クィディッチ・ワールドカップの決勝戦は、ブルガリアのシーカー、ビクトール・クラムがスニッチを捕まえ試合が終了したが、結果はアイルランドの勝利だった。
アイルランドのチェイサーは飛び抜けて上手く、これ以上点差を縮められないと判断したクラムが勇敢にもスニッチを手にしたのだ。
負けはしたものの、後世に語り継がれるだろう見事な試合であり、クラム含めブルガリアの選手達は堂々と退場した。
貴賓席から外へ伸びる紫色の絨毯が敷かれた階段を降りたソフィア達はスタジアムからキャンプ場に向かう群衆に混じり、ウィーズリー家のテントへと戻る。
人々は口々に興奮しながら話し合い、今しがた終わったばかりの試合について語り合った。
男性陣が寝泊まりするテントに皆が集まり、一息をつく。アーサーは寝る前にみんなでココアを一杯飲む事を許し、温かいココアの満たされたマグカップを持ちながらソフィア達は目を輝かせ試合の話しに花を咲かせた。
夜遅い時間だったがすっかり興奮しきっているソフィア達は勿論すぐに眠る気なんてなれず、クラムの勇敢さを口々に讃えたり、アイルランドチームのチェイサーの動きの素晴らしさを褒めた。学生ではないプロチーム選手はどの選手も素晴らしく、万眼鏡のスロー再生を皆で覗き見ながら──この動きはきっとこういう作戦なんだ、この時にこうしたから得点に繋がった──沢山語り合った。
ソフィアは隣に座っていたジニーの頭ががこくりこくりと船を漕ぎはじめたのを視界の端で捉えると、今まさに彼女の手から滑り落ちそうになっていたマグカップを慌てて掴み、テーブルの端に置いた。
「ジニー?」
「ん……」
優しく声をかければ、ジニーはソファの肩にもたれかかり、すうすうと小さな寝息を立てる。
ソフィアはアクシオでソファにかけられていたブランケットを引き寄せるとジニーの肩にかけた。
アーサーはジニーが眠り込んでしまった事に気付き腕時計を見る。その短針が指す時刻に気付くと、「もうこんな時間か…明日も早い、全員もう寝なさい」と全員に声をかけた。
まだまだ議論は尽きなかったが、すっかりマグカップは空になり──たしかに、眠気がゆっくりと近づいて来ているのをソフィア達は感じた。
今日の朝、起床の時刻もかなり早かったのだ。明日も同じように早いのならもう寝なければ明日に響いてしまう。もし、また移動キーを使いあの小山に戻るとしたら──あの山道を歩かなければならないのだから。
アーサーはソフィアの肩にもたれて眠るジニーを優しく揺り起こし、半分目を閉じたままのジニーに「おやすみ」と挨拶をし頬にキスを落とす。ジニーはむにゃむにゃと言葉にならない挨拶をして、アーサーの頬に同じようにキスを返した。
「ソフィア、ハーマイオニー。すまないがジニーの事を頼んだよ」
「はい、わかりました」
「任せてください」
なんとか立ち上がったジニーだったが、今にもそのまま倒れて眠ってしまいそうなほど頭が下がっている。
ソフィアはくすくすと笑いながらジニーの手を引きテントの入り口までハーマイオニーと共に向かった。
「おやすみなさい」
「おやすみ。…みんな早く寝るのよ?」
「おやすみ、ソフィア、ハーマイオニー」
「君もね、ハーマイオニー」
ソフィアとハーマイオニーは皆に挨拶をした後──ジニーはまたむにゃむにゃと何かを言っていた──隣のテントに移動した。
「さて、ジニー?服を着替えないとダメよ」
「うーん…」
「これかしら、はい、ジニー」
ジニーは2段ベットの1段目に腰掛けたまま動かない。
ハーマイオニーはジニーが持って来ていたリュックの中から淡い水色のネグリジェを取り出すとだらりと下がっているジニーの手に無理矢理押し付けた。
ソフィアとハーマイオニーが献身的に手伝い、なんとかジニーは着替え終わるとそのままぱたりと倒れてすぐに夢の世界に旅立つ。
ソフィアとハーマイオニーは顔を見合わせてくすくすと笑った後、それぞれのカバンの中からネグリジェを取り出して着替えた。
「おやすみなさい、ハーマイオニー」
「おやすみ、ソフィア」
ジニーが寝てしまった2段ベットの真向かいにあるもう一つの2段ベットの上段でソフィアが、下段にハーマイオニーが寝る事になり、ソフィアは上から顔を覗かせてハーマイオニーに挨拶をした。
しかし、ソフィアとハーマイオニーがうとうとと心地よい夢の世界に身を委ね始めたちょうどその時、テントの入り口がばさりと開き叫び声が響いた。
「起きなさい!ジニー!ソフィア!ハーマイオニー!」
「ど、どうしたんですか?」
「…何かあったの…?」
「…んんー……」
硬い声音に、完全には眠っていなかったソフィアとハーマイオニーは只事ではないと直ぐに起き上がる。ソフィアはベッドの転落防止柵にかけていたコートを掴み羽織りながらすぐに2段ベットから降り靴を履いた。
ハーマイオニーも同じようにジャケットを羽織り慌てて靴を履くと困惑した顔でアーサーを見る。
アーサーは寝返りを打ちまだ眠りこけているジニーに駆け寄ると体を強く揺すり無理矢理叩き起こした。
「ジニー!起きなさい!」
「パ…パパぁ?もう…もう朝…?」
「緊急事態だ!上着だけ持って外に出なさい!──早く!」
ジニーもアーサーの初めて聞く真剣で焦ったような声に只事ではないとようやく目を擦りながら覚醒して身体を起こし上着を羽織った。
ソフィアは寝る前に外から聞こえていた陽気な歌声が消え、代わりに人々の叫び声と慌てて逃げ惑う足音が響いている事に気付く。
テントから出たソフィアは──様変わりした外の光景に、息を呑んだ。
まだ残っている火の灯りに照らされ、人々が森へ駆け込んでいく。キャンプ場の向こう側で、何か奇妙な黒いものが空に浮かび蠢いていた。その真下には魔法使い達が一塊になり、杖を一斉に真上に掲げながらゆっくりと行進している。
長いローブを着て、フードを被る彼らの素顔はつるりとした銀色の仮面に隠されている。
そのはるか上空に浮かんでいた黒い影は──キャンプ場の管理人のマグルだった。おそらく、彼の家族なのだろう、もがき、反転した女性のネグリジェが大きく捲れ下着が露わになり、浮かぶ子ども達は首をぐらつかせ目は恐怖に慄いている。それを見て群衆は嘲笑し囃し立てる。
「なに、あれ…」
ソフィアはそれを呆然と見ていた。
あり得ない、冗談ではすまされないその光景に、動けないでいるソフィアの腕をハーマイオニーが強く掴み無理矢理森の方へと引きずった。
「早く!行くわよ!」
「──ええ」
アーサーは既にジニーの手を掴み、先に外へ出ていたハリー達が待つ森の入り口へ駆け出していた。
ソフィアはポケットに入れていた杖を取り出し、辱めを受けるマグル達からようやく目を離すと重々しく呟き森へ向かう。
「──ソフィア!」
「ジャック!」
すぐ近くで姿現しの音が鳴り、ソフィアはジャックに抱きすくめられる。
ジャックはソフィアを抱きしめたままソフィアとハーマイオニーの無事を確認すると注意深くあたりを見回した。
「アーサーは?」
「向こうよ、すぐそこ」
「行こう」
ジャックは抱きしめていたソフィアを離し、2人の背を押しながら逃げ惑う人々の群れに混じって見えたアーサーに駆け寄る。そこには既に男性陣全員が揃っていた。
「アーサー!」
「ジャック!──私たちは魔法省を助太刀する」
「ああ、俺も行こう。ソフィア達は森へ入れ。いいか、絶対離れ離れにはなるな。──フレッド、ジョージ頼んだぞ」
「うん」
「任せて!」
「片がついたら迎えに行く!いいか、けっしてバラバラになるんじゃないぞ!」
フレッドとジョージは真剣な顔で頷く。フレッドはジニーの手を強く、しっかりと掴んだ。それを見てジャックはふっと優しく笑うと、ソフィアと目を合わせるように少し身を屈めた。
「ソフィア、側に居れなくて…悪い。ルイスは森にいるだろう。もし見かけたら合流し、一緒にいろ」
「わかったわ。…気をつけて」
ジャックは頷くと先に行ってしまったアーサー、パーシー、ビル、チャーリーの後に続き近付いてくる一団に向かって駆け出した。
魔法省の役人が四方八方から飛び出し、騒ぎの現場に向かっている。
「──さあ、行こう」
ジョージの声に、ソフィア達は硬い表情で頷きすぐに森の中へ駆け込んだ。
森の中のランタンは消え、暗闇そのものだった。木々の間を黒い影が蠢いている事しかわからず、近くにいるはずのハリー達の顔も見えない。
泣き喚く子どもの声、怒号、そしてロンの悲鳴が聞こえた。
「ロン!?」
「どうしたの?」
ハーマイオニーの心配そうな声がソフィアのすぐ側から聞こえる、ロンの悲鳴もそれほど離れてはいなかった。近くにいるらしいが、こう暗くてはわからない。
ソフィアは誰か分からない影に体を押されながら杖を掲げると、鋭く叫んだ。
「
ぱっと杖先が明るく光り、ソフィアはロンの声が聞こえた方を照らす。
ロンは地面に這いつくばっていたが、どうやら木の根に躓いただけのようで、ソフィアはほっと胸を撫で下ろした。──あの一団に、何かされたのかと思ったのだ。
「木の根に躓いた」
「大丈夫?」
ロンが腹立たしげに舌打ちをし、土で汚れた服を手で払いながら立ち上がる。ハーマイオニーはすぐ側に駆け寄ると心配そうに眉を下げていたが怪我をしていないと分かるとすぐに表情を緩めた。ハリーもソフィアが照らす光に導かれなんとか人の間を縫ってロンの元に近づく事ができた。
「──まあ、そのデカ足じゃ無理もない」
「ソフィア!無事?怪我はしてない?ああ…寒くない?大丈夫?」
ソフィア達の背後でドラコの気取った声がしたが、すぐ後に心配そうなルイスの声がそれを打ち消した。
ソフィア達が振り返れば、すぐそばでドラコが木に寄り掛かり腕を組みながら立っていた。
ルイスは驚いているソフィアを一度強く抱きしめると頭のてっぺんから足先までじっと見つめ、怪我がない事を確認してほっと胸を撫で下ろした。
「大丈夫よ、ルイスは?」
「僕は大丈夫だよ。あ、ドラコも──うん、絶好調だね」
ロンはドラコに向かって汚い言葉で悪態を吐き、ドラコはせせら嗤い侮蔑の目を向ける。いつものドラコの様子にソフィアは無事な事に安心していいのか、少し悩んだ。
「言葉に気をつけるんだな、ウィーズリー。君たち、急いで逃げた方がいいんじゃないのかい?その
ドラコはハーマイオニーの方を顎で指した。ちょうどその時、爆弾の破裂するような轟音が響き辺りが緑色の閃光で一瞬明るくなる。
「それ、どういう──」
「そうね!ドラコ、じゃあ私たちは行くわ!」
ハーマイオニーは怪訝な顔をしてドラコに食ってかかろうとしたが、ソフィアはドラコとハーマイオニーの間にさっと立つと無理矢理その言葉を遮り、ハーマイオニーをくるりと反転させ背中を押した。
「ちょ、ちょっと!ソフィア!」
「あっ!ルイス!私ジャックから、ルイスと会ったら一緒に居てって言われてるの、ルイスも行きましょう!」
「え?あー…」
ルイスはちらりとドラコを見た。
ドラコは一切動こうとせず、木に寄りかかったままルイスを見つめる。
勿論、ソフィアと一緒にいたい。だが──そう、実はドラコとルイスはルシウスとナルシッサと離れ離れになってしまい…つまり、迷子なのだ。
マグルの一家が怪しい魔法使いの一団に襲撃された時、ルイス達はルシウスに起こされテントから避難し少し遠目からそれを見ていた。間違いなくルシウスの目は楽しげに笑っていたが──それでもその集団の中にはいなかったのは確かだ。
だが集団がこちらに近付いて来た時、ルシウスはそのフードの下にある仮面を見て──すぐに表情を硬らせ「森へ向かおう」と、まだそのマグル虐めを見たかったドラコの背中を押し森へと促したのだ。
そして、人混みに紛れ──気がつけばルシウスとナルシッサと離れ離れになっていた。
「どうする?」
「うーん。…ここで様子を見よう、ここならすぐに隠れられるし…あいつらの様子もよく見えるから」
不安げにするドラコを木の幹の影に隠し、ルイスは注意深く辺りを見回していた。
ソフィアの姿が見えない、ここまで暗ければ仕方の無い事だろう、人も多い、無事──だとは思うが、実際にこの目で確かめなければどうしようもなく、心が焦り、ざわざわとした不安を感じた。
そんな中、近くの暗闇からソフィアの「ルーモス!」の声が聞こえ、辺りがぽっと光り──先程までの不安そうな表情はどこへ行ったのか、ドラコはいつものように余裕で強気な笑みを浮かべたのだった。
「ドラコ、今は馬鹿してないでさ。ソフィア達と行こうよ」
「…馬鹿は君だ。行くわけがないだろう。連中はマグルを狙っている、その女と一緒にいるとすぐに空に掲げられる事になるだろうよ」
「ハーマイオニーは魔女だ」
ドラコの薄寒い言葉にハリーは居ても立っても居られず、ソフィアの腕を掴みぐいっと押し退けドラコの前に立つと強い目で睨みつけた。
「勝手にそう思っていればいい、ポッター。連中がその──女を見つけられないと思うのなら、そこにじっとしてればいい」
「ドラコ!もう!僕たちは今こんな事を言ってる場合じゃないんだ!」
ドラコは、ハーマイオニーの事を穢れた血だと侮辱するつもりだったが──ソフィアが居るこの場でそれを言うほど愚かではない。一時の優越感と、数ヶ月続くソフィアの冷たい視線を天秤にかけた時、ドラコはソフィアの方を選んだ。
森の反対側で、これまでよりずっと大きな爆発音が轟き、暗闇の中から悲鳴が上がる。
ドラコはそれを聞いてせせら嗤い、気怠げな視線を闇の中に向ける。
「臆病な連中だねぇ?君のパパが、みんなに隠れてるようにって言ったんだろう?一体何を考えているのやら…マグル達を助け出すつもりかな?」
「そっちこそ、お前の親はどうしたんだ。あそこで、仮面をつけているんじゃないのか?」
ハリーは熱くなり、低く呟いたが、ドラコはゆっくりとハリーを見ると鼻で笑った。
「はいはい、
「むぐっ──」
ドラコは何かを言いかけたが、あまりに近くで響いた爆発音にこれ以上ここで争っている場合では無いとルイスは判断し、無理矢理ドラコの口を消すと、驚き目を瞬かせる──当たり前だ、ドラコの顔から口が消えたのだから──ハリー達に向かって申し訳なさそうに眉を下げ、苦笑した。
「ごめんねハリー、ハーマイオニー、ロン。僕たちは迷子になってるんだ。ルシウスさんとナルシッサさんと離れちゃったんだよ。あの中にルシウスさんは居ないよ、さっきまで側にいたんだけどなぁ」
「迷子?…へー?マルフォイ、君って迷子になったのかい?」
ロンはにやにやと笑いドラコをからかった。ドラコは青白い顔をカッと赤く染めると口元を手で何度も掻いた。しかし、ドラコは無言魔法は使えない──つまり、解呪してもらわなければ、話すことが出来ないのだ。
「うん、そうなんだよ。…ソフィア達は、…他の人たちは?アーサーさん達は?」
「アーサーさん達はマグルを助けに行ったの。…フレッドとジョージとジニーもはぐれちゃったみたい。…うーん、私たちも迷子ね」
ソフィアは辺りを見渡し肩をすくめる。
その言葉で、ハリー達は初めてフレッド達とはぐれた事に気が付いた。
ドラコをからかっている場合じゃない。ジャックとアーサーはくれぐれも離れるなと強く言っていた。なのに──ドラコを馬鹿に出来ない、自分達も迷子になってしまったのだ。
「早く探そう!」
「そうね、行きましょう!」
ハリー達はドラコがハリー達も迷子なのだと知ると、どこか小馬鹿にしたような目を向けている事に気がついた。きっと口があれば嫌味が連発していただろう。
しかし、今はドラコに関わっている場合ではない。早くフレッド達と合流しなければならない。
「ルイス!ドラコ!行くわよ!」
「えっ…ソフィア、本気なの?…ルイスは良いけど……」
ソフィアの言葉にハーマイオニーは嫌そうな顔をした。
ハーマイオニーだけではない、ハリーとロンとドラコも勿論「絶対に嫌だ」とその表情がありありと語っている。
「今は緊急事態よ!狙っているのはマグルでも──マグル生まれも、狙われる可能性は…あるわ。狙われなかったとしても、混乱した今、爆発や魔法に巻き込まれない自信がある?大人の攻撃魔法を防ぐ魔法を、あなた達は使えるの?」
ソフィアは少し苛ついたように一気に言うとハリー達を見た。
たしかに、狙われなかったとしても巻き込まれないとは限らない。その時自分を守る事ができるかと言われると──ハリー達は何も言えなかった。心の底から嫌だったが、目覚めの悪い事になっても、──それはそれで嫌だった。
「ほらほら、ドラコ、行くよ」
ルイスはドラコの腕を掴み、足を踏ん張り絶対に動きたくないと首を振るドラコをずりずりと力任せに引っ張る。
ソフィアはそれを見てハーマイオニー達に森の奥へと向かうよう促した。
「さあ、森の奥へ行きましょう!あの一団から離れないと危険だわ!」
ハリーとロンとハーマイオニーはちらりと視線を交わしたが、何も言わずに頷き、まだ抵抗しているドラコを一切見ないようにしながら森の奥へ駆け出した。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス