【完結】スネイプ家の双子   作:八重歯

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173 お引っ越し!

クィディッチ・ワールドカップでの騒動の翌日──いや、数時間後と言うべきだろう──ソフィアとルイスは疲れから昼近くまで安眠を貪り、ぼんやりとした目を擦りながら体を起こす。

 

 

「おはよう、ルイス」

「…おはよう、ソフィア」

 

 

もう2人は14歳が近い。だがこの家は2人に個室を与えるほど部屋数が多くはない為、いつまで経っても異性であるが──同室だった。特に問題はない、とソフィアは思っていたが、ルイスはれっきとした男であり、思春期に差し掛かっている彼はそろそろ個室が欲しいと思っていた。

勿論、ソフィアの着替えを見てもなんとも思わず──見ないように、はしているが──異性として意識などしていないが、どうしても意識の外にある生理的現象は、避けられない。

 

 

「…?どうしたの?着替えないの?」

「……うーん、僕、まだ眠いんだ…」

 

 

ルイスは自身の体に起こっている一部分の変化を悟られまいと、再び頭まですっぽりと布団の中に潜り込みじっと心を静かにさせた。初めてこのような状況になった時は戸惑ったが、心を無にしたり、勉強のことを考えれば自然と落ち着くと知っている。

 

 

「ふぅん?私は先に行くわね」

「うん」

 

 

ルイスが何に格闘しているか知らないソフィアは不思議そうにしたものの、昨日は色々ありきっと疲れているのだろうと、無理に揺り起こす事は無かった。

昨日の一件が無ければ、ソフィアはルイスを揺り起こし無理矢理その布団を剥ぎ取っていた事だろう。

 

 

ソフィアは着替え終わり、何食わぬ顔で部屋から出て行く。ルイスは扉が閉まった後暫くたってから体が平常に戻った事を確認しゆっくりと身体を起こしため息をついた。

 

 

「…父様にまた。相談しようかなぁ…」

 

 

夏休みが始まってすぐに、ルイスは一度セブルスにどうしようもない生理現象の事を相談していた。何となく気恥ずかしかったが相談できるのは父親であるセブルスだけだった。

顔を赤らめ気まずそうに告げられた言葉に、同性であるセブルスは、勿論その気持ちがよくわかった。

むしろ、今までその事に思い当たらなかった自分を責めたほどだ。きっと、ルイスはそのことを父親であっても告げたくは無かっただろう。

 

寝巻きから普段着に着替えながらルイスはぼんやりとセブルスとの会話を思い出していた。

 

どうにか対処する。と約束してくれたが──あれから何も言ってはこない。

いっそのこと、父の部屋で寝ようか。

だが、きっとそれを知ったらソフィアは何故ルイスだけが父の部屋で寝るのかと納得のいくまで質問するだろう。──流石に、ソフィアに男性の生理現象の事を説明するのは、兄妹であっても──兄妹だからこそ──嫌だった。

 

ルイスはのろのろと着替え、微かに聞こえるセブルスとソフィアの話し声が漏れる居間へと向かった。

 

 

 

「おはよう、父様」

「ああ、おはよう」

「──あっ!父様、今日ホグワーツに行く日よね?もっと早く起きればよかったわ!」

 

 

遅い朝食を食べていたソフィアがはっとして残念そうに叫ぶ。ルイスも壁にかけられていたカレンダーを見て、そういえばそうだ、もっと早く起きて少しの家族の時間を楽しめばよかったと後悔した。

ホグワーツの教員であるセブルスは、夏休み中ずっと家に帰宅しているわけではない。寮長でもあるセブルスは他の教師と比べ担う仕事量が多かった。

 

 

「…明日まで、休みを延長した」

「え?そうなんだ。…珍しいね」

「やったわ!後1日長く居れるのね?」

 

 

セブルスはかなり寝坊している2人を起こすつもりは無かった。

今日の深夜にはホグワーツに戻る予定だったが、セブルスは朝早くからホグワーツに向かい、ダンブルドアに一日の休みの延長を申請し、少しの余裕が出来ていた。いや──余裕かどうかは、わからないが。

 

読んでいた日刊預言者新聞を畳み、机の上に置いたセブルスは朝食を取るソフィアとルイスを見て2人の名を呼んだ。

 

 

「ソフィア、ルイス。…朝食後直ぐに出掛ける。早めに済ますように」

「え?どこに行くの?」

「何かあったっけ…?昨日の、騒動のことで…?」

「いや。──引っ越しだ」

「えっ!?」

「引っ越し!?」

 

 

さらりと告げられたセブルスの言葉に、ソフィアとルイスは目を見開きぽかんと口を開けた。

昨日の騒動の一件を聞きたかったが、引っ越しの衝撃によりすっかりとその事は思考の端に追いやられる。

 

 

「引っ越しって。なんで、また…?」

「…2人はもう幼児では無い。そろそろ個人部屋を持たねばならん。…この家ではそれを叶える事は出来ないからな」

「えー…別に──」

「引っ越し賛成!!」

 

 

ソフィアは口を尖らせたが、ルイスは勢いよく立ち上がると右手を大きく掲げ賛成の意を示した。

1人部屋が欲しいという願いが、こんな形で叶えられるとは思わなかったが、ルイスはちゃんとセブルスが考えてくれていた事が嬉しくにっこりと笑う。

それを見たソフィアはつまらなさそうにし、じとりとした目でルイスとセブルスを見る。

 

 

「引っ越しなんて…急ね」

 

 

ソフィアは呟き、少し冷めたなった紅茶を飲む。

実際、かなり急だろう。引っ越しを考えているなんて、微塵も知らなかった。

 

 

「良い物件が見つかったんだ。…きっと、気にいるだろう」

「んー…私、この家好きよ?」

 

 

ソフィアは狭く、古い内装の室内を見回しながら言った。

人もなかなか呼べないような狭さではあるが、ソフィアはこの家が好きだった。沢山の本に囲まれ、何をしていても家族の姿が視界の端に映る。身近に家族の気配を感じる事が出来──さらに、亡き母と兄が過ごしていたこの家から引っ越すなんて、考えた事もなかった。

 

 

「…この家を手放すわけではない」

「あ、そうなんだ?」

 

 

セブルスは部屋の中を見回しながら頷く。

この家はセブルスが幼少期から暮らしていた家だ。当時、この家で過ごす中での楽しい記憶は微かにしかなかったが、両親が死に、アリッサと暮らし始めて──辛い記憶は幸福な記憶で塗り替えられた。

そんな思い出の残る家を、セブルスも手放すつもりは毛頭もない。

 

 

ただ、ルイスは思春期だ。

 

 

流石に兄妹とは言え、同じ部屋で過ごすのは──あまり、よくないだろう。

ルイスは意識では制御することのできない生理現象に悩まされていたし、流石に男と女に成長しつつある2人を、たとえどれだけ仲が良かろうとも共同部屋にし続けるつもりは、セブルスには無かった。

 

実は、セブルスは夏休みになりルイスに相談されてから新居を探しており──既に納得のいく家を購入していた。しかしその契約を交わしたのはソフィアとルイスがクィディッチ・ワールドカップに向かう1日前であり、その後の予定を考えたがどうも引っ越しの準備をするのは難しく──来年に引っ越せば良いだろう。と思っていたのだ。どうせ、少し経てばホグワーツで過ごすことになるのだから、急ぐ事はないだろう、と。

 

 

しかし、引っ越しの時期を無理矢理今日に設定したのは、ルイスが理由ではない。

 

闇の印が上がった今、この家が死喰い人に漏洩している可能性を否定できない。そんな家にこの2人を置いておくのは、嫌だった。

 

無理にでも、とりあえず2人が避難できる場所を──として、セブルスは休みを一日延長し、今日明日で引っ越しを完了させるつもりだ。

 

 

「この家に、戻ってこれるの?」

「ああ、勿論だ」

「なら…まぁいいわ!うーん、1人部屋ねぇ…変な感じだわ…」

「夜に眠れなくても、頑張って寝るんだよ?」

 

 

ルイスがにやりと笑って言えば、ソフィアは肩をすくめて「うーん…初めは慣れなくて夜中に起きちゃうかも」と呟いた。

 

 

 

その後直ぐに食事を済ませたソフィアとルイスは、自室に戻りあまり多くはない私物を検知不可能拡大呪文をかけたカバンの中に次々と服や本、玩具などを放り込んだ。ある程度の家具は揃っているとセブルスから伝えられていたため、部屋にある家具はそのままにし、既に出発の準備が整っているセブルスの元へ近づく。

 

 

「新居はどこにあるの?」

「ホグズミード村の外れだ」

「えっ!?ホグズミード村!?やったぁ!休み中はいつでもゾンコやハニーデュークスに行けるね!」

 

 

イギリスで唯一魔法使いしかいない村──ホグズミード村は魔法使いにとって特別な場所である。中心部から外れた場所だとしても、ホグズミード村の住人になれる事は魔法使い達にとって、ある一種のステータスとなっていた。

 

 

「準備は整っているか?」

「うん!」

「万全よ!」

 

 

ソフィアとルイスは左右からセブルスの腕に掴まり、見上げてにっこりと笑う。

頬を赤く染め期待に胸を膨らませる2人を見たセブルスは静かに姿くらましをし、慣れ親しんだ家から移動した。

 

 

 

周りの景色が変わり、瞬き一つする間に目の前に大きな家が建つ景色へと変わった。

大きな、とは言っても今まで暮らしていたスピナーズ・エンドにある家と比べれば大抵どんな家でも大きく見えるものだ。

しかし2人はその家を一眼見た途端歓声をあげ、セブルスの元から離れると楽しそうにはしゃぎながら家の周りを探索した。

 

その家は少々古かったが、立派な深い茶色の煉瓦造りの家であり、外観はかなり美しかった。外観は二階建ての一般的な英国住宅だろう。

ホグズミード村から少し離れたその家の後ろには鬱蒼とした森が広がり、まるで隠れ家のようだった。

 

 

 

「庭まであるのね!」

「雑草が多いね、木も伸び放題だし、後で剪定しなくちゃね!」

「わー!見てみて!ノッカーの形が変わっているわ!…うーん、獅子かしら?」

「ねえ父様!入って良い?」

 

 

 

 

家の周りを見回っていた2人は目を爛々と輝かせ待ちきれないというようにそわそわとその場で足踏みをする。セブルスが頷いた途端2人は玄関扉を開け、新居の中へと入った。

 

 

 

「わぁー……」

「す、すごい…」

 

 

感嘆の声を漏らし、2人は玄関からリビングへの扉を開ける。

広々とした吹き抜けのリビングは白い壁と、茶色い木枠にそれに合うような英国家具が並ぶ。使い込まれているその家具は元の持ち主が丁寧に磨いていたのだろう、鈍く光り、ソフィア達を迎え入れた。

 

部屋の中央にはローテーブルがあり、その脇には肘掛け椅子が二脚、大きなソファが一つ。奥には暖炉がある。

 

 

「……父様、かなり…良いお家ね?」

「めちゃくちゃ高そうだね」

「大丈夫なの?お金とか…」

 

 

アンティーク家具が並ぶこの家は、新築では無いとはいえ、間違いなくかなりの値段がしただろう。

だがセブルスは「子どもがそんな心配をしなくていい」と眉を寄せながら答え、2人に二階にあるそれぞれの1人部屋の場所を伝えた。

 

ソフィアとルイスは滑らかな木製の手すりを撫でながら階段を駆け上がり、楽しそうに1人部屋を見に行く。

1人リビングに残ったセブルスは持っていたカバンを机の上に置き開く。2人が自室を確認している間にある程度生活できるように片付けてしまおう、と、杖を振り食器類や本を棚の中に入れていった。

 

たしかに、この家は安くはない。

安くはないが、セブルスには十分な資金があり問題なく買う事が出来た。2人の安全を少しでも確かなものにするためなら、安いものだとセブルスは表情を緩める。

 

 

ソフィアとルイスは2階の踊り場から伸びる廊下を歩いていた。壁には昔の移住者がそのままにしたのだろう草花のレリーフのついた大きな鏡や風景画がかけられていた。

廊下は歩いてもギシギシと音が鳴る事はなく、2人は廊下の1番奥にある、向かい合って並ぶ扉の前で止まる。

 

 

「ここが…1人部屋かな?」

「開けてみましょう」

 

 

それぞれの扉を開けて、中の様子ともう片方の部屋の様子を見比べる。

中はベッドと本棚、勉強机に椅子、そして箪笥があり、部屋の広さや家具までも全く同じだった。

 

 

「きっとここね!」

「じゃあ、僕は片付けるよ、後でね!」

「ええ、後で!」

 

 

ルイスと離れることに少し寂しさを感じていたソフィアだったが、ルイスの嬉しそうな表情を見ると何も言えず、ソフィアはにっこりと笑って扉を閉めた。

 

 

「──さて!片付けちゃいましょう!」

 

 

ソフィアはカバンの中身に向かって杖を振り、ふわりと浮遊させると次々と新しい居場所へと納めた。

ややシンプルな作りの部屋だ。今後、どのように作り替えていこうか?どうせなら、ジニーの部屋みたいに可愛くするのも良いかもしれない。

部屋を見渡しながらソフィアは寂しさを紛らわせるように楽しい想像に没頭した。

 

 

 

ルイスもソフィアと同じようにカバンの中身を片付けると、ベッドの上に寝転び嬉しそうに微笑む。

念願の1人部屋だ。勿論、同じ部屋にソフィアが居ないとわかると──少し、寂しい。

だが、もう良い年齢なんだし、寝室くらいは離すべきだろう。

 

 

 

「ソフィア?片付け終わった?」

「ええ、終わったわ!父様のところに行きましょう!」

「うん!」

 

 

ソフィアはルイスの手を握る。ルイスも、振り払う事なく、手を繋いだまま階段を降りた。兄妹にしては、距離が近い2人だが──それが一般的ではない事だと2人は気が付かない。

 

そのまま仲良くリビングに着いた2人は、いつの間にか元いた家のように本棚に本が収まり、窓際にある棚の上に家族の写真立てが並んでいた。

 

 

「片付けは終わったか?」

「うん、ばっちり!」

「あとは家の周りの掃除ね!」

「そうか…ソフィア、ルイス。そこに座りなさい」

 

 

セブルスは2人に肘掛け椅子に座るよう促し、2人は言われた通り素直に従いセブルスを見上げる。ふわふわとしたクッションはなかなか座り心地も良く、読書が捗りそうだ。

 

 

「この家のことは、ジャックにしか伝えてはならん」

「え?…どうして?ドラコは?」

「折角広いお家だし…ハーマイオニーを呼びたかったわ!」

「…私が良いと言うまで、駄目だ」

 

 

きっぱりと言い切られてしまい、ソフィアとルイスは顔を見合わせる。なぜ、引っ越した事をジャック以外に言ってはならないのだろうか?

 

 

「2人は…ホグワーツでは親が居ない事になっているだろう」

「…?…そうね?」

「その2人が新居を持つなど。怪しまれるとは思わないか?」

「あー…でも、ドラコとハーマイオニーは、父様の事を知ってるのに…」

「どこで漏れるかわからない。…ホグワーツを卒業するまでは、誰にも告げてはならん」

 

 

確かに、 セブルス()の言う言葉は一理ある。

ハーマイオニーはともかく──ドラコは秘密を伝えられた優越感からハリー達にそれを暗喩するような事を仄めかしてしまいそうだ。

何かとハリーに対して対抗意識を持つドラコの事だ、ニヤニヤしながら「ポッター、君はルイスの──ああ秘密だったか」といつものように気取った口調で言うドラコを簡単に想像できてしまい、ルイスは苦笑いをこぼす。

 

 

「まぁ…それなら仕方ないわね…」

「うん、残念だけど。卒業してからの楽しみにしようかな!」

「そうね!…ねえ、今日からここで寝るの?」

「…いや、今日は一度帰ろう。まだ運びきれなかった家財を何往復かして運ばねばならん…」

「そうだね…頑張りましょう!」

「おー!」

 

 

張り切って拳を上げるソフィアとルイスに、セブルスは優しい眼差しで微笑みかけ立ち上がる。

ソフィアとルイスもつられるように立ち上がり、セブルスの腕に掴まった。

 

 

 

ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?

  • ドラコ
  • ハリー
  • フレッド
  • ルイス
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