列車が北に進むにつれ、雨はさらに激しさを増しコンパートメント内が薄暗くなった所で、ようやく車内灯がつき、車内を煌々と照らす。
昼食のカートが通路を巡回し、生徒達に様々なものを販売する中ソフィアは昼食セットを買い、ハリーはみんなで分けるために大きな大鍋ケーキを購入した。
「そうだ、ロンとハーマイオニーにはもう伝えたんだけど…実は…」
ハリーは大鍋ケーキを食べながらふと思い出したように、ソフィアに頭の傷痕が痛んだ事と、やけに生々しく感じた悪夢の事を伝えた。
ソフィアは昼食に買ったサンドイッチを食べていた手を止め、真剣な顔でその話を聞いていたが、ハリーが全て話し終えた途端に難しい顔をして黙り込んだ。
「夢…にしては、嫌な事件が続くわね。…死喰い人が現れてなくて、闇の印も上がっていなければ…なんとも思わないけど…」
「たかが夢だ!」
真剣なソフィアの声に、ロンは馬鹿馬鹿しいと言うように言い切るが、視線は空を彷徨い泳いでいた。
「それに、トレローニ先生の言ったことも気になって…」
「え?何かあったかしら…?」
「あれ?言ってなかったっけ…?えっとね、──闇の帝王は再び立ち上がるであろう、召使いの手を借りて──とかだったと思う。その予言の日の夜に、ワームテールが逃げたんだ。その時のトレローニ先生はいつもと違ってた、何かが憑依してるみたいで、声も男の人っぽくて…」
「…そうだったの…うーん…もし次に傷痕が傷んだら、すぐに教えて?」
「うん、わかった」
ソフィアの声は真剣そのものであり、ロンのように気のせいだと言うわけでも、ハーマイオニーのように心配のしすぎだと言う事もなかった。ハリーが想像したように真剣に受け止め、心配している表情のソフィアを見ると──何故か、胸の奥がざわついた。喜び、だろうか。
ハリーは胸を抑え首を傾げていたが、シェーマスとディーン、それにネビルが扉を開けて入ってきた事によりその傷痕の話はそこで終了した。
ソフィアはハリー達とクィディッチの話で盛り上がり──30分で飽きたハーマイオニーは教科書を出し四年生の勉強の予習をしていた──クィディッチ・ワールドカップに行けなかったと嘆きしょげているネビルを元気づけようと、ロンが荷物棚に置いているトランクの中からクラムの人形を引っ張り出した。
「うわー!」
「僕たち、クラムをすぐそばで見たんだぜ?貴賓席だったんだ──」
羨ましそうにクラム人形を目を輝かせて見るネビルに、ロンは自慢げにどれだけクラムが勇敢で素晴らしかったかを伝えようとしたが。
「君の人生、最初で最後のな、ウィーズリー」
ロンの明るい声は突如現れたドラコの冷ややかな声により遮られた。
ディーン達がコンパートメントの扉をきちんと閉めなかったせいで彼らの会話は筒抜けであり、それを聞きつけからかってやろうとしたドラコが現れたのだ。勿論隣にいるルイスは額を押さえめんどくさそうな目でドラコを見つめ、ハリー達に「ごめんね」とジェスチャーで謝った。
その後ろにはドラコの腰巾着のクラッブとゴイルが手にお菓子を持ちもぐもぐと食べながら突っ立っていた。
「マルフォイ、お前を招いた覚えはない。…ルイスは入っていいよ」
「ありがとうハリー。ごめんね、ドラコのこれは──趣味なんだ」
肩をすくめてルイスが呆れたように言えば、くすくすとディーン達はドラコを見て笑う。ドラコはその青白い頬をカッと赤らめルイスを強く睨んだが、ルイスはじとりと睨み返し「事実でしょ」と言い返した。
「チッ……。…ウィーズリー、何だい?そいつは?」
苛々としながら何か馬鹿にできるきっかけは無いかと目敏くコンパートメント内を見たドラコは、ピッグウィジョンの籠にかけられている黴が生えたようなフリルとレースが付いているドレスローブを指差した。
ロンはローブを隠そうとしたが、それよりもドラコの方が早く袖を掴んで引っ張った。
「これを見ろよ!ウィーズリー、こんなものを本当に着るつもりなのか?言っとくけど…1890年代に流行した品物だ…」
「クソっ!!」
嘲りにやにやと笑いながら言うドラコに、ロンは髪色と同じ程怒りで顔を赤く染めるとローブを手から引ったくった。
ドラコの高笑いに釣られてクラッブとゴイルも巨大を揺らせてゲラゲラと笑う。
「うーん。…その首元のフリルと、袖のレースさえ無ければまだマシかも。後で魔法で取ろうか?」
「えっ、うん!お願いしていい?」
ルイスは茶色いそのドレスローブを見て笑う事なく言った。茶色のそのローブはロンの髪色にとても合っているような気がするし、何よりロンは身長が高い。レースとフリルさえなければそれなりに見える──だろう。
ロンは必死になってルイスに頼み込み、ルイスは快くにっこりと笑い頷いた。
「フン…。…それで?エントリーするのか、ウィーズリー?頑張って少しは家名を上げてみるか?賞金もかかってるしねぇ…勝てば少しはマシなローブが買えるだろうよ」
「何を言ってるんだい?」
「エントリーするのかい?」
訝しげな顔で噛み付くロンの言葉に、ドラコは再度同じ言葉を繰り返した。
全く意味がわからない、という表情をするロン達を見たドラコは意地悪げにほくそ笑み、馬鹿にしたように言った。
「君はするだろうねぇ、ポッター。見せびらかすチャンスは逃さない君の事だし?」
「ドラコ!その事は言っちゃダメなのよ?私も黙ってたのに!」
「そうだよ、楽しみをドラコから伝えられるなんて、ハリー達がかわいそうだ!」
ソフィアとルイスはドラコが三大魔法学校対抗試合の事を言っているのだとすぐに察する事が出来、鋭く注意した。ややルイスの言葉はドラコの事を酷い扱いで注意したが──ハリー達がそれを知らない事に有頂天となっていて気がつかない。
「君たちは知らないんだ?父親も兄貴も魔法省に居るのに?父上なんてすぐ教えてくれた…コーネリウス・ファッジから聞いたんだ。まあ、父上はいつも魔法省の高官と付き合ってるし…多分、君の父親は、下っ端だから知らないのかもしれないな……そうだ、きっと、君の父親の前では重要事項を話さな──いっ!!…っ、な、何をする!?」
つらつらと優越感に浸りながら話していたドラコの形の良い後頭部をルイスはばしりと後ろから叩き、頭を押さえ振り返ったドラコを批難的に見つめる。
「ごめん、小蝿がブンブンうるさくて。…それ以上ロンの家の事を侮辱するなら僕は君を心から軽蔑する」
「…っ…チッ…行くぞ!」
冷ややかなルイスの目と言葉に、ドラコはぐっと言葉に詰まると肩を怒らせて踵を返し、突っ立っているクラッブとゴイルに怒号を飛ばす。
いきなり八つ当たりされたクラッブとゴイルは「お、おう…?」と小さく首を傾げながらドラコの後を追いかけた。
「…ルイス、付き合う人間は選んだほうがいい、ルイスまで嫌なやつだと思われるぜ?」
ロンはドラコが去っていった扉の先を睨んでいたが、静かに──怒りを滲ませて重々しく吐き捨てる。
ハリー達も同調するように頷いたが、ルイスは困ったように眉を下げて肩をすくめ、コンパートメントを出ながら呟いた。
「…ごめんね、ロン。あれでも…僕にとっては親友なんだ、…一応ね」
親友、その言葉にロンは大きく目を見開く、何故あんなに素晴らしい人が、あんな嫌な奴を親友だと言うのか──苛々とした気持ちが押さえられず、ロンはコンパートメントの扉を勢いよく力任せに閉めた。
ガチャン!と大きな音が鳴り響き、扉にはまっていたガラスが割れる。
「落ち着いて、ロン。──
ロンは怒ったまま椅子にどかりと座り、苛々と足を動かす。ソフィアはすぐに杖を出すと割れたガラスを元通りに戻した。
「フン…やつは何でも知ってて、僕たちは何も知らないってそう思わせてくれるじゃないか……パパなんか、いつでも昇進できるのに、しないだけなんだ。今の仕事が気に入ってるだけなんだ…」
「その通りだわ」
悔しそうなロンの言葉に、ソフィアは優しく頷き、怒れる肩を落ち着かせようとポンポンと叩く。
「クィディッチ・ワールドカップで、色んな人がアーサーさんに挨拶してたのを見たわ。アーサーさんは沢山の人に好かれて、尊敬されてたもの!本当に、素晴らしい能力を持ってるんだと思うの。それなのにそれをひけらかさずに、自分の仕事に誇りを持っているアーサーさん──ロンのお父さんは素晴らしい人だわ!」
「…ウン、…ありがとう」
ロンは「でも、褒めすぎだよ…」と照れたように謙遜しつつも──実は同じことを思っていたため、怒りを収めると嬉しそうに微笑み、残っている大鍋ケーキを1つ摘み上げ「半分こする?」とソフィアに聞いた。
「それにしても、今でも…ルイスがスリザリンなんて信じられないなぁ」
ドラコとロンの言い合いを静観していたディーンがしみじみと呟く。ディーンはそれ程ルイスと親しいわけではなかったが、ルイスに関する噂を聞く限り、どうもスリザリン生らしくないと思っていた。
「ルイスは『スリザリン唯一の良心』だからな」
シェーマスもディーンの言葉に頷き、ついスリザリン生以外で密やかに言われているルイスを表す言葉をぽろりと溢した。
「何それ?初めて聞いたわ」
悪い意味では無さそうだが、唯一の良心とは──中々の言葉である。ソフィアは怪訝そうに眉を寄せたが、ディーンとシェーマスは顔を見合わせると、ニヤリと笑い説明を始めた。
「ほら、ルイスってスリザリン生らしくないだろ?それに、他寮の生徒にも公平に優しいしさ。さっきみたいにマルフォイの暴言を止めたりもする──だから、陰で『唯一の良心』って呼ばれてるんだ」
「うーん…まぁ、スリザリン生は排他的だから…優しい人も居るんだけど…」
「ええ?ルイス以外に?」
ディーンは信じ難いのか、驚いたような声を出す。
ソフィアは確かに人の好みが分かれるだろうが──彼らは、家族だと受け入れた者のみ、優しいのだと、それを知っているため複雑だった。
「…ま、少なくとも私の両親は…スリザリン生だったもの」
「……まじで?」
「まじ、よ」
ソフィアの言葉に、初めてそれを知ったディーンとシェーマスは「しんじらんねぇ!」と大きな声で叫んだ。
その後は再びクィディッチの話で盛り上がっていたが、ホグワーツ特急が速度を落とし始めた頃、ディーンとシェーマスとネビルは制服に着替えるためそれぞれのコンパートメントに戻り、先にソフィアとハーマイオニーが着替えるためにハリーとロンも一度コンパートメントを出た。
ハーマイオニーは扉の窓に向かって杖を振るい、昼食サンドイッチが入っていた包紙を扉にある窓にピッタリと貼り付け、外から中の様子が見えないようにした。
「さ、着替えましょう」
「そうね、えーっと…あったわ」
ソフィアはいつものように服を着替えていたが、ふと、ハーマイオニーが首を傾げてソフィアの胸を見つめる。
シャツのボタンを閉じていたソフィアは、「なぁに?」と答えハーマイオニーの目線を追い、自分の胸元を見た。
「ソフィア、それ…そのブラ、サイズあってるの?」
「え?…サイズ?…さあ…多分…」
「…、…いつ買ったものなの?」
「えーと……何年前だったかしら…」
「まぁ!」
ハーマイオニーは驚き、ソフィアの胸元をまじまじと見た後「ちょっと見せて」と言い後ろに回るとシャツを捲り上げる。ソフィアは少しくすぐったそうに笑ったが、ハーマイオニーの好きにさせていた。
「……絶対サイズ合ってないわ!」
「え?…こんなものだと思ってたわ…」
「キツくないの?」
「うーん…?ずっとつけてるから、わからないわ」
「…まさか、寝る時も?…その、寝る時専用のナイトブラじゃなくて…?」
「……マグルの世界ではそれが当然なのか…魔法界でもそれが当然なのか、わからないけど──寝る時って外すものなの?専用のブラがあるの?」
「……。…後で、ラベンダー達にも聞いてみましょう。新しいブラも、買った方がいいわ。後で測ってあげるから…。ちゃんとしたサイズをつけないと、胸の形は崩れるし…成長しないわよ」
「…それは、困るわ」
ソフィアがここまで無知なのはきっと、母親が居ないせいだとハーマイオニーは思い、ソフィアを責めることなく──言いたい事は色々あったが──ぐっと言葉を飲み込むと、ソフィアの肩に手を置き真面目な顔で告げた。
ソフィアは真剣なハーマイオニーの表情にやや困惑しながらも頷いた。
ソフィアが下着のことにあまり頓着が無いのは、母親が居ない事も理由の一つだが──それとは別に、ソフィアは自分を着飾ることに女子としてはあまり頓着が無かった。この年代の女子なら化粧品を一通り揃えているものだが、ソフィアは専用の洗顔など勿論使わず固形石鹸で顔を洗い、そのままだった。流石に日に焼けるとヒリヒリする事が嫌だった為、魔法日焼け止めを塗り、寝癖のついた髪を梳かしてはいるが──それだけだ。
勿論、可愛い服や髪飾りを見ると「可愛い、欲しい」と思うが、かと言って積極的に集める事は無い。贈り物でもらえば、心から喜ぶのだが。
恋愛や化粧、女性になるための階段があり、同級生達が駆け上がっているとすれば──ソフィアはまだまだスタートラインに立っているだけなのだ。
ソフィアはハーマイオニーの様子に首を傾げたまま着替えを再開させ、ハーマイオニーも後で通販カタログやファッション誌を持ってきてないかラベンダー達に聞こうと考えながら制服に着替えた。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
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ドラコ
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ハリー
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フレッド
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ルイス