ルイスは全く動こうとしないドラコの腕を必死に引っ張った。だがドラコとて、ハリー達と一緒に逃げたいとは微塵も思わずそんな屈辱を受けるくらいなら、あの騒動に巻き込まれた方がマシだと思っていた為、こちらも必死に争う。ドラコもルイスもその年齢の男としてはやや線が細く華奢だったが、身長はドラコの方が高い。──つまり、どれだけルイスが引っ張ってもなかなか思うように動かすことは難しかった。
「ソフィア!手伝って!」
顔を真っ赤にしたルイスの声に、ソフィアはハリー達の背を追い森の奥へ向かいかけていた足を止めルイスに加勢する為に、ドラコの後ろに周り背中を目一杯押した。
「ほら!ドラコ、早く行くわよ!」
「───!」
ぶんぶんと首を振り足を踏ん張るドラコだが、ルイスに両腕を捕まれ引かれ、ソフィアに背中を押されてしまえば争うのは難しくその場を離れるしか無かった。
「
「っ…誰があんな奴らと逃げるか!」
ルイスはドラコにかけていた呪文を解呪する。途端にドラコは叫び、ルイスの手が緩んだ途端その手を振り解き強く睨んだ。
「そんなこと言ってる場合なの!?──ってああ!もう!ハリー達見失っちゃったわ!」
ソフィアは怒りながらドラコの後ろから叫んだ。先に森の奥へ進んでしまったハリー達の背は既に逃げ惑う人に紛れ見えなくなってしまっていた。
ドラコは森の奥を見て、ハリーの姿が見えないとわかると自分の抵抗も無駄では無かったと満足げに鼻で笑い乱れた服を素早く正した。
「どうする?」
「…とりあえず、この場を離れましょう。…ドラコも、良いわよね?」
「…ああ、そうしよう」
ハリー達と離れた今、ドラコは特に拒絶する事なくあっさりと頷く。
ソフィアとルイスはドラコの切り替えの速さに顔を見合わせ大きくため息をついた。
「だが、奴らはマグルを痛ぶるだけだ、僕たちに何かをするとは…思えないが」
「そりゃね。でもやっぱり危険だよ。この暗闇の中…どの子どもが純血で、どの子どもがマグル生まれなのか判断できると思う?」
「乱闘になってしまったら、それこそ危険よ」
ソフィアは爆発音が続く後ろを振り返り、硬い声で呟いた。
木々の隙間から絶えず魔法の閃光が光り、行き交っている。きっとあの仮面の一団と、ジャック達魔法省関係者が今戦っているのだろう。もうマグル達は救出されただろうか?
ソフィアとルイスとドラコは気がつけば群衆の喧騒から少し離れた場所に出ていた。
遠くからまだ混乱した声は聞こえるが、爆発音は収まりつつある。
近くの巨木に身を隠した3人は杖を胸の前でしっかりと掲げたまま、注意深く辺りを伺った。
「…ここに隠れてよう」
「そうね、ジャックか…ルシウスさん達が見つけてくれたら良いんだけど…」
ルイスは外に露出している木の太い根の上に腰を下ろし、ふうとため息を吐く。ソフィアもその隣に座り、ぐっと足を伸ばした。
ドラコは少し悩んだ後でルイスの隣に座り、ソフィアと同じように足を伸ばした。
「さっきの集団…あれって…死喰い人よね?」
ソフィアは疑問符をつけ、2人に聞いたが──その目にはたしかな確信が宿っていた。
ドラコとルイスは平然と頷き、周りに誰も居ないかと辺りを見渡す。
「あの仮面…図書室にある昔の日刊預言者新聞で見たよ。…模様は違うけど、多分、そうだ」
「死喰い人の残党だろう」
「まだ居たのね…」
死喰い人は、ヴォルデモート卿を支持する集団を呼称する名だ。様々な犯罪や悪行を繰り返し、殆どが捕らえられアズカバンへ行ったか、ルシウスのように服従の呪文下にいたと主張した者もいる。
陰でまだ死喰い人が居る──とは、噂で聞いた事はあったが、まさかこんな所で現れるとは思わなかった。
勿論興奮からついハメを外してしまった──とも、考えられない事もない。隠れていただけでこれだけの仲間が居るのだと誇示したくなったのかもしれない。だが、ここには魔法省の魔法使いや、警備の者が沢山いる。そんな中でその仮面をつけてマグルを虐げるなど──罪が重くなるだけだ。
「まぁ、…すぐ捕まるんじゃない?」
ルイスが希望混じりにそう呟いた時、遠くの木々の梢の間から緑色の強い光が上がった。
ソフィア達は言葉を止め、それを見上げる。
エメラルド色の輝きが集まり、現れたのは巨大な髑髏だった、その髑髏はふわりと奇妙に歪み口を開くと長い舌のように蛇を吐き出す。
蛇はぬるぬると動き、森の上から人々を見下ろした。
「──っ!?」
「ま、まさか!?」
ソフィア達は思わず立ち上がり、空に浮かんだ髑髏を見上げる。すぐに周囲から爆発的な悲鳴と共にがさがさと走り去る人々の足音が聞こえた。
緑の靄がかかったようなその髑髏は不気味で、なによりも恐ろしく、ソフィアはぐっとルイスに抱きつき怖々それを見上げた。
「や──闇の印…」
ルイスはソフィアの肩を抱き、顔をこわばらせてそれを見上げる。
あれは、ヴォルデモートの証──不幸と不吉の象徴だ。魔法族の者なら、あの印が何を意味するのか知っている。
ドラコは空に上がる髑髏と蛇から離れるように、じりじりと後退した。
「ルイス、ソフィア…この場から離れよう」
「うん…」
「ええ、そうね…」
ドラコの真剣な声に頷いた2人は、杖先をルーモスで光らせながら、闇の印から逃げ惑う人々の群れに加わった。
「一度…キャンプ場の様子を見に戻らないか?」
「…んー…そうね、かなり時間も経ったし、もう落ち着いてるかもしれないわ」
「くれぐれも気をつけようね」
ドラコの提案にソフィアとルイスは人の波に流されるように森の外へ向かう。逃げ惑う人々の顔は恐怖と混乱に染まり、中には泣き叫ぶ者もいた。──それほど、あの印は当時を生きていた大人にとって恐怖そのものだった。
ソフィア達はヴォルデモート卿の全盛期を知らない。覚えていないほど幼かったのだ。当時は毎週のように死者や行方不明者が現れていた、それも1人や2人ではない──何十人もの魔法使いと魔女が、一夜にして亡くなった。中には一家全滅させられ、家系図から消えた一族もいた。それ程、ヴォルデモート卿の力は巨大であり、抗えぬ恐怖は、今でも忘れられぬ悪夢を植え付けていた。
ルイスは先頭を走り、森とキャンプ場の際までくると足を止めソフィアとドラコに止まるように無言で手を広げ指示をした。2人は近くの木の幹に身を寄せ、無言で頷く。
そっとルイスはキャンプ場の方を見たが──沢山の人はいるが、どうやら死喰い人の姿は無い。
所々で燃え尽きたテントが黒い煙を上げて燻っていたが、暴動のような喧騒はもうすっかりと消えていた。自分のテントの無事を確認しにいく人々がウロウロと不安げにキャンプ場を歩き回っている。
「良かった、キャンプ場での騒ぎは収まってるみたいだ」
「…アーサーさん達、無事かしら…。テント、燃やされてたら…どうしましょう」
「…孔雀はどうなっただろうか」
ドラコはぽつりと呟く。
ルシウスは孔雀が好きであり──マルフォイ家でも数羽の美しい孔雀を飼っている。周りにその美しさを見せびらかせる為に連れて来ていたが、あの時は孔雀の事など思い出さなかった。もし孔雀が焼け死んでしまったら…
「あ、やっぱりあの孔雀ってドラコの家の孔雀だったのね?」
「…見てくる。父上と母上も、戻っているかもしれない」
「ちょっと!1人で行っちゃダメだ。行くなら──みんなでだ、いい?ソフィア」
「…ええ、勿論よ」
そわそわと不安げに目を揺らし落ち着かない雰囲気のドラコを見ていると、すぐ近くにウィーズリー家のテントがあるから先に行きたいとはどうしても言えなかった。
ソフィアは数十メートル離れた先のテント群を見て、どうか皆が無事でありますように、と願った。
ソフィア達が森を抜けようとした途端、目の前の空が歪みパッと黒い陰が現れる。
ルイスは驚き足を止め、その背中にドラコとソフィアがぶつかった。
「きゃっ!」
「な、なんで止ま──」
ドラコとソフィアはそれぞれ額を押さえながらルイスの背を睨み、直ぐに後ろから覗き見た。
「ジャック!」
「ソフィア、ルイス、ドラコ…無事か?」
「うん、無事だよ、ジャックは?」
ルイスの目の前に現れたのはジャックだった、ジャックはソフィア達に怪我がない事を知るとほっと表情を緩める。
「ジャック、ハリー達とはぐれちゃったの!どうしましょう…心配だわ…闇の印も、上がっていたし…」
ソフィアは不安げに瞳を揺らし、ジャックに訴えたが、ジャックは少し曖昧に笑うと「あー…」と言い淀み頭を指でかいた。
「ハリー達は見つかった。アーサーがテントに連れて行ってる。…まぁ、無事かというと──」
「まさか!怪我をしてるの?」
「いや、違う。ピンピンしてるよ。──色々あってな。…後で説明する。…ドラコ、家のテントの前でルシウスとナルシッサが探していたよ。かなり心配してる、すぐに戻ろう」
「…はい」
言い淀むジャックの不穏な反応に、ソフィアとルイスは顔を見合わせ心配そうに眉を下げたが、後で説明があるのなら、と無言で頷き合いジャックに付き添われマルフォイ家のテントに向かった。
城のような豪勢なテントの前では一羽の孔雀を抱き、そわそわとテントの前で行き来をするルシウスと、蒼白な顔をして胸の前で指を組んでいるナルシッサが居た。
「ドラコ!」
「母上…」
ナルシッサはドラコに気付くとすぐに駆け寄り強く抱きしめ、ルシウスも側まで走り寄りしっかりとドラコの肩を掴んだ。
ドラコは、これほど母が外で感情を出し、取り乱すのを見たことが無く驚いたが──それでも、心配をしてくれたのだと分かるとこそばゆいような喜びがじわじわと胸に広がり、その背中に手を回した。
ナルシッサはしばらく抱きしめていたが、ドラコを離すと身体の隅々まで見て、怪我が無いか確認し、ようやく安心したように硬まらせていた表情を緩める。
「無事で、良かったわ…。ジャック、本当にありがとう」
「いや、ドラコとずっと居たのはルイスとソフィアだ」
「ありがとう、ルイス…ソフィア…」
涙の膜を張るナルシッサの瞳と、震える声に、ソフィアとルイスは少し微笑み首を振った。礼を言われるような事は何もしていない。ただ、側にいただけだ。
「いえ。そんな…ナルシッサさんと、ルシウスさんも…あと、孔雀も、無事で良かったですね」
ルイスがルシウスの腕に抱かれている孔雀と、足元で悠々と歩く孔雀を見て笑う。
何とも滑稽な光景だったが、場に満ちていた緊張感が少し緩み、ナルシッサも薄く微笑んだ。
「ソフィアとルイスは、家に帰るぞ」
「え?…でも、私…荷物をアーサーさんの所に置きっぱなしだわ」
「あとで俺が届ける。……早く帰らないと、セブがここに来ちまうからな」
「えっ?…もう、知ってるの?」
ジャックは少し困ったように笑うと「俺が教えた」と短く告げ、それ以上説明する気は無いようで、一度ソフィア達から目を離しルシウスを見た。
「ルシウス、
「…当たり前だ」
「──だよな。わかった、信じる」
ジャックの意味深な言葉に、ルシウスは苦い表情で頷く。何を意味しているのか──それが分かったのは、2人以外ではナルシッサだけだろう。ルシウスの妻であるナルシッサは、彼が死喰い人だったと勿論知っている。──ドラコも知っていたが、まだその言葉の意味を察することが出来るほど聡くは無い。
「ジャック、お前はどうなんだ」
「俺も、違う。──俺の子ども達にかけて」
「…そうか」
「……ルイスの荷物は?」
「…待っていろ」
ルシウスは孔雀を抱えたまま城のようなテントに入る、少ししてトランクを持ち戻ると、ジャックに手渡した。
ジャックとルシウスの会話を聞いて、ソフィアとルイスは何かがまた、起こっているのだと理解した。──闇の印、の事だろうか。だが、それが何の関係があるのだろう。ルシウスは──例のあの人に服従の呪文をかけられ、無理矢理従わされていた筈だ。まさか…それは、秘めやかに噂されるように…虚偽なのだろうか。
「ありがとう。…じゃあ、また」
「…ドラコ、また…ホグワーツで」
「ホグワーツで会いましょう、ドラコ」
「ああ…」
ソフィア達は短い別れを告げ、ジャックの腕を掴んだ。
ソフィアは少し、ここに残りたい気持ちがあった。ハリー達に別れも言えていない、急に居なくなってきっと──後でジャックが説明しに行くだろうが──心配しているだろう。
しかし、ソフィアの思いを置き去りにし、3人はセブルスの待つ家へと姿現しをし戻った。
本来、他人の家の中に姿現しで訪れるのはかなり無礼な事にあたるが、今は緊急事態だ、セブルスも何も言わないだろう。──と、ジャックは足が床を踏み締め、空気の匂いが変わったのを感じながら思う。
「ソフィア!ルイス!──無事か?」
「父様…」
「ええ、無事よ。何にも怪我はしてないわ」
ジャックの予想通り、セブルスは少しも気分を害する事なく──むしろ、そんな事今は考えている余裕も無いのだろう。ソフィアとルイスを2人まとめて抱きしめ、怪我ひとつない子どもたちを見て、ようやく肩の力を抜いた。
「セブ、俺はまた戻る。アーサー達にソフィアとルイスの無事を伝えなきゃならないし…あっちのことを探ってみるよ」
「ああ…一体、何が…」
「わからない。……また、後で」
ジャックはすぐに姿くらましをし、その場から消える。
ずっと表情が険しい大人たちを見ていたソフィアとルイスは──何があったのか、漠然とした不安に駆られていた。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス