ハーマイオニーとロンの仲は最早修復不可能では無いかと、ソフィアはチラリと思った。箒の時よりも当然ながらロンはハーマイオニーに対して憎悪にも似た怒りを滲ませた。
ハーマイオニーもまたクルックシャンクスがスキャバーズを食べた証拠はないため決して謝らず非を認めず、クルックシャンクスのせいだと決めつけるロンに怒り狂っていた。
何度かソフィアは、可能性があるのなら謝ったほうがいいと伝えたが、ハーマイオニーは首を縦に振る事はなかった。一度は4人に戻りかけていたが、また2人と2人に分かれてソフィア達は行動するようになった。
大広間で分かれ、最も離れた場所で食事をとるソフィア達を見てルイスは首を傾げた。ファイアボルトが戻ってきたと言う噂は既に耳に入っている、それなのに何故まだ喧嘩を続けているのだろう。
「ソフィア、ハーマイオニー、おはよう」
「ルイス、おはよう」
「おはよう」
ソフィアはトーストを食べながらルイスを見上げる。ハーマイオニーは食事中であっても教科書を読む事をやめず小さく答えた。ルイスはハーマイオニーとそして遠くに居るロンを見ながらソフィアの隣に座りそっと声を顰めて話しかけた。
「どうしたの?」
「…実は──」
ソフィアは眉を下げ、困った様子で昨夜何があったかを小声で話した。──あまり大声で話すと、ハーマイオニーの機嫌を損ねてしまう恐れがある。
何があったかを聞いたルイスは、納得しつつ頷く。なるほど、たしかにスキャバーズはいつもクルックシャンクスから狙われていた。自分の知らないところで今まで何度もあったのだろう。クルックシャンクスが本当にスキャバーズを食べてしまったのか、それは分からないが──その可能性は高いだろう。ハーマイオニーはクルックシャンクスに「ダメよ」と言いながらも、あまり真剣に考えていなかったのも事実だ。
ルイスは友人達をゆっくりと見渡した。──少しだけ、残念に思った。彼らなら、箒やネズミよりも友情を大切にするだろうと思っていた。その優しさが彼らにあることをルイスは知っていたからこそ、今こうして離れた場所に座る彼らが悲しかった。
数日前の出来事だからかもしれない、きっと、落ち着けばすぐに元通りになる。
ルイスは心配そうに眉を下げるソフィアの肩を優しく叩いた。
「大丈夫、きっと仲直りできるよ」
「…でも…時間が経てば経つほど、難しくなるのよ…」
「…ま、それは…そうだけどね」
まだ話したい事はあったが、ハーマイオニーがじろりとソフィアとルイスを怪訝な目で睨んだ為、2人は無言で目の前のパンを食べた。
「…あ、ドラコがハリーのところに行くみたい。…はぁ、また何か嫌味を言うんだろうなぁ…行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
ルイスはドラコがいつもの薄ら笑いを浮かべハリーに近づくのを見て、ため息混じりに告げると立ち上がった。ドラコはハリーを揶揄わずにはいられない。何故そこまで執拗に絡みに行くのか正直なところ、ルイスにはわからなかった。嫌いなら無視すれば良い、実際ドラコを嫌っているハリーは自分からドラコに話しかける事はなく、それが嫌いな者に対する普通の行動だろう。
「その箒、乗りこなす自信があるのかいポッター?」
ドラコがファイアボルトをよく見ようと生徒たちを掻き分けトーストを食べているハリーを見下ろした。その声はいつもの冷たい気取った声だったが、まさか本当に、本当のファイアボルトなのかと少し瞳は狼狽していた。ドラコも高額なファイアボルトを初めて見た、どれだけルシウスに強請っても去年新しい箒を買ったばかりだと取り合ってくれなかった名品だ。
「ああ、そう思うよ」
「特殊機能が沢山ついているんだろう?パラシュートが付いてないのは残念だなぁ、吸魂鬼がそばまで来たときのためにね」
ドラコの後ろに控えていたクラッブとゴイルがクスクス笑ったが、ハリーは気にせずちらりとドラコを見た。
「君こそ、もう一本手をくっつけられないのが残念だな、マルフォイ。そうすりゃその手がスニッチを捕まえてくれるかもしれないのに」
ハリーの側にいたグリフィンドールチームが大声で笑い、ドラコはその目をずっと細め青白い頬が僅かに朱に染まる。何か言い返そうとドラコは口を開いたが、強く肩を掴まれ驚きながら振り返った。
「ドラコ、そこまでにして。戻るよ」
「──ふん」
ルイスに諫められたドラコはつんとそっぽを向き肩を怒らせながらゆっくりと立ち去った。
「ハリー、試合がんばってね!」
「うん、ありがとうルイス!」
ルイスはドラコの後を追っていたが後ろを振り返ると手を大きく振りながらハリーに声援を送った。スリザリン生であっても気にする事なく他の寮を──それも、犬猿の仲のグリフィンドールだ──応援するルイスに、ハリーはにっこりと笑って答えた。
スリザリン生達が居る机では、ドラコがスリザリン・チームに何やらこそこそと話している。きっと、本物のファイアボルトなのか尋ねられているのだろう。
ルイスは真剣にクィディッチを観ているわけではなく、あまり興味もなかった為、気にする事なく席に座ると朝食をとり始めた。
ドラコはちらりとルイスを横目で盗み見る。彼はゆっくりと食事をとっていて、こちらに注目している様子も、聞き耳を立てている様子も無かった。ニヤリと意地悪げな笑顔でほくそ笑み、ドラコはクラッブとゴイル、そしてスリザリン・チームのキャプテンであるマーカス・フリントにこっそりと耳打ちをした。
「ポッターがどれだけ素晴らしい箒を持っていても──落としてしまえばいいんだ。僕に考えがある」
そのドラコの計画を聞いた3人は同じような企み顔で笑い、頷き合った。
レイブンクロー対グリフィンドールの試合が始まった。フーチのホイッスルにより、選手達は一斉に空に飛び上がる。ソフィアはグリフィンドールの手旗を持ちそれを振りながら他のグリフィンドール生と共に最前列で声を張り上げ応援していた。隣にいるハーマイオニーも、流石にこの時ばかりは教科書を読む事をやめ、飛び交う生徒達を見ながら応援するが──ハリーを個人的に応援するつもりは無さそうだ。
「頑張ってー!」
近くを飛びスニッチを探していたハリーは微かにソフィアの声を聞いた、何としてでも勝ちたい。グリフィンドールの為に、優勝杯のために──そして、ソフィアの為に。
ハリーは箒の柄を握りなおし沢山の声援を聞きながら空高く舞い上がった。
何度かスニッチを見つけたものの、ハリーはレイブンクローのチョウ・チャンにより行手を阻まれる。チョウはハリーにぴったりとくっつき完全にマークする作戦に変え、素早い動きでハリーの後ろを追っていた。
「あの選手、なかなか良い飛び方するわね…」
「…確かにそうね」
ソフィアはファイアボルトの速度についていく事が出来るチョウのテクニックを褒め、ハーマイオニーも隣で頷いた。何としてでもハリーがチョウより先にスニッチを取らなければ、優勝杯は獲得出来ない。
ソフィアは胸の前で指を組みながらグリフィンドールチームの勝利を、そしてハリーの手にスニッチが握られていることを祈った。
スニッチを見つけたのか急上昇していくハリーは一度杖を取り出し何かを叫び──杖の先から銀色の物を噴き出した。それを見たソフィアは目を見開きその先にいる黒く背の高い者達を見つめる。まさか、吸魂鬼がまたここに来たのか?──いや、観客席の中に居るのならもっと周りが騒然としパニックになっているはずだ。それにしても、ハリーは何であの魔法を不完全にしろ、使えるのだろうか。
フーチのホイッスルが鳴り響く、試合終了の合図にソフィアは思考を止め慌ててハリーを見た。その手は大きく掲げられており、遠く離れたここからはよく見えなかったが──間違いなくスニッチを手にしたのだ。
「やった!やったわ!」
ソフィアは手を叩いて歓声を上げ、思わずハーマイオニーに抱きついた。周りのグリフィンドール生達も勝利に興奮したように叫び指笛を鳴らす。ハーマイオニーはほっと小さく安堵の息を吐いたがすぐに自分を抱きしめるソフィアの腕をやんわりと離すと、もうここに用はないとばかりにすぐに出口へ向かう。
「ま、待ってハーマイオニー!もう行くの?」
「ええ、試合は終わったわ。私、談話室に戻って勉強しないと」
「……あー…そうね」
ソフィアはまだ勝利の余韻を味わいたかったが、足早に向かうハーマイオニーの後を追った。ソフィアもハーマイオニーほどでは無いにしろ、まだ沢山の宿題が残っている、早く取り組まなければ今日は徹夜する事になってしまう。
競技場の喧騒を聞きながら、ハーマイオニーとソフィアは一足先にグリフィンドール寮の談話室に戻り、自室から沢山の教科書を運び出すと机の一角を占領しながら宿題に取り掛かった。
暫くすればグリフィンドール生やチームのメンバーが戻り、もう優勝杯を取ったのかのような盛り上がりを見せパーティを始めた。
フレッドとジョージが花火を打ち上げ勝利を祝っていたが、突如姿を消し数時間後にバタービールの瓶や大量のカエルチョコ、ハニーデュークスの菓子が大量につまった袋を抱えて持ってきた時は皆が不思議そうにしながらも嬉しそうにばら撒かれたそれを手に取った。
ソフィアは宿題を広げたままにそのパーティの中に加わっていた、口々に選手達を称え、皆に祝福されるハリーに駆け寄った。
「ハリー!おめでとう!凄かったわ!」
「ソフィア!見てくれてた?」
「勿論よ!」
ハリーは興奮したまま赤く顔を染めていた。ソフィアはにっこりと笑うと「本当におめでとう!」と優しくハリーの頬にキスを落とした。
ハリーはぱっとその頬を押さえ、耳まで赤く染めると嬉しそうにはにかむ。この幸せな記憶があれば──今なら守護霊魔法を完璧に出来そうだと、ハリーは思った。
「フレッドとジョージも!おめでとう!」
ソフィアはハリーから離れ──何故かハリーはとても残念に思った──お菓子をばら撒くフレッドとジョージに駆け寄ると手を広げて待ち構えていたジョージの胸の中に飛び込み、頬にキスを落とす。
ジョージは嬉しそうに目を細めるとソフィアの頭を優しく撫でた。
「俺の勇姿を見てくれたかい?」
「ま、今回のヒーローはハリーだけどな!」
「2人とも凄かったわよ!本当に、おめでとう!」
ジョージの腕の中から離れたソフィアは背伸びをしてフレッドの頬にもキスを落とす。フレッドはソフィアの背を優しくぽんと叩き、少し苦笑しながら机にあるバタービール瓶を差し出した。
「飲む?チョコもあるぜ?」
「ありがとう、いただくわ!」
ソフィアは空いているソファに座る、その隣はたまたまロンだったが特に気にする事は無かった。
「ロン、そのチョコ取って?」
「…これ?…はい」
ロンはソフィアに対し八つ当たりをしてしまったことを気にしていて気まずく思いながらも、その場から離れる事なく一緒にチョコを摘みフレッドとジョージが空瓶で曲芸を始めたのを見ていた。
そわそわとバタービールを飲み、ハリーをちらりと見たロンは1人黙々と宿題をするハーマイオニーの元にハリーが向かったのを見て嫌そうに顔を歪めた。きっと、この場に来いと誘っているのだろう。だが、まだ彼女から謝罪の一つも貰っていない、何食わぬ顔でこの素晴らしいパーティに参加するハーマイオニーを想像すると段々沸々とした怒りが湧き、ハーマイオニーに聞かせるようにワザと大声で言った。
「スキャバーズが食われちゃってなければなぁ。ハエ型ヌガーがもらえたのに、あいつ、これが好物だった──」
「ロン!」
ソフィアはすぐにロンを諫めハーマイオニーの居る方を振り向く、ハーマイオニーは顔を手で覆いわっと泣き出すと分厚い本を抱え立ち上がった。
「──もうっ!」
ソフィアはすぐに立ち上がり、女子寮へ走るハーマイオニーを追いかける。ロンには色々言いたい事があったが、それよりもまずハーマイオニーに寄り添う事が先決だと判断した。
「ハーマイオニー…」
「っ…ソフィア…!違うわ、クルックシャンクスは…でも、ああ、私…私…!」
ハーマイオニーはしゃくり上げながらソフィアの胸に飛び込み泣き、ソフィアはその震える背を何度も撫でながら慰める。彼女はストレスが限界になっている、最近は少し勉強が思う通りにいかないだけで癇癪をあげ泣いてしまう。──限界なのだ。
「ロンのあの言い方は酷かったわね…さ、もう寝ましょう?ゆっくり休めば気持ちも落ち着くわ」
「だ、ダメよ!まだ読んで無いの、後──400ページ以上もある!」
ハーマイオニーは絶望が滲む声で叫んだ。ソフィアは涙の光るハーマイオニーの冷たい頬を優しく両手で包み込み、狼狽し酷く揺れる目をじっと見た。
「でも、今の状態で勉強なんて意味がないわ。頭に入らないでしょう?…朝早く起きてしましょう。私もそうするから…」
ハーマイオニーは暫く悩むように黙っていたが、唇を強く噛みながら頷いた。ソフィアはほっとして目元を緩めるとハーマイオニーの手から分厚い教科書を取り、背中を撫でベッドへ誘った。
ハーマイオニーを寝かせ、口元まで毛布をかける、まだ不安げな目をするハーマイオニーに「おやすみなさい」と囁き、その目の上にクリスマスに送ったアイマスクをつけ暫く頭をゆるゆると撫でた。
ハーマイオニーはすぐに穏やかな寝息を立て始める。ずっと睡眠不足だったのだ、ベッドに入ってしまえばハーマイオニーは襲いくる眠気に耐える事は出来なかった。
ソフィアは静かにハーマイオニーから離れると、談話室から響く微かな喧騒を聞きながら自室にある勉強机に着くと仄かに手元をランプで照らし、教科書を開いた。
「…はぁ…」
ソフィアは古代ルーン語の翻訳をしながらため息を溢した。ハーマイオニーの前では気丈に振る舞っているソフィアだが、彼女も宿題を全て終えているわけではない。考える事が多すぎてじわじわとストレスも溜まっている。
だが、ここで自分が潰れ、彼女のように苛々としてしまえばハーマイオニーとの中が険悪になるのは間違いない、それだけは避けなければならない。
「大丈夫…私はやれるわ…」
疲れた目をぐっと手で押さえ、ソフィアは自分に喝を入れると、パーバティとラベンダーが夜の1時過ぎに帰ってくるまでずっと勉強をしていた。
ソフィアはふと意識を覚醒させた。
ぼんやりと天井を見つめ、まだ辺りが暗い事から夜中だと知るともう一度寝直そうとズレていた毛布を被り直す。
だが、夜中にも関わらずガヤガヤとした騒めきが遠くから聞こえ、ソフィアは目を擦りながら体を起こした。
「…何の騒ぎなの?」
「──ふぁあ…まだパーティをしてるのかしら…」
「もう…私は眠いわぁ…」
ソフィアがベッドのカーテンを開けると、ハーマイオニー、パーバティ、ラベンダーも目を覚ましたようで眠そうに欠伸を噛み殺しながら同じようにカーテンを開けていた。
足元のランプがぼんやりと4人を照らす。暫く4人は顔を見合わせていたが、廊下から扉を開ける事と共に人の騒めきが大きくなったのを聞き、ソフィアはガウンを羽織りベッドの側に置いていたスリッパに足先を通し、ベッドからそっと降りた。
「ちょっと、見てくるわ」
「ええ?…私は、寝るわ…」
「私もよ…」
「私も…何かあったか朝に教えて?…どうせ、またパーティをしてるんだと思うけれど…」
パーバティとラベンダーとハーマイオニーはベッドから出るつもりはなく、すぐにカーテンを閉じるとまたぬくぬくと毛布を被り丸まった。
ソフィアは「おやすみなさい」とルームメイト達に告げるとそっと扉をあけ、談話室への階段を降りた。
数人の上級生が集まる談話室に目を擦りながら降りれば、顔を蒼白にさせたロンが騒ぎの中心だということに気づいた。ソフィアは生徒達を掻き分け、ロンとハリーに近づく。
「どうしたの?」
「ソフィア!シリウス・ブラックなんだ!あいつが来たんだ!」
「ちょっ──お、落ち着いて、ロン!」
ロンはソフィアの肩を掴みがくがくと揺さぶる。ソフィアはその強い揺さぶりに半分眠りかけていた思考をはっきりとさせると叫び自分の肩を強く掴むその手を取った。
「ロン、本当に?」
「シリウス・ブラックだ!」
「悪い夢でも見たんだよ」
既にロンからその名を聞いていたフレッドは動揺する事なくロンの肩を叩いたが、ロンはぶんぶんと首を振り何度も「本当だって!」と周りに向かって叫ぶ。誰もが困惑し訝しげな顔をする中、騒ぎを聞きつけたマグゴナガルが肖像画の扉を勢いよく開き飛び込んできた。
「おやめなさい!まったく、いい加減になさい!グリフィンドールが勝ったのは私も嬉しいです。でもこれは、はしゃぎすぎです。パーシー、あなたがもっとしっかりしなければ!」
マグゴナガルは自分が去った後にパーティの二次会でも行なっているのだろうと怖い顔で集まる生徒達を睨み、その中にいるパーシーに目をとめると強く言った。だがパーシーは憤慨して「僕はこんなこと許可していません!」と無実を必死に叫ぶ。
「僕はみんなに寮に戻るように言っていただけです。弟のロンが悪い夢にうなされて──」
「悪い夢なんかじゃない!先生、僕、目が覚めたらシリウス・ブラックがナイフを持って僕の上に立ってたんです!」
ロンはソフィアから離れるとすぐにマグゴナガルに近づき必死に訴えたが、マグゴナガルは驚く事なく静かにロンを見据えると、ゆっくりとその震える肩を撫でた。
「ウィーズリー、冗談はよしなさい。肖像画の穴をどうやって通過出来たというんです?」
「あの人に聞いてください!あの人に通したかどうか聞いてください!」
ロンはカドガン卿の絵の裏側を震える指で刺した。マグゴナガルは疑わしそうな目でロンを見ていたが、それで気が済むならとため息をつき肖像画の裏を押して外に出ていった。
談話室に居た全員がじっと息を殺し、耳をそばたてる。
「カドガン卿、今しがた、グリフィンドール寮に男を1人通しましたか?」
「通しましたぞ、ご婦人!」
その声に、ソフィアは息を呑んだ。──いや、ソフィアだけではない、皆が一斉に顔を硬らせた。
「と、通した?あ…合言葉は?」
マグゴナガルも思っても見ない答えに愕然とし、震える言葉で──信じたくないというようにカドガン卿に聞く。だがカドガン卿は胸を逸らしながら何でもないように答えた。
「持っておりましたぞ!ご婦人、1週間分全部持っておりました。小さな紙切れを読み上げておりました!」
その言葉を聞いて、マグゴナガルは厳しい顔つきのまま肖像画の穴から戻り、ソフィア達の前に立った。ロンは「だから言っただろう」というように皆を見渡したが、誰もロンと目を合わせない。──皆、シリウス・ブラックが近くに来ていたことに怯え身を縮こまらせていた。
「──誰ですか。今週の合言葉を書き出して、その辺に放っておいた底抜けの愚か者は」
マグゴナガルの顔色はソフィア達と負けず劣らず悪かった。蝋人形のように血の気を失せさせながら、じっと皆を見渡す。
暫く無言だったが、ネビルが小さな悲鳴を上げ、頭の先から爪先までぶるぶると震わせながら手を上げた。
「ロングボトム…!──今すぐ全てを捜索します。各部屋で寝ている生徒を起こして談話室に集合しなさい!」
マグゴナガルは手を上げたネビルに愕然としたが、すぐに表情を引き締め生徒たちに告げる。皆顔色は悪かったがすぐに頷き、まだ寝ている友人達を起こすために各部屋へ向かった。
ソフィアも自室へ飛び込むと再び夢の中に居た3人のカーテンを勢いよく開けた。
「ハーマイオニー!ラベンダー!パーバティ!起きて!」
「──ソフィア?」
「…なんなの?」
「まだ真っ暗よ…?」
三人は呻きながら体を起こし、怪訝な目でソフィアを見る。だが、ソフィアの只事ではない様子と外から聞こえる生徒達の大きな騒めきに気付くと不安げに眉を寄せ顔を見合わせた。
「シリウス・ブラックがこの寮に侵入したの、今すぐ捜索が行われるわ!さあ、早くみんな談話室へ!」
ソフィアの叫びを聞き、ハーマイオニー達は顔を固まらせると弾かれたようにベッドから這い出す。パーバティは泣きそうになっているラベンダーを支えながら急いで談話室を駆け降りた。
「本当に、ブラックが来たの?」
「ええ、そうみたい。──ロンが襲われそうになったの」
「ええっ!?そ、そんな!ロンは無事なの!?」
ハーマイオニーは悲鳴をあげ体を震わせた。ソフィアは大きく頷き「怪我はしてないわ。さあ、早く私たちも向かいましょう」と言うと、混乱するハーマイオニーの手を引き狼狽する生徒たちの溢れかえる廊下へ飛び出した。