ハーマイオニーが心配していた呪いは何もかかっていなかったが、箒を調べることは無駄ではなかった。何も不審な点が無い、それがわかった事は何よりも喜ばしい事だ。

 

 

少ししてハリーが手にファイアボルトを持ち満面の笑みで寮へ入ってくるとすぐに皆歓声を上げハリーを取り囲んだ。世界で最も素晴らしい箒を見ようと首を伸ばし、その輝かしさに感嘆の息を吐く。

 

ソフィアは嬉しそうなハリーを微笑みながら見ていた。この箒を何よりも待ち望んでいたのはハリーだ、本当に良かった。──これで、ハーマイオニーとの確執も解消されるだろう。

 

 

沢山の寮生の手元に渡ったファイアボルトが戻った後、ハリーとロンはソフィアとハーマイオニーの元に向かった。

 

 

「返してもらったんだ」

「良かったわねハリー!」

 

 

にっこりとファイアボルトを持ち上げるハリーに、ソフィアは心からの笑顔を見せ立ち上がると、しげしげとその素晴らしい箒を眺めた。

ハーマイオニーはようやく目をあげると、すこしツンとした表情でハリーとロンを見る。──久しぶりに、ハーマイオニーが2人をしっかりと見た。

 

 

「言っただろう?ハーマイオニー。なーにも変な所はなかった!」

「あら、あったかもしれないじゃない!つまり、少なくとも安全だったって事が今はわかったわけでしょ!」

「本当に良かったわ、ね?ハーマイオニー。ずっと心配してたものね?」

 

 

ロンの言葉に噛み付くように返すハーマイオニーに、ソフィアが慌ててにっこりと笑いながら言えば、ハーマイオニーは「そうね」と小さく呟いた。

箒を返して貰えたハリーは、ハーマイオニーの言葉に少しも気分を害する事なくにこにことしたまま頷く。

 

 

「うん、そうだね。僕寝室に持って行くよ」

「僕が持っていく!スキャバーズにネズミ栄養ドリンクを飲ませないといけないし」

「そう?じゃあお願い。──ぶつけないでね?」

 

 

ハリーは手に持っていた箒をそっとロンに手渡す。ロンは何度も頷き、まるでガラス細工のように捧げ持つとウキウキとした軽い足取りで男子寮の元へ駆けて行った。

ハリーはそれを見送り、ソフィアの隣に座る。ソフィアのにっこりとした笑顔に同じように返し、心から安堵の息を吐いた。

 

 

「本当に良かった…」

「ええ、クィディッチの試合、応援してるわね!」

「任せて!絶対優勝杯を手に入れるよ!──君のために!」

 

 

ハリーはソフィアの明るい笑顔を見ているうちに、ついぽろりと言葉がこぼれた。何故こんなことを言ったのかよくわからない、優勝杯はグリフィンドールチーム全員の祈願だ──。きっと、今までソフィアには沢山迷惑をかけたから、ついそう言ってしまったんだ、ハリーはそう考えた。

 

ソフィアはハリーのその言葉に驚いたように目を見開いたが次の瞬間には明るい笑顔を見せ、頬を少し紅潮させ深く頷いた。

 

 

「頑張ってね!私のナイト様!」

 

 

ソフィアはいつものように半分からかいを含めて告げ、ハリーを抱きしめた。いつものようなハグだったが、ハリーは一気に顔を赤らめるとあわあわと手を振りしばらくしてそっとソフィアの背に手を回す。

心臓の音があまりにもうるさくて、ソフィアに伝わってはいないかと心配になった程だ。

それを見ていたハーマイオニーは片眉をあげ、少し納得したように頷く。

 

 

──ハリーは、きっとソフィアに恋してるわね。

 

 

4人の中で唯一他の誰よりも色恋に置いては聡いハーマイオニーはそう考えた。ソフィアはハーマイオニーと同じように賢かったが、色恋に置いてはハリーとロンと同じく、てんで鈍かった。

 

 

「ねえ、2人ともこんなにたくさん、どうやってできるの?」

 

 

ソフィアのハグから解放されたハリーは顔を赤らめたまま散らかった机の上を眺め2人に聞いた。ずっと気になっていたのだ、授業が重なっていても2人は──ハーマイオニーは皆勤しているという。

どうやって同じ授業を同時に受ける事が出来るのか、ハリーとここに居ないロンは不思議でならなかった。

 

 

「え、ああ──一生懸命やるだけよ」

「何とかなるものなのよ、ハリー」

 

 

ハーマイオニーとソフィアは顔を見合わせ、明言を避け曖昧に答える。ハリーは首を傾げながらハーマイオニーを見て、その目の下にリーマスと同じような隈が出来ていることに気づく。久しぶりにちゃんと見たハーマイオニーは、酷く疲れているように見えた。

 

 

「いくつかやめればいいんじゃない?」

「そんなことできない!」

「数占いって、大変そうだね」

「あら、すごく面白いわよ?」

「私の好きな科目なの。だって──」

 

 

嫌そうに複雑な数表を持ち上げるハリーに、ソフィアとハーマイオニーが数占いの素晴らしさを伝えようとした時、押し殺したような叫び声が男子寮から響いた。

 

賑やかだった談話室が一気に静まり返り、皆が固まって階段の先を見る。慌ただしい足音が聞こえ、次第に大きくなる──やがて、血相を変えたロンがベッドシーツを持ちながら談話室に飛び込み、ハーマイオニーを睨んだまま大股で近づくと手に持っていたシーツを突き出した。

 

 

「見ろ!──見ろよ!!」

「ロン、どうしたの?落ち着いて?一体何が──」

 

 

あまりの怒りにハーマイオニーは困惑し言葉を無くしていた。ソフィアは慌てた立ち上がると、ロンを落ち着かせようと側に寄りそのシーツを見てぴたりと動きを止めた。

 

 

「スキャバーズが!見ろ!スキャバーズが!」

 

 

怒りで要領の得ない言葉しか出す事が出来ないロンに、ハーマイオニーは全く訳が分からず、その勢いの強さと激しい怒りに困惑し身体を仰け反らせた。

 

 

「血だ!スキャバーズがいなくなった!それで、床に何があったかわかるか!?」

「い、いいえ…」

 

 

ベッドシーツには点々と赤いものがついていた。それはどう見ても、乾きかけた血だった。

ハーマイオニーはロンから告げられる言葉を恐れるように、声を震わせた。聡い彼女は、もう何を言われるのか──わかってしまった。

 

 

「これだ!よく見ろ!!」

 

 

ロンはハーマイオニーの翻訳文の上に数本の長いオレンジの猫の毛を投げ捨てた。

ロンは怒りと悲しみから顔を真っ赤に染めハーマイオニーを睨む、ハーマイオニーは唖然とそれを見つめていたが、ぎゅっと胸の前で指を組むと震える声のまま小さくつぶやいた。

 

 

「この毛は…クリスマスからずっとあったかもしれないわ…それに、ロン、ベッドの下はよく探したの?」

「なっ…!」

 

 

思っても見ない反論にロンは耳や首まで怒りから赤く染め、口をわなわなと震わせた。激しい怒りで何も言葉が出てこないその様子に、ソフィアはハーマイオニーとロンを見て──どちらにつけばいいのか、迷った。

 

 

「ロンはペットショップでクルックシャンクスがあなたの頭に飛び降りた時から酷い猫だって偏見を持っているわ!」

「き、君、正気か!?頭イカれてるんじゃないか!?」

 

 

ロンはベッドシーツを机に投げつける。点々としたその赤い血を見てハーマイオニーは少し怯んだが今更意見をかける事も出来ない。クルックシャンクスじゃない、そう強く主張し続けた。

 

 

「ソフィア!君はどう思うんだ!?」

「え?──あー…」

 

 

ロンは埒があかないとばかりにソフィアに意見を求めた。ソフィアは困ったように眉を下げながら、ハーマイオニーとロンの間で視線を揺らせる。ソフィアも、クルックシャンクスが怪しいとは思っている。クルックシャンクスはスキャバーズをしつこく狙っていたのはもはやどう弁解しても真実であり──それを真剣に受け止めず、クリスマスの日にハリーとロンの部屋に連れて行ったのはハーマイオニーだ。あれからクルックシャンクスはロンの部屋を覚え、スキャバーズを狙っていたのかもしれない。

 

 

「…そうね。うーん…その猫の毛は、いつからあるのか分からないわ。ハーマイオニーの言うようにクリスマスからあるのかも…でも、クルックシャンクスがスキャバーズを食べようとしてたのも…事実だわ…。…グレーかしらね」

「状況証拠では、クルックシャンクスがスキャバーズを食べたことに間違い無さそうだから。かなり黒寄りのグレーだね」

 

 

悩みつつ言葉を選びながら言うソフィアに、ハリーはつい横から口出しをした。途端にハーマイオニーの顔はみるみる赤く染まり強く机を叩くとハリーを睨んだ。

 

 

「いいわよ、ロンに味方しなさい。どうせそうすると思ってたわ!最初はファイアボルト、今度はスキャバーズ。みんな私が悪いってわけね!放っといて、ハリー!私とっても忙しいんだから!」

 

 

そう叫んだハーマイオニーは教科書の上にあるベッドシーツを剥ぎ取りロンに押し返すと、素早く教材をかき集め両手に抱えながら女子寮へ走り去った。

 

ロンはその背中に向かって彼が思いつく限りの悪態を突き、何度もその場で地団駄を踏んだ。

 

 

「…ロン、…部屋の中はもう探したのよね?」

「君までそんなことを言うのか!?」

 

 

ロンは怒り狂ったまま振り返り、噛み付くように叫び睨みながら背の低いソフィアを見下ろす。ソフィアは「落ち着いて!」と負けじと声を張り、怒りで強く握られ真っ白になり震えているロンの拳を両手で包み込んだ。

 

 

「違うわ!…もし、食べられたんじゃなくて、怪我をしただけで何処かに隠れているなら早く見つけてあげたいと思ったの!」

「──…探したよ、どこにも、居なかった」

 

 

ソフィアの言葉に一度深く息を吐いたロンは、重々しく呟く。心底打ちのめされ落ち込むロンに、ソフィアは優しくソファに座らせるとその隣に座り、慰めるように項垂れ丸まった背中を撫でた。

 

 

「元気出せ、ロン。スキャバーズなんてつまんないやつだって、いつも言ってたじゃないか。それに、ここんとこずっと弱ってきてた。一度にパッといっちまったほうが良かったかもしれないぜ?パクッ──きっと何にも感じなかったさ」

 

 

フレッドが落ち込むロンに駆け寄り元気付けるつもりで言ったが、それは全く慰めにならない言葉で、ソフィアは「フレッド!」と少し怒りながら彼の名を呼んだ。

 

 

「あいつは食って寝ることしか知らないって、ロン、お前そういってたじゃないか」

 

 

今度はジョージがそう言ったが、ソフィアに「ジョージ!」と強く言われ肩をすくめる。

ロンはフレッドとジョージの言葉に涙を溜めながら首を振った。

 

 

「一度、ゴイルに噛み付いた!覚えてるよね、ハリー?」

「うん、そうだったね」

「やつのもっとも華やかなりしころだな。ゴイルの指に残りし傷跡よ、スキャバーズの思い出と共に永遠なれ。──さあ、さあ、ロン。ホグズミードに行って新しいネズミを飼えよ。メソメソして何になる?」

 

 

フレッドは、彼なりに励ましているつもりだが、ペットを亡くしたばかりのロンにとってすぐに新しいペットのことなど考える事は出来ない。たしかにスキャバーズは魔力の片鱗も無く、退屈で、寝てばっかりで、役立たずだった。しかし、毎日共に寝て、ポケットの中にいるあの小さな温もりをロンは口では嫌がりつつも──大切にしていた。

 

 

「ロン、フレッドの言う事は気にしないで?今は新しい子の事なんて考えられないわよね?いきなりだったもの…それが普通だわ…。私だって、ティティが急にいなくなったら…何も考えられなくなっちゃうわ」

「ソフィア…」

 

 

ロンは涙でいっぱいになった目をソフィアに向けた。ソフィアは眉を下げ心の底からロンを心配し、優しく微笑む。悲しむ事は当然だろう。いきなり新しいペットなんて考えられない。…それは悲しみが癒えてから考えればいい、ソフィアはそう思った。

 

ソフィアの笑顔を見たロンは込み上げる涙を誤魔化すために、隣にいるソフィアの腕を引き強く抱きしめた。身体を震わせくぐもった泣き声をあげるロンに、いきなり抱きすくめられたソフィアは驚いていたが振り解く事はなく、何も言わずにその背を撫でた。

 

 

「ソフィアって、皆のママみたいだな」

 

 

それを見ていたフレッドがぽつりと呟く。

ソフィアは「大きな子供たちだわ!」と少し楽しそうにくすくすと笑ったが、ハリーは何故か胸がざわめきぎこちない笑みしか返せなかった。

 

 

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