【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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150 真実。

予期せぬセブルスの登場に、ハーマイオニーは悲鳴をあげハリーは飛び上がる、ソフィアとルイスは体を縮こまらせ、悪事がバレた子どものように──子ども、なのだが──そっとセブルスの様子を伺った。

 

 

怒っている。──そして、その目から暗い喜びが溢れ出ている。

 

 

「暴れ柳の根元でこれを見つけましてね。…ポッター、なかなか役に立った。──感謝する」

 

 

セブルスは杖を真っ直ぐリーマスに突き付けたまま絹のような透明マントを脇に投げ捨てた。少し息切れはしていたが、この手で憎きブラックを捕まえる事が出来る確信に打ち震え、喜びが隠せないようだった。

 

 

この場でセブルスの心情を真に理解できたのは、2人の子どもであるソフィアとルイス、そして彼の妻が誰かを知っているリーマスだけだろう。

 

 

「先生…」

「ミスター・プリンス。杖を下ろすな。…そのまま突きつけていろ。…ミス・プリンス、君もだ」

 

 

ルイスは思わずブラックにむけていた杖を下ろしかけたがすぐにセブルスがそれを鋭く止め、ソフィアとルイスに指示を出す。

2人は戸惑いながらも頷き、再びブラックの胸元に杖先を向ける。

 

ソフィアとルイスは、リーマスとブラックの様子から真犯人はブラックでは無く、2人の言うペティグリューなのかもしれないと思っていたが、まだそれを心から信じているわけではなかった。この正念場を逃れる為の虚偽かもしれない、その可能性を否定出来なかった。

2人はブラック達の過去の事──何故、アニメーガスになったのか、それしか聞かされていない。確実な証拠は無く、それにブラックは一度、ハリーの両親とアリッサを殺したという事実を否定しなかった。──何故なのか、真犯人が誰なのかわからない中で、2人はこの中で最も信頼出来るセブルスの言葉に従った。

 

 

セブルスはソフィアとルイスが反論する事なく自分に従う様子を見て満足げに目を細める。

透明マントを被り、リーマスが語った過去の話を聞いていたセブルスは、2人がブラックの所業に対し怒り軽蔑の目を向けていたのを見ていた。そしてブラックを責める2人の言葉が過去、唯一の親友と愛しい人が口にした事と全く同じだった事に僅かながら安堵していた。

何故2人がここに居るのかわからない、今までのように何かに巻き込まれたのかもしれない。自ら進んで飛び込んだ可能性もあるだろう、後でしっかり叱責をする必要がある。──だが、今は。ソフィアとルイスだけは殺人鬼と人狼から守らねばならない。そう、セブルスは思っていた。

 

 

「…そう、そのままでいい。そうしておけば、ダンブルドアに2人はブラックを捕まえようとしていたと報告しよう。──さて、我輩が何故ここを知ったのか、諸君は不思議に思っている事だろう。──お前の部屋に行ったんだ、ルーピン。今夜、薬を飲むのを忘れていたようだからな…我輩がゴブレットに入れて持ってきた。…持っていったのは、誠に幸福だった…我輩にとって、だが。──机に地図があり、一眼見ただけで我輩に必要な事が全てわかった」

「セブルス──」

 

 

リーマスが切羽詰まったような硬い声でセブルスの名を呼んだが、セブルスは構う事なく言葉を続けた。

 

 

「我輩は校長に繰り返し進言した。お前が旧友のブラックを手引きして城に入れるとな…ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは──流石に夢にも思いませんでしたな」

「セブルス、君は誤解している。君は、全部聞いていないんだ。説明させてくれ!──シリウスは、ハリーを殺しにきたのではない!」

「今夜、二人のアズカバン行きが出る…ダンブルドアがどう思うか、見ものですな。…ダンブルドアはお前が無害だと信じていた。わかるだろうね、ルーピン──飼い慣らされた人狼よ」

「…愚かな」

 

 

セブルスの嘲笑に、リーマスは苦々しく顔を歪め吐き捨てる。

過去何があったかは、わかっている。だがそれを折角──白日の元に晒す唯一のチャンスを、こんな所で潰されるわけにはいかない。沸々とした苛つきに、リーマスは静かに──だが、力の篭った目でセブルスを睨み返した。

 

 

「君は、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのかい?」

 

 

その言葉の直後鋭い破裂音がし、セブルスの杖先から黒く細い紐が噴き出て、リーマスの手足や口に巻きついた。リーマスはバランスを崩し、床に倒れて身動きが出来なくなり、それを見たブラックが怒りの唸り声を上げセブルスを襲おうとしたが、咄嗟にルイスが杖を振るう。

ブラックの足に巻きついている紐から、まるで透明の手綱が伸びているのかのようにブラックは引き戻された。

 

 

「──やれるものならやるがいい。我輩にきっかけさえくれるのなら、確実に仕留めてやる」

 

 

セブルスはリーマスから、ブラックの眉間へと杖先を移動させる。ブラックは流石に動く事が出来ず憎々しげにセブルスを睨んだ。

ハリーは金縛りにあったようにその場に立ち竦んでいた。──誰を信じていいのかわからなかった。

きっとこの場に来たのがセブルスではなく、マクゴナガルならハリーはすぐにマクゴガナルの元に駆け寄り助けを求めただろう。だが、現れたのはハリーが嫌う人物だ。ブラックよりは自分にとってまだ、安全かもしれない、だが──ハリーはリーマスの話を聞いているうちにどうすればいいのかわからなくなっていた。

 

ちらりとソフィアを見れば、ソフィアはセブルスの言葉に従いブラックに杖を向けてはいるが、その目は困惑し、悩んでいるようにも見えた。

ロンもハリーと同様に混乱していたが、それよりも暴れるスキャバーズを抑え込むことに奮闘し、セブルスを見る事はない。

しん、とした沈黙が落ちるなか、ハーマイオニーが恐々とセブルスを見ながら一歩踏み出した。

 

 

「スネイプ先生、あの…この2人の言い分を聞いてあげても、害はないのでは…ありませんか?」

「ミス・グレンジャー。君は退学処分を待つ身だ。君も、ポッターも、ウィーズリーも、許容されている境界線を超えた──殺人鬼と内通者と一緒とは。君も一生に一度ぐらい、黙っていたまえ」

 

 

セブルスはハーマイオニーの言葉を冷たく一蹴する。ハーマイオニーは告げられた退学という言葉に顔をさっと蒼白にさせると小さく震え黙り込んだ。

ソフィアはちらりとハーマイオニーに視線を移し、そして杖はブラックに向けたままセブルスを見る。

 

 

「…スネイプ先生。私も、この2人の──いえ、ブラックの話を聞きたいです。アズカバンに入れられてはなかなか会うことも出来ないでしょう。私は、──母様が何故亡くなったのか、誰が原因で死ななければならなかったのか、知りたいんです」

 

 

ソフィアは口を挟まれないよう一息でそれを告げた。

その途端セブルスは顔をこわばらせ目を見開いた。

ソフィアの言葉が何を意味するのか──セブルスは理解し、目の奥の憎悪を燃やしブラックを睨む。

 

 

──ソフィアとルイスは、アリッサの死因を知ってしまった。…私が、伝えるより前に。…死に追いやった張本人から。

 

 

セブルスの胸の奥底から抑え込んでいたどろりとした憎悪が溢れ、抑え込む事が出来なかった、奥歯を噛み締め、微かに震える杖先から感情に呼応するようにぱちぱちと火花が迸る。

 

 

「聞かずとも、わかる事だ。こいつは数々の命を奪った、それが…事実だ。──復讐は蜜より甘い。お前を捕まえるのが吾輩であったらと、どんなに願った事か…」

「お生憎だな。…しかしだ、その子がネズミを城まで連れて行くなら、それなら俺は大人しくついていこう」

 

 

ブラックはロンを顎で指す。

ブラックにとって、自分が捕まろうがどうでもよかった、ただ、裏切り者を殺す事ができれば、せめてダンブルドアにネズミのことを伝える事が出来れば、それだけで良かった。

 

しかし、セブルスは目を細め小さく笑うとイヤにゆっくりと、幼子に言い聞かせるように朗らかに言った。

 

 

「城までかね?──そんなに遠くに行く必要はないだろう。ここを出たらすぐに、我輩が吸魂鬼を呼べばそれですむ。連中はブラック…お前を見て喜んでキスをする、そんなところだろう…」

 

 

吸魂鬼のキス。

それは人にとって死と等しい事を意味するが、それを知らないソフィアとルイスはセブルスの口から出たキスと言う言葉に一瞬だが何とも言えぬ奇妙な気持ちになり答えを求めるようにブラックを見た。ブラックはその言葉を聞くとセブルスへの憎しみの感情も消え失せ、その顔に絶望の色を宿した。

どうやら、悲惨な事になるらしい、それがわかった2人は流石にこの場で「吸魂鬼のキスってなんなの?」と聞く事は無かった。

 

 

「聞け──最後まで、俺の話を、聞け。ネズミだ…ネズミを見るんだ」

 

 

ブラックは絶え絶えに掠れ声で告げたが、セブルスは勿論ブラックの言葉など聞くつもりはなく目に狂気を覗かせたまま「全員来い」と吐き捨て指を鳴らす。リーマスを捉えていた縄目の端がセブルスの手元に飛び、リーマスは必死に足を踏み締めそれに抗ったが、どれだけもがいてもその縄が緩む事は無い。

 

 

「我輩が人狼を引きずっていこう。吸魂鬼がこいつにもキスをしてくれるかもしれん。…ミスター・プリンス、そのままブラックを連れて来い」

「…先生、でも…僕らは…まだ何も──」

 

 

ルイスもまた、ソフィアと同じでこの2人の話を聞きたかった。

だがそれを伝えるより先にハリーが飛び出し、ドアの前に立ち塞がる。伸ばした腕は震えていたが、目だけは果敢にじっとセブルスを睨んでいた。

 

 

 

「どけ、ポッター。お前はもう十分規則を破っているんだぞ。我輩がここにきてお前の命を救っていなければ──」

「ルーピン先生が僕を殺す機会は、この1年に何百回もあったはずだ。僕は先生と2人きりで、何度も吸魂鬼防衛術の訓練を受けた!もし、先生がブラックの手先なら、その時に僕を殺さなかったのは何故なんだ?」

「我輩に人狼がどんな考えをするのか押し計れとでも言うのか」

 

セブルスは、これ以上待つ事が出来なかった。ブラックが脱獄したと聞いてから、こうして自身の手で捕まえる事を切望していた。なによりも大切な人達の死の原因となった憎き相手を──必ずこの手でと、何度も願った。

 

 

「どけ、ポッター」

「学生時代に揶揄われたからというだけで、話も聞かないなんて──」

「黙れ!我輩に向かってそんな口の聞き方は許さん!我輩は今お前の首を助けてやったのだ、平伏して感謝するがいい!こいつに殺されれば、自業自得だったろう、お前の父親と同じような死に方をした事だろう!──ブラックの事で、親も子も自分が判断を間違ったとは認めない傲慢さよ!──さあ、どくんだ、さもないと、どかせてやる。どくんだ、ポッター!」

 

 

セブルスが大声で叫び、ハリーは意を結したように杖を構えた。

だが、ハリーが杖を振り下ろす瞬間──固唾を飲み父と友の攻防を見守っていたルイスがセブルスに向かって飛び出した。

 

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

「っ──!」

 

 

ハリーは振り下ろした杖を、放った言葉を止める事が出来なかった。

だが、叫び、そしてルイスが飛び出した事に驚愕したのはハリーだけではなかった。

ドアの蝶番が軋むほどの衝撃が走り、セブルスと巻き込まれたルイスは足元から吹っ飛んだ、セブルスは自身に向かって守るように体を滑り込ませたルイスを、咄嗟に守るように胸の中に引き込み──そのせいで、防御を取る事なく壁に激突し、ズルズルと床に滑り落ちた。

 

 

「いやぁ!!」

 

 

ソフィアが叫びセブルスとルイスの元に駆け寄る。

ハリーと──そして、同じタイミングで同じ魔法をセブルスに向けたロンとハーマイオニーは呆然としてルイスを見る。

 

 

「ルイス!!(とう)──」

「ソフィア、僕は、大丈夫…だから…」

 

 

ルイスはすぐに起き上がるとソフィアの言葉を遮り、目に涙を浮かべ狼狽えるソフィアを優しく見つめた。

 

 

「で、でも──」

「大丈夫、 先生(・・)は……気絶してるだけだよ」

 

 

ルイスは自分の背に回っていたセブルスの腕を取り脈を測る、ぐったりとして頭を強く打ったようだが、呼吸も心音も正常だ、きっと自分を守るために強く打ち付けたのだろう。

ソフィアはそれを聞いても心配そうにセブルスを見つめていたが、ルイスがわざと自分の言葉を遮り、父の事を先生と呼んだ事に気づきぐっと唇を噛み締めると俯いた。

 

──子どもなのに、今は大切な父様の名を呼ぶことも、心から心配する事もできない。 

 

 

ハリーとハーマイオニーの魔法はセブルスに当たり、ロンの魔法はルイスを貫いていた。

セブルスの杖は高々と舞いベッドの脇に落ち、ルイスの杖は近くの床を転がった。

 

ルイスはすぐにそれを拾うと痺れを振り払うように腕を振るいながら血の滲むセブルスの頭にむかって杖を振るい包帯を巻いた。

 

 

「こんな事…君がしてはいけなかった」

 

 

ブラックは気絶したセブルスを一瞥し、ハリーを見ながら呟く。その視線を受けたハリーは咄嗟に視線を逸らしその目を避けた。はたして、本当にセブルスを無力化する事が正しかったのか──ハリーにはわからなかった。

 

 

「わ、私…先生を…先生を攻撃して…ああ、ご、ごめんなさい…!」

 

 

ハーマイオニーは気絶しているセブルスを怯えた目で見て狼狽し、泣きそうな声を出した。武器を取るだけのつもりだった、まさか同じことを考えている人がいるとは思わなかった。スネイプ先生は──ソフィアと、ルイスの父親だ。

それを知っているハーマイオニーは、とんでもないことをしてしまった事実に涙を浮かべ、ルイスとソフィアを見る事が出来ずその場にしゃがみ込み顔を手で覆った。

 

 

「…、…ハーマイオニー…」

 

 

ソフィアは、ハーマイオニーが父に危害を加えようとした訳では無いとわかっていた。たまたま3人が同時に──その魔法が当たったのはハリーもハーマイオニーの2人だけだったが──武装解除を放っただけだ。不運、と言えるだろう。ただ、目の前で頭から血を流し気絶している父を見て、ソフィアは「仕方のないことよ」とは、口裂けても言えなかった。

 

 

リーマスが縄目を解こうともがき、ブラックが素早く這いずりながらリーマスの元に向かうと縄を解いた。リーマスは跡の残る腕を摩りながら「ありがとう」と呟き、一瞬ルイスと、そして気絶しているセブルスを見た後でブラックの足を捉えている縄を解いた。

ルイスはそれを視界の端で見ていたが、止める事はなくじっとセブルスの側で体を寄せ守るようにしながら無言を貫いた。

 

 

「ハリー…すまない」

「僕、まだあなたを信じるとは言っていません」

「それでは、君に証拠を見せる時が来たようだ」

 

 

リーマスとブラックが立ち上がり、ハリーと──そして、後ろでスキャバーズを掴むロンを見た。

 

 

「ピーターを渡してくれ──さあ」

「まだ、そんなことを言うのか?スキャバーズなんかのために…わざわざアズカバンを脱獄したって言うのかい?つまり…」

 

 

ロンは助けを求めるようにハーマイオニーとハリーを見た。

勿論その後ルイスとソフィアの事も見たが、2人はセブルスの側で身を寄せ何かに耐えるようにじっと体を固まらせていた。

 

 

「ペティグリューがネズミに変身出来たとしても、ネズミなんて何百匹もいるじゃないか。どうしてわかったんだ?」

「そうだ、シリウス…何故わかったんだい?」

 

 

ハリーは当然の疑問を思いつき、リーマスも眉を寄せシリウスに問いかける。

リーマスはそこが疑問でならなかった。何故彼がわかったと言うのか、アズカバンにいながらロンのペットのスキャバーズがピーターだと言う事に、何故思い至る事となったのか、それがわからなかった。

 

ブラックはローブの中に手を突っ込み中から何度も読んだのだろう、くしゃくしゃになった一枚の紙の切れ端を取り出し皆の前に掲げた。

ソフィアとルイスもセブルスを心配そうに見ていた目を、ようやく上げその切れ端を見る。

 

それは、日刊預言者新聞の切れ端の1ページであり──ウィーズリー家がくじに当たり、エジプトへ行った記事が家族写真を添えて載せられていた。

リーマスはそれを見て雷に打たれたような衝撃を感じる。満面の笑みを浮かべるロンの肩に乗る1匹のネズミ、そのネズミに、見覚えがあった。──見間違うわけがない、何度心の奥底から感謝して、その姿を見ていた事だろう。

 

 

「何故…どうして、これを…?」

「ファッジだ。去年、アズカバンに視察に来た時、ファッジがくれた新聞だ。一面にピーターがいた…俺にはすぐにわかった。こいつが変身するのを何回見たと思う?それに、写真の説明にはこの子がホグワーツに戻ると書いてあった。ハリーの居る…ホグワーツへと…」

「何という事だ…」

「こいつの前脚だ」

 

 

リーマスは呆然として写真と、ロンの手の中でもがいているスキャバーズを何度も見比べる。その目から疑問は消え、残るのは確認と、そして怒りだった。

 

 

「…それがどうしたっていうんだい?」

「指が一本無い」

「まさに…単純明快だ。──小賢しい、まさか、あいつが自分で切ったというのか…!」

「変身する直前にな、あいつを追い詰めた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。俺がジェームズを裏切ったんだと。それから、あいつは俺が呪いをかけるよりも先に──隠し持っていた杖で道路を吹き飛ばし自分の周りの5.6メートル以内にいたマグルを皆殺しにした。そして素早く、ネズミの沢山いる下水道に逃げ込んだ…」

「…ロン、聞いた事は無いかい?ピーターの残骸で1番大きなものが指だったって」

 

 

リーマスが静かにロンに問いかける。

ロンはそれをアーサーから聞いていて知っていた。知ってはいたがまだ信じられず、必死に他のネズミと喧嘩したからだと叫ぶ。

長い間─12年間、兄弟のおさがりのペットだった、その中で自分が知らない間に怪我の一つや二つしていてもおかしくは無い、しかし──そう言おうとした途端、12年間というあまりに長い歳月の違和感にロンも気がつき、言葉を無くした。

 

 

「12年。…何故長生きなのか、今は疑問に思っているはずだ」

 

 

リーマスはロンの表情を見てゆっくりと言い聞かせるように伝えた。ロンはそれでも──それでも、信じたくは無く、必死に自分達がしっかり世話をしていたからだと弱々しく言う。

 

ソフィアは無言でロンの手に収まるスキャバーズを見た。たしかに、普通のネズミが12年も生きる事は出来ない。人間で言えば本来の寿命の4倍──400歳は生きているという事になる、魔獣ではないただのネズミが、そんなに長寿なわけがない。

 

 

「スキャバーズが──そのネズミが、ピーターかも知れない理由はわかったわ。でも、ブラック、あなたが秘密の守人だったんでしょう?私たちは…そう、聞いたわ」

 

 

ソフィアは立ち上がり自分より身長の高いブラックを見据えはっきりと口にした。それが事実である限り、ブラックが裏切った事に変わりはない、そうソフィアと──ハリーは思っていた。

 

「ブラック、お前は僕にルーピン先生が来る前にそう言った!こいつは、僕の…僕の両親とソフィアとルイスの母親を殺したと言ったんだ!」

 

 

ハリーは瞬時に怒りを思い出し、ブラックを指差して叫んだが、ブラックは今度はゆっくりと、否定するように首を振りその目を僅かに潤ませ強い後悔を滲ませた。

 

 

「ハリー…俺が殺したも同然だ。最後の最後になって…ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのは俺だ…ピーターに代えるよう勧めた…アリッサは、自分こそが守人になると強く言ったが…彼女には子どもがいた…守るものがいれば、弱みになると俺はそれも拒み…ピーターを勧めてしまったんだ。俺が悪いんだ…」

「…母様が、守人に…?」

「ああ…そうだ。──あの日、俺はピーターが無事かどうか確かめに行った。だがあいつの隠れ家には誰も居なかった。争った形跡もなく…嫌な予感がしてジェームズ達の隠れ家へ行った。そして、家が壊され…彼らが死んでいるのを見た時、俺は悟った。ピーターが何をしたかを、──俺が、何をしてしまったかを」

 

 

最後は涙声になり、酷く聴き取りにくいもので、ブラックは顔を背け唇を噛み締め必死に込み上げてくるものを耐えていた。

 

 

 

「何故…母様が守人に──?」

 

 

ソフィアが口にした言葉は当然の疑問だった、それに答えようとブラックが口を開く前にリーマスが「話はもう十分だ」と容赦なく遮り、ロンに向かって歩き怯える彼に向かって手を突き出した。

 

 

「本当は何があったのか、証明する道はただ一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい」

「ス、スキャバーズに、何をするつもりなんだ?」

「無理にでも正体を表させる。ただのネズミなら傷付く事は無い」

 

 

ロンは怯え、躊躇っていたが、傷付く事が無いのなら──と、とうとうスキャバーズを差し出ししっかりとリーマスが受け取った。

スキャバーズは一層激しく鳴きわめき、のた打ち回り小さな黒々とした目が飛び出しそうだった。

 

 

「シリウス、準備はいいかい?」

 

 

シリウスはその言葉を聞く前に、ベッドの脇に落ちていたセブルスの杖を拾い上げリーマスに近付いていた。涙で潤んでいた目はその憂いを消し、燃え上がるかのような憎しみで染まっている。

 

 

「一緒にするか?」

「ああ──そうしよう」

 

 

低く唸るようなブラックの問いかけにリーマスは頷く。

ブラックは杖先をしっかりとスキャバーズに向け、リーマスも片手でスキャバーズを握りしめもう一方の手で杖を持ちスキャバーズを指す。

 

 

「3つ数えたらだ。──いち──に──さん!」

 

 

青白い光が二本の杖から迸った。

ソフィア達は固唾を飲みそれを見つめる、少したりとも見逃さないように、誰も瞬き一つしなかった。

 

光に貫かれたスキャバーズは一瞬動きを止め、リーマスの手から離れると空に停止した。

小さな姿が激しく捩れ──ロンがそれを見て悲鳴をあげた──スキャバーズはぼとりと、床に落ちた。もう一度、今度はスキャバーズの体から目も眩むような閃光が走り、そして──。

 

 

ネズミの体が、ぐっと身を震わせびくりと一回り大きくなったかと思うと小さな体はみるみる内に手足が生え、頭が膨れ、そして人間の姿へと変貌し──1人の男がその場に尻をつけ蒼白な顔でそこに現れた。

 

それは、紛れもなく──薄汚れたピーター・ペティグリューだった。

 

 

 

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