【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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146 処刑と猫と暴れ柳と!

 

 

ソフィアは談話室に戻り、1人で隅の方に座るハーマイオニーの元に駆け寄った。

 

 

「ソフィア…」

「ハーマイオニー!…どうしたの?」

「…これ…これ、見て…」

 

 

ハーマイオニーは試験が終わったにも関わらず、悲痛な面持ちでソフィアに一つの手紙を押しつける。ソフィアは隣に座りながらその手紙を読み──口を手で覆った。

 

 

「そんな!…日没に、処刑…!」

「あんまりだわ!」

 

 

わっとハーマイオニーは泣き出し、ソフィアはその震える肩に腕を回しハーマイオニーを引き寄せ抱きしめた。

あの素晴らしい生き物が処刑されてしまう。たしかに人を─ドラコとルイスを傷つけた。だがそれはヒッポグリフに侮辱行為をしたドラコに原因がある。処刑する程の罪ではない、情状酌量の余地はあるはずだ。──しかし、控訴で敗北したとすれば、この判決を覆すことは、もう出来ない。

 

 

それがわかっているからこそ、ハーマイオニーは取り乱し泣いている。ソフィアもまた自分の視界がぼんやりと霞むのを感じ、ぎゅっと目を強く閉じハーマイオニーに縋るように無言で抱きしめ続けた。

 

数十分後、試験が全て終わり晴れ晴れとした顔でロンが談話室に戻ってきたが、暗い様子のソフィアとハーマイオニーを見てハッとした様子で時計を見て、そして何があったのかわかってしまい、呆然としたままハーマイオニーの隣に座り込んだ。

 

 

「まさか…」

「…ハグリッドの手紙よ」

 

 

ソフィアが手紙を渡すと、ロンは一瞬、その手紙を見たくないと言うように目を閉じたが──深いため息と共に受け取り、暫く無言でそれを読み、そしてソファの背に深く身を投げ出し天井を見つめた。

 

 

「こんなのって、ないよ…」

 

 

ぽつりとこぼしたロンの言葉に、ハーマイオニーとソフィアは何も答える事が出来なかった。

 

 

誰も何も言えなかった、バックビークが処刑される。その事で頭がいっぱいになり試験が終わった事など、遠い昔の事のようにすっかりと忘れていた。

 

 

「トレローニー先生が、今僕に──」

 

 

ハリーが息を弾ませながら談話室に駆け込み、ソフィア達に近付いた時も、彼らはなんの反応も返せなかった。

ハリーはトレローニーのいつもと違う様子で言われた言葉をソフィア達に言おうと思っていたが、ソフィアたちの落ち込んだ悲痛な表情を見て、ハリーは息を飲んだ。

 

 

「バックビークが負けた」

 

 

ロンが弱々しく言った。「ハグリッドがこれをよこした」ロンは視線をハリーに向けないまま、手に持っていた手紙をハリーに渡す。

 

 

「──行かなきゃ。ハグリッドが1人で死刑執行人を待つなんて、そんな事させられないよ」

「でも、日没だ。絶対許可してもらえないだろうし…ハリー、とくに君は…」

 

 

ロンは死んだような目つきで窓の外を見つめながら呟く。ハリーはブラックに命を狙われている、夜に校舎を離れる事など、誰も許可しないだろう。

その言葉にハリーは頭を抱えて考え込む、透明マントは前回ホグズミードへ行く時に抜け道の所に置いてきてしまった。

 

 

「透明マントさえあればなぁ…」

「どこにあるの?」

 

 

ハーマイオニーは赤くなった目元を擦り、直ぐに聞いた。ハリーは隻眼の魔女像の下にある抜け道に置いてきた次第を説明し、最後にこう付け加えた。

 

 

「…スネイプがあの辺でまた僕を見かけたりしたら、僕、とっても困った事になるよ」

「スネイプが見かけるのが、あなただったらね」

 

 

ハーマイオニーは決意の篭った目を燃やしながら立ち上がる。ソフィアは困惑してハーマイオニーを見上げた。

 

 

「ハーマイオニー、まさか──」

「ハリー、魔女の背中のコブはどうやって開けばいいの?」

「それは──杖で叩いて、ディセンディウム降下って唱えるんだ、…でも…」

 

 

ハーマイオニーは最後まで聞かずに談話室を横切る、半分立ち上がっていたソフィアは心配そうにハーマイオニーを見送っていたが、またソファに座り直すとため息をついた。

 

 

「まさか、取りに行ったんじゃ?」

「…そうだと思うわ」

 

 

ロンが信じられないと目を見張って閉じられた肖像画の後ろを見つめる。

ソフィアは顔を手で覆い、長いため息をついた。

 

ハグリッドの事は心配だ。死刑執行の時は、そばに居てあげたい──だが、その場に、その夜にハリーを連れて行くことが果たして正解なのだろうか。

 

 

ハリーはじっとソフィアを見つめ、真剣な声で「ソフィア」と名を呼んだ。ソフィアは顔を覆っていた手をゆっくりと下ろすと、ハリーの目を見た。

 

 

「僕は行く。──ソフィアが何を言おうと、ハグリッドのそばに居たいんだ」

 

 

 

ハリーはソフィアが、自分が夜で歩く事を良しとしていないのだと理解していた。しかし譲れない所もある、ホグズミードに行くわけではない、かけがえのない友人の元に行くのだ。

ハリーとソフィアの同じ色をした目が交わった。ソフィアはハリーの暫く見つめていたが、ややあってゆっくり頷いた。

 

 

「ええ…止めないわ。──私も、行くわ」

 

 

 

15分後、ハーマイオニーが大事そうに畳んだ透明マントを持ち、驚愕するロンに少し得意げな顔を見せ現れた。

 

 

 

ソフィア達はみんなと一緒に夕食を食べに大広間に降りた。ハリーは透明マントをローブの前に隠し、膨らみを誤魔化すためずっと両腕を組んでいた。

 

 

「ソフィア!ハグリッドから、手紙が──僕、僕…!」

 

 

大広間に続く扉の前でルイスがソフィア達を見つけるなり、その手に強く握った手紙を持ち悲痛な顔で駆け寄った。

 

 

「ええ…知ってるわ。私たちにも手紙が来たの」

「ルイス、僕ら──ハグリッドを1人にできない、夜に会いに行く」

「…!…僕も、行く」

 

 

ハリーはローブの前を開き透明マントをチラリと見せた。それだけでルイスはこの警戒体制の中どうやってハグリッドの小屋まで行くのか理解し、すぐに頷いた。

 

 

「夕食後、誰もいなくなったら──この小部屋で待ち合わせしよう」

 

 

ハリーは玄関ホールの隅にある小部屋を顎で指した。ルイスはしっかりと頷き、スリザリン生の机で待つドラコの「ルイス!早く来い!」の呼びかけにびくりと肩を震わせ、彼に怪しまれないよう、すぐに駆け出した。

 

 

夕食後、それぞれの寮に戻らなかったソフィア達は──ルイスはセブルスの元に行くとドラコに言い訳をした──誰も居ない小部屋にこっそりと身を隠し、聞き耳を立て、みんなが居なくなるのを確かめた。

 

最後の二人組がホールを急いで横切り、バタンと扉が閉まった音を確認し、少ししてからそっとソフィアが外の様子を伺った。

 

 

「…大丈夫、生徒も教師も居ないわ。──透明マントを着ましょう。…5人入れるかしら」

 

 

ハリーが広げた透明マントは大きかったが、はたして入れるのか──少し不安になりながら、ソフィア達はぴったりと身を寄せ合いマントを羽織った。

 

 

「ギ、ギリギリね…」

「ロン!もっと身を低くして、くっついて!」

「う、うん…」

 

 

ハーマイオニーは一番長身のロンの頭を押さえ、自分の胸元まで下げるとぴったりと身体をくっつける。ロンは少し上擦った声で答えながら懸命に身を縮める。

ソフィアはルイスに後ろから抱きすくめられるようにしてぴったりと身を寄せあい、先頭はハリーが歩く事となった。

 

 

「よし──行こう」

 

 

ハリーの言葉に無言で頷き、5人はそろそろと玄関ホールを横切り、石段を降りて校庭に出た。

太陽はすでに森の向こう側に沈みかけ、木々の梢を金色に染めている。

 

誰にも見つかる事なくハグリッドの小屋にたどり着き、戸を叩いた。1分ほど返事はなく、やっと軋みながら扉が開き、青ざめた顔をしたハグリッドが震えながら現れ、もう死刑執行人達が来たのかとそこら中を見渡した。

 

 

「僕たちだよ。透明マントを着ているんだ、中に入れて。──そしたらマントを脱ぐから」

 

 

ハリーが小声でハグリッドに話しかけ、ハグリッドは「来ちゃなんねぇだろうが!」と囁き驚愕しながらも、一歩下がった。ハリー達が中に入るとハグリッドは急いで扉を閉め、まだ見えないハリー達がいるだろう場所を探しキョロキョロと視線を動かす。

 

透明なマントを脱ぎ、ソフィア達が現れた時も、ハグリッドは泣く事も、縋り付くことも無かった。体は小さく震え顔を蒼白にさせ、茫然自失のハグリッドを見るのは──泣いている彼を見るより、辛かった。

 

 

「茶、飲むか?」

 

 

ハグリッドの巨大ない腕がヤカンを掴む。その震えが移ったヤカンはカタカタと音を立てていた。

 

 

「ハグリッド、バックビークはどこなの?」

「俺──俺、あいつを外に出してやった。俺のカボチャ畑さ、つないでやった。木やなんかを見たほうがいいだろうし──新鮮な空気も…その後で…」

 

 

ハグリッドの手が激しく震え、持っていたミルク入れが手から滑り落ち粉々になって床に飛び散った。

ソフィアとハーマイオニーはすぐに立ち上がり杖を振るい飛び散った破片を集め床を拭いた。

 

 

「ハグリッド、私たちやるわ」

「戸棚にもう一つある」

 

 

ハグリッドは座り込み、額に浮かんだ汗を袖で拭う。

ハリーはチラリとロンとルイスを見たが、2人ともどうする事も出来ない、という目で沈黙したままハリーを見返した。

 

 

ハリーがハグリッドに誰も、どうする事もできないのかと聞いている声を背中に聞きながら、ソフィアもハーマイオニーはミルク入れを探し、戸棚を探った。

ハーマイオニーは小さく堪えていた啜り泣きをつい、漏らす。ハグリッドが泣いてないんだ、自分が泣くわけにはいかない。

 

 

ハーマイオニーはソフィアが退かしたカップの奥にミルク入れを見つけるとそれを手に取り振り返る、背筋を伸ばしぐっと涙を堪えた。

 

 

「ハグリッド、私たち、あなたと一緒にいるわ」

「私たち──その時…あなたの側にいたいの」

 

 

しかしハグリッドは首を振り、俯いた。

 

 

「お前さんたちは城に戻るんだ。言っただろうが──見せたくねぇ。それに、初めっから、ここに来てはなんねぇんだ…ファッジやダンブルドアが、お前さんたちが許可も貰わずにここにいるのを見つけたら厄介な事になるぞ…ハリー、お前さんは特に…」

 

 

声もなくハーマイオニーとソフィアの目から涙が溢れ、頬を伝った。しかし、ハグリッドには見せまいと彼女たちはすぐに後ろを向くと目を越すり、お茶の支度に動き回った。

ソフィアはヤカンを暖炉の火に焚べ、ハーマイオニーはミルクを瓶から容器に入れようとミルク入れを開け──叫んだ。

 

 

「ロン!し、信じられないわ!──スキャバーズよ!」

「何を言ってるんだい?」

 

 

ハーマイオニーは慌てて机の上にミルク入れをひっくり返す。困惑するロンの目の前に、ぼとりとスキャバーズが机の上に落ちた。

スキャバーズはキーキーと大騒ぎしながらミルク入れの中に戻ろうとしたが、ロンがすぐにジタバタするスキャバーズを鷲掴みにした。

 

 

「スキャバーズ!な、なんでこんな所にいるんだ?」

「スキャバーズ!?まぁ、無事だったのね…!」

 

 

ソフィアは熱く湯気の立つティーポットを持ちながら、ロンの手の中で暴れるスキャバーズを見て思いも見ない再会にほっと胸を撫で下ろした。やっぱり、クルックシャンクスは食べていなかったんだ。──なら、あの血は…?

 

 

「大丈夫だってば、スキャバーズ!猫はいないよ!ここにお前を傷つけるものは誰もいないんだから!」

 

 

前よりも痩せ衰え、あちこちの毛が抜けて禿げているスキャバーズは、飼い主であるロンの言葉を聞かず逃げようと暴れていた。ロンは手に小さな引っ掻き傷を作りながらもけっしてスキャバーズを離さなかった。

 

 

「連中がきよった…」

 

 

ハグリッドが立ち上がり、窓の外を見て低く呟いた。その顔色は土気色になり、また僅かに震え出す。

 

ソフィア達も振り向き窓に駆け寄った。

遠くの城の階段から、誰かが降りてくる影が見える。先頭をダンブルドアが歩き、その次にファッジ──そして、死刑執行人が後ろを歩く。

 

 

「お前さんたち、ここにいる事を連中に見つかってはならねぇ…行け…早う…裏口から出してやる…」

 

 

ハーマイオニーはマントを持ち、ハグリッドに続いてソフィア達は裏庭に出た。

ほんの数メートル先のカボチャ畑のそばの木に繋がれているバックビークは、何か起こっていると理解しているのか猛々しい頭を左右に振り、逃れようともがいた。

それを見たソフィアはぐっと胸を詰まらせ鼻の奥がツンと痛むのを感じる。──この後この美しい生き物が処刑されるだなんて。現実だと、思えなかった。

 

 

「行け、──もう、行け」

「そんな事、できないよ」

「ハグリッド、僕何があったのか話すよ!」

「バックビークを殺すなんて、ダメよ!」

「私たちが、いるわ!」

 

 

ソフィア達は動けず、必死になり口々に訴えかける。ハグリッドは一瞬目を揺らせたが、すぐに表情を引き締め「行け!」と、再度きっぱりと告げた。

 

 

「お前さん達が面倒な事になったら、ますます困る。そんでなくても最悪なんだ!」

 

 

悲痛な懇願に、ハーマイオニーは目に涙を流しながらソフィア達にマントを被せた。その時小屋の前で人の話す声が微かに聞こえ、ソフィア達は開きかけていた口を閉ざす。

 

 

「急ぐんだ──聞くんじゃねぇぞ」

 

 

ハグリッドは5人が消えたあたりを見ながら、掠れた声で囁いた。

何を、とは聞かなくてもソフィア達にはわかっていた。

魂が抜けたように押し黙ったソフィア達はハグリッドの小屋を離れ反対側まで進む。バタン、と表の扉が閉まる音が聞こえ、思わずルイスは立ち止まった。

 

 

「僕、やっぱり──」

「だめよ!お願い、戻って!私、耐えられないわ…とても…!」

 

 

せめて事件が起こった時、何があったのかファッジやダンブルドアに直接言わないと気が済まないとルイスは足を止めたが、ハーマイオニーの恐怖が滲む震え声に、何度か迷うように小屋とハーマイオニーの目を見ていたが──項垂れるとゆっくりと歩きだした。

 

 

太陽は沈む速度を早め、空は薄らと紫を帯びた透明な灰色に変わっていた──日没だ。

城に向かう芝生を登り始めた時、ロンがぴたりと立ち止まった。

 

 

「ロン、お願いよ」

「スキャバーズが…!こいつ、どうしても大人しくしてないんだ!」

 

 

ロンは這い出ようとするスキャバーズをポケットの中に押し込もうと前屈みになっていたが、スキャバーズは狂ったように鳴き喚き、ジタバタと身を捩っていた。

 

 

「スキャバーズ、僕だよ。ロンだってば!」

「ねえ、ロンお願いだからいそいで!ああ、もう──」

 

 

ハーマイオニーは背後でした扉の開く音に振り返ると、口をワナワナと震わせる。

ソフィアは震えるハーマイオニーの手を強く握り身を寄せながら呟いた。

 

 

「…始まるんだわ…」

「くそっ!スキャバーズ、じっとしてろったら…!」

 

 

5人は少しずつ前進したが、またすぐにロンが止まってしまう。

背後からは男の低い声が響き、何かを伝えていた。もうすぐ、バックビークは処刑されてしまう、ハグリッドはそれを聞く事を望んでいない。

ハリーはせめて側に寄り添う事が出来ない友人の、たった一つの願いくらい──叶えてやりたかった。

 

 

誰とも区別がつかない低い男の声が混じり合っていた。ふと、静かになり、そして──斧を振るう音と、それが地面に突き刺さった重い音がソフィア達の耳に飛び込んだ。

がくりとハーマイオニーがよろめき、ソフィアの胸にしがみつくと声を震わせ小声で叫んだ。

 

 

「やってしまった!──こ、こんなことって…!あの人たち…処刑してしまったんだわ!」

 

 

その叫びにソフィア達は皆、ショックで頭の中が真っ白になった。

暫くお互いの息遣いと、スキャバーズの鳴き声だけが響いていたが、荒々しく吠えるような声が背後から響いた。

 

 

「──ハグリッドだ」

 

 

ハリーは呟き、我を忘れ引き返そうとしたが、ソフィアとロンがハリーの両腕を抑え、顔を蒼白にさせながら首を振った。

 

 

「戻れないよ」

「…僕たちが会いに行った事が知られたら、ハグリッドの立場はもっと…悪くなってしまう…」

 

 

ルイスは辛そうに表情を歪ませゆるゆると首を振った。

ハーマイオニーはソフィアの胸に必死に縋りつきながら呼吸を浅く乱し、大きく目を見開き全てを拒絶するかのように首を振る。

 

 

「どうして、あの人たち、こんな事が…出来るの?本当に──どうして…!」

「…本当に、酷い事だわ…」

 

 

ソフィアの体もハーマイオニーを抱きしめながら震えていた。「行こう」ロンの呟きに、ハリーは暫く答えられなかったが──ゆっくりとまた、城へ向かい始めた。

 

 

 

息を潜めたソフィア達が広い校庭に出た頃には、辺りには闇が立ち込め5人を覆った。

 

 

「スキャバーズ、じっとしてろ!いったいどうしたんだ?このバカネズミめ!じっとしてろったら──あいたっ!こいつ、噛みやがった!」

 

 

ロンがまた足を止め胸ポケットの中にいるスキャバーズを押し込もうと奮闘する。

その声がこちらへ戻ってくるだろうファッジ達に聞こえやしないかと──透明マントは、声までは消してくれない──ソフィアは心配そうに後ろを振り返った。

 

 

「ロン、静かにしないと!ファッジがきっと、戻ってくるわ!」

「こいつめ!なんでじっとしてないんだ?」

 

 

ソフィアは緊迫した声で囁き、ロンの手から逃れようともがくスキャバーズを見た。何をそんなに怖がっているのだろう、ここには何も居ないはずだ。

 

 

しかしその時、暗闇の影から地を這うように身を伏せこちらに向かい忍び寄るものを、ハリーは見た。闇の中光る2つの眼──クルックシャンクスだ。

クルックシャンクスはスキャバーズの声を追ってここまで来たのかもしれない、ハリーが息を呑んだ事に気付いたソフィアとハーマイオニーも、ようやく近くにクルックシャンクスがいる事に気付き顔を引き攣らせた。

 

 

「クルックシャンクス!」

「だめ、クルックシャンクス、あっちに行きなさい、行きなさいったら…!」

 

 

ハーマイオニーが低い声で呻き叫んだが、クルックシャンクスは髭をぴくぴくと動か目を爛々と光らせじりじりと近づく。

 

 

「スキャバーズ──ダメだ!」

 

 

ロンは必死にスキャバーズを抑えていたが、身を捩り摩り何度も引っ掻き──ついにスキャバーズはロンの手から逃れると地面に落ち、一目散に逃げ出した。透明マントをくぐり抜けいきなり現れたスキャバーズを、クルックシャンクスはすぐに追いかける。

 

 

ソフィア達が止める間も無く、ロンは透明マントを脱ぎ、猛スピードでスキャバーズの後を追った。

 

 

「ロン!」ハーマイオニーが呻き、4人は顔を見合わせる。大急ぎで暗闇の中に消えたロンを追いかけているうちに透明マントは既に4人の体から離れ、ハリーが旗のように後ろに靡かせていたが誰も何も言わなかった。

 

ルイスは杖を出しすぐにあたりを照らそうとしたがルーモス、のルを言う前にソフィアが慌てて杖を抑え止めた。

 

 

「ダメよ!光で──バレてしまうわ!」

「っ…そうだった…!」

 

 

ルイスは苦々しい顔で呻くと、杖は握ったままだったが辺りを照らすことはやめた。

前方にロンの駆ける足音と、クルックシャンクスを怒鳴りつける声が聞こえ、ソフィア達はなんとか暗闇の中で目を凝らし、音のする方に疾走する。

 

 

「スキャバーズから離れろ!離れるんだ!スキャバーズ、こっちへおいで!──捕まえた!とっとと消えろ、嫌な猫め!」

 

 

ドサッという地面に倒れ込む音と、ロンの安堵が滲む声──そしてクルックシャンクスの威嚇の声が響く。

ソフィア達は地面に這いつくばるロンを危うく踏んづけてしまいそうだったが、なんとか目前で急ブレーキをかけた。ハーマイオニーとソフィアは胸を抑えぜいぜいと呼吸を整えながら、息も絶え絶えに囁く。

 

 

「ロン、早く──マントに!」

「ダンブルドア──大臣──みんな、戻ってくるわ!」

 

 

しかし、皆がマントを被るために息を整える間も無く、何か巨大な生き物が走る足音が突如響いた。

暗闇の中から大きな黒犬が跳躍し現れる。ルイスとソフィアはその黒犬を見て、一瞬狼狽えた。──あの黒犬は間違いない、森で会った、あの犬だ。

 

 

ルイスは杖を持っていたが動けず、その犬が大きくジャンプしハリーに飛びかかるのを呆然と見ていた。

 

 

「ハリー!」

 

 

ソフィアは叫び、地面に倒れ込むハリーに駆け寄る。黒犬は急旋回して唸ると、またソフィア達にその牙を剥いた。ソフィアは目を強く閉じ、ロンがハリーとソフィアを突き飛ばした。

 

犬の両顎はロンの腕に強く噛みつき、ハリーは犬に掴みかかったが──犬は体を大きく振るいハリーを振り払うとロンを引き摺っていった。

 

すぐにハリーは立ち上がりロンを助けようと手を伸ばしたが突然何かがハリーの横面を殴り、ハリー達はもつれるようにして再び倒れ込んだ。──新手か、ルイスは強かに打ち付け痛む脇腹を抑えながら叫んだ。

 

 

「ルーモス!」

 

 

杖灯りにより照らされたのは、太い木の幹だった。

 

 

「──まずいわ…」

 

 

ソフィアが上を見上げ呆然と呟いたのと、暴れ柳が強風に煽られたかのように枝を軋ませまた振り下ろさんとするのは同時だった。

 

 

プロテゴ(守れ)!」

「きゃっ!」

 

 

ルイスが盾の守りを出現させ、枝の猛撃はその見えない盾に阻まれる。

ハリーは犬はどこに消えたのかと必死にあたりを見渡す、──居た。暴れ柳の根元に大きく開いた隙間に、ロンの頭から引き摺り込もうとしていた、ロンは激しく抵抗しているが、頭が、胴が順に見えなくなっていく。

 

 

 

「──ロン!」

「ダメだ、ハリー!」

 

 

ハリーはルイスの静止を聞かず盾の後ろから飛び出し、駆け寄ろうとした。だが太い枝が空を切りハリー目掛けて振り下ろされ、慌ててハリーは後ずさった。ここが境界線なのだ、これ以上進むとあの枝に殴られてしまう。

 

ロンは何とか足を根元に引っ掛けて抵抗していたが、バシッ!──とまるで乾いた太枝が折れたような恐ろしい音と叫び声が響き、次の瞬間、ロンの足も見えなくなった。

 

 

「た、助けを呼ばなくちゃ!」

 

 

ハーマイオニーは狼狽え叫んだが、すぐにハリーが枝の攻撃を何とか避けながら叫ぶ。

 

 

「ダメだ!そんな時間はない!」

「ハリー!ハーマイオニー!避けて!」

 

 

ソフィアの声に慌ててハリーとハーマイオニーは頭を下げる、その刹那太い枝が2人の頭上を掠めた。

ソフィアはハリーの腰辺りに手を回し、無理矢理後退させると蒼白な顔で振り回される枝を見ながら必死に懇願する。

 

 

「今なら近くにダンブルドア先生がいるわ!誰か助けを呼ばないと──あそこには入れないわ!」

「あの犬が通れるなら僕達にも出来る筈だ!」

「──っ!!」

 

 

ハリーの強い声に、ソフィアは唇を噛みぐっと口籠った。わかっている、救援を呼ぶ時間などない、自分たちで何とかするしかないのだ。

ソフィアは覚悟が決まったような目でキッと暴れ柳を睨み杖を振るい、足元に落ちている石を複数の狼達に変身させた。

 

 

「援護するわ!ハリー!──走って!」

 

 

その声に弾かれるようにして狼達とハリーは走る。すぐに暴れ柳が枝を振るいハリーの胴体を打とうとしたが、狼が両者の間に割って入り、ハリーを守った。

強く枝で殴られた狼は「ギャイン!」と一鳴きすると煙のように霧散し元の石に戻ってしまう。

何度も攻撃を受けるたびに狼が身を挺してハリーを守り石へと戻る中、ハリーは木の幹まで後一歩のところまで差し迫る。

 

 

「ぐっ──!」

「ハリー!」

 

 

だが暴れ柳もただではハリーを通すつもりはない。最も幹に近づいた途端、枝をぐっと一纏めにすると大きく振り下ろした。

狼はすかさずハリーの上に覆いかぶさり直撃は免れたものの、ハリーはその場に押し倒され背中を強く打ち付けた。──息が詰まるような衝撃の中、ハーマイオニーは「誰か、助けて、助けて…」と狂ったように呟きながら目に涙をためていた。

 

 

ルイスは衝撃で動けないハリーの元に何とか向かおうと飛び込むが、すぐに他の枝がルイスの行く手を阻む。

 

 

「どけ!──どけよ!!」

 

 

彼にしては粗暴な口調で叫ぶが、暴れ柳は聞く耳を持たず、ゆっくりと高く枝を掲げる──止めの一撃をハリーに喰らわせるために。

 

 

「「 プロテゴ(守れ)!」」

 

 

ソフィアとルイスの魔法がほぼ同時にハリーの体を覆った。二重にかけられた守りの盾は暴れ柳の渾身の一撃を何とか耐え切り、ハリーは何とか暴れ柳の幹から下がる──あと少しだったのに。

 

 

その時、クルックシャンクスがさっと前に出た。ハリーを狙っていた暴れ柳は突然現れた猫に反応できず何度もクルックシャンクスに殴りかかったが、クルックシャンクスはまるで蛇のように紙一重でかわしすり抜けると、両前足を木の節の一つにちょん、と乗せた。

 

 

突如、暴れ柳はハリー達を狙うために振り上げた枝をそのままにぴたりと停止した。まるで石像になってしまったかのように、葉一枚も動かない。

 

 

「クルックシャンクス!?あの子、どうしてわかったのかしら…」

 

 

ハーマイオニーは訳がわからず小声で呟いた。よろよろと立ち上がったハリーは何度か湿った咳を溢し、木の根元にいるクルックシャンクスを険しい顔で睨む。

 

 

「あの犬の友達なんだ。僕、あの2匹が連れ立っているのを見た事がある──君も杖を出しておいて。ソフィア、ルイス、ハーマイオニー…行こう」

 

 

ソフィア達は硬い表情のまま、クルックシャンクスの待つ──ロンと黒犬が消えた暴れ柳の根元に向かった。

 

 

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