次の日の朝、夜遅くまで響いていた雷鳴はすっかりと通り過ぎていた。
ソフィアは眠たい目を擦りながら目覚め、いつものようにルームメイト達に向かって「おはよう」と挨拶をしようとして──珍しく、ハーマイオニー、パーバティ、ラベンダーの三人が机の前に沢山の本を広げ熱心に読んでいた。
「おはよう。…なに見てるの?」
「ああ、ソフィア!おはよう、ねえ、ソフィアは何色が好き?」
ぱっと顔を上げたハーマイオニーは、突然ソフィアに質問をする。
朝一番にそんな質問を向けられるとは思わず、ソフィアは首を傾げたが少し考えてすぐに答えを言った。
「え?…えーと…水色、かしら…緑色も好きよ?あとは、黒とか」
「なるほどね…これは?」
「ちょっと大人っぽすぎない?」
ソフィアの答えに、パーバティは本を指差す。ハーマイオニーは怪訝な顔をしたが、覗き込んでいたラベンダーは楽しげに目を輝かせ何度も頷いた。
「いいと思うわ!ちょっと大人っぽい方が、…ほら、ドキッとするでしょう?燃え上がるわー!」
「ねえ、何の話なの?」
自分の妄想に頬を赤らめきゃっきゃと楽しそうなラベンダーの声に、ソフィアは三人が見つめる本──いや、雑誌を覗き込んだ。
そこには美しいモデルが紙の中で様々なランジュエリーを着て、怪しく、愛らしく、ポーズをとっている。
「ソフィア、服を脱いで裸になって!」
いきなりの言葉にソフィアはぽかんとしたが、あまりに三人の目が輝いていたためなにも言えず、こくりと頷いた。
「──い、いいけど…全部?」
「上だけで良いわ、さあ、早く早く!」
困惑したままソフィアはパジャマを脱ぎ、ブラを外す。同じ時間にシャワールームを訪れた事は何度もあり、特に恥ずかしがる事は無いが…まじまじと見られ、そして上半身を顕にしているのは自分だけだという状況に、流石に少し頬を染め、恥ずかしそうに胸を手で隠した。
「何?…なんなの?」
「ほら、ブラのサイズ合ってないかもって言ってたでしょ?この雑誌で正しいサイズが測れるそうなの!」
「そうよ、この測定ページを開いて──」
パーバティはぺらぺらと雑誌を捲り、とある箇所で手を止めた。
そこには「正しいバストを計測し、適した下着をつけましょう!100歳になっても垂れないバストを手に入れる為には日々の努力が必要です!何よりまずは測定から!」という文が濃いピンク色で書かれていた。
ラベンダーがソフィアの後ろに周り、気をつけをさせるように手を下ろさせ。パーバティがそのページの──何やら目のようなものが書いてある箇所を開きながらぐるぐるとソフィアの周りを回った。
ピーッ!という小さな音が響き、「終わったわ!」とパーバティが本を持ち直し机の上に広げた。
ソフィアはとりあえず毛布を被りながら机の側により、書かれている数字を見て─首を傾げた。
「つまり…?これはどのくらいの大きさなの?」
「…ソフィア!あなた、細すぎよ!」
数字を見た途端、標準より…やや女性らしくふくよかであるラベンダーは小さく叫んだ。
「あのね、ソフィア。下着のサイズはアンダーとトップの差でわかるの。…ソフィアは、アンダーが小さいのね…細いし、身長も…ちょっと低めだもの。けれど……うーん、差はそれなりにあるもの、今つけているAでは無いのは確かね!」
「ほ、本当!?」
幼児に教えるようにゆっくりというハーマイオニーの言葉に、ソフィアは目を輝かせた。
ずっと胸が小さく体が薄い事が気になっていたが…どうやら、サイズの合っていない下着をつけていた事に理由があるようだ。
まぁ、それでも豊満なバストを持つとは、とても言えないが。
「そうね…この差だと…ソフィアは、60のCね!今つけていたのは…75のAなの!?…ソフィア、下着はちゃんとしたものを買わないとダメよ?」
パーバティはベッドの上に置いていたソフィアのブラを手に取りタグを読み驚きの声を上げると、叱るようにソフィアを見る。
たしかに、なんだかブラ紐がよく落ちるし、ずれる事もあるとは思っていたが…それは、単純に自分の胸の無さが原因なのだと思っていた。
「よし、これにしましょう!ハーマイオニーも、ラベンダーもこれでいい?」
「勿論!」
「わー!大人っぽくて素敵!」
パーバティは二人の賛成の声に満足げに笑い、杖先でトントンと一つの写真を叩いた。
するとしゅるしゅると写真の中から透明のビニル袋で包装されている上下セットになった下着が現れ、ポンっと小さな音を立てて雑誌の上に置いた。
「私たちからのプレゼントよ、ソフィア!」
「ほら、つけてみて!」
「きゃー!ねぇ知ってる?下着をプレゼントで送る意味って──」
「もう、ラベンダー?それは女の子同士じゃ意味ないでしょ?」
頬に手を当てにやにやと笑うラベンダーをパーバティが呆れたような顔で見ながらソフィアに今出てきたばかりの下着セットを渡す。
ソフィアは目をぱちくりとさせたまま下着と、三人を見たが、すぐに満面の笑みを見せた。
「嬉しいわ!ありがとう!!」
「どういたしまして!また、勉強教えてね?」
「あっ、付け心地も知りたいわ。気になってたブランドなのよね…」
「さあ、早く着替えてみて?」
「ええ!」
ソフィアはぎゅっと袋を抱きしめ──流石にここで全裸になるのは恥ずかしく、はにかみながら自分のベッドの上に登りカーテンを閉めた。
着替え終わったソフィアは自分の胸元を見て「凄いわ!!」と叫ぶ。
その勢いのまま頬を興奮で赤らめてカーテンを勢いよく開いた。
「ねえ!見て!!谷間があるわ!!」
ソフィアの小ぶり──ではあったが──の胸にはきちんと女性らしい谷間が出来ていた。
サイズの合っていないブラをつけていた頃には無かったもので、一生見る事が出来ないのかと思っていたソフィアは感激に震え目を輝かせる。
ハーマイオニー達はソフィアの喜びように、にっこりと笑い微笑ましい目でソフィアを見つめ「良かったわね」と優しく答えた。
勿論、ハーマイオニー、ラベンダー、パーバティの胸はソフィアより大きく──しっかりとした谷間があったのだが、ソフィアに言うつもりは無かった。
ソフィアはいつもの制服に着替えるが、昨日よりは主張している自身の胸を見てさらに心を躍らせ、ドレッサーの前に立つと色々な角度で自分の体を見る。
「あ!ねぇ、折角だから──」
ラベンダーの楽しげな声に、ハーマイオニーとパーバティは企むようにニヤリと笑い、3人からの視線を受けたソフィアはドレッサーの前で少し、顔を引き攣らせた。
グリフィンドールの談話室ではフレッドとジョージが友人のリーと共にどうやれば三校対抗試合に参加出来るかと頭を突き合わせて相談していた。
ロンとハリーは時計をちらりと見て、まだ女子寮から現れないハーマイオニーとソフィアの事を考え首を捻った。
「寝坊してるのかな?」
「いつもは2人の方が早いのに…珍しいね」
早くしないと朝食の時間が減っちまう。とロンは苦い顔で呟く。いつもはハーマイオニーとソフィアの方が起きるのが早く、談話室でロンとハリーの到着を待ち、共に大広間に向かうのだが──今日はまだ2人は談話室に現れていない。
同じグリフィンドール生達は次々と扉をくぐり大広間に向かっている。
まだソファに座り移動する様子のないハリーとロンを見たネビルが不思議そうに2人の元に駆け寄った。
「どうしたの?」
「ネビル…まだハーマイオニーとソフィアが来てないんだ」
「…まさか、2人とも今日の朝食をボイコットする気か?そうなら、僕は今すぐ食べに行くぜ?」
ロンは昨日のハーマイオニーの様子を思い出し、嫌そうに顔を顰める。
ソフィアはあまりハーマイオニーの行動をよく思ってなさそうだったが、優しいソフィアの事だ、一回くらいはハーマイオニーに付き合い食事を抜くかもしれない…そうハリーが思った時、きゃあきゃあと楽しげな女子達──ハーマイオニーとパーバティ、ラベンダーの声と共に女子寮から降りてくる足音が聞こえた。
自然とハリー達は女子寮を見て──ロンはやっと来たか!と呆れたように呟いた──3人に押されるようにして現れたソフィアを見た。
「あー…おはよう…」
ソフィアは恥ずかしそうにはにかみ、背をぐいぐいと押しにやにやと笑う3人に「もう!押さなくてもちゃんと歩くわよ!」と小声で呟く。
賑やかな声に顔を突き合わせていたジョージ達も何事かと顔を上げ、ソフィアを見た。
「ソフィア!どうしたの?今日、すっごくかわいいね!」
そう、一言目を言ったのはハリーでもジョージでも無く、ネビルだった。
ネビルは「わぁ!」と感嘆のため息を漏らし、キラキラとした目でソフィアを見つめる。
ソフィアは少し恥ずかしそうにしていたが、それでも嬉しそうに笑った。
ラベンダーの思いつきにより、朝から彼女達のおもちゃとなっていたソフィアは普段はしていない化粧を薄らとし、白い頬をほんのりと赤く染めていた。
「新しい化粧品だから!」と、ラベンダーに目には茶色いシャドウを塗られ、「あっ、そうだわ!テスターでもらったの、私には合わないけどソフィアにはピッタリよ!」とパーバティから桃色のリップグロスを塗られ、「私も、一応少しは持ってるのよ?」とハーマイオニーから頬にチークを塗られ……そうして出来上がったソフィアは、いつもより女の子らしく、愛らしく飾られていた。
「何だい?
「ロン!馬鹿な事を言うなよ!母さんとはぜーんぜん違うだろ?」
空腹のロンは、化粧如きで遅くなったのかと──全く女心を分からず、つまらなさそうに言うが、すぐにフレッドがロンの肩を小突きそれを止めた。
「ああ、ソフィア、──すっごく可愛いぜ?お姫様みたいだ!」
「ありがとうジョージ、でも…言い過ぎよ」
ジョージはソフィアの元に駆け寄りまじまじと顔を見てにっこりと笑う。
率直な褒め言葉に、ソフィアはチークの赤みではなく頬を染め、困ったように笑った。
「ソフィアは可愛いのよ!ねぇ?」
「そうよ!ソフィア、毎日お化粧したらいいのに…」
「うーん…やりかた、教えてくれる?お小遣いで、ちょっと買ってみるわ」
「ええ、勿論よ!色々教えてあげるわ!」
パーバティとラベンダーは、自分達の手でさらに可愛さが増したソフィアの出来栄えに大満足といったように頷き、「じゃあ、またね!」と言ってくすくすと笑いながら談話室を後にした。
「ほら、私たちも大広間に行きましょう?」
ハーマイオニーは腕時計を見て思ったより時間が経っていることに気付くと、ネビルとハリーとロンとソフィアに声をかけた。
ロンは「腹ペコだよ…」と腹を抑えながら立ち上がり、ネビルも「今日の朝ごはんなんだろうねぇ」と言いながら扉へ向かう。
ジョージ達ももうそんな時間か、とぞろぞろとその後に続いた。
ソフィアもその後に続こうと思ったが、ハリーがソファに座ったままぽかんと口を開け動いていない事に気が付き、駆け寄るとその顔を覗き込んだ。
「ハリー?…どうしたの?」
「──あっ…ソフィア、その…」
「…?…どうしたの?」
ハリーははっと目を瞬かせると顔を赤く染め、「うーん、あの…」と何度か言い淀んだが、ソフィアの目をしっかりと見つめた。
「凄く…その……」
可愛くて、びっくりした。
とハリーは口の奥でもごもごと呟く。
ソフィアはきょとんとしていたが、嬉しそうに目を細めて微笑む。ふわり、と化粧独特の甘い香りがしたが──何故か、ハリーはとてもいい匂いに感じた。
「ありがとう、ハリー!…さあ、行きましょう?」
「う、うん…」
ソフィアはハリーに手を差し出し、ハリーは一瞬、自分の手に汗がついてないかと何故か気になり服でごしごしと拭いた後、ソフィアの手を取り立ち上がった。
ハリーは手を引かれながら、胸がドキドキと煩く、早く鼓動を鳴らすのを感じていた。
本当に、談話室に現れたソフィアを見て、ハリーは驚いたのだ。
いつも楽しげに笑いどこか無邪気な子どもっぽい表情を浮かべるソフィアが、恥じらいを見せているその様子は──本当に、女の子らしかった。
いや、今までもごく稀にソフィアがそんな雰囲気を纏う事はあった、それでもこう──ハリーはそれを言葉に出来るほど、まだ自分の心も分からず、男女の色恋の関係も理解出来ていなかったのだが、ハリーが思ったが、表せなかった言葉は単純に──女性として、とても魅力的かつ、色っぽい。だろう。
ハリーは何故か、談話室から抜ける時に肖像画の枠を掴むふりをしてソフィアの手をそっと離してしまったが、ソフィアは何も気にせずそのままハリーと共に廊下へと降り、先に出て待っていたハーマイオニーの隣に駆け寄った。
「遅かったね、何してたんだい?」
「ああ、うん…──何も」
ロンの言葉に、ハリーはソフィアの楽しげに笑う横顔を見ながら呟き──そして、昨日の夜寝る前に考えた事をぼんやりと思い出した。
昨日、もしホグワーツの代表選手になり、そして優勝する──拍手喝采を向ける群衆の中、ソフィアは自分に駆け寄り賞賛で顔を輝かせながら抱きつき、頬にキスをする…。
そんな事を考えて、ハリーは幸せな妄想の中眠りについていたのだった。
何とかして現実にしたい、数多くの課題を乗り越えて優勝すれば…ソフィアは、自分の事を友人ではなく…もっと、特別な目で見てくれるかもしれない。
胸が少しザワザワとうるさいのを、ハリーは自覚し──何度か深呼吸して、心を落ち着かせた。
ハリー達がマクゴナガルから受け取った時間割を眺めながら朝食を取っていると、突然後ろから「ソフィア?」と驚きが入り混じった声が飛び込んできた。
「ルイス、おはよう」
「おはようソフィア!どこの
現れたのはルイスとドラコであり、2人ともソフィアをまで驚いたように目を開く。
ハリーとロンはドラコがいる事に嫌そうに顔を顰めたが、ハーマイオニーはドラコの青白い顔が少し赤く染まったのを見て──別の意味で、顔を顰めた。
ルイスはソフィアの顔をまじまじと見てにっこりと笑い、素直に褒め、ソフィアの頬に優しくキスを落とす。
ソフィアは照れながらも嬉しそうに笑い、同じように頬にキスを返した。
「ハーマイオニーとラベンダーとパーバティがしてくれたの!…私、ちょっとお化粧の勉強するわ…凄くたくさん種類があって…凄いのよ…」
「うん、良いと思うよ!ねえ、ドラコ?」
「あ、ああ…うん。ソフィア、綺麗だ」
「ありがとうドラコ!」
「──そうだ。母上がソフィアに自分が使っているオードトワレを贈りたいと言っていた。その時は…僕は、ソフィアはつけないだろうと思ったが…。…もし、必要なら…その、…母上に言っておくが?」
「え?…いいの?ナルシッサさんの香り、すっごく好きな匂いなの!甘いけど、爽やかで……あれ、
「すぐに、手紙を出そう」
ドラコは優しげに微笑む。
ソフィアが自分の母がつける香水の匂いが好きだとは知らなかったが──あの甘くもあるが、どことなく気品を感じる強すぎない匂いをソフィアが纏えば……とても、素晴らしく似合うだろう、とドラコは思った。
「ソフィア、本当に可愛くなったから。…ハーマイオニー達に、色々女性としての振る舞いを教えてもらったら?」
「もう!ルイスったら!……でも、そうね…そうするわ」
ルイスはくすくすと悪戯っぽく笑い、ソフィアは少し頬を膨らませたが──何となく、化粧をし、下着を変えたソフィアは女性として一歩踏み出したのだと、自分でも思った。
化粧を崩さないように目元を擦らず、大きな口を開けスコーンにかぶりつくこともない。
これが、女性らしさなのかソフィアにはいまいちわからなかったが──まぁ、これくらいなら続けられそうだとソフィアは頷いた。
ドラコは珍しくハリー達に嫌味の一つも言う事なく、ルイスと共に大広間を後にし、ソフィアは再び小さくちぎったスコーンを食べる。
ハーマイオニーが何か言いたげな目で見ていた事に気が付き、首を傾げたが──ハーマイオニーは何でもないの、と曖昧に笑った。
ハーマイオニーは、なんとなく、察してしまった。
あの、ドラコ・マルフォイも、ハリーと同様ソフィアのことが好きなのだ。
一方は、血の繋がりが濃い従兄弟であり。
一方は、大嫌いな人間である。
どちらがソフィアの心を射止めるのか──それとも、全く違う第三者なのかはわからないが、どちらにしろ…応援するのならば、ハリーね。とハーマイオニーはサンドイッチを食べながら心の奥で呟く。
しかし、ハーマイオニーはハリーを想うジニーの事を考え──ジニーは他の友人と楽しく朝食をとりながらもちらちらとハリーを盗み見て頬を染めていた──ちくり、と胸を痛めた。
ソフィアはダンスパーティ、誰と踊りますか?
-
ドラコ
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ハリー
-
フレッド
-
ルイス