ソフィア達は霧深い辺鄙な荒地に移動していた。疲れたような顔をする魔法使い達に──彼らはマグルの服装を来ていたが、間違いなく可笑しな格好になっていた。それに気付いたのはハリーとハーマイオニーだけだろう──ウィーズリー家一行が過ごすキャンプ場の場所を聞き、霧が立ち込める荒野をまた暫く歩き始めた。
20分程歩くと小さな石造りの小屋がぼんやりと現れ、その脇に門があった。さらにその向こう側には何百というテントが白く霞がかったゴーストのように並んでいた。
テントの群れは広々としたなだらかな傾斜に立ち、地平線上の先にある鬱蒼とした森まで続いている。
ソフィアは見える限り全てのテントにいるのが魔法族なのだと分かると、何だか不思議な気持ちになった。
キャンプ場はここだけではない。きっとキャンプ場を利用せず直接クィディッチ会場を訪れる者も居るだろう。
イギリスだけではなく、世界各国から魔法使いが訪れる──他の国では魔法の在り方がまた異なると本で読んだ事があるが、どんなものなのだろうか。少しくらい、見る事が出来るだろうか?
アーサーがキャンプ場の管理人であるマグルの男に明るく挨拶をし、テントの金額を払っているのを見てソフィアははっと気付いた。
慌ててアーサーに駆け寄り、そっと服の裾を引っ張る。ハリーにマグルの紙幣の使い方をこっそりと聞いていたアーサーはすこし驚いたようにソフィアを見た。
「どうしたんだね?」
「あの、…あの、私…お金を…きっと、保護者から…ジャックから受け取ってないですよね?」
困り顔でおずおずと言うソフィアに、アーサーはにっこりと笑い首を振った。
マグルの男に聞かれないようにソフィアの耳元まで顔を近づけると、アーサーはそっと囁く。
「大丈夫だよ、1人増えたところで変わらない」
「でも……」
「ソフィア、子どもはそんな事考えなくていいんだ」
「…、…はい、ありがとうございますアーサーさん…」
アーサーは笑っていたが、キッパリとした有無を言わせない声でソフィアをたしなめる。ソフィアは眉を下げたまま、少し笑い何度もお礼を言った。
チケットはコネで入手する事が出来たと聞いていたが、この場所を無料で借りるわけではない。ウィーズリー家があまり裕福では無いと知っているからこそ、ソフィアは少しでも払いたかったが──アーサーの優しさを読み取り、ソフィアはそれ以上強く言わなかった。
今回ソフィアはアーサーやモリーに世話になっているが、勿論セブルスはソフィアが出掛ける前にウィーズリー家に挨拶などしていない。
その一方でルシウスにはしっかりとルイスを頼む旨のお願いをしに行った事を、ソフィアは知っていた。
「それに、ジャックからよろしく言われていてね。──彼には、この後のビッグイベントでかなり力を借りたから、そのお礼でもあるんだよ」
「え?…そうなんですか?」
「ああ、だから…本当に気にしなくていい」
アーサーはソフィアの頭をぽんぽんと撫でると、ハリーに言われた枚数の紙幣をマグルの男に手渡した。
ジャックが、ホグワーツで開催される三大魔法学校対抗試合の関係者だとは思わず、ソフィアは少し驚く。…確かに、ジャックの友好関係はかなり広いとセブルスから聞いていた。大掛かりなイベントらしいし、何か手伝っていたのだろう。…尚更、早めに口裏を合わせて貰うように頼まないと後々ボロが出そうだ、とソフィアは無言で考えた。
マグルの男は何百もの予約があり、その利用者は全てどこか奇天烈な人ばかりだと怪しんでいた為、何処からともなく現れた魔法使いに忘却術をかけられてしまった。
無事──とは言えないまでも、何とかマグルの男からキャンプ場の地図と釣り銭、テントを設置する場所を教えられたアーサーはソフィア達を連れてキャンプ場の奥へと進む。
はじめは普通のテントばかりだったが、奥へ進むに従ってテントは派手なものになり、どう見てもマグルに隠すつもりのない意匠を凝らしている。
キャンプ場の真ん中あたりには縞模様のシルクで出来たまるで小さな城のような豪華絢爛なテントがあり、生きた孔雀が数羽入り口に繋がれその美しい羽を広げていた。
ソフィアは、なんとなくその孔雀に見覚えがあったが──アーサーのいる今、何も言わない方がいいだろうと見て見ぬふりをした。
「毎度のことだ。大勢集まると、どうしても見栄を張りたくなるらしい。──ああ、ここだ。ご覧、私たちの場所だ」
たどり着いた場所はキャンプ場の1番奥で、森のすぐそばだった。
その広い空き地に立て札が打ち込まれ、ウィーズリーと名前がかかれている。
「最高のスポットだ!競技場はちょうどこの森の反対側だから、こんなに近いところはない!」
アーサーは嬉しそうに言いながら肩にかけていたテントを下ろす。
ソフィアは鬱蒼とした森を見つめ、この先に競技場があるなんて、後数時間で素晴らしい時間を過ごす事が出来るなんて──と、足の疲れも忘れて興奮したように目を輝かせた。
魔法を使わずマグル式でテントを建てると言い切ったアーサーに、マグル界の事をよく知っているハーマイオニーと、キャンプなんてした事は無いが取り敢えず期待の眼差しで見られてしまいやるしか無くなったハリーが何とか四苦八苦しながらテントを建て始めた。
「ハリー、これはどうやって使うの?吸血鬼は居ないのに、杭なんて…。…あっ!わかった!贄をテントの前に打ち込んで厄除けにするのね!?」
ソフィアは短い鉄製の杭を不思議そうに見ていたが、ハッとすると「何か動物を捕まえてくるわ!」と森へ駆け出そうとする。
ハリーは慌ててソフィアの手を掴みぶんぶんと首を振った。
「違うよ!えっとね…これで、こう……これ、木槌って言うんだけど、これで叩いてテントを地面と固定するんだよ」
「えっ?こ、これで固定?…そんなの──取れちゃうんじゃ…」
「何?木槌?木槌と言ったかねハリー!?わ、私にやらせてくれないか?」
「え、…はい、勿論です」
目を輝かせ興奮しながらアーサーはハリーの手から木槌を受け取ると宝石を見るようにうっとりとなんの変哲もない至って普通の木槌を眺める。
ソフィアはアーサーに杭を渡し、本当にこれでテントが止まるのかと心配でしか無かった。
何とか知恵を振り絞り力を合わせて小さなテントを二張り立ち上げたソフィア達は、少し下がってそのテントを眺める。
周りのテントとは違い、どこからどう見ても普通のテントである。誰も魔法使いが入っているテントだとは思わないだろう──とハリーは満足げに頷いたが、ふと今立ち上げたばかりのテントは2人用だという事に気付いた。
この後ここにやってくるビル、チャーリー、パーシーを足せば全員で11人になってしまう。きっと男女で別れるために二張りのテントを用意したのだとは思うが──女子達はまだしも、自分達は入る事が出来るのだろうか。…いや、どう考えても、不可能だ。
しかしこの問題に気付き困惑していたのは同じことを考えていたハーマイオニーだけであり、まず初めにアーサーが四つん這いになりテントへ入るとその後にロンとフレッドとジョージが続き、何の躊躇いもなくジニーが入った。
「僕たち、入れるかな?」
「そうよね、どう見ても…2人用だもの」
「ハリー、ハーマイオニー?大丈夫よ。このテントは…マグル製じゃないもの!──先に行くわね!」
ソフィアは悪戯っぽく笑い、身を屈めてテントの中に入る。ハリーとハーマイオニーが顔を見合わせていると中からアーサーの声が聞こえた。
「ちょっと窮屈かもしれないよ。でも──みんな入れるだろう。入って、中を見てごらん」
ハリーは身を屈めてテントの入り口をくぐり──その先に広がる光景にあんぐりと口を開き、ソフィアの言った言葉の意味をようやく理解した。
中は狭いテントではなく、古風なアパートの一室だった。寝室とバスルーム、キッチンの3部屋があり、家具や物置は埃が被りあまり清潔そうでは無く、何故か猫独特のキツイ臭いがしたが確かに皆が集まっても充分に過ごす事が出来るだろう。
「同僚に借りたのだがね。まぁ長いこといるわけじゃないし……ふむ、水がいるな…」
「たしか、地図に水の印があったよ。キャンプ場の端だった」
埃の被ったヤカンを掴んでいたアーサーにロンはあたりを見渡しながら答える。ロンやソフィア、魔法界出身の者はテントの中が全く別の場所だと言う事に何の疑問も抱いていない。──いや、彼らにとってはこれが当たり前なのだ。
ソフィアも孤児院で過ごしていた時にキャンプをした事があった為、なんの疑問も抱かず、驚いているハリーとハーマイオニーを見てくすくすと笑っていた。
「よし、じゃあロン、お前はハリーとハーマイオニーとソフィアの4人で水を汲みに行ってくれないか?他の者は薪を集めに行こう」
「でも、竈があるのに…簡単にやっちゃえば?」
「ロン、マグル安全対策だ!本物のマグルがキャンプする時は、外で火を熾して料理をするんだ。そうやってしているのを見た事がある!」
アーサーは興奮し顔を輝かせながらソフィア達にそれぞれヤカンや大きな鍋を渡しながら言った。
ソフィア達はちらりと顔を見合わせ肩をすくめるとテントから出てキャンプ場を通り抜けて行った。
「…水を出す魔法もあるんだけどね」
「だよな?…まったく!パパはマグルの事に関してはちょっとおかしくなっちゃうんだ!」
朝日が登り、ようやく立ち込めていた霧も薄くなっていく中、ソフィア達は様々なテントを珍しそうに眺め、時々ホグワーツの知り合いと挨拶を交わしながらキャンプ場の隅にある水道の列へ並んだ。
「ルイスは…いないわね。ここまで広いんだもの…別のキャンプ場かもしれないし…」
ハーマイオニーは水道の列に並びながら背伸びをしてあたりを見渡し残念そうに呟いた。
「…実はね、多分…ルイスがいるかもしれないテントを見かけたの」
「えっ?そうなの?…声、かけなくてよかったの?」
「かけたかったけど…ほら、ルイスはドラコと…ドラコのご両親と一緒でしょう?…アーサーさんもハリー達も嫌がるかな、って思って…」
「…まぁ!…ソフィア、あなた…大人になったわね!」
「わ、私だってもうすぐ14歳だもの!少しくらい、遠慮するわ!」
ハーマイオニーは感心するように目を瞬かせたが、ソフィアは何だか子供扱いされているようなその言葉に少し頬を膨らませツンとそっぽを向いた。
くすくすと楽しげにハーマイオニーは笑い、ソフィアはちらりとハーマイオニーを見てすぐにわざとらしく拗ねたような表情を消し──同じように笑った。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス